もう一つの物語

第九話 横島除霊事務所の初仕事



「ここ・・・ですか?」
「そうみたいだべな・・・。」
「うーむ、ほったらかしの物件だったはずなんやけど??」

周りは完全に緑に囲まれている。
砂利道をゴトゴトと走ること10分。
一軒の小さな洋館が現れた。かなり古い作りだ。しかし、家の前の庭は、
綺麗に手入れが行き届いている。

「不動産屋がやってくれた・・・んなわけねーな。
しかしまあ、建物からは確かに妖気を感じる。なんかいるな。早苗ちゃん、資料を頼む。」
「わかっただ。この建物の昔の所有者は・・・」
「あ、いいや別にそれは。相手の正体さえ分かればいいから。」
「初仕事をきめようとしてるのに、水をさすんじゃねー。
すかたね。相手は、人型の妖怪だそうだ。知能レベルは中。
戦闘能力はBクラス。・・・ええ!?Bクラスだって?」

早苗はかなり驚いている。
しかし、横島は特に気にしたような様子はなく、早苗に続きを促した。

「続けてくんねーかな。」
「へ?あ、そだな。性格は一見温厚。実は凶暴。趣味は拷問・・・げ。
それと、掃除。なんだべ?変な奴だな。
物理攻撃は効果薄。霊的な攻撃は有効。お札による攻撃が最も有効と思われる。
今まで、除霊に向かったGSのうち、何人かの女性が行方不明になっている。
恐らく、拷問によって殺されたと思われる。男は、問答無用で殺される、だそうだ。」
「ふーん、女好きの変態妖怪ってわけだ。」
「あんたと一緒だべ。」
「ざけんじゃねー。俺は女の子には徹底的に優しいのがモットーだ。」
「あ、そ。で、どうするんだべ?相手はBクラスだぞ?わたすは、今までそんな除霊したことないべ。」
「三千万は伊達じゃねーというこった。とりあえず、挨拶してこようか。」

そう言って、横島はスタスタと入っていく。
慌てて、小竜姫と早苗はついて行った。

「ちょっと待つだ!作戦はどうすんだべ?」
「そうやなー、前衛は俺が行く。中堅に小竜姫さま、後衛は早苗ちゃん。
これでいいだろう。後方が遮断されると思うから、早苗ちゃんは、
結界をいつでも展開できるように。小竜姫さまは、相手の出方によっては、
先鋒をお願いするかもしれないっす。これでいーかな。」

歩きながら、横島は淡々としゃべる。
いつの間にか、玄関の前にまでたどり着く3人。

「早苗ちゃん。ドアに霊的な罠があるか調べられる?」
「や、やってみるだ。」

早苗はかなり緊張している。
相手の妖怪がBクラスと聞いて、怖じ気ついてしまったのだ。
早苗がドアの前に立つと、急にドアが開いた。

「んぎゃあああああ!!!」

驚いた早苗は、横島にしがみつく。

「ぐはっ!単にドアが開いただけだっつーの!は、離せ!苦しい!!」
「お、落ち着いてください、早苗さん!」
「へ?あ、あはははは!ちょっと芝居をしてみたんだべ。お、面白かったか?」
「・・・まあいいや。それよりも、ドアを開けてくれるとは親切じゃねーか。
よほど自信があるんだな。」

そう言って、慎重に入っていく3人。
全員が入りきったところで、横島は周りを見渡した。

「ま、こういうところのお約束と言えば。」

横島がしゃべり終わると同時くらいに、後ろのドアが大きな音を立てて閉まった。
早苗が慌ててドアを開こうとするが、ビクともしない。

「こうなるんだなあ。」

横島は、特に興味を示した様子はなく、ゆっくりと建物の中へ進んでいく。
小竜姫は、横島の言葉を思い出した。

『後方が遮断されるから・・・か。横島さん、こういう場面を、完全に予測してたんだ。』

早苗も横島をちらりと見ている。

『除霊するときの横島さんの顔って、普段と全然違うべ。
なんでおキヌちゃんがこいつのこと好きなのか分かんなかったけど、
こういう事だったんだな。まあ、山田君よりは劣るけど。』

