GS美神 ひかり

第四話   傷


ねえ お母さん  GSってどんな仕事なの  
そおね 命の大切さを教えてあげる仕事 かな  


私いや  GSなんてなりたくない    
いいさ  ヒカリのやりたいことをやれば     


ひのめお姉ちゃん なんでアメリカに行っちゃうの   
うーん 人生やっぱチャレンジでしょ   


父さん 母さん どうしてもいくの  
ごめんな ヒカリ これも仕事なんだ   


 いいでござるかヒカリ おぬしの父上と母上は立派なGSでござる それは誇りに思っていいことでござるよ   
でも 先生 私やっぱりわかんないよ   


よろしく タマモお姉ちゃん  
もうタマモでいいわ   

7月19日 PM01:17 白井総合病院501号室  

「・・・・・・」  
昔の夢、か。 久しぶりかな・・・   
「起きたか?」  
誰? 首が動かない。 目にはいるのは天井だけだった。 何これ? 点滴・・・?
   
「おい、わかるか?」  
視界に見知った顔がはいってきた。  
「伊達君・・・?」  
「よし、待ってろ。 先生呼んでくるから。」  
かちゃ、とたん  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お腹減った。」  

PM01:22 愛知県警4Fシーラム対策本部    

「タマモさん! 今、連絡が! ヒカリさんが意識を取り戻したそうです!」   
   
「だから言ったでしょ。 ヒカリは大丈夫だって。」  
タマモは書類から目を放さない。   
「そうですね。 はあー、でもよかったあ。」  
ピートはいすにへなへなと座った。    
「ヒカリさんに何かあったら、僕はもうどうしようかと・・・」  
「そんなに心配なら、首に縄でもつけとけば・・・?」  
「ばっ・・・な・・に言ってるんですか!」  
タマモはちらっとピートに目をやった。  
「ひひっ。」  
かっ・・からかわれてる・・・   

PM01:28 白井総合病院501号室  

「はい、じゃあ、男性はちょっと退室して。」  
「そうやで、はよ出んかい。」  
「貧ちゃん、あなたも。」  
「な、何でや小鳩? わいとヒカリの仲やに・・」  
「ほら、じたばたすんな貧乏神。」  
「わいは福の神やって・・」  
ばたん。 やれやれっと小鳩はため息をついた。   
「先生・・・」  
「何?」  
「お腹減った。」   
「はあ・・・ 相変らずね、ヒカリちゃん。」  
「ねえ、せんせー。」  
「今は駄目です。 計器は外せないし、あなたお腹に穴が開いてたのよ。」  
「あらら。」  
「あららじゃないの。 いい、ここからは真面目な話よ。」  
小鳩はヒカリのパジャマのボタンを外した。  
「ほら、自分でも見て。」  
ヒカリの上半身を持ち上げる。 
「つっ。」  
思わずしかめっ面になりながらも、自分のお腹を見た。    
「!?・・・・・・」  
小鳩はヒカリをそっと寝かせると、ボタンをかけた。  
「傷口はふさいだけどそこから壊死が始ってるの。 内臓も・・・少しね。 いずれ縫い直さなくちゃならなくなるわ・・・」   
アリマトか・・・  
「タマモちゃんから話は聞いたわ、愛子さんからも。」  
「・・・・」  
「個体差があるから私にはわからないけど、ヒカリちゃん・・・・・ごめんね、私には傷を縫うことしかできないの。」    
「大丈夫ですよ。」  
「・・・・・」   
「先生、このことは他の人には秘密ですよ。」  
「・・・・・仕事のため?」  
「はい。」  
何でこの子は笑ってられるんだろう? どどどどっどどっどどどばがっどどっどどどっどっどどどどど・・・
「何でしょう?」  
「あー、きっと・・・」  
ばがっ! っひひーーーん、ぶるるるるる・・・・  
「ひかりちゃーん!」  
「冥那ちゃん!?」  
冥那はヒカリに跳びついた。 
「よかった〜、ほんとによかったよ〜。」  
「い、痛い! 冥那ちゃん! お腹、お腹締めないで・・・」  
「えええーーーーーーん!」  

