『 平安な日々 』

著者:まきしゃ


    今日の仕事は山奥のゴルフ場…
令子 「もぉ〜、とんでもないとこにゴルフ場作ったわね〜
  土砂崩れで人が埋まった跡に作るなんて、何考えてんのかしらっ!」
横島 「み、美神さん〜、もうちょっとゆっくり歩いてください〜〜 俺、荷物が重くって…」
   
  ゴロゴロゴロ… あたりが急に暗くなる…
令子 「あら、雨になりそうね…。 横島クン、みんなの雨具出してくれる?」
横島 「はい。 助かった〜、荷物が軽くなる…」
   
  雨具を取りに横島の周りに集まってくる事務所の面々
横島 「はい、これはおキヌちゃんのレインコート。 これは、タマモの。
  これは美神さんの… あれっ? 美神さん?」
   
  一人で先に行ってる令子
横島 「あいかわらず、せわしない人だなぁ〜 タマモ、これ美神さんに渡して来てくれる?」
タマモ 「うん、わかったわ。」
   
  令子を追いかけて行くタマモ
タマモ 「美神さん、これっ。」
令子 「ん? ありがとう。」
  タマモが令子にレインコートを手渡したその瞬間…
   
  ピカッ!  ドド〜〜〜ン!!!  バリバリバリバリ!
   
横島 「う、うわっ! カミナリ? それも、すぐそばに落ちた…?
  み、みんな〜 大丈夫かっ!?」
キヌ 「え、ええ… 私は、なんとか…」
シロ 「せ、拙者も…  ちょっと耳鳴りがしてるでござるが…」
   
横島 「美神さん… 美神さんは…?」
  令子とタマモのいた場所に人影は無く、
  ただ、横島が手渡したタマモのレインコートだけがぽつりと地面に落ちている…
   
シロ 「タマモっ? タマモっ? どこにいったんでござるかっ!?
  ワォワォ〜〜〜ン! タマモっ!? 返事をするでござるよっ!?」
   
  タマモを必死で捜しまわるシロ
  タマモからの返事は、なにもない…
   
キヌ 「横島さんっ! もしかして、美神さん…」
横島 「あ、ああ…。 それしか考えられないっ!」
シロ 「なんなんでござるか? 拙者にも教えて欲しいでござるっ!」
横島 「美神さんの持っている…、時間移動能力!」
   
キヌ 「でも、それって小竜姫様が封印してくれたはずなんですけど…」
横島 「ああ。俺も、そう思っていた。 でも、現実に起きちゃったんだからしょうがない…
  あの美神さんだぜ? 何があっても、驚いちゃいられないさっ!」
キヌ 「そうですね…」
横島 「よしっ! 事務所に帰ろうっ! ここにいても仕方が無いっ!」
  崩れかけていた空から、耐えきれずに大粒の雨が落ちてくる…  ザザ〜〜!
   
  令子の車に乗って、猛スピードで事務所に向かう横島たち…
シロ 「先生っ! 運転は大丈夫なんでござるかっ!?」
横島 「たぶんなっ! 無免許だけど。」
シロ 「さっきの場所で待つのは、まずいんでござるか?」
横島 「時間移動は場所も特定できるんだっ! こんなとこには戻って来ない!
  あの人の帰ってくる場所は、俺たちの居るあの事務所しかないんだっ!!」
   
  対向車線のトラックに危うく衝突しそうになる横島の車  パパパァ〜〜〜!!
横島 「ひぇ〜〜〜!!」
シロ 「せ、先生っ。 美神さんたちが事務所に戻るんならそれでいいでござるが、
  拙者たちも、無事にたどり着きたいでござるよっ?」
横島 「そ、そうだなっ……」
   
キヌ 「横島さんっ!隊長さんに連絡とれましたっ!事務所に待機していてくれるそうですっ!
  あと、小竜姫様、ヒャクメ様にも連絡して、事務所に来てもらうそうですっ!」
   
横島 「そうか、わかった。 えっと、おキヌちゃん、これ、持っててくれる?」
  助手席のキヌに手渡された物は、横島の文珠…
   
キヌ 「えっ? 横島さん、この文珠、何に使うんですかっ?」
横島 「俺の運転で事故りそうになったとき、結界張ってほしいんだ…」
キヌ 「は、はい……(冷や汗)
  緊張感たっぷりのドライブ… いろいろな意味で。
   
   
   
  時間移動してしまった令子とタマモ…
  昼なお薄暗い森の中、薄っすらと雪が積もっている…
タマモ 「美神さん、ここ、どこ?」
令子 「わ、私に聞かないでよっ! 森の中だったら、あんたの方が得意でしょっ!?」
タマモ 「でも…、私の知らない森だわ…」
令子 「そうよね…。 こんな森じゃあ、今がいつの時代でどこなのかもわからないわね…」
   
タマモ 「えっ? どういうこと? 美神さん。」
令子 「どうやら、カミナリのせいで私の時間移動能力が発揮されちゃったみたいなの。
  少なくとも、今いるのは、さっきまでいた時代じゃないわね。」
タマモ 「帰れるの?」
令子 「またカミナリに打たれればねっ! いつになるかは、わかんないけど。」
タマモ 「これからどうするの?」
   
令子 「あ〜もぅっ! 次から次へと質問しないでよっ!
  私だって、どうしたらいいかわかんなくて、困ってるんだからっ!」
タマモ 「わかったわ…   美神さんっ、あれっ、何っ!?」
令子 「だから質問するなって… ん? あれって、どれ?」
   
タマモ 「あれっ。 なんか人みたいだけど…」
令子 「そうね…、人だわ…。 敵か味方かわかんないから隠れるわよっ!」
タマモ 「うん。」
  樹木に隠れて様子を伺う二人…
   
  狩衣をまとってはいるが、どうやら女性らしい人が一人、森の中に入ってくる
女の人 「あ〜〜ん、また逃げられちゃったぁ〜〜
  ちゃんと捕まえないと、お母様に怒られちゃう〜〜〜〜」
   
