除霊委員の一日。

著者:人狼


「横島くん!ニュースよニュース!!」
「なんだよ愛子。そのニュースって。」
 横島のクラスのいつもの風景である。机を担いだ女性が、普段滅多に来ない凄腕ゴーストスイーパーにニュースと言っては話しかけてくる。
  女性の名前は愛子。彼女はある事件以来横島のクラスで備品として暮らしている。何故備品か。それは彼女が机の妖怪だからである。
  そして愛子の話しを聞いているゴーストスイーパーの名前は横島忠夫。最初はただのスケベ男だったが霊能力が目覚め、文殊と言う強力な戦闘力を身につけた。ただ、いまだにスケベ男のレッテルは張られたままだが。
「それがね、担任の香山先生、急性盲腸炎で入院しちゃったんだって。」
「へー。あの堅物が。」
「あの先生の何処が堅物なのよ。2年の時の藤田先生よりはずっと面白いじゃない。」
 横島は未だに愛子の事を敬遠する男子が多い中でクラス一愛子と仲がいい。暇さえあれば愛子と喋ってるくらいだ。
「それよりよ、この前除霊の仕事に言った時さ、除霊対象が小さいガキンチョでよ、除霊するのに躊躇っていたら美神さんにぶん殴られちまった。」
 横島は殴られたらしい所をさする。
「大変ね。でも除霊出来なかったのは横島くんが未熟だったからじゃなくて優しかったからじゃない?」
「そーかな…」
 横島には優しいと言う自覚がない。その上押し付けがましくないので意外と女子に人気がある。
  愛子と横島が話しをしていると、ピートとタイガーがやって来た。
「横島さん、愛子ちゃん、仲良くしてる所悪いけどこれから除霊に行かなくちゃいけないんだ。来て下さい。」
「横島さんと愛子さんがおらんとマトモに除霊出来ないんですからノー。」
 横島は愛子とピートとタイガーに説得されてやっと思い腰をあげた。
「あーあ。霊力が強いってのもいいことね―な。」
「あら、どうして?」
「だってよ、霊力が強いとこうやって除霊に狩り出されちまうじゃねーか。戦うのは嫌いなんだよ。」
 愛子は横島の新しい一面を見つけたような気がした。
  ――戦うのが嫌い。それじゃあいつも除霊しているのは嫌々やっていたのか…愛子はいつも除霊の仕事をしている横島がかわいそうに見えた。
「横島くん、文殊一個貸して。」
「?いいけど何で?」
「横島くんの代わりに除霊してあげる。」
「いいよ、いつもやってることだし。」
「いいからやらせて!あんまり横島くんに嫌な思いさせたくないの!!」
 愛子の迫力に押され、横島は慌てて文殊を出した。
「ほら。一応予備として二つ渡しとく。」
「ありがと。」
 いい雰囲気になる横島と愛子に恨みの念を送るタイガーの姿があった。
「横島さん、ここです。」
 ピートが給油室の扉を指差した。
「…最悪だな…」
 横島は給油室の扉を呆然と見ながら呟いた。
「3人とも、この机を爆発の届きそうにないところまで運んどいて。」
「まさか愛子、1人で突っ込む気じゃ…」
「あなた達3人、特に横島くんとタイガーくんは生身の人間よ。ピート君ならともかく危なすぎるわ。」
 愛子はピートが止めるのも聞かず給油室の中へ飛び込んでいった。
「…ちっ、しょうがねーな…」
 横島は舌打ちすると愛子の後に続いて給油室の中に入っていった。

「美神さん!!横島さんのカップが…!」
 おキヌは割れた横島のグラスを持って美神のもとへとんできた。
「また?そこにあるボンドで直しておいてね。」
「はい……。ってそうじゃなくて!!たしか横島さんのカップが割れた時って何か悪いことがおきるんじゃ…」
 おキヌは顔が青ざめてきた。
「美神さん、私ちょっと横島さんの学校に行って来ます。」
「あ、ちょっとおキヌちゃん!!」
「どうしたんでござるか?」
 いつ散歩から帰ってきたのかシロとタマモがいた。
「おキヌちゃんがね、横島くんが危ないって飛び出して行っちゃった。」
「先生に危機が!?それじゃあ拙者も…」
「あんたは行かなくていいわよ。」
「何故止めるんでござるかタマモ。」
「あんたが行くとややこしくなるのよ。」
「そー言うこと。あんたは除霊の仕事でもしてきなさい。」
「でも…」
「いいから行きなさい!!」
「キャイン!!」
 シロは美神に神通棍で殴られそうになるのを辛うじてよけ、タマモが監視役について除霊現場へ向かっていった。

