とことこ屋根の上を歩いていた狐は、細い民家の間にバケツを見た。 ぴょっと飛び降り、中に首を突っ込んでぴちゃぴちゃ水を舐める。 
「びへっくしゅんっ!」 
くしゃみで水しぶきが跳ぶ。 
「・・・・・・」 
波紋が広がる水面に、狐のタマモは目を細めた。 どっくん どっくん どっくん 
「・・・・・・」 
「おや、こんな街中に狐かい? 珍しいねえ。」 
見上げた狐は、玄関から出てきた老婆を見る。 
「お前迷子かい? 街中は車が多いから気を付けるんだよ?」 
「こんっ!」 
ぺこっと頭を下げた狐は反転し、長い9つの尻尾を揺らしてとことこ歩き出した。 
「礼儀正しい子だねえ・・・」 
老婆は微笑んでそれを見送った。 


きつねレポート

 学園祭ヘブン −クロス・リバイバル− 


文化祭当日  

「と、言う訳でついに文化祭当日となってしまいました。 皆、頑張ってよ!?」 
「「はいっ!」」 
「「へ―い。」」 
「ラジャーでござるっ!!」  
ピートと健介がはっきりと、横島とタイガーがだらだらと、シロがしゃきっと返事をする。 
「「「「「・・・・・・」」」」」 
びしっと敬礼するシロに、横島達は顔を見やる。 
「何でシロさんが・・・?」 
「タマモさんはどうしたんじゃ横島さん?」 
「それがだなあ・・・」 
「大丈夫っ! あんな女狐おらんでも、ぷりちぃ―な拙者がいれば問題ないでござるよっ!!」 
「「「「「・・・・・・」」」」」 
「じゃあ、各自準備に取り掛かって。 横島君、ちょっと・・・」 
「ん、おう。」 
愛子は横島を教室の隅に引っ張っていった。 
「タマモちゃんはど―したのよ!?」 
「しょ―がねえだろいねえんだからっ!!」 
「どこ行ったの!?」 
「だから知らんのじゃ!!」 
「何をこそこそやってるでござる?」 
「「!?」」 
シロがひょいと首を突っ込んできた。 
「な、何でもねえって・・・!」 
「拙者に隠し事でござるか?」 
「・・・・うるっさいな! お前はさっさと準備しろ!」 
「きゃいんっ!」 
尻を蹴っ飛ばされて走っていくが、シロの顔は笑っていた。 
「・・・・・」 
「ったく・・・」 
「ねえ、何でシロちゃんがいるの・・・・?」 
「参加させろって校長を自分で脅したらしい・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・何だ、シロがいるとまずいのか・・・?」 
「そうじゃないけど、さ・・・・」 
愛子は壁にもたれてうつむく。 
「健介君は学校も許可をくれたし、事情が事情だから構わないわ。 準備も手伝ってくれたし・・・・でも、タマモちゃんが来れないのに、急にシロちゃんが入ってくるって言われても・・・」 
「ん〜〜・・・・・で、でもタマモだって準備手伝った訳じゃ・・」 
「最近ね、タマモちゃんずっと夜に来てくれてたんだ。」 
「っ! そうなのか?」 
「占い喫茶も、2人で考えた案だったのに・・・・・」 
「・・・・・・」 
ぐっと目を閉じる愛子に、横島はぽんぽん肩を叩いてやった。 
「だ―いじょうぶさきっと来るって。」 
「でも・・・」 
「いや、ここだけの話な・・・」 
「?」 
横島は声をひそめて愛子の耳に口を近づける。 
「あいつ、今そんなに長い時間変化してられないらしいんだ。」 
「何かあったの!?」 
「ちょっとな・・・・だから、どっかで霊力蓄えてきてるんじゃないかって思うんだ。」 
「そう・・・なの・・・?」 
「ちゃんと来るって。 それまでに、たっぷり稼いでびっくりさせてやろうぜ!」 
「・・・・うんっ!」 

