もう一つの物語

第十六話 守るべきもの



「なるほどね。それにしても、思い切ったことしたものね。」

美神除霊事務所の面々と、横島、小竜姫、早苗は、長老宅へ集まっている。

「よりにもよって、神界を裏切るなんて。私の所に、ママから連絡があってね。
横島クンを見つけたら、直ちに連絡するようにってね。
裏金回して情報を引き出すと、なんと横島クンを抹殺するため、神界と魔界が
動いているっていうじゃない。更に、小竜姫さまと、ヒャクメさまが神界を裏切った
という未確認情報まであったし。ま、私はどうでもよかったんだけど、
おキヌちゃん達が騒ぐので、仕方なしに来てやったわけ。」

おキヌは、くすっと笑う。

「仕方なし・・・ですか?美神さん。
あれだけ必死の顔をした美神さんを見るのは、久しぶりだったんですけど?」
「な・・・なに言ってるのよ!あれは、その、除霊の紹介料が回収できなくなるから、慌ててたの!」
「そうですかあ?」
「そうよ!!」

横島は、苦笑していた。
夜も遅くなり、久しぶりに会った積もる話も打ち切られ、それぞれの思いを秘めて、
眠りについていった。

午前3時。
突然、結界が悲鳴をあげる。

全員が飛び起きた。油断していた。初めての侵入者が美神達だったので、
安心してしまい、結界の監視要員を配置していなかったのだ。

美神・横島除霊事務所の面々は、長老宅を飛び出す。
そこには、既に侵入者が来ていた。

「てめーは、西条!」
「久しぶりだな。横島君。」
「令子を監視していて正解だったわね。」
「ママ!?」

ICPOの西条と、美神美智恵である。ここに来た理由は、聞くまでもない。
横島は、黙って霊波刀を出現させる。はっきり言って、この2人であれば、
横島一人でも十分だ。
だが、もう一人の人影が、2人の後ろから現れた。

「久しいのう。小竜姫。」

小竜姫は愕然となり、思わず、数歩後退する。

「あ、あ、姉上!?」

一斉に皆が小竜姫を見た。

「「「姉上!?」」」

小竜姫は、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「・・・私の姉です。名は大竜姫。中級神です。」

大竜姫は、小竜姫から横島へと視線を移した。

「お主が、魔族との混血である文殊使いか。」

今度は、横島が注目を浴びる番だった。

「・・・横島クンが、魔族との混血!?どういうこと?」
「なんだ、小竜姫から話を聞いておらなんだか。まあ、そんなことはどうでもよい。」

改めて小竜姫を見る大竜姫。

「帰るぞ、小竜姫。今なら、私の口添えで軽い処分で済む。
さっさと、そこの文殊使いを始末するのだ。それと、ヒャクメ。
お主も、後で話をたっぷりと聞かせて貰おう。」

ヒャクメは、冷や汗をかきまくっている。
だが、小竜姫は大竜姫の目を見据えて、はっきりと言った。

「如何に姉上のお言葉でも、それはできません。」
「ほう。私の言葉に逆らうというのか。」

大竜姫は、表情へ出さずに驚いていた。
今まで、妹が自分の言葉に逆らったことは無かったからだ。

「神界、魔界、人間界。これだけを敵に回すつもりか?
お主はどこに身を置くつもりだ。愚かなことを申すな。さっさと参れ!」
「お断りします。」
「小竜姫!!」
「・・・姉上。私はもう子供ではありません。横島さんを絶対に殺させはしません!」

決意の言葉と共に、御神刀を抜き放つ小竜姫。
大竜姫は、ゆっくりと横島に視線を移す。その目は、怒りに燃えていた。

「・・・そうか。貴様が小竜姫を狂わせたのだな?
竜神族の怒りを、今思い知らせてやる・・・!」

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スラリと剣を抜く大竜姫。

「やめてください!!姉上!」

だが、大竜姫は全く耳を貸さない。
ふと横島が大竜姫に語りかけた。

「・・・大竜姫さま。」
「なんだ?今更命乞いか。ふん、無駄な事を。
神族であり、竜神族である私の手に掛るのだ。
人間と魔族との混血である貴様には、名誉なことであろう?」

横島は、大竜姫の言葉を聞いているのかいないのか。
呟くように続ける。

「・・・俺は、昔、大切な人を失ったんすよ。苦しかったっす。すっげえ苦しかったっす。
もう・・・もう、二度とそんな思いをしたくない。これ以上、大切な人を失いたくないんす。」
「案ずるな。死ぬのは貴様だけだ。」
「そうっすね。だけど、俺は死ぬわけにはいかないんすよ。今、俺には、大切な人がいるんです。
そして、俺を大切に思ってくれている人がいる。俺のために、全てを捨ててくれる人がいるんすよ。
俺が死んだら、俺の大切な人が、俺がずっと苦しんできたのと同じ思いをすることになる。」

