GS美神 ひかり

第十二話   心


PM07:01 白井総合病院 

「・・・・何してるの? シロちゃん。」 
「・・・・小鳩殿、これは・・・・何だ・・・!?」 
シロは手にしていたカルテを小鳩に突きつける。 
「・・・・・」 
小鳩は黙って静かに戸を閉めると、自分のいすに座った。 
「どういうことでござる、これが本物なら・・・・!」 
「・・・・・」 
「答えろ!」 
どんっ! シロは小鳩の胸倉を掴むと、そのまま壁に押し付けた。 思わず顔をしかめるも、小鳩は黙ってシロの瞳を見つめ返した。 
「・・・・・・そういうことか!」 
小鳩を離すと、シロはドアを蹴破って走り去った。 残された小鳩はのどを押さえながらゆっくり立ち上がると、受話器を手にとった。 
「はあっ・・・・・まずいわよね、やっぱり。」 

PM07:10 六道邸客室 

「ふう・・・・ご馳走様、冥那ちゃん。」 
「ん、同じく。」 
ティーカップ置いたヒカリとタマモは揃って手を合わせた。 
「おいしかったわ、ほんと。」 
「よかった〜、またいつでも来てね〜。」 
向かいのソファーに座っていた冥那はうれしそうに微笑んだ。 
ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリ・・・
「ちょっと失礼。」 
タマモは携帯を持ってソファーから離れた。 
「はいどちら様? ああ、小鳩・・・・・・ふんふん・・・・・・・・ん、わかった。 いいよ、気にしなくて、全部処分して。 ・・・・・・・大丈夫だって、じゃあ。」 
ピッ 
「ヒカリ。」 
「うん、じゃあ冥那ちゃん、私達行くね。」 
「本当に気をつけてね〜、もう怪我しちゃ駄目よ〜〜。」 
「ありがとう。」 
冥那に手を振り、客間を出たヒカリとタマモは足早に玄関へ向かった。 
「どうも馬鹿犬にばれた臭いわよ。」
「げっ。」 
「あの馬鹿、小鳩の部屋を荒らしてカルテを見ちゃったらしいわ。」 
「武士のくせに盗人ですか。」 
「あんなの口だけよ。」 
「ICPOにもうばれたかな?」 
「さあね、とりあえず小鳩に全部処分するように言っといたけど・・・」 
「先生を探すべきか・・・」 
「どうかしら、あいつの性格からして真っ直ぐこっちに確かめに来るとしたら・・・」 
「・・・・・」 
見送りのメイドに適当にお辞儀をして外に出ると、ヒカリはAX−1にキーを差し込んだ。 
「しかたないわ、先生を何とか黙らせるしかない。」 
「余計な仕事が増えたわね、最悪どっかに閉じ込めるかしないと。」 
きしゅるるるるっ、ぶわんっ・・・・ 2人乗りのAX−1は夕日に光りながら広い敷地内を門に向かって走り出した。 
「どうする!?」 
「どこかに先生を誘き出す! その後は・・・」 
「はいはい、アタシが押さえとくわ!」 
「よろしく!」 

PM09:13 外務大臣宅 

「・・・・桜井。」 
「はい。」 
ノートパソコンにデータを打ち込んでいた桜井はピートに顔を向けた。 
「・・・・撤収する、機材を片付けるんだ。」 
「え、だって・・・」 
「聞こえなかったのか? 撤収だ、都庁の警備に戻るんだ。」 
「何でですか、ピートさんの・・・・・」 
立ち上がった桜井はピートの顔に言葉を詰まらせた。 
「・・・・・ピートさん。」 
「桜井、僕は今から別行動を取る、きみは本部に戻ってあとは西条さんの指示に従ってくれ。」 
「・・・・1人で行くんですね。」 
「隊長に聞かれたら、事実をそのまま話せばいい。」 
玄関に向かうピートの背に桜井は声をかけた。 
「教えてください、これは、シーラムなんですか・・・?」 
「・・・・・」 
振り返ったピートは困った様に軽く笑うと、そのまま出て行った。 

7月29日(調印式当日) AM00:32 茨城県鹿島浦(国道51号線大洗町付近) 