女の人 「あら〜〜? 私の知らない強い霊気を感じるわぁ〜?
  ねぇ〜〜 誰かいるの〜〜? 私〜、怖いから〜〜、急に出てこないでね〜〜?」
   
タマモ 「美神さん、私たちのことかしらっ?」
令子 「しっ! 静かにっ! この手の人は、驚かせちゃダメなのっ!
  暴走されたら、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃないわっ!」
   
女の人 「あ〜〜ん、でも〜〜、隠れてても怖いから〜〜、出てきて欲しいわ〜〜
  そうだわ〜〜 私〜、目を閉じてるから〜、三つ数えたら出てきてね〜
  ひと〜つ、ふた〜つ…」
   
タマモ 「美神さん、どうするの?」
令子 「………、なんかバカバカしいけど、出て行った方が良さそうね…。」
  目を閉じている女性の前に出て行く二人…
   
女の人 「ひと〜〜つ、ふた〜〜〜つ……
  ひと〜〜〜〜〜つ、ふた〜〜〜〜〜つ……
  あ〜〜ん、やっぱり怖いわ〜〜〜  私〜、帰ろうかな〜〜?」
   
令子 「あんたっ! いい加減にしなさいよっ!」
女の人 「えっ! きゃあぁぁ〜〜〜!!」
  ドッゴ〜〜〜ン!!   式神たちの暴走が始まるっ!
   
令子 「あああっ! あのしゃべりかたからして、そうじゃないかと思ってたけど、
  やっぱり冥子の先祖だったんだわっ! タマモっ! 逃げるわよっ!」
タマモ 「うんっ!」
  懸命に逃げようとする令子だが、足場の悪い森の中、ハイラに追いつかれ
  頭に乗られて夢の中へ落ちてしまう…
タマモ 「美神さんっ!?」
   
   
   
  ………
令子 あっ、あっ、横島クン。 横島クン、助けてっ。 ねぇ、私を助けてっ!
  えっ? 横島クン、どこへ行くの? 私を助けてくれないのっ?
  こらっ、横島っ!助けてって言っとるだろ〜がっ!!」
  ガバッ!!  目を覚ました令子…
   
令子 「あれっ? 私…」
タマモ 「美神さん、すごい寝言ね……。 何言ってたか知りたい?」
令子 「………(ぽっ)  や、やめとくわ……  聞いたら、寝つきが悪くなりそう……
  ところで、ここはどこ? 寝ている間に、何があったの?」
タマモ 「森で会った人の家なんだけど…」
   
  令子の寝言に気付いて部屋に入ってきた二人の女性
中年女性 「あら〜〜、令子さん〜〜 目が覚めましたかぁ〜?
  先ほどは、うちの娘が失礼いたしましたぁ〜」
「ごめんなさい〜〜 さっきは怖かったのぉ〜〜」
   
中年女性 「自己紹介させてくださいね〜〜  私は六道家当主の六道冥京(めいきょう)
  こちらは娘の六道冥佳(めいか)です〜〜」
冥佳 「冥佳です〜 令子ちゃん〜、よろしくね〜
  タマモちゃんから聞いたわ〜 令子ちゃんって、私の子孫のお友達なのね〜
  だから〜、私も〜お友達よ〜〜 うちに住んでていいからね〜〜」
   
令子 「ありがとう、冥佳さん。 前来たときみたいに、検非違使に追われなくて済むわ。
  まあ、冥佳さんがタマモの話を、あっさり信じたのは、うなずけるけど…
  でも当主の冥京さんが、私たちを厚遇するのは、何かわけがありそうですね?」
   
冥京 「おほほほ。 さすがですわね〜 霊能の強い人には隠し事はできませんわ〜
  実は〜、あなた方の強い霊能力を見込んで、お願いがあるのです〜」
令子 「お願い?」
冥京 「はい。 鬼を捕まえて、式神にしてほしいの〜」
   
  六道家の歴史を語り出す冥京
冥京 「六道家は、初代様が十二鬼の式神を操ることで陰陽道の名家になったの〜
  でも〜、初代様の設けた死の試練がとても厳しくて、三代様が耐えられなくて、
  亜空間の底に落ちてしまったの〜」
   
令子 (あのアホな試練に耐えられなかった人がほんとにいたなんて……
  いや、冥子も私たちがいなかったら同じ運命をたどったはずね……)
   
冥京 「そのとき、多くの式神たちが逃げ出しちゃって、六道家存続の危機に陥ったの〜
  三代様の妹様が四代目となって、なんとか危機を乗りきったけど、
  それでも四代様が集めた式神は、四鬼だけだったの〜
  その後、六代目の私までに捕まえたのは八鬼なの〜
  あと残る四鬼を捕まえないと、初代様に申し訳がたたなくて〜」
   
令子 「つまり、残る四鬼を七代目の冥佳さんと一緒に捕まえればいいわけですね?」
冥京 「そうなの〜 お願いできるかしら〜?」
令子 「ええ、いいですわ。 何もしないでお世話になるより、面白そうですしね。」
冥京 「ありがとう〜〜 令子さん〜〜」
   
令子 「ところで、今って、いつなんですか…?」
冥京 「永久二年ですわ〜〜」
令子 「うっ、それだけじゃわかんないわっ。そんな年号、有ったことさえ知らないし…
  それにしても、やな年号ねっ! 永久にここにいろってことかしらっ!?
  ともかく西暦はわかんないだろうし、なにか時代がわかるような質問は…
  え〜っと…、そうだっ、今、都で最も権力の有る人は誰ですか?」
   
冥京 「白河上皇様ですわ〜」
令子 「平安時代の院政の頃ねっ! あ〜、よかった。道真の怨霊が鎮められてから
  ずいぶん後の時代だわ。あんな奴と今出会っても、とても勝ち目は無いもの。」
   
冥佳 「令子ちゃん〜、どれくらい先の時代から来たの〜〜?」
令子 「そうね〜、院政っていうと1100年ぐらいの頃だから、ざっと900年後かな?」
冥佳 「うわ〜〜、すっご〜〜い。」
冥京 「私は、その頃も六道家が名家として存続していることが嬉しいですわ〜」
   
   
   