横島の呟きが、叫び声に変わっていく。

「それだけは・・・、それだけは、絶対にさせねえ!
もう、あんな思いは、俺も!そして俺の大切な人にも!絶対にさせやしねえ!!!」

辺りが静寂に包まれる。

「横島さん・・・。」

小竜姫の言葉を遮るように、大竜姫の言葉が冷たく放たれる。

「言いたいことはそれだけか?」
「それだけっす。お待たせして、すんません。それじゃ、始めるとしますか。」

その言葉と共に、横島と大竜姫が、抑えていた霊力を解放しはじめる。
大竜姫の顔から、余裕の表情が消えた。

「ほう・・・。魔族との混血と聞いていたが、なかなかどうして。
この私と正面から戦う気になるわけだ。しかし、その程度の霊力では、
私には愚か、小竜姫にも勝てぬぞ?」
「ははっ、お気遣いどうもっす。・・・だけどね。
自称、小竜姫さまの最高の弟子である俺を、見くびらないで貰いたいっすね。」
「ふん、神魔人界史上、ごく稀にしか存在しない文殊使いでもある・・・か。」
「・・・。」

2人の霊気のため、結界の中の空気が、極度に張りつめていく。
横島と大竜姫の周りは、凄まじい霊圧のため、霊気の嵐が吹き荒れている。

「冗談じゃないわよ・・・!これが横島クンの霊力なの!?」

美神たちの驚愕をよそに、横島は、霊波刀を構えなおした。
出力が大幅に増したのがはっきりと分かる。
片手には文殊を数個握りしめ、いつでも発動する準備ができていた。

抜刀はしたものの、姉に対して何もできないでいる小竜姫。
このままでは、小竜姫の大切な人のどちらかを、失ってしまう。

「姉上、やめてください!!!その、わ、わ、わ、わ、わた、私の・・・。」

小竜姫の言葉は、もはや2人の耳に入っていない。
じりじりと間合いを詰めていく。

「わた、私の、私の・・・!」

小竜姫は、いつのまにか顔を真っ赤にしている。
今まさに、2人が跳躍をしようとしたその時!


「私の中には、横島さんの子供がいるんです!!!!!」


ドシャーーーー!!

横島と大竜姫は、小竜姫の絶叫と共に、勢いが付いたまま盛大にこけた。
2人以外は凍り付いた。

のろのろと起きあがる大竜姫。かなり遅れて横島も続く。

「・・・・・・・・・今なんと言った・・・?」

たっぷりと時間をかけて、大竜姫が辛うじて声を絞り出す。

「ででででですから、横島さんの、こここ子供が・・・。」

小竜姫の顔は、文字通り真っ赤になっている。
俯いた状態で、横島をちらりと見る小竜姫。横島は、口をポカンと開けて小竜姫を見ていた。
いち早く立ち直った大竜姫が、小竜姫に語りかける。

「・・・咄嗟の状況で考え出したにしては、なかなかうまくできた話だな。
だが、そのような言葉に惑わされる私ではない。」
「嘘ではありません!」
「昔のお主も、よく言い逃れをしておったな。今回のはちと冗談が過ぎるが。」
「嘘じゃないんですよねー。」

別方向から声がかかる。ヒャクメだ。

「診断したのは私なのねー。確かに、小竜姫は妊娠してますねー。
相手は、横島さんなのよねー。妊娠1ヶ月ちょっとといったところですねー。」

今度こそ本当に大竜姫は固まった。
横島がポロッと口を滑らす。


「・・・・・・一回だけで・・・?」


その一言が致命傷となった。
大竜姫が凄まじい殺気を感じる。その殺気の方向を振り返ると、
美神、おキヌ、シロ、そしてなぜか早苗の背中から、
業火の如く炎が吹き出していた。

「そ、あの、ちがう、堪忍や・・・!」

大竜姫と対峙していた勢いはどこへやら。
横島は、目に涙をためて、後ずさりながら、いやいやと首を振っている。
にじり寄る女性達。夜明けに近い人狼族の里に、断末魔の悲鳴が響き渡った。

数分後。
ボロ雑巾のようになった横島は、手足を痙攣させていた。
小竜姫が、横島にヒーリングを施している。困った顔をしているが、どこか幸せそうだった。
大竜姫は、その様子をじっと眺めていた。

「・・・一旦引き上げる。」

そう言うと、大竜姫は踵を返した。
美智恵が、大竜姫に問う。

「よろしいのですか?」
「状況が変わったのだ。上層部に報告せねばなるまい。
人間界のそなた達には悪いが、現在の抹殺要請は、一時凍結する。」
「わかりました。我々は、神魔族の要請で動いていたのですから、
凍結と言われれば、拘る必要はありません。」
「・・・チッ!」
「こらっ!てめー西条!なんだ今の舌打ちは!?」
「もう復活したのか、横島君。気にしないでくれたまえ。」

大竜姫は、歩みを止めて、小竜姫に顔だけ向ける。

「・・・小竜姫。お主はこの結界内に残っておれ。動くことは許さぬ。
ヒャクメ。そなたは共に来い。」
「姉上・・・。」
「わ、分かりましたですねー!」

こうして、大竜姫、美神美智恵、西条、そしてヒャクメは引き上げていった。



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