「・・・・来たわね。」 
タマモの言葉にミラーに目をやると、白バイが赤いランプを回しながらサイレンを鳴らして追いかけてきた。 
「これまでかな。」 
「そうね、止まるしかないわ。」 
ヒカリはAX−1を道路脇に寄せ、停車した。 白バイが後に止まり、シロがヘルメットとサングラスを外した。 
「ヒカリ、話がある。」 
「・・・・・」 
ヒカリに歩み寄ろうとするシロの前に、タマモが割って入った。 
「どけ、タマモ。」 
「い、や。」 
「・・・・ヒカリ、お主アリマトで切られたのか!?」 
「・・・・・」 
「そうなんだな!?」 
「・・・・・」 
「ヒカリ、もういいから行きなさい。」 
「!?」 
「うん、あとよろしく。」 
「おい!」 
きしゅるるっ タマモを押しのけようとするシロだが、タマモに腕を掴まれた。 
「タマモ貴様っ・・・ヒカリ! おい―!」 
ぎゅわんっ 反転して走り去ったヒカリのバイクの光が見えなくなると、タマモはシロの腕を離した。 
「・・・・どういうつもりだ!?」 
「何が?」 
「何がって・・・・いや、いい。 お前達が受けた依頼とやら、やはりアリマトのことだったでござるな!」 
「さあ、何のことかしら?」 
「ふざけるな!」 
シロの右手がタマモの首を掴んだ。 爪が首に食い込む。 
「お前がついていながら、何でヒカリはあんな傷を負ったんだ!?」 
「は、自分は好き放題ぶらぶらしに行ったくせに・・・」 
「黙れ!」 
「どっちが!」 
タマモは両手をシロの腹にかざして霊圧を放った。 どこっ 
「くっ!」 
衝撃で吹き飛ばされたシロは白バイに激突した。 がしゃん 横転した白バイに手をついて立ち上がったシロは、タマモに対して鞘に収めたままの八房を突きつけた。 
「お前と遊ぶつもりはない! ヒカリを隊長の前に連れて行く!」 
「なるほど、証拠が要るって訳ね。」 
首をさすりながらタマモは睨み返した。 
「どけ、お前にこれを使いたくはない!」 
「あんたにあいつの何がわかる!」 
「何!?」 
「なりたくもないGSになって、それでもやり遂げようとしてるヒカリの気持ちが、あんたにわかるの!?」 
「拙者はヒカリの師匠だ! ヒカリがGSになった気持ちぐらいわかってる!」 
「自惚れるな! あんたは横島が死んで、やり場のなくなったものをヒカリに押し付けただけだ!」 
「違う!」 
「違わない!」 
「お前こそ! ヒカリを守りきれなかった言い訳をするな!」 
「あんたのそういう考え方が、ヒカリの重荷になってるのがわかんないの!?」 
「・・・・・」 
「・・・・・」 
「お前とは1度はっきりさせんとな。」 
「アタシに勝てると思ってんの?」 
シロは八房をベルトに差し込むと、居合にかまえた。 
「調子に乗るなよ、この腐れ狐・・・!」 
すっと腰が低くなる。 
「馬鹿は死ななきゃ治らないわね・・・」 
ぐっと力を込めた右手から爪が伸びた。 
「・・・・行くぞ。」 
「さっさとしなさい、アンタに構ってやる時間はない。」 
「狐が!」 
シロの抜き放った刀から、いくつもの斬撃がタマモに迫った。 

AM00:44 某廃墟(旧小笠原エミGSオフィス) 

どかっ ドアを蹴り飛ばしたピートは拳銃をかまえて中に跳び込んだ。 
「動くな! ICPOだ!」 
魔法陣の中央に立つ黒いショートカットの人影に銃口を向ける。 後姿の人影は、ゆっくり両手を挙げると体をピートに向けた。 
「久しぶりね、ピート。」 
「・・・・・エミさん。」 

AM00:51 都庁下日本GS協会本部第1作戦司令室 

「犬塚さんまだ戻ってないんですか?」 
「ええ、連絡もないわ。 彼女のことだから大丈夫とは思うけど。」 
「そう、ですね・・・」 
美智恵は桜井に目を向けた。 
「それよりピート君のことだけど・・」 
「は、はい。」 
「はっきり言って命令違反よ、本来なら今すぐ探し出すところですが、今は無理です。 あなたはこのまま西条君の指揮下に入ってもらうわ。 ピート君の処罰は後日改めて行います。」 
「し、しかしピートさんは・・」 
「黙りなさい。」 
美智恵はいすを回して体を元の向きに戻すと、眼鏡をかけた。 
「早く現場に向かいなさい。」 
「・・・・はっ。」 
敬礼をした桜井はくるりと背を向けた。 

