無法者達の宴

著者:山屋


 西条は机をたたきながら「美神君!これは完全な違法行為なんだよ!」
美神は銃の手入れをしながら、「あらそう?私が作った法律じゃないわ。」と平然と答えた。
元々、美神さんには、法律を守って良い子で楽しく人生を送ろうという意志はない。
無論、自分なりのルールは守るし、弱い者には優しいのだが。
西条とて、美神のそんなところは先刻承知だが、さすがに今回のは見過ごせなかった。

「あくまでも強行するというなら、実力で阻止する。」
「どうやって? こんなの西条さんの管轄外よ。そんなことをしたらあなたの方が捕まるわよ。」
「ぐっ、そっそうだ、その銃。銃刀法違反で」
「これ? 精霊石銃よ、ゴーストスィーパーとして所有携行許可証は持ってます。見ます?」
 美神はうれしそうに笑いながら「もちろん、対人殺傷能力もありますけどね。そうでなきゃ今回役に立たないでしょ?」
確かにその通りだったので、西条は返事に詰まる。西条は唐巣神父を振り返り、
「唐巣先生!どうしてあなたまでこんな事に荷担するんですか!」唐巣の目には涙が浮かんでいた。
「この教会は、美神君に借金の肩として差し押さえられている。」
「へっ?」
「協力しないと取り壊してマンション建てて売り飛ばすそうだ。」
「・・・・・・・」
「美神君!私は仮にも君の師匠なんだよ!」
「やぁね、先生。人を極悪人みたいに云わないで下さいな。今日の事が済んだら借金棒引きで返してあげます。」
「唐巣神父? なんでそんな借金を?」
「はじめはたいした金額ではなかったんだが、いつの間にか返せない金額に。」
 世間知らずの唐巣神父には、悪徳高利貸し顔負けの美神に対抗するすべもなかったのだ。唐巣神父は泣きながら神に許しを請うていた。

やがて準備は整い、美神は「さぁ行くわよ。おキヌちゃん、横島君。」
「はい!美神さん。」「あのぅ、美神さん。本当にやるんすか?」
「なに今更びっびてんの。」横島は、美神さんとおキヌちゃんに両脇を抱えられ、引きずられていった。

教会の中には、すでに極楽メンバーが総出演で何とか美神達を引き留めようと待っていた。
しかし、美神さんとおキヌちゃんは全く意に介さず、あきらめ顔の唐巣神父の前に横島を引きずっていった。
「それでは、はじめようか。」
美神さんは、精霊石銃を取り出し、横島に突きつける。「お願いします、先生。」
「分かった。あー、横島忠夫、汝はこの女達を妻として認め、病めるときも健やかなるときも愛し続ける
と誓いますか。そう言えば君の場合、死んでも別れさせてもらえないんだったな。従って、
『死が3人を分かつまで』は割愛する。」

 そう、これは3人の結婚式だった。元はといえば、横島が悪い。つい成り行きで両方に手を出してしまい、あっという間にバレて、しばき倒された。横島が虫の息になるまでしばいた美神だったが、内心ほっとしていた。おキヌちゃんになんて云おうか悩んでいたのだ。そしてそれは、おキヌちゃんも同じだったのだ。
普通の女なら、ここでドロドロした戦いが始まるところだが、美神さんとおキヌちゃんは、目があったとたん、同じ気持ちだったのがわかって笑い出していた。

 こうして美神さんとおキヌちゃんは開き直った。いざこうなってみると、これが一番だという気がする。
その場で、妻としての権利と夫の義務を網羅した契約書を作って横島の血判を押させた。夫の権利や妻の義務は一行も書いてなかったが、血塗れで横たわっている横島には抵抗のすべはなかった。もっとも、無傷だとしても、開き直った女に男が勝てる筈はないのだが。

 横島が銃を突きつけられて、返事をしようとしたその時、「異議あり!」そう叫ぶ集団が現れた。
先頭に立つ小竜姫は「美神さん、私は神族としてこのような不道徳を認めることはできません。」
美神さんはジト目になって、「あらあら、本当にそんなことでわざわざ?世の中もっとひどい不道徳が一杯あるけどあんた達神様が懲らしめたなんて聞いたことないわよ。第一、そのメンバーじゃ説得力ゼロね。」
小竜姫の後ろにいたのは、小鳩に貧ちゃん、愛子、シロ、マリアだった。道徳うんぬんは口実なのは見え見えだった。
「あいにく、契約は済んでるの。でも浮気しそうな相手がそろっているとはね。ちょうどいいわ。人の亭主に手を出すとどうなるか教育してあげる。」
「みっ美神君、お願いだから私の教会の中では勘弁してくれ。」
唐巣神父の願いは、もはや美神に聞こえてはいなかった。

