NexStage[gsm]:family-prot
[in the negative-side]
great mothers strike-back ,another storys
letter-part
literary-work:iky

***
Warning
from now on
the latter part
still more heavy-hearted
***

night visitor

  「あらっ?」
 百合子は らしく無く事態の掌握に戸惑った。銀盆を抱えたホテル内の中華料理店の出前持ちだと思ってドアを開けると、そこに居たのは大樹よりも若干背が高く、イタリア製の三つ揃いを着こなした・・・・・・・まあ、彼女の趣味では無い長髪がうざったい男であった。
  (勘違いが長いみたいね・・・・・・)
 銀盆より薔薇の花束でも持ってホテルに現れそうな男なぞに未だかって興味すら持った事が無いので、男が自信を持ってこれ見よがしに見せ付けている外見なぞに興味はそうは続かないので、酔った頭を振って別の思考に移る。危険に害意をこの男からは感じない。そうでねければ、例えほろ酔いであってもドアなど開ける百合子では無い。今一度、驚いたフリをしてジックリ男を見てみる。
  (軍警(察)関係ね)
 現れた男の正体は分かった。その種の匂いがプンプンと立ち込めている権力主義者  なので、普通ならほうほうの体で追い返したいが、先ほどの電話での会話から夫大樹の所業が原因だと分かっていたからそうもいかないようだ。
  (黒崎君。またヤバイ所覗いたみたいね。気の毒に・・・・・・・・・・・)
 悪事の片棒を担がされて、多分今ごろ力ずくでどこぞに拉致されているだろう黒崎に同情する。しかしまあ、黒崎だって子供で無いのだから危険を承知でやった核心があったので同情はそこまでであった。今黒崎の心配をするのは前向きでは無い。今からの自分達の反応の方がこれからの事態の推移には重大事であるのだ。
 後ろから自分を心配してくれていた大樹が、目の前のこの男に危害を加えないで良かったと思った。公立中正に見ても、そんなに技量大した男では無いので、この男だけ相手なら勝敗は明らかであった。確かに長い西洋剣を腰の脇に構えてはいるが、大樹がキッチンナイフで相手が出来ない相手では無いのも見切っていた。勝敗は獲物で決まるのではない、勝負に駆ける気概で決まる。昼間の息子のように・・・・・・・・・・・・。

  (まあ、でも派手な連中ね)
 百合子は目の前の男それ自体よりも、その男が引きつれている連中の方に目を走らせた。
 国が違えば、思わずクーデターに巻き込まれたのかと思った程だ。今回の帰国の一件もあるが、またいつものように夫が反政府ゲリラとかに恨みを買ったのかと思ったが、全員どうみても日本人。今の日本でクーデターなんぞやる価値は無いのでそれだけで別の思惑で動いていると分かった。
 全身黒ずくめの戦闘員はサイレンサー(消音機)付きSMGやタップタップ方式(ワンターゲットに複数弾を打ち込む)の短銃などで重武装をした連中が飛び出すタイミングを推し量っているように控えている。装備を見ても単なるクーデターであるわけは無いので怪訝な顔をした。クーデターならそんな秘密裏な装備は必要無い。そんな装備が必要なのは大規模な威力制圧か・・・・・・・・・・・・暗殺。
 何故に息子の事をハッキングして、そんな連中の逆鱗を逆撫でしたのか考え始めた。思い当たるのはやはり前の世界的なお化け騒ぎであった。世界を破壊しようとしていた騒ぎに矢張り息子は深く関わっていたのだと改めて確信した。それも国家の中枢がこれだけ迅速に動くことを見れば・・・・・・・・・・・。

[conversation]

  「また、困った事をしてくれましたね。横島さん」
もったいぶった口調をこれ見よがしにする男との対峙は、機嫌を損ねるだけと分かっているので百合子を下がらせた。彼の妻は回りくどい男が嫌いなのだ、かとって始めは大樹の直情も諸手を上げて好きというワケではなかったらしいが・・・・・・・・。
  「困った事ですか?」
 ドアを挟んだ長髪の男の正体を大樹もほぼ掴んだ。その性格も正体も、いわゆる権力志向の典型で大樹はこの男を嫌いになった、息子と同じように知らない内に。父子共のあけすけであるので、相反する野郎は嫌いなのだ。いわゆる虫が好かないタイプであった。多分持てない世の中の野郎も同じであったろう。

  「ええ。非常に困った事態に我々は突き当たっています。あなたの部下の単なる個人的な好奇心から引き起こした事であればいいのですが」
  「ん?何がですかね」
 あからさまに惚ける。無論お互いそれが駆け引き以上の意味を持っていないことは百も承知だ。
 会社の黒崎に国家中枢へのハッキングを頼んだ。その彼を名乗った電話が掛かってきたのは此方の事は掌握済みであると暗に言っていた。そして現れた政府関係者らしき、官憲の雰囲気を撒き散らす男。アメリカならFBI・・・・・・・いやCIA。それも非合法工作員と云う所だろうなと分かる。

  「幾ら深夜といえでも、ここは普通にホテルです。いつ普通の方が通るか分かりません。そうなると我々も少し具合が悪いので入ってよろしいですか?夜分なのでお時間は取らせないようにはしますので」
 嘘を付けと思う。左右のエレベーターエントランスと階段に続いている通路には一般人を装ってはいるが、お仲間がいる気配がする。出口は無しだと威圧しているのだ。
 まあ、それを言っても始まらないので、大人しく招き入れる事にはした。抵抗や嫌味は今は得策では無い。それに男のその口調は・・・・・・・・単にハッキングしたのを逆探知した罪を責めているような口調では無い。それが長髪の男にも分かったらしく、会釈を改めて自己紹介する。
  「僕の名前は・・・・・・・・・・・」
 大仰に上着の内側を開いて、ホルスターに入れられた拳銃を見せながら内ポケットから名刺を出す。拳銃を見せたのは大樹らが銃に手を掛けたと要らぬ反撃をしてこないようにと、そして当面は危害を加えるつもりは無い示威行動である。
  (プロだね・・・・・・・・・・・・でも"僕"か)
 いい年をしているくせに恥ずかしげも無く自称"僕"と云うのは紛れも無く好いところの坊ちゃんだとも推察した。それも恐らく挫折など知らぬ種類のタイプであるようで、やはりあまり好きなタイプでも無かったが、この手のタイプは商売上のネゴシエイトでも組し易いと分かった。一番の突きどころはプライドをクスグル事。
  「お オカルトGメン?ですか?。一体なんでしょう」
 大樹はちょっと大仰に不思議がる。世間的にはオカルトGメンはライトスタッフであるとされているので、チョット狼狽してやったほうがエリート意識を覗かせるお坊ちゃんには自身が優位だと勘違いさせることで誘導尋問もやり易いからだ。策は功をそうして、目の前の男は自分の優位に脇を緩めたので口を軽くすることに成功した。

