それぞれの想い!
作:Heyn

 
0、プロローグ

 カラ〜ン、カラ〜ン。
 教会の鐘が盛大に祝福の音を上げる。
「はい、誓います」
 女は一瞬だけ男の方を向いて、小さくウィンクする。
「誓います」
 男も少し緊張した面持ちで、答える。
 困った神父の声も聞かずに、二人はキスをする。
 二人は教会にいた人々の拍手と、ステンドグラスから差し込む太陽の光に包まれて、祝福されていた。
 そんな教会の席に、独りの女性が座っていた。
「いいなぁ、わたしもいつか・・・」
 彼女のそんな想いが叶うのはいつの日であろうか・・・。
 

 
 
1、誰かの想い!

「吸引!」
 右手にかざした吸引札が、悪霊を吸引していく。
『ピギャアアアア!』
  悪霊の断末魔が響き渡り、古い屋敷の一部屋に木霊する。
「ふぅ、終わった。美神さ〜ん、そっちはどうっすか〜?」
 除霊を終えた横島が、2階の美神の様子をうかがう。
 今回の依頼は、120年前の古い洋館を使った美術展を開くので、住み着いた悪霊を退治してくれ、というものだった。
 この屋敷のまわりは森に囲まれ、さらに地下に磁鉄鋼が埋っているため、霊能力者の命綱ともいうべき第6感があまり効かないのである。
「こっちもいま終ったわ、こんな山奥のボロ屋なんかさっさと出ましょ。第6感を開放してるのに、ほとんど効かないから、思ったよりてこずったわね」
 美神は2階の扉すべてに結界を張っていく。
「そーっすね。でも、ひとまず除霊は終ったんだし、後は帰るだけっすね」
 横島が大きな荷物を背負って、窓の外を見ると、そこには鬱蒼とした森と夕日があるだけだった。
 

「うかつだったわ。こんなところで日が暮れるなんて」
「どうします? このまま降りていくんすか?」
 どこからかフクロウの鳴き声が聞こえる。里に降りるには、里に植えられた大きな一本杉を目指して、この森をまっすぐ抜けていくしかない。
「もう杉が見えないから無理ね。普通の山ならまだしも、ここじゃ第6感が利かないから、迷うのが関の山ね。仕方ないわね、ここで野宿しましょう」
「と、いうことワ――夜の山で男と女が二人っきり。ああ、これは! あ〜んダメよ、横島クン・・・、み゛か゛み゛さ〜ん、僕ぁ〜もう!」
 横島のどてっ腹に会心のボディーブローが決まる。美神は続けて倒れ込む彼に対して、回し蹴りが決まる。いつもより殺気がこもっているのは、気のせいではないだろう。
「ひ、酷い。ただの冗談なのに、2発も・・・」
 すでに血まみれの横島がうめく。
「本当に襲ってきたら・・・、そ、その時は命の保証はしないわよっ!」
 なぜか少し赤くなってしまう美神であった。
 

 ぱちぱちと、たき火が音を立てる。闇の森に、男女の影がゆらゆらと照らし出される。女の影は先刻より間をもたすために、ただひたすらに話しを続けており、男の影がそれを聞いている。
「――でね、その時のママの顔ったら・・・、聞いてるの横島くん?」
 たき火が揺れるので、左前に座った彼の顔が影になって美神からは確認し辛い。
「聞いてますよ、美神さん」
 横島はうつむいたまま、静かにそう答える。
 なんで私がこんなに間を気にしてるのかしら、と思いながらも話を続ける。
「そう、ママの顔ったら、まるで吸引前の悪霊みたいな顔だったのよ! ――あれ? おもしろくなかったかな?」
 無理に笑顔を作りながら、横目で横島の反応をちらりと見る。が、反応はない。
 うつむいたままの横島に、美神は声をかける。
「おーい、横島ぁ」
 彼の顔を下から覗き込んで声をかける。と、突然横島が顔を上げ、美神の肩をつかんだ。
「なっ!」
「みっ、美神さん・・・、あ、あの、その、お、俺と、俺と結婚してくれませんか?」
 突然のことに、美神は面喰らって声も出ない。が、プロのGSであるからか、精神的ショックからも立ち直りが早いのは、流石はと言うべきか。すぐに口を開く。
「ん、な、なに言ってんのよ、トートツに!」
 いや、このショックはそう簡単には抜けないらしい。美神の顔にははっきりと動揺の色が表われている。
「本気なんすよ。ずっと前から、美神さんの事が。俺も今年でもう25だから。8年前のあの日からずっと言おうと思ってて――――――
――――――――美神さん、好きです」
「横島クン・・・」
 美神を見つめている目はホンモノだ。痛い程強くつかまれた肩がとても暖かい。
 いやだ、なんだか体がしびれてく・・・。怒るかなぁ、おキヌちゃん。小鳩ちゃんには悪いカナ? 西条さんは、きっと怒るデショウネ。あぁヨコシマクンが、スキ、ワタシのコトを。ワタシは、ヨコシマクンが・・・。アレ、ホントニカラダガ、ウゴカ、ナ、イ?
 

