NexStage:family-prot [in the positive-side]
great mothers strike-back ,another storys
letter-part
literary-work:iky


転ばぬ先の用語解説 再び:以下の文章チョット頭に入れといてください。
雷様って知ってますか?いえ、高木ブーさんの事じゃ無いですよ(笑)←好きやなあこのネタ。
古来から日本では天候を操る神通力に秀でているとされている神様です。
風に改元とかでお馴染みに、脇に抱えた大きな袋から北風を吹かすような事をしている、
まあこの作品の中では天気の神様だと考えてください。


laziness girl

  「似合うでござるよ美神殿」
  「そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう。シロ」
 着替えた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ウオーキングクローゼットで、こんな事もあろうかと(お約束)用意していた大層立派なフィッシングウエアーを山と積まれた倉庫の中からシロに手伝いわせ探し出した。何やら心に去来するものが多々あったらしいのは苦難の浮かんだ表情で分かる。
 色々複雑怪奇な回想の末、紆余曲折はあったがTPOに合わせた・・・・・・。決して横島に迎合したワケでは無いと思いプライドを守りながら。
  (別にあたしは行きたいワケじゃないわよ。これは頼りない従業員が釣堀で溺死しないかという、安否を心配しての事であって・・・)
 必死に己の心に虚言を朗す。
 別段行きたいワケでは無いのは本当だ。しかし後一つ、女の先輩である母の言葉があったのだ。

[recollection scene]

  『三度に一度は誘われてあげなさい』
 何とか震える体で立ち上がった娘に、多少の良心の呵責があったのか?母は今度は本当の助言をくれた。
 この頃横島が美神に興味を持たなくなったのは、一つにはこの娘の面倒くさがりと出不精にあるのが分かっていたからだ。
  『何ソレ?ママ』
  『あんたこの間も横島君にデート・・・・・かどうか知らないけど何処かに誘われたんでしょう』
 皮肉っぽい笑みを机の上に載せた頬杖の上から投げる。
  『で デデデデデ・・・・・デートのワケは無いじゃない・・・・・・・・』
 思い切り慌てまくり、手を口惜しそうにブンブン振る。
  『そそそそ それが何だっていうのか分からないけど・・・ああ聞いてよママ。アイツこのあたしを牛丼10杯食べたら賞金5000円コンテストに誘ったのよ。全く馬鹿じゃないの。あたしは"黄金伝○"のマサ子じゃ無いんだから、この巷で有名な美人スイーパーがそんな姿を見せられるワケないでしょう』
 思い出して怒りを露にする娘にため息をついた。
  『あんたがもう少し賃金出してやれば、彼だってもう少し好いところ誘ってくれるんだけどね』
 と口には出さなかった。言っても意固地になるだけだと分かっているので、この長女の子育ての失敗はチャント次女の教育に生かそうと思っている・・・・やっぱり非情な母であった。


  『まあ、それなら少しは分かるけど。で、あんた横島君のお誘いを断ったのは何度目?デートかどうかはどうでもいいからさ!!』
  『へ?』
 聞くと当の娘は納得しがたい表情をしながらも、思い出したように指を折る。片手で足りずに仕舞いにはパンプスを脱いだ足の指まで使い始めた。はあ〜〜〜と、ため息を付く美知恵。
  『良かったわね横島君で』
 美知恵が気だるそうにつぶやく。
  『牛丼大食いに誘う奴の何処が良かったの??』
 こちらも同じ。
  『あのね・・・・普通の男は三回誘って断られたら大体諦めるのよ。わかる。普通は3回よ・・・・』
 これみよがしに、娘の鼻先に指三本立てる。
  『それが・・・・・何?・・・・・・・・・・それは兎も角ママ。その立てた爪だけどマニキアが・・・・・』
   バキッ
 美知恵の立てた人差し指のマニキアが剥がれていて「ミットモナイ!!」とただヤラレテ堪るかと復讐の気持ちから突っ込んだ娘の頭を手近にあった電話で張る母であった。

