ソフト・メモリー  (GSひかり外伝)

 後編 


7月3日 08:55 GS資格試験会場内、客席 

「はい、こちら実況のミキです。」  
「ルリです。」 
仏頂面で会場を見ながら座っているヒカリの後ろで、ミキとルリは缶ジュースをマイク代わりに口を動かす。  
「ついに資格試験の2日目ですね〜・・・・私も見るのは初めてで、選手でもないのに興奮しておりますっ!」 
「お疲れさん。」  
「会場は私達と同じく高ぶったお客さんで賑わっていると言うのに・・・・・」 
ミキは肘を着いて手に顎を乗せているヒカリの猫背に目をやる。  
「我らが親友、横島ヒカリ嬢はなにやらブルーなオーラを背負っております。 どう思いますか解説のルリさん?」 
「振られた・・・?」 
「蒼葉氏にですか? しかし昨日の様子では、結構いい感じだったと思ったのですが・・・?」 
「ミキ、男の人と付き合った経験ないから・・・」  
「が――んっ!? それはあてつけですか!? 構内人気投票で密かに学年3位の自分は引く手数多の選り取りみどりってかっ!? ど―せ私はランキングもされてませんよっ!!」 
「ちなみに私は明日デートが4件。」 
「か〜〜〜言ってくれますね・・・っ!! で、どこの誰っ!? えっ、えっ!?」 
「後でごちゃごちゃうるさいっ!!」 
ぎろっと振り返るヒカリに、ミキとルリは顔を見合わせヒカリの左右に座った。  
「ど―したのよあんたらしくない。」 
「鯛焼き食べる?」 
「いらない。」 
ルリは差し出した鯛焼きを引っ込め自分でかじる。 
「やっぱり、落ちたの落ち込んでるの・・・・・?」 
「・・・・・」 
「やっぱり振られた?」 
ごちんっ! ルリの脳天にヒカリの拳が飛んだ。 
「ま、まあなんか知らないけど話しなよ・・・・・友達でしょ?」 
「そ―そ―。」 
笑ってみせるミキとたんこぶをつけながら鯛焼きを頬張るルリに、ヒカリはふはっと大きくため息をついた。  
「実はさ・・・・」 
声を小さくするヒカリに、ミキとルリは耳を寄せた。 
「先生達・・・・試験そのものを中止にしようとしてるらしいんだ・・・・」 
「えっ!? シロさんが、なんで・・・?」 
「天回衆って流派に不正の疑いがあるんだけど、それがまだ摘発できないから・・・・・だから、試験そのものを中止に追い込んで資格を与えないようにするんだって。」 
「そんなっ、じゃあ、蒼葉君もっ!?」 
「うん・・・・もし次の試合に勝って資格を手にしても・・・・・取り消しになるかもしれないんだ・・・」
「それで落ち込んでんだ・・・・」 
「・・・・・」 
び―っとベルが鳴り、選手がぞろぞろと会場に入って来た。  
「そのこと、蒼葉君には・・・・」 
「・・・・」 
「言える訳ないっか。」 
ぼりぼり頭をかくミキに、ルリは横目でヒカリを見ながらもぐもぐ口を動かしていた。 
『さあ、いよいよ資格試験2日目っ、第2試合が始まりますね。 選手達の顔にも心なしか緊張がうかがえます。』 
『とは言っても、64人中、63人が同じ流派あるからな。 つまらない試合になりそうな気がするある。』 
『まあまあ役珍さん。 さて、そんな中で唯一天回衆とは別の選手が残っているのが今回の注目どころでしょうか?』 
『そ―いや1人いたあるな・・・』 
『え―、蒼葉くら、なんと高校生です。 研修などの経験を一切持たないという経歴の、まさに今大会のジョーカーとも言えるでしょうか。』 
『ま、せいぜい頑張るある。』 
『さて、異例とも言える今大会を牛耳った天回衆ですが、今日はその創設者であり教祖の天回さんに、ゲストとしておこしいただきました。』 
『・・・・どうも。』 
「「「っ!?」」」 
会場内に響く天回の声に、会場内に散らばっていたピート、タマモ、かおりは解説席に目を向ける。 
『天回さん、どうですか今の気持ちは? 同じ流派の門下生がこんなにも多く残っているというのは、試験史上、初めてですが・・・?』 
『上に立つ者としては、教え子達の頑張りが嬉しい限りですね。 ですが、反面他の候補生の方にはもうしわけない。』 
『天回衆と言うのは、この春にできたばかりですよね? 一体どのような教えを?』 
『修行内容はお教えできませんが、私達の目指すものは1つです。 霊力で人をすくいたい、この思いが、皆の力となったのです。』 
「よく言う・・・・今に見ていろっ!」 
ピートは客席最後尾の柱を拳で叩きながら解説席を睨んだ。 