 翌朝、横島忠夫は小鳥のさえずりで目が覚めた。
「う、う〜ん」
 たき火が消えて、黒い炭と化していた。まわりは相変わらず森だ。
「あれ? 寝袋なんかかぶって寝たかな? 美神さん、朝っすよ」
 横島は眠たい目をこすりながら、美神に声をかける。
「あれ? 美神さん、朝です」
 以前、起き抜けの顔を見てしまい、2週間ほど口を聞いてもらえなかったのだ。それ以来、寝顔を見ていない。
 横島は意を決して美神の方へと首を向ける。
「いない!?」
 あたり一帯を探した横島は、急いで事務所に戻り、唐巣神父に連絡を取ったのであった。
 

 
 
 
2、それぞれの想い!

「困ったことになったね」
 唐巣神父はそう切り出した。ここは、唐巣神父の教会の一室である。
「あの森には、昔っからの土霊達が住んでいてね、美神君はその、なんだ、きっと土霊の誰かに見初められたんだと思う」
「それじゃあ、美神さんの居場所を探して、連れて帰ればいいじゃなですか!?」
 横島は少し興奮気味に言った。
「落ち着いてください、横島さん」
 ピートがなだめる。
「ああ、すまん」
「続けていいかね? そう簡単に行く相手ではないんだよ、土霊と言うのは」
 唐巣神父の話しをまとめるとこうだ。
 古来、土霊は神の使いとして崇められていたのだが、やがて人間達の信仰心も薄れていった。人間は山を開き、土霊の住みかを侵していった。
 土霊にたいした力はない。彼等の得意とするのは幻術である。土霊が住みかを完全に失うのも、時間の問題であった。
 そんなとき、ある土霊が人間の女と交わり、子を成した。その子は強力な力を持ち、人間達を追い払っていた。
 当然、他の土霊もそれにならった。そして、純粋な土霊が少なくなった頃、異変は起きた。
 野心、であろうか。強い力を持った土霊は、人里におりて力を奮った。そして、人間社会は混乱し、多くの魔物達が人間社会に介入していった。
 純粋な土霊は、人間との交わりを禁忌とし、森の奥へと隠れ住んだ。だが、土霊は住む場所をそれでも追われた。
 土霊はひとつの判断を下した。――人間と再び子を成すこと。土霊の中から一人だけが、人間と交わること。
 土霊は得意の幻術で人間の女と交わり、子を成した。
 以来、土霊はそれによって種を保っている。
「でも、何で美神さんなんです?」
 横島は疑問を口にした。
「人間にも土霊にも、生き物には霊的な発情期というものがあるんだ。人を好きになったときに、妙にいつも以上の力が出せる時があるだろう。人を好きだと思う気持ちが強いと、霊的な発情期に突入するんだ。きっと美神君も・・・」
 唐巣神父は天を仰いで、天変地異が起こりませんようにと祈った。
「え゛美神さんが・・・、誰かを?」
 