AM00:55 某廃墟内(旧小笠原エミGSオフィス) 

「・・・・・やはりあなただったんですね・・・」 
「さすがね、私とわかるなんて。」 
「・・・・・・何でですか、エミさん。 4年もいなくなって、いきなりこんなことするなんて・・・」 
2人は体勢を崩さずにいた。 
「・・・・すっかり警察が板についたわね、似合ってるわ。」 
「茶化さないで下さい!」 
ピートは1歩足を踏み出す。 
「誰に頼まれたんですか・・・?」 
エミは黙って瞳を細めた。 
「シーラムですか・・・・どうなんです!?」 
また1歩、ピートは前に踏み出す。 
「・・・・撃ちなさい。」 
「!?」 
「私は自分の意志でやってるワケ、あなたが何を言っても、私はやめないわ。」 
両手を下ろすエミに、下がりかけていた銃口を再びかまえる。 
「動かないでください!」 
「・・・・・」 
魔法陣の中央に横たわる人をかたどった人形にエミはかがんで手をかざす。 
「やめてください!」 
ばちっ 
「な・・・!?」 
近づこうとしたピートは魔法陣の見えない壁にさえぎられた。 
「エミさん!」 

AM01:33 東京都内某所(歩道橋上) 

ミリアは反対側から歩いてくるテノマールに気付いた。 中央で向かい合った2人はどちらからともなく手すりにもたれかかった。 
「行くのか?」 
「ああ。」 
手すりを背にしていたテノマールは月を見ながら口を開いた。 
「お前はどうするんだ?」 
手すりに腕をついていたミリアは街灯を眺めながら聞いた。 
「俺は・・・・行かない。」 
「・・・そうか。」 
「一緒に来ないか?」 
「ふっ、馬鹿。 遅いんだよ、誘うのが。」 
「ミリア。」 
「私はフリノと行く、お前の面倒はもう見切れん。」 
ミリアは歩き出した。 
「俺は・・・! 俺はもうこんなやり方は・・・!」  
「それでいい。 お前の思うようにやれ。」 
ミリアは振り向かずに歩き続ける。 
「姉さん!」 
階段についたミリアは最後にテノマールに顔を向けた。 
「私とお前は赤の他人だ、いいかげん私を頼るな。」 
やさしく笑ったミリアはそのまま歩き去った。 

AM01:46 某廃墟内(旧小笠原エミGSオフィス) 

人形にラインを引き、札を当てて呪文を口ずさむ、そんなエミの後姿を眺めながらピートは壁にもたれて座っていた。 右手に拳銃を持ったままで。 
「・・・・・・」 
やせたな・・・ 
「エミさん・・・」 
「・・・・・」 
ピートは座ったままエミの背中に声をかけた。 
「覚えていますか・・・・一緒に仕事をしていた頃のこと・・・・」 
「・・・・・」 
「タイガーがアメリカに戻って、それからでしたよね・・・」 
「・・・・・」 
「いろいろありましたよね・・・・時々美神さん達と依頼がぶつかったり・・・・」 
「・・・・・」  
「そうそう覚えてます? 横島さんが皆の呪いを全部押し付けられたこと。 横島さん3日も走って逃げてましたよね・・・」 
「・・・・・」 
「あの頃が一番楽しかったなあ・・・・」 
「・・・・・」 
「・・・僕は・・・・」 
「・・・・・」 
「あの時間がずっと続けばいいって思ってました。」 
「・・・・・」 
「・・・でも僕は・・・・あなたにずっと言えなかった・・・」 
「・・・・・」 
「あなたがいつもそばにいるからと、それでいいと思ってました・・・」 
「・・・・・」 
「エミさん・・・僕は・・」 
「やめて。」 
エミは立ち上がった。 ピートの視線がそれを追う。 
「・・・僕は・・」 
「あなたがその先を言っても、私はやめるつもりはないわ。」 
「そんなつもりじゃありません。」 
「だったら・・・!」 
振り返ったエミは涙を流していた。 
「だったら何なワケ!?」 
ピートも立ち上がり、魔法陣の近くに歩み寄った。 
「あなたに戻って来て欲しいんです。」 
「・・・・もう遅いわ。」 
再びエミは背を向ける。 
「エミさん!」 
「・・・・・好きなんでしょう? ヒカリのこと・・・」 
「それは・・・」 