  冥佳と一緒に、式神狩に出かけることになった令子とタマモ
令子 「冥佳、残る四鬼って、どれのことなの?」
冥佳 「シンダラ(鳥)と〜、インダラ(馬)と〜、サンチラ(蛇)と〜、メキラ(虎)なの〜」
令子 「動きの速そうなやつらばかりね〜〜 えっ? サンチラ?」
冥佳 「サンチラは〜、ヘビで〜、電撃攻撃するこなの〜」
令子 「ええ。 そうだったわね…」
   
  タマモにひそひそ声で話す令子
令子 「帰る方法を思いついたわ。 サンチラの電撃攻撃の力を借りれば…」
タマモ 「でも、今はいないんでしょ?」
令子 「だから、最初にサンチラを捜しにいかせるのよっ!」
   
令子 「あの〜、冥佳さん? 私たち、サンチラの電撃の力を借りると、今まで以上の
  能力を発揮できるの。 だから、最初にサンチラを捕まえれば、残り三鬼も、
  あっというまに捕まえることができるわよっ!?」
   
冥佳 「あら〜、それは頼もしいわぁ〜〜
  でも〜、残念ね〜 今は冬だから〜、ヘビのサンチラは冬眠してるの〜〜
  だから〜、春まで待っててね〜〜」
令子 「冬眠してるなら、簡単に捕まるんじゃないのっ!?」
   
冥佳 「だって〜、仮死状態だからクビラの霊視が効かないのよ〜〜
  それに〜、雪山に居るから〜、そんなとこいったら〜、冥佳、死んじゃう〜〜」
令子 「くっ、ダメか。 私も雪山には行きたくないしね〜〜
  この手段は春まであきらめて、別の方法考えるしかなさそうね…」
   
   
  仕方なく、インダラを捕まえに行く三人
令子 「冥佳、捕まえ方は私が指示するから、あんたは私の言った通りに式神を動かすのよ?」
冥佳 「わかったわ〜、令子ちゃん〜」
  クビラの霊視でインダラを捜す令子たち…
令子 「クビラ、見つけたのね? あんなとこで、のんびり草なんか食べてるわね…
  マコラっ! 異性のインダラに化けて、こっちにおびき出してよっ!
  タマモっ! あんたは幻術を使ってマコラの変身がばれないよう援護してっ!」
  変身したマコラに引き寄せられるインダラ
   
令子 「その調子よ、マコラ! アンチラ、アジラ、今よ、インダラに網をかぶせてっ!
  ビカラ、バサラ、逃げられないよう両脇から押さえつけてっ!
  ハイラ、インダラを眠らせちゃってっ! よしっ! いっちょあがりねっ!
  ショウトラ、インダラが怪我してたら手当てしてやって。」
   
冥佳 「きゃあ〜、令子ちゃん、すっごぉ〜〜い!」
令子 「ま、ざっとこんなもんね〜」
冥佳 「これで、サンチラの力を借りると、もっとすごいんでしょ〜?」
令子 「うっ! そ、そうね…」
タマモ 「美神さん、どうせ春まで待つんなら、ほんとのこと言ってもいいんじゃないの?」
令子 「ん〜、そうね… もう、隠す必要もないか…」
   
  冥佳に自分たちの帰り方を話す令子…
冥子 「へ〜、そおなんだぁ〜 それじゃあ令子ちゃん、春までうちにいるのね〜
  冥佳、うれしい〜〜」
   
  こんな調子で、三日でサンチラ以外の3鬼を捕まえた令子たち…
令子 「なによっ! こんなに簡単に捕まえちゃったら、することが無いじゃないのっ!
  あ〜〜もぅっ! 春までぼぉ〜っと待つしかないっていうのっ!?
  自然のカミナリの招き方なんて知らないしぃ〜〜
  ………、そうだっ! 神・菅原道真なら雷の文珠を譲ってくれるかもっ!
  タマモっ! 北野天満宮に行くわよっ! ついてらっしゃいっ!」
   
  北野天満宮の社殿で…
令子 「えっ!? いないですってっ!?」
神主 「ええ。 いま道真公は、全国の関連神社を行脚しておりまして…。」
令子 「で、いつ帰ってくるのよっ!?」
神主 「大宰府の梅が咲くのを見届けてから、京に戻られるのが通例です。」
令子 「飛び梅か… あのおやじ、恨みは分離されたはずなのに、意外と執念深いのね…
  わかったわ。 戻ってきたら、六道家に連絡してよねっ!」
   
タマモ 「結局、どうなったの?」
令子 「こっちも春までは無理のようね。 ま、しかたがないわ。
  サンチラか、道真か、どっちか早い方で帰ればいいわ。」
タマモ 「ふ〜ん、じゃあ当分の間、六道家に住むわけね?」
   
令子 「それしかないわね〜〜〜
  なんで、この時代に時間移動してきたのか、ずっと考えてたけど、
  どうやら、私と冥子の因縁に引き寄せられたみたいね。
   
  サンチラを捕まえなきゃ帰れないなんて、ひどい話だわ。
  きっと、六道家が式神全部を捕まえたくて、私を呼び寄せたに違いないわっ!
  現代に帰るとき、六道家のお宝、ごっそり持って帰ってやるっ!!」
   
  六道家に戻ってきた二人
令子 「ただいま〜」
冥佳 「タマモちゃん、タマモちゃん、タマモちゃ〜〜〜ん!!」
タマモ 「えっ? 私っ? 何っ?」
   
冥佳 「いま〜、お母様に〜、お客様がみえてるの〜。
  そのお客様に〜、お母様が〜、どうしてもタマモちゃんを会わせたいって〜
  言ってるの〜。 だから〜、会ってあげて〜。」
   
令子 「ちょっと待ってよっ! タマモは私の管轄よっ!?
  いくら居候させてもらってるからって、勝手に仕事に使うなんて許せないわっ!?
  私も、その場に同席させてもらうわよっ。」
冥佳 「そお〜〜? それじゃ〜お母様に〜聞いてみるわね〜?」
   
冥京 「その必要は、ありません。」
  玄関でのやりとりが聞こえていたのであろう、客間から冥京が毅然として答える。
令子 「おばさま、でもっ!」
  冥京が、客間から令子たちのいる玄関に出てくる。
   