もちろん、おキヌがそれだけの理由で横島を慕っているわけではないのだが、
それは本人のみ知る事である。

突然、部屋に明かりがついた。
玄関ホールのようだ。そして、明かりの先には、端整な顔立ちの男が立っていた。

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「ようこそ、美しいお嬢様方。」

男は、優雅な動作で礼をする。
横島は、いいかげんに、それでいて隙を作らないようにして、
男に話しかけた。

「よ!あんたが、この建物に巣くっている妖怪か。この物件は俺たちが購入したんだ。
悪いが、出て行ってくれねーかな。」

男は横島を完全に無視する。
そして、小竜姫と早苗をじっと見つめる。小竜姫は、男から妙な霊気を感じた。
小竜姫は特に問題はなかったが、早苗の目がトロンとしている。

「早苗さん!?」
「ふん、簡単なチャームってとこか。確かに男には効かねーな。
小竜姫さま。早苗ちゃんが持っている端の赤い札をとって、軽く霊気を送ってください。」

そう言って、小竜姫と早苗の正面に立ちふさがる横島。
小竜姫は、言われたとおりにする。すると、札が発光し、半径2メートルほどの
結界が生まれる。早苗は我に返ったように、小竜姫を見た。

「あ、あれ?わたすは・・・?これは、結界?」
「チャームというのに掛っていたそうです。」
「そんな、いきなりやられていたのか、わたすは・・・。」

男は、初めて横島を見る。
その表情が急激に変わっていく。口が裂け、赤い舌がちょろちょろと出ている。

「うっとうしい男だ!私は男が死ぬほど嫌いなんだよ!女の悲鳴は最高だ!
死ぬ寸前の顔はもっと最高だ!ふひゃひゃひゃひゃ!!さあ死ね!男は今すぐ死ね!!」
「お、それは俺も同意見やなー。男が嫌いってとこだけな。」

そう言うと、妖怪は壁にあった両刃の剣を構え、一気に間合いを詰めて、
横島に襲いかかる。
凄まじいスピードだ。少なくとも早苗にはそう見えた。だが、横島は、すっとかわす。
妖怪は、驚愕した。妖怪だけじゃない。早苗も驚いている。

「う・・・浮いてる??」

横島は、床から数メートルの所に浮いていた。
文殊を使った様子はない。

「小竜姫さま!建物を潰さない限り、思いっきりやってください!
もっとも、大した奴じゃないっすけどね!」

小竜姫は頷くと、御神刀を構え直す。
妖怪は、大きな両刃の剣を小竜姫に向け直す。

「調子に乗るな!この俺様が人間の女ごときに・・・!」

この言葉が妖怪の最後の言葉となった。
小竜姫は軽く跳躍すると、妖怪の剣ごと、文字通り一刀両断にする。
さらに、剣撃を加え、妖怪は粉々になって消えた。
チンという音と共に、御神刀が鞘に収まる。

「お見事っす、小竜姫さま!さすがは我が師匠!
除霊終わり、だな。・・・?いや、まだなんかいる。」

横島はすっと床に降り立った。そして、手のひらに気を集中させた。
早苗は、呆然としている。突然、興奮したように早苗がまくし立てた。

「す、すごい!すごいだべ!小竜姫さま!!
わたす、あんな剣技見たことがないだべよ!Bクラスの妖怪をあっという間に!!」
「あ、ありがとうございます、早苗さん。」
「やっぱり竜神族って神様だというのは、本当だったんだべ!」
「・・・今まで信じてなかったんですか?」
「あう、ちょっとだけ疑ってたんだべ。許してくんろ・・・。」
「ふふっ、今回は役に立てました。私はそれだけで満足です。」
「ん?横島さん、何をやってるんだべ?」

