「美神・横島新婚物語 改訂版」

著者:ふちゃこ



    激しい音ともに、目の開いていられないほど、強い光がその場を包んだ。
    それらがやんだあと、徐霊でボロボロになった美神と横島が現れた。
  「や、やっと片つきましたっスね……………」
  「そう……ね…………やっと片ついたわ………………」
    肩で息をしながらも、笑みを浮かべた横島は言った。
  「帰りましょう」
    美神も微笑んで言った。
  「ええ、私たちの家に帰りましょう……………」
    天変地異の前触れだ、いや、この世の終わりだと言われつつ、美神と横島が
  式を挙げてから一ヶ月後のことだった……………… 。


    翌日、美神は唐巣神父に抗議をした。
  「確か電話では『簡単な除霊だよ』って言いましたよねぇ?  どこが『簡単な
  除霊』なの?  おかげで高い御札、10枚以上使うハメになったのよっ!」
  「イ、イヤ、美神クンなら、簡単ではないかな、と……………」
    詰め寄る美神に唐巣神父は汗を流しながら、しどろもどろの言い訳をする。
    それまで黙って美神と唐巣神父の口論を眺めていた横島が、叫んだ。
  「そうっスよ!  夕べはねー、夕べはねー、半月ぶりの『お許し』をもらい、
  腰に手を回した途端………………」
    グワァッシャン!!
  「………………………」
    横島は『元』椅子の下で、ヒクヒクとうごめいていた。
  「何てコト言うのよっ、あんたはっ!!!」
    耳どころか、首筋まで真っ赤にした美神が怒鳴る。
    そのシーンを想像して赤くなり、次の瞬間、横島の惨状を見て青くなる唐巣
  神父とピート。先に立ち直ったのは、年の功で唐巣神父だった。
  「美っ、美神クンもそれくらいにして」
  「いいんですよ、どーせ俺は給料無しで働く『家政夫』なんスから…………」
    がれきの下から這い出した横島は、いじけたような声でぼやく。
    形勢不利を悟った美神は、さっさと教会から引き上げた。
    事務所に戻っても、横島はいじけたままだ。
    苦笑しながら、美神は内心つぶやいた。
  (ちょーっと、酷使し過ぎたかなぁ。そりゃぁ私だって優しくしたかったけど
  ここんトコ、忙しかったし……………………)
    元々愛情表現の下手な美神であったが、結婚しても下手だった。
    その点を理解しているはずの横島も、今回の件はこたえたらしかった。
  (う〜ん〜、こーゆー場合はどーすればよかったっけ?)
    頭をかきながら考えていると、電話がなった。横島はいじけたままなので、
  美神が出た。
  「はい、こちら美神&横島除霊事務所です。はい、はい………………」
    部屋の隅でいじけている横島に、追いうちをかけるように美神は言った。
  「××町〇〇屋敷で低級霊が2〜3体、暴れてるそうだからあんた、行って」
    渋る横島を半ば追い出すように除霊に行かせると、美神は小さくうなずく。
  「よし!!」


    横島がマンションに戻ったのは、夜も遅くなってからだった。
    珍しく、玄関まで出迎える美神。
  「遅かったわね?」
  「低級霊だっつーのに、すばしっこいのなんの。も、くたくです」
  「ご飯を食べたら、シャワーを浴びてさっさと寝なさい。明日も仕事があるん
  だから」
    遅い夕食を食べ終わると横島は、ふらふらと浮遊霊のような足取りで食堂を
  出た。
    美神が後片づけを済ませ、シャワーをいつもより丁寧に浴び、寝室に行くと
  既に横島は熟睡していた。丸めた布団にしがみつくような寝相で。
    子供っぽい寝相にくすりと笑うと、布団を掛け直してやった。そして寝顔を
  眺める。
  (相当疲れてるのね。部屋を掃除して、シーツも布団カバーも新しいのと取り
  替えてあるのに、気がついてないわ)
    いつもは横島に任せっきりである、掃除や洗濯を一日かけてしたのだった。
    そのハードさを思いだし、小さくため息をつく。
  (当番制にしないと、横島クンの体が保たないってコトか)
    ふと、時計を見るともう12時を過ぎている。
  (あ、もう寝なきゃ。いくら何でも今夜は電話、かかってこないでしょうね)
    今夜は静かに眠りたかった。
    そっと横島のほほにキスすると、耳許で囁いた。
  「おやすみなさい、あ・な・た」
    横島が寝ているからできた行動であって、起きていればできない行動だ。
    自分で言ったセリフに赤くなりつつ、自分のベッドに入ろうと立ち上がると
  いきなり腕を掴まれ、ベッドに引きずり込まれた。
  「え、え?」
    寝ているはずの横島の思いもよらぬ行動に、美神は焦った。
    そのまま横島は美神を抱きしめ、腰に回した手をもぞもぞと動かす。
  「あんた、起きてたのっ!?」
    きつい声で問う美神に横島は、甘えたような声で返事をした。
  「美神さぁ〜ん……………」
    ニコリと笑う横島。同時に手の動きがぱたりと止まり、再び寝入った。どう
  やら寝ぼけての行動らしい。
  (何だ、寝ボケてたのか…………)
    ほっとした美神は横島の腕を外そうとするが、しっかり抱きしめられている
  ためか、なかなか外れない。現実ではめったに抱きしめられないから、せめて
  夢の中だけでもと抱きしめているのであろう。
  (んんっ、は、外れない…………ったく、バカ力なんだから)
    横島の腕と格闘していた美神は、気がついた。
  (ますます身動きが取れなくなったよーな……………)
    おそるおそる、美神は横島の顔を見上げる。気のせいか、さっきりより勝ち
  誇ったような寝顔を横島はしていた。
  (仕方ない。今夜はこのまま寝よう)
    美神は苦笑を浮かべた。
    横島の肩に頭を乗せ、密着状態でじっとしていると、体温が伝わってくる。
    ドクン、トックン……………… 。
  (あ……………………)
    肩から頭を下ろし、横島の胸に耳を当てると心臓の鼓動が聞こえる。ずれて
  聞こえる横島と自分の鼓動が子守歌のように思え、美神は柔らかく微笑む。
    ドクン、トックン……………… 。
    少しずれて、でも心地いい横島と自分の鼓動を聴きながら、美神は目を閉じ
  た。
  (たまにはこうして寝るのもいいわねぇ。枕にするには固いけど、あったかい
  し……………ふわぁ、眠い…………………)
    ドクン、トックン………………繰り返し聞こえる、子守歌のような鼓動……
  ……………… 。
    くーくーと寝息をたてて、仔犬のように眠る美神と横島。
    翌朝、横島が食堂に行くと、美神は朝食の支度をしていた。
  「おはよう。今、ご飯作っているから、ちょっと待ってて」
    朝食の支度をする美神の後ろ姿を見ながら横島は、夕べの『いい夢』を思い
  出した。
  (夕べはいい夢を見たなぁ。美神さんがほっぺにキスしてくれて、『おやすみ
  なさい、あ・な・た』って言って…………………抱きしめた時の感触なんか、
  現実みたいだった)
    手に残る、柔らかな感触を思い出す横島。
  (ああっ、あーゆーコトが毎晩、いやせめて週に一度、現実にあったなら!)
    朝から起きた横島の邪念を感じたのか、美神がくるりと振り返った。
  「横島クン、なーに考えてるのかなぁ?」
    にーっこりと笑う美神が恐い横島であった。