PM02:05 日本GS協会本部第1作戦司令室  

ふーーっ 西条はピートからの報告書を眺めていた。 タバコの灰が落ちそうになり、灰皿を叩く。   
「西条さん、少しお休みになられたほうが。」   
「いや、ええっと・・・」  
誰だっけ。 この子は確か・・・   
「桐原です。」  
「そうだった、すまない。 まだ皆の顔と名前が一致しなくてな。」  
「いえ、それよりも・・」  
「きみはピートの助手をしてたんだっけ?」  
「は、はい。 お手伝いさせていただいてます。」  
「じゃあ、こういう時彼がどうするかわかるだろ?」  
「・・・はい。 コーヒー、お持ちしますね。」  
いい顔で笑うじゃないか。   
「ああ、お願いできるかな。」  
黒髪のショートカットが出て行くのを見送りながら、西条はいすに座ったまま伸びをする。 あの子もああやって笑うんだよな・・・ たいしたことないといいんだが・・・ 日本に帰ってからまだ1度も顔を見てない友人の娘に、ただ無性に会いたくなった。  

PM02:19 横島除霊事務所   

プルルルル、プルルルル、プルルル・・  
「はい、横島除霊事・・」  
「やっほー、愛子ちゃん。 あたし。」  
「ヒカリ!? もういいの!? ねえ大丈夫なの!?」  
「へへー、ま、何とかね。」  
「まったく心配かけて・・」  
「ごめんね、先生からだいたいのことは聞いたから。」  
「じゃあ、タマモちゃんとエイムズさんのことも?」  
「うん。」  
「そう・・ もう動けるの?」  
「うん。 冥那ちゃんのおかげでね。 それにもう自分でもできるから。」  
「ならいいわ。 ザンス大使館から電話が来たの。 あなたに来て欲しいって。 どうする?」    
[・・・いくわ。]  
「言うと思ったわ。 いつにする? できるだけ早くっていうことだけど。」  
「うーん、こっちから直接電話するよ。 一応、先生とも相談したいし。」  
「わかったわ。 いい、もっと慎重に行動なさいよ。」  
「はい。 じゃあね。」  

PM02:21 白井総合病院1Fロビー (公衆電話前)  

「さて、という訳なんですけど、先生・・・?」  
「駄目です、と、本来なら言うのよ。」  
「わかってます。」  
小鳩はヒカリを抱きしめた。 
「あなたは横島さんの子だものね、大丈夫よね?」  
「大丈夫、親より長生きするつもりです。」  
「ほんとに?」  
「本当です。」  
小鳩はヒカリを放すと泣きそうな顔で見つめた。  
「医者がそんな顔しちゃ駄目ですよ。 貧ちゃん、先生をよろしくね。」  
「おう、まかしとき。 がんばれよヒカリ。」   
「ありがと、貧ちゃん。」  
ヒカリは一礼すると、外で待っている冥那と涼介に手を振りながら出口に走った。 
 
「! どないしたんや小鳩? なあ。」  
小鳩は震えながら泣いていた。 こぶしを握り締め、必死に声に出すまいと。  
「何泣いとんのや? なあ、しっかりせい小鳩! 小鳩!?」   
珍しく人の少ないロビーにテレビの音が響いた。 
『・・名古屋でのテロによる死亡者の数が、今日で113人となりました。 また名古屋駅、高速道路の崩壊により、名古屋市全体の機能は、いまだ回復の目処が立って
おりません。 ICPOの発表によると・・』  

PM02:32 白井総合病院前タクシー乗り場(木陰のベンチ)   

ぴっ ヒカリは携帯をきるとふああっと大きくあくびをした。  
「ヒカリちゃん、お行儀悪いわよ〜。」  
隣に座った冥那は、膝にのせたクビラを撫でながら笑った。  
「ごめん、何か寝すぎちゃったみたい。」  
「で、どうだって?」  
涼介はポカリを一気に飲み干した。  
「今からザンス大使館に行ってみるわ。」  
「ええ〜今から〜? 今日ぐらいゆっくりしたら〜?」  
「そうもいかないわ、いろいろ事情があるのよ。」  
「そお〜、残念だわ〜。 家のお茶会に招待したかったのに〜。」   
「ありがと、また今度ね。」  
「じゃあ〜、私もう行かなきゃ〜。 インダラちゃ〜ん。」  
ばしゅっ  
「よいしょっと。 じゃあ〜ヒカリちゃん、涼介君またね〜。」  
「うん、ばいばい。」  
「ばいば〜い。」  
走り出したインダラの上で、冥那は見えなくなるまで手を振っていた。   
「よし、じゃ行くか。 タクシーつかまえるぞ?」  
「え?」  
「何だ? どした?」    
「伊達君、ついて来る気なの?」  
「そうだけど?」  
「何で?」  
「こいつが行けってさ。」  
涼介は銀貨をぴんっと弾いて見せた。  
「また占い?」  
「俺の占いは当たる。」  
「はあ、まいいけど、でも門前払いされても知らないわよ?」  
ヒカリは笑いながら立ち上がった。   
「入るさ、必ず。」  
涼介は空になった缶をゴミ入れに投げた。 がこかんっ!   