『さて、教祖としてはまったく心苦しいが・・・』 
「っ!?」 
「何・・・?」 
「?」 
ピートとかおり、タマモは天回の声の調子が変わったのに目を細め、足を止める。 コート内の天回流派の候補生達や蒼葉も天回に目を向ける。 ヒカリはおもむろに立ち上がった。 
「ヒカリ?」 
「どうしたの?」 
「・・・・・」 
『我ら天回衆がその力の源とする第3の瞳・・・・・今から返してもらう。』  
『て、天回さん・・・?』 
『何を言ってるあるか・・・?』 
ばっと飛び上がった天回が会場の中央上空で浮いたまま止まった。  
「まずいっ、よせ天回――――――っ!!」 
地を蹴って飛び上がったピートは両手に霊波を溢れ返して天回に迫る。 
「下がれ下郎がぁ――――――っ!!」 
どぎゃっ! 
「・・・・お兄ちゃんっ!」 
ヒカリが目で追う中、ピートは弾き飛ばされて客席に突っ込んだ。 
『ど、どういうことでしょうかっ!? 天回さんっ!? もしも――っし!?』 
『やばい予感がするあるな・・・・お客さん方、逃げたほうがいいあるよ・・・っ!!』 
「ふはははははっ、集えっ、我が元に――――――っ!!」 
ばっと両腕を振り上げる天回に、額の目が光を溢れさせる。 
「うわああああああっ!?」 
「て、天回様ぁ――――・・・っ!?」
「いやああああああっ!!」 
その光に反応し、コートの中の天回流派の候補生たちの第3の目が輝きだし、そこから溢れ出した光が天回の瞳に吸い込まれて行く。 
「お―お―よくやる・・・・・こりゃ作戦中止ね、シロ呼び戻さないと。」 
タマモは手すりにもたれながら携帯のボタンを押す。 
「な、なんなのっ!? アトラクションっ!?」 
「違うと思う。」 
左右のミキとルリに、ヒカリは天回を睨んだまま言う。 
「2人共、早く逃げて。」 
「えっ、ヒカリはどうすんの?」
「私は・・・」 
霊力が抜けるとともに体が解けて行く候補生の中立ち尽くしている蒼葉に目をやりながら、ヒカリは拳を握り締めた。 そして、もう1度天回を見上げる。 
「私は・・・・やることあるから。」  
光がやむと、コートの中には63人分の中身のなくなった法衣が散らばっていた。 
『な、なななな、なんと言うことでしょうっ!! 溶けましたっ、吸い込まれてしまいましたっ!! まさかっ、何でこんな・・』 
『ちょっとお借りしますわっ!』 
『えっ、ちょっと・・』 
解説席にやって来たかおりがマイクを引っ掴む。 
『会場の皆様へっ、これはアトラクションでもデモンストレーションでもありませんっ! 正真正銘、本当のトラブルですっ!! 教会の方は一般人の避難をっ!! 戦えるGSは天回を抑えますっ! よろしいっ!?』 
「ふはははははっ、これだ・・・・私が求めていたのはこれだっ!!」 
体中から溢れかえる霊波に、天回はにやつきながら会場に目を落とす。 
「ふんっ!!」 
客席に突き出した右手から巨大な閃光が飛ぶ。 
『なっ、皆逃げなさいっ!』  
どごおおおおおんっ!! 粉塵が巻き起こり、客席から悲鳴と共に人々が我先に逃げ出した。 
「強い・・・・これだ、私が求めていのは・・・・・・んっ!?」 
晴れる粉塵の中、髪をなびかせるシロとタマモが霊波の壁を携え立っている。 
「さ、今の内に外へっ!」 
シロは振り返らずに背後の客達に言う。 
「やれやれ、ハプニングだらけでござるな。」 
「いつものことでしょ。」 
笑うシロとタマモに、天回は歯軋りする。 
「おのれ・・・・・物の怪共がっ!!」 
両腕を振り上げる天回に、2つの光がぶち当たる。 どどんっ 
「ぐっ!?」 
ガードした腕をどけると、見上げるピートがいる。 
「やってくれたな天回・・・・・まさか、自分の門下生を手にかけるなんて・・・っ!!」 
「殺してはいないさ・・・・私と1つになったのだからな。」 
「黙れっ!! お前のたくらみもここまでだっ!!」  
「ふんそれは・・・」 
どこおおんんっ!! 背中に霊波をぶつけられ、天回は再び空中でよろめく。 
「お、おのれぇ・・・っ!!」 
天回は解説席から右手を突き出しているかおりを睨む。 
「観念なさいっ! 逃げ場はありませんわっ!!」 
「・・・どうかな?」 
天回はにんまり笑い、すっとコートの上に降り立った。 
「っ!?」 
下りてきた天回に、蒼葉はばっと後に飛び退く。 
「あんた・・・」 
「初めまして。」 
「・・・・」 
蒼葉はにやつく天回にぐっと構える。 
「蒼葉君っ!!」 