 頭が痛い、背中も痛い。
「う、う〜ん、?」
 美神玲子は目を覚ました。見たことのない景色。
「どこ?」
 彼女は自分の記憶と、今の状況が繋がっていないことに気がついた。
 どうやら、ここは洞窟らしい。表の明りは見えないが、ヒカリゴケのせいだろう、全体に明るい。壁には食器棚らしきものもある。人が住んでいるらしい。
「ふ〜ん、誰かに連れてこられたってこと・・・。横島くんは、いないか」
 そう言って、最後のとぎれる前の記憶を思いだし、再び赤くなる。
「誰っ!」
 気配を感じて、思わず叫ぶ。
『お、目ぇ覚めた見たいやのぅ』
「土霊?」
 土霊といえば、人との接触を断ったはず。
『そぉんな怖い顔せんといてぇや、これから一緒に暮らすんやからなぁ』
「は?」
『お主は、ワシの嫁さんにのぉ、なるんやぁ』
「帰らしていただきます」
 美神は、そう言ってスタスタと表に向かって歩き出す。
『止めたぁ方が、ええでぇ』
 土霊はのんびりとした口調で、そう忠告する。
「お構いなく、一人で帰れますから。って、うげっ」
 出ようとしたところで、壁のようなものにぶつかって、しこたま顔を打った。
「なっ、結界!?」
 鼻を抑えながら、美神が叫ぶ。
『だぁから言うたのにぃ。ワシとお前さんはぁ、もう夫婦じゃからのぅ、この洞窟からはのぅ、わしの許可がないとぉ、出られんしのぉ。たとえ外へ出てもワシから遠くは離れられんからのぅ。あきらめることやなぁ』
 美神は半ベソをかいていた。
 

 小笠原エミも半ベソをかいていた。
「玲子が誰かに惚れてたからって、土霊と結婚したワケ。くくく」
『その美神さんの好きな相手が気になりますね』
 小竜姫は神妙にうなずいた。だが目は笑っている。
「玲子ちゃん、ついに僕のことを!」
「わしゃ、飯が食えると聞いてきたんじゃが、まだか?」
「うぉぉ、エミさ〜ん。わしも燃えるけんノー」
『イエス・ドクター・カオス・現在・会議中・です』
「玲子ちゃ〜ん、寂しいわ〜〜〜」
「神も万人に愛を分け与えたんですね、先生」
「ああ、そうだ、ピート。神は万人に平等なのだよ」
 それぞれがこれを聞いたとたんに、口々に意見を言う。
「みなさん、それどころじゃないでしょう!」
 おキヌの声もこれでは全く聞こえない。
「だまらんか〜〜〜!」
 爆音と共に教会の椅子が吹っ飛び、文珠が炸裂した。ついでに、横島も血まみれにされていた。
 

『見つかりましたよ。ほら』
 隅っこで美神捜索にあたっていたヒャクメが口を開いた。
『ほら、ここです。結構、山奥ですね』
「場所が分かったのはいいワケ。でも、呪いのプロから言わせてもらえば、結婚の盟約ってのは、同じ力で成立するし、破るにも同じ力でしか破れないってワケ。つまり、ワタシとピート見たいに好き合ってないと、ってワケよ」
「ちょ、ちょっとエミさん」
 ピートが抗議の声を上げるが、当然無視である。
 六道冥子が手を上げる。
「は〜い。でも、玲子ちゃんはぁ、その土霊さんのことは好きでもなんでもなかったんでしょ〜〜?」
「きっと、その時の玲子ちゃんに好きだって、思わせるような幻術を使ったんじゃないかな?」
 西条が言う。それに合わせて、小笠原エミもうなずく。
「でも、同じ力って言っても、美神さんの好きな人って・・・」
 おキヌが心配そうに言う。
『それならご心配なく』
「ヒャクメ様?」
 おキヌが疑問の声を出す。
『我々に心辺りがありますから。ね、横島さん』
 小竜姫が横島にウィンクする。横島は自分を指差して答えた。
「お、俺っすかぁ?」
 

