シロにも衣装?

著者:埜佐和藻穐


その日、横島は人生最良の日を送っていた。
ついに、ついに六道女学院の女の子たちとの合コンが達成したのだ。そこにたどり着くまでどれほどの苦労があっただろうか。
美神やおキヌにばれぬよう雪之条と共に様々な工作をし、尚かつ横島に好意を持つ女の子を捜し当て、ついに達成したのであった。
合コンはカラオケで行われた。もちろん選んだのは横島。「カラオケタダちゃん」の実力を女の子に対し見せつけ、さらにピートの音痴さを暴露しようとしていた。そしてその作戦は予想以上にうまくいっていた。あいつが来るまでは・・・

♪ジャージャージャータララララララジャジャージャジャジャージャ・・・
「次はおれの18番いくぞー!」
伴奏のスタートと共に叫ぶ横島。
「キャー、横島さん最高ー!!」
女の子のあげる悲鳴にも似た歓声が鳴り響く。
「♪Let me wish shooting star,this is feeling for my hea・・・」
横島が調子よく唄いだした瞬間、ボックスのドアが開き、何者かが横島に飛びかかった。
「ワー、ごめんなさい美神さんー!!」
その姿を見た横島はとっさに美神に許しを乞うた。しかし、それは美神ではなかった。
「先生、拙者を助けてくだされー!」
その正体はシロであった。
「シ、シロ?どうしたんだ、いったい。てゆーか、何でここがわかったんだ。」
「そんなことはいいでござる。先生、助けてくだされー!」
シロは横島に泣きついた。周りでは、女の子たちが引いて行く。
「よ・・・横島さん・・・そ、そんな子に手をだしていたんですか・・・」
女の子たちは半泣きで去っていった。
「あー、待って。誤解だーー!!」
横島もその場で泣き出した。
「横島さん、僕たち帰りますね・・・」
そう告げて、ピート・雪之条・タイガーは去っていった。
「待ってくれー、違うんだーー!!」
横島の声は誰にも届かなかった。シロを除いては・・・
「せ、先生、拙者と女の子、どっちが大切でござるか?」
泣きながらシロが聞いた。
そりゃもちろんと、言いかけて、横島は言葉を止めた。ただならぬシロの様子に気づいたからだ。
「わ、わかった。それで、何があったんだ?」
「聞いてくれるでござるか!じつは・・・」

三日前から、シロは里帰りをしていた。
「いやー、久しぶりでござるなー。」
人狼の里に足を踏み入れた途端、シロは言った。
「うーん、東京もいいでござるが、田舎もいいでござるなあ。」
そんなこんな言いながらシロは自宅に戻り、父に線香をあげた。
「あ、長老のところにも言った方がいいでござるな。」
シロはその足で長老の家へ向かった。
「長老、久しぶりでござる。」
「おお、シロか。久しぶりじゃなあ。」
そんな話が続き、シロが帰ろうとしたとき、長老が言った。
「ところでシロよ、お前見合いをせい。」
突然の言葉によく意味が分からないシロ。
「は?」
「見合いじゃよ、見合い。」
「拙者がでござるか?」
「お前以外に誰がおるというのじゃ。」
「し、しかし、拙者まだ子供でござるし・・・」
「何を言う。そちほどの身体なら、もう立派な大人であろうが。」
「で、でもまだ拙者修行中のみであるし・・・」
「修業などどうでもよい。ただでさえ、人狼族は女子が少ないのじゃ。そちにも早く子供を産んでもらわねばならん。」
「そ、そんな・・・」
「それとも何か、他に好きな男がおるのか?」
「い、いえ、そういうわけでは・・・」
動揺するシロ。
「なんじゃ、おるのか。そやつは人間か?」
「は、はあ。一応。」
「よし、ではこうしよう。三日以内にその男を連れて参れ。そうすれば見合いの件はなしにしよう。」
「ほ、本当でござるか?」
「うむ。ただし、三日以内で戻らなければ見合いじゃぞ。」
「わ、わかったでござる。」

