『 時空を越えて! 』

著者:まきしゃ


    アシュタロスが世界を恐怖に陥れる3年前のこと…
  南米の熱帯雨林、公彦の研究フィールド。 いつものごとく、のんびりと定点観測地へ向かう。
   
公彦 「さてと、ヒナ鳥たちは元気かな?」
ヒナ鳥1 『腹へった〜〜 おなかがすいたよぉ〜〜』
ヒナ鳥2 『腹へった〜〜 エサはまだかなぁ〜〜?』
公彦 「まだ、親鳥は戻ってないのか。 当分、この子たちは他のことなど考えないだろうな…」
   
  テレバスの彼にとっては、動物の心を読むのは簡単な仕事だった。
  定点観測することで、ヒナの心の成長具合がよくわかる。
  娘の令子を間近で育てられなかった彼にとって、それはとても楽しいことでもあった。
   
  だが、大人になった動物たちには、少々まいっている…。
オス鳥 『子作りしたいメス〜〜 俺の作った巣は立派だぞ〜〜 うちにおいでよ〜〜!』
メス鳥 『あら、なかなかいい巣ね〜  でも〜、このオス、弱そうだしな〜〜』
   
  これが昆虫だと、もっと単純となる…
オス虫 『おお〜! 発情したメスの臭い!! 交尾だ、交尾だ、子作りするぞ!』
メス虫 『いいオス寄っといで〜! 子作りするわよ〜!』
   
  まあ、動物の本能だから、しかたがない。
  性欲と食欲が動物を支配していて、その感情が日々満ち溢れているのだ。
  あとは、その感情の発達具合が種族によって異なるだけであった。
   
  現場で観察日誌を書き終えて、この地の我が家に戻ってきた公彦
公彦 「ただいま〜」
美智恵 「あなた、お帰りなさい〜。 今日は、なにか新しい発見は有った?」
公彦 「いや、特に目新しいことはなかったな… えっ? おいおい… まだ夕方だぞ?」
美智恵 「別に関係ないじゃん。 ねえ、いいでしょ〜?」
公彦 「あ、ああ…」
  まあ、人間も動物だから、しかたがない…。
   
   
  動物の本能を満足させたあと、のんびりくつろいでいる二人…
美智恵 「あ〜あ、私がこんな生活してるなんて、令子にばれたら怒るだろうな〜」
公彦 「まあね…。 でも、ばれてなかったんだろ? えっと、今から3年後だよな。 会えるのは。」
美智恵 「うん。 今は、神父の所でGSの修行をしてる頃よね。」
公彦 「ああ。 神父には帰国したとき、いろいろ令子の話を聞きたいんだけどな。
  でも、うっかり君のことを話してしまいそうで、会うに会えないよ…。」
   
美智恵 「ごめんね〜、私のせいで、つらい思いをさせちゃって…」
公彦 「あ、いや、僕のほうこそ…」
美智恵 「まあ、ほんとに悪いのは、2年前にやってきた時空移動能力者なんだけどねっ!」
   
   
  2年前の、というよりはアシュタロスが猛威を振るう5年前の東京…
  東都大学 動物行動学教室に入った一本の電話…
公彦 「お電話かわりました。 美神ですが…。 あ、なんだ、美智恵か。 どうしたんだい?」
美智恵 「なんだはないでしょ〜? 愛する妻が、あなたを頼って電話をしてるのに〜!」
公彦 「あっ、いや、ごめん…。 で、でも、今は仕事中なんだろ?」
美智恵 「そうよ? (けろっ) だから、電話したの。
  今、警視庁からなんだけど、あなたの能力がどうしても必要なの。 今すぐ来てくれる?」
   
公彦 「えっ? で、でも、午後の講義が…」
美智恵 「そんなの休講にしちゃえばっ? 学生達もその方が喜ぶわよっ?」
公彦 「し、しかしだな…。」
美智恵 「もぉ〜! 今すぐ来るのっ! 愛する妻のお願いなのよっ!? じゃ、待ってるからねっ!」
  ガチャンッ!  プーー プーー
公彦 「………、あいかわらずだなぁ〜」
   