「なるほどね。そうしないと、この盟約は断ち切れないのね」
『そぉや、その好きな奴が来ればの話しやがなぁ』
「好きな人ねえ」
 美神はため息まじりにそう言う。
『あれ? あの男じゃぁないんかのぅ? え〜と、確かヨコ・・・』
「横島くん?」
『そう、そいつや。あんたの心んなかにゃぁ、そうやったんやけどなぁ』
 土霊は思い出すように言う。土霊は、美神にお茶を出すと、自分でもそれを飲んだ。
 美神はそのお茶を眺めたまま、遠い目をしている。
『どうしたんや?』
 間が持たなくなって、土霊が口を開く。
「んー、どうかなーって思って」
『どうって?』
「横島くんなのかなーって、思って。それに、横島くんは私の事どう思ってるのかって、ね」 美神は自嘲気味に笑う。
『好きやないんか?』
「嫌いじゃないわ」
『人間ってのは、生きる時間が短いから、すぐに好きやぁ嫌いやぁ言うて、くっつきたがるんかぁ思とったんやけどなぁ』
 土霊は人間に比べると、はるかに長い時間を生きる。だからこそ、こう言えるのだろう。
「そんな簡単なもんじゃないのよ。特に私はね。なんたって、前世からのくされ縁なんだから」
 またも自嘲気味に笑いながら言う。そして、美神もお茶に口をつける。
『ほう、そりゃ凄いなぁ。そんだけの長い時間かけとるんやぁ。魂はもう答えを知っとぉるはずや。一度、冷静になって、魂の声を聞いてみぃやぁ。上辺の感情だけやのぅてなぁ』
「えらく親切なのね。フフ、そうね、1000年の答え、出してみるわ」
 今日3度目の自嘲気味な笑いで、美神はお茶を全部飲み干した。
 

「し、死ぬぅ!?」
 横島の声が、教会に響き渡った。
「失敗すれば、の話よ」
「大丈夫、君がいなくなれば、あとは僕がなんとかしよう。ははは!」
 西条が本気で言っている。二人の間で、火花が飛ぶ。
「ま、あんたはどうにでもなるけど、後は玲子の問題なワケ」
『二人の信頼関係が試される、ってことですね』
 小竜姫が後ろから声をかける。
「し、信頼関係っすかぁ」
 横島が頼りなさげな声を上げる。
「で、おたくはどうなのよ、実際の話」
「お、俺っすか。美神さんのことは好きですよ。でも、それはおキヌちゃんも、エミさんも、小竜姫様も・・・わかんないっす」
 横島は言いながら、しだいにうなだれる。
 がんっ! 部屋の全員が視線を一箇所に集中した。
 小笠原エミは、横島の胸ぐらをつかんで、そのまま壁に叩きつけたのだ。
「おたく、はっきりしなさいよっ! あんたの態度次第で、明日の作戦の成否が決まるのよ! そんなんじゃ、ミスミス玲子を殺すようなものよっ!」
「エミ君!」
『横島さんも悩んでるんです。明日の朝まで待ちましょう。いいですね。横島さんも』
 唐巣神父と小竜姫が間に入って止める。
「・・・はい」
「今日はもう休んだほうがいい。君達は2階の部屋を使うといい」
 うなだれたまま横島は、部屋を出ていった。
 その背中を、両手をきゅっと固く握って見送っていた、おキヌの姿があった。
 

 都会の夜の風は意外にさわやかで、気持ちが良かった。
『眠れないみたいね』
「小竜姫さま。少し・・・」
 屋上の戸が音をたててしまった。
「俺、こんなこと真剣に考えたことなくて。それに、おキヌちゃんや、小鳩ちゃんにも悪くて。俺、決められない」
 横島は手すりにもたれかかって、独り言のように言う。
 そして、やや間を置いて小竜姫が口を開いた。
『あなたの思うように、すればいいんじゃないかな。もし、明日駄目なら駄目でもいい。あなたが決めたこと。でももし、あなたが美神さんの事を想っているなら・・・、ね。頑張って、ほら。男の子でしょう!』