 ウググググと、机に突っ伏しながら頭を押さえる娘を無視して続ける。
  『そうすると、男は懇意を持っている女からのそんな対応と態度だとややこしい事になるわよ。結構根に持ったり、もう誘っても絶対に乗ってはくれないからって諦めちゃうのよね。そうすると男って結構思い込み激しいから厄介よ。「ああ。どうせ俺には関係無い女だから、ほっとこう。夢見てもしょうがないさ」ってね』
  『・・・・・・・・・・・だから』
 張られて痛む頭を撫でながらチョット答えに覚えがあって、なにがし心に引っかかるモノがあるようで胸も痛む。
  『だから、横島君も同じなんじゃないかしらね。どうせ自分が何やっても誘われてもくれないんだから、じゃあ誘うだけ馬鹿らしいってね。だから興味も無くす。以前ならそれでも追いすがる"子犬"のようだから良かったかもしれないけど、先にも言ったようにこの頃横島君も他の女性らにもモテテるようよ。なら振り向かない女をいつまでも追いかえるより素直に答えてくれる女の子の方がいいに決まっているでしょう。それに事務所のオキヌちゃんだってシロちゃんだって結構美少女だからね〜〜〜。懇意な小鳩ちゃんもいれば、小竜姫さまだっているし・・・・ワルキューレさんも口ではあんたと同じように毒ずいていたけど、女の勘だけど・・・・・・・・・・・・・よ!!感じたままで正直な神族や魔族の女性には結構人気があるってよ・・・・嘘か本当か知らないけど聞いたわよ。特に神魔(族)の女性って神話の時代から情熱的な人が多いっていうじゃない。人間みたいに世間体は気にしないから思いこんだら話が早いわよ』
  『え?』
 思わず声を詰まらせる娘に内心微笑む。
 実は人気があるのは戦士としてではあるらしいが、それは伏せる事にした。まあ、言葉足らずでは無いが嘘は言っていない。これは目の前でヒタスラ傷ついていくのが、傍から見てて面白い娘がいけないのと言い訳をする母。

 それに・・・・・・・美智恵は横島を子犬と言ったが・・・・・・・・・・・。確かに出会ったときは一人ぼっちの置いてきぼりを恐れ、追いすがる子犬であったかもしれないが
  (虎の子を、猫と見まごう無かれ・・・・・・・・・・・・か)
 某SFなセリフが口をつく。
 知らぬ内に自分の巣にとんでもないモノが入っていることに娘は戸惑い、そして悩んでいる事も知っていた。何故なら、その子は・・・・・・・・・・・・・もう小さな巣から飛び立つ羽が生え揃っていた。二度と振り向くこと無き巣を旅立つ日が来ることを知っている。

 彼にとっては・・・・・・・娘が決めた仕事も単なる通過点に過ぎない。今の彼には金銭も、女性に受けのいいという職業であるとされるGSという物も執着するだけの価値のあるものでは無いだろう。単なるバイトの一つ。美人が多いので、待遇が悪くても止まないだけの職場に過ぎないので。
 今日は昨日の続きでは無い。明日は今日の続きでは無い。老体で頭がアルツハイマーで呆けたように、狭い思い込みの思考でそう思いこむかも知れないが、横島はまだ高校生で、人生の仕事を決めるには早過ぎる。他人(娘)が決めた仕事に一緒に従事するワケでは無いのだ。

  『そ  それ本当・・・・・・・・・・・なの』
 ふてぶてしく、ドッカリ座っていた椅子からチョット体が浮いた。
  (よし。食いついたようね)
 娘の表情に焦りが浮かんだので、してやったりの表情は押し隠してニンマリする。
 先程美知恵がいったように男は壮年までは大方において止まることなく変わっていくのが常であるが、女は一度立ち止まるとそこを安住の地だと勝手に思いこむことが多い。いつまでも昨日の続きが今日で、今日の続きが明日だと思い込もうとして目を瞑り事態の掌握を見誤り、結果座して死ぬという事も多い。
 特に彼女の娘は人一倍思い込みが激しいので、事実を見ても自分の望みと違えば目を反らす癖がある。きっとどんな事があっても永遠無休に今の生活が続いていくのだと信じて、いや信じたいので、それに反する事実からは目を背け続けるであろう。破滅が眼前に付きつけられて、選択の余地が費える時までも・・・。
 しかしそうだとすると、どう考えても二人の仲には今以上の進展は望めない。つまり多分誰かが横島のハートを掴んだら己が娘とはエンド。