 国家保安上の秘密に付当たったならば内閣保安部のアクションサービスが出てくるのが普通であるのに、何故にお化け担当が出てくるのか分からない。先ほどの会話でもあったように世界規模のカタルシスに忠夫が関係したという下りを思い出した。
 オカルトGメン指揮官を名乗った男は廊下に陣取っていた戦闘員を下がらせた。男の言うことにはこの部屋にチャックインしている人間が、本当に"横島夫妻"である確証が無かった為の処置であったと言う。
  「本当の?」
  「ええ。本来海外におられる筈のお二人が日本に戻ってこられた上、オカルトGメンのマザーコムにハッキングを依頼されるなんて、チョット悪戯にしては度が過ぎた事態でしたので、もしやと思って用心の為に来て貰ったのです」
 もしやと云う言葉に大袈裟に反応してやる。
  「はい。横島さん。ただ今我々に発動された作戦コードはアップルレッドです。ナルニナのように物騒な国に居られればお分かりですよね」
  コクン
 大樹は少しだけ、目を離さないでいいぐらいに頷く仕草をした。
 アップルレッドは熟れて熟して真っ赤な林檎の事。信号の色と同じで 安全なら青 注意は黄色 そして危険は赤。それに順に果物の名をかざすのは軍事用語。それも・・・・・・・・・・・。
  「コードレッドレッドか。エラク物騒なんだね。普通は捜査礼状を取ってからの逮捕か任意同行なのに、行き成りガス室ですか?」
 それは意に背いた者は殲滅する最高レベルの軍事作戦コードの事だ。有り体にいえば、いまのこの事態では暗殺を言っていた。それは先にいた戦闘員の武器が全員サイレンサーを付けていたことからも分かる。
 秘密裏に、踏み込んだ部屋には"誰"もいなかった事にするという意味。理解したと分かって指揮官は続ける。以前同じように横島夫妻の親戚を語り、息子に接触しようとした悪魔崇拝の狂信団体があったらしい。
  「悪魔・・・・・・・・崇拝・・・・・・・・・・・・」
 何故にそんな組織が息子に接触を持つのか不審がった。確かにGSとオカルト、それに何を信じるかは知らないが宗教は付いて回る事ではあるが・・・・・・・・・。
 聞くと、夫妻が知ろうとした息子忠夫には悪魔崇拝者には非常に魅力的なファクター(因子)が"ある事情"から備わったらしい。


  「悪魔崇拝ですって?一体何故に息子に」
 大樹は商売から政治まで多岐に渡る現役のネゴシエイター(交渉人)でもあるので、任せだんまりを決め込もうとしていたが、思わず百合子が声を出す。
 形而上も形而下もノンポリを絵に描いたような息子が何故にと思った。確かに世界にカタルシスをもたらそうとしていた存在は伝え聞いた所に拠れば"悪魔神"とかであったのは知っている。それを、そんな開いてを率先して自身の推察通りに息子が滅ぼしたとすると。
  (復讐・・・・・・・・でしょうね。まずいわね)
 厄介な連中に恨みを買ったとため息をつく。

 誰が何を信じるかは百合子は知ったことで無いし、当人の勝手だが、とかく宗教という美名の元には人間は理性も、そして真実を見る目も失ってしまう。殉教こそが宗教的美徳だと思う"馬鹿"も腐るほどいて・・・・・・・・まともに生きている者にとっては迷惑な事この上ない愚公集団であるのだ。そんな傍迷惑な連中に恨まれているならば・・・・・・・・・・。
 確か事件の終息の後に、一時的にオカルトGメンに所属していたと聞いた。ならばこの長髪がうざったい気障な男は息子を護っていてくれているのかと思い、心中でチョット悪い評価をしたと思って謝ろうとしたが・・・・・・・・・・男は取り付く島も無く告げた。自分の任務は息子を護る事ではないと・・・・・・・・・内心冗談では無いとでもいいたげだ。
  「?」
 この回答に頭を流石にひねった。では単なるハッキングに行き成り武装して押し入ってきた行動が理解出来ない。普通ならまず任意同行を求めるのに、今にも発砲しそうな様子であった。

 そうこうするうちに部屋には美神の母である美知恵が入ってきた。多少緊張感はあれど、再会を喜ぶ前に美知恵は二人に深深と首を垂れた。どう見ても非はこちらにあると思ったが、その事情の説明を問いただす前に美知恵は二人に書類を渡した。
 彼らの息子が抱えた事情を、こうなった事情を記した書類だと美知恵は言った。そして、絶対の口外秘であるので他言は遠慮して頂くと話しに添えた。

[suddness-file]

  「・・・・・・・・・・」
  「・・・」
 二人きりに成った部屋でベッドに腰掛け美知恵から借りたバインダーで厳重に留められた書類に黙って目を通した。
 そして。読み終えた二人に言葉は無かった。
  「くう・・・・・」
 苦渋の声が百合子の隣に座った大樹から聞こえた。
 沈黙の中にいる、苦渋を顔に覗かせた大樹は昼間自分の放った言葉を呪っていた。
 息子に[彼女]を紹介しろと迫り、あまつさえそれが出来ないと息子と[彼女]をナジルような言動さえ吐いた事をだ。
 紹介など出来るワケが無いというのに・・・・・・・・・・・・・・。


  「くっ・・・・・」
 夫の歎きに・・・・・・・・・百合子は昼に、初めて見せた息子の想いのたけの詰まった意思の強さのワケが分かった。
 大事なモノは戦って守る。
 命でも名誉であっても。それを息子は身を持って経験したのだ。
 あまり高い代償を引き換えにして。
 だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、例え身内であっても 愛する者を守れるのは自分だけであった故に譲れなかったのだ。

[the Last Judgment]

 感傷に浸りたいが、まだ書類は半分も終わっていないので更に読み進める。どうやらこれからが今いる部屋で起こった異常な事態を説明する文書である事が分かっていたからだ。
 これから先のリポートは息子に起こった事では無く、息子の周囲に起こった事実を告げていた。
 それは息子に対してこの世界の・・・・・・・あまりに理不尽な贈り物であった。


 全てを、人であることすら失った息子に世界が与えたモノは
  【最重要危険因子を体内に有した危険人物】
 そう冷たい文字で記してある。
  「何故?」つぶやく。
 あまりの仕打ちだ。
 命懸けで守った世界が、今度は何故に人類の最大の敵に息子を想定しなくてはならないのだと。


 人間でありながらも、体内に世界を滅ぼそうとした男の因子と同等の力を取り込んだ危険な存在だと世界は判断していた。しかし、それは単なる遺伝子的特徴でも、潜在的に潜むかもしれない力からの憂慮でも無いと記してある。
 問題なのはそれが"横島忠夫"という過去"人間"であるからであった。
 うまれいでたる時は同じヒトであったのに、今は外見はそうであっても"中身"は違う"人間"の皮を被った別の生き物であったと記されている。それを最も忌み嫌う組織が、ロビースト活動(友好政治家への陳情)でそう認識させたらしい。
  (異端審問・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿。時代はもう21世紀よ。まだ魔女狩りをしようと言うの)
 それはあらゆる宗教が最も忌み嫌う"人間"は神が作ったとされる以外の"人間"を作ってはいけないと云う最高の禁忌に抵触している。人間を作るのは神以外にあってはいけないのだ。世界初の二足歩行ロボットが製作に当たってさえ、人間の形で動くいうだけで許可を求められたのは有名な話である。単にオモチャの延長であっても、宗教はそれを自らの教義に抵触しないかと本気で論じられたのだ。そんな宗教が息子の事情を知った。それはオモチャでもSFでも無ければ・・・・・・・彼らの信奉する根幹である書物に完全に抵触していた。

 それも世界が生まれてから初めて生まれた、新たな命の誕生は人が人、万物の霊長であると定義している宗教的根幹を揺るがす程の"異端"。今この世に生きる60億分の一のとびきりの"異端"を意味していた。
 始めから人間と他の種族との混血は、生まれいでたる時より"人間"では無いから教義には反しない。しかし、生まれいでたる時"人間"であったが、それが"人間以外のモノ"であったならば、それは明らかに次に進んだ人間であった。それは、異端を決して許すことの無い宗教に最も禁忌であった。