   『男の子でしょう! シャキっとなさい!』
   『――――みかみさん?』

「はは、すいません。俺なに言ってんだか・・・。真剣にこんなこと考えたことなくって」
 頭をかきながら、横島は照れ笑いをする。
 小竜姫は横島に背を向けて言う。
『あなたは、私が見込んだ人です。強い心があるはずです。それを信じて』
「小竜姫さま・・・」
 かちゃっと扉の音がする。
『私はお邪魔みたいだから、消えます。横島さん、自分を信じて下さいね』
「ありがとうございます、小竜姫さま」
 小竜姫はふっと消えた。そして、扉からはおキヌが現われた。
「横島さん、いいですか?」
 おキヌは様子をうかがうように、扉から出て来た。それを見ながら横島は、ひとつの想いを胸に秘めていた。 
 

 
 
 
3、二人の想い!

 森は深かった。とことん深い。深いったら、ありゃしない。というくらい深かった。
「邪霊が減ってきたね。そろそろ土霊のテリトリーだね」
 唐巣神父が辺りを見渡して言った。
「先生、あそこ!」
 ピートが指差した方向には、切り立った崖があり、その側面に穴が開いている。
「あそこみたいじゃノー」
「ど、どうやってのぼるんすか?」
 穴は側面にぽっかり開いている。かなり高い位置にあり、しかも足場はない。
「小僧の文珠を使えばどうじゃ? 全員を運べるじゃろ」
『成功確率・97%・です』
『いいアイディアですね』
 カオスのまともな意見に、一同は驚く。
 全員が崖の下にたどり着いたところで、横島は言った。
「そ、そーだな。カオスのおっさんのアイディアでいいか。それにしても、何でこんなに大人数なんだよ」
 重いものを持ち上げるには、それなりの霊力を消費する。
「玲子のライバルとして、結果を見届けないといけないワケ」
「わしゃー、横島さんに期待しとるけんノー」
『二人のことが気になりますからね』
『わ、わたしは案内役で――』
「君だと、玲子ちゃんの事が心配だからね」
「玲子ちゃんは〜〜、お友達だから〜〜」
「僕は、横島さんの友人としてですよ」
「彼女の師匠として、彼女の行く末をだね――」
「わ、わたしは横島さんが、心配だから」
「わしゃ、おもしろそうだから来たんじゃ」
『マリア・ドクター・カオスの行くところ・ついて・行く』
 全員がほぼ同時に、横島からは目線をそらして言う。
 それを聞いてか、聞かずか、横島はがっくり肩を落とす。
「やっぱり全員、野次馬か・・・」
 結婚の盟約を解除するには、新たな結婚の盟約をすればよい。儀式などはない。ただ、二人が強い想いで霊的に結ばれればいいのだ。
 つまり、横島独りで来ても、なんの問題もなかったのだ。
「ほら、さっさとするワケ。早くおもしろいものが・・・、玲子が見たいワケよ」
「わかりましたよー」
 横島は意識を集中すると、二つの文珠を作りだした。「浮」「遊」をかざすと、全員の体が重力の糸を断ち切られて、浮き始めた。
「遅いノー」
 当然、浮くのであるから、風船と同じだ。ゆっくりと浮かんでいく。
 やっとのことで、洞窟の入り口へたどり着いた。奥は見えない。
「美神さ〜ん」
 全員はぞろぞろと洞窟の奥へと進んだ。
「あ、あんた達、結界は?」
 美神は唖然として問う。
『あの結界はのぅ、あんたにしかぁ効かんのやぁ』
 土霊が奥から立ち上がり、横島達と対峙する。
「玲子、さっさと帰るワケ。帰ったら、いろいろと吐いてもらうワケよ」
 エミの薄笑いに、美神も苦笑いで返す。
「美神さん、帰りましょう」
 横島が一歩前に進み、美神の手を取る。
「なにすんの、この!」
「・・・な、何で?」
 美神の上段蹴りによって、横島は沈没した。一同も、これには全く反応できなかった。
『お、お前、なにしとんのや? こいつのこと、嫌いになったんか?』
 流石の土霊も何がなんだか分からない。
 美神はひとつ大きく肩で息をする。
『美神さん、照れないで』
「玲子ちゃん、横島君が嫌なら、僕がいる」
「おもしろくなってきたようじゃの」
 外野からいろいろと声が上がる。美神は青筋をたてて、一睨みでそれを一蹴する。
「ったくもう、1000年も待ってるってーのに、もうちょっと気のきいた言葉はないの!」
 美神は真っ赤になりながらも言う。彼女なりの横島へのアドバイスのようだ。
 その場の全員が、しんと静まり返って、横島と美神の成り行きを見守る。
「す、すんません・・・」
 横島がそういいながら、立ち上がる。
「俺、あんまし気のきいたこと言えないけど、1000年前からずっと想ってたことが――」
 場の全員が、固唾を飲んで見守る。
「美神さん好きです。俺と結婚してください」
 驚くほどあっさりと口から言葉が流れ出る。
「ひとつだけ、約束してくれるんなら、いいわよ?」
 美神は耳を真っ赤にしながらも言う。
「浮気はしません。エッチなビデオも借りません。貧乏もしません」
「当然よっ! でも、ひとつだけ。もう、私より先にいなくならないで」
 美神の目から、なみだが落ちる。
「――美神さん」
「もう、あんな想いは二度と、したくないから・・・」
 横島は美神の肩をそっと抱く。美神も抵抗はしない。
「わかりました」
「ありがとう、横島クン。大好きよ」
 外野から大きな拍手が起こった。
「玲子ちゃ〜ん、感動したわ〜〜」
「感動じゃノー」
「あ〜ん、ピートぉ、私も結婚した〜い」
「や、止めてください、エミさん」
「美神君、これから大変だろうけど、横島くんは良き伴侶となってくれるはずだ。二人で頑張るんだよ」
 唐巣神父が言う。そして、後ろから土霊が口を開く。
『すまんのぅ、わしがよけぇなことをしたばっかりにのぅ。横島とやら、許してくれんかのぅ』
 横島は大きく首を振る。
「いえ、許すもなにも、感謝してるっすよ」
『そうか、ありがとうよぉ』
 土霊は大きな涙を流す。
「玲子、分かってるわね?」
「分かってるわよ、エミ」
 美神はそう言って、横島の正面に立つ。
「いい? 我、汝を夫として認め、誓う! さ、あんたも」
「はい。我、汝を妻として認め、誓う!」
 一瞬ふたりが白く光に包まれ、消える。
「よろしくね、横島クン!」
 その後、土霊の導きで里まで降りると、美神達は小竜姫達と分かれ、宴会をするために、街へ繰り出していった。
 当然、美神と横島は隣同士で――。
 