  しかたないので、早速出かける準備を始める公彦
公彦 「松井くん、悪いが急用で出かけてくる。 午後の講義は休講にしてくれたまえ。」
松井 「はい…。 奥様からの呼び出しですね?」
公彦 「あっ、そ、それは皆には内緒にしててください…。」 (汗)
松井 「ええ…。 わかってますわ…。」
   
   
  警視庁に到着した公彦を出迎える美智恵
  いきなり公彦に抱きつきっ!!
美智恵 「あなた〜、待ってたわ〜! すぐ来てくれて、ありがとうっ!」  チュッ!
公彦 「わっ、ちょっと待った!」
美智恵 「なんで〜? 会った瞬間が大切なのに〜。」
公彦 「ほ、ほら、場所が場所だけに…」
   
  場所は警視庁の入り口。公彦のメットを通してでさえ大量に入ってくる思念…
  『こんなところで、いちゃつきやがってっ! こんなところで、いちゃつきやがってっ!
   
美智恵 「あっ、そ〜か。 ここは日本だったわねっ。 みんな、もっと素直になればいいのに〜。
  じゃ、あなた、仕事場はこっちよっ。」
公彦 「その言葉、悪気も無く、ウソでもないところが、君らしいよ…」
   
  公彦が美智恵に案内されて入ってきた部屋には、和服姿の12〜3歳の少女が一人ベッドで眠っていた…
公彦 「ん…? この子は…?」
美智恵 「自称、時空移動者。 かなりの霊能を感じるから、たぶん、事実だとは思うけどね。」
公彦 「どうして、ここに?」
美智恵 「今朝、街に現れて、大騒ぎしてたらしいの。
  『私は時間移動者なんです〜!』とか、『お母さまが魔物に殺されちゃう〜!』ってね。
  あんまりうるさいんで、警察に保護されて、口走ってることがこんなことだったから、
  私のところに廻されてきたってことね。」
   
  このときの美智恵は、ICPO総本部超常現象部門の特別顧問GSとして日本に派遣されていた。
  いや、正確に言うと、公彦に会う時間を作るために、総本部長を説き伏せて、
  日本に戻ってきたらしい。
  で、彼女のオフィスは警視庁に間借りしている状況…。
   
美智恵 「この子、かなり興奮してたから、鎮静剤を飲んでもらったら、眠っちゃってね…」
公彦 「だったら、この子が起きてから呼んでもらえばよかったのに… うっ…!」
  公彦の頭の中に流れ込んできた美智恵の思念…
  (だって、この子が起きるまで暇だし、あなたに会いたかったし〜)
   
美智恵 「あっ、その顔。 私の心、読まれちゃったのね?」 (汗)
公彦 「ま、まあ、もう来てしまったから、いいけど…
  それに、寝ていても、時空移動者かどうかぐらいは、判断できるしね。」
美智恵 「あら、寝ているときの思念は夢だから、あてにならないわよ…? あっ、そうかっ!」
公彦 「さすがは美智恵だな。 その通りだ。 見ている夢の内容はいい加減でも、
  見ている夢の光景は本人が生きている時代に影響されるから、それでわかる。」
  早速、仮面をとりはずし、寝ている少女の夢を読み取る公彦
   
   
  少女の見ている夢とは関係なく、500年ほど前の出来事…
  鳥海山の深い森の中に、一匹の魔物がひそんでいた…。
   
ハーピー 『あ〜あ、ひまじゃん! 魔族のお偉いさんも、いいご身分じゃ〜ん?
  あたしらに、時間移動能力者を根絶やしにしろってな通達出すだけでさ〜
  魔族の繁栄のためだってんだから、いいけどさ、捜すのは大変じゃんっ!?』
  見晴らしの良い山頂に座り、使い魔の鷹を相手にぐちをこぼしているハーピー
   