美神除霊事務所 

こんこん
「開いてるわよ。」 
かちゃっ 黒髪のちょんまげが入って来た。 
「よ、皆さんお久しぶり。」 
「あらクロ。」 
「クロさんっ、体は大丈夫なんですか?」 
「心配してくれてありがとうおキヌ殿、人狼は体だけは丈夫だからね。」 
「でもあんまり無理しちゃ駄目ですよ?」 
「うっ、急に目眩が・・・」 
「だ、大丈夫ですか!?」 
ふらついたクロをおキヌが支えた。 
「ううう〜〜・・・・お、おキヌ殿が添い寝してくれれば治るかも・・・」 
「ええっ?! えとっ、そのっ・・・」 
「こらこら、おキヌちゃん困ってるでしょうが。」 
美神はやれやれとため息をつく。 
「美神殿も一緒に寝てくれれば〜・・・・」 
「こいつで一発楽にしてあげましょうか?」 
神通棍がじゃきんっと伸びる。 
「あ、治った。 ふ―、いやありがとうおキヌ殿。」 
「は、はあ・・・」  
「ん、シロはいないんですか・・・?」 
「横島君の学校よ。 文化祭の手伝いに行ってる。」 
「へ〜。」 
「クロさんも一緒に行きませんか? 後で私達も覗いてみようって話してたんです。」 
「そ―だな、ご一緒させてもらおうかな。」 
「おキヌちゃん、お茶を出してあげて。」 
「あ、すいません気付かなくて・・・」 
ぱたぱた駆けていくおキヌを見送り、美神とクロはソファーに腰を下ろす。 
「・・・状況は?」 
「タマモが接触したわ。 そんでもって能力喰われてる。」 
「マジか・・・!?」 
「マジ。」 
「まいったな・・・・・」 
クロは起こしかけた身をどさっと沈める。 
「・・・・タマモは・・・?」 
「さあね・・・・ただ、かろうじて変化は出来るけど時間がかなり短くなったようね。 霊力はほとんどザコレベル。」 
「そっか・・・・・ま、あいつのことだからあんまり落ち込むとかはないと思うけど・・・」 
「そ―いう心配がないのが助かるわね・・・」 
「他には?」 
「文珠を狙うって話よ。」 
「横島か・・・・」 
「それともう1人。」 
「もう1人?」 
「今預かってる子がいてね。 そいつも文珠が使えるのよ。」 
「2人もいるのか・・・・」 
「今のところ、2人一緒に行動するようにさせてるから大丈夫だとは思うけど・・・」 
「・・・・・」 
「・・・それと、1つお願いしてもいい?」 
「デートならいつでもOKだぞ。」 
ぼかっ 
「シロのことなのよ。」 
「? シロが何かしたんですか・・・!?」 
頭にたんこぶをつけたクロは美神に顔を向ける。 
「よくある話よ。 悩める青少女ってやつかな。」 
「はあ・・・」 
「文珠を使える子・・・・・久保君って言うんだけど、その子を横島君につけたもんだからすねちゃって・・・」 
「うう〜ん・・・・下の兄弟が出来て、親を盗られたと思っちゃう感じに似てるのかな?」 
「多分ね。 あの子両親もいないし、甘えられる自分だけの誰かを持ちたいって気持ちが押さえられないんでしょうね・・・」 
「やはり急に成長したのが・・・・」 
「・・・・・」 
「あ、すみません。 美神殿を責めてるわけでは・・・」 
うつむきかける美神に、クロは慌てる。 
「ともかく、1度ゆっくり話を聞いてやって。 多分、あんたが1番適任のはずよ。」 
「わかった。 仕事の方は、俺も協力させてもらいます。」 
「助かるわ。」 

「うっげ・・・・」 
廊下に並ぶ長蛇の列に、横島は顔を引きつらせた。  
「くっそ―・・・・わかっちゃいたがやっぱむかつく。 しかも女ばっかりじゃねえかよっ!」 
横島は教室に戻った。 
「どうですじゃ?」 
「どうもこうもねえよ。 ピート目当ての女子ばっかだ。」 
「くう〜〜〜・・・・ピートさんずるいのう―・・・」 
タイガーは泣きながらフライパンをじゃかじゃか動かす。 
「ほら2人共っ、さくさく作る! お客さん待ってるのよ?」 
「へいへい。」 
エプロンをつけた愛子が注文票を投げつけた。 
「先生先生っ、拙者頑張ってるでござるよ!」 
「へ―へ―。」 
サンドイッチを切りながら、横島は窓の外に目を流した。 