冥京 「令子さんのお気持ちもわかります。 でも、今日のお客様は、タマモさんご自身に
  深い関係のあるお方なのです。
  令子さんには、後程詳しく説明いたしますので、今はタマモさんだけに同席して
  いただきます。 よろしいですね?」
  普段ののほほんとした雰囲気は微塵も無く、深刻かつ毅然とした態度で
  令子に対応している冥京。 気おされて、令子も素直にうなずく。
令子 「は、はい。」
   
冥京 「それではタマモさん、こちらへどうぞ。」
タマモ 「どうやら、行った方が良さそうね。」
  客間に入っていく二人…
   
  ひそひそ声で冥佳に質問する令子
令子 「ねえ、冥佳。 いったいどういうことなの? どんな客なの?」
冥佳 「えっと〜、お客さんは〜、若くてとっても美しい人だったわ〜
  でも〜、タマモちゃんとの関係は〜、私も聞いたけど〜、教えてくれなかったの〜」
令子 「ちっ。 盗み聞きするしかないわねっ!」
   
  客間でお客さんにタマモを紹介する冥京
冥京 「お待たせしました。 こちらがタマモさんです。
  900年後から来られた、金毛白面九尾の妖狐、唐子さんの来世です。」
タマモ 「えっ? この人、私の前世?」
唐子 「ほんとだったんですね…」
   
冥京 「タマモさん、こちらのお客様は、和名で唐子さんとおっしゃいます。
  おっしゃるとおり、あなたの前世にあたる方だと思います。」
   
  唐子の方に向き直って語りかける冥京
冥京 「唐子さん、まずはタマモさんとお話なさってくださいね。
  先ほどのご依頼の件は、そのあとゆっくり考えてからご決断ください。
  それでも、どうしてもというのであればお引受けいたしますが…
  では、私は席をはずさせていただきますね。」
   
  ふすまの前で立ち止まる冥京
冥京 「こほんっ。 ふすまを開けますわよっ。」 
  ドタドタドタドタ…   あわてて走り去る二人分の足音…
冥京 「では、ごゆるりと…」
   
  客間に残された二人の妖狐…
唐子 「……、なんだかここだと話しづらいわね。 外に出ない?」
タマモ 「ええ、いいわ。」
唐子 「じゃあ、ついておいでっ!」
   
  客間の障子を開けて、身軽に屋根の上に駆け上る唐子とタマモ
  しばらくの間、六道家の屋根の上でぼんやりと夕日を眺めている二人
   
唐子 「………」
タマモ 「……、ねぇ、唐子さん…。 人間を恨んでるの?」
唐子 「えっ? そんなことないけど、どうして?」
タマモ 「私、前世の… えっと、唐子さんの記憶、ほとんど覚えてないんだけど、
  昔、インドや中国で、人間にひどい目に遭わされたって聞いたわ。」
   
唐子 「ああ、そのことね? まあ、たしかにひどい目に遭ったことはあるけど、それで恨む
  なんてことは無いわ。 だって、私、三千年も生きてるのよ?
  妖狐だからということで、ひどい目に遭ったのは、ほんの数回だもの。
  それより、人間としてひどい目に遭ったほうが、よっぽど多かったの…」
   
タマモ 「えっ? 人間として?」
唐子 「そう、戦争とかもあったけど、日常の中の争い事で、ひどい目に遭ったりしたわ。
  でも、人間のせいだなんて勘違いしないでね? 狐だって、そうなんだもの。
  狐のときって、縄張り争いに必死でしょ? その場の争いでは殺し合いにはならないけど、
  負けたほうは、大抵飢え死にしちゃってるわ。
  そんなこと経験してみると、人間も狐も一緒だな〜と思えてね。」
   
タマモ 「ふ〜ん、人間、好きなんだ〜」
唐子 「ええ。 だからこうして人間形態をしてるんだし…
  それに…、とっても好きだった男の人が、何人もいたの。 ごく最近も。」
タマモ 「結婚してたの?」
   
唐子 「ええ。 最近の人は、ごく普通の人だったけど、私を愛してくれたの。
  子供はいなかったけど、二人で過した平穏な日々が、とても楽しかったわ。
   
  あの人、とても健康に気を使っていたわ。
  最初は、ただ自分が長生きしたいだけなのかなぁ、と思ってたの。
  でも、違った…  私のために、長生きしようとしてた。
   
  私が不老不死だと知ってるくせに、あの人のくちぐせは無理な注文でね、
  『絶対、俺がおまえを看取ってやるからな。』なんて言うのよ。
  私もわかっていながら、『お願いします』って、いつも答えてた。
   
  それなのに、昨日、あの人ったら、私の見てる前で逝っちゃったの。
  『ごめんな、約束守れなくて…』 だなんて…
   
  だったら、もっと生きてよっ! 
  いつだって、みんな、私を残していなくなっちゃう…
  そんなの、ずるいよねっ!? そんなの、つらいよねっ!?」
   
タマモ 「唐子さん……」
   
唐子 「ごめんね、タマモちゃん、ちょっと取り乱しちゃって…
  たぶん、誰かに聞いて欲しかっただけだと思うわ…
  変ね、何千年も生きてるのにね。
   
  でも、私、タマモちゃんに会えて嬉しかったわ。 だって、私、死ねるんだもの。
  900年後から来たんなら、それまでの間に、私、必ず死んでるわよね。
  それがわかっただけでも、私、気が楽になったわ。
   
  好きな人に看取ってもらうなんて、甘すぎる夢だとは思うけど、
  でも、不可能じゃないんだから…。
   
  タマモちゃんは、まだ若いから、気にもしてない事だろうけど、
  私が死ねるんだから、あなたも死ねるわ。 安心していいわよっ!
   
