in pub

 まだ幾らか年若いパートナーだと他の客に思われた節もあったが、こんな場所で他人のカップルをジロジロ見るのはルールに反するので大人しく席に座る事が出来た。
 ターゲットは少し離れた隔絶されたVIP席にいた。どうやら酒が進んでいるようで、もしかして弟が網を張っているアジトへは今日は向わないかもしれないと感じる。
 幸い連れていた女がトイレに立ったので、荷物に”聞”の文殊を忍ばせると会話の内容は全て丸聞こえにすることが出来たので、これからの行動も手に取るように分かる。
 自分達が知らなかった取引先や潜伏先も全て通信鬼を通じて知らせる事で、どこに逃げようと捕まえる事が出来るとの連絡から、二人にも余裕が出来たので、クラブで酒も飲まないのも怪しまれると、二人も、ターゲットに並んで?杯を傾ける。それが彼女には問題を引き起こす事もしらずに・・・・・・・・・・・・。


  「おい!ワ・・・・・・・・・・・春桐」
  「ん・・・・・・・・」
 呼ぶ声がした。ユサユサと体を揺すぶられて起き上がる。ここ数日捜査でろくすっぽ寝ていなかったので、どうやら演技程度に呑んだ酒量でも眠ってしまったらしい。顔に机の感触が残っていたので、そこがターゲットを追いかけて潜入したナイトクラブだと想い返した。想い返したのは場所だけでは無い。
  「あ〜〜〜〜!」
 叫んで思わず立ちあがり、ターゲットの座っていたVIP席を見る。しかし、その席には誰もいない。
  「・・・・・・・」
 いや、その席ばかりでなく今店には彼ら以外は誰もいなかった。ターゲットの所在を尋ねようとするまえに、店長が慇懃に閉店を告げるので、促され取りあえず店を出た。

  「どうなったんだ。あいつらは?」
 人目を避けた階段の踊り場で詰め寄る。慌てていたワルキューレとは対照的に、思い出したようにノンビリと答える態度に更に苛立った。しかし、答えを聞いて彼女の時間は更にノンビリと・・・・・固まってしまった。
 既に先ほど盗聴したので行く先も時間も熟知していたので、先回りした弟達に捕まり先程魔界の留置所に無事送致されたと連絡があったそうだ。
  「・・・・・・・」
 完全に言葉をなくした。


 何故起こさなかったのかと八あたりすると、馬鹿正直に謝る。八つ当たりだと分かっているだけに、謝られても困るので己に対しての怒りの所在に困った。
  (まったく、相変わらず調子の狂う奴だな)
 どうして尾行しなかったのか聞いたが、忍ばせた文殊によって位置は確認出来たから尾行は必要無かったと言う。電気的な発信機と違い、作った本人以外は知覚出来ないので、その位置だけを追々弟に告げていたほうがいいと尾行はしなかったらしい。
 それに二人してアルコールが抜けていない状況では、とても尾行出来る状態で無い。ターゲットが網に入り、事態も解決したので、そのまま寝かせていたらしい。

 ズ〜ン
 落ち込む。任務の最中に寝入ってしまったなんて・・・・・・・・・・・・・・・
・・・堅物 真面目で通っている自分の行動が信じられなかった。


  通信鬼の向こう側で「姉はどうしたのですか?」と事情は聞かれたので弟には事情を話したらば、苦笑してそのまま寝かせといてくれと言われたそうだ。「後は取りなしておくので安心しててね。姉さん」と伝言があったらしい。そこまで話したが、その先は言いかけて口を噤んだ。
  「?。取り成しておくので・・・・・・・・・安心してなんだと?」
 言いにくそうにしたので、焦れて先を急がす。すると照れくさそうに続けた。弟の次の言葉は彼に対しては「お守り宜しくお願いします」自分に対しては「デートを楽しんできてよ」であったそうだ。
  ・・・・・・・・・・・・
 戻ったら、何か理由をつけて殴る事が決定した。