「横島さんと愛子ちゃん、遅いですね。」
「そうですノー。あの二人だったら秒殺で除霊出来るはずなんですケン。」
 ピート達が外で横島たちの帰還を待っているころ給油室内では…
「なんで横島君まで来るのよ!!」
「お前1人に任せられるわけないだろ!妖怪とは言え女だし、第一文殊だって満足に使えないだろうし。」
 二人は口論しながらも霊のいるであろう給油室中心部にやってきていた。
「!」
「!」
 二人は霊の存在に気づき、口論を止めた。
「愛子、霊の正体は?」
「ちょっと待ってね…わかったわ!あいつはストシアって言う妖怪で、幻術を使って相手の弱みを幻としてだす奴よ。」
「…それだけか?」
「うん。」
『オマエ、オレヲバカニシタ、ヤッツケル。』
 ストシアはそう言うと横島に幻術をかけた。
「横島くん、気を高めて!!」
 愛子は横島に言ったが時すでに遅く、横島はしっかり幻術にかかっていた。
「ウワアアアア!!」
「横島くん!!」
 横島は頭をかかえ、苦しみもがき出した。しばらく暴れていると横島の口から愛子の知らない人物の名前が出てきた。
「…ルシ…オラ…」
「ルシオラ…?」
「ルシオラ…許してくれ…!」
「横島くん、ルシオラって誰!?」
『コイツハイマ、ジブンノヨワミヲゲンカクトシテミテイル。』
「うるさい!少し黙れ!!」
『ダマレッテ…オレヲジョレイシニキタンジャナイノカ…?』
「横島くん!横島くん!!」
『ムシカヨ…』
 横島はストシアにかけられた幻覚によってある人物と会っていた。
「ヨコシマ、おまえはこんな所で何やってるのよ。」
「ルシ…オラ…?」
「なに驚いてるの?」
「い、いや、お前は俺のせいで死んじまったから…」
「おまえのせい?」
 ルシオラは表情を曇らせた。
「だってよ、俺はおまえのことを見殺しに…」
「そうよ、おまえは私を見殺しに…なんてね。うそよ。」
 横島はルシオラと話している中で違和感を感じた。
  いつものルシオラだったら弱気になっている自分に喝を入れてくれたはずだ。なのにこのルシオラは喝を入れるどころか余計に自分を追いこませようとしている。
「お前、本当にルシオラなのか?」
「なに言ってるのヨコシマ。どう見たって私は私でしょ。」
「違うな。本当のルシオラだったら俺を追いこむような事は言わない。なのにお前は俺の精神をますます追いこもうとした感じだった。」
 ルシオラに似た顔をした奴は下を向くとそれっきりなにも言わなくなった。

「ピートさん!横島さんは!?」
「おキヌさん!?…横島さんは愛子ちゃんとこの給油室の中に…」
「ありがとう!」
 おキヌはそう言うなり給油室の中に走って行った。
「…ピートさん。」
「…なんだい…?」
「今回のわし達の存在って一体…」
「言わないでくれ…」
 ピートとタイガーが寂しい漫才をやっている頃、おキヌは愛子と合流していた。
「おキヌちゃん!?どうしてここへ?」
「事務所の横島さんのカップが割れてね…そんな事より横島さんは!?」
 愛子は倒れてうなされている横島を指差した。
「横島さん…」
「さっきからルシオラって名前を連発してるの。おキヌちゃん心当たりある?」
「!」
 おキヌは愛子の言った言葉を聞いて驚いた。
「まさか横島さん、ルシオラさんと会ってるんじゃ…」
「おキヌちゃん、そのルシオラって誰よ。」
「そう言えば愛子ちゃん知らないんだったわね。ルシオラさんて言うのは…」
「?どうしたの?」
「そんな事よりあの悪霊を退治した方が早いんじゃ…」
 おキヌに自分の存在を指摘され涙を流して喜ぶストシア。をいをい…。
『ヤットキヅイテクレタカ!!オレノナハ…」
「…横島さんをこんな目に合わせて…許さないんだから!!」
 おキヌは一喝してストシアを黙らせると、即座に破魔札を取りだしストシアに投げつけた。
『ヤットキヅイテモラエタトオモッタラ、モウコレデオワリカヨ…』
 ストシアは情けない最期の言葉を残して綺麗さっぱり除霊された。おキヌはストシアが完全に除霊されるのを確認する前に横島のもとへ走り寄った。
「横島さん、大丈夫ですか!?」
「ダメよおキヌちゃん、横島くん、精神の髄まで汚染されてるわ。」
「どうしよう…」
「おキヌちゃん、幽体離脱出来たわよね。それをやって横島くんの精神に入ってみたら。」
「でも体が…」
「私の本体の中に入れておけば全然大丈夫よ。」
 愛子の説得により、おキヌは幽体離脱をして横島の精神の中へ入っていった。

