「み、美神さん・・・・っ!? 大丈夫ですかっ、その怪我は・・・・・!?」 
百合子はふらふら歩いてきた血だらけの美神を抱きとめた。 
「・・・・お母さん・・・・? あっ・・・ひのめっ!?」 
百合子が抱えているひのめを美神は腕から取り上げるようにして抱きしめた。 
「よかった・・・・よかった・・・・・!!」 
「さっきタマモさんが来て、この子を・・・・」 
「タマモがっ!?」 
美神は頭上を通過していく戦闘機の飛行機雲を見上げた。 空を数機の戦闘機が旋回している。 
「教会も思い切ったことしてくれる・・・・っ!! ひのめをお願いしますっ!!」 
「え、ええ・・・・けど・・・」 
美神はそっとひのめに顔を寄せ、汚れている頬を撫でてキスをした。 
「ごめんねひのめ・・・・お姉ちゃん、タマモを助けなきゃいけないから・・・・・行くね。」 
もう1度ひのめにキスをし、美神は百合子に頭を下げると、瓦礫と化した建物の遥か向こうに見える火の鳥に向かって走り出した。 


きつねレポート

 火鳥風月 −6番− 


どどしゅっ!! 戦闘機の翼から飛んだ赤い光は、白い尾を引いて鳥に直撃した。 どがんっ!! 弾け跳ぶ赤い羽根に、鳥の巨体が商店街を押しつぶして地に倒れこむ。 
「ちぃ、人間め・・・・・っ!!」 
爆風に上手く乗って鳥から距離をとったタマモは憎憎しげに空の戦闘機を睨んだ。 
『・・・・・おのれ・・・・』 
「!?」 
はっとしてタマモが無数の瓦礫や木片に埋まる鳥を見た時、空から無数のミサイルが再び鳥に叩きつけられた。 どんっ どどどどどんっ!!  
「――――っ!?」 
両手で顔の前をガードするタマモは目を凝らす。 と、ばふっと赤い空気が広がり瓦礫が吹き飛ばされた。 
『ぐわきゃおおおおおおおおっ!!』 
「つうううううう・・・・・!!」 
空に首を持ち上げ翼をざぶざぶ羽ばたかせる鳥から、赤い空気が空に、地上にと鳥を中心に円を描く様に広がった。 マンホールやら車が飛んでくるのをタマモは伏せてやり過ごす。 上空では戦闘機が空から離れていくが、ごうっと鳥が口から吐き出した霊波が1機の戦闘機を後から貫いた。 翼のもげたそれは燃えながら落下していく。 
「・・・・・神か・・・」 
すすだらけになった顔を擦り、タマモは瓦礫の上に立ち上がった。 所々で水やガスが噴出し、その度に何処からともなく爆発音が響いてくる。 
『・・・・・おのれ人間共め――――っ!!』 
鳥は空に向かって吼えた。 
「こいつ・・・こいつって・・・・・」 
空を仰ぎ、翼を高々と広げる鳥の巨大な姿に、タマモは言葉を詰まらせ立ち尽くした。  

「GS教会の命令っ!? どういうことですかっ!! 在日米軍に協力を依頼って・・・・・もしもしっ、もしもしっ!?」 
ヘリの中、インカムを掴んで怒鳴っていた美智恵だが、やがてそれをがつっと投げつけた。 
「世界GS教会が動いたんですか・・・・?」 
後から身を乗り出す西条に美智恵はシートに深く座り込んだ。 
「ええ・・・・地上に下りている今をチャンスとして、精霊石ミサイルでなんとか仕留めるって。」 
「そんな・・・・まだ避難だって徹底できてないはずなのに・・・・・そんなの僕は納得できませんっ!!」 
「私だってできないわよ・・・・っ!!」 
西条の言葉に美智恵も両膝を叩く。  
「・・・・・どうするんです。」 
「ミズ美神、進路を変更して帰還しろと通達がきていますっ!」 
パイロットの言葉に美智恵はぐっと目を閉じた。 
「先生・・・・っ!?」 