PM03:02 愛知県警3F取調室  

「うううーーーん・・・」  
「どうですか?」  
タマモは座った男の額に手をかざしながら手に集中していた。 背中を汗が流れる。
   
「ぷはっ。」  
どさっ
「大丈夫ですか?」  
ピートの差し出した手を取って、タマモはふらつく足で立ち上がった。  
「ありがと。」  
「どうです?」  
「まだちょっと時間かかるかな・・・」  
タマモはいすに座ると水を飲んだ。  
「ああ、もう、あんなに強くかけなきゃよかった。」  
「仕方ないですよ。 皆あまり余裕ありませんでしたし、タマモさんのおかげで、1人捕まえることができたんですから。」  
「でもこれじゃあ、何も聞き出せないわね。」  
「少し休んでください。」   
「そうさせてもらうわ。」  
「とりあえずここまでだ。 被疑者を連れてってください。」  
「はっ。」  
男は連れて行かれ、タマモもふらふら出て行った。   
「ピートさんいつまでかかるんですか?」  
桜井はピートに詰め寄った。   
「あせるな、暗示をとくだけなら簡単だが、舌でも噛み切られたらことだからな。」
  
「しかし・・・」   
「ああやって少しずつ解いていって、何とか情報を聞き出すしかないんだよ。」  
「そんなことやってるうちにもしまた・・」  
「そんなことわかってる!」  
「!・・・・・」  
「・・すまない・・・しかし確実に情報を手に入れるにはこうするしかないんだ。」
  
ピートは座ると一気に水を飲んだ。   
「・・・・・ヒカリさん、そんなに悪いんですか?」  
「いや、彼女よりエイムズさんだ。 いまだ意識不明の重体、近距離であの自爆に巻き込まれたみたいだからな。」    
剣のことを聞きたかったのに・・・ 
「・・・・・・すみませんでした。 生意気なことを言ってしまって・・」  
「あ・・いや、いいんだ・・・」  
背もたれに体重をかけ、天井に目をやった。 くそ・・・   

PM04:45 ザンス王国大使館    

「初めまして、ミス・ヒカリ・横島。 ザンス王国大使でここの責任者のセリナ・ビークです。」    
セリナは右手を差し出した。  
「テレビで何度か拝見いたしました。 お会いできて光栄です。」
ヒカリも右手を出して握手を交わす。  
「こちらこそ。 そちらの方は?」   
「私の友人で涼介・伊達君です。」   
「初めまして。」  
「伊達・・・? ひょっとして雪之丞さんの息子さんで・・?」  
「はい。」  
「よく来てくれました。」   
セリナは涼介の手を力強く握った。 
「どうぞ座ってください。」   
ヒカリと涼介は席につき、セリナはカップに紅茶を注いだ。   
「できればもう少し違うかたちであなた達とお会いしたかったのですが・・・」  
 
かちゃ 
「どうぞ。」  
「いただきます。」  
受け皿をもつヒカリの左手は指先から肩まで包帯が巻かれており、セリナはそれからすっと目をそらした。  
「ですがこのような時です。 できれば・・・」   
「前置きは結構です、ミス・セリナ・ビーク。」   
「ちょっと伊達君?」  
「仕事の話を。」  
セリナは微笑むとカップを置いた。   
「わかりました。」  