「へ―・・・・文化祭か。 懐かしいねえ・・・」 
校門に立つ白髪頭は、校舎を見上げながら目を細める。 
「ま、今のうちにせいぜい笑ってればいいさ。 頂くものは頂く。」 
どんっ 
「ん・・・?」 
「あっ、す、すいません。 前が見えなくて・・・!」 
両手いっぱいにダンボール箱を抱えた健介に後からぶつかられ、白髪頭は振り返った。 
「お前は・・・・」 
「? な、何ですか・・・?」 
「・・・・いや・・・」 
「どうぞ。 外の人もたくさん出入りしてますから、入って楽しんでください。」 
「そうか。 なら、何かお薦めのところとか教えてもらえるかな?」 
白髪頭は健介の首に腕を絡める。 
「え、ええ。 じゃあ、俺がお世話になってる人のところへ・・・」 
「待ちなさい。」 
振り返る白髪頭と健介は、人型のタマモを見る。 
「ほう・・・」 
「タ、タマモさん・・・・!?」  
細かく息を切らすタマモは、体が部分的にじじっとぶれていた。 
「そいつを放せ・・・・」 
「嫌だといったら?」 
「え・・・・うわっ!?」  
健介の首を掴み上げ、白髪頭は笑った。 健介を掴んでいる手が霊波の光を放つ。 
「・・・・・殺す。」 
素早く銃を突きつけるタマモに、白髪頭は健介を投げつけた。 どかっ 
「ちっ・・・」 
「うわっ!」 
倒れこむ2人に、白髪頭はポケットから小さな瓶を取り出す。 
「しばらくここに入っていろ。」 
「この・・・」 
「・・・・吸引。」 
しゅごおおおおおお・・・・・しゅぽんっ きゅっとふたをして、白髪頭はそれをポケットに戻す。 
「騒がれると困るんでね。 しばらく大人しくしてろ。」 
ぽんぽんとポッケを叩き、白髪頭は校内へと進んでいった。

「こ、ここどこ・・・・?」 
暗い闇の中、健介は頭をさすってあたりに目をやる。 
「何なんだあいつ・・・・あ、タマモさんっ!?」 
健介は姿のぶれるタマモを抱き起こした。 
「タマモさんっ、タマモさんっ!?」 
「うるさい・・・・耳元で怒鳴るな・・・」 
「あ、すいません!」 
健介はそっとタマモを寝かせた。 
「だ、大丈夫ですか・・・・?」 
「死にゃあ、しないわ。 変化が疲れるだけ。」 
「さっきの・・・・白髪の人は・・・」 
「チャクラ・イーター。 美神さんから聞いてるでしょ?」 
タマモはすっと目を閉じる。 
「はい。 文珠を・・・・・俺と横島さんを狙ってるって・・・・」 
「・・・・・・やられたわね。」 
「え・・・?」 
「遅かったか・・・・」 
タマモは手で顔を押さえながら前髪をかき上げる。 
「あの・・・・」 
「・・・・・あんた、力喰われてる。」 
「!?」 
健介は慌てて手を振った。 
「出ない・・・・文珠がっ、そんなっ・・・・」 
「・・・・・」  
薄目を開けて、タマモは健介を見た。 
「・・・・・」 
「・・・・・」 

「お、押さないでください! ちゃんと全員占いますからっ!」 
黒いローブを着ているピートは後の列に呼びかけた。 
「けっ。」 
「けっ。」 
こめかみに血管を浮き立たせ、横島とタイガーはじゃがじゃが器具を鳴らす。 
「「ありがと―ございました―。」」 
愛子とシロはぺこっと頭を下げる。 
「ふうっ・・・・」 
「いや〜大盛況でござるな愛子殿っ。」 
「・・・・そうね・・・」 
愛子は壁にある時計に目をやる。 
「・・・・・」 
「あの〜・・・・・・んっ!?」 
シロは鼻をひくつかせる。 
(この臭い・・・・この感じは・・・・来たでござるな!) 
「愛子殿っ、拙者ちょと・・・!」 
「えっ? あ、ちょっと・・・」 
エプロンを愛子に押し付け、シロは教室から飛び出た。 
「もうっ・・・!」 