AM01:52 茨城、千葉、県境付近 

「・・・・・眠い」 
アクセルを握る手で思わずヘルメット越しに口を押さえたヒカリは、変わりそうになる信号にスピードを上げた。 

AM02:08 某廃墟内(旧小笠原エミGSオフィス) 

「知ってる・・・?」 
「・・・なんです?」 
「ザンス国内がどうなのか・・・」 
「何度か視察に行きました。」 
「そんなあまいものじゃないわ。」 
「・・・・・」 
「別に殺すつもりはないわ、ただちょっと日本側の条件をいじるつもりだったワケ。」 
「・・・・知ってます。 何度も見たことがありましたから・・・・」 
「本当ならウェイが頼み込みに行くはずだったんだけどね・・・」 
「ウェイ・・・・ウェイド皇太子が・・・・・?」 
「私にできるのはこれしかないワケ。」 
かがんだエミはバックから拳銃を出してかまえた。 
「!?」
ピートも再び銃口をエミに向けた。 
「邪魔をするなら・・・・・おたくを撃つ。」 
「・・・・・僕は。」 
「さよならピート。」 
「エミさん!」 
があんっ 

AM03:21 茨城県大洗町内 

どかかかかっ 民家の屋根瓦が踏み砕かれ、破片が飛び散った。 並行するように屋根の上を走っていたシロとタマモは、屋根の端まで走りきると互いに距離をとるように飛び上がった。 
「だあっ!」 
上段に振り落とされたシロの刀から8つの斬撃がタマモに放たれた。 左腕で弧を描くように炎を繰り出したタマモは、直撃する前にそれをなぎ払った。 外れた剣圧が周りの建物やアンテナを切り砕いた。 その1つがタマモの左足のふくらはぎをかすめ、血が飛び散った。 
「ちっ・・・」 
地面に着地したタマモは、まだ地に足の着いてないシロに向かって3つの火球を投げつけると自分もシロに突っ込んだ。 
「狐火!?」 
シロは着地と同時に立ち上がりながら八房を切り上げ、火球を切り裂く。 
「こんなもので・・・!?」 
切り裂いた炎の後から爪を振りかざしたタマモが視界に入った。 
「拙者をやれると思うな!」 
タマモの爪より早く、シロの八房が振り下ろされた。 がっ 切り裂いたタマモに手応えはなく、八房はアスファルトに食い込んだ。 
「幻術!?」 
「当り。」 
背後の声に振り返る間もなく背中に強い蹴りを喰らったシロは電話ボックスに突っ込んだ。 がしゃんっ!  
「喰らえっ!」 
間髪いれずに巨大な火球を両手で投げつける。 ごおおおんっ 辺りが1面明るくなり、炎が天に立ち上った。電話ボックスは溶け、周りのちぎれた電線が火花を飛ばしながら行き場を失って跳ね回った。  
「うおおおおおおんっ!」 
「!?」 
夜の街に狼の声が木霊した。 タマモは炎の中に目を凝らしながらかまえる。 炎の中から跳び出したシロは自分の体に炎をつけたままタマモに切りかかった。 

AM04:55 都庁内調印式展会場 

「エイムズ。」 
ザンスSPと打合わせをしているエイムズに西条が歩み寄った。 
「西条か、仮眠はすんだのか?」 
「まあな。」
「結界は順調そうだな。」
「ああ、四方に2台ずつ、ヘリポートに1台ずつ、精霊獣自体の侵入はまず不可能だ。 それより悪い知らせだ。」 
「聞きたくないけど聞くか、で?」 
「ピート君とシロ君が戻らない。」
「何かあったのか!?」 
「わからん、だがピート君はどうも自分の意思で消えたらしい。」 
「・・・・よくわからん。」 
「僕もだ、例の呪いの結界が破られたことと関係があるらしいが・・・・彼らしくない。」 
「シロ君は?」 
「連絡がつかないんだ、携帯もないし。」 
「戦力ダウンか・・・あの2人はキャラット様の護衛なんだぞ?」 
「すまない、僕の責任だ。」 
「気にするな、と言いたいが、はっきり言って困ったな。」 
「そうだよな。」 
「こっちの精霊獣は女王陛下のも含めて5鬼しか残ってない。 侵入された時の対人戦ではあの2人が頼りなんだが・・・」 
「何とかシロ君だけでも戻って来てくれるようにしたいが・・」 
「今からじゃ手もつけれんだろう、しょうがない・・・」 
「内部の方はどうする?」 
「僕は外の指揮もある、こっちのSPを2人中に入れるよ。」 
「しかし外の精霊獣が2鬼になってしまっては・・」 
「その分、例のグングニルとやらに期待させてもらうさ。」 
「・・・・わかった、マリアはもうヘリポートに待機してある。」 
「頼むぞ。」 