駆け寄ってきたヒカリは、蒼葉と並んで天回を睨む。 
「天回――――っ!!」 
会場内に降り立ってくるピートやシロ、大会関係者たちに、天回はずらっと取り囲まれた。 
「天回・・・・大人しく出頭してもらえるな?」 
ピートがネクタイを外しながら手錠を取り出す。  
「出頭・・・・? なぜかね?」 
「殺人その他もろもろだ。 脳みそもその目玉に食われたか?」 
シロが自分の額を指でこんこん叩く。 
「・・・・・お前・・・最初から候補生達を取り込むつもりだったんだな!?」 
「そうだと言ったら・・・・?」 
「・・・・潰すっ!」 
ピートが腕を上げるより早く、天回は額にある目を輝かせた。 
「ぐっ!?」 
「ちっ!」 
「きゃっ!!」 
ピート達は足を踏ん張るが、ヒカリや教会の面々は溢れかえった霊圧に吹っ飛ばされた。 
「ヒカリっ、今吹っ飛んだ奴らを外に逃がせっ!! 邪魔だっ!!」 
「は、はいっ!!」 
シロは右手にぶぶんと霊波刀を出して構える。 
「もう、人間じゃなくなってるようだな・・・・」 
「ま、アタシら元々人間じゃないけどね。」 
「純粋な人間って、私だけではありません?」 
「おっ、キミは・・・」 
天回を取り囲むシロ、タマモ、かおり、ピートだが、ピートは自分の隣に立っている蒼葉に気づいた。 
「蒼葉君だったかな? キミも避難するんだ。」 
「・・・・断る、俺はこいつが気に喰わない。」 
「う―む・・・若いってのはいいでござるなぁ・・・」 
感心顔のシロに、タマモは笑う。 
「好きにさせればいいじゃない。 自分のことは、自分で決めるのが1番っ。」 
「ですが・・」 
「男の子はこのぐらい覇気がなくっちゃ。」 
「かおりさんまで・・・」 
ピートは天回から目を放さないようにしながらも蒼葉に言う。 
「いいのかい?」 
「かまうな。」 
「わかった。」 
にっと笑い、ピートは天回に改めて構える。  
(まだ避難は終わらんのか?) 
シロは天回のはるか後の客席の入口が人で込み合ってるのに舌を打った。 
「あ、蒼葉君!?」 
ヒカリは試合会場の出口に協会の人をヒーリングしながら誘導し終え、コートに目を戻していた。 
「何やってるのよも―っ!」 
ヒカリはダッシュで戻りだした。 
「チャクラ・バレットは、お前が取り込むための霊能者を強化するために作ったのか!?」 
「そうだ・・・・私自身が服用するわけにはいかんからな。 他者を通して間接的に私の霊力を強めたのさ。」 
「卑怯くさ・・・」 
タマモが耳をほじくりながら言う。 
「お前ら化け物に言えた義理か? 人間の苦労も知らず・・」 
「それは違いますわっ、私達が人間だからと、何を卑下する必要がありますかっ!?」 
かおりが1歩前に出る。 
「では、あんたはこの妖怪共に勝てると言うのかい・・・・?」 
「それはっ・・」 
「今はまだいい。 こいつらに対抗できる人間も何人かはいよう・・・・だがそう遠くない未来、こいつらは人間に取って代わる。」 
「「「「「っ!?」」」」」
「あくまで可能性の話かもしれん・・・・・だが、そうなった時、人間にも力がいるのだっ!!」 
「ふむ・・・・一理あるでござるな。」 
「シロさん敵の側につかないで・・・」 
「アタシそういう話に興味ないから。」 
「ですが、だからって他の人間を犠牲にするのは・・・っ!!」 
「罪は償おう・・・・だがその前に、完璧なチャクラ・バレットを作り出す使命が私にはあるのだっ!!」 
ぐわっと天回から霊圧が噴き出す。 それが帯状になって天井まで伸びると、そこから会場全体に膜のように霊波が広がった。 
「まずいっ、結界を張るつもりだっ!!」 
ピートの口からその言葉が終わる前に、ばりっと結界が各所の入口を塞いだ。 
「さあかかってこい妖怪共っ!! 私を倒さねば他の者共はチャクラを奪われて死ぬぞっ!?」 
「完全に突っ走っちゃってるわね・・・・」 
タマモはめんどくさそうに目を細める。 
「人間愛が溢れてるようで、矛盾だらけのおっさんだ・・・・拙者らは実験台にまんまとはめられたわけか・・・・・ピート殿、どうする?」 
「残念ですが、死んでもらうしかありませんね。 時間をかけるとこの結界に生気を吸い尽くされる。 僕らはいいが・・・・」 
「私達人間ははそう長く持ちませんわっ!!」 
「蒼葉君、キミも力を貸してくれっ!!」 
「・・・・ああ!」 
「じゃ、そういう訳で・・・・GOっ!!」 
同時に突っ込む5人に、天回はうすら笑った。  