 
 
 
4、エピローグ

 カラ〜ン、カラ〜ン。
 教会の鐘が、全ての人々に二人の祝福を伝えるかのように、大きく立派に鳴り響く。
 唐巣神父の問いに、二人はそれぞれ答える。
「汝、美神玲子は、横島忠夫を夫と――」
「はい、誓います」
 美神は一瞬、横島の緊張した横顔を見上げ、答える。
「汝、横島忠夫は、美神玲子を妻と――」
「誓います」
 声も心なしか緊張している。
 そして、唐巣神父が話し始める。
「健やかなるときも――」
 そんな神父の声も聞かず、二人はキスを交す。
 二人は教会に来ていた人々の拍手と、ステンドグラスから差し込む太陽の光に包まれて、祝福されている。
「君、式には順序ってものが――」
「待ってらんないわ」
「僕もです」
 そして、再び熱いキスを交し、再び喝采を浴びる。
「エミ、あんたより先に結婚したわよ。賭けは私の勝ちね」
「そんなの知らないワケ。それに、私にはピートがいるワケ」
 教会には美神、横島それぞれの肉親、知人がいた。もっとも、美神関係者がほとんどだったが・・・。
 その中に、当然おキヌもいた。
「いいなぁ、わたしもいつか・・・」
 そんな彼女の想いが叶うのは一体いつの日であろうか・・・。
 

(おわり)

※この作品は、Heynさんによる C-WWW への投稿作品です。
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