「わっはは――っ、来た来た来たでござる〜〜〜!」 
廊下を突っ走ったシロは窓から外に飛び降りた。 ずざっ  
「ん?」 
目の前に着地してきたシロに、たこ焼きを食べながら歩いていた白髪頭は足を止める。 
「お前がチャクラ・イーターでござるな!?」 
もぐもぐ・・・・ごっくん。 
「ふうっ・・・・何だその呼び名は? だいたいお前に用はない。 犬塚シロ。」 
「!? 拙者の名前を知ってるのか!?」 
シロはばっと後に跳んで距離をとる。 
「犬井とかの同族だろ? 犬妖怪が・・・・うざったい・・・・!!」 
「先生は拙者が守るでござるっ!」 
「へいへい。」 
頭をぼりぼりかいて空のパックを捨てる白髪頭は、あふっとあくびをする。 
「・・・・・女神様っ、よろしくでござるっ!!」 
『・・・・やれやれ・・・』 
ばしゅうううううう・・・・・・っ!! 霊波が溢れるように光を放ち、シロは体が毛で覆われた。 耳が上に突き出て、体つきが少し大きくなる。 
「へえ・・・・」 
「月と狩りの女神、アルテミスの力でお前を討つっ!!」 
ぶわんっ 巨大な霊波刀を振りかざし、シロは突っ込んだ。  

暗い闇の中、横になっているタマモの隣に、健介はあぐらをかいて座っていた。 
「・・・・聞いていいですか?」 
「・・・・何?」 
目を閉じたまま、タマモは答える。 
「怖くないんですか?」 
「何が・・・?」 
「もう、霊力がほとんど使えないんでしょう・・・? 今まで出来たことも、なんにも出来なくなったのに・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・俺・・・・怖いんです・・・」 
健介はうつむく。 
「皆さんみたいに、GSになれると思ったのに・・・・・自分がこれから何をしたらいいか、わかったと思ったのに・・・・!」 
「・・・・・」 
じじっ タマモの顔がぶれる。 
「・・・・・アタシはね。」 
「・・・・・」 
「ただの狐になって、それで生きていくのもいいかなって思った。」 
「・・・・・」 
「あんたは何も失っちゃいないわよ。 ただちょっと、人生の選択肢が減っただけ。 ほとんどの人間は、あんたが持ってた力なんかなくったってちゃんと生きてるわ。」 
「・・・・・」 
「アタシの愚痴も聞いてくれる?」 
「・・・・あ・・・はい・・・」 
「アタシは縛られてるのよ。」 
「聞きました。 銃ですよね?」 
「そうじゃないわ。」 
タマモは目を開く。 
「アタシは九尾の狐の化身・・・・・・前世も、来世もその次の世も・・・・・決して他に生まれ変わることはないのよ。」 
「!? そう・・・・なんですか・・・・?」 
健介はタマモの顔を見る。 視線が重なる。 
「ええ。 だから、時々それを疎ましく思う時もあるわ。 九尾の狐は常に追われる身・・・・・・生まれ変わっても、逃げられないのよ。」
「・・・・・」 
「だから、あわよくば力持ってかれることで、ただの妖狐になれないかなって思ったのよ。」 
「それで・・・・じゃあ、わざと力を・・・・?」 
「まあね・・・・でも、結局喰われたのは表面の上っ面だけ・・・・」 
「じゃあ・・・・まだ、力があるんですか・・・・?」 
「あるような・・・・ないような・・・・・」 
「どっちですか!?」 