「ミキっ、ルリっ!!」 
客席によじ登ったヒカリはへばって椅子に座り込んでる2人に駆け寄る。 
「逃げてって言ったのに!!」 
「あ―ヒカリだ―・・・・」 
「やっほ―・・・・」 
「しっかりしてよっ!! 今ヒーリングするからっ!」 
ヒカリはだらだら顔の2人に手をかざし、淡い光を放つ。  
「っ!? チャクラが集まらない・・・・この結界のせいっ!?」 
ヒカリ天井から、入口の方に目を移す。 
「待ってて、死んじゃ駄目だからね!!」 
ヒカリは倒れている人達を踏まないように扉に走った。 
「結界っ!? 開け――――――っ!!」 
ドアは開いているのに霊波によってふさがれている入口に、ヒカリは霊波刀を叩き付けた。 がいんっ! 
「わわっ・・・!」 
弾かれる反動でヒカリは引っくり返りそうになる。 
「このっ・・」 
再び振り上げられるヒカリの霊波刀が振り下ろされた瞬間、それは結界にぶつかる前に弾け散り、ヒカリは前のめりに倒れこんだ。 
「れ、霊波刀まで・・・・・そんなに吸い取られてるの・・・?」 
はっとなったヒカリは後を見渡す。 既にぴくりとも動かないまま倒れこんでいる人の海に、ヒカリは青くなった。 
「先生達なにやってるのよ・・・っ!」 
会場中央で格闘するシロ達に、ヒカリはばんと手すりを叩く。 
「お札はっ!? せめて神通棍か何か・・・ っ!」  
審査員席の近くにちらばる段ボール箱から覗くそれに、ヒカリは客席から飛び降り駆け寄る。 
「――あったっ!」 
破魔札を掴み出したヒカリは、下の出入り口の前に立ち右手にお札を構える。 
「其の札に封じられし者よ、我が剣に宿りて我が力となれ・・・・・・念っ!!」  
びゅわっ! 破魔札を突き破って伸びる霊波刀が長く伸び、青白い刀身に『破魔』の文字が浮かび上がる。 
「っ!」 
「ヒカリっ!?」 
「な、何ですかあの霊波刀はっ!?」 
「あの馬鹿っ、まだ使うなと言ったのに・・・っ!!」 
ヒカリの霊波刀に足を止めてしまったシロ達に、天回が額の目から霊波を飛ばしぶつける。 
「「「「ぶっ!?」」」」 
ごろごろ転がる4人の内、天回はピートに間合いを詰める。 
「ちっ!」 
突き出される手刀をさばき、ピートは霧となって散らばる。 
「いって〜・・・」 
シロはぶんと足を振り上げ立ち上がる。 
「おい蒼葉とかっ! すまんが客を逃がすのを頼むっ!」 
「な、何で・・・・別に・・・」 
かおりが天回と格闘するのを見ながら、蒼葉は巨大な霊破刀を入口の結界に何度も叩きつけているヒカリに目を向ける。 
「破れるのか・・・?」 
「いいから頼むっ!」 
「・・・・・わかった。」 
客席のほうに走って行く蒼葉を確認し、シロはぺっと口から血を吐き出す。 
「こりゃ、先に結界壊すが先か・・・・・? おいタマモ、死んだ振りしてさぼるな。」 
「ちぇっ。」 
タマモはシロにつま先でつつかれ立ち上がる。 かおりを霊圧で吹き飛ばした天回を、ピートが後から飛びついて首元に牙を立てた。 
「結界壊すぞ、死人が増えそうでござるしな。」 
「はいはい。」 
背中合わせに立ったシロとタマモは、シロの右腕とタマモの左腕が揃うように突き出し、指で銃を模る。 狙いがヒカリが霊破刀を叩きつけているドアに向く。 
「撃つぞ? ヒカリどけ――――っ!!」 
「!?」 
振り返ったヒカリはばっとドアから走って逃げる。 
「3、2・・」 
2人の指先に霊波が丸く凝縮される。 
「1・・」 
「「シュートっ!!」」 
どんっ ばちちぃ・・・っ!! 突っ込んだ光の弾がドアに直撃するが、弾はちりぢりになって吹っ飛んだ。 
「あらら・・・」 
「これで駄目・・・・?」 
目をぱしぱしするシロとタマモに天回の放った霊破が襲い、2人は左右に跳んでかわす。 
「先生達の合わせ撃ちでも駄目なの・・・・?」 
ヒカリが立ち上がると、右手の霊破刀がぱしゅっと消える。 焼け爛れる右腕を擦り、ヒカリは唇を噛む。 
「おいっ、どうなってんだよ!?」 
入口に駆け寄ってきた蒼葉に、ヒカリはダンボール箱を引っくり返してお札を出す。 
「かなり丈夫な結界みたい・・・・・よっぽど強い衝撃で貫かないと・・・」 
「それはわかるが・・・・おい何しようってんだ?」 
入口の結界に破魔札をべたべた貼りまくるヒカリに蒼葉は言う。 
「はっ、はっ・・・あ、蒼葉君も手伝って。」 
「こんなお札じゃ無理だ。 さっきの姉さん方の霊波のほうがよっぽどましだぞ?」 
「わ、私の剣で一気に起爆させるから。 爆発を1点に集中させて結界を貫けば・・・」 
「霊波で爆発を押さえ込もうってのか・・・・? 誰がやるんだよ!? お前程度の霊力でできるわけないだろっ!? だいたいお前もう立ってるのが精一杯じゃねえかっ!」 
「・・・・・そうだよ。」 
お札を貼る手を止め、ヒカリは蒼葉をゆっくり振り返る。  
「私はGSの娘のくせに霊力は小さい・・・・・だ、だから、お札から力を取り込んで使うことだけを勉強した・・・・」 
「何が言いたい?」 
いぶかしむ蒼葉に、ヒカリはにぱっと笑った。 
「私霊力小さいけど・・・実は結構強いって話。」 