AM05:22 茨城県水戸市内 

明るみ始めた東の空にわずかに見とれながらも、タマモはビルの上を跳びながら背後の気配に気を配った。 
周りより高めのビルの屋上で止まると、シロが同じ場に足をつけるのを感じて振り返った。 
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」 
細かく息を吐くタマモは両手をぐっと握って爪を開いた。 それを目にしたシロは、担いでいた八房をぶんっと振りかざした。 
「もういいだろう・・・」 
汗だくのシロは左半身を前にかまえる。 
「そうね・・・」 
額の汗を手の甲で拭ったタマモも体勢を低くした。 
「・・・・お前にヒカリを預けたのが拙者のミスでござった!」 
「あんたは横島に捕らわれ過ぎてんのよ・・・・・成長しないような奴を、これ以上見たくないわ・・・」 
同時に地面を蹴った2人は刀と爪を振りかざす。 幻術で分身が現れる。 刀身が届かぬ距離にもかまわず、シロは八房を振り切った。 剣圧にかき消される分身の中から本体を左側に見定める。 右足でブレーキをかけ、横切りにタマモに切りかかる。 びしゅっ 
「くっ・・・!」 
後に体を引いたタマモの左目を切っ先がかすめた。 血が小さく噴き出すのがシロの瞳に映る。 よろけそうになるも左足で踏ん張ったタマモは、髪をかたどった9つの尾の1つを振りかざす。 あたかも本物の尾のように長く伸びたそれは、振り切り終わる前の八房をシロの手から弾き飛ばした。 
「つっ!」 
空手になったシロは後ろに跳んで距離をとるが、タマモは一気に詰め寄った。 
「タマモ・・・!」 
「遅い!」 
霊波刀を出すシロの腕をかいくぐり、タマモの右手がシロのみぞおちに突き刺ささり、背中から突き抜けた。 
「くっ・・・・くそっ・・・くそおおお・・・・」 
シロの右手から霊波刀が消えた。 あふれてくる涙で視界がぼやけた。 タマモが右手を引き抜くと、血が一気に溢れ出し、シロはあお向けに倒れた。 
「あんたなら1週間も寝てれば治るでしょ、しばらくここで寝てなさい。」 
左目を押さえたタマモは右手の血をシャツで拭った。 
「狐が・・・くそおお・・・・」 
ぐっと閉められた瞳から止まらない涙を流し続けるシロを残し、タマモはビルから飛び降りた。 
「くっそ、馬鹿犬が! 手間ばっかりかけるんだから・・・」 

AM06:07 都庁(Bポイント結界トレーラー前) 

「そうかわかった、いや、今確認した。」 
無線を切ったエイムズは走ってきた黒いバイクに駆け寄った。 
「ヒカリちゃん!」 
きききっ ヒカリはヘルメットをとる。 
「タマモ君は?」 
「先生にばれました、他にはまだ漏れてませんけど、タマモが押さえてます。」 
「ちっ、そうか。」 
「証拠は握られてません。」 
「タマモ君に任せる、今アリマトがわかるかい?」 
「いえ。」 
「こっちはピート君が戻らない。」 
「ピートさんが? じゃあ中の警備は・・・?」 
「それはどうにでもする。 きみはアリマトだけに集中してくれ、できる限り部下に協力させる。」 
「おじさん、できればここに着く前に押さえたいの。」 
「大丈夫だ行ってくれ。 精霊獣が使えたらよかったんだが・・・」 
「嫌われてんですよ、代わりは用意しました。」 
ヒカリはヘルメットをかぶった。 
「そんなふうに考えるなよ。 戦力ダウンもあるが、こっちの精霊獣も少ない・・・・・よろしく頼む!」 
「はい!」 
ぎゃきゃっ 左足をついてバイクを反転させると、ヒカリはエイムズの前から走り去った。 

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※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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