  ふう、私、もう帰るわね。 だってあの人のお墓、作ってあげなきゃ。
  タマモちゃん、聞いてくれてありがとう。  六道さんには、こう伝えてね。
  『ありがとう。 依頼は取り下げます。』ってね。 じゃ!」
  タマモを残して夕闇に消えて行く唐子…
   
  少々あっけにとられながら家の中に戻ってきたタマモ…
冥京 「タマモちゃん、ご苦労様。 唐子さん、何か言ってた?」
タマモ 「ええ。 依頼は取り下げるって…」
冥京 「そうよね。 そうでなくっちゃ。」
   
令子 「おばさま、そろそろ教えていただけませんか?」
冥京 「ええ、いいわ。 無事解決したみたいだから。 彼女が金毛白面九尾の妖狐で
  タマモちゃんの前世ということは、もうわかってるわよね?
  彼女の依頼は、彼女自身を護符に封印してもらうことだったの。」
   
令子 「えっ? それって、妖狐の自殺行為?」
冥京 「そういうことになるわね〜」
令子 「タマモ、あんた、なんて言って説得したの?」
タマモ 「私は何も言ってないわ。 ただ私を見て、死ねるんだって喜んでた。」
   
令子 「そうか、死ねないことで悩んでたのか… 妖狐には妖狐なりの悩みが有るのね…
  寿命の有る人間が何言っても説得力ないし、タマモの存在だけが救いになったのね。
  でも、これでこの時代に時間移動した理由がはっきりしたわ。
  ようするに、前世の妖狐の危機を、タマモが救いに来たってわけか。
  ちぇっ、私の式神狩は、おまけだったのねっ!」
   
冥佳 「でも〜、令子ちゃん〜〜 春までは、まだ一ヶ月以上あるわ〜〜
  ゆっくりしてってね〜〜〜」
   
   
  一方、現代では…
   
   
  なんとか身体だけは無傷で事務所に帰りついた横島たち…  車は傷だらけ…
横島 「はぁ〜〜、無事にたどり着いたぞ〜〜」
シロ 「拙者、先生とはドライブしたくないでござる…」
   
  事務所では、美知恵、小竜姫、ヒャクメが三人の帰りを待っていた
小竜姫 「みなさん、お帰りなさい。 美神さんが時間移動をしたというのは本当ですか?」
横島 「ええ。 ほかに考えられません。」
  当時の状況を語る横島
   
小竜姫 「わかりました。 どうやら本当のようですね…。」
キヌ 「小竜姫様、能力を封印されたまま時間移動することって考えられるんですか?」
小竜姫 「考えられません。 普通は…
  もし封印したまま強引に移動したなら…
  最悪の場合、時間の狭間にはさまって、永遠に戻って来れないかも…」
キヌ 「そ、そんなぁっ!!」
   
小竜姫 「ですから、なんらかの原因で、封印が解かれた可能性を考えたほうがいいでしょう。
  そうであれば、捜す方法を考えることができます。」
   
キヌ 「え〜っと、美神さんが封印されたのっていつでしたっけ? 横島さん。」
横島 「たしか、昔のカオスに会ったあとでしたよね? 小竜姫さま。」
小竜姫 「ええ。 そのとき、たしかに令子さん本人の依頼で、私が封印をしました。」
   
横島 「そのあと、ヒャクメが封印を解いて、平安京に行ったんですよね?」
ヒャクメ 「はい〜。 私が封印を解いて〜  え〜っと あ、あれれ〜〜?」
   
小竜姫 「ヒャクメっ! もしかして、あなた封印を解いたままだったのではっ!?」
ヒャクメ 「あああ、でも〜〜 アシュタロスの件が終わった時、封印しませんでしたぁ〜?」
小竜姫 「あのときは、美知恵さんしかしていませんっ!
  令子さんは、封印されているものと信じていましたからっ!!」
ヒャクメ 「あああ、もしかして〜、あたしのせいぃ〜〜?」
   
キヌ 「で、でも、ヒャクメ様。 封印が解かれていたおかげで、カミナリの直撃を受けても
  時間移動だけで、死なずにすんでるわけですから…」
美知恵 「おキヌちゃん、ヒャクメ様をかばいたい気持ちはよぉ〜くわかるけど…
  でも、あの能力があると、カミナリを引き寄せてしまう力もあるのよ…」
   
ヒャクメ 「あああぁ〜〜〜」
   
小竜姫 「原因がはっきりしただけでも上出来だわ。 あとは、捜索するのみっ!
  ヒャクメっ! あなたの目で、今の美神さんが行きそうな時代と場所を捜してっ!」
ヒャクメ 「えぇ〜〜〜? 範囲が広すぎて無理なのね〜〜
  土偶羅〜〜、絞り込んでくれますか〜〜〜?」
   
横島 「えっ? 土偶羅? なんだ。 おまえ、来てたのか?」
土偶羅 「わしは、ヒャクメの頭脳役として来ておるのだっ!」
横島 「おまえに美神さんの居場所がわかるのか〜? 不安だな〜」
   
土偶羅 「こう見えても、わしの情報処理能力の高さは、神界、魔界で有名なんだぞっ!
  それに美神令子の場合はあんなことがあったから特別に情報が多いのだな。
  もう少し待っておれ。 まもなく演算処理が終わる…」
   
  静かに回答を待つみんな… やがて…
土偶羅 「わかったぞっ!」
横島 「どこだ? 美神さんは、いつのどこにいるんだっ!?」
   
土偶羅 「美神令子は、時間移動をしないっ!」
横島 「なに〜〜? きさま〜、人をバカにしとるのかぁ〜〜?
  時間移動をしたから、きさまに計算させたんだろうがぁ〜〜〜!!」
   
土偶羅 「ま、まあ、待て。 話を最後まで聞けっ!
  つまり、今の美神令子には、時間移動をしなければならない因縁やら欲求やらが
  無いのだ。 現世利益を最優先しとるだけのことはあるな。
  だとすると、時間移動の座標軸は、一緒についていった奴が描いたということになる。」
シロ 「タマモでござるかっ!?」
   
横島 「そういえば、カオスに会ったのも、マリアの記憶だったな…」
土偶羅 「だろ〜? わしの言うことは正しいのだっ!」
横島 「じゃあ、タマモの行きそうなところを計算せんかい〜〜!!」
土偶羅 「無茶言うな〜〜!! そのタマモとかいう奴の情報など、わしの中にはまったく
  インプットされとらんわい〜〜!!」
横島 「この役立たず〜〜〜!!」
   
美知恵 「土偶羅さま、タマモは金毛白面九尾の妖狐なんだけど、それでわかる?」
土偶羅 「ほお、その妖狐の情報ならインプットされておるが…
  ただ、それだけでは範囲は広いぞ? なにせ数千年も生きておるからな。
  それに、外部情報だけでは、あまりあてにはならんのだ。
  本人の考え方や感じ方のわかる、内部情報がないとな。」
   