どんどんどんっ!! 連射される天回の霊破に、シロ達4人はちりぢりになって逃げる。  
「はっは―――っ、どうしたどうした!?」 
両手ででたらめに霊波を飛ばす天回は笑いまくる。 
「くそっ、会場の人達のチャクラも吸い取ってるのか・・・・っ!?」 
ピートは飛んで逃げながらも各所の入口を埋め尽くすように倒れている人達に歯軋りする。 
「わ、私もそろそろ限界ですわね・・・・」 
息を切らすかおりに、シロはかおりに向かって飛んできた霊破を蹴飛ばしてかおりを抱いて客席にジャンプする。 
「かおり殿はここで動かず霊力の温存を。 奴の狙いは物の怪だけのようでござる。 チャンスをうかがって、時が来たら皆を外へっ!」 
「え、ええ・・・」 
ばっとシロは天回に向かってジャンプし霊破刀を切りつけるが、膜のような霊破の壁に弾かれる。 
「ちっ!」 
タマモが髪を抜き、槍状に伸ばしたそれを天回に投げつけるがそれはかわされた。 
(こいつ・・・) 
(時間をかけるとそれだけ霊力が高くなっていく・・・っ!!) 
(おまけにこっちは吸い取られる、か・・・) 
ピート、シロ、タマモはちっと舌を打つ。 
「っ!?」 
天回は霊破を絶え間なく撃ちながら、入口のところのヒカリと蒼葉を見る。 
「ガキ共が・・・・・余計な事をするな―――っ!!」 
どんっ! 
「お―いヒカリいったぞ――。」 
「えっ!? いったって言われても・・・!!」 
迫る霊波に慌てて振り返るヒカリの前に蒼葉が立ち、どしゅっと体を盾に霊波を受け止めた。 
「あ、蒼葉く・・」 
「さっさと準備しろっ!!」 
全身の肌が黒い鱗で覆われた姿をさらす蒼葉に、ヒカリは目を見開いた。 ちらっと振り返る蒼葉の顔に人の面影はなく、牙を覗かせる異様な形の口が動く。  
「どうしたっ? この姿に怯えたか・・・・?」 
「ううんっ、カッコいいよすごくっ!!」 
「そ、そおか・・・? じゃ、なくて早くしろ、後は気にすんなっ!」 
「了解っ!」 
互いに見ることはないが、ヒカリと蒼葉はふふっと笑い合った。 
「お―お―お熱いでござるな〜。」 
「のんきなこと言ってる場合っ!?」 
にやけるシロ踏ん付け、タマモは両手の爪を伸ばし天回に切りかかる。 が、天回は素手でそれを受け止めた。 
「っ!?」 
ばきゃっ タマモはカウンターで殴り飛ばされる。 
「まずい、おされてきた・・・っ!! ふっ!!」 
ピートは両手を重ねるように突き出し、霊波を連射する。 天回は片拳でそれを弾き飛ばす。 
「くそっ!」 
「くっははははは・・・っ!!」 
目をぎらつかせ、牙を覗かせる形相のシロ、タマモ、ピートに天回は笑う。  
「そうだその目だ・・・・お前ら化け物はそうでなくてはなっ!!」 
「はっ、はっ、はっ・・・」 
「・・・・」 
シロは息を切らし、タマモは額の汗を拭う。 
「何が言いたい・・・?」 
ピートがゆっくり下りてきて地に足をつけるが、がくっと膝をついた。 
「はははは、消耗したか? あれだけ動き回れば無理もない。」 
「おい。」 
ずいと前に出るシロに、天回は視線を向ける。 
「お前・・・・さては人のためとか言っときながら、自分が強くなりたいだけだろう?」 
「・・・・なんだと?」 
「お前は自分の作った薬に酔っぱらってるだけだ。」 
「黙れ――――っ!!」 
どんっ 
「ぐっ!?」 
巨大な霊波に当てられ、シロは吹っ飛びごろごろ転がる。  
「お前らに何がわかる・・・・・? 生まれつき強い体と霊力を持った貴様らに・・・・・お前らが人間と肩を並べようなどとおこがましいわああっ!! 化け物は、私が全て滅ぼしてくれる――――っ!!」 
「「「っ!!」」」 
ばっとタマモに詰め寄った天回は、タマモの動かそうとした腕を掴み取り腹に至近距離から霊波をぶつける。 
「がっ!!」 
吹っ飛んだタマモはずがっと天井にめり込む。 天回の顔がタマモに向いたままの隙をついてシロが背後から切りかかるが、天回は振り向くことなくそれを片手で受け止める。 
「なっ・・」 
「ふんっ!」 
ごがっと裏拳がシロの顔に入り、シロはごろんごろん転がりながら壁に突っ込んだ。 
「おいおい皆様やられてるぞっ、早くしろ横島っ!」 
蒼葉はピートに掴みかかって両手で首を締めている天回から目を放さないようにしながらヒカリを急かす。  
「待って、あとこの段ボール箱1箱分っ!」 
「早くしろっ!」
息切れ切れのヒカリはダンボール箱を引っくり返してお札を撒き散らす。 その間、ピートも吹き飛ばされて客席に激突した。 
「ちっ、くるぞ・・・」 
「あとちょっと、お願いその間おさえて!!」 
「何でこうなるよ・・・っ!」 
放たれる霊波を黒い鱗の拳で弾き、蒼葉は天回に向かってゆっくり歩き出す。 
「ま、あの哺乳類方と違って、俺は体が硬いから。」 
「か―――っ!!」 
額の目から閃光を放つが、蒼葉の体はそれを弾く。 
「っ!? 何・・・?」 
「急げ横島っ!!」 
突っ込む蒼葉は天回に拳を叩き付ける。 ばきっ! ガードした天回の左腕をへし折り、そのまま顔に拳がめり込む。 
「べがぁ・・・!?」 
よろめく天回の口から歯が零れ落ち、蒼葉はそれに構わず拳を連打する。 そして両手で霊波を天回に叩き付けた。 床を転がる天回は、床に赤い血の痕を残す。 
「できたっ!」 
汗だくのヒカリは髪かき上げ、両手に破魔札を1枚ずつ持つ。  
