gs mikami gaiden:four square enemy,sing my country song

著者:西表炬燵山猫


  「うっふっふっふ」
 まるで、唐巣神父の協会のトマトの様な、気持ちの悪い忍びが武道館に漏れる。
  ひそひそひそ
 それは周囲に伝わったらしい。視線を感じて素早く顔を引き締める。
  (いかん、いかん 笑いを押さえないと。私の端正なイメージが崩れればファンががっかりするからな)
 たわけた事を考えるのはオカルトGメン捜査官 西条警部 31才 独身であった。
  「気持ちの悪いやつだなあ、相変わらず」
  「君に言われたくは無いがな」
 白いマットのジャングルでお互い見合った野郎二人。毛虫を見るような視線で、お互いソッポを不機嫌に向いた。

  (いかんな、死に行くものにはもう少し優しくせんと)
 そう思いつつも、目の前の不具戴天の天敵の先行きを思い浮かべると笑いが隠せなかった。昨夜入念に手入れをした霊剣ジャスティスが、きっとドス黒いだろう横島の血に染まる事を考えると・・・。


  「ああ、横島さん大丈夫でしょうか?」
 二人を望む観客席のオキヌが呟く。
  「まあ、あれでも一応は世界を救った一人だから、まあ・・・多分、その大丈夫じゃないかしら」
  「そうでござろうか?何やら西条殿には不審な殺気が漂っておるようでござるが」
  「あたしも感じるな。とても本選までの場繋ぎ模範試合には思えないぞ」
  「そ そうかしらね。やっぱり」
 シロとタマモの言葉に実は美神も感じていた事なので汗が垂れる。
  「やっぱり断った方がよかったんじゃないですか?横島さんも乗り気で無かったみたいですから」
  「うう。でも一応GSの本部からの正式な要請だったから、ママも断れなかったみたいだったし。それに、西条さんも横島君と勝負したいって張り切っていたから、あたしも断れなかったのよね・・・・」
  「なんでそんなに勝負したいんですか?単なる勝負というより、凄く他意感じるんですけど」
  「・・・・」


 目の前で今から行なわれようとしているのは、昨日から行なわれている今年度のGS免許の幕間のエキビジョンマッチ。これから免許を所得しようとしている若者の参考にもなるとの理由から行なわれることになった。選ばれたのがバリバリのキャリアの西条と、一応若手の有望株と一応評価されている横島であった。
 無論免許所得とは関係ないので、真剣勝負ではないと説明していたが、使うのはいつもの獲物であるので真剣にならざるをえないであろう。特に西条は何やら不穏な空気を漂わせていた。
 この頃、前にもまして横島と美神の仲が深まったように感じるので、このままではといけないと一気呵成に勝負をかけるつもりであった。彼の死と言う究極的な結論を。
 美神らも知らなかったが、実はこの勝負の提案者は彼であった。合法的に横島の命を闇に葬り、その余勢で美神ゲットを目論んでいたのだ。だから、彼は燃えていた。バックに巨人の星に出てくるような炎をしょいながら。

 反して燃えない横島。まだ相手が奇麗なお姉ちゃんならまだしも、不幸を切に願う西条とは顔を突き合わせるだけでため息モノ。
 「何が面白くて客寄せパンダにならねばならんのか・・・・・」
 流石に一般にも知られた英雄二人の対決だけあって、無責任なマスコミやら野次馬で武道館は盛況だ。しかしマスコミ受けする西条と違い、扱いの悪い横島には単にカッタルイだけの事。
 元もと戦いなど、出来れば避けるのが信条の横島は断ろうとしたのだが、乗り気の西条の奸計と美神らからの圧力で従わざるを得なくなった。出来れば適当にやって、早めに終わらせたいのが本当の所。観客席から飛ぶ、黄色い声援もアシュタロス戦でのパフォーマンスの影響もあって西条の名前の連呼だけだ。頼みのオキヌらも、圧倒的に四面楚歌の状況では声をかけずらそうにしていた。
  「いいではないか。最高の花道だろうから」
  「何が花道だ。おれはお前を引き立てる悪代官の上田吉二朗(時代劇の有名な悪役)じゃないんだぞ」
 主役だとばかりに大見得切っている西条の言葉に憮然とする。