「・・・・おキヌちゃん、あなたは、どう思う・・・・?」 
美智恵の言葉に、後席で笛を握り、目を閉じて座っていたおキヌは静かに目を開いた。 
「私は、あの神様のところに行きます・・・・」 
「・・・・・了解よ。」 
じゃがっと拳銃を握った美智恵はパイロットに突きつけた。 
「進路はこのままで。 あなたに罪はないから安心して飛んでいいわよ?」 
「そ、そんな・・・・・死んだらどうしてくれるんですか!?」 
悲鳴を挙げるパイロットに美智恵はウインクする。 
「あら大丈夫よ。 まよってもちゃんと極楽に送ってあげるわ、安心なさい。」 

『しぎゃ―――――っ!!』 
空に向かってたて続けに吐き出される閃光に、戦闘機は火と煙を吹いて落下し、そしてその度に地を振るわせた。 
「ど―するんだあんなの・・・?」 
頭から血を流しながら近寄ってきた亜須磨に、タマモは何も言わず鳥を見続けた。 
「ぐっ・・・・ったく、なんでフェイの奴がお前に惚れてたのかさっぱりわからねえな・・・・」 
額を押さえても血が止まらず、亜須磨はべっとりと赤くなった手を舐める。 
「あいつ・・・・何で火の力を集めてるの・・・・?」 
タマモの呟きに、血を舐める亜須磨は舌を止めた。 ぶっと口の中のものを吐き出す。 
「・・・・情報だと、奴の子供が死にかかってるらしい・・・・中国からの情報ではっきりしないが、治しようはないって話だ。 よしんばお前達を子供に喰わせたって所詮は一時しのぎ・・・・・いつかは子供も死ぬし、その前にあの親鳥が先に毒でくたばるだろう。」 
「・・・・毒・・・人間の毒・・・・?」 
タマモの鳥を見つめる目が細くなった。 
「ああ・・・・・」 
相鎚を打ちながら、亜須磨は鳥を見上げるタマモの顔を後から見つめた。 
「・・・・お前と同じだな。」 
「・・・・・」 
「俺にはわかる・・・・・お前も毒を体に溜め込んでいる・・・・・お前の赤ん坊が死んだのも、半分はそれが原因じゃないのか・・・・?」 
「・・・・・」 
タマモの表情は変わらず、その目は鳥に真っ直ぐに向けられていた。 
「・・・・ま、余計なお世話だったな・・・・で、どうする気だ?」 
「・・・・・あいつはフェイを殺した・・・・・・・・アタシは・・・許さない・・・・!!」 
垂れ下がっていたタマモの後ろ髪が再び浮かび上がった。 
「・・・・こんな言い伝えがある。」 
「何・・・?」 
「九尾の狐は本当は白い毛並みであった・・・・」 
「・・・・白・・・?」 
タマモは亜須磨を振り返った。 
「真偽はわからん。 が、9つの尾が白くなりて全てをなぎ払った・・・・・と、聞いている。」 
「・・・・だから?」 
「お前はそ―いう力を嫌ってるらしいな。 そういうところはお前にとっていい面なんだろうと俺は思う。 が、今はお前の嫌いな力を使うときじゃねえのか・・・・?」 
「・・・・・」 
タマモは鳥に目を戻した。 上空に戦闘機はもはやいない。 
「あんた、名前は・・・・?」 
「亜須磨。」 
「亜須磨か・・・・・フェイとは長いの・・・?」 
「半年くらいかな・・・・? それがどうした?」 
「別に・・・・人間嫌いのあいつが、よくあんたなんかとつるんでるなと感心したのよ。」 
「多分、『お前に言われたくない』って、あいつは言うだろうな。」 
笑う亜須磨に、タマモも笑った。  
「ね・・・・あんた・・・・医者って言ったわよね・・・・?」 
「・・・・・言うな、お前の知りたがってることに、俺はいい返事をしてやれない。」 
「・・・・そう。」 