  ビクっ
  「な  なんだ?今の悪寒は・・・・・・・・・・・・」
 遠く離れた魔界で、背中を思わず震わせて、取り調べ中に犯人に「お大事に」と言われている捜査官がいた。

honey-sweet

 何か素直に承服し難いが、不甲斐ない自分に嫌気が差そうとしているので、言われた通りに付き合って貰う事にした、八つ当たりの標的として・・・・・・・・・・・・・・・。まだ完全に酒も抜けていないので、当然嫌な事を忘れる為には・・・・・・・・・・・迎え酒であった。
 別の酒場を探したが、時間も遅かったのでホテルのレストランもパブもクラブも料亭も閉まった後。仕方無しに、部屋でルームサービスの酒とツマミと相成った。
 時間も時間なだけに普通の部屋はすでに満杯なので、昨日は仏滅であったので開いていた新婚用のスイートを取った。予行練習だと喜んだ男の顔に拳がめりみ、ズルズルと部屋に引きずられて行く姿にフロントの従業員の背中に汗が垂れていた。

 そのピンク系のカーペットに、まるで飯場の親方のようにドカッと肩膝立てて座って、これまたその前には飯場の親方よろしく一升瓶に湯呑みで煽っては、ぷは〜 っと特選剣菱の飛沫を噴出す。ダム建設現場渡って30年のような・・・・・・・・・・・・・・ワルキューレであった。

  「くうう。あんで、あぞく(摩族)にほのしと(その人)ありとほばれた、ほおりの(氷)のほーねるひーだー(コーネルリーダー)のはらし(私)がはいせつな(大切)なひんむ(任務)のほひゅう(途中)でひねむりを(居眠り)をふるほこにはったのよ(することになったのよ)」
 今時ここまで分かりやすく酔っ払う絡み酒も珍しいが、どうも任務に厳格なだけに相当に溜まっているのであった。
  「で〜へ〜。ずいまぜんね〜。ほれの(俺)のせいです。はあ、ほんでほんで(飲んで飲んで)」
 流石に上司が上司だけに、女を宥めるコツは掴んでいるのでひたすら低姿勢で頷きつつ酒を進める。

  [筆者注:ちなみに、いつまでも円カッコでの翻訳をつけるのは疲れるので、これ以降のワルキューレ達の台詞は全て翻訳したモノのみ表記しますが、二人ともずっと酔っ払って呂律は回っていません]
   「うう・・・・・お前に出会ったときからおかしな予感がしたのだ」
 空になった湯呑みを持ったまま、心底嫌そうに、鋭い三白眼で睨む。しかし言われたほうはお返しはするが、まともに打て合ってはいない。黙ってお酌をする。大人しく平伏しつつ、自分は手酌で呑む。女が不機嫌な時は、自分のせいで無いと分かっていても下手に反論しないのがいいのが分かっているのだ。
  「まあ〜、結果オーライで考えましょうよ。そんなに固く考えないで。どっかの我侭女のように、勝てば官軍。卑怯もへったくれもないって考えない?」
  バキ
 持っていた湯呑みが男の顔の上で砕けた。
  「あんな女と私を一緒にするな〜。幾ら魔族は誇り高い種族だぞ。あんな人間の基準で当てはめても非常識な女と一緒するな〜〜〜〜〜」
 どうやら、勝てば官軍というタイプではないらしい。どこかの業突く張りと同じポリシーは、一片の欠片も持ち合わせていないのだ。
  「えらい言われようじゃ・・・・・・・・・・・」
 苦笑しつつ杯をあおる。どうやら彼も反論するつもりは毛頭無いらしい。最高裁で刑が確定しているのに、弁護しようとしているようなものだからと・・・・・・・・・・・・・。


  「しかし、お前には妙な所で出会ったらと思ったら、あの騒がしいだけの連中も上に陣取っているわ・・・・・・・?」
 まだ文句を言おうと思ったが、会話が途切れた。
  「ん?」
  「あ?」
 流石に霊能者に魔族なので感じたのだ。
  「あちゃ〜」
 疲れた吐息を吐きつつ、酒の注がれた湯呑みから視線を天井に向ける。同時にズーンという音が腹に響き、無数の埃が落ち始める。慌てて手で酒とツキだしを隠す。
  「「・・・・・・・・」」
 まるで・・・・・・・・・・屋上にツングース隕石が落ちてきたような衝撃であった。それに続いてホテル中に人々の悲鳴や怒号が飛び交うのが聞こえた。
  「「・・・・・・・・」」
 顔を見合わせて、目で合図する。「俺(私)達は無関係」だと、わざとらしく乾いた会話を続ける二人であった。