 人が最も疑い、信用しない、敵対するのは他ならぬ同族である人間である。人間程"異端"を忌み嫌う種族は無い。己が信じる価値を揺るがすだけの毅然たる"異端"は決して許さない。それは宗教を超えても、存在を否定するのだ。
 例えば憶えが無いであろうか?体の一部が不具であるだけで人は目を反らす。哀れみを込めて見ない様にしているわけでは無い。見たくない。自分はそうは成らない成りたくない、そう思いいない者として、無意識に心の中から抹殺しているのだ。自分と違う体を持った"異端"を。そして目を背けるだけで気が済まないならば・・・・・・・・・力を行使する。つまりこの世からの排除・・・・。中世の宗教イデオロギー紛争のように・・・・・・・。

 人間の歴史を見れば痛いほどに分かる。"異端"の歴史は虐殺の歴史からも分かるように。世界は息子の抹殺まで視野に入れていたと記載されている。当人の自覚も行動も無くても、権力に固執する愚者が煽動する世界がそう認識すれば、それはもう純然たる"悪"なのだ。
  『疑わしきは 撃て!』
 それが国家間の下した暗黙の取り決め。

 何か悪しき事態が起こる前に、あらかじめ抹殺したほうが絶対多数の絶対幸福という民主主義のお題目を楯に、誰にとっても幸せだと決定してさえいた。
 しかし、その提案は公式には行われなかったとある。
 それを押し留めているのが単に人間的美談では無い。
 単に"藪を突ついて蛇を出す"のが怖いからだ。
 もし再び世界を破滅に向かわすような蛇が出たらば、その責任を誰も取りたく無いのだとある
 全ては推察の粋は出ていないにも関わらずに片方で切実に消滅を望み、自らが危機に際す可能性は捨て置けないとして躊躇するエゴ以外の何物でも無い思考によって事は押し留められていた。


 美知恵個人の推察だと付け加えられてはいたが、それが過去秘密裏に行われたとされていた。宗教上「人間で無い人間」という異端を最も忌み嫌うある宗教と政治が密接な、ある国がアクションサービス(非合法部隊)を派兵し、殲滅を主条件に作戦を敢行したとある。
  ゴクッ 
  パラッ
 乾いて粘り気のある唾を嚥下しながらページをめくった・・・・・・・・・・・・。
 しかし、
 文書の中にそれに続く文章は・・・・・・・・・・・無かった。

 記載が無かったワケでは無い。そこにあると思っていた確執がもたらす経過に結果を表す・・・・・・戦闘記録は無かった。
  パラ パラ
 バインダーで止められていた文書の根元から数ページ分の紙片が床に落ちる。多分あったであろう、戦闘記録の残り香であった。
 恐らく美知恵がここに来る途中に急いで破りさったのだと分かった。ここまで記して意味伝えても、肉親故に知らぬ方がいい事もあるのだと理解出来た。
 百合子はただこうべを垂れた・・・・・・・・・・。

 二人にはどんな事が起こったのか分かった。詳しい事までは分からない。しかし昼間のタクシーの中で、肉親相手にすら【彼女】名誉を守る為にもあれほど頑なな譲れぬとした意思を見せた。
 今までのように誰かがやってくれるモノでは無い。誰でも無く、彼女を護るのは自分の・自分だけが出来る事だと心に懸けているのだ。
 もし、息子を亡き者にしようとするならば、それは取りも直さず【彼女】をも殺す事に他ならない。それを容認する事は絶対に無かったであろう。例え世界の最大軍事力を敵に回しても・・・・・・・・。

  パラッ
 落ちたページから後の内容は以下に続く。
 以降その相手方からの不穏な動きは消えた。普通なら自分の非を無視して、敵対勢力に責任転嫁が十八番の国でありながらもこの件での報復も一切無かったそうだ。それ程の代償を払ったのだろう。今度は向こうが。そして二度と払う事は出来ない程の代価であったのだ。

 その処遇は各国そしてG8以下の秘密会談、及び世界の宗教関係者を交えて話合いが持たれた。
 その席に横島忠夫に関する、とあるレポートが届いた。
 彼に関しての、今まで無かったアプローチからの非常の特異なレポートであった。何故なら送り主は人間でなかった。千里眼を擁してこの世の全てを知りうる立場の者からであったのだ。

 過去横島忠夫に害意を抱き、積極的に抹殺を試みた者は全て自ら破滅の道を辿った。レポートにはそう記載されていた。それも常識では普通には到底考えられない強大な敵に対しても、そしてあらゆる不利的危機的条件を全て排してきた。
 その様は神魔族をしても信じられない程の結果であるとされている。
 それは、あらゆる局面において発揮する特異な現象。
 敵対した相手を超える力を如何なる局面であっても発露した特異な才能。
 脆弱な人間でありながらも新たな力を、まるでサービスの過ぎる手品士かイカサマ麻雀士のように次々とネタや役を出して来るのだ。まるで某ジャンプに連載されているハンタ○ハン○ーのように、いい加減な能書きと強さの羅列では節操が無さ過ぎた程に次々に新たな力と能力を発現させてきた。

 しかし、それも人間の領分においてはその能力も殆ど限界までも引き出されていた。もし、これ以上強い力で抹殺に試みれば、今は眠っている魔族の因子が目覚める可能性が高いと推察及び結論つけ結ばれていた。
 そのレポートに作戦を行った、又は暗黙の中で賛成の挙手をしていた国、そして組織は顔を青ざめた。
 つまり今までの行動は・・・・・・・自ら向いた剣の切っ先に向かい疾走いるようなモノであったのだ。

 喧々囂々とした論議の後に下したされた結論は・・・・・・・。
 危険な存在であるとの認識は改まらなかったが、非友好的行動を取らない限り危険因子が発動する可能性も低い。ならば監視下に置いて、誰も接触を出来ないようにする事。以降あらゆる国 軍属 組織 イデオロギー 宗教 営利 非営利 合法 非合法であっても接触を禁じられた。


{寝た子を起すな}
{引いてはいけない引き金を引くな}


 誰も横島忠夫の内なる 未知なる力に接触 利用しないようにとする議定書で、不可侵な存在【触れ得ざる者】として定義つけられた。世界的規模で、その取り決めは深く静かに始まった・・・・・・・・・・・・。

 体内にそのファクターを擁したのを知って、世界を破滅に導こうとした悪魔神を【闇を蒔く者】を崇めていた狂信主義者は新たな偶像として横島忠夫を崇め奉ろうとした。その者達は日本での宿泊先から全員いなくなったとある。殺してはいないと言う。ただ別の記憶と別の人生を歩むような呪術を施したそうだ。
 そしてこれからも、接触を試みる者には同じ事があるであろうと・・・・・・・・・・。
 それは今も続いていることは踏み込んできた美知恵達からも分かる。
 生きている限りにおいて"世界の共通した危険な存在"だとあるのだ。

  「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 この世はとかく理不尽で、非情なモノだと知らぬ二人では無い。
 しかし、それが愛しい我が子に降りかかるとあっては、笑って済ませられるワケも無かった。百合子は肩を落として、同じく押し黙ったままの大樹の足元に視線を・・・・・・・・・・・・・
   グイッ
  「だいじょうぶさ・・・・・・・・・・・・アイツは男だし」
 大樹は震える百合子の肩を、今度は強く抱き、もう一度繰り返した。俯いた百合子はその手に自分の手を重ねる。置いた大樹の手も僅かに震えていた。
 大樹は初めてこの女性の肩がこんなに小さい事に気が付いた。だから、シッカリと分厚い手で肩を抱く。
  「・・・・・・・・・俺達の子供だぞ」
 俯いたままの百合子は少しの間をおいてユックリと小さく頷いた。

 

epiloge

[leave a country]