横島 「そんなんが判れば、おまえになんか聞かんわいっ!」
キヌ 「あっ、もしかしたらっ!」
横島 「えっ? なにか情報があるの? おキヌちゃん。」
キヌ 「ちょっと待ってて下さい。 とってきます。」
  パタパタパタ 屋根裏部屋に駆けて行くキヌ パタパタパタ
   
キヌ 「あの、これ、タマモちゃんの抜け毛なんですけど…」
横島 「そ、それが情報?」
土偶羅 「ほお、いい所に目をつけておるな。重要な情報源だ。解析するから待っておれ。」
横島 「えっ? マジ?」
   
美知恵 「横島くん、体毛にはその人自身の様々な情報が含まれているの。
  人間でも、DNAや血液型などがわかるでしょ?」
横島 「そういえばそうですね。 さすが、おキヌちゃん!」
キヌ 「これでわかればいいんですけど…」
   
土偶羅 「う〜む、残念だが情報が新しすぎるわい。
  この妖狐も、美神令子と同じで、現世を大切にしておるようだわ。
  それも、ここ1年ばかりの短い期間をな。 これでは移動が予想される時代が今という
  ことになってしまうのだ。 もっと、前世とかの情報がわかればよいのだが…」
   
キヌ 「前世ですか? 殺生石でわかればいいんですが…」
美知恵 「そうねっ! 殺生石のカケラは、小さいものなら残っているはずだわっ!
  それなら彼女の前世の情報が、確実に得られるわよっ!」
小竜姫 「わかりました。 私が取ってきましょう。 場所はわかりますので、すぐに戻れます。」
  言い終わるやいなや、那須高原に飛んで行く小竜姫
   
横島 「なんだかうまく行きそうな感じだな。 おまえも役に立つなっ!」
土偶羅 「なにをのんきなこと言っておる。 口数は多いが、貴様はなんの役にもたっておらん
  ではないか。 人のことを言うまえに、自分の心配をしろっ!」
横島 「うっ…!」
   
  あっという間に戻ってきた、小竜姫
小竜姫 「土偶羅、これでわかる?」
土偶羅 「ふむ、情報量は多そうだな。 かなり絞られそうだわい。」
  かたずを飲んで待つ事務所の面々…  やがて…
土偶羅 「わかったぞ。 移動確率82%で、1114年の平安京だっ!」
横島 「げっ! また平安京?」
ヒャクメ 「ああ〜〜 ちょっと不安ですね〜〜」
   
横島 「居場所がわかったんですから、助けに行きましょう! 小竜姫さまっ!」
小竜姫 「そおね…。 少しでも早く、令子さんたちを助けないと、時空の混乱が大きくなりすぎて
  取り返しのつかないことになりかねません…。
  ですから、美知恵さんの封印を解いて、助けにいけばいいのですが…」
   
  すまなそうな顔をして美知恵を見る小竜姫…
美知恵 「いえ、私のことは心配しなくていいですわ。 娘のためですもの。」
キヌ 「ど、どういうことなんですか? 小竜姫さまっ!?」
   
小竜姫 「アシュタロスとの戦いで、美知恵さんの身体にはかなりの負荷がかかっています。
  その後の5年でほぼ回復されたとは思いますが、時間移動にかかる負荷が、
  今の美知恵さんの体力で、耐えられるかどうか、心配なんです…」
キヌ 「そんなぁ〜〜!!」
   
  先ほどから片隅でパソコンのキーボードを叩いていたヒャクメが嬉しそうに言う
ヒャクメ 「心配ないですね〜〜。 美知恵さん自身が往復するのは大変ですが、
  能力を借りるだけなら、美知恵さんにはたいした負担にならないんですね〜。
  それじゃあ、横島さん、行きましょうね〜。」
横島 「えっ? 俺っ!?」
   
ヒャクメ 「そうなんですね〜。 私の神通力だけでもなんとか往復できますが〜
  横島さんの文珠が有れば、より安全に帰ってこれるんですね〜。」
横島 「そうかっ! そうだなっ! 俺って役に立つんだな〜。
  ほらみろ、土偶羅っ! 口先だけじゃなかったろ?」
土偶羅 「まあ、無事に戻ってきたらほめてやるよ。 ただ、その方法だと… 」
   
  美知恵の頭にコードを貼りつけるヒャクメ
ヒャクメ 「それじゃあ、行ってきますね〜。 すぐ戻ってきますからね〜〜」
横島 「えっ? ヒャクメ、もう行くの? あの、俺、まだ心の準備が…」
小竜姫 「あっ! ちょっと、ヒャクメっ!?」
  ヴィ〜ン   時間移動してしまうヒャクメと横島
   
小竜姫 「ああああ〜〜〜」
キヌ 「あの〜、土偶羅さん、何を言いかけたんですか?」
土偶羅 「ん? 今のヒャクメの取った方法だけどな、美神令子に無事会えれば問題無いが、
  もし会えなかったら、あの二人が戻ってくるのは不可能だってことをだな…」
キヌ 「ええ〜〜〜〜っ!?」
   
  事務所全体が、どんよりとした重い空気につつまれてしまう…
美知恵 「あの、私が今すぐ追いかければ…」
小竜姫 「横島さんの文珠が有りませんので、カミナリを待つしか…」
美知恵 「あっ……」
   
小竜姫 「仕方有りません。 たとえ過去にどんなことが有ろうと、戻ってくるなら、
  この一時間内外になるはずです。 今は、ただ待つしかありません。」
美知恵 「そうですね。 小竜姫さまのおっしゃる通りですわ。
  おキヌちゃん、お茶にしましょう。」
キヌ 「は、はい…」
   
   
  時間移動中のヒャクメと横島
横島 「ヒャクメと二人ってのは、なんか不安だなぁ〜。」
ヒャクメ 「え〜っと〜」
  時間移動に他の人が紛れ込んでいないかを確認するヒャクメ
ヒャクメ 「ほら〜、今回は二人だけですね〜。 予定通りなんですね〜。
  私の神通力も、たっぷり捜索に使えますから心配ないですね〜。」
   