タマモはうつむき、お腹を右手で押さえる。 
「!? 来るぞっ!」 
「!!」 
亜須磨の言葉にタマモは顔を上げる。 鳥が羽ばたき、瓦礫を吹き飛ばして飛んできた。 
「!? あんた何してるの逃げなさいっ!!」 
タマモは亜須磨を突き飛ばそうとするが、その手をかわして亜須磨をタマモのお腹に手を当てた。 すっと淡い光が溢れ、それがタマモを包み込む。 
「ヒーリングっ!?」 
「フェイの為にも・・・・なんとしても生き延びろ。」 
「亜須・・」 
ぶわんっ!! 亜須磨の両手からリング状の霊波が溢れ、それがタマモを遥か上空に一瞬で吹き飛ばした。 タマモの視界の亜須磨はあっという間に小さくなり、そこに巨大な火の鳥と炎が地を埋め尽くしていく。  
「亜須磨〜〜〜〜〜〜っ!!」 
叫ぶタマモを目に捉えた火の鳥は、ばぐっと地を翼で叩いて飛び上がってきた。 
「くっ・・・・・くうぉぉぉおおおおお―――――っ!!」 
両手を両足、そして9つの髪の束を広げ、タマモは吼えた。  
『しゃああああああっ!!』 
ばぐっ! 火の鳥は一息にタマモを飲み込んだ。 が、次の瞬間、鳥の背中から金色の長い『うね』が数本突き出てきた。 
『ぎゃぐわぁ・・・!?』 
どどんっと地を震撼させて落ちた鳥から、金色の狐が背中を食い破って外に飛び出た。 長い尾は数十メートルはあり、優に鳥の全長よりも長い。 
「お前はぁ――――っ!!」 
牙をむいて狐は鳥の燃え盛る翼の付け根に喰らいついた。 金色の毛並みが炎でじょじょに焼け始める。 
『くわおおおおおおっ!!』 
転がる巨体に、小さな狐は何度も瓦礫と巨体との間に潰された。 が、その長い尾が鳥の翼や首に巻きつき狐が鳥から離れることはなかった。 
『お前は・・・・大人しく離れろっ!!』 
「!?」 
ぶちっと肉が千切れ、タマモの体は転げる鳥から離れた、巻きついていた9つの長い尾も離れ、狐はばっと火の鳥から飛び退く。 
『!!』 
地に狐の足が着いた瞬間、ぐばっと鳥の口から霊波が飛んだ。 霊波に貫かれる狐の体は小さな光りの粒になって四散する。 
『なに・・・・っ!?』 
どしゅっ!! 背後より3すじの金色の尾が鳥の左翼を貫く。 
『・・・・・おのれ!!』 
翼を振り回し、火の鳥は炎と共に狐を地に叩き付けた。 どがががん・・・・!! 翼から尾が抜け、転がる狐に鳥が覆い被さる。 
「―――っ!!」 
渦巻く炎を口から吐く狐だが、鳥はそれを体に当てながらも狐を押しつぶした。 ずずんっ! 
「タマモっ!?」 
鳥より数百メートル離れた位置まで来た美神は、金色のいくつもの長い尾が鳥の巨体の下敷きになるのを見た。 背負うバッグを地に下ろし、美神は取り出した中身を組み立てはじめる。 長い銃身のライフルにスコープをつけると、美神はポケットから精霊石を取り出してそれを銃に装填する。 がしゃっ! 
『くわおおおおおおおっ!!』 
地に嘴を突き立てる火の鳥に向かってしゃがみ、美神は銃口を鳥に向ける。 スコープ越しに鳥の頭に狙いを定める。 
「こいつでなんとか極楽に・・・・・・いってちょうだいっ!!」 
どんっ!! 跳ね上がる銃から青い閃光が伸びた。 鳥がその光を目にした次の瞬間、鳥に命中した精霊石が弾ける。 ばちばちぃ・・・!! 
『ぐぁっぎゃ―――っ!?』 
「効いたっ!?」 
素早く次の精霊石を銃に込めながら、美神はライフルを持って走り出した。 放電する霊波に倒れこむ鳥に、狐は瓦礫を尾で押し払って地から飛び出る。 
(この霊波・・・・美神さん・・・!?) 