「…ヨコシマ、いつから私が本物のルシオラじゃないって気づいた?」
「一目見たときからさ。」
「…そう。」
 ルシオラ・ダッシュは顔を上げた。その顔は完全に吹っ切れていた。
「現実にいたルシオラはもう死んでしまった。ここにいるお前は俺の中のルシオラであって本物ではない。」
「それで?」
「何故お前が俺の精神を追い詰めるような事を言ったかと言うと、さっきもいったけどお前は俺の中のルシオラで、俺がお前に対してそう言う責任を感じてるからお前はそういうことを言ったんだ。」
 横島は珍しくまともな事を言った。
「横島さ―ん」
 遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、おキヌちゃんの声。」
「もう迎えが来ちゃったのね。」
「ほんの少しだけだったけど会えて嬉かった。」
「ありがと。これからはおキヌちゃんを守ってあげてね。将来私のママになるかもしれないんだから。」
「?お前、あの時1000年もまった人って…」
「ヨコシマ、私はおまえの心の中なのよ。おまえの本心なんかすぐわかるわ。」
「そうか。つまり俺は今、おキヌちゃんのことが好きだって事なんだな。」
「そういうことよ。だから優しくしてあげてね。おまえにはおキヌちゃんを守る義務があるのよ。」
「わかった。」
「それじゃあね、パパ。」
「おう、早く会えるといいな。」
 ルシオラは横島と挨拶を交わすと、光に溶け込むかのようにして消えて行った。横島は静かにその全てを見届けた。
「横島さん…」
 後ろから懐かしい声が聞こえた。
「おキヌちゃん。来てくれたのか。」
「はい。さっき横島さんがお話していた人ってルシオラさん…?」
「ああ。ルシオラが言ってた。俺にはおキヌちゃんを守る義務があるんだって。」
 おキヌは最初意味が分からなかった。横島は話を続けた。
「俺自身は自覚してないんだけど、俺の中のルシオラが言うには俺、おキヌちゃんの事が…」
「それ以上は言わないで下さい。」
 おキヌは何故かそこで話しをさえぎった。
「どうしたの。」
「横島さんの言いたいことは大体分かっています。でも私がそれを横島さんの口から聞くのは、横島さんがそのことを自覚してからにします。」
「…そうだね。」
「早く戻りましょう。皆心配してますよ。」
 横島とおキヌは幻覚の世界の出口へ向かっていった。
  もうすぐ出口というところで、おキヌが歩くのを止めた。
「横島さん。」
「?」
「横島さん、私は横島さんのことが好きです。だから私は横島さんの相談相手になってあげたい。」
「ありがとう。」
「だから横島さん、何かあったら私に相談して下さい。どこまで力になれるか分かりませんけど。」
「……。」
 横島は泣いていた。さっきルシオラに言われたこと、そしておキヌちゃんに言ってもらったことを思い返しているうちに涙が溢れてきたのだ。
「横島さん…」
「ゴメン、いきなり泣いちゃって…」
「いいんですよ。私は横島さんのそんな所も好きですよ。」
「俺も…」
「え?」
「俺も、おキヌちゃんのことが好きだ!!」
 こんどはおキヌが泣く番だった。気持ちの整理はしていたものの、それでも横島に好きと言ってもらったほうの嬉しさの方がおキヌの涙を呼んだ。
「あ…ありがとうございます!」
 おキヌにはそう言うのが精一杯だった。
  二人が元の世界の戻ると、そこには何故か美神がいた。
「あれ、美神さん。」
「なんでここにいるんすか?」
「ちょっと近くを通ったから寄ってみたのよ。」
 そう言う美神の手には幽体離脱をする為の『チーズあんシメサババーガー』…
 横島、おキヌ、愛子、ピート、タイガーの思った事はただ一つ。
「意地っ張り……」
「な、なによ!なんで私をそんな『意地っ張り』って言いたげな顔して見るのよ!!」
「いや、そのままなんですけど…」
 ピートは恐る恐る言った。
「何ィ!?」
「ひっ…」
 ピートは草食動物がライオンに睨まれたかのように動けなくなってしまった。
「まーまー美神さん。横島さんも無事戻った事ですし。」
 おキヌはさっき横島との会話が無かったかのように振舞っている。ただし、そのときに流した涙の痕は消えていなかった。
「おキヌちゃん、泣いてたの?」
 美神は横島の幻覚世界に行っていなかった4人の中で一番早く気づいた。
「え?…あ。」
「さては幻覚世界で横島と何かあったわね。」
「そ、それは…その…」
「美神さん」
「なによ、横島クン。」
「悪いですけど今回の事だけは詮索しないで下さい。」
 横島が頭を下げた。美神は勿論、ピート達もこれには驚いたが、それでも愛子、ピート、タイガーの3人も横島につく事にした。
「美神さん、僕達からもお願いします。」
 おキヌも続けて頭を下げた。
「今回だけは本当にお願いします。」
「なによおキヌちゃんまで…これじゃあ私が悪者みたいじゃない!!いいわよ、今回だけ詮索しないであげるわよ!!」
 美神はヤケクソになって言った。
「横島くん、おキヌちゃん、これから仕事があるから来てもらうわよ!」
「わかりました。…しっかし、気が変わるの早いなー…」
「そうですね…」