 まあ、横島に恋人が出来て幸せになるのは彼女自身若干負い目もあるので望んでいるし、それ自体は別段構わない。が、そうなってしまっては娘が唯一譲れぬモノであるのでそれを盾にイジメルネタが・・・・・・・・いや、娘の面倒を見れる希少の存在が無くなるのを、アメリカ人的偽善(他人を心配するフリをして自分の事しか考えていない人々を指す)に心配する母であった。


  『・・・・・・・・・』
 チョット・・・・母の言葉に娘の心の中に葛藤が渦巻き始めたような微妙な表情を浮かべている。
  『何やっても答えてくれない。結果じゃないわよ。相手からのリアクションが無いのが無視されたようで一番応えるのよ。で男は基本的には先刻も言ったように中身だけはいつまでも子犬のようなモノだから傷ついて、それで拗ねてソッポを向くのよね〜〜。で、二度と懐いてはくれない。で、その内すねて家出・・・・この場合事務所出っていうのかしら。まあ厳密に言えば彼があんたを捨てるんだろうけど。素直じゃない女に用はないってね。さっきからも言ってるように、やっぱり男って最後は性格だからね。あんたそうなったらどうすんの。ボディコンで飽き足らずにノーパンGSでも始める。それなら少しは引き止められるし、少しはもつでしょうけどさ。まあ、夜のオカズと同じで二三回ね』
  『・・・・・・』
 ちょっと危機感が・・・・・・・うなじから背中の汗に出ていた。そう言えば思い当たる事が・・・・。

 この頃横島の奴がバイトを休む事が多い。
 いつかは小鳩とのデートであったし、この頃は悪友であるタイガーらと遊びに行くとの理由ですら休む事も以前に比べて各段に多くなった。定期雇い(社員)で無いので、事前にバイトに出ないと言われれば文句も言えないが、以前はバイト代も出ないのに用も無いのに入り浸っていたのに・・・・・・・・。

 それとなくバイトの頻度が下がってきた理由を聞くと、どうも今は生活費に窮していないのが原因らしい。そうだとすると、原因を作った横島の母百合子に恨み言を言いたかったが、別段仕送りが増えたワケでは無かった。
 生活費に窮しなくなったのは、今までは面倒くさがりの故に食い物は牛丼とかコンビニ弁当にカップ麺が主食であったのに、何故か?この頃は自炊をするようになっていた。当然同じカロリーであってもエンゲル係数は落ち込み、仕送りでも十分に事足りるようになった。ならば、始め生活費で始めたバイトをおろそかになっていくのは至極当たり前であったかもしれないが・・・・・。
  (あたしとの接点はそれだけだったの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
 オキヌやシロらと違い、繋がりは仕事だけだと悩む娘であった。


 尚高校生の男が、しかもどう見ても不精の典型である横島が自炊するなんて・・・・。と美神らも不思議がっていたが、実は火の車の生活を改善以上に、彼には自炊しなくては成らない事情があった。頭を共に捻る事務所の女達はその事情を知らなかったが、その理由をパピリオだけは知っていた。
 彼女が小竜姫とヒャクメに連れられて(無理やり着いてきた)人間界に来たときに、二人は都庁地下のオカルト本部に何やら用事あったらしいが、無論そんなことに用の無い彼女は二人の目を盗んで横島の部屋にやって来た。調度夕飯の自炊中であった横島は"お腹が空いた"という彼女に手料理をご馳走した。
彼の作ったモノを口にしたパピリオが叫んだ。姉が以前に作ってくれていた味と同じだと・・・・・・・・。嬉しそうに一生懸命に食べ終えた後、どうして?と不思議そうに聞く。
 "邪魔だったかも"と頭を掻きながら苦笑する。
 過ぎた日、二人で一緒に教わりながら作った料理を思い返して、きっといつの日か教え返す為にも日々腕を磨いているんだと照れ笑いをする。
 実は本当は料理に興味は無く、ただ一緒に台所にいたいだけだと分かっていても"しょうがないわね"と嘆息しながらも少しだけ嬉しそうに、手取り教えてくれた女性に教えてもらった料理と舌の記憶もを忘れないようにもとだ。
 又作ってくれと頼むパピリオの頭を優しく撫でながら「ちょっとレパートリーは少ないぞ」と笑う横島であった。


