「美神が退職金(^_^;)を用意する時」

著者:ふちゃこ



    ガタンとクローゼットを開け、美神はある物を取り出した。
  「これってやっぱり……………でも………………………」
    ほんのりとほほを赤くしながら選び始めたのは、お気に入りの下着だった。
  それも、何度か使用したことのある物だ。
  「これは…………デザインがイマイチ、こっちは色がよくない……………」
    最初はためらいながら選んでいたものの、いつ間にやらすっかり夢中になり
  下着の小山ができている。それでもまだ足りないらしく、今度は新品の下着を
  箱から出す。
    端から見れば、デートに来て行く服を選んでいる様子そのものだ。
  「とりあえず、お出かけ用のやつだけに絞って、と」
    小山が半分になった。
  「まぁ、こんなものかな?  大胆なやつがいいかな、それとも清楚なやつ?
  んー、横島クンの好みはどっ………………え、えっ!?」
    何のために下着を選んでいる理由を思いだし、真っ赤になる美神。けれど、
  すぐにその赤い顔は普段と同じ、いや、普段よりも青い顔になる。
  (そうだ、これは私から横島クンへの「最後のプレゼント」なんだ…………)
    手に持っていた下着が、ぱさりと床に落ちた。
  「まいったなぁ………………」
    座り込んでいた床から立ち上がり、窓ガラスに頭をこつんとつけた。
    冷たいガラスから頭を離し、振り返って床を見れば、散らばった下着が花の
  ように見え、美神の苦笑を誘う。再び床に座り込み、一枚一枚、丁寧に畳む。
    畳み終える頃には、美神の顔色もいつも通りに戻っていた。
  「さて、今度こそ、どれにするか決めなくちゃ………………」
    黒い下着を手に取った。
  「スケスケで、刺激が強すぎるな、これ」
    ぽんと遠くに放り投げる。
    次に紫の下着も、どぎつすぎると気に入らなかった。三つ目のオレンジ色の
  下着は子供っぽすぎたし、四つ目の濃いピンクの下着はヤボったくてダメ。
    あーでもない、こーでもないとぼやきつつ、下着を選ぶ。畳み直した下着も
  またちらかってしまう。
  「いっそのこと、今つけている下着にしようかな?」
    すぐにその考えを取り消した。それではまるでブルセラショップの商品だ。
  「ったくもう、何でこんなこと考えてんだろ?  そうよ、横島クンはちょっと
  目を離すとすぐ、女の子にちょっかい出すんだもの。私がいなくなくなれば、
  小鳩ちゃんを毒牙にかけるだろーし………………」
    ぶすっとむくれる美神。自分がいなくなったあと何人もの女の子に囲まれる
  横島を想像し、腹を立てているのだ。幽霊だったおキヌちゃん、人狼のシロ、
  机妖怪の愛子ちゃんと違って、小鳩ちゃんは「生きた人間」だ。しかも横島の
  隣の部屋に住んでいる。
  (マネゴトとは言え、小鳩ちゃんは横島クンと結婚式を挙げたし……………)
    美神の眉が上がっていく。
  「私がいなくなっても、小鳩ちゃんは横島クンの毒牙にかけないわっ!  その
  ために、貞操帯代わりに、これを残して行くんだからっ!!」
    小鳩に対するやきもちを、横島への怒りにすり変えた。すっかりすわった目
  で、貞操帯代わりの下着を選ぶ。
  「や、やっと決まったわ……………この三つのうちのどれかを横島クンの貞操
  帯に…………………」
    豪華なレース付きの純白な下着と、同じ純白でも清楚な下着が一組、それに
  かわいいフリルの付いた淡いピンクの下着の三組が、美神の前にあった。
    首をかしげて三組を眺める。
  「レース付きは…………ちょっと古いかな?  結構使ったし。こっちの白か、
  ピンクのどっちかか………………」
    二組の下着を手に美神は考え込む。
  「こっちの白にしよ。ピンクより白の方が好きだし、未使用よりは使用済みの
  方が………………」
    それを見た時の横島の反応を想像して、美神は首まで赤くした。
  「もう………………」
    ブルブルと頭を振り、ため息を一つつく。そしてやっと選んだ純白の清楚な
  下着を時間をかけ、丁寧に丁寧に畳む。
  「あ………これもつけてあげなきゃ……………」
    下着を三点セットにし、愛用のオーデコロンをかけ、同じように純白の絹の
  スカーフでくるむ。
  「さて、これで『最後のプレゼント』の用意はできたわ………………」
    ほっとした美神は微笑んだが、どこか弱々しい笑みだった。
    トランクには、神通棍、高額の御札、極上の精霊石、事務所の権利書と譲渡
  証明書がつめてある。
    包みをトランクにつめかけた手がとまった。じっと包みを見る。
  「…………………………」
    手に持った包みをゆっくりと撫ぜた。最初はおそるおそる、しだいに強く。
  (横島クンっ!)
    包みが横島と重なり、美神はそれをおもいっきり抱きしめた。今まで隠して
  いた感情が、一気にあふれ出たのだ。その包みが横島であるかのように、抱き
  しめて離さない。
    そっと包みにキスをした。唇を離し、はにかんだ笑みを見せた美神はとても
  初々しい。
  「ねぇ横島クン、あんたは私がどんな無理なことを言っても、きいてくれたっ
  け………………」
    その場に横島がいるかのように、話し出す。
  「今度も、私の言うことをきいてくれるわよね?」
    再び包みを撫で始める。
  「これが私の最後のわがままだから、ちゃん……と…………きき……………」
    それ以上言葉が出ずに、涙が出て来てしまい、包みを強く抱きしめた。
    本物の横島ならば美神を抱きしめてくれるだろうが、包みは包みであって、
  横島ではない。それがわかっていても、美神は包みを強く抱きしめる。
    かなりの時間が過ぎた。美神は包みを抱きしめるのをやめた。
  「…………………」
    包みをトランクに入れようとしても手が震えて、うまく入らない。
  「あ……………」
    手から包みが落ちてしまった。震える手で拾う美神。
    じっと見つめ、かすれた声で美神はつぶやく。
  「サヨナラ、横島クン…………………」
    横島への想いをすべて込め、もう一度、最後のキスをする。
    トランクに包みをつめた美神は泣き笑いのまま、自分に言い聞かせるように
  言った。
  「わ、私の気持ちは包みに封印したから、大丈夫。そうよ、今までどんな悪霊
  だって、妖怪だって、魔族ですら、封印したじゃない。自分の気持ちくらい、
  封印できなくてどうするの?  私は、美神令子は、GSなんだから!」
    カチリと小さく、けれど耳に残る音を立て、トランクが閉じた。
    トランクが閉じても美神の肩は震え、滴が二つ三つこぼれたが、顔を上げた
  時、いつもの美神に戻っていた。
    自分を引き留める、一番のものである横島への想いを封印してしまった美神
  は、もう迷わない。だから横島が出社した時も、冷静に言えたのだ。
  「あんた!  クビ!!」
    美神は最後の見栄を張る………………… 。



※この作品は、編者が著者の許可を得て、Nifty-Serve FCOMICAL 「椎名百貨店」会議室より転載したものです。

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