PM05:24 愛知県警3F仮眠室 

「・・・・・・・あっつ・・」  
顔に当たる日差しがうっとうしい。 嫌な起こされ方だ・・・ タマモは起き上がると、おぼつかない足取りで廊下に出た。     
「大丈夫・ですか? ミス・タマモ。」  
「なんだマリアか・・・」  
「霊力・回復してません。」
「わかってる。」   
タマモは歩き出し、マリアもその後に続いた。  
「あんたこそいいの? その左手は自分で直せないんでしょ?」  
「ノープロブレム。 問題ありません。」
「あっそ・・・」  
突き当たりまで歩ききると、タマモは窓を開け、体をもたれかけた。 
「ふう・・・」    
「心配・ですか?」  
「は?」  
空にはヘリが忙しく飛びまわっている。   
「ミス・ヒカリの傷、かなり・深い。」   
問題はそこじゃない・・・  
「あれは見かけどうりタフだから。」   
そう、あの馬鹿と同じで・・・ 

PM08:03 ザンス王国大使館  

「では涼介さんには、明日より我々のSPと共に行動してもらいます。 女王陛下がいらっしゃったら警護のほうが中心となりますが・・・よろしいですね?」    
「はい。」  
「すっかり遅くなってしまって、夕食を用意させますね。」 
「ありがとうございます。」  
セリナとヒカリの目が会った。   
「ごめん、伊達君。 ちょっと席をはずしてくれない?」   
「? 何でだよ? 仕事の話なら俺が聞いたって・・・」     
「もう、デリカシーないなあ。 男がいるとできない話もあるの。」   
「はあ?」  
「いいから、はい、出た出た。」  
「おい、押すなって。」  
セリナはくっくと笑っている。  
「先に食堂に行ってらしてください。」   
「ほら、返事は?」   
「・・・・は・」
ばたんっ     
「ふう。」   
ドアにもたれて一息つく。     
「仲がいいのね。」  
「・・・・・親同士が友達でしたから。 小さい頃はよく一緒に遊んでました。」 
 
「お似合いよ、とっても。」  
「弟ですよ、気が強い。」   
ヒカリは椅子に戻り座った。 セリナも改めて座りなおした。   
「・・・・・アリマトが持ち込まれました。」  
「・・・見たのですか?」  
「戦いました。」  
「!?・・・まさかあなた・・・・」   
セリナは立ち上がった。  
「はい。」  
「そんな・・・エイムズはそのことは・・・・?」  
「いいえ。」   
「なんてこと・・・・」  
右手で額を押えて頭を振る。  
「セリナさん、一応、報告のため話しましたけど、このことは秘密にしてください。 もちろん、エイムズおじさんにも。」  
「何て言ったらいいか・・・」   
「まあ、そんなにお気になさらないでください。」   
「・・・・」  
セリナはデスクに歩み寄ると、引き出しから小さな箱を取り出してきた。 それをヒカリの前に置いた。 深い青地に金色の装飾が施されていた。    
「これを差し上げます。」   
ヒカリはふたを開けた。   
「! 青い精霊石・・・」
「コクーンの核になっていたものと同じものです。」   
「あの爆弾のですか?」  
ヒカリはチェーンをつかんで持ち上げ、青い石を覗き込んでみた。    
「・・・・不思議な感じがしますね。」  
「通常のものに比べて純度が10倍近いものです。 かなり希少で、王室もそれほど持っていません。」   
「よろしいのですか?」   
セリナはヒカリの後ろに回ると、青いそれを首にかけた。  
「この石が、あなたのヒーリング能力を高めてくれます。 そうすればいくらか痛みを和らげ、傷の広がりを遅らせることができるはずです。」   
「へえー、すごいですね。 ありがとうございます。」  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
窓まで歩いていくセリナの背中を見ながら、ヒカリは首の精霊石を親指で撫でた。 
 
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
「行きましょうか、涼介さんも待ってますし・・」  
「あ、そうだ。 ちょっとすいません。」  

PM08:31 愛知県警屋上  

ピリリリリ、ピリリリ・・ ピッ 
「はい?」  
「タマモ・・・ 私。」  
「うん。」  
「・・・・・」  
「・・・・・」  
「あのさ・・」 
「アタシ、もうしばらくこっちにいなきゃいけないから。」  
「あ、うん・・・」  
「だから・・」 
「おじさん、どう?」  
「え、・・・ああ、まだ病院。」 
「そっか。」  
「・・・・・」  
「・・・・・」  
「・・・ヒカリ・・?」 
「・・・・・」  
「ヒカリ・・・」  
「・・・・」 
「・・・・」 
「・・・・」
「・・・」
「・・・」 
「・・・・・なるべく早く帰るから。」  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」  

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