「もう多分これが最後・・・・・・いくわよ〜〜〜〜〜念っ!!」 
びばばっ!! 両手に巨大な破魔の文字が光る剣を持ち上げ、ヒカリは同時にそれを扉に突き刺した。 
「ふっ!」 
1枚の破魔札が焼け跳び、それが連鎖反応でドアに張った全ての札が一斉に弾けとんだ。 
(押さえ込むっ!!) 
ヒカリは両手を広げ、膨れ上がる霊波の光に仁王立ちになった。 が、すぐにその体は吹き飛ばされた。 
「あああ――――っ!!」 
目を閉じたヒカリの体は大きく吹き飛ばされる。 
「どけっ!」 
「え・・」 
蒼葉がヒカリと爆発の前に立ち塞がり、霊波で爆発を押さえ込む。  
「あ、蒼葉君・・・」 
焼け爛れた顔のヒカリは体を起こそうと床に手を突く。 
「俺なら体は硬いっ、邪魔だから下がってろっ!!」 
「でもっ・・」 
「おおおおお―――――――っ!!」 
「―――蒼葉君っ!?」 
白い光に目がくらみ、ヒカリはぐっと目を閉じる。 やがて光が止み、ヒカリはそっと目を見開く。 破られたドアに、息を切らし肩で大きく息をする蒼葉が立っていた。 
「やった、蒼葉君っ!!」 
にっと笑い返して振り返る蒼葉の顔や腕はところどころ鱗がはげていた。 が、びっと親指を立ててみせる蒼葉に、ヒカリも笑ってVサインする。 どかっ! 
「――――っ!?」 
飛んできた閃光に、蒼葉の顔が半分弾け跳んだ。 血しぶきを上げて倒れこむ蒼葉の体がゆっくり崩れ落ちる。 
「蒼葉君・・・・・蒼葉君っ!!?」 
駆け寄るヒカリの目の前で、蒼葉は小さな蒼い蛇に姿を変え、ぴくりとも動かなかった。 
「蒼・・・・」 
どかんっ 屈みこんで両手で小さな蛇を抱え揚げるヒカリの背中に霊波がぶつかり、ヒカリは前のめりになって吹っ飛んだ。 が、胸に抱えた蛇は放さない。 
「・・・・・」 
髪の間から覗くヒカリの目に、こちらに歩いてくる天回が見える。  
「余計な事をしてくれたものだな・・・・・せっかくの結界を・・・っ!」 
「・・・・・」 
ヒカリは持ち上げた頭をゆっくり下ろし、目を閉じる。 
(何やってる立てっ!) 
「!?」 
ヒカリは目を開く。 
(殺されるぞっ! ここで死んでいいのか!? GSになるんじゃなかったのか!?) 
「蒼葉君・・・・?」 
ヒカリは抱いている頭の潰れた蛇に目をやる。  
(立てっ! 戦うにしろ逃げるにしろ、とにかく立てっ!!) 
「もう・・・・力残ってないよ・・・・」
(力なら・・・・・俺がやるっ!) 
「え・・・・わっ!?」 
ぱしゅっ!! 蛇の体から光が溢れ、それが散り散りになり光の粒になってヒカリの体に溶け込んだ。 瞬間、髪が上に吹き上がり、束ねていた紐がほどける。 黒い髪が緑に染まり、ヒカリの肌は硬い鱗に覆われていった。 
「なに・・・・っ!?」 
足を止める天回の目の前で立ち上がったヒカリは、緑の髪に全身が鱗で覆われていた。 赤い瞳と鰓のような耳が髪の隙間から覗き、異型の口から牙が伸びている。 
「妖怪を取り込んだのか・・・・!?」 
「・・・・」 
自分の鱗に覆われた硬い手を擦り、次にそっとヒカリは自分の顔を両手で擦る。 
「・・・・私の中に・・・蒼葉君が・・・・っ!?」 
「小娘――――っ!!」 
額の目から霊波を放つ天回に、ヒカリは蛇を抱えたまま10mも飛び上がってかわし、客席にいたかおりの傍に着地する。 
「ヒ、ヒカリちゃん・・・・・!?」 
すっとかおりに手をかざしたヒカリはぶわっと霊波でかおりを包む。 
「っ!? ヒーリングっ!?」 
「皆さんの避難を。 それと、蒼葉君をお願いします!!」 
ヒカリはそっとかおりに蛇を預けた。 
「わかったけど・・・・・大丈夫なの?」 
「いけますっ!」 
どんっ! 溢れ返す霊波を輪にして天回に突っ込むヒカリは、拳で天回の右腕を砕く。 
「ぐわわっ!?」 
「しっ!」 
天回の腹を蹴り上げ、ヒカリはよろめいた天回に霊波をぶつけて吹き飛ばす。 ずあっ! 
「が――っ!」 
がんっと壁に激突する天回に、ヒカリは足元に散らばっている破魔札を掴み上げる。 
「念っ!」 
ぶわんっ! 巨大な霊波刀を出し、ヒカリはゆっくりと天回に向かって歩く。  
「・・・・っ!!」 
「ぐっ!」 
がんと手をつき立ち上がる天回は、よろける足を踏ん張り、姿を変えたヒカリに対峙する。 
「はっ・・・・結局そうだ・・・・人間は弱い・・・・他から何かを取り込まない限り強くなれんのよ、そう・・・・お前みたいになっ!」 
血で片目を閉じる天回は笑いながらヒカリを指差す。  
「・・・・・・・」 
「ふっ、否定できまい・・・・」 
「否定はしません。」  
剣が届く間合いまでつめより、ヒカリは足を止めた。 
「でも、あなたのやり方はあまりいい方法とは思えません。 お兄ちゃ・・・・ピートさんみたいに長生きは出来ませんけど、私もあなたは焦りすぎてたんだと思いますよ。」 
「小娘がっ!!」 
どかんっ! 天回はいきなり至近距離で霊波をぶつける。 
「は―ははははっどうじゃ、これで・・・これっ・・・・・なっ・・・・!?」 
晴れる粉塵の中、ヒカリの鱗には傷1つなく、右手の霊波刀がばりばりっと放電する音を響かせる。 
「な、な・・・・何故じゃ!? 私がどれだけの者の霊力を取り込んだと思っとるっ!? そんな、そんな妖怪1人を取り込んだだけのお前に・・・」  
「・・・・ごめんなさいっ!!」 
へたり込む天回に、ヒカリは振り上げた霊波刀を振り下ろした。 