起き上がろうとする鳥の頭を尾で殴り飛ばし、狐はくるっと回転するように跳んで美神の傍に着地した。 
「タマモ!?」 
「何やってんのよさっさと逃げなさいっ!!」 
「ちょうどいいわ、もうちょっと大きくなりなさいっ!!」 
自分の上に跨る美神に何か言おうとし、狐のタマモは鳥が起き上がるのを見て素早く体を2回りほど大きくする。  
『狐――――――っ!!』 
ばふっと羽ばたき飛んでくる鳥に、馬ほどの大きさになった狐は美神を背に走り出した。 美神は体を前傾にして毛皮にしがみ付く。 
「そんなちゃちなライフルじゃ無理だっ!!」 
「わかってる、こいつは時間稼ぎよ・・・っ!!」 
ライフルを背負い、美神は無線を取り出した。 
「こちらフォックス、作戦開始っ!」 
「何っ!? 作戦って何!?」 
ビル街の隙間に飛び込む狐は、頭上を瓦礫を降らせて通り過ぎる鳥を見上げると進路を右にひねって走り続ける。 
「世界GS教会を言いくるめたのよ。 でもって仕事として家が請け負ったってわけ。 今更どれだけ町をぶっ壊してもかわんないし、派手に行くわよ・・・・っ!!」 
「・・・・・・」 
「・・・・・・」 
走り続ける狐に、美神はしがみ付く狐の毛皮に顔を埋めた。   
「・・・・私には・・・・相談してくれてもよかったんじゃないの・・・・・?」 
「・・・・・・」 
ばっと身をひねる狐は、落ちてくる炎を跳んでかわす。 
「・・・・・あの2人は?」 
「死んだ。」 
「・・・・そう。」 
背後から迫る鳥の炎に、狐は地下鉄の階段を駆け下りる。 続いてがごんっと鳥の首が突っ込んでくるが、嘴は狐の尾を掠めるだけで届かない。 
「さっさとあの鳥野郎を片付けて、しばらく海外に休暇としゃれ込まない?」 
耳を掴んでくる美神に狐は笑った。 
「・・・・いいわよ、少しくらいつきあってあげるわ。」 
「よっしゃ、そ―と決まればきりきり働くわよ・・・・っ!!」 
暗い地下鉄道を走り抜け、狐は駅から階段を駆け上がって外に跳び出る。  
「「!!」」 
目の前に待ち伏せていた鳥の開かれる巨大な嘴に、美神はライフルを掴む。 どんっ ばじゃじ・・・・っ!! 
『ぎょわあぁぁぁ・・・・!!』 
霊波に放電する巨体の下を潜りぬけ、狐はしがみ付く美神をのせて走り抜けた。 地に落ちる鳥から狐が離れると、轟音と共に空から2機の戦闘機が滑空してきた。 翼から放たれた光が鳥の背中に叩き込まれる。 どががんっ!! 

「急いでくださいっ! このトラックもそろそろ出発しますっ!!」 
自衛隊のトラックが避難民となった人々を乗せている中、ひのめを抱える百合子の元に横島をおんぶして走ってきたシロが着地した。  
「母さんっ!」 
「お母様っ!!」 
「忠夫・・・・・チロちゃんも!!」 
百合子は2人に駆け寄った。 
「ご無事でなによりでござるっ!」 
「あなた達も・・・・忠夫、美神さんには会ったのかい!?」 
「いや、それが事務所にいなくて・・・・それよりなんで母さんがひのめちゃんを・・・・?」 
横島は百合子の腕の中で眠っているひのめを覗き込む。 
「ちょっと頼まれて・・・・・忠夫、美神さん、あの鳥を除霊しようとしてるんじゃないのかい?」 
「ま、まじか・・・?」 
「そんな・・・・拙者達何も聞いてないでござるよ・・・っ!」 
シロと横島は顔を見合わせる。 
「そこのあんたら! 早く乗ってくれ!」 
隊員が百合子達に声をかける。 
「先生、どうするでござる・・・・?」 
「どうって・・・・・どうしようお袋・・・?」 
「自分で考えなさいっ!! GSなんでしょあんたはっ!?」 

「結界・・・・!?」 
「そ!! 直径10キロの巨大魔法陣内にありったけの火薬と破魔札と精霊石をぶち込んで吹っ飛ばすっ!!」 
走る狐の背中で神通棍に霊波を注ぎ込む美神は、口元の前で印を結ぶ。 
「果て無き手向けとなりし礎に、汝を賭してその柱となれ・・・・っ!!」 
ばしっ 神通棍が赤く発光し、美神は右手のそれを逆手に持ち変える。 
「タマモ、もう少し右へ!」 
「了解!」 
走りつつ右によるタマモは倒壊する建物や電柱を跳び越える。 美神はアスファルトに赤い神通棍を突き刺した。 
「後1本っ! 急いで、そろそろ空からのミサイル支援がなくなるわ!!」 
美神は遥か左側で爆発の中空を仰いで唸る鳥を睨み、肩から下げる無線を掴む。  
「コントロール、着弾が西に流れすぎよ!! まだ避難してない人もいるんだからもう少しなんとかしなさいっ!!」 
どがんっ!! 