『ネ、ネエさん、もう少ししたら、ハヤブサたちも帰って来ますから…』
ハーピー 『あいつら、真面目に捜してるのかしら。
  目の前のエサが気になって、時間移動能力者を捜すのはそっちのけじゃないでしょ〜ね?』
『うっ…、た、たまに、そんな不届き者もいますが、みんな頑張ってますから…』
   
  そこへハヤブサのご注進!
ハヤブサ 『ネエさ〜〜ん!! 見つかりましたぜぇ〜〜!!』
ハーピー 『なにっ! ほんとうかっ!?』
ハヤブサ 『へいっ! 渡り鳥の鶴公の話では、美濃の山奥に十数年前から住み着いているとのこと!』
ハーピー 『ふむ、時空震は感知したのか?』
ハヤブサ 『いえ、それは…。 でも、以前、時間移動能力のある一族として根絶やしにしたはずの、
  安倍一族の末裔を名乗っておりやす!』
   
ハーピー 『おお、でかしたじゃんっ! それなら、今いる連中に例え能力が無くとも、殺す意味があるじゃんっ!
  そうすれば、使命を果たすことになるじゃんっ!』
  早速、使い魔の鷹とともに美濃へ向けて飛び立つハーピー
   
   
  再びこちらは警視庁。どうやら少女が目を覚ましたようだ。
公彦 「お目覚めかい? 安倍晴絵さん。」
晴絵 「えっ? なぜ、私の名前をっ!? あなたは誰っ!?」
公彦 「いや、驚かせてすまなかった。 君が夢の中でそう呼ばれていたから…
  私は、美神公彦。 精神感応者なんだ。 こちらは妻の美智恵。 君と同じ、時間移動能力者だ。」
晴絵 「!!」
公彦 「心配いらないよ。 私たちは君の味方だから。」
   
  一瞬、警戒したものの、公彦のやわらかな笑顔を見て、心を許す気になった晴絵
公彦 「よかったら、君がこの時空に来るまでの経過を、話してくれないかな?」
晴絵 「ええ…。」
   
  500年ほど前の美濃の山奥
  1467年の応仁の乱以来、都の貴族は焦土と化した土地を離れ、以前、都で世話をしたことのある
  田舎武士の元へと散り散りになっていった。
  それでも、山奥の武士を頼るような貴族は、かなりの下っぱである。
   
  平安、鎌倉と陰陽頭を輩出した名家の安倍一族。 平安時代に、安倍晴明という稀代の陰陽師が
  隆盛の基礎を作ったのだ。 魔族メフィストの子供と思われる彼には、予知能力が有ったことが知られている。
  おそらく、時間移動能力を発揮して、近未来の出来事を前もって見てきたからであろう。
   
  その安倍一族が、ハーピーに虐殺されたのは応仁の乱も終わりに近づいていた年のことだった。
  乱当初の戦いの中で、逃げ惑っていた安倍一族の一人の少女が時空を移動してしまったのだ。
  最初は、殺害されたものと思われていたのだが、6年後、当時のままの姿で母親の元に現れたのである。
  それが安倍家の奇譚として都でもてはやされたのが、ハーピーの耳に入ったのであった。
   
  ただ、安倍一族は数百年の隆盛を誇った名家である。 おかげで、その支族の多いこと…
  傍流の傍流ともなると数知れず、苗字も本家に遠慮して変更することが多い。
  そのため、血は繋がっているのにハーピーが殺しそびれた安倍家ゆかりのものも多かった。
  美濃の山奥に逃れてきた貧乏貴族、泥御門雨也(どろみかどあめなり)も、そんな傍流の家長であった…。
   
雨也 「都の乱のせいで本家は寂れてしまったが、安倍家の家名を残すために、我々もこれから安倍の苗字を
  名乗ることにする。 みな、これからは我々が本家と言われるよう、頑張るのだぞっ!」
   
  晴絵の父である。 霊能は高かったが傍流であるがゆえに、都では軽く扱われていた。
  だが、時代は下克上である。 その流れに乗ろうと彼も頑張っていたのだ。
   
  そんなある日のこと…
雨也 「なにやら不吉な卦が出ている… わしは、これから御館様のところへまいるが、そちは屋敷に
  結界を張って、外に出るでないぞ? 雪也と晴絵を守ってやってくれ…」
霧絵 「ええ。 あなたのほうこそ、お気をつけて…。」
雨也 「では、行って参る。」
   