10:20 試験会場武道館外 

救急車がひしめき合う中、ヒカリは担架で運ばれて救急車に詰め込まれるミキとルリに笑った。 
「じゃあ2人共、そのうちお見舞い行くから大人しくね。」 
「悪いね、ヒカリ・・・」 
「いいからいいから。」 
すまなさそうなミキが詰め込まれる。 
「お土産は『レストラン魔鈴』のチーズケーキがいい。」 
「ふふっ、はいはい。」 
続いてルリが救急車に詰め込まれ、2台がサイレンを鳴らして走っていった。 ヒカリの目にピートに連行されながらパトカーに乗せられる天回が映る。  
「・・・・・」 
けたたましく響くサイレンに、ヒカリは目を閉じ、歩き出した。 
「いや―終わった終わった!」 
伸びをするタマモに、パトカーを見送りながら立っているシロとかおりは苦笑する。 
「何が終わっただ。 天井に張り付いてさぼってたくせに。」 
「失敬な。」 
「お前の取り分は半分カットだ。」 
「ま、いいけどね・・・」 
「でもヒカリちゃん、凄かったわね・・・・」 
「「・・・・・・」」 
かおりの言葉に、シロとタマモは黒髪で元の人間の姿に戻っているヒカリに目をやる。 そんなヒカリに、どこからか駆け寄ってきた冥那が跳び付いた。  
「・・・・彼は、やっぱり・・・」 
「死んだでござろうな・・・・ヒカリに同化したようだが、いずれ・・・・」 
言葉を詰まらせるシロとかおりに、タマモはポケットに手を突っ込んで言う。 
「でも、あの子らの同化は天回のものとは違う、でしょ?」 
「そうね・・・」  
「強制的な吸収ではなく、互いに思い合う同化が勝ったわけか・・・・・・愛の力の勝ちでござるな。」 
「似合わん。」 
腕組みするシロに、タマモはうすら笑った。 
「ほれ、あんたもGメンに顔が効くんでしょ? ピートの代わりに現場処理してくれば?」 
「ちっ、お気楽狐め・・・・・かおり殿、今日は助かった。」 
「ふふ、あんまり役に立てなかったけど、またいつでも声をかけてくださいね。」 
「ああ、では。」 
会場の入口に走って行くシロを見送り、かおりとタマモは歩き出した。  
「でも、本当に愛の力なんですの?」 
「まさか。 シロも冗談好きだから・・・」 
「と、言いますと?」 
笑うタマモにかおりは目を向ける。 
「あの蛇君は体が硬い。 鱗が特殊かどうかはもうわかんないけど、霊波に対してアタシらより防御がよかったのよ。 霊力だけ高くした天回の天敵ってわけね。 おかげで外に出れたわけだし。」 
「彼がいなかったら・・・・・私達も、誰も助けられなかったのですね・・・・」 
「かもね。」 
「・・・・・」 
黙りこくるかおりに、タマモはべしっと背中を叩く。 
「あんたもっ、まだまだ精進して頑張らないといけないってことよ。」 
「・・・・・そうですわね。」 
笑顔を戻して頷くかおりに、タマモも笑った。  

12:32 日本GS教会本部    

(聞こえる、蒼葉君?) 
(まあな。) 
廊下の待合席で目を瞑ったままヒカリは座っていた。 腕には頭の半分潰れた蛇が抱えられている。  
(・・・・・大丈夫?) 
(さあな・・・・・なんて答えたらいいか・・・・もう、元にはもどれんだろうがな。) 
(どうなるの・・・?)  
(いずれ消えるから安心しろ。 お前の中に入った俺の力も、な。) 
(そんなっ・・・・・なんとか元にもどれないの!?) 
(仕方ないさ。 あの時・・・・結界の爆発押さえ込んだ時点で多分もう俺は死んだんだ。 消える前にお前の中に入っただけで、ただの一時凌ぎさ。) 
(ごめん、私のせいで・・・・) 
(別に誰のせいでもない。 強いて言うならあのいかれたじじいだが・・・・・今更言っても仕方ないさ。 もうやることは終わった。) 
(・・・・・ねえ、蒼葉君はなんでGS試験に来たの?) 
(資格をとる以外に理由はないだろう?)
(どうして・・・・?) 
(・・・・・・) 
(言いたくないなら、無理には聞かないよ。) 
(・・・・・去年、お袋が死んだ。)  
(蒼葉君のお母さんが・・・?) 
(GSに祓われた・・・・・自業自得さ。 俺が止めろって言うのに、人間の家畜を襲って喰ってたんだ。) 
(・・・・・・) 
(別に人間を恨んじゃいない。 俺の相談にのってくれたGSってのもいたしな。 それで、人間のGSって仕事に興味がわいたって言うか・・・・・知りたくなったのかな? 何となくって言うのが1番しっくりくるんだが・・・) 
(私も・・・・私も同じだよ。)  
(何が?) 
(GSになろうと思った理由。 いろいろ思ったところがあるけど、何となくって言うのが私の理由。) 
(何だ同じかよ・・・・お互いつまんない理由でこんな目にあったわけか。) 
(あははっ、そうだね。) 
(・・・・・これからどうするんだ?) 
(また先生について修行かな・・・? 1次審査に通るよう、ちょっとでも霊力上げないとね。) 
(まだGS目指すつもりなのか・・・・?) 
(決めちゃったから、なるって。) 
(そうか・・・・ならいいさ。) 
(うん。) 
(・・・・・さて、そろそろお時間だな。) 
(・・・・・・) 
(いろいろ世話になったな。 中学で初めて会った時、その霊能者がお前でよかったよ。) 
(・・・・・うん・・・) 
(泣くな、うっとおしい。)  
(な、泣いてないよっ!) 
(いいか二度と泣くなよ? 泣いた時点でGSなんか止めちまえっ!) 
(・・・・・泣いてないってのにっ!) 
(よし、それでいい。 ・・・・・・じゃあ・・) 
(ま、待って蒼葉君っ! あのっ・・) 
(・・・・頑張れよ。) 
(うん・・・・ありがとう・・・・!) 
「横島さん、横島さん・・・?」 
「・・・・はい。」 
目を開いたヒカリは、部屋から顔をのぞかせるスーツの男を見る。  
「すみません、お疲れでしょうが簡単な事情聴取ですから。」 
「いえ。」 
目を擦ったヒカリは笑って立ち上がり、男に続いて部屋に入ろうとし、ふと手に何も持っていないのに気付いた。 
「あれっ・・・あれぇっ!?」 
「どうしました?」 
「あのっ、蛇知りませんかっ!? 私が持ってた・・・」 
「あ、あなたのだったんですか? さっき廊下を這っていたのを見た時はびっくりしましたよ。」 
「這って・・・」 
ヒカリは言い終わらないうちに走り出した。 
「ちょっと横島さんっ!?」 
(生きてたっ、生きてたの蒼葉君っ!?) 
息を切らせて階段を飛び降りるヒカリは、玄関口から外に飛び出て辺りを見回す。 が、その瞳に蛇は映らない。 
「はあっ・・・・はあっ・・・・」 
高ぶる鼓動を抑え、ヒカリはゆっくりと呼吸を落ち着ける。 
「・・・・・生きてたの?」 
そのヒカリの呟きに答えるものはなかった。 ヒカリはそっと目を閉じ深く深呼吸すると、晴れやかな顔で空を見上げた。 
「・・・・・私頑張るよ。 バイバイ蒼葉君。」 