「好きじゃないのよ・・・・・アタシが好きなのは誰かを化かすこと・・・・それ以外の力なんていらない・・・」 
「・・・・・」 
「アタシが嫌いなパターンの奴、教えてあげようか・・・・?」 
「・・・・何ですか?」 
「自分で悲劇の主人公とか、ヒロインぶってる奴よ・・・・」 
「・・・・・俺ですか・・・?」 
「・・・・さあ・・・強いて言うなら、今の自分かな・・・・? あ―あ、話すんじゃなかった・・・・・・誰にも話すんじゃないわよ?」 
「はい・・・でも・・」 
「あんたに同情される理由はないわ。 ただ、自分がこの世で1番不幸だって顔は、アタシの前でするんじゃないわ、うっとおしいから・・・」 
「は、はい・・・」 
「さあっって・・・・・ヒロインごっこしてもしょうがないし・・・」 
タマモはゆっくり体を起こす。 
「そろそろ起きるか〜・・・・・」 
「だ、大丈夫ですか・・・・?」 
健介に支えられ、タマモは立ち上がる。 
「ありがと。」 
「でも、どうやってここから出ます・・・・?」 
「1つくらい文珠ないの?」 
「一応、2つ持ってますけど・・・・」 
「あんたの最後の文珠か・・・・1つ貰っていい?」 
「・・・・はい。」 
手渡される時に手が触れ、健介は顔をぷいと背ける。 
「とりあえず、外の様子でも見ますか。」 
タマモは1つをぽいと闇に放った。 
『覗』 
しゅぱあああっ 暗闇に光が差し込み、映像が出る。 
「・・・・・何これ・・・?」 
「外のじゃ、ない・・・?」 
そこには幼い少年が映っていた。 親しげに話している男と女に囲まれ、バスに乗っていた。  
「あいつ・・・」 
一瞬真っ白になり、次に映ったのは炎上するバスとおびただしい数の飛び交う霊だった。 血まみれの男と女のしたから這い出た少年は、怯えながら泣き叫んでいた。 やがて無数の霊に飛びかかられ、少年は覆い尽くされる。 
「タマモさん、これは・・・?」 
「・・・・多分、白髪野郎の記憶ね・・・・」 
「何で、こんなの・・・」 
「文珠ってのは、結構効果がアバウトなのよ。 より細かい指示は文字を連ねるしかないけど、それにはそれなりの力が必要って話よ。」 
場面が変わり、少年は病院のベッドに座っていた。 黒かった髪は真っ白になっている。 
「霊に教われた影響か・・・・多分、さっきのは家族ね。」 
「じゃあ、この人・・・・・俺と同じような目に・・・・?」 
「そういうことね。 あんたが文珠使えるようになったように、こいつは相手の力が喰えるようになった・・・・」 
「でも何で・・・・この人は力を集めるんでしょうか・・・?」 
「・・・・あんたになら、何となくわかるんじゃないの?」 
「・・・・・」 
映像が消え、再び闇が覆った。 
「・・・・・・タマモさん。」 
「ん?」 
「この人を・・・・助けてあげてくれませんか・・・・・・?」 
健介はタマモを真正面から見つめた。 
「・・・・報酬は?」 
健介はすっとタマモに文珠を突き出す。 
「俺の・・・・・最後の文珠です。」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・・しょ―がない。」 
ふはっとため息をつき、タマモはこきこき首を振る。 
「このまま寝ていちゃ、ど―しよ―もないしね・・・」 