横島は、手のひらに文殊を乗せて、なにやらクルクル回っている。
文殊には、【霊】【探】という文字が浮かんでいた。

「うん、こっちだ。」

そう言うと、横島はスタスタと歩いていく。
2人は、横島を追う。やがて、地下室にはいる。早苗は息を飲んだ。
そこには、多種多様の拷問器具と、頭骸骨がコレクションのように並んでいた。

「あのボケ妖怪の被害者だな。そしてあんたらが、その幽霊か。」

横島は、奥に視線を向ける。
そこには、悲しそうな顔をした女性の幽霊が、何体か浮かんでいた。

「ここは、早苗ちゃんの出番だな。できるか?
強制的に除霊することもできるけど、幽霊とはいえ、女の子には
あんまりしたくねーんだな。」
「あんた動機が不純だべ。まあ、でもこれは巫女の役目だな。」

さすが、ずっと巫女をしてきただけある。数分後には、幽霊は全て成仏していた。

「よし。これで本当に除霊は終わりだ。だけど、この糞忌々しい道具を
外に出して、全て焼いてしまおう。あと、被害者の骨は警察に届ける。
悪いけど、もう少し頑張ってくんねーかな。」
「そうですね。それでは、私が道具を運び出しましょう。」
「それじゃ、わたすは被害者の骨だな。」
「俺は小竜姫さまを手伝うっす。」

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全ての事後処理が終わったのは、夕方だった。
幸いというのは、妖怪が建物や家具を綺麗に維持していたこと。
まあ、あんな妖怪に使われていた家具を使うのも気持ち悪いが、
今は1円でも惜しい。とりあえず、仕方が無いと言うことで、
使うことになった。急いで、シーツやカーテンなど、洗濯できるものは
してしまう。電気、ガス、水道は、早苗の父が手を回しておいてくれた。

「ふーーー、わたすはくたくただべー。帰るのが面倒になっただよ。」

ソファーに、バフンという音を立てて、早苗が倒れ込んだ。

「さすがに疲れましたね。ねえ、早苗さん。今日は泊まっていったら
どうですか?食事はくる途中で買ったおにぎりしかないですけど。」
「うーん、そうだべなー。部屋は一杯あるみたいだし。そうすべか。
それに、ケダモノと小竜姫さまを一つ屋根の下に置いておくのは危険だしな。」

横島を見ながら、半眼で早苗は言う。

「てめー!俺は今まで小竜姫さまと、ずっと一つ屋根の下にいたんだぞ!」
「ええ!?横島さんと小竜姫さまって、同棲してたんだか??」

早苗は、珍獣を見るような目で、横島と小竜姫を見る。

「・・・同棲ってなんですか?」
「うーん、小竜姫さまに聞くこと自体が、間違ってただべかな。
同棲というのは、男と女が、その、一緒に住んだり、さらにあんなことや、
こんなことを!!キャー!わたすも山田君といつかは!」

早苗は一人で悶えている。
横島は鼻の穴に指を突っ込み、ケッと毒づいていた。
小竜姫の顔が真っ赤になった。

「そ、そ、そんなことしてません!!」
「一緒に住んでたんでねーの?」
「そ、それはそうですけど、2人きりじゃないし。」
「なんだ、そういうことだべか。つまんねーの。」

横島は、頭の中で妄想を暴走させつつある。

『い、今まで忘れていたが、早苗ちゃんが帰ってしまうと、
俺と小竜姫さまは2人きり!!それは、つまり!!夫婦であって!
なんでもオッケーという関係に・・・ぶっ!!」

いつのまにか妄想を声に出してしまった横島。
こいう所は全く成長していない。

早苗の口から、コオォォォという謎の気が吐き出されている。
小竜姫は、苦笑していた。

「このケダモノ!!小竜姫さまは、あんたの師匠じゃねーんだか!?
師匠に襲いかかるなんて最低だべ!」
「堪忍やああぁぁぁ!」
「許さん!!」

数分後。手足を痙攣させて倒れている横島。
さらに、容赦なく別の部屋に簀巻きにされて放り込まれた。
一応、横島は所長なんだが、そんなことは早苗にとって、
些細なことらしい。ようやく落ち着いたらしく、ソファーに座って烏龍茶を飲み始めた。
小竜姫も烏龍茶を飲んでいる。