 ちなみに自分よりは長い時間一緒にいたのだ。同じ恋する女性でもあったので料理をやっていそうな魔界にいるべスパを思い返した。習う事が出来たのは数少ないので彼女のレパートリーを増やせるかと思い、レシピを知っていそうかと聞いてみた。が、あのアシュタロスが一口摘んだだけでヒックリ返ったらしい・・・・・・・・・・・。
 まだ死にたくないので、食べた事は無いというパピリオに頷く。心中"GS史上最強はべスパだったのか"と思いながら、ついでに"まさか?キノコのリゾットじゃないっだろうな"とも思った。

the North sea

   ジャジャ〜〜〜ン
 ファンファーレとスポットライトに照らされたような颯爽と横島の待つ事務所に現れた美神は何処から見ても文句のつけようの無い釣りの格好で勝ち誇っていた。見栄っ張りであるので、いつでもどんな状況でも備えていたので、当然趣味で無いが釣りの服もアイテムも揃えていた。それも金にあかした最上級で特上の物を着こんで威風堂々と事務所に現れる。
  「似合いますね。美神さん」
 オキヌの言葉に横島も繁々と見る。頭から足の先まで舐めるように見られて少し気恥ずかしくなるが、久々の熱い視線に心持ち顔が火照る。しかし次の言葉で我が世のトロピカルリゾート気分は行き成りシバレ(冷える)てしまった。
  「そうかな????」
 オキヌの言葉に頭を掻き、美神ビューで"難癖"を付ける。
   ギロ
 睨んで、殴ろうかと思ったが、案外真面目な顔をして自分の方を向いていたので殴られなくなった。まあ暴力を振るうヤクザは殴る前に一度視線を外してから殴るのと同じであろう。

 しばらく美神の着こんだ、大仰なウエアを繁々と見て呟く。
  「俺らが行くのは釣堀ですよ」
 美神の格好を見る横島の目は、打ち上げられて瀕死の鯖より死んでいた。
  「わ わかっているわよ」 
  「俺達は別に『釣りロマン』や『ザ フィッシング』とか『千夜釣行』とか、メキシコ湾やタンパ湾とかグレートバリアリーフに『松方英樹 世界を釣るぞ』をやりに行くわけじゃないんすよ」
  「だから何よ」
 突っぱねる美神であったが、多少汗は垂れるのが押さえられない。自分でも今の格好はちょっとやり過ぎであったと反省していた。
 女にありがちに何でも形から入るので、このような事態になってもいいように予め釣りのウエアーは用意してあったが、それは釣りなど興味が無い上で購入した奴なので、一番重装備で見た目格好のいいので揃えてあった。その格好はと言えばレジャーの釣具に関しては何でも在ると言われている上州屋(大手釣具店http://www.johshuya.co.jp/index.htm)でも中々に無いような、本職の漁師かくもという重装備であった。