  (ふっふっふ、分かっているならば、精々わたしの強さと格好良さの宣伝にと散ってくれよ。心配するな、君の葬式代は手向けとして私が全額受け持ってやろうじゃないか)
 西条の頭の中には、すでに横島の遺影を囲むお通夜の場面が浮かんでいた。泣き崩れる美神やオキヌら、主に美神を優しく抱きしめて
  『ああ あたしにはもうお兄ちゃんしかいない 手を離さないでお兄ちゃん』
 想像の中の美神との、挨拶で無い熱いベーゼ・・・。そして・・・・・。
  (なんちゃって なんちゃって うははははっはははっはっははははっはは)

  (あぶねえな今日の西条は。始まったら速攻でギブアップするか。どうせ免許には関係無いんだし、折角小竜姫様が来てくれてるに俺の雄姿見せられないのが残念だけど・・・)

 その惚けた表情に呆れたのは対峙した横島のみでは無かった。
 観客席で見ていた美神らも、そしてGS関係者も、一般客までも呆れた目で冷たく西条を見ては、宗旨替えして横島の方を応援しようかと思い初めていた。
  「う〜ん。西条君の為にも断れば良かったかしら」
  「私もそう思うよ・・・」
 特別審査席の美智江と唐巣神父も呟いていた。

  「なんか西条さんの様子は変ですけど・・・・」
 いつもの妄想する横島も結構見ていて無気味だが、今の西条はそれより遙に危うく見えるので笑顔の凍りつくオキヌ。
  「そうでござるな。タオル投げ入れる用意したほうがいいように思うでござる」
  「た 確かに・・・」
 これには馴染みの美神も反論出来なかった。

  「そうじゃな、あの若造随分邪悪な気配が漂っているようじゃ。どうだマリア」
  「イエスドクターカオス。血中アドレナリン及びエンドルフィン濃度正常値の数倍以上です。血圧と併せても非常な興奮状態と思われます」
 GS免許再チャレンジ中のカオスも頷く。今回はマリアの機関砲は封鎖して、相手の足止めに徹しているので勝ち進んでいる。例の大家から、今回こそ免許ゲットしなければ殺すと言われていて真剣なのだ。

  「まあ大丈夫じゃないか?西条程度で何とかなるような奴じゃないぜ。それで何とかなるならメデューサやアシュタロスも草葉の陰で泣いてて、きっと浮かばれないだろうからよ」
  「そうですよね。以前ならまだしも、横島さんは恐らく西条さんより、まともに戦えば強いと思いますよ」
  「大丈夫ですかいの〜。なんか横島さん・・・・」
  「そうだね。問題は全くやる気が無いって事かな・・・。今回は免許も、女性もかかっていないからチョット心配だよな」
 今回受け直しの雪の丞とタイガーの付き添いで連れてこられたピートが多少顔をくゆらせる。
  「そうね。令子に言われたぐらいじゃ、目の肥えたこの頃の横島には感慨は無いんで、やる気は起きないってワケね。まあ、中身の無い馬鹿女に騙されるのも初めだけって事ね」
 エミはピートの手を取って試合には興味が無いが、美神をからかうネタならばと食い付く。飛んできたダンベルをタイガーを盾にして避ける。当然投げられたタイガーが血反吐を吐いて倒れるが、誰も気にした様子は無い。いつもの日常なのだから。

  「鳴々、それなら大丈夫ですよ。ちゃんと女性はかかっているようだから」
  「え?」
 ヒャクメがポツリと呟く。
 しかし美神は聞き逃したようだ。
 思わず事情を問い質そうとしたオキヌを制する。