じりりりりりりっ 
「何だ・・・・?」 
「非常ベル?」 
『・・・・がりっ・・・・心霊現象発令。 妖怪と思われる存在がお客を襲っています。 除霊委員は直ちに中庭に続く駐車場に向かいなさい。 外からおいでのお客様は、なるべくその場から離れてください。 繰り返します・・』 
「横島さんっ、タイガーっ!」 
「へ―い。」 
「わかったですじゃっ!」 
ピートはローブを脱いで立ち上がる。 
「皆、頑張って!」  
「「「おうっ!」」」
愛子の声を背中に、横島、タイガー、ピートは教室から飛び出た。 

ぶおんぶおんっ 
「くそっ・・・!」 
巨大な霊波刀を振り回すシロに、白髪頭は車の上をひょいひょい飛び上がってかわす。 
「ほらほらど―した?」 
「こ、こんな狭いところに入り込みおって・・・・・卑怯でござるっ!」 
シロは校舎や車に霊波刀が当たらないように霊波刀を伸縮させて振り回す。 横目に窓から見ている人影が何人もいる。 
「シロっ!? おまっ、何やっとるんじゃ!?」 
「先生・・・!?」 
中庭に入って来た横島達に、シロは着地して振り返る。 
「そのかっこ・・・」 
「えっへへ――。 大人っぽいでござるか?」 
「一般客を襲ってる妖怪ってのはお前のことか――――――っ!?」 
「えっ、違っ・・・・悪者はあっちでござる――っ!」 
シロは白髪頭を指差す。 スーツ姿のその男に、横島達は顔を見合わせる。 
「ふつ―の人ですね。」 
「うむ、確かに・・・」 
「これはど―みてもシロさんが悪役じゃのう・・・」 
「何をひそひそやってるでござるかっ、あいつがチャクラ・イーターでござるよっ!!」 
「そうなのか!?」 
横島は白髪頭と目が会う。 
「お前が横島か・・・・・後の奴には用はない、うせな。」 
「そうはいくか!」 
「ガッコの平和はわしら除霊委員が守るんじゃっ!」 
「うるさいガキどもだ・・・」 
白髪頭はポケットから笛を取り出す。 
「「「「ネクロマンサーの笛っ!!?」」」」 
「集え、迷える死者共よ・・・・!」 
ぴゅるるるるるっ どこからともなく集まる霊体に、横島達は身構える。 
「こ、これはネクロマンサー!?」 
「あ、でもこれならおキヌちゃんが襲われる心配はないかな・・・?」 
「んなこと言っとる場合じゃないですじゃっ!」 
「おわっと、そうだった・・・!」 
拳に霊波を溜めて霊体を殴りつけるタイガーに、横島も慌てて霊波刀を出す。 
「うわおおおおおおおおおおんっ!」 
身震いをして周りの霊を吹き飛ばし、シロは白髪頭に突っ込む。 
「肉弾戦なら・・・!」 
「甘い。」 
しゃがんだ白髪頭はアスファルトにお札を張り付ける。 
「怨っ!」 
ぼごっ 
『ばうわあああああっ!』 
アスファルトから岩の狼が飛び出し、シロに激突した。 
「だりゃ―――っ!」 
どかっ 拳でそれを砕くシロは、そのまま白髪頭に霊波刀を突きつける。 どかんっ 
「何っ?」 
巨大な霊波刀はすり抜け、校舎を貫いた。 
「まさか・・・幻術・・・?」 
「こ―いうことも出来るぜ。」 
「っ!!」 
「振り返ったシロは、目の前に文珠を突きつけられた。 
『爆』 
どかんっ 
「シロ―――っ!?」 
シロが吹っ飛び、横島は霊波刀を消し、両手に文珠を掴んで走った。 
「貴様―――っ!」 
横島が文珠を投げつけると同時に、白髪頭も文珠を放る。 
『爆』 
『爆』 
『壁』 
どががぁんっ! 
「ぐお――・・・・っ!」 
はね返された爆風で回りを飛び交っていた霊ごと吹き飛び、ごろごろ転がった横島は目を凝らす。 
「っ!?」 
シロの首根っこを掴んでいる白髪頭は、横島を見て笑った。 
「その手を離せ―――っ!」 
ばしゅっ 
「!?」 
シロが元の姿に戻り、ぶんと投げつけられたシロを横島はキャッチする。 
「シロ、生きてっか!?」 
「せ、先生・・・・あいつ・・・・・女神様を・・・・!」 
歯軋りするシロに、横島は男の髪がぶわっと長くなるのを見た。 
「ひい〜〜〜〜〜っ!」 
横島はシロを抱えたまま後ず去る。 
「せ、先生・・・・拙者もう駄目でござる。 せめて最後に拙者と・・」 
「ふざけんなっ! お前のあほな思いつきであいつが強くなってまったんやないかっ! 責任とれ――――っ!」 
「あい〜〜〜〜ん・・・っ!」 
「横島さんっ!」 
「横島さん、あいつは一体何者なんじゃっ!?」 
駆けつけるタイガーとピートは横島の前に立つ。 
「チャクラ・イーター・・・・・相手の霊能力を喰うんだとよ。」 
「そんな奴が・・・?」 
「タマモと犬の女神さんの力喰ってるからなぁ・・・・」 
「「何ですとっ!?」」 
「・・・・・俺の所為じゃないぞ?」 