   
  美濃に到着したハーピーと鷹…
「ネエさん、あの家族みたいですぜ? 早速、攻撃しやすか?」
ハーピー 「いや…、しばらく様子を伺うじゃん。 霊能が強いと、こっちも危険じゃん。」
「へい、そうですね…」
   
  30年前、都の安倍一族を虐殺したときも、決して楽な戦いではなかった。
  一対一での戦いでも、危うく退魔札でやられそうになったこともあった。
  それでも虐殺できたのは、都が戦争状態だったからである。
  東軍、西軍ともに裏切りが横行し、疑心暗鬼の状態の中、安倍一族の謀反の噂が流れたのだ。
  いや、噂を流したのはハーピーである。
  両陣営から疑われて、味方に攻められ敵方からは見捨てられ、それで命を落とした者も多かった。
  そんな騒乱の中での虐殺であったため、霊能の高い者もハーピーとの戦いに集中できず
  むざむざと命を落としていったのだった…。
   
ハーピー 「やっぱりじゃん。 あの屋敷は、結界で守られてるじゃん。
  あんなとこに、のこのこ行ったらやばいじゃん。」
「それじゃあ、先に、屋敷を出ていった男をやっつけやしょうぜ。」
ハーピー 「それがいいじゃん。」
   
  安倍屋敷の中では…
晴絵 「お母さま、どうして外に出てはいけないのですか?」
霧絵 「あなたも、不吉な気配を感じているでしょ?」
晴絵 「でも、魔物が出てきてもやっつければいいだけでしょ?」
霧絵 「どんな相手かわからないうちに、無闇に手のうちを晒すものではありません。
  ほらほら、雪也と一緒に陰陽道の勉強をしていなさいっ!」
晴絵 「ちぇっ、つまんないの〜 雪也、勉強だってさ。」
雪也 「ぼくも、おねえちゃんと一緒に外に出て魔物をやっつけたかったのにな〜」
   
  しばらくして… 屋敷の玄関に駆け込む従者っ!
雨也の従者 「奥方様〜〜っ! た、大変ですっ! 旦那さまがっ!!」
霧絵 「なにごとですっ!」
従者 「旦那さまが、魔物に襲われて、重傷ですっ!」
霧絵 「ええっ!? まだ、お命は無事なのですねっ?」
従者 「はいっ。 ただ、かなりの重傷で、長くもつかどうかは…」
   
霧絵 「………、わかりました…。 ところで、魔物は退治したのですかっ?」
従者 「いえ…。 空を飛ぶ、鳥のような魔物で、逃げられてしまいました…」
霧絵 「安倍一族の本家が襲われたときの魔物と同じようですね…
  安倍一族の族滅を目指しているのなら、ここも危険だわっ!
  晴絵! 雪也! 魔物との戦いの準備をっ!」
   
  ビシュッ!  ズカンッ!
従者 「ぐわっ!?」
霧絵 「えっ?」
  血を吐き、床に倒れる従者 背中にはハーピーの羽根が刺さっている!
   
「ネエさん、うまくいきやしたねっ!」
ハーピー 「やってみるもんだね〜。 結界のせいで中に入れないのは変わらないけど、
  結界を通るときに威力は落ちても、あたしのフェザーブレットで、充分、人は殺せるようじゃん!」
霧絵 「くっ! 魔物めっ!」
ハーピー 「さ〜て、いつまで持つかな〜? ゆっくり殺してあげるじゃんっ!」
   
  屋敷の奥に逃げ込む三人
  空の上から屋敷に目掛けて適当にフェザーブレットを投げ込むハーピー
   
霧絵 「このままでは、三人ともやられてしまいますっ!
  今から、あなたたち二人を時間移動させますっ! もう、この時代に戻ってきてはいけませんっ!」
晴絵 「えっ? お母さまはっ?」
霧絵 「私は、ここに残って、魔物と戦います。」
晴絵 「でもっ! このままでは、やられるって言ったばかりじゃないっ!」
   