  「でも、今日はワザワザどうしたの?ヒャクメまでもこんな所に来て。もうメデューサもいないってのに・・・・。止めてよね。又魔族に内通したような連中が潜り込もうとしているとか言い出さないでよね。面倒なだけなんだから」
 別段連絡した覚えも無いのに現れた、ジークやハヌマンまで入れた五人の登場に不満そうな美神。あまり金には成らないくせに、厄介事であった例の事件を思い出していた。特に月での事件では肝心な部分では殆ど横島にオンブに抱っこであったし、大気圏突入で行方不明の折にはこのメンバーには狼狽を覚られた経緯があって思い出したくも無かった。
  「昨日横島から電話が山(妙神山)にあったのだ。なあ小竜姫」
  「電話?」
  「ええ、その、昨日横島さんが・・・・その〜」
  「何よ、その口籠る雰囲気は?」
  「あの、その・・・・」
 ちょっと頭を捻るポーズで、更に口籠る小竜姫。
  「あのね、横島さんからの伝言は『俺の雄姿を見に来てって』ですって。まあ呼ばれたのは小竜姫だけだったみたいだけど。その後でベイエリアに遊びに行こうって誘われてたのよね。まあ、前回のアシュタロスの時のお礼もあるってんで、取り敢えずは借りを返したいからって引き受けてたみたいだけど、なんか小竜姫見てると満更でも・・・あぶぶ」
  「ひゃ ヒャクメったら」
 真赤になる小竜姫。デート?のお誘いの言葉を暴露するその口を押さえたが遅かった。

  「西条さん・・・・頑張ってください。しばらくの入院お願いします」
 剃刀のような視線で西条の応援を始めるオキヌ。
  「今日はお天気もいいし、いいお通夜びよりになりそうね。オキヌちゃん達の喪服はどうしようかしら、厄珍とこのレンタルでいいわよね」
  「・・・・・・・」
 オキヌと美神のドライアイスのような冷たい台詞に汗が垂れる極楽メンバーであった。



 そんな女どもの事情は鑑みず、試合場では審判連中が定位置につき旗を掲げる。
  (ふっふっふ)
 無気味な笑みを浮かべ颯爽と剣を抜く西条。本当に歌舞伎役者のように大見得切っているつもりのようだ。

 対して横島の頭の中はこれから小竜姫と向かう予定のデートに心奪われている。天竜皇子のお付で東京デジャブーランドに行ったことはあるが、二人きりは初めてなので彼の頭の中はアダルトタッチでプリリンパな妄想で一杯。主審が何か言っているようだが、彼の頭にはめくるめく甘い小竜姫の事しか・・・。

  「死ね横島君」
  「え、何?小竜姫さまは?」
 ボケっとしている内に霊剣が眼前に迫っていた。
  (な なんだ 小竜姫様は・・・・も 文殊・・・・ええっと、何を込めよう)
 右手に幾つかの文殊の感触があったので思いを込めようとするが、頭の中はいまだに小竜姫の姿しか無かった。
  「おわー!!」
 何も思いを込めていない文殊が、多量の白い煙と目映く輝く光が辺りを包んだ。

  「横島さん」
  「横島君」
  「せんせえ」
 流石に、絶対避ける事が出来ない間合いであったで美神らも手に汗を握って叫ぶ。それは他の、達観しているカオス以外もであった。しかし・・・。
  「ん?」
 目映く光る白煙の向こうから、二階の観客席に座る皆の方向に何かが飛んできた。
  ドスン
 ワルキューレが意に介せぬとばかりに無表情なままに、それを両手で受けとめる。
  「こ これは」
 その正体に唖然とする。
 それは全身の霊気を殆ど粉砕された西条の哀れな姿だった。

  「ん!あれは・・・・」
  「何?」
  「どうゆう事でござるか?」
 晴れ始めた煙の向こうから、現れたのは小竜姫であった。
  「わ わわ わたしがいる・・・・・・なんで」
 観客席の小竜姫が、試合場に立つ小竜姫を口を開けたままに見る。試合場の小竜姫は自体が分からないとばかりに、辺りをキョロキョロと見回している。確かに姿に容姿は紛れも無く彼女ではあったが、仕種に覚えがあったので皆も理解した。