少し躊躇したのち、早苗が小竜姫に話しかけた。

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早苗は、ずっと思っていた疑問を小竜姫に尋ねた。

「なあ、小竜姫さま。なんであんな馬鹿でスケベでアホで間抜けな
やつと一緒にいるんだべ?そりゃ、GSとしては確かに優秀かも
知れねーけど、人間として根本的に間違ってるような気がするんだけど。」
「・・・そうですね。」

小竜姫は、少し微笑んでから、ゆっくりと早苗に話し始めた。

「横島さんは、確かにスケベです。でも、それは横島さんの
ほんの一面でしかないんですよ。私は半年間一緒に暮らしましたが、
横島さんの、別の一面を何度も見てきました。」
「でも、その一面が致命的でねーか?」
「ふふっ!早苗さんにはそう見えますか?」
「どういうことだべ?」
「実は、妙神山で何度もお風呂を覗こうとしたんですよ、横島さんは。」
「・・・最低だべ。」
「違うんです、早苗さん。横島さんが、本気で覗こうと思ったら、
私に見つかるようなヘマはしません。
確かに、剣術や霊力では私が勝っていますが、横島さんには文殊があります。
文殊の力を持ってすれば、お風呂を覗くことなど、造作もないことなんです。」
「よくわかんねーけど。」
「つまり、横島さんは、見つかるように覗いていると言うことですね。」
「なんでそんなことを??」
「さあ、私もそこまではわかりません。でも、考えてみてください。
横島さんの実力、単純な戦闘能力だけ比較しても、人間界ではずば抜けています。
そんな人が、早苗さんにボロボロにやられますか?」
「・・・あ。」
「そう言う人なんです、横島さんは。」
「ふーん・・・。でも、やっぱりよくわかんね。」
「多分、本人も分かっていないのでしょうね。」

しばらく、会話が途絶える。
早苗が、小竜姫を見ずに、問いかけた。

「小竜姫さま。」
「なんでしょう。」
「小竜姫さまって、横島さんの事、その、好きなんだべか?」

小竜姫は、早苗から視線を外し、じっと壁を見つめた。
早苗が慌てたように弁解する。

「あ、別に好きだからどうとか言うわけではないべ!
そもそも、神様が人間を好きになるかどうかもわかんねーし。」

早苗は、横島が人間ではないことを知らない。
知ったところで、態度が変わるとは思えないが。

「・・・私は、はっきりと誰かを好きになったことがありません。
特に、男女間の恋愛というものからは、全く縁のない世界にいましたから。」
「・・・へ?」
「私にもよく分からないんです。本当ですよ?早苗さん。
嫌いか?と問われると、否ですね。好きかと言われると、多分好きなんでしょう。
ただ、早苗さんの期待している好きでは無いと思います。どちらかというと、
手のかかる弟みたいな感じかな。それに・・・。」

小竜姫は、少し視線を下げた。

『私は、自分の気持ちだけで、横島さんと一緒にいるわけじゃない。
横島さんを監視するため。そして、万一の場合は、横島さんを殺すために
側にいる。いつでも、横島さんを殺すことができるように・・・。』

辛そうな小竜姫の顔を見て、早苗は慌てた。

「ご、ごめんなさい!小竜姫さま。わたすは、その、興味本位で聞いただけで、
困らせるつもりじゃ!」
「私の方こそごめんなさい。・・・駄目ですね。私は。
私は、神族の中ではかなり若い部類に入るんです。
まだまだ、子供ということなのかな・・・。」

小竜姫は苦笑した。
会話は打ち切られ、小竜姫も早苗も、ソファーに横になった。
疲れていた2人は、そのまま眠りに落ちていった。

こうして、横島除霊事務所の記念すべき最初の1日は終わった。
・・・所長は簀巻きにされたままであったが。



※この作品は、hoge太郎さんによる C-WWW への投稿作品です。
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