 幾日かが過ぎた。
 あれから百合子は美神の事務所にあらためての挨拶に行って、二人以外は中身を知らない文書を返した後は、今度は単なる保護者仲間として井戸端会議をして、六道府子さんと言う方ともお友達になった。その時、ちょっとした騒ぎで息子の霊能力で作った文殊が3人に非常に劇的な変化を与えた事件が昨日であった。
 それは別の項目で伝えられているので割愛して、その日のテレビでナルニア国での反政府勢力と政府軍の派手なドンパチが中継され、指導者以下が逮捕及び投獄されたニュースが報道された。治安の維持が図られたので、直に横島夫妻は慌しく再び赴任地へ向かう事になったので次に日には空港にいた。
 愛する息子と一緒に・・・・・・・・・・・・。

[get tired of waiting]

 「おっせっえな〜〜〜」
 空港の出国ターミナルで、キョロキョロとあたりを忙しなく見回しながら、餌を待つ熊みたくウロウロと動く忠夫がいた。
  「見送りのあんたが焦ってどうすんのよ」
 恐らく二十歳ぐらいの人目を引くには十分な魅力をもった美女が、高校生ぐらいだと思われる弟らしい者をため息混じりに嗜める。まるで出産を待つ夫のように見ていて落ち着きが無いので、同類だと思われて見っとも無いのだろう。
  「だってよ〜お袋。このままだと親父の野郎(飛行機の)時間に間に合わないぜ。まだアッチ物騒なんだから、幾らお袋でも一人で帰るには・・・・・・・・・・・・・・・・・」

   パカーン
 頭を思いきり張る。
  「痛ってえ。何すんだよ」
 百合子に思いきりハリバートンゼロ(全体がアルミの旅行用スーツケース。壊そうったって壊れない堅牢を誇る)で殴られた。
  「誰がお袋よ。あんたのようにデカイ息子がいるなんて、私は物心つく前にあんた産んだ事になるじゃない。ちゃんと百合子姉さんと呼びなさい」
 お袋・・・・・・・・・・・・もとい百合子さんの突っ込みと押し出しはキツカッタ。若い頃の筋力も復活したこともあるだろうが、それ以上にえも言えぬ感情が見え隠れ・・・・・・・・・・・母子の関係を意識的に無視したいようだ。
  「あのね・・・・・・・三十路(三十歳台)もとうに超えたんでしょう(つまり四十台)。幾ら昨日若返りの文殊で若く見えるようになっても、中身はちゃんと・・・・」

   バキッ
 今度の音は大きく重かった。丈夫が自慢のアルミ鋼鈑で出来たハリバートンにデカイ凹みが出来た程であったからどれほど強かったか分かるであろう。
  「百合子姉さん・・・・・・・・・」
  「よろし〜〜〜〜〜〜い」
 何故か二日前に帰国した時より、明かに若い容姿になっている百合子がそこにいた。搭乗手続きの時に、年齢と容姿の違いにパスポートの提示を求められ、思わず「整形されたんですか?」と係員に聞かれてスコルピオンクラッシュが炸裂していた。

 ちなみに、冥子ちゃんは昨日を以ってGSを廃業して、その母府子が今日から現役復帰したと風の噂に聞いた・・・。
 何故か?美神母娘は二人揃って仲良く入院中で、病院側に「母娘?ですか。姉妹でしょう」と突っ込まれて、嬉しそうにしていた美知恵であったそうだったと、付き添いのオキヌから聞いた。病院のベッドで母ですと申告した自称娘の方が「ああ〜〜〜タイトルが〜」と叫んでいたとも・・・・・・・・・・。

[motherhood]

  「・・・・・・・・」
  「ん?。なんだよ」
 母が自分を見て・・・・・いや、ジット見つめている事に気が付いた。生まれてこのかた隠し事など出来ない、優しくはあるが厳しい瞳に見つめられ、何か不味いことや恥ずかしい事を発見されたのかと思って顔を赤らめる。
 が、それを露呈するのは父と同じく嫌らしく隠すように不機嫌を装った。
  「がんばんなさい。あんたも大変みたいだからね。色々とね」
 バンと息子の肩を大仰に叩く。
  「?・・・・・・・・」
 叩いた母の、その手の小指は立てられていた。
 オカマが紅茶でも飲むのかと思う息子は、少しの熟孝で小さく首を振って「そうでないさ」と照れ笑いで誤魔化す。そんな息子を嬉しそうに優しく笑う。本当にこの子の母で嬉しいと思った。
 でも,もう直ぐに自分だけのモノで無くなるのは以前の帰国よりも強く感じる。

 昨日何故か?美神令子事務所が爆薬破砕したように瓦解倒壊して、暮れゆく都会で決着した美神母娘揃って天井に赤ランプの車で西条の後を追い、泣き叫ぶ娘を引きずったままに六道母が帰宅して、「僕を捨てないで〜」とか「は 早くホテルに戻ろう。仕事なんぞやっていられるかああああああ」と叫んでいる大樹があの日の事を何故か綺麗サッパリと忘れていた黒崎以下の部下十数人に拉致され「いやだ〜〜〜。泊まり込みの出張なんぞ行って堪るか〜〜〜〜。百合子さ〜〜〜〜ん。今度は親不孝な男で無い子を作りましょう。五つ子ぐらい〜〜〜〜」との叫び声が遠くになっていた時、百合子に数人の女性の訪問があった。

  『?』
 まず第一印象は・・・・・・・・・・・・皆綺麗な娘らなのにおかしな格好をしている。失礼だが始めはそう思ってしまった。思わず回りを見渡して、台車にダックスフンドの描かれたダンボール満載の連中が居たり、両手に同人誌と同人アイテムを満載した紙袋を抱え、背中にポスターの入ったリックサックを背負った小太りの男や、科特隊のような頭デッカチな建物があるのかと思ってしまった程だ(笑)。それは致し方ないと百合子は自分に言い聞かせた。
 頭から立派な角が生えた女性もいれば、体中ネオアトランティスの女性。背中から漆黒の羽根を生やした女性までいた。その前夜に読んだ書類の中に思い当たる名を思い出した。
 三人は例の一件での感謝を告げに来た。その時の活躍によって破滅に驀進しようとしていた世界は救われたと、神族と魔族を代表して感謝の世辞を言いにきたそうだ。
  『まあまあ。それはどうもご丁寧に』
 相手が神様や魔族であることを忘れて普通の挨拶をする百合子であった。それはどうも現れた相手が、何故か種族やらを感じさせずに普通のお嬢さんのように感じたからだ。
 それは事務所に初めて訪れた時にオキヌが、学校に挨拶に行った時に小鳩が、昨日はシロに感じた感触であった。何故か?感謝の世辞を伝えに来たと言っているのに妙に緊張している三人に、何やら別の意識が内在しているように"息子を持つ母"の勘で分かった。

[source of anxiety]

  (似なくて好いところが似るのね・・・・・・・・)
 旦那の困った癖?が旦那以上に似ている?ので頭を抱える。
 百合子の伴侶である大樹も彼女に会う前までは空回りばかりであった口説きのスキルが、百合子と付き合って行く内に才能が開花してしまった。後で知ったが、旦那の家系は実は女で変わる典型であるタイプであった。
 まあ、あまり冴えない男であってもバツ一に成れば女性に対して考え方も変わって、今まで表に出なかった魅力が出たりするのと同じかもしれない。女性を直に知って、少年から男に成ったのであったろう。
  (忠夫の中にそのヒトはいるのね・・・・・・・・・・・)
 息子を変えた女性に会いたかった。
 まあ、それはそう遠くない未来に会える楽しみにする事にしようと思った。

  (あら、そういえば?)
 ぼんやりその時の、彼女にとっての嫁姑関係は誰だろうか?と昨日の事もあって考える。
 現在の状況の中では、前に確率は高かったと思った二人も今ではそうとは思えない。以前程息子にとってあの二人はウエイトのある存在では無い。