  「よ 横島さん」
  「で でしょうね」
  「なんででござるか?」
 疑問は当然だが事情を知らぬ彼女らに説明仕様は無かった。答えたのは美神だ。
  「そうね。多分、アシャタロス戦の時に使った文殊、『モノマネ』を今度は小竜姫で試したのよ。確かにそれなら西条さんと戦うには問題はないでしょうから」
 戦う相手の能力をコピーしても、ダメージは自分に跳ね返ってくるが、戦いに関係の無い者ならばそのままに戦闘能力だけを使う事が出来る。その点では小竜姫はまさに適役であったろう。
  (でも、前は力だけだったのに、今度は姿形までソックリに・・・・一体何考えていたんだか・・・)


  「おお!美人じゃあ」
  「・・・」
 渡された手鏡を見てはしゃぐ中身横島の小竜姫。例のユニコーン事件から成長してはいないようだ。
 しかし・・・・モデルがいなかったならいいが、今度はモデルが身近にいたので、モデルにされたほうは非常に困っていた。いつぞや、ベスパが魔族になった小竜姫を想像したがあれをある意味地でいっている。横島の邪まな妄想が表に出ている。
 普段清楚可憐な彼女であるのに、中身が変わればそれは表情や雰囲気に現れて、ちょっと下卑た感が出ていて、美人と言われても素直に喜べない。

  「まったく、試合の間に何考えてんのよ」
 怒ってこずこうとしたが、流石に小竜姫の外見には出来なくて不機嫌な美神。
 美神の推論通りに試合が始まるまでずっと小竜姫の事ばかり考えていた。。それがアシュタロス戦で使ったと同じように真似の文殊と反応したようだ。

  「う〜ん。今まで試した事は無かったが、こんな事まで出来るとは以外だったな〜」
 呑気に文殊の新しい使い方を喜ぶ。
 未だに手鏡を離さない中身横島の小竜姫の後ろで、担架に乗せられている西条が救急搬送されていく。
  「心拍停止!!」
  「電気ショックを・・・・もう一度・・・・もう一度」
 剣呑な様子に、極楽面子にちょっと汗が垂れるが、誰もそれを気にする余裕は無い。一応心配して付き添っているのは弁当販売に来ていた魔鈴ぐらい。美神もあまり彼の生死には興味が無いようで、口だけは心配と言っているがチラリと一瞥で終わっている。今回西条いいとこ無しだ。

  「と 取り敢えず横島さん。元に戻ってください」
  「ええ〜、せっかく奇麗な小竜姫さまになれたのに」
  「そ それは それはともかく、その姿でいられると、わたしも困りますから」
 奇麗な姿と言われても、嬉しいがムズ痒い。それに何かしらえも言えぬ危機感を感じた。
  「取り敢えず肖像権と版権で訴えられない内に戻りなさい。その姿じゃあたしも殴るワケにもいかないでしょうから」
  「へ〜い。それなら戻らないほうがいいかもしれないけど、この姿もままだと双子のデートって感じだから俺も困るからな」
 デートの言葉に赤くなる小竜姫と、コミカミに青筋が浮かぶ女数人。周り中からの無言の圧力に屈する横島だった。残っていた文殊を握り占める。

  「ああ、その前に」
  「?」
 皆が横島の言葉に?だった時に、横島が自分の襟首を掴み。
  がばっ
 胸元を大きく捲り上げ、自分の服の胸元に顔を埋めるように覗き込んだ。
  「!!!!!」
 言葉を失う面子、取り分けは小竜姫だろう。
  「おお、結構大きいんだ小竜姫さまも」

  「は は はんせいしてます」
  中身横島の小竜姫の喉元に、鋭い神剣の切っ先を付きつけるのは、無論見られた体の持ち主。その瞳、表情、気概はこれ以上は無いほどに殺気を含んでいた。
  「なるべく、私も わ た し の姿もままに殺したくはありませんから。は〜や〜く〜、戻ってください」
  「は ははは はい!!今直ぐに」
 流石に小竜姫の姿のままでは無礼を直接働かれた小竜姫も、美神らとて殴る理由にはいかない。中身横島の小竜姫の背中では元に戻った時用に皆が準備を始めた。無論フクロにする為の。 横島は残った文殊に念を込めて、それを発動する。周囲を先程と同じような白煙と光りが包む。