「そんなの勝てるわけないでしょっ!?」 
「半分はこいつの所為じゃっ! こいつに言えこいつにっ!」 
「せ、拙者でござるかっ!?」 
横島が突き出すシロを、3人がずらっと囲んだ。 
「何てことしてくれたんですかシロさんっ!?」 
「責任とってくださいですじゃっ!!」 
「この散歩馬鹿っ!」 
「散歩は関係ないでござる――――っ!!」 
白髪頭は黙って手を振り上げる。 
「「「「っ!?」」」」 
身構える4人に、ぱちんっと指が鳴らされた。 ごばっ 
「うが――――――っ!!」 
「ピート!?」 
「ピートさんっ!」 
突然火達磨になって転がるピートに、横島は慌てて文珠を叩き付ける。 
『消』 
ぐったり倒れこむピートを横島が抱える。 
「おいっ、しっかりしろピートっ! お前が死んだらまだ占ってない女の子達に俺達がどんな目に合わされるか・・・・!!」 
「そうですじゃ――っ! わしらの立場を考えてから死んでくだされ―――っ!!」 
ぱちんっ ごばああっ 
「おんぎゃ――――――っ!!」 
「タ、タイガー・・・! ・・・・・・・お前は別にいっか。」 
「ひ、ひどい・・・」 
「助けてくださいよ横島さん――――っ!」 
「だ――っ、わかったっ! わかったからこっち来んな――っ!!」 
火達磨になって近寄ってくるタイガーに、横島は文珠で火を消した。 
「ぐふう・・・」 
「くそっ・・・・」 
倒れこむタイガーをなんとか抱え、横島は白髪頭をにらんだ。 
「安心しろ、殺しはしない。 だが・・・・・無駄な抵抗をすれば殺す。 死体からでも力はいただけるからな。」 
「冗談じゃね・・・・文珠を取られたら俺に一体何が残るっちゅうんじゃっ!!」 
「拙者が・・」 
「でえい寄りかかるなっ! 2人で乗員オーバーじゃっ!!」 
「あう〜〜・・・・」 
黒焦げのピートとタイガーを抱える横島はシロをしっしと足で払う。 
「久保健介は・・・」 
「!?」 
「俺がもう喰った。」  
「・・・・・なっ、何だとっ!? 嘘を言うな――――っ!」 
「よくやった白髪っ! これで先生は拙者だけの先生に・・・・!」 
「「・・・・」」 
「・・・な、なんでもないでござるよ。」 
横島と白髪頭にじと目で見られ、シロは尻尾を振って目を逸らす。 
「殺しちゃいないさ。 今はこの中だがな。」 
白髪頭はポケットから瓶を取り出して振る。 
「・・・・・」 
「ついでに狐も入ってる。」 
「っ!!?」 
「タマモもでござるか・・・・!?」 
「返してほしけりゃ・・・・・わかるな?」 
「くそっ・・・!」 
横島は腕をだらんと下げ、シロにピートとタイガーを押し付けて白髪頭に歩き出した。 
「せ、先生・・・・本気でござるか!?」 
「・・・・しょ―がねえだろ・・・!」 
「・・・・・そんなにタマモと健介が大事でござるか・・・!?」 
シロの言葉に、横島は足を止める。 
「あいつは・・・・・俺の弟みたいなもんなんだよっ! お前は黙ってろっ!」 
「じゃあタマモはっ!? タマモはなんなんでござるかっ!!」 
「うるせえっ! さっさとピート達病院連れてけっ!!」 
「・・・・・・」 
黙りこんでしまうシロに、横島は白髪頭の前まで歩いた。 
「さ、さっさと喰えよ・・・」 
「怯えるな。 殺しゃしない。」 
「ほ、ほん・・・がっ!」 
横島は顔をがしっと掴まれた。 ぶわっと光が手から溢れる。 
「横島君っ!!?」 
「横島さんっ!」 
中庭に入って来た美神、クロ、おキヌは足を止める。 
「あいつだ・・・・横島離れろ―――――っ!!」 
「くっ!」 
錫杖型の刀と神通棍を手に、クロと美神は突っ込んだ。 

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【次回予告】 
タマモ「そろそろしめるってさ。」 
美神 「は?」 
タマモ「だからしめよ、し・め。」 
おキヌ「もしかして、終わりってことタマモちゃんっ!?」 
タマモ「さあ・・・?」 
横島 「でも次回の話にも予告があるみたいだぞ・・・?」 
タマモ「アタシに言われても・・・」 
シロ 「ど―せ前回のようなひっかけでござろう?」 
タマモ「だから知らないってば。」 
美神 「まあ、ともかく次回予告をど―ぞタマモ。」 
タマモ「ん―。 次回、『学園祭ヘブン −殴る強さと心の強さ―』」 
美神 「お祭り騒ぎはとりあえず終わりみたいね。」  
横島 「お、俺の文珠はどうなるんじゃっ!?」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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