「!?」 
空が真っ赤に染まり、火を噴く戦闘機が狐と美神の方に落下してきた。 
「げっ!?」 
「掴まって・・・っ!!」 
4つ足を深く曲げた狐は跳び上がると同時に長い9つの尾でも地を叩いた。 とっさに狐の毛皮にしがみ付く美神の手から無線が落ちる。 一気に前に飛び跳ねた狐の背後で戦闘機が民家をぶち抜いた。 どずがががががん・・・・・・!! 
「あっ・・・・くっそ〜・・・!!」 
空いた戦闘機が全て落とされ、美神と狐は火の鳥がこちらに首を向けたのを見た。 ざざっと地に足を擦らせて止まると背中から美神を振り落とす。 
「タマモ!?」 
「引き付けるっ! そっちは準備をっ!!」 
転がる美神は走り去る狐のお尻の尻尾に向かって怒鳴る。 
「結界から離さないで!! 死ぬんじゃないわよ・・・・っ!!」 
背負っていたライフルを左手に美神は走り出した。 落とした無線を引っ掴む。 
「作戦は第二段階へ移行っ!! ありったけの『ぶつ』を放り込んで!!」 
と、美神の視界に狐の走っていったほうの地に頭から突っ込む火の鳥の姿が入ってきた。 地響きに美神は前のめりに倒れこむ。 
「くそ・・・・!!」 
『狐―――――っ!!』 
「―――――っ!!」 
巨大な嘴に長い金色の尾が2本引き千切られる。 狐はふたの無くなったマンホールに飛び込むが、鳥は嘴を突っ込んで穴を砕く。 ずががんっ! 下水道を走り、素早く別の穴から外に飛び出た狐は、頭を水の噴出す大地に突き刺している鳥の首にがうっと炎を吐き出した。 が、それは鳥の体から発する炎に弾かれる。 
「ちっ!」 
首を振り、道路をえぐって頭を出した鳥は半壊するアパートの屋上で長い尾を揺らす狐に目を細める。 
『・・・・・貴様をわしの娘の餌にしてくれる―――――っ!!』 
「―――娘・・・っ!?」 
足の動くのが僅かに遅れた狐は、突き出される巨大な嘴に飛び退くのが遅れる。 がずんっ 
「―――――っ!!」 
また尾が1つ千切れ、飛び散る瓦礫の破片をぶつけられながら狐は転がった。 鳥は咥えるその尾を天を仰いで飲み込む。 
『おおお・・・・・この力・・・・この力だ・・・・っ!! 若く命の炎に溢れるこの力・・・・お前だ、お前を食わせれば娘は助かる・・・・・っ!!』 
「・・・・む・・すめ・・・・?」 
震える関節で体を持ち上げる狐は、血で右目を閉じながらも鳥を見上げた。 
「あんたの娘は・・・・・まだ生きているの・・・・?」 
『そうさっ! お前を喰って、わしの代わりに永遠に生き続ける――――っ!!』 
(アタシを食べれば・・・・? でも、アタシの体だって、もう・・・・)  
ぐわっと迫る嘴に狐は目を閉じる。 
(けど・・・・あんたは・・・・) 
「あんたはフェイを殺したんだ――――――っ!!」 
目を見開いた時、タマモは狐から人型に化けていた。 地をえぐる嘴を避け、ビルの壁に足をつけて鳥に飛び掛るとその頭を殴り飛ばした。 
『ぎょが・・・っ!?』 
沈む鳥の体が電線を引き千切る。 ざわっと髪を逆立てるタマモは、千切れた髪の束を再び数十メートルにまで伸ばす。 
『おのれ狐め・・・・・っ!!』 
瓦礫をおしのけて鳥は巨体を持ち上げる。 タマモは9つの髪を全て空に向かって突き伸ばした。 手足を伸ばし、ぐっと体を振るわせる。 
「・・・・・・・・全っ開っ!!」 
『狐が―――っ!!』 
開かれた嘴から巨大な炎の渦が連射される。 空に跳び上がってかわしたタマモは、宙でくるっと回って右手を伸ばす。 
「来いっ、アタシの銃っ!!」 
開かれる手のひらに地上から光が飛んできた。 がしっとそれを握ったタマモは銀色のそれを鳥に向ける。 
「あいつを撃ち抜く・・・っ!! 大気よ、大地よ、命あるもの全てよ、アタシに力よ集まれ・・・・っ!!」 
9つの髪がタマモを中心に放射状に広がった。 その髪に細かな光りの粒子が集まる。 
『この土地の精気を集めるだと・・・・・? こいつ、ただの狐じゃないのか・・・・!? ならば・・・・・っ!!』 
ばぐっと地を叩き、鳥は空に舞い上がる。 
『ならばなおの事、貴様を喰えば娘は助かるというものだ―――――っ!!』 
飛び上がってくる鳥に、タマモは両手を真っ直ぐ伸ばして銃を構える。 
『娘の為に喰われよ――――っ!!』 
「!!」 
タマモの目は大きく開いて鳥を見ていた。  
(土地神・・・・・娘・・・・・命・・・・・フェイ・・・・命・・・・人間・・・・・毒・・・・・命・・・・アタシは・・・) 
「シュートぉ・・・・っ!!!」 
どっごおおおぉぉぉんん・・・・・・っ!! 銃身が弾け飛び、閃光が鳥の左眼から後頭部、翼を貫く。 が、それでも鳥の勢いは揺るぐ事は無かった。 バランスを崩しているタマモを嘴の先端が引き裂く。 
「ぢぃ・・・!」 
『!?』 
身をひねって回転したタマモは、右腕のなくなった肩口から血を噴出しながらも鳥の翼に体を打ちつける。 地に落下したタマモは素早く起き上がる。 どくんっ! 