 息子は他の女性を選んだ。
 そして今もそれは変わっていない筈。
 愛した女性が目の前から"いなくなった"から他に直ぐ乗り換える情が薄いような、そして要領良く気持ちの切り替えが出来る子でも無い。だから多分、今の息子にとって例え近かろうと異性とはどこか遠い存在でしかないのであろう。それもあって息子は二人に特別な感情を前ほどに持っていないのだろう。二人にはチョット悲しいかも知れないが、しかしそれを他人がどうにか出来る問題では無い。
  (進むも 戻るも 棘の道か・・・・・・・・・)
 この先の事など誰も知らない。
 息子らと美神ら二人がどうなっても、ハッキリ冷たく言えばどうなっても構わない。自分は肉親ではあるが、この件に関しては最も近しい他人でもあるのだから何も出来ないしするべきではない。それも、もう歩き始めた男の子とっては・・・・・。
  (焼き餅か・・・・・・・・男の子の母親ってツマラナイわね)

 母親にとっての男の子とは不条理だと、昔読んだ書籍に思い出した。
 愛した男の息子とは、実は愛した男の分身であり、その分身を自分の手で一から自分の理想に育てる事だ。つまり、母親は必然的に息子に恋している。無論報われぬ事は誰も知っていて、時がくれば他所の女がかっさらって行く事を分かって、尚愛する。それが母にとっての息子であるのだ。
 そう考えると、少し手元にある時間が延びたので嬉しくもあり、悲しくもある。長くなった時間、それは取りも直さず息子が苦しむ時間でもあるのだから・・・・・・・・・・・・・・。

   バン
 もう一度肩を叩き「頑張りなさいよ」と言う。今度は趣旨が分からなかったようで「何を?」と不思議がる。
   「いいから。取りあえずがんばんなさい」
   「あ・・・・・・・・・・・・・・・ああ。分かった?」
 何故か慈愛に満ちたような母の促すような微笑に、今度は何か判らない内に頷く。
   (まったく・・・・・・・・まだ。ま〜〜〜だ子供ね)
   クスッ
 何が何やら分からないと首を捻る息子を見て笑った。命を賭すようなもの関しては他者を圧倒する深き力と洞察力を発揮するのに、その他はカラキシ無頓着。自分に想いを寄せるモノがいることも夢の又夢だと、本人だけ思っているのだろう。
 今だって、ロビーを通りすぎる女性らの数人が何かに目を惹かれるような瞳で自分を見ている事など知らぬ態度であった。あまり風体は我が息子ながら突出した物は無い。仕草や格好がスマートでは無いが動物の雌としての、本能で強く逞しく頼れる雄には惹かれるモノであるのだ。そして人間の女は更に自分を裏切らない男に惹かれる。その意味では息子は合格だろう。何があっても裏切ったりはしない。惚れた女に関しては・・・・・・・。
   「ん。何か変かな?」
 そんな視線にチョット気がついたらしく、格好でもオカシイのかと相変わらずに変わり映えしない自分の格好を近くの喫茶のウインドーに照らしている。
   (鈍感・・・・・・・・・・)
 いつか付き合うだろう女性が苦労するのは必定であるだろうと確信した。が、全てはいずれ時が解決してくれるだろうと思うことにした。


  (でも・・・・・・・・嫁が神様とかってのは・・・・・・・・・・・・・)
 その時にはなんて呼べばいいのかな〜と、今考える問題で無いがらも苦笑しながら考える百合子であった。
  (でも・・・・・・・・)
 以前忠夫が言っていたように『あえて言うなら両方・・・』のフレーズを思い出した。単なる戯言だと以前は一蹴したが、何故か以前ほど笑い話に出来ないような・・・・・・・・・・・・。
 大樹と違い、息子は女性をそうそうは"切る"事が出来ないであろうから、下手すると・・・。
  (まさか!?)
 両手一杯に大勢の女性を、全員ウエディングドレスの女性を抱えた息子が見えてしまった。村枝の紅百合と言われたOL時代からの確信に似た閃き、それが過去全て実現した未来であった時と同じ閃きであった。
  (・・・・・・・・・・)
 偏頭痛のする頭を抱える。赴任先の国情では許されているが、生憎日本では認められてはいなかったような法律であったような・・・・・・・・・・・・・・・・気がした。生憎他の世界の法律は知らないが・・・・・・・・・・・。

[make a vow]

  「でも、あんた随分変わったわね。何があったの?」
 あの文書だけが全てでは無い気がする母は率直に訊ねる。息子は少しだけ考え「変わったかな?」とかぶりを振った。頷く母の瞳が背中を押す。促されるのは客観では無く、感じる"自身"の気持ちであったのが判った。
  「そうかな?自分じゃあわかんねえけど・・・・・」
 惚けるなと母は目とつま先で突つく。随分と「男"らしい顔になった」と、少し悲しそうに微笑む。
  「う〜〜ん。ああ、もしかして・・・・・・・・・・・・だけどさ」
 いつか、大分前に両親らに聞いた事を思い出した。


 子供の時に自分の失敗から友達との大切な"約束"を破り、それを隠そうと他人を傷つける"嘘"を付いた事があった。その時、この母は痛みと後悔と恐怖で泣く息子を殴りながら・・・・・・・自分でも泣いていた。
 絶対に自分の為に、人を傷つけるような"嘘"は毛ほどもついてはいけない。殴られる方が呆然とするほどに悲しい顔。その母の顔は一生忘れられない程悲しかったのを覚えている。
  「ばか息子!!どうした?」
 母を泣かした慙愧から落ち込む息子を励ましたのは、普段は逆に殴っている父であった。シャクリ上げる涙声で、ひたすら背中を丸め母を泣かした事で更に泣く息子に言った。
 "嘘"は必要。
 しかし人を傷つける嘘は絶対に自分に反ってくるからやるなと諭した。自分ばかりで無く、それは周り中も傷つけ、嘘をついてまで守ろうとしたモノまでも結局は自らの手で無くしてしまうのだと教える父。必要な嘘と、許されぬ嘘をちゃんと覚えろと言う父に、何だか分からないが頷く息子であった。 
 珍しくしおらしい息子に気を良くした父はついでだと人生の教訓を続けた。
 そして約束は・・・・・・・・・"女の子にモテナイ"事を知っていたので、父特有なアプローチで噛み砕いた言葉で言った。"約束"の重みを知っている男は"男"としても重い。女はその"重さ"を男の"価値"だとするから約束も大事だと言った。
  「(ヒック ヒック)・・・・・・へ・・・・・・・へえ〜・・・・・・・・・」
 重みのある言葉に納得しつつも、多少立ち直ったのでいつもの反発心から「良く浮気で嘘八百をついているのは許されない嘘じゃないの?」と言うと、今度はその父から目茶苦茶殴られた。
   びえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 今度は純粋な痛みで泣いた息子であった。


 昔聞いた事をそのまま話す。
  「そう・・・・・・じゃあ」
 では約束は果たせたのかと聞く。
  「・・・・・・・・・ん〜〜。多分?」
 でも と言葉を濁し考える息子に、その事で何か悩みでもあるのかと聞く。
  「なんか随分前の約束は果たしたけど、ま〜た新しい約束が出来たって感じかな。その為には俺も少しはチャントしないといけないからね。その約束の分良い男になったんじゃないの・・・・・・・・・・・・・なんてね」
  「ん?」
 照れながらそういった息子に母はその新しい約束の意味は・・・・・何となく分かったような気がした。再会を誓ったであろう女性との事だろうと。その時の為には如何なる犠牲も問わずに外敵を排し、そしてキットいい男にならないといけないと思っているのだろう。父としてであっても・・・・・・・・・・・。