霧絵 「あなたたち二人を守りながらだと、戦えないからです。 それに…」
晴絵 「それに…?」
霧絵 「それに、あなたたちのお父さんを一人だけ残して行くわけにはいかないの…。
  30年前、あの魔物に殺されそうになった私を、助けてくれた恩人ですもの…。 今度は私が…。」
晴絵 「お母さまっ!」
   
霧絵 「別れを惜しんでいる暇はありませんっ! さぁ、二人ともしっかり手をつないでっ!
  ぎゃていぎゃていはらぎゃていはらそうぎゃていぼじそわかっ!!
   
  自分のありったけの霊力を時間移動のエネルギーに変換して二人に注ぎ込む霧絵
   
霧絵 「二人とも、自分の霊力を最大限引き出しなさいっ!
  そして、念じなさいっ! できるだけ未来へっ! 可能な限りの未来へ移動することをっ!」
   
  ギュォオオオオ〜〜〜〜ンッ!!
晴絵 「おかあさま〜〜〜〜っ!!」
   
   
  みたび、警視庁。 晴絵の話を聞きつづけている公彦と美智恵
美智恵 「雪也くんは、一緒じゃなかったの?」
公彦 「時間移動中に、はぐれてしまったらしい。」
美智恵 「なるほど。 それで、彼女一人が現代に来たわけね?」
公彦 「いや、違う。 彼女は、もう少し先の未来に移動していたようだ…」
美智恵 「えっ?」
   
  このときから5年後…
  南米でアシュタロスの部下に敗れ、妙神山に逃げこむべく飛び続けるワルキューレたち…
  ぽんっ! いきなりジークの目の前に現れた、安倍晴絵
   
ジーク 「わわっ!?」
晴絵 「きゃぁっ!?」
  空中だと気付いて、ジークにしがみつく晴絵
ワルキューレ 「何をやっておるのだっ!」
ジーク 「いえ、いきなりこの子が現れて…」
  飛びながら会話を続ける二人…
   
ワルキューレ 「おまえは、いったい誰だっ!?」
晴絵 「わ、わたしは、時間移動者…」
ジーク 「時間移動者が、なぜこんなところに…」
ワルキューレ 「アシュタロスのせいに、決まっているだろ? おそらく、この娘は、もっと未来に行こうと
  していたに違いない。 それが、アシュタロスの出す妨害霊波によって、行けなくなって
  しまったのさ。 そうでなきゃ、こんなところに現れるもんかっ!」
   
ジーク 「そうですよね…。 で、この子、どうしましょう? 妙神山に連れて行くわけにもいかないし…」
ワルキューレ 「そんなこと、自分で考えろっ!」
ジーク 「そ、そうですよねっ。 え〜っと、どうすればいいかなぁ〜」
  晴絵を抱きかかえながら考えているジーク…
  晴絵も、こんなところで落とされたらどうしようもないから、しっかりしがみついている…
   
ワルキューレ 「ああ、もうっ! その子、時間移動者なんだろっ!?
  だったら、時間を遡らせればいなくなるじゃないかっ!」
ジーク 「あっ、そうですね。 君、一人で時間を遡れるかい?」
晴絵 「い、いえ… 一人では、移動したことなくて…」
ジーク 「う〜ん…、困ったな…」
   
晴絵 「あ、あの、あなたは神様なんですか…?」
ジーク 「えっ? いや…、魔族なんだけど… どうしてそう思ったの?」
晴絵 「そ、その、さっき妙神山に行くって言ってたけど、妙神山は神様の住む山だし、
  そ、それに、私を助けてくれようとしているし…」
ジーク 「まあね…。 今は、別の魔族との戦いの最中でね。 神族と一緒に戦っているのは事実だ。
  ただ、相手も強くてね、このままじゃ、人間界も魔族に支配されてしまいそうなんだ…。」
   