「!? ごふっ・・・・!!」 
口を押さえるタマモは吐血を地に零しながら膝を落とした。 
(呪いの反動・・・・銃が壊れたから・・・・!?) 
「ぐっ、がはがはぁ・・・・!!」 
むせこむタマモの体は黒い影に覆われた。 タマモが顔を挙げた時には、既に鳥が嘴を広げてタマモを地面ごと頭から飲み込んでいた。 
『くっ・・・・・狐が手間をかけさせおって・・・・』 
体を起こす鳥は左眼と頭から血をぼたぼた流す。 
『・・・・もう1つ・・・・もう1つの火の力は・・・・!? まだ死ねん・・・・・わしの命尽きようとも、娘だけは・・・・!!』 
ぐばっと翼を持ち上げ、鳥は地を蹴って飛び上がる。 
「!?」 
赤い霊波を放つ神通棍を地に付きたてた美神は、頭上を飛んでいく鳥に髪を振り回された。 
「あいつ、どこに・・・・ っ!? ひのめっ!? タマモっ・・・・やられたの・・・・・っ!!?」
ライフルを握りなおし、美神は鳥を追って走り出した。 

「ったく情けない息子を持ってわたしゃ恥ずかしいよ・・・・・」 
走る数台のトラックの荷台に揺られながら、ひのめを抱える百合子は目線を逸らしている横島を睨んだ。 
「う、うるせ―な―・・・・・GSは巨大怪獣は管轄外なんじゃっ!!」 
「ったく弟子持ちなんて偉そうな事言っておいて・・・・」 
「だ―からそれはこいつが勝手に言ってるだけだっ!!」 
横島は空を見上げているシロを小突く。 
「ん? ど―したシロ?」 
「せ、先生っ・・・・あ、あれ・・・!!」 
「んあ?」 
シロの指差す先を見上げた横島は、空を真っ赤に焼いて迫る巨大な火の鳥を眼にした。 
「な、なにぃ〜〜〜〜っ!!?」 
「火の鳥でござる〜〜〜〜っ!!!」 
「ぎゃ―――っ!!!」 
パニックになるトラックの人々を陰で覆い、火の鳥はその巨体でトラックの中に頭から突っ込んだ。 ずががんっ!! 

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【次回予告】 
横島 「ああ――・・・・ついに俺達も巻き込まれちまったぞシロっ!」 
シロ 「あお―んっ、先生!! 拙者いつまでも先生のお傍に〜〜〜っ!!」 
美神 「あほなことやっとる場合かっ!!」 
おキヌ「わ、私は現場が遠いです〜〜!!」 
シロ 「こうなったら今度こそ拙者と先生の愛の力で・・・・っ!!」 
横島 「美神さ〜〜んっ、こ―なったら死ぬ前にせめてその胸で〜〜〜っ!!」 
美神 「くだらないこと言ってないで死ぬ気でひのめを守らんかいっ!!」 
おキヌ「へえ〜〜ん、私の活躍の場残しといてください〜〜〜〜っ!!」 
シロ 「次回、『火鳥風月 −7番−』」 
おキヌ「美神さん、タマモちゃんの銃が・・・・っ!!」 
美神 「鳥が結界から遠くなる・・・・ど――すんのよタマモ・・・っ!!」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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