  「あれっ?でもなんだい。その随分前の約束って」
 新しい方は知っているので深くはとても聞けない。全く知らない古い方のを野次馬的興味から聞いた。
  「え?!」
 訊ねられ、チョット考える。
  「あれっ???。そういや、なんだったけかな。何か、随分前の事だったような気がするな〜」
 首を捻って腕を組み思案顔。
  「随分前って。大体あんたまだ17じゃないの。50や60のジイサンじゃないんだから、そんなに過去があるワケないじゃないの」
 17歳の男に随分前の約束って言っても、一昔前でも10年だし、大分前といえば最低は2〜30年は経っていないと言語上は可笑しい。生まれてもいないときの事を思い返すという、国語力の無い息子に呆れ顔であったが「何年ぐらい前よ」と突っ込んで聞くと「そうね。多分1000年ぐらいじゃ」と夢見るような口調・・・・・・・・・・・・。
   バキッ
 再びデカイ凹みが出来るハリバートン。
  「若い内からボケてるんじゃないわよ。全く」
 何故か、それが美神に関係あるように感じた。が、全く流石に根拠の無い当てずっぽうなので言わずにはおいた。自分が言わなくても、多分この子は分かっているであろう。意識をしようがしまいが・・・・・・・・・・。

[be assaulted by a ruffian]

   ドタドタドタドタ
 飛行機搭乗時間の締め切り間際こちらに走りこんでくる髭男の姿があった。喧騒に包まれている筈の中でもハッキリとそのドタドタとした足跡は聞こえたので見ると、今の今まで地方に泊り込みの研修で東京を離れていた大樹であった。
  「ああ間に合ったみたい・・・・・・・・・・・だけど・・・・・・・なんか、親父の野郎おかしくねえか?!」
 長の付き合いであっても、今の大樹の姿を見て思わず汗が垂れた。込み合った人垣をまるでモーゼの十戒のように、左右に押し開きズンズンと分け入ってくる大樹。
  「あらっ。あなた、おかえりなさ・・・・・・・・・・」
 そんな夫婦のほのぼのとした会話は
                 ぎゃーーーー
                       悲鳴によって遮られた。

   ザワザワざわざわ
 と周りがあまりの光景に言葉を失って見たのは・・・・・・・・・・・・・空港ロビーで行き成り百合子を押し倒す大樹。その顔に体は尋常ならざる興奮(発情期)で鼻息は濃いピンク色に染まっていて、公衆の面前でありながらレンタルビデオ店の裏手の暖簾に遮られた禁断領域の、さ〜ら〜に〜奥の摘発を恐れての頑丈な扉に置いてあるソフト的展開が行われ様としていた。
 昨日の若返りの文殊によって出会った時より若く、更に美しくなった百合子から無理やり引き離されたので(十人掛かりで)色々と眠れぬ夜があったのだろう。その溜まったモノを一刻も早く吐き出したいらしく、その目はギラ突きアッチの世界に逝っていた。
  「えええいいいい。やめんか、この万年発情期亭主」
 当然百合子も反撃をした。
   バキ グシャ ドカン ゴスッ ボコン
 見事に頭蓋骨が砕ける音がしたが、アドレナリン全開の大樹はダメージなどモノともしないで18禁的展開一直線である。
  「た 忠夫!!見てないで助けなさいよ」
 思わず他人な傍観者になっている息子に始めて助けを呼ぶ百合子であった。
 当の息子は別の事を考えていた。

 確かお袋はゲーセンのボクシングゲームでマイクタイソン似の人形を叩き壊した過去があったのに、殴られている大樹は全く意に介してはいなかったので・・・・・・・・・・。
  「人の振り見て我が振り直す・・・・・・・・・・・・・気をつけようっと」
 思わず小鳩美神との初夜を思い出して嫌な顔をする息子であった。


 嘆息しつつ二日続けてお世話になったので、もう門外漢であった百合子も知っている文殊"眠"で眠りに着かせた。その後ケブラー(超張力ロープ。マズ切れない)ロープで公式野球ボールのように、又は雪だるまのようになるまで雁字搦め(がんじがらめ)にしてコンテナカーゴ行きの荷物ベルトコンベアに放りこんだのは百合子の指示。
 あの調子では10時間以上掛かるフライトでは途中で目を覚ましたら、機内であっても絶対に今と同じ行動に走るのが必定であることは、とっても悲しいかな付き合い長い二人して分かっていたからだ。
 幾ら長年連れ添った古女房でも、出会った時より更に若いとなれば浮気以上に再び豪萌えるのだ。何しろ今の百合子は美神とほぼ同じくらいの年恰好であるので、出会った時はバリバリのキャリアウーマンで、年下の大樹はいわゆる"憧れのおねーさま"であったが、やはり年食ってみれば女性は若い方がいいに決まっている。


  「まあ、いい年して仲のいい夫婦・・・・・・・・・・」
 多少大樹のこうなった責任を回避しようと、すっ呆けてからかう。
  「口惜しかったらあんたも良い相手を探しなさいよ。あんたでも"良いって"言ってくれるモノ好きをね」
 肩越しに振り向き、逞しくなった子を挑発する。
  「・・・・・・・・・・。ああ。そうするよ」
 噛んで含んだ様に返す。
  「・・・・・・・そう。見つけなさい。頑張ってね」
  「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん」

 などと云った母子の微笑ましい会話は・・・・・・・・・・・非常に無粋な声に引き裂かれた。遠くのコンテナカーゴルームの方からロビー中に響き渡る声で「百合子さ〜〜〜〜ん。親不孝な息子じゃなくて、今度は娘にしましょう〜〜〜〜〜」と言う声で遮られた。
  「う〜ん。眠りの文殊が数分しか効かんとは、巨大猛獣かあの親父は」
 体がデカイ程麻酔注射が短時間しか効かんと思い出した。
  「う〜ん。まるで新婚時代のような調子ね」
 思いきりサカリの付いている大樹が運ばれた荷物デッキを見て心底疲れた口調で苦笑する百合子。
  「あ・・・・・あんなんだったの?新婚時代はさあ」
 己を棚に上げて、思いきりサカリの付いた大樹の所行に呆れ顔で訊ねる。
  「・・・・・・」
 その質問には答えたくは無い母だった。
 実は子供は結婚の数年は作らない"家族計画"を立てていたのだが、あの調子(どんな調子?)であったので"明るい家族計画"など何処吹く風で、見事にハネムーンベイビイ"忠夫"が生まれる事になってしまったのを思い出した。まあ、結果はけして後悔してはいなかったらしいが。

  (と 言うことは・・・・・・・まあ、高齢出産じゃないからいいけどね)
 チョット考えて訊いた。
  「弟と妹はドッチがいい」
  「ああ??」
 意外な問いにちょっと熟孝。ああ〜と分かったらしい。呆れ、チョット疲れて、そして考えて答える。
  「妹の方が・・・・・・・・・・・・・・・・・いいかなあ」
  「そう・・・・・・・・・・その方がいいかもね」
 ちょっと納得する母であったが。
  「それに妹なら・・・・同じ女を奪い合わなくて助かるからね」
   バキッ
 三個目のデカイ凹みが出来た。

  「確かにこんな血の男をこれ以上世間に放すのは辛いわね。あんたもあんまり粗相が過ぎると薬殺か射殺するからね」
 首を"キッ"と掻っ切るポーズで笑うが、言われた方は妙に現実実帯びているので笑えないらしい。
  「俺や親父は猛獣か」
 下された査定に怒る息子。どうやら父と同じ評価が嫌らしい。

 息子がジックリ考えた答え。その顔は郷愁を含んでいたと感じた。新しい命を誰かに見たてたのだろうか?。
  「そうね。息子は母親としては育て甲斐ないものね・・・・・・・・・・どうせいつかは別の女に取られるんだから」
 今の回答が本意では無いと分かったが、そう取る事にした。これで笑って日本を離れられると安堵した母であった。