ワルキューレ 「いつまで、無駄話をしているのだっ! スピードが落ちると追っ手に追いつかれてしまうぞっ!」
ジーク 「はいっ。 そうだなぁ〜、君、こっちに来るときはどうやって、移動したの?」
晴絵 「えっと、お母さまに霊波を送ってもらって…」
ジーク 「そうか。 じゃあ、僕が霊波を送れば昔に帰れるんだな?」
晴絵 「た、たぶん…」
   
ワルキューレ 「ジークっ! これから、敵との戦いも残っているっ! 霊波の無駄遣いをするんじゃないっ!」
ジーク 「は、はいっ。 それじゃあ5年前に戻してあげよう。 その程度なら、霊波のエネルギー量も
  たいしたことないから。 そこから先は、自分でなんとかして欲しい。」
晴絵 「はいっ。」
ジーク 「じゃあ、5年前に戻るように念じてっ! 霊波を送るからっ!」
   
  ギュォオオオオ〜〜〜〜ンッ!!
   
  よたび、警視庁。
美智恵 「なるほど、そういうことだったのね…」
公彦 「とりあえず、無事でよかったね。」
晴絵 「はい…。 ただ、こんな未来にいつまでも居るわけにはいかないし…」
   
美智恵 「そうね…。 いつに戻りたい? 帰るお手伝いをしてあげるわよ?」
晴絵 「出きれば、お母さまを助けに行きたい…」
美智恵 「………、気持ちはわかるけど…。 でも、お母さまの気持ちもわかるわ…。
  そのトリ女、たぶんハーピーだと思うけど、簡単に退治できる相手ではないの…。
  あなたの霊力と、当時の武器では、たぶんお母さまの助けにはならないわ…。」
晴絵 「………」
   
美智恵 「それじゃあ、ハーピーとの戦いの5年後にしなさい。 お母さまが無事なら、充分会える時間だし、
  ハーピーが生き残っていても、別のところに行ってしまってるはずだから。」
晴絵 「………、そうですね。」
美智恵 「では、私の霊波を送ります。 念じてっ!」
晴絵 「……、はい。」
   
  ギュォオオオオ〜〜〜〜ンッ!!
   
  ハーピーとの戦いの5年後の美濃の山奥、元安倍雨也屋敷前…
  戦いの傷跡は残っているものの、屋敷全体は修復されていた。
晴絵 「お母さまたちが住んでいればいいんだけど…」
   
  中に入れずに屋敷の前でたたずんでいる晴絵。 そこに、中から少年が出てくる。
雪也 「あ、おねえちゃんっ!?」
晴絵 「えっ? あんた、もしかして雪也っ?」
  3つ年下の弟が、自分と同じぐらいの年恰好に成長していた
   
雪也 「おねえちゃん、こんな未来まで時間移動していたんだっ!」
晴絵 「それより、お母さま、お父さまはっ!?」
雪也 「…………」
晴絵 「…………、そうなんだ…。」
雪也 「今日は命日なんだ…。 今から一緒にお墓参りしようよ…。」
晴絵 「うん…。」
   
  しばらくは、黙々と両親の墓に手を合わす二人…
晴絵 「雪也は、いつここに戻ったの?」
雪也 「ちょうど3年前…。 魔物に殺されたと思われてたのに、無事に戻ってきたので大騒ぎになってね。
  御館様も、ぼくが神様に守られた子供だってことで、お家を再興させてくれることになったんだ。」
晴絵 「そう…。 よかった…。 これで安倍家も存続するわね…」
   
雪也 「いや…、もう安倍家は名乗らないんだ…。」
晴絵 「えっ? どういうことっ?」
雪也 「お父さんの遺言なんだ。 傍流なのに本家の苗字を名乗ったのが、魔物に襲われた
  原因だから、もし生き残っても、安倍の苗字を使うなって…」
晴絵 「そうなの… で、今はなんて名乗ってるの?」
   
