4th day


  「ん!」
 横島の瞳がカッと見開く。
  「起きろシロ タマモ!!」
  「何?朝なのもう」
  「助けでござるか?」
  「逆だ!!起きろ」
 シャラフを開けて、二人を急かして人間形態にさせる。
  「?」
  「!」
 流石に、既に霊波刀をいつでも出せる状態の横島に事態に気がついたようだ。素早く臨戦体制を整える。
  「この感触は・・」
  「あの二匹と同じでござるが、一体?」
  「別に一匹いたのが二匹なら、三匹目のドジョウがいたって不思議では無いだろう。アッチもこっちに気がついたようだな。ここ壊されたら俺達どちらにしても終わりだから撃ってでる」
  「了解」
  「わかったでござる」

 ドアの向こうはまだ夜明け前で、その上まったく雪吹雪は納まったいなかったので、暖かい寝床からの三人にはキツカッタが、無論そうもいっておけない。
 作戦は前と同じ。まだ霊波刀がロクにだせぬシロと、攻撃の効果の薄いタマモは攪乱。チャンスがあれば精霊石でも、お札でも使って仕留める。
 初めこの作戦は成功すると思ったのだが、誤算があった。タマモの足がまだ完治してはいなかった為に逃げる途中にスピードが落ちて追いつかれた。前と同じく、身の丈3メートル近い巨漢から振り下ろされる丸太のような腕の攻撃が眼前に迫る。それをまだ完全では無かった霊波刀で受けとめるシロだったが、霊力の違いにより呆気なく霧散して白い闇の向こうに吹き飛ぶ。
 残った二人、横島の霊波刀で切り裂き、弱った所をタマモのお札が吸引した。それを怒りの狐火が焼き付くす。
 すぐに雪煙に消えたシロを探す。シロは数十メートル離れた雪の中に気を失い埋まっていた。
 急いで山小屋に戻って見てみるが、既に体温の大部分は雪に奪われていた。

  「せっかく作った文殊はつかっちまったし・・・・・。タマモ、頼みが・・・お前は嫌がるのは分かるが、シロの為に・・・」
  「分かっている。あたしの代わりにこうなったシロの為だからな」
 タマモは黙って服を脱ぎ始める。続いて横島も。
 シロの服も脱がして先程までと同じくシャラフに入った。低下した体温を元に戻す為には直接温めないと効果が薄い。代わりに、今まで着ていた服の保温力がスポイルされるが、今はそんなこと言ってはいられなかった。
 横島が敷蒲団でシロを抱きタマモが掛け蒲団でシロを挟む。シロの体はまるで・・・死体のように冷たかった。しかし諦める理由にもいかなかった。二人がシロの体を強く抱きしめる力を緩める事は無かった。互い励ましあう二人。



  「シロ!!」
  「せ せん せ え」
  「シロ」
 夜が開けるのと同じく、シロは目を開けた。
  「せんせえ・・・・せっしゃは い いったい ここは一体どこで ござるか?」
 目をパチクリしていた。どうやらショックで記憶が混乱しているようで、どうやらここがどこかすら覚えていないようだ。
  「馬鹿やろうめ・・何言ってやがる」
 ホットしたので、横島の顔は疲れきったサラリーマンのようにだらしない。
  「馬鹿犬」
 タマモも安心したので、シロの背中で垂れる。その顔には少し光る物があったが、後日突っ込まれた折には熱かっただけだと軽口をきいていた。

  「う!拙者も先生も裸で・・・・・タマモもお主」
  「ああ、悪いとは思ったが・・・その」
  「しょうがないでしょうね」
 タマモも多少横島のフォローをする。あまり嬉しく無いが、尻尾の毛の事もあって二度もお湯を沸かすのは不経済だと風呂には主に二人で入っている。女同士では裸を突き合わせるのは珍しくないが、流石に先生とはいえども男と肌を重ねるのは・・・。
  「うわー!!拙者初体験が3Pでござるか」
 お約束。シェラフの中で器用に転ける二人。