 これ以降このホテルには、某財閥の令嬢の出入りは永久に禁止になったらしい。

regret

  (・・・・・・・・・・・あちゃあ)
 深酒で痛む頭を押さえながら、何とか忘却の海から昨日の事を思い出した。
  「う〜ん。悪いことしたかな」
 冷静に考えると、預かり知らぬ事で八つ当たりするという・・・・・・・・どこかの我侭女のように当り散らすという暴挙にでた自分を随分と気を使ってくれていた。チラリと隣で枕雄を抱いて寝ている男を見る。
 自分も裸で寝てはいるが、有りがちな展開は無かった事も思い出した。そして同時に更に落ち込む。何故なら、お互い裸でいるのは・・・・・・・・原因は彼女であったからだ。


 昨日の夜。外の、主に屋上が災禍の喧騒は、自分が仕事で落ち込んでいる時に他人の事など構っていられるほど善人では無い。なもんで、極力他人事だと忘れることにした。
 幸い文殊の一つで悲鳴と喧騒を途絶していたので、心のどこかで多少の良心の呵責以外は問題無く酒宴が進んだ。それも問題を引き起こしたのだが。
 普段はマインドコントロールを忘れぬ彼女であるが、前述の事もあるが、今までそんなに砕けた話をしたことが無かったので知らなかったが、話してみると酒の席での馬鹿話にこれほど向く奴もいなかったことも合間って、巧い肴かわりに酒量も際限無く増えていった。正体をついぞ無くす程にだ。まあ、そこまでは酒の上のフラチだと言えなくも無い。しかし・・・・・・・・・・・・・・・。
 これ以上は思い出したくは無かった。しかし、一度蘇った記憶は澱み無く押し寄せてきた。

lunatic-party

 『ん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ど どしたん???』
 酒宴の終わりの様相である、二人して寡黙に呑み進んでいた。それが行き成り怪訝な顔をして、スックと立ちあがったワルキューレ。トイレか、はたまた酒かツキダシの御代わりかと聞こうと思ったが、次の言動には唖然として、大概の事には驚かないと思っていた彼ですら呆気に取られた。
  『あたし・・・・・・眠い・・・・・・・・・母上〜。明日は7時に起こしてよ、ね〜』
  『・・・・・・・・・・・・・・・・はあ』
 多分母親に起床を頼んでいるのであっただろうが、普段の彼女からはモノすんごくギャップのある甘えた声で有った。実は弟の育ちの良さそうでいて、甘えた態度からも分かるように実は魔界では結構名家のお嬢様であって、似たように任務の時は自己催眠で仮面をかぶっていたのだ。二人とも長女と男の末っ子にありがちな性格であった。
 結構身内には甘えん坊は、似ていると言われて不遜であった女と一緒だと思ったが、言わずにおいた。

 どうやら泥酔で朦朧としたので、今自分がいるのが自宅なのかホテルなのかすら分からぬままに、寝るときは一糸纏わぬと決めているので、寝ると決めたが最後、立ちあがったままにネクタイを取り去る。違う意味で唖然とする観客一人を無視して踊り子さんは次々に演目を進めていった。
  (う〜ん。これは世間で言うところの コスプレ ストリップ パブ OL上司タイプバージョンじゃな〜)
 無論止めようなんて、男の風上にもおけない奴では無い。これは一生のお宝映像だと、ちゃんと心のハードディスクと網膜に焼き付けようとしたので分かりやすいようにファイル名を探す。決して”名称未設定”のままにしておいて、後で何の画像か分からなかったなんて愚挙を犯さないようにピッタリの名前はと無い頭を捻る。
  (このお宝のファイル名はなんてつけようか。シュチュエーションはそうさな、普段は鉄の上司 女王様タイプを演じつつも、実は部下の男子社員が好きで、素直になれない自分が嫌でけど、他に恋人が出来そうなので意を決して告白するってパターンじゃあ!!!も 萌える。豪萌えじゃあ。これこそ男の本懐じゃあ)
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)
 何故に彼がそんな事まで知っているのか疑問であるが?そこまで的確に知っているとはマニアックな奴だ。そんな事を世間に知られると変態の烙印が押されるぞ。今の内に更正して、せめて一般的な猫耳メイドとか、ツインテール袴っ子とか、メガネ裸エプロンぐらいにしておけと思う筆者であった。