雪也 「美神。 美神雪也っていうんだ。 御館様につけてもらった苗字なんだ。
  なんでも、美濃の神様に守られたから、っていう意味なんだって。」
晴絵 「へぇ〜… (くすくすっ)」
雪也 「えっ? 変っ? そんなに、変な苗字とは思わないんだけどなぁ〜」
晴絵 「あっ、ごめんごめん。 そうじゃないの。 未来で会った美神さんは、私と雪也の
  どっちの子孫なのかな〜と思ってねっ。」
雪也 「???」
   
   
  ごたび、警視庁。 晴絵がいなくなってから重い雰囲気に包まれている美智恵と公彦。
公彦 「美智恵……」
美智恵 「どうやら、行かなきゃいけないみたいね…。」
   
  晴絵の話から、5年後の人間界の危機を知ってしまった二人…
  令子が中学生のとき、美智恵が亡くなっていることを二人は知っている。それを知ったのは、
  美智恵は、自分がハーピーに襲われて、20歳の令子に3歳の令子を預けに行ったとき。
  公彦は、それから間もなくそのことを考えていた美智恵の心を読んだとき。
  すでに令子は、中学三年生になっていた…。
   
美智恵 「もし、今、行かなくても、私の寿命はあと一年もないわ。
  5年後に、あなたや令子の助けになってやれないなんて、自分が許せないっ!
  それなら、今の私が、5年後の二人を助けにいかなきゃいけないのっ!」
   
  美智恵を抱きしめる公彦…
  美智恵の肩が、細かく震えている…
   
   
  トゥルルルル…  トゥルルルル…  
令子 「あっ、ママっ? 今日は、ママの好きな料理を作ったのよっ? なんだかわかるっ?
  えっ? お仕事…? そう…」
美智恵 「ごめんね、令子…。 今度のお仕事は、とても危険なの…。
  もしものことが有っても、おばあちゃんの言うこと聞いて、ちゃんとするのよっ?」
令子 「なに言ってんのよ、ママ。 危険なのは、いつものことでしょ?
  それに私も、来年、高校生になったら、GSの修行をするんだもの。 大丈夫よっ!」
美智恵 「そうね、令子は強い子だったものね。 じゃあ…」
  いつもと違う母親に、強い不安感を覚えた令子。 だが、それをぐっと飲み込むしかなかった…
   
   
公彦 「会わなくていいのかい…?」
美智恵 「会ったら、ばれちゃうわ。 あの子、霊感がいいから…」
公彦 「いつ時間移動するんだい?」
美智恵 「あした…。 5年後に移動したとき、すぐに動けるように、いろいろ根回ししとかなきゃ。
  最低でも、ICPOの本部長には、話をつけとかないとね。」
公彦 「そうだね…」
   
美智恵 「もしも…、もしも、こちらで死ねるなら、あさって必ず帰ってくるから。
  あさって、帰ってこなかったら、5年後の戦いの中で死んでいると思って…。」
公彦 「ああ…」
   
   
  翌日、一人で5年後に時間移動していった美智恵
  それ以来、公彦のところにも、令子のところにも、彼女からの連絡は何もなかった…
   
  1週間後、二人の元に別々にICPOから手紙が舞い込む。
  それは、美智恵の死を知らせるものだった…。
  ICPOの仕事で悪霊と戦った結果、遺体も残さず消滅してしまったという内容だった。
   
  公彦には、それが美智恵の根回しによる結果だとわかっていたが、
  令子には、受け入れがたいことだった。
  遺体も遺品もない、遺影だけの葬儀に、終始無言だった令子。
  それからしばらくは、心の不安定な日々を送ることになった…。
   
   
  2週間後、令子のことを心配しながらも、南米に旅立つ公彦。
  令子が美智恵と同じGSの道を進むのなら、唐巣神父にまかせよう…
  自分はしばらく日本に帰らず、美智恵と過した日々の思い出に浸っていたい…
  そう思いながら南米の小さな地方空港に降り立ったとき、
  聞き慣れた日本語が公彦の耳に飛び込んできたっ!
   
美智恵 「あなた〜〜〜っ! 待ってたわ〜〜〜っ!!
  これからも、いっぱい、愛してね〜〜〜〜っ!!」
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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