 着こんでいるウエアーは全身ポケットだらけのゴアテックスジャケット。全身に遭難と生命維持の大仰な装備がてんこもり。肩にはGPS(grobal-positining-system)とVHF&UHFの緊急通信ブイに衛星携帯電話のヘッドレストまで付いている。
 更に海面に放り出されて、意識を保っていられなくなった時ように姿勢保全の圧搾空気を自動排出する枕付きのフードまでついているレスキュージャケット。その下はアラスカ州の沿岸警備隊の指定のA5レベルのドライスーツ(注釈:アクアラングのスーツには大別して二種類存在する。一つはウエットスーツ。名前の通りに濡れるのだが、これはスーツが濡れると言っているワケでは無くて、それを着込んだ状態の体が濡れる、つまり水がスーツ内にも侵入する事を意味している。対して体が濡れないのがドライスーツ。寒冷地での作業では水の侵入によって低体温症の危惧のあるときに主に使うモノである)。更に海水を淡水化して飲む事が出来る特殊フィルター装備の飲料機器。空からの捜索隊に発見される為に海面に蒔いて知らせる特殊染料を混ぜたパウダー などなど・・・・・・・・・・・。まるで映画『パーフェクトストーム』のように、アラスカのベーリング海あたりの冬のシケル海で蟹を取るような猟師かくもという装備を美神は付けていた。
 持っているグラスファイバーの竿もマクガイアーの腕より極太で、ついているリールは旋盤機械のように大きく、巻き取り機構は電動で深さと長さのデジタル表示機構までついている。まるで映画『ジョーズ』で8メートルのホオジロサメを釣るような竿であった。付いている釣り針に至っては、築地で仲買人が鮪を引っ張る鈎針のように太い。どう考えても釣堀に行くような格好では無い・・・・・・・・・・。
 釣りに詳しくない一般の方の為に噛み砕いて言い変えると、銭湯に行くのにアクアラングを着込み酸素ボンベを背負うようなモノだ。
 除霊の時ももそうであるように、あらゆる装備に関しては戦後日本の基幹産業のように重工長大(大は小を兼ねる)を旨としていたので釣具ウエアーはコレしか無かったし、意地っ張りであるのでこれみよがしに着てきたのだ。
 女にありがちにデートの前に着ていくものに散々悩み、遅刻して行ってみると相手がもう帰っていなかったとは良くある話である。どうやら美神はそのタイプであるようだ。それも、すご〜〜〜く。


  「美神さん・・・・・・・」
 横島が疲れたように吐いた言葉には抑揚が無かった。まるで言うだけ無駄だと分かっているような感だ。
  「な   何よ」
 普段は見せない真面目な表情に体がちょっと寄り切られる。
  「1時間500円の鮒しかいない釣堀に何を期待して、何を釣ろうとしているんですか?大阪の海遊館じゃないんですから、鮫も鯨もカジキも鮪もいませんよ」
 もっとも幾ら海遊館(http://www.kaiyukan.com/)でも釣り糸を垂れる事は出来ないだろうが・・・・。
  「いいい。好いじゃないの。ちゃんとした釣りの格好なんだから。それに冬だから天候だって変わる事があるわよ」
 美神としては千歩譲って上げた挙句がこの扱い、と我慢袋の尾が切れそう突っ張る。しかし横島は美神の反論に何も言わなかった。ただ一言「まあ、恥をかくのは自分ですからいいすけどね」とすげない。
  グヌヌヌヌヌヌヌ      ブチッ
 今度こそ堪忍袋の尾が切れた。

  「よこしま〜〜〜〜〜〜〜ああああああああ」
 大声を張り上げ拳を振り上げる。
 いつもなら殴るし、その方が簡単だ。しかし確かに横島の言う事の方が正しい"ような"気がする。己の非を認めたく無いので殴るとあっては、ますます横島との距離が遠くなる"ような"気がする。
 しかし しかし しかし、だからと言って一度は折れてやったので、もう譲れぬらしい。妙な所で意地を張る、母談では「ヘソ曲がり」であった。