 紺色のジャケットを取ると、魔族本来の軍属姿に戻った時に見ていた豊満なボインボイン(死語)が現れた。着痩せから「脱いでみれば凄いんです」状態には興奮はアクセル全開であった。天丼食って「なんだこの野郎。衣ばっかりで海老なんか小指程しかねえじゃねえか」てな事になれば息消沈で怒りすら覚えるだろうが、逆にタイヤキ食って「お、尻尾までアンコが1杯だ」だと妙に嬉しくなるのと同じであった。
  「おお、やっぱり着痩せするタイプじゃなワルキューレは・・・・・・・」という感想が聞こえたが、ブラウスにブラまで脱衣状態が進むと言葉は無くなった。ただ「おお〜〜〜〜〜」と息を殺し、唾(ヨダレ?)を嚥下する音だけが響く。それは黒いブラウス 続いてガーターベルトに繋がれた黒ショーツをもどかしそうに脱ぎ去り、まるで蜂のように括れた見事なウエスト、それに続く薄くしか脂肪の乗っていない引き締まったヒップが現れた時までも続いた。羨ましいぞこの野郎。俺にも見せやがれ、という天の声が聞こえて思わず天を振り向くのであった。

  『ん?』
 熱い視線に振り向くと鼻息荒く、自分を凝視している奴がいた。まあ、勝手に脱ぎ始めたので今更絹を引き裂く声で叫ぶのもおかしいし、怒るのも理不尽だったろう。
 それでも女性が着替え?しているのだ。じっくりと見ては、マナーやエチケットに反すると怒る!!のならばまだ分かるであろうが彼女は流石に酪銘であったで、あさっての事で怒鳴った。
 自分が裸なのに、何故にお前は服を着ているのだと・・・・・・・・・。

  「なんでじゃあ」と叫んだらしいが、酔っ払いに理屈は通用しない。
  「いや〜。結婚するまでは綺麗な体でいたいの〜」と此方も泥酔していることもあってか?馬鹿な事をいいつつ抵抗したが、元から女性に抗う術など持たない。それに人以上の力を持つ魔族の女に叶う訳も無かった。あっという間にトランクスまで剥ぎ取られて、汚い尻を晒す事になったが、著者も野郎の尻の描写などしたく無いので割愛する。一応お約束に、ズロースを引き裂くような悲鳴は上げたらしい。生憎と、外も部屋以上の喧騒に、ま〜だ包まれていたので助けは来なかった。

  「女を脱がすのは好きだが、脱がされるのは嫌だあ〜〜」と、何とか衣服を奪い返そうとしたが、奪い取られないように剥ぎ取った服を、さもおかしそうに引き裂くワルキューレ。ならばと、浴衣 バスローブ バスタオルに手を伸ばしたが、なんとワルキューレは部屋にあるシーツ以外の全てを引き裂いて、あらんや自分の服までもハギレ状にまで引き裂いた。いくら奴でも女性のスーツまで身につけたりはしないだろうが、やはり前述通り 酔っ払いに理屈は通用しないのであった。

 仕方ないので、股間を押さえてままにハニムーン用で、ひとつしかないベッドに逃げ込む。すると、なんとワルキューレまでも、まるで逃げる獲物をいたぶるように中に滑りこんでしまった。
 後は、よく幼い子供が夜の夫婦の部屋で、見なれぬ何か?を見たときの好い訳である「お父さんとお母さんはプロレスをしていたんだよ」てな、ありがちな言い訳状態を嘘偽り無い、公明正大におっぱじめた。