横島 「そうだよなっ! あとは美神さんを捜すだけだ。
  でも、美神さんが居なかったら、どうやって帰るの?」
ヒャクメ 「えっ!?」
横島 「えっ…て。」
ヒャクメ 「ほ、ほら、82%の確率ですからっ!」
横島 「残り18%は…?」
   
ヒャクメ 「と、とにかく悩んでも始まりませんねっ! きっと居ますねっ!」
横島 「そ、そうだよな。 あはは、あはっ。」
ヒャクメ 「あははは……」
  時空の中に、乾いた笑いがむなしく響く…
   
  二人が着いたのは、雪の降り積もったお寺の境内
  霊視中のヒャクメ…
ヒャクメ 「…………」
横島 「……………、そろそろ……、結果を知りたいんだけど……」
ヒャクメ 「…………」
横島 「…………」
ヒャクメ 「……………、横島さん〜〜、帰れなくなっちゃった〜〜〜」
横島 「…………」
   
横島 「うわぁぁ〜!! どうすりゃ〜いいんだ? 俺たちぃ〜〜!!」
ヒャクメ 「ごめんなさい、ごめんなさいっ! 必ず元の時代にお戻しいたしますからっ!」
横島 「どうやって?」
ヒャクメ 「ほ、ほらっ、私たちがこの時代に来ていることは、土偶羅が知ってますよね?
  だから、美神さんたちが無事に元の時代に戻ったら、必ず迎えにきてくれますねっ!」
   
横島 「俺たちって、その美神さんを助けに来たんですよね…?」
ヒャクメ 「そ、そうなんですけどね… ああ〜〜ん…」
   
横島 「とほほ…、泣きたいのはこっちなんだけど…
  あ〜あ、助けが来るまで、この時代で生きてくしかないのかぁ……」
ヒャクメ 「横島さん〜、ごめんなさい〜〜〜 ぐすっ…
   
横島 (ぶるぶるっ!) うっ、希望が無くなったと思ったら、急に寒さが身に染みる…
  とにかく、このお寺の中に入って、あったまろう…」
ヒャクメ ヒックッ ぐすぐす… そうですね…  あああぁ〜〜〜っ!?」
   
横島 「こ、今度はなんだっ!? も、もう少々のことじゃ〜、驚いてやんないぞっ!?」
ヒャクメ 「よ、横島さんっ! こ、ここは、奥州平泉…、みたいですね〜〜!!」
横島 「なに〜〜〜!?」
  目の前の寺の銘には中尊寺の文字が…
   
横島 「どうやったら、平安京を目指して奥州に来れるんだぁ〜〜!?」
ヒャクメ 「ど、どうしてかしら… えっと、えっと… ああ、わ、わかりましたぁ〜
  土偶羅の地理データは魔族仕様だったのに、そのまま神族仕様の私のパソコンに
  入力しちゃったので… で、でも、時間データは神魔共通ですから…」
   
横島 「でも、さっきの霊視じゃ、この時代に美神さんは居なかったんだろ?」
ヒャクメ 「い、いえ、さっきの霊視は、この近辺だけでしたので〜。
  えっと、平安京の方を長距離霊視してみますね〜〜。」
   
  寒さに震えながらヒャクメの調査結果を待つ横島…
ヒャクメ 「ああ〜〜! 居ました、遠くてはっきりしませんが、たしかに美神さんの霊波ですね!」
横島 「おおっ! 希望が湧いてきたぞっ! すぐに平安京に行こう!」
ヒャクメ 「そうですね〜〜!! 平安京に着けば、全然問題無いですね〜
  私が空を飛んで横島さんを運びますから、安心してくださいね〜〜」
横島 「おっし、まかせた。 たのむぞ、ヒャクメ。」
ヒャクメ 「では、行きますね〜〜」
   
  横島をぶら下げて、平安京に飛び立つヒャクメ ふわふわ ひゅぅ〜…
横島 「………、遅い…」
ヒャクメ 「すいません〜〜〜  さっきの長距離霊視で神通力を大量消費しちゃって…」
横島 「このペースで行くと、何時間ぐらいかかるんだ?」
ヒャクメ 「え〜〜と… その〜〜  3日ほどかも…」
横島 「なに〜〜? 3日ぁ〜?」
ヒャクメ 「そ、それも〜〜 ノンストップでですので〜 休憩入れると、その倍かも〜〜」
横島 「はぁ…、もう、好きにしてくれ〜〜」
ヒャクメ 「すいません〜〜〜」
   
  それから5日後…
  神通力が切れて動けなくなったヒャクメを背負って、雪の山道を歩く横島…
ヒャクメ 「はひ〜〜、すいません〜〜 横島さん〜〜〜」
横島 「うう…、俺、平安京に着く前に、死ぬかも〜〜」
   
   
   
  六道家 令子たちが居候してから10日目…
冥佳 「令子ちゃん〜、誰か、お客さんがみえたみたい〜〜」
令子 「へ〜、私に? どんな人?」
冥佳 「わかんない〜  フミさんに聞いただけだから〜」
令子 「ふ〜ん、私の仕事ぶりに、もう目をつけた人がいるのね〜
  金持ちそうだったら、おもいっきりふっかけてやろう。」
   
  玄関に向かう令子
  そこには、雪まみれで衣服もぼろぼろになっている横島が…
令子 「えっ? あんた、よこしま…クン?」
   
横島 「美神さん……、助けに来ました。」
   
令子 「………、ありがとう。 ……待ってたわ。」
   
  ふぅ〜〜  パタン…
  令子の言葉を聞き終わると、膝から崩れ落ちて倒れる横島…
令子 「えっ? 横島クン? だ、大丈夫っ!? ああ、ひどい霜焼け?
  冥佳〜〜!! ショウトラをっ! ショウトラでヒーリングしてあげてっ!」
   
  倒れた横島に投げ出されて転がっている、神通力の切れたヒャクメ…
タマモ 「ねえ、あなた、誰?」 指先でヒャクメをつっつくタマモ…
ヒャクメ 「はひぃ〜〜 なんか、さびしいですね〜〜」
   
