GSM MTH4
Into the darkness――闇の中――


Prologue――序章――

 これは始まりでしかないんだよ……そうだろう? ……君にとっても、僕にとってもね…… いや、ちょっと違うかな? 君にとってはこれが本当の始まり。……だけど、僕にとっては、これは本当の始まりじゃなくて、『結果の始まり』なんだからね。
 そんな恐い顔して睨まないでよ。ここでは僕はもう闘うつもりはないよ。今の君と闘うつもりはない。……何故だか分かるかい?
 ……まあ、分からないだろうね。君には、今、僕の言っている事は殆ど理解できないはずだよ。……それでいいんだ。
 だってそうだろう? 君にここで理解してもらってしまったら、この後僕がやろうとしている全ての事が無意味になってしまうんだからね。
 おやおや、もうここで闘り合うつもりはないと言わなかったかい? 殺意をひしひしと感じるよ。……僕にとっては心地よい限りだ。僕のやったことに対して、君が怒りを覚えてくれているんだからね。
 君は今、苦しみを感じているかい? ……いや、わざわざ訊ねなくても分かりきっていることだね。昔は君も殺したんじゃないのかな? 君は今なお殺人者であり続けることを拒むつもりかい?
 いや、君はもう殺人者ではないのだろうね。それは分かっていたよ。でもね、君は今、僕を殺したいと思っているだろう? ふふ……君はもう一度殺人者に戻るしかないんだよ。……おっと。非道いなぁ……こちらは闘るつもりはないと言ったのに……
 ……あれ? 悔しいかい? 今のも悔しいかい? これは儲け物だ。こんな所で早くも君に第二の苦しみを与える事が出来るとは思わなかったよ。
 さて、君は苦しみを受ける事に対して、どんなことを思うかな?
 別に不条理な事じゃないよ。……僕も兄さんも苦しんだんだ。今度は君の番でも、別におかしいことじゃないだろう?
 ふふ、納得できないみたいだね。……君が苦しみを強める後悔に苛まれるのは、僕にとっては素晴らしい事だよ。
 おやおや。泣いているのかい? 今の君には、僕でも勝てそうにはないな。……でも、今の君では、僕には絶対に勝てはしないよ。……何故だか分かるかい?
今の君は殺人者じゃない。……殺人者に戻ることも出来ないだろうね。修羅となって、『殺人鬼』になるだけだ。……それは、たとえ僕を殺しても終わらないよ。
まあ、僕がそんなたいそうな説教を出来る身分であるわけでもないよ。……僕がしたいのは、ただ単純に、兄さんの復讐だけだ。
 復讐だなんてたいそうな言葉を使ってはいるけれど、それほどたいした事がしたいわけでもないよ。……今の傷だらけの君を敢えて逃がそうと思うんだ。……おっと、大丈夫だよ。やるからにはちゃんと意味もある。
 君にはね、僕と、兄さんの苦しみを味わってもらいたいんだ。……そして、これでそのうちの一つを、君は味わった事になるね。
 君は鬼になるんだ。……僕を殺す為にね。……そして、鬼となって苦しむんだよ。……罪悪感に苛まれてね……
 だから、僕は今、君を殺さないよ。……君は僕が去るまでここに居るといいよ。……大丈夫だよ。ふふ、送り迎えくらいはさせるから。
 ……いいよ。僕を殺したいんだね? 殺しに来るがいいさ。……僕はそこに居る。
 アメリカに来るんだ。……僕は、アメリカに居るよ。
 悪いけれど、場所は自分で探してくれ。……君はどうしても、僕を殺すまで苦しみ続けなければならないからね…… 頑張ってくれ。
 じゃあ、僕はもうそろそろ行くよ。これでもそれなりに忙しいんだ。
 またね。伊達雪之丞。あなたに訪れる未来が、幸福なものでありますように…………
 

 屋内の暗闇の中。……伊達雪之丞はそこに居た。……ただ、身動きすら出来ずにそこに居ただけだった。
「俺は…………何をやっていたんだ……?」
 自分は、何をやっていたのか。
「俺は…………何が出来たんだ……?」
 自分には本来、何が出来たのだろうか……?
『敵』は去った。………………自分はここに居る。……だが、『敵』は去った。
 ――自分に、絶望と後悔だけを残して……
(俺は……何なんだ……? 結局……結局こうなのかよ! 俺は……俺はっ……!! ……結局……弱かったあの頃と……何も、変わっちゃいない……)
 それが自分なのか? それが、自分という者なのか? 『敵』の嘲りに身体を動かす事すら出来ず、『敵』のいいように生かされている。それが……俺なのか……!? 伊達雪之丞なのか……!?
 闇の中には、何もない。ただ、見えるのは血まみれで地べたに転がる自分の姿だけ。……それすらも、仮初めの物でしかない。
 気配が近づいてくるのが分かる。……『敵』の言っていた、『送り迎え』か。
 何かが頭の中を埋め尽くすのを感じる。
……そして、伊達雪之丞は――――

――To be continued――


※この作品は、ロックンロールさんによる C-WWW への投稿作品です。
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