  「げぇっ!  遅れた遅れた。美神さん、怒ってるだろーなー」
    結婚して三ヶ月、すっかり『美神&横島除霊事務所』の名称が定着した。
    美神に散々絞られて来たせいか、横島のGSとしての実力も認められ始め、
  横島指名の除霊も増えてた。その結果、マンションに帰るのも遅くなる。
  (ここ一月の食事当番、さぼりっぱなしだったからなぁ…………………)
    二ヶ月前、美神から食事を交替制にすることが提案され、実行されたものの
  その実、美神一人がしていた。たまりにたまったツケを払うのが恐い。
  「す、すいませんっ!  遅くなって!!」
    息を切らしてマシンションに飛び込むと、すでに美神は食事の支度を終えた
  ところだった。
  「食事の支度、できてるわよ。ったく、当番制にしたのに、いつも私がするん
  だから」
    連日の食事当番で、美神は少しすねているようだ。
  「急いで……帰って来たんスけど……………」
    息を切らしながらも、弁解する横島。
    すっと横島の前に立つと、美神は言った。
  「まぁ仕方ないか。あんたもGSとしての名前が売れて来たんだし」
  「美、美神さん…………」
    なぜか優しげに微笑んでいる美神と、対象的に恐怖している横島。
  「理解のある、姉さん女房っていいものでしょ?」
    そう言いながらネクタイを掴み引き寄せると、美神は横島にキスをした。
  「……………!」
    美神の意外な行動に、横島はキレた。
  「令子ぉ〜〜っ!!」
    ばきっ!
  「調子に乗るんじゃないっ」
    いきなり押し倒した横島に、美神は久しぶりの一撃を食らわす。
    霊波刀の使用で煩悩エネルギーが消費されていたせいか、横島はここ最近、
  おとなしかった。が、美神の挑発的な行動で一気に煩悩が充填されたのだ。
    その夜、横島は廊下で寝ることとなった。
  「美神さ〜ん、入れてくださいよぉ〜…………」
    お情けで添えてもらった枕と毛布を小脇にかかえ横島は、情けない声で懇願
  する。何度ドアをノックしても美神は無言で、一晩廊下で夜明かしとなった。
  (新婚なんだぞ、俺たちは。押し倒したっていいじゃんか。美神さんのケチ)
    哀愁の涙を流しながら、泣き寝入りをする横島であった。
    朝、廊下で横島が目を覚ますと、美神がいた。
  「ほら、顔を洗ってらっしゃい」
    朝食の席でも、あまり会話はない。
  「ごちそうさまでした……………」
    立ち上がった横島の後ろ姿に、美神が声をかけた。
  「今日の除霊は一件だけよ。それと……………霊波刀の使用は禁止ね」
    横島は驚いて、後ろを振り返った。
  「そりゃどーゆー……………」
    美神はぽっとほほを染めて、一言だけ言った。
  「バカ………………」


※この作品は、編者が著者の許可を得て、Nifty-Serve FCOMICAL 「椎名百貨店」会議室より転載したものです。
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