  バキ ドカ
 後頭部をタマモが、頭頂部には横島が派手に突っ込む。
  「やっぱりお前死んだほうがよかったわよ」
  「すんすん、一体なんでござるか〜」
 頭を押さえて、涙ながらに二人を恨めしそうに見るシロだった。

  「すいませんでござる」
 取り敢えずいつまでも寝たままでは一番下の横島が辛いので、三人共にシャラフのままに上半身を壁に預ける。
 すでに任は果たされたが、今裸のままにシャラフの外に飛び出す勇気は、冬の朝に通勤通学でベッドから飛び出すのの百倍は辛いので、狭いといいつつ体を寄せあったっままであった。まだ本調子では無いので、しばらくはこの状態のままで過ごす事にタマモも納得してくれた。

  「どこで覚えたんだ、そんな言葉は?」
  「オキヌちゃんの持っていた本でござるが」
  「またか・・」
  「ああ、あの本か」
 どうやらタマモも読んでいたようだ。横島のいない間は事務所は女だけなので、男には聞かせられない話も多々出ているのだ。下手すると横島達男共のY談よりドギツイかもしれなかった。
  「オキヌちゃんも何考えて読んでるんだ?冬山での遭難話ならまだしも、なんでそんな本を・・・」
  「学校で流行っているんだとおっしゃっておられたが・・今話題のレディスコミックでの話では3Pが」
  「どんな女学校だ・・・ああ、イメージが・・・・」
 頭を抱える横島。秘密の花園のイメージが非常に著しく失墜して、抱いていた夢を返せとばかりに涙が漏れそう・・・。
  「3Pが気に入らないのでござるか?ならば、今度は是非拙者と二人きりの時にもう一度お願い・・鳴々先生の体は暖かいでござるよ」
 今更ながら抱きつき頬染めるシロ。
  「だから、何もやっていないといってるだろうが!!」

  「ふ〜ん。で、何をやったって」
  「知りたいですよね・・・」
  「え?」
 シロの様子に気を取られていたが、外はとうに晴れていたのだ。つまり。
  「う!!」
 山小屋のドアには防寒具に身を包んだ・・・・今の状態では絶対会いたくない二人の姿が。バックからの雪の乱反射で目映い逆光以上に、その瞳を光らせていた。
 彼女らが見たのは仲むずかしく、シャラフのネック部分から見えた限りでは一糸纏わぬ男女三人が上気している姿。おまけにシロは腕を横島の首に回して頬ずえをついていた。

  「し シロ、あああ あたしたち おはなしの邪魔でしょうから・・・・その」
  「そそそ そうでござるな、あとのことは わ わかいものにまかせてで ござるな」
 お見合いじゃないって。
  「俺を見捨てるな」
 縋り付く横島をふりほどき、素早くシャラフから逃げる二人。
  「あ」
 横島が声を出す。
  「ああ」
 オキヌが小さく叫ぶ。
  「・・・」
 美神は更に殺気をはらんだ。
 狭いシャラフから、行き成り抜け出したからであろうか。シロとタマモは付けていた下着をズリ下げて、本当に一糸纏わぬ姿であったのだ。

  シーン
 五人の間にえもいえぬ空気が流れた。
  「待って、美神さん オキヌちゃん。事この場に至っては手遅れだとは思うけどさ」
  「な〜〜〜にかしら?横島君」
 美神の問いは優しい・・・。しかし表情はまるで彫像のようだ。暖かさは欠片も無い。
  「おっしゃってください、何なりと横島さん」
 オキヌの言葉もひじょうに ひじょうに優しい。無論・・・・・。

 その日、長くに山男らに愛された、古式ゆかしい山小屋は跡形も無く亡くなった・・・いや無くなったそうだ。代わりに、後日その隣に『贈 美神令子』と記載された真新しい山小屋が立っていたらしい。ついで、その隣には慰霊碑が新設されたそうだ・・・・・・横島忠夫と云うの名の名前が明記された。




    めでたし めでたし


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