   バターン ドタドタドタドタ
  「あらっ?!」
 大声を出した美神は次の瞬間、いつものように殴られると思ったが凄い勢いでオフィスを出ていっただけ・・・・・・。
  「????」×4(内約 人間男一人女一人 人狼雌一匹 人狐雌一匹)
 クエッションが四人の頭に浮かぶ。今までのパターンから考えて殴って終わりの筈なのに・・・・・・。
  (二重帳簿の擦り合わせが大変で、知恵熱でオカシクなったか・・・・・・)
  (美神さん・・・・・・・・・あの日かしら?)
  (お腹でも痛いのでござろうか?それで何も食べれないで、可愛そうにお腹が減って乱心されたのであろうか?)
  (朝(トイレで)出なかったみたいだな。エラク急いで。まあ〜あれだけ力んだら・・・・・・)
 多分バレれば全員殴られそうな想像をしていた四人の耳に、ドタドタドタドタと地響きを上げて美神が帰ってきた。着替えて来たのかと思ったが、全くその格好は先刻のままである。更にその手には何と人数分のドライスーツ ジャケット 防寒具やらモロモロが握られていた。
  「・・・・・・・・・・・・?」×4
 美神はオキヌら女性陣三人に「着る?」とただ一言言った。
  「え・・・・・・・・」×3
 幾ら真冬でも、小春日和のうららかな陽射しの中にこの格好は、世間知らずのシロタマも横島の言葉も相俟ってTPOに反すると分かったらしい。やんわりと断った三人であったが、何故か美神はそのスーツを車に積んで、四人を連れてなのでCTRでガレージから飛び出していく。

   バサバサバサバサ
 空冷六気筒を背もたれに感じながら空を見た。
  「あらっ。何か空の様子がオカシイと思いませんか?」
 飛び出した外の空模様を怪訝に見るオキヌ。他の皆も空を吊られて見上げる。
  「今日は(降雨降雪)確立0だったけどな。朝からもあんなに晴れていたのに」
 後部席で横島も空を見る。先程まで冬特有の腐ったミルク色であったのに、一転墨汁まで垂れてきたような塩梅である。古い講談にあるように「空は一転にわかにかき曇り・・・」状態。まるで雲の上から魑魅魍魎かエル星のUFOでも現れれるような空模様だ。
  「ん。あれオカシイな〜〜」
 確か朝見た天気予報で見た天気図でも西高東低(九州あたりに高気圧北海道あたりに低気圧)で寒気団はオホーツクの遥か彼方だったのに東京低とでもいいそうな天気に変わり始めていた。
 そんな空の様子を怪訝がる四人を見ながら、ハンドルを握る美神は調度振り始めた雪と寒風に紅い唇を"ニッ"と歪ませ笑った。まるで彼女の母が、以前娘が床を七転八倒する光景を見るのと同じような笑みであった。つまり・・・・・。

Fortune comes to a merry home & Unfortune comes to a tragedy home

   びゅうううううううううううう ごおおおおおおおおおおおおおお どっぱああああああああああああん
  「さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寒い・・・ですね」
 オキヌが一言だけで今自分達が置かれた状況を述べる。一言だけであったのは他に今の状況を表す言葉が無いことと、寒さで口が回らないからであった。

   びゅうううううううううううううううううううう
 白い闇が彼女の前に広がっていた。まるで映画"ホワイトア○ト"のように何も見えない冷たい白い闇。冷たい白い闇の六角形は氷柱型結晶で、空の上が−30℃以下で無ければ出来ない雪の種類であった。シベリアとかアラスカでは良くあるが、未だかって東京に降った事が無い種類の雪であることが先日学校で習った事のあるオキヌには分かった。
  (ここ 東京なの?)
 彼女の目の前には演歌"親父○海"の百倍辛そうな光景が広がっていた。さながら先程横島が言ったように、ベーリング海での蟹漁が解禁になる日の荒れたような天候が今皆の眼前にあった。
 無論ここが爆弾低気圧のメッカである冬のベーリング海なら問題は無かっただろうが、ここは横島が先ほど行くと言っていた都内の釣堀だ。
  「うううううううううううう。寒いでござる〜〜〜〜」
  「し 死んじゃうよお」
 シロタマの二人が寒さに震えて、お互い仲が良いと思われのが普段は嫌な癖に命からがらの状況に思わず必死に身を寄せ合っていた。
  「あうあああああ。美神さん・・・・・・ソレ貸してください」
 オキヌらが、美神がこれみよがしに見せていた防寒服に群がる。そして自ら率先して着ていたのを誇らしげに見せびらかしながら・・・・・・・・・横島に宣言する。
  「ほほほ。どうみなさい横島。これでもまだあたしの格好が場違いだっていうの。こんな天気であんたのようないつもの格好の方がオカシイじゃないの。おほほほほほほほほっほほほほほほほおおほほほほ」
  「・・・・・・・・・・・・・」
 美神の高笑いに横島は答えなかった。いや、答えられなかったと言うほうが正しいであろう。
 凍った釣堀を前にした横島は・・・・・・・・・札幌雪祭りの彫像のように氷漬けで固まっていたのだ。