   
  翌日 六道家でたっぷり休みを取って元気になった横島とヒャクメ
横島 「なんだ〜、こっちに来てからは、ずっとここだったんですかぁ〜」
令子 「うん。 おかげで、ちっとも危険なことは無かったわ。」
横島 「俺のほうが、よっぽど危ない目に遭ってたのか〜  ヒャクメのせいで。」
ヒャクメ 「すいませんですね〜〜」
   
冥佳 「令子ちゃん〜、サンチラは〜〜〜?」
令子 「横島クンの文珠で帰れるから、もう必要ないの。 ごめんね。
  あっ、そうだ。 ヒャクメ、あんたなら冬眠中のサンチラでも見つけれるでしょ?」
   
ヒャクメ 「ええ、やってみますね〜。 あ〜、いましたいました。
  巳の方角で、山の中にいますね〜。」
   
令子 「よしっ! 居場所がわかってるなら雪山でも気にならないわっ!
  今から捕まえに行くわよっ!」
横島 「えっ? 今からですか?」
令子 「横島くんは、休んでていいわ。 冥佳、シンダラ使って現場に行くわよ。
  ヒャクメ、案内たのむわねっ!」
ヒャクメ 「はひ〜、神使いのあらい人ですね〜」
   
  あっという間に飛んでいった三人…
横島 「あいかわらず、せわしない人だなぁ〜」
タマモ 「でも、おかげで飽きないわ。」
   
   
  全鬼を捕まえてもらってニコニコ顔の冥京と、帰り支度をする令子たち…
冥京 「ありがとう、令子ちゃん、タマモちゃん。
  おかげで、六道家の面目が保てましたわ〜」
令子 「いえいえ、私もサンチラを捕まえずに帰るのは、なんだか仕事をやり残した感じがして、
  落ち着かなかったものですから。」
冥佳 「あ〜〜ん、令子ちゃんが帰っちゃう〜〜 冥佳、悲しい〜〜」
   
令子 「おばさま、冥佳、お世話になりました。
  帰ったら、あなた方のご子孫に、ここでお世話になったことをお伝え致しますわ。
  じゃあ、横島クン、帰るわよっ。 文珠をお願い。」
横島 「はいっ。」
   
  キ〜〜〜ン
   
  時間移動を終えて美神事務所のテーブルの上に戻ってきた四人 ドタタタッ!
   
横島 「あ、熱っちぃ〜〜〜!!」
  キヌが入れたばかりのお茶の中に、指を突っ込んでしまった横島
キヌ 「横島さんっ! 大丈夫ですか? はやく冷やさないとっ!」
  横島の手を引いて台所に駆け込むキヌ  水道で横島の指を冷やしながら…
キヌ 「横島さん、お帰りなさいっ!」
横島 「えっ、ああ。 ただいまっ!」
   
美知恵 「ずいぶん派手な、ご帰還ねっ! 早く、そこから降りなさいよ。」
令子 「あっ、ママッ。」
美知恵 「令子…、お帰り。」
令子 「……、ただいま。」
   
小竜姫 「あなた、いきなり行っちゃったから心配してたのよ?」
ヒャクメ 「はい〜〜、かなり危なかったですね〜〜」
土偶羅 「な〜に、わしの計算が正しかったから、みな無事に帰ってこれたのだ。 わはは。」
   
  まわりの様子を、ぼんやり眺めていたタマモ…
  やがてシロと目が合い、うつむきかげんで一言…
タマモ 「……、ただいま、シロ。」
シロ 「うぐっ…」
  タマモに抱きつくシロ!!
   
シロ 「タマモっ! タマモっ! 帰ってきてくれて嬉しいでござる〜〜!!
  タマモが拙者を残していなくなっちゃうのかと、不安だったでござるよ〜〜!!
  あんな思い、もう、したくないでござる〜〜〜!! ワォ〜〜〜ン!!」
   
タマモ 「(クスッ) 心配しないで…。 あんたは絶対、私が看取ってあげるから……」
   
   
   
  翌日 美神事務所
令子 「ゴルフ場の仕事はパァになっちゃったけど、式神狩のお礼以外に
  お宝ごっそり頂いちゃったから、大もうけだわ〜〜。」
横島 「あんたなぁ〜…」
令子 「あ〜ら、当然の報酬よっ! 式神全鬼を揃えてあげたんだからっ!」
横島 「自分を正当化するために、サンチラも捕まえたんですね…?」
   
令子 「それに〜、なぜだか傷だらけの車の修理代も、安くはないしね〜〜?」
横島 「えっ? あっ、はは…」
   
  しばらくして…
冥子 「令子ちゃん、令子ちゃん、令子ちゃ〜〜〜〜ん!!」
令子 「あれ? 冥子、どうしたの? 明日あたりにでも、あんたんちに行こうと
  思ってたんだけど…」
   
冥子 「実は〜、うちに〜、代々伝わる古文書が有って〜〜、その表書きに〜、
  今日開封して読むように〜って書いてあったの〜。
  そしたら〜、宛先は私で〜、書いた人は六代目の冥京っていう人で〜、
  令子ちゃんのことが書いてあったの〜〜。 なんだか〜、すごいでしょ〜〜?」
   
令子 「へ〜、900年前に今宛てに書かれた手紙かぁ〜。
  よく、今日まで残っていたわね〜。さすがに名家と言われるだけのことはあるわ。
  それで、なんて書いてあるの?」
   
冥子 「それじゃあ、冥子、読むわね〜〜
手紙 『親愛なる我が子孫の冥子さんへ
  私どもは、あなたのお友達である美神令子さんに、大変お世話になりました。
  そのため、我が家に伝わる家宝を20品、令子さんにお貸ししております。
  その中から、令子さんのお好きなものを1つ選んでもらって、差し上げてください。
  残りは大切な家宝ですので、六道家で保管するようにっ!   六代目 冥京 』
   
令子 「あ、あの、くそばばぁ〜〜!! とんだ女狐だったわっ!
  900年かけてまで、お宝を取り返そうとするだなんてっ! キィィ〜〜〜!!
   
横島 「1個貰えるだけでも、いいじゃないっスか……」
冥子 「令子ちゃん、なんで怒ってるの〜〜?  冥子、わかんな〜〜〜い」
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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