[parting]

  「じゃあね」
 手を上げて国際線搭乗口のある階下のエスカレーターに乗った。モーター音と共に段々と、階上の手摺の上で苦笑いをしながら手を挙げている息子が遠く、そして見えなくなっていく。
 遠く 遠くに。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 百合子は・・・・・・・・今の自分が誰かの想いと交差するように感じた。


 あの時・・・・・・百合子はあの日の車中感じた違和感の正体が判ったような気がした。
 息子が息子で無いような気がした違和感。あれは断じて"危険因子"などでは無いと確信した。
  (もしかして・・・・・・)
 考えて、あまりの突拍子の無い考えに、思考しながらも絶えず否定をした。

 あまりに馬鹿な考えであった。
 あの時息子に感じた匂いが・・・・・・・・・・・・。

 あれはもしかしたら・・・・・・・・・・・あれは【彼女】が言葉に詰まった息子を助けようと出てきたのではないかと思えた。
  (ばかな・・・・・・・・・・・・・)
 何とも荒唐無稽な考えであろうと、まだ眠たい体に残る呆けた頭が生み出した夢想だと想いたかった。
 しかし・・・・理屈では無く女性の ・・・・・・・・・・・・・母の勘はそう告げていた。
 あれは息子の愛した[彼女]の匂いだったと。
  ("あなた"も、こんな気持ちで見ているのかしら)

 それとも・・・・・・・・息子自身が彼女を引き合わせ様としたのか知れない。きっと本当の事を自分達に紹介したかったのかもしれない。しかし、それを言える筈は無い。
 だから・・・・・・・・・・・

[take off]

   キーーーーーーン。
 暮れ始めた日の中をタービンジェットの金属エキゾーストを響かせてナルニア行きのジェットが飛び立っていく。 
   「ふう・・・・・・ああ。やっと行ったかあ」
 どこか安心し、少し寂しそうに見送り台から見送りながら・・・・・・・何故かイソイソと胸ポケットに手を入れて何かを取り出して"ニパ〜"と満面の笑みを浮かべる。取り出したのは福沢さん(一万円)であった。
 特別に帰りもタクシーで帰っていいと、あの普段ケチな母から奇特にも渡された。殆ど彼にとっては盆暮れ誕生日にクリスマスにチョコを貰えたバレンタインのように目出度い事この上ない至情の喜びであった。無論誰が馬鹿高い成田からタクシーなぞで帰るものか。電車で帰って残るお釣は差額は食費にあてると決めていた。

  (いや。美神さんのあの様子だとしばらく入院だからバイト代が入らんからな。節約はもっとせんといかんな)
 生憎と自給であるので、美神が入院で休業とあればバイト代は出ないだろう。免許があるのだから単独で事に当たってもいいのだが、以前は戦力に足りた仕事は別々にやっては、上前をハネテいた。なのに、何故かこの頃は単独での仕事が無くなった。結局はバイト始めた当初と同じ仕事である荷物持ちがこの頃の主な仕事。悪霊をシゴクのは趣味らしいので、結局はサポートもいらずに結局はポーターでしかない。雪の丞曰く「まあ〜贅沢な荷物持ち。ダイヤモンドの漬物石みたいだな」と言っては美神をからかっていた。その事情を当の横島は知らなかったくせに雪の丞は知っていた。
 実は仕事の出先でクライアント側に女性がいると、その女性と横島が直ぐに親しくなる光景が見らるようになったので「自分達がちゃんと見ていないと、クライアントの女性に何か(ナニか)あったら一大事。報酬が減るのはすご〜〜〜〜〜〜〜く惜しいけど、女性の操の為には、涙を呑んで・・・・・・・・・・」だとの取り決めで手綱を引き締められていたのだ。
 無論本人は全く、母の言葉では無いが鈍感の朴念仁であるので気がついていなかったようだが・・・・・・・・・。

[unemployment]

 貴重な、殆ど彼にとってはロゼッタストーン並に嬉しい収穫であるピンサツをジット見ながら考える。
 今の世の中じゃ、そこらへんの女子校生だって一日のショッピングに使う程度の額であるが、横島にとっては仕送りの日とバイトの給料日以外にはそうそうお目にかかれない物だ。その日の内に、そのまま部屋代に光熱費と悪友らへの借金返済で消えてしまう種類のモノ。
 クラスの悪友らは誰それのCDを買っただの、誰それのコンサートに行ったのだと言ってはレンタルですら事欠き、コンサートを見るテレビの電気代に四苦八苦している自分との違いを考えてみた。違いは明らかに自宅通学と、バイト先の違いであった。

  (そういや。俺なんであんな薄給でバイトしたたんだっけ?)
 自給255円。発展途上諸国に持って行けば破格の自給だろうが、バブルも景気も崩壊していてはいても、コンビニも土方もまだまだ条件に贅沢さえ言わねば働き口はある日本では非常識なバリュー価格だ。
 ボンヤリと遥か昔のような事を考えると色香に迷った馬鹿な過去を思い出した。
  (ああ。そうだったよな・・・・・・・・・・・)
 生のボディコンやら豊満な肢体をま近で見れるのが至高の喜びだと思ったあの時・・・・・・・・・。好きあらばアンナ関係やコンナ関係に成れると夢を見てもいた。しかし・・・・・・・・・・・・・。
  (いい機会かもな)
 忙しく、変わり映えのしない日常に埋没して考える事を忘れていたが、自分があんなに少年の純真?な思いで接していた筈の想いがもう持ってい無いことに気がついた。

  (そうだな。いつまでもやるバイトじゃねえな)
 漠然と、以前苦し紛れに母に言った"将来はGS"という気持ちが今はもう無いことに気がつく。
 良く考えれば、周りの状況に流されて行く内に免許取ったが、別段自発的に成りたいワケでは無かった。悪霊をシバイて快感を得られる人種でも無いので、あまり自分にとって美味しい仕事でも無い。
 GSは大金を稼げるとあるが今の状況下ではそれは永久に無理だし、大体今の自分にとって金は生きていく以上に必要は無いのが本当の所。薄給に勤しみ贅沢とは無縁、かつ金が実は"石の狸" "張子の虎" "絵に描いた餅"以上の役には立たない事を痛切に痛感していた。金を稼げば幸せだと思っている馬鹿なアメ公や、どこかの豪つく張りGSではない。そんな物に将来の夢など持て無い。それなら丁稚奉公な今の待遇は耐える価値は無い事にも気がつく。仕事だって、荷物持ちが殆どだ。それなら誰でも出来る仕事であって達成感などありはしない。同じ荷物持ちならエベレストのシェルパの方が、山の思いを馳せた山男の夢のお手伝い出来るだけ随分マシだろう。
 それに・・・・・・・・・・・・・・・・"彼女"に出会えた仕事である事には感謝はするが、同時に失ったのも同じ仕事であった。正直今はその気持ちが心の枷になっていて辛いのが本当の所だ。