 先程釣堀に来る途中激変した空模様にとても釣りなど出来ないし、命の危険がヒシヒシとするので中止を要請したが聞き入れて貰えずに、凍った路面で他の車がスリップしているなかを"何故か?"予め履いていたスタッドレスタイヤ(雪走行用タイヤ)で無事・・・・・・吹雪で誰もいない釣堀まで引っ立てられてしまい、凍った路面で滑った美神に氷の張った堀に突き飛ばされた(無論ワザとだろう)。
  『あががががががががっががっがあっががががががががっがががが』
 凍った堀から出てきてワケに分からない言葉をうめきながら震える横島には決して帰宅も許さず、防寒服も貸さなかったのでそのまま氷漬に・・・・・・・・・・・・・・・・。

  「おほほほほほほほほほほほほほほほほっほほっほほほほほほっほおっほほほほほほっほほっほほ」
 いつまでも、先ほどの復讐をしてやったりと高笑いが続く釣堀であった。

  「ううううううっ」
 寒さに凍った横島のいる、超寒波が押し寄せている東京上空一万メートルでは逆に咽び泣いている女性がいた。
 その女性は昔話に出てくるような、北風を吹かす風神の袋から寒気団を地上に撒き散らし、東京を寒波の嵐に巻き込みながらも咽び泣いていた。その女性は・・・・・・・・・

  「ううう。なんで龍神族である私がこんな事をしないといけないのよ〜〜〜〜〜」
 すっかり泣きの入った肩を"ポンポン"と叩く女性も。
  「悪い相手に弱身を握られたな」
 肩を叩くのはワルキューレで、何やら同じ苦悩を背負っているので気持ちは分かる、といった風情だ。
  「小龍姫ぃ。天界の雷族(昔の暴走族に在らず。気象担当神様)から文句が来てるわよ。勝手に東京の天気を変えた事で、チョット話があるってさ。落とし前つけに来てくれって・・・・・・・・・・」
 通信鬼を持ったヒャクメが哀れみを込めて友に告げる。
  「うぐっ」と絶句。
 チョットと会話に付ける時は往々にして少しと言う意味では無い事が多々あり、この場合もそうであるとヒャクメの引きつった笑顔は告げていた。その笑顔の意味を汲み取り更に泣きが入る。
  「ううう もう美神さんとの付き合いやめたいよ〜〜〜〜〜」
 寒波を放つ袋を持ちながら、咽び泣く小龍姫。

 先程、突然山に掛かってきた美神からの電話。チョットしたお願いで『今すぐ東京を凍えるような天気にしてよ』。もしやってくれないなら"例の一件(妙神山の山門破壊事件)"を老子(ハヌマン)にチクル事になるかもしれないから
  『お願いね〜〜〜』

 お願い  =こうしてほしいと人に頼む事柄。
 脅迫   =相手に害悪が生じる旨を知らせて畏怖(いふ)心を起こさせ、自由な意思決定を妨げること。【大辞○から抜粋】 
 Question:さて二人の場合はドッチだったでしょうか?
 Answer:後者    ピンポーン

  「ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」
 いつまでも、うら若い女性の悲しげな泣き声が続く東京上空であった。

劇終


後書き

 嗚呼、小竜姫様になんて事をさしてしまったと反省しきり。
 だけど『オチの為なら〜〜 小竜姫も泣かす〜〜〜 それが どうした 文句が・・・・・・・・・・ 』
 あるだろうな沢山。


※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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