「冥子、どっちに味方するわけ?」
「あたしー?、もちろん令子ちゃんよ。」
「きまり、あたしは小竜姫に味方するわけ。」
「あらー、エミも横島君が好きだったの?」エミは冥子を殴ってから、
「バカなこと云うと殴るわよ。あたしは単に令子の邪魔がしたいだけなわけ。」
「あーん、令子ちゃん。エミが冥子を殴るのよ。」
冥子が泣きだし式神が暴走した。悲鳴が上がり乱闘が始まる。

ジークフリートは「姉上、どうします。」
ワルキューレはフッと笑って「こんなところで神族とやり合うのはまずいな。」
「それでは、見ているだけですか?」
「バカを言え、こんな面白そうな喧嘩を見ているだけで魔族といえるか。」
ワルキューレは乱闘のまっただ中につっこんでいく。やれやれといった様子でジークが続く。

 乱闘の中で、雪之丞と弓が鉢合わせする。「あなた、どっちの味方なの。」
「そりゃ、横島の。」
「あんな男と結婚させられて、美神お姉さまや、おキヌちゃんがどうなってもいいというの!見損なったわ。」
二人は乱闘を無視して痴話喧嘩を始めた。

 ピートは、タイガーの一撃をかいくぐり「何でだ?」「儂じゃって女の子からお弁当もらいたいですのー」
そこへエミが「あーん、ピート、エミ怖い」といって抱きつき、動けなくなった所へタイガーのクリティカルヒットが決まる。「何すんのよ、このバカ」エミに踏みつけにされながらタイガーは泣いていた。

 状況はもはやなんでもありになりつつあった。ドクターカオスは「マリア、今の内に金目の物をあさる
のじゃ」「イエス、ドクターカオス」こっちでは横島大樹が美神さんを口説こうとして百合子さんにお仕置きを受けている。向こうでは一文字がどういうふうに横島と結ばれたのか、興味津々に聞き出そうとしておキヌちゃんを困らせていた。教会の外では魔鈴が、これで西条はもう自分のものだとご機嫌で、披露宴の料理の支度をしていた。お駄賃としてもらった特製いなり寿司を頬張りながらタマモが手伝っている。
 小鳩と貧ちゃんのチーズあん締鯖バーガー攻撃が炸裂し、愛子は誰彼かまわず机の中に吸い込んでいた。
シロは泣きながら霊波刀を振り回す。横島のクラスメートは何としても横島を殴ろうとして一向にあきらめる気配がない。銀ちゃんまでが加わっていた。

 どさくさに紛れて西条が横島に襲いかかる。危うくかわして横島は「てめぇ、今の本気で殺そうとしてただろう。」「ふっふっふ、何の事かな?」西条の目がキラリと光った。そこへ、ベスパとパピリオが現れた。
「手伝おうか、ポチ」「お前には早くルシオラを生んでもらわないと困るんでな。」西条は3対1で葬られた。
 やがて、小竜姫を追いかけて来た、天竜童子と斉天大聖までもが面白そうだと参戦し、唐巣神父の願いもむなしく、目の前で教会は崩壊していった。

「あぁ、私の教会がー。」
美智恵と公彦は、ヒノメを抱いて外で見ていたが。「申し訳ありません神父。あの子に弁償させますから。」
「君たち、今まで一体どこに。どうしてこんな事を止めなかったんだ。」
「あの子は言い出したら聞かないでしょう?あ、そろそろ終わったようですよ。」
廃墟から3人が意気揚々と腕を組んで出てくる。「さぁ、唐巣神父。続けましょ」

 怒号と罵声の中、結婚式はつつがなく終わった。心から嬉しそうに微笑む美神さんとおキヌちゃんの、純白のウェデディングドレス姿(こうなることを予想して、しっかり着替えを用意していた)を見ていると、横島もこれ以上逆らう気はなくなっていた。
 それにこれは、彼が心から望んだ決着でもある。

 こうして、嫁さん2人、だんな1人の新婚生活が始まった。ルシオラの事だけが心配だったが、美神さんが3つ子、おキヌちゃんが双子、全員女の子を同時に産んだものだから、どの子だか判らなくなってしまった。
ベスパとパピリオは文句をいったが、3人は気にしなかった。
 どの子も同じように親に手を焼かせて、そしてかわいかったのだから。

 そんな訳で、この後も彼らの人生に平穏の2文字はなかったが、ズタボロになった一同で撮った結婚式の記念写真に写っている美神さんとおキヌちゃんの笑顔は、生涯失われることはなかった。


※この作品は、山屋さんによる C-WWW への投稿作品です。
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