∬3


 回想から、気を取り直して鉄仮面をかぶり直す。
  「犯人の要求は現ザンス国王の退位。それに王国制の廃止と古代ザンス宗教を大綱とした懐古主義への復権だ」
 西条の口にした要求に嫌そうに舌をベっと出した顔は疲れ気味に焦燥している。
  「あらま。てことはどうみても見殺しだろうな。可哀想にな〜〜〜。因果応報だな。しかし・・・・・・」
 どうして、こう狂信宗教主義者は回りが見えないのかと西条に呆れ肩を竦めて見せる。例え過去に国王を救った英雄とされる者でも、女の一人ぐらい人質にしたぐらいで現政権を放棄する国などあろうはずは無いと、テレビのコメンテーターのように無責任につぶやく。
  「ん・・・・・・・・いや待てよ。これだけ用意周到で、理路整然としたプロが初めから拒否される命令を出すのか・・・・・・・・・で、他には?」
 思案の表情を崩さずに再び尋ねる。
  「ああ。国の再生の為に、有意義な使い方をしてやるからと、渡していた自分らの物も含めて彼女の全財産の供出を要求してきた。危機管理委員会によると本当の要求はコッチの方だとする向きもあるぐらいだ。あまりに馬鹿な要求だからな、ザンス国に出した条件の方は。だれが考えても受け入れられるワケはなかろうからな」
 テロリストの談判の手管の一つ。幾つかある要求の片方は実現不可能にして、対比的に残った方を実現可能にと取り引きを優位にする。案外とソッチの方が本命だったりするのは良く有る話であるのだ。


  「あらま〜〜。じゃあその要求怒ったろうな。暴れたんじゃないのか?」
 その呑気な雰囲気を称えた言葉に軽口で応酬出来ずに、ただ垂れた汗を拭く。
 コクピットからの連絡で要求を述べていたが、ザンス王国の事情には他人事だと黙っていた節もある。しかし事彼女自身の財産に話が及ぶと無線越しでは無い喧噪が響いてきた。きしゃ〜 いしゃ〜と怪音が響いて、見守っていた警察陣のコミカミに汗が垂れた・・・。どうやら立場を忘れて精霊獣相手におっ始めたようだった。
 犯罪下においては身内の承認さえ取れれば財産の自由な取り引きをすることが出来る。多分彼女の母ならば遠慮なく テロリストの要求通りに財産を差し出すであろう。それが例え世界的には許されぬ事であっても、母として差し出すだろうと思って暴れていた。何とか殺されずに取り押さえられたようで、その方に思わず安堵を溜息を着いたぐらいだ。

  「そう言えば身代金を出すっていったの?美智江さん」
  「あ ああ。先刻こちらに来るデルタ航空機内からの電子マネー決済書で僕に白紙委任で任されたよ」
 ”僕”が任されたと言う所に、今更ながらプライドを保とうとする自分が悲しかった。もう結論は出てるというのに・・・・。
  「あらま。母娘でも幾らか違うんだか」
 まあ当然の事であるが、あの母娘相手には常識は通じ無いので一応聞いてみた。西条の回答に笑いながらも、少し安堵から肩を落とした。
  「ん?!」
 苦笑混じりであるが、おかしそうであったので思わず怪訝な顔をする西条。仮にでも今の状況は笑える状況では無いのは相当な馬鹿にも分かる筈だから不謹慎を怒ろうとした。が、それを思い止まる。人並み外れた洞察力のある彼相手に・・・・・凡人の域を出れない自分が何か言うのは分を超えた事だと悔しいが分かっていた。
 
  「じゃあ取り敢えず一枚だけはカードを残してくれた理由だな。流石に余裕のあるってんで油断したな。まあテロリストなんぞ、大体てめえの民族が一番優れているって馬鹿な選民思想を夢想している馬鹿で助かるぜ。お陰で足をすくいやすくてな」
 皮肉っぽく浮かべた笑みにゾクリとする。普段は馬鹿の仮面?に隠されているイデ(本来の性分)が出てきたのだ。誰もその領域に入れない天祐の才が発現しているのが分かった。

  「ん?どういう事だ」
 筋道を外した会話にたずねるが、返ってきたのは屈託の無い笑みだけ。もうミッションは全てコンプリートだと力は入っていないとでも自信を通り越していた。思わずたじろぐ西条に自分の作戦を耳打ちする。
  「ば 馬鹿な・・・・そんな事をすれば・・・・」
 思わず飛び出そうとした反論だったが、噛んで含む。
 認めたくは無かったが、その作戦に賭ける西条。確かにそれ以外は彼も策は無いように思えた。もう実の所八方塞がりなのが本当の所であったのだから。

 何しろ相手は幾ら赤色テロ組織とはいえども、オカルトアイテムの本場の連中だ。幾ら金にあかした装備が自慢のオカルトGメンの装備より遙に優れた、いわゆる金で買えない装備のオンパレードであったのだ。つまりガン首を揃えていたが、打つ手は無いと言うのが本当の所であった。


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