  (潮時かもな・・・・・・・・)
 先程母に言った台詞を思い出す。
  「昔の約束は果たした           ・・・・・・・・・・・・・・・ か」
 一体誰と?どんな約束をしたのかサッパリ思い出せない。忘れてはいけないような気もするが、どうにも映画のスクリーンの中で見た記憶のように現実感は無いのだ。きっと小説か映画 テレビかビデオじゃないかもしれないと思えた。他人の人生に興味は亡くす。覚えてもいない"誰"かの"昔"の約束より、確かに誓った約束の方が大事だ。
 キット将来生まれてくるであろう"子"にとって大事なのは、確かに世間的には格好が好くて金になるかもしれないが、いつ生命が危険に晒される事になるか分からない仕事では無い。もし死別などして、一人残された子(者)がどれほどの慟哭を味わうのは自分だけで沢山だ。
 それなら将来の職業選択の幅を広げる為も、そして見聞と新たな大学でしか得られぬだろう繋がりを持つ為にも大学に行こうと思っていた。
 先程母に大学に、多分四年行く金ある?と聞いた。国立ならと返された。それも穀潰しの浪人に食わす仕送りは無いらしい。
  (まいったね。もう一年ぐらいしかないかあ)
 現役なら残された時間は限りなく少ない。それも、今までロクに勉強などしてこなかった。ただでさえ少ない時間にバイトに裂く時間は無かった。
 金も無いが金は将来幾らでも稼げる、がそれ以上に高校生活で残された掛替えの無い時間の方が数段大切だ。二度と無いのだから、失えば戻っては来ないのだ・・・・・・・・・・。
 その内見舞いで、その内その旨を告げる事にした。多分直ぐにシェルパは見つからないだろうから(キツイからだ)速めに言っておかないと思った。

[defraud]

  (帰りに参考書を買わないとな)
 ますますこの金に手を付けるワケにはいかなくなった。
 ゴソゴソと別のポケットから文殊を一つ取り出した。浮かんだ文字は"贋"。いつぞや小竜姫にこれで化けた時の事を思い出したのだ。これでロビーあたりにいるスッチーに化け、馬鹿な野郎を騙して東京までのヒッチハイクさせ、電車代も浮かそうとすることにした。
 成田→東京の電車代は彼の一周間分の食費であるのだ。これから先はバイト代が全く期待出来ない以上は当然仕送りだけで生きて行かねばならないのだ。ビタ一文散財は出来ない可愛そうな苦学生を助けるのだから、きっと中身男のまがい物美人を乗せても、きっとヒッチハイクを化かされた野郎も許してくれるであろう。
 許さないと思うが・・・・・・・・・。ナンパした女性を部屋に吊れ込んだらオカマであったので、刃傷沙汰になったニュースを思い出して、成るべくばれないようにしようと心に記す。

   「と、化けたらヒッチハイクの前にANAかJALの社員食堂に潜りこもむとしようかな」
 実は空港の各航空会社の社員食堂はハッキリいって目茶安(大体普通の半額以下。サーロインステーキセットで500円以下らしい)なので社員に化けて潜り込む事にする。「さ〜て。どの娘(スッチー)にするかな〜」にと言って物色を始める。流石にいつぞやの美神のように本人とハチ合わせはマズイ。だからランディングタラップゲート(搭乗口)から探す。
   ガヤガヤがやがや
 乗りこむ直前の慌しい乗客の喧騒の中で乗員ゲートから乗りこむ美人スッチーの制服姿に想わず見とれてしまった。何故か男はスッチーの制服には感慨深いモノがある。以前親父がナンパした気持ちが非常に同感な息子であったが・・・・・・・。
   「な〜んか俺、田中康夫(現 長野県知事)になったような気分じゃ」
 こんな場所でスッチー目当てにいるなんて、スッチー漁りの小太り中年のようになった気分でちょっと嫌な気分になった。

 そうこうする内、美人揃いで化ける相手には目移りしている間に全員の搭乗が終わってしまった。悔やんでいる時に、足跡を響かせて掛け込んできた美人スッチーの方を見る。
  「あっ」
 その女性は誰かに似ているような気がした。
  「・・・・・・・・・・・・・・」
 どうやら遅刻らしく慌しく通路を走ってフライト表を落としたのに気がつかずにそのまま先を急ぐ。横島はソレを拾って呼びとめた。拾ってくれた横島にペコペコと頭を下げたのは、前下ろしのストレートボブが黒髪が綺麗な女性・・・・・・・・。急いでいるらしく、頭を下げながら急いで駆けていった。
  「・・・・・・・・・・・・」
 握り締めた拳から光りが漏れた。

[news flash]

 出来れば明日の朝の分まで(安いので)食べたかったが、化けた女性に「定食三人前掻っ込んでいた」などのオカシナ噂が経っては事だ(一応後ろめたいのだ)。彼には珍しく静かに慎み深く味わい、大人しく定食を食べていた時に食堂に置かれたテレビが番組を中断して臨時ニュースを流し始めた。
   「ん?」
 卓から顔を上げると緊張の面持ちを崩さないアナウンサーが喋り始めていた。
   【臨時ニュースを申し上げます。本日午後5時23分 成田発 ナルニア行き パンナム航空機532便がナルニア人民解放軍の武装一味に乗っ取られた模様です】
   ガタッ カシャーん
 美人スッチーの椅子が勢い好く床を転げる。周りが思わずスッチーの目を奪われるが、当の本人はジットテレビに目を奪われたままだ。

   【犯人からの要求は日本の株式会社である 現地法人村枝商事のナルニア支社長である横島夫妻の引渡しであるようです。犯人は532便に乗りこむ筈であった横島夫妻への怨恨から機に乗りこんだらしいのですが、どうやら夫妻は機には乗りこんでいなかったようで二人を引き渡さないと乗客乗員を一人ずつ・・・・・】
 大樹はコンテナカーゴで貨物室。百合子は容姿が変わったのでどうやら分からなかったらしい。しかし、それもいつまでの事だか保証の限りは無い。

   ダッ   カンカンカンカンカンカン
 その場にヒールを脱ぎ捨て、一目散に美人スッチーは食堂からタラップへと続くベランダに飛び出して行く。その迫力に多くの乗員関係者が動くこと叶わぬが、そんな事など知らぬとばかりに疾風のようにドアから飛び出し、お目当ての飛行機の向かった暮れかかる空を見た。
  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
 感じた。先ほど物騒な国に帰るので二人に忍ばせていた"護"の文字を。
 ポッケから取り出した、その手には"光"そして"翼"の文字が光り、眩いプラズマ光の翼が夕日の中に吸い込まれていった。

[as if in a dream]

  【では本日最後のニュースです。本日午後六時過ぎ 17時23分 成田発ナルニア行き パンナム航空機532便をナルニア人民解放軍を名乗る一団によって占拠されました。その犯人グループはまだ理由は不明ですが 全員が意識喪失 及び身心喪失状態になっていた所を乗客乗員によって取り押さえられました。機体はそのまま成田空港に引き返し、乗員乗客に怪我人はいなかったということです。犯人は全員地元警察署に逮捕。現在取調べが行われている模様ですが、犯人全員が、まるで何かに怯えたような精神錯乱が深刻で、医師によると事件の解明には時間を要すだろうと・・・・・・・・・・・・・】

 その部屋の主がアルバイトニュースを枕に寝入って、付けぱなっしのテレビからそんなニュースが流れていた。
 暗い室内にテレビの明滅だけが浮かぶ。

  【なお、未確認ではありますが、空港の関係者からの証言によりますと、夕日の中に光り輝く羽のようなモノを持った女性の人影のようなモノが空港から飛び立ち、乗っ取られたパンナム機に向かって飛んで行ったのが多数目撃されています。乗客の中には、その人影がまるで"天使"のようにとか 又は"蛍"のようにも見えたと言う話まで出ていて、当局はその事実関係を・・・】

 見る者 聞く者いないテレビは淡々と報道を続ける。

   「あ?」
 買ったばかりの真新しい参考書に頬を付けたまま口が開いた。
 体は眠っていても 心には届いた言葉を繰り返す。
   「(・・・・・・た・・・・る)・・・・・・・・・・・か」
 疲れ、何も考えていないように脱力していた薄ぼんやりとしていた寝顔に 仄かな 暖かい灯がともった。

 

- appear in she's dream -

 

next scene
positive-side story


※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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