  美神達が学校を去り、ピート、愛子、タイガーの3人はいろいろ話していた。
「さっき、横島さんの雰囲気にのまれて美神さんに頭を下げたけど、一体なんで頭を下げたんですかいノー。」
「さあ…?」
 そう言うことには意外とウトイピートとタイガーに呆れた愛子が言った。
「あなた達、気づかなかったの?」
「なににです?」
「やっぱり男ね…」
「君は女でもないだろ。それでどう言うことなんです?」
 ピートはウトイ割にはこういうことの話しは好きらしい。
「つまりね、多分の話しなんだけど、横島くんとおキヌちゃん、幻覚世界でデキちゃったのよ。」
「DEKITA?」
 いきなりローマ字を使って聞き返すピート。
「あの二人の事だからどっちからとも無く告っちゃったんでしょうね。」
「ええー!?横島、彼女で来ちゃったの!?」
 声のする方を見ると、そこにはクラスメイトの広子だった。
「あら、広子ちゃん。」
「愛子ちゃん!横島が彼女できたって本当!?」
「多分ね…」
「う〜…。横島の事狙ってたのに…」
「広子ちゃんが横島くんを?広子ちゃんくらいの美人だったらもっと良いのがいるでしょうに…」
 愛子と広子の話しにピートは分かってはいるのだが口が挟めず、タイガーに関しては話の内容すらわからなかった。
「だって、横島ってスケベではあるんだけど、でもその中に何故か横島だったら良いかなーって思えるの…」
「実は私もなの。」
 愛子が意外な事を言った。
「愛子ちゃんも!?」
「本当よ。でも相手がおキヌちゃんじゃ敵わないって諦めたの。」
「そっかー、横島の彼女っておキヌちゃんだったんだ。それじゃあ私にも敵わないわ。」
「な、なんで横島さんの相手がおキヌさんじゃ敵わないんです?」
 今まで話しに入っていけずに黙りこんでいたピートがやっと話した。
「わからない?おキヌちゃんは口にこそ出さないけど横島くんの事が好きで好きでたまらないのよ。」
「それだったら広子ちゃんや愛子ちゃんも変わらないんじゃ…」
「おキヌちゃんは横島くんが幻術にかかった時、何のためらいも無く横島くんの精神の中に入っていったわ。」
「そんなこと、私や愛子ちゃんには出来ないわ。おキヌちゃんはそれだけ横島の事を愛してるのよ。」
 ピートは分かったのか分からなかったのか曖昧な返事をした。愛子と広子はこれ以上話してもかえってピートが分けわからなくなるだけだと思い、その話しを話すのは止めた。

「横島さん」
 横島とおキヌは美神の言った除霊現場に到着し、美神、シロ、タマモのチームと、横島、おキヌの2チームに分かれて行動していた。
「なに?」
「さっきはありがとうございました。」
「さっき?」
「私が美神さんに問い詰められた時、わざわざ美神さんに頭を下げてくれた事ですよ。」
 横島は思い出したような顔をした。
「ああ、あのことね。気にする事ないよ。」
「横島さん……大好き!!」(コツン)
「おキヌちゃん?」
「私、何があっても横島さんの味方です。」
「ありがとう。」
 横島とおキヌは見つめ合い、どちらからとも無く口付けをかわした。

〜終〜


※この作品は、人狼さんによる C-WWW への投稿作品です。
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