  (さあ〜て、覚悟しなさい横島〜)
 煙の中に掛け矢(木製の土木作業用大型木鎚)を持って突っ込む美神。
  「死ね〜。横島・・・あらっ」
 現れた人物に振り下ろそうとしていた掛け矢が止まった。
  「?」
 白煙の中に同じように突っ込んでいた為に横島を見失ったようだ。
  「逃げたわね」
 目の前、掛け矢で思わず殴る所であったワルキューレに謝る。
  「でもどこに逃げたのかしら」
 煙が晴れ始めたので辺りを見渡す美神。
  「美神!横島はどこにいったのだ?」
 その美神の背中から声がした。
  「え?なんで?」
 目の前のワルキューレ、しかしワルキューレの声は背中から聞こえた。白煙の向こうから現れるワルキューレ。
  「・・・・」
  「・・・・」
 顔を見合わせた後、初めから居たワルキューレをもう一度見る。居たワルキューレは魔族士官にそぐわない笑みを浮かべていた。
  「・・・・」
  「・・・・」
  がばっ
 再び胸元を大きく開けて、再び自身の?胸をのぞき込む。
  「おお!やっぱりワルキューレはデッカイなあ。美神さんにも負けていないかも」

  「は は はんせいしてます」
 中身横島のワルキューレの喉元に精霊石弾丸の詰まった拳銃の切っ先を付きつけるのは無論自分?の体を見られた本人。その瞳に表情に気概にはこれ以上は無いほどに殺気を含んでいる。その息は恐ろしく乱れて、普段冷静な彼女も感情を露にキレている。
  「なるべく、私も わ た し の姿もままに殺したくは無いのでな。は〜や〜く〜、戻ってくれないかな!!」
  「は ははは はい!!今直ぐに」
 流石にこの姿のままでも美神らとてドツク理由にもいけない。中身横島ワルキューレの背中では元に戻った時用に再び準備を始めた。
 中身横島ワルキューレは残った文殊に念を込めて、それを発動する。周囲を先程と同じような白煙と光りが包む。

  (さあ〜て、今度覚悟しなさい横島〜)
 先と同じく煙の中に、今度は金棒(鬼が持っているような奴)を持って突っ込む美神。
  「今度こそ、死ね〜。横島・・・あらっ」
 振り下ろそうとしていた金棒が止まった。
 そこにはボディコンの胸元をのぞき込む美神?がいたのだ。
  「おおやっぱりワルキューレと美神さんは同レベルだな・・・・しかし、大きさは若干美神さんだが、張りはワルキューレの方が・・・・・・」
 等と呑気に評論していた。

  「ぐぬぬ」
 流石の美神でも、自分と同じ姿の者を殴るのは・・・いつぞやのヘンゲリンZと違って霊波のカムフラージュを破れば元に戻るワケでは無い。殴ったならばその殴られた姿を聴衆に曝さねばならない。どつかれ、きっと横島の事だから馬鹿口を開けて失神したような姿をだらしなく曝すのはプライドの権化の彼女には・・。
 しかし・・・。

  ドカ バキ ガス ボコ ドガ ガン ボス ガキン ドゴン バカーン
  うぎゃああああああああああああああああああ
 強烈な破壊音と打撃音に続いて、美神?の蛙を踏み潰したような悲鳴が響いた。
 ジョノサイド(大殺戮)の後に残ったのはズタボロにされた美神?の姿であった。


  「あんたらが・・・・あたしをど〜〜〜〜んな目で見たか、よ〜〜〜くわかったわ」
 中身横島の美神をフクロにした連中を、これ以上は無いほどに憤怒の表情で睨む。
 小竜姫とワルキューレの時は気を遣って、決して手を上げなかったのに、美神の姿の時は遠慮なく、いやそれ以上の感情をたたえてフクロにした連中を・・・。

  「さあ?なんの事だろうか」
 トボケテあさっての方向を見るワルキューレ。先のお礼を拳で晴らせて嬉しそうな表情。いや、それ以上に何か積年の恨みまでも晴らせたような清々しさまでただよっている。
  「そ そうですよ。わたしたちは単に横島さんを・・・」
 小竜姫も同じ雰囲気を漂わせている。