  ぜ〜ぜ〜ぜ〜
  は〜は〜は〜
 色っぽい姿であるが、やっていることはちっとも色っぽく無いことで息を切らす二人であった。アルコールも思いきり入っていたので、いざ冷静になって一息付くと柔らかいベッドの感触には勝てなかった。二人枕は並べないで片や安らかな、片や高鼾で眠りの海に沈んでいった。

pillow talk

  ズ〜〜〜〜〜〜〜ン
 顔に落ち込んだ時のチビ○子ちゃんのような斜線か、緊迫状態の漂流○室のような点描が・・・・・・・・・・・。後者で手書きならばアシスタントは大変だっただろう。まあ、それはともかく。


 思い出さなければ良かったと心底思った。目的は馬鹿げたモノであったにしても、男の服を力任せに剥ぎ取るなんて、札付きの痴女だってそこまで思いきった奴はいないだろう。
 今日の今日まで理性的ー理知的に生きてきたと思ってきたのに・・・・・・・自分の行動が信じられなかった。
  (そ そうだ。こ・・・・・これは夢だ。目を覚ますときっと私は暖かいベッドの上に・・・・・・・・)
 誰かのパクリで(笑)ゲシュタルト崩壊を回避しようとする。が、前述の女性と違い、今居るのは自室のではないが、紛れも無く暖かいベッドである。眼前に起っている事実は、素気無く彼女の最後の頼みである現実逃避さえ許さずに悶絶するのであった。


  (・・・・・・・・・・・)
 隣に寝ている悪夢の元凶の顔を・・・・・・・・・・・・・・まるでセーブポイントの無いFFUの最終迷宮で苦労してラスボスの所まで辿り着いたら、既にパーティは自分以外は全滅で、HPもMPも無くなっていて、世界樹の葉もエリクサーもテントも無いままに戦いを始めてしまったプレイヤーのように焦燥しつつ見る。
 そこには馬鹿みたいに幸せな顔があった。
  (人の気もしらんとこのガキゃあ!!)
 心底忘れたい過去を清算するために、いっそ一思いに・・・・・・・・・・・・。始めて出会った時の予定を今一度考慮に入れるのであった。しかし、殺気を漂わせる傍らの馬鹿は、
  かあ〜 くあ〜
 など剣呑な彼女の胸中など知らぬとばかり、幸せ独り占めで五月蝿くは無いが高鼾を立てている。
  はあ〜っ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 疲れた溜息であったが、
  フフッ
 続いて出たのは笑いであった。
  (まったく・・・・・・・・・・相変わらず・・・・・・・・・調子の狂う奴だな)
 枕に愛撫のように顔を擦り寄せて抱いている馬鹿な男の頬を突付いて見る。
  クスッ


  「ありがとう・・・」
 眠っている事を確認して、シーツで胸を隠しつつ顔をソット近づけて耳打ちする。
  「まったく・・・・・・・・・・・馬鹿なんだから」
 呆れた表情とは裏腹に、言葉通りの感情は欠片も無い。
  「わたしが連中に遅れを取るとでも思ったのか」
 彼女は知っていた。
  「お前は自分が役に立つとでも思ったのか」
 ペントハウスになど戻っていないことを。
  「全く。だから人間は気に入らんのだ」

 ふう、と思い歯痒いのが気に入らないとでも云う様に嘆息した。
  「自分勝手で気まぐれで、自惚れで、そして」
 少し考え、言い澱みながら力無く吐いた。
  「もう・・・・・守るのは・・・・・・自分の女だけにしておけ・・・・・・・・・・・・・・傷は少ないほうがいいだろう」  
 
 誰かが言っていた。
 人間の言う優しさとやらが表裏一体。与えられて嬉しいだけのモノでは無いことだとボンヤリと感じながら、幸せそうな寝顔を見て眠たくなったので、本当ならば本部に報告に戻るのが筋であるが、仕事も任務も暖かい蒲団の感触の前ではどうでもいいことであった。


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