7月5日 マンション横島宅  

「ヒカリっ、たいへんだ起きろ起きろっ!!」 
シロはベッドの上で寝ていたヒカリを引っくり返す。 
「ふわ〜〜〜・・・・い?」 
「寝ぼけとる場合かっ! お前っ、GS資格がもらえたんだぞっ!」 
「しかく・・・資格っ!? えっ、ええええええっ!?」 
跳ね起きたヒカリはシロに掴みかかった。 
「どういうことです先生!?」 
「ぐ、ぐるじいぃ・・・・とにかくリビングに・・・っ!!」 
目を回すシロを放り投げ、ヒカリはパジャマのままリビングに飛び出る。 
「や、ヒカリちゃん。」 
「お兄ちゃ・・・ってあれ・・・・っ!?」 
ソファーにはピートにかおり、タマモが笑って座っている。  
「皆さん・・・?」 
「おめでとうヒカリちゃん、はいこれ。」 
ピートが茶色い封筒をヒカリに手渡す。 
「GS教会からの通知。」  
ヒカリは封を切り、中の資料に視線を走らせる。 
「こ、これっ・・・!」 
「キミに今年のGS資格が与えられることが決まったんだ。 天回を捕まえるのと、一般市民を助けた功績が認められてね。」 
「で、でもあれは・・・っ!」 
ぽんと肩に置かれた手に振り向くと、シロが優しく笑っていた。 
「もらっとけ。 お前の力を、どこかで必要としている誰かのためにな。」 
シロはウィンクする。 
「・・・・・はいっ!! んんん〜〜〜・・・・・・やった――――――っ!! あははははははっ!」  
シロに飛びついたヒカリはぐるぐる回りながら笑った。  

  ― 現在 : ヒカリ資格取得から約3年後 ―  

23:50 横島除霊事務所  

「で、1人しか資格取得した奴がいないから、必然的にヒカリはその年の首席ってわけ。」  
「いいじゃない別に、おかげで事務所再開1年目にして仕事もたくさんきたんだし。」 
「ほとんど詐欺だと思うけどね。」  
テーブルに頬杖突いて言うタマモに、愛子は笑う。  
「それで、その天回衆とか言うのはどうなったの?」 
「さあ? ピートとシロがいろいろ事後処理とかしてたような気もするけど、アタシは関係ないから。」 
「ふ〜ん・・・・・でも今は聞かない流派だし、やっぱり潰れちゃったのかしら?」 
「じゃないの?」 
タマモは水を一気に煽る。 
「蒼葉君ね〜・・・・・ヒカリの初恋の人だったのかな? ねえ?」 
「初恋はピートじゃないの?」 
目を輝かせる愛子に、タマモはあくび交じりで答える。 
「ピート君なんかつまんないわよ。」 
「何だそりゃ?」 
「ねえどう思うっ? ねえねえねえっ!!」 
「そうなんでないの―・・・・?」 
愛子はタマモの首をがくがく揺する。 と、かちゃっとキッチンのドアが開いた。 
「愛子ちゃんお腹減った〜・・・・」 
「あらヒカリ、起きたの?」 
お腹を擦ってヒカリが椅子に座り込んだ。 
「お腹へって眠れないよ〜・・・・・忘れてたけどお昼ご飯も食べてなかったし。」 
「ふふっ、はいはいちょっと待って、何か作るから。」 
笑って立ち上がる愛子。 ヒカリはじっとこっちを見てくるタマモに突っ伏していた顔を挙げる。 
「何話してたの?」 
「別に。 ただの昔話。」 
「そう?」  
タマモの笑顔に、ヒカリもつられて笑った。 
「そうだヒカリっ、あなたの初恋の相手って、やっぱりピート君なのっ!?」 
「はあ・・・・?」 
かんかん動かしていた包丁を止めて振り返ってくる愛子に、ヒカリは顔をしかめる。 
「またその話・・・・? もう勘弁してよ愛子ちゃん・・・」 
「い――から白状しなさいっ!」 
「って、包丁持ったまま迫らないでっ! 危ない危ないっ!! わわ・・・っ!?」 
ぎらつく包丁に、ヒカリは椅子ごと後に引っくり返った。 
「ほらほら―っ、白状しないとご飯作らないわよっ!!?」 
「ええ〜〜お代官様そんな御無体なっ!!」  
「とっとと観念せいっ!」 
「ああ〜〜〜れぇ〜〜〜〜!!」 
ぎりぎりと愛子に後から首を締められるヒカリは、しなを作って手をばたつかせた。 
「お―い、明日も仕事よわかってんの?」 
じゃれあって床を転がるヒカリと愛子に、タマモは優しく笑っていた。 

                                    fin.


【 あとがき 】 
読んでくださった方へ、まずは感謝の気持ちを込めまして、まことにありがとうございました。 本作は私の初期作の「GS美神 ひかり」の側話で、狐の尾的横島娘の資格試験の時の話でした。 オリジナルキャラも含めまして、シロ、タマモ、ピート、加えましてかおりという大人になった彼らの活躍や仕事振り、会話のやりとりなど、楽しんでいただければ幸いです。 やっぱり、私は仕事をするのは「お子様」じゃなくて「大人様」が好きなんですね。 試験時の主人公はまだ若いのでしょうがないのですが、大人様4人のようなのが、本来のGSという職業のありかたじゃないかな〜とか思います。 負けるな大人様っ!! もう1つのお話では、ちゃんと主人公も「大人様」組みに入っていますので、よろしければ読んでやってください。 では。 

読んでくださった方に感謝の意を込めて。 by狐の尾 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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