  「そうだよ、俺達も純粋に・・・美神の旦那の姿まで真似した横島に正義の天誅をだな・・・・そうだよな、タイガー」
  「ええ。そうですだよ。美神さんの真似をするなんて・・・・決して美神さんの姿だから、先刻の事とか、日頃の恨みだから殴った理由ではありませんだ」
  「ワシらもそうさなあ、マリア」
  「イエスドクターカオス」
 いいつつ4人共にまともに美神の方を見ずに汗を垂らしている。

  「拙者もそうでござる、なあタマモ」
  「そうだよ、ねえオキヌちゃん」
  「え ええ。そ そうよ、私達は単に横島さんを・・・ですね。唐巣神父!」
  「そ そうだよ令子君。我々は別に君の姿を借りたからだとか言って、日頃の恨みをはらそうだなんて、そんなことは全然・・」
  「・・・。つうことは、恨みは持っていたってわけなのね、唐巣神父」
  「うぐっ」
 失言に狼狽する唐巣。聖職にあるとは云えども、美神の考え無しの行ないには師匠として心を痛めては、心労で体にストレスが、主に頭に来たので・・・・・恨みの一つや二つはあるのだった。
  「まあ、まあ令子。神父だって人間なんだから、あなたの行ないや言動に心痛める事だって・・」
  「ママも、横島の奴殴りながら『この強欲娘』とか『ひのめが悪い影響受けない内に真人間におなり』とか、実の母親とは思えないような非道い事言っていたようだったけど」
  「あ〜らそうだったかしら。幻聴って若年性もあるそうだから気をつけてよね令子」
 ピューピューと、そらぞらしく口笛を吹く非常な母であった。

  「大丈夫よ令子。あたし達は別にそんな事に関係無いって、決して積年の恨みが、横島の体を通じてここで晴らせるって思ってたわけじゃないってワケよ。みんなもね うふふふふふふふふふ」
 殺戮に当然参加していたエミの、意味深な笑いの意味が分かっているので言葉も無くなる美神。


  「ううう。あたしってこんなに人望が無かったの・・・・」
 会場の隅で、我泣き濡れて蟹とたわむる女が一人。流石に可哀想に思ったらしい。
  「何を今更」
 との突っ込みは、エミですら心の中だけにしていた。


  「さ〜て、帰ろ帰ろ。なんか今日は清々しい気分で、グッスリ寝れそうな感じねがするわね。でもこのまま帰るのは勿体無い・・・。ねえ皆、この後どこかに遊びにいかない。とおっても気分がいいから奮発して奢ってあげるワケよ」
  「いいな。なんか今日はつかえていた喉の小骨が取れたって気分がする。精々いいもの食わせてもらおうか」
  「そうですね。じゃあご馳走になりましょうかヒャクメもいいでしょう」
  「ようし、いいお店探すわよ皆何が食べたい」
  「拙者、国産牛肉が食べたいでござる。ビフテキ しゃぶしゃぶ カツレツ シチュウ」
  「あたし油げ」
  「うう!たのしみじゃのう、魔理さん呼んでいいですかいのう」
  「じゃあ俺はかおりの奴呼ぶか。もう学校引けたころだろうからな。ピート携帯貸してくれ」
  「それはいいですけど、もう一服は漏らないでくださいよ」
  「ようし、くうぞマリア。タッパーを忘れるでないぞ」
  「イエスドクターカオス。マリア準備してきました」
  「あたし達もいいかしらエミさん」
  「おお、外食なんて久しぶりだ。神よ感謝します」
  「あ〜んエミちゃんまってよ〜」
 ゾロゾロと引き揚げていく極楽面子に会場中が汗を垂らす。

  「でも?・・・あたし達なんか忘れているような気がしませんか」
  「気のせいでござるよオキヌ殿。気のせい、気のせい」
 彼らが帰った後の会場に残されたのは・・・・文殊の効果が切れて元の姿を曝しているズタボロの横島。それと、会場の隅で壊れかけた美神であった。

 この日GS免許を取りに来た受験者であったが、堅気が一番と職替えを考える者が多数でたらしい。


  めでたし めでたし

※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。

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