「と、言うわけなんでござる。」
「ふーん、だったらその男連れていきゃーいいじゃん。」
少々嫉妬心をのぞかせながら横島は言った。
「では先生、拙者と共に来てくれるでござるか!」
「は、お、俺?」
戸惑う横島。
「もちろんでござる。」
「だってお前、好きな人連れてくんだろ?」
「だから、、先生なんでござる!!」
顔を真っ赤にしながら叫ぶシロ。
「(シ、シロが俺のこと・・・ハ、な、何考えてるんだ、俺は。シロはまだ子供だぞ。いや、しかし俺を好きだなんて言ってくれてるんだし・・・)」
妄想に入りつつある横島。
「(シロかあ、確かに子供だけど、見た目は中学生か高校生ぐらいあるし・・・絶対に手に入らない美神さんや、おキヌちゃんより都合がいいかもなあ。)」
「先生、どうしたでござるか?」
シロの言葉で現実に帰る横島。
「い、いや何でもない。それよりシロ。」
「なんでござる?」
「一緒にいってやるよ。」
「本当でござるか?」
「ああ、急がなきゃだろ?」
「あ、そうでござる。」
そのまま二人は一路人狼の里を目指した。

そのころ、美神事務所では、なかなか来ない横島をおキヌが不安そうに待っていた。
「どうしたんだろう、横島さん。遅いなあ。」
その姿を見たタマモが言った。
「アイツなら、今日来ないかもよ。」
「え、何で?」
「あれ、知らないの。今日アイツ、六道女学院の子たちと合コンだってはしゃいでたよ。あれ、そういえばおキヌちゃんも六道女学院だったよね・・・」
タマモは言いながら、すさまじい殺気を感じた。その殺気はおキヌから発せられていた。
「フーン、そうなの・・・タマモちゃん。」
「な、なに!?」
「その合コン、どこでやってるか知ってる?」
「う、うん。一応は・・・」
「連れてってくれない?」
「な、なんで?」
「私も合コンしたいなあって思ったの・・・」
嘘だ、横島ゴメンと思いつつ、タマモはおキヌを案内していった。
その途中で、二人は横島とシロを見かけた。
「あれ、シロじゃん。なんだ、合コンじゃなかったみたいだね、おキヌちゃん・・・」
しかし、タマモはさっきより強い殺気を感じた。
「お、おキヌちゃん・・・?」
とっさにタマモは横島とシロの方を見た。二人はベッタリくっついて、さもラブラブそうに歩いていた。
「タマモちゃん、つけるわよ・・・」
「は、はい・・・」
おキヌとタマモは二人のあとをつけていった。

人狼の里に到着したシロと横島はすぐさま長老の家に向かった。
「長老、連れてきたでござる。これで見合いはなしでござるな!!」
嬉しそうなシロ。しかし長老は首を傾げて聞いた。
「シロや、そちの男とは誰じゃ?」
「もう、そこにおられるでござろうが!」
そういいながら、シロは横島を指さした。
「な、なんと!この男のことなのか!?」
あまりのことに驚く長老。
「シロ、おぬしはこんな男の事が好きなのか!?」
「こんな男とはひどいでござる!横島先生は素晴らしいお方でござる。」
長老は横島の記憶がよみがえりつつあった。犬飼ポチとの戦いのとき、ほとんど役に立たずにいた男・・・
「本当によいのか、シロ。今ならまだ考え直せるぞ!?」
「しつこいでござる!拙者は横島先生が好きなんでござる!!」
「そうか、そちの決心は固いのか。だが、横島どのの話もきかねばな。」
長老は横島に顔を向けた。
「横島どの!」
「は、はい!?」
「貴殿はシロをどう思っておられるのじゃ?」
「へ、どうって・・・?」
「好きか嫌いかと聞いておるのじゃ。」
「そりゃまあ、好きですかね・・・」
「そうか、ならば安心じゃ。」
長老は満足げにうなずき、シロに言った。
「シロ、祝言の支度をせい。」
シロは嬉しそうにうなずいた。
ただ一人、意味を理解しえない横島。
「しゅ、祝言!?」
「そうじゃ、祝言じゃ。」
「聞いてねえぞ、シロ!どういうことだ!!」
「なんじゃ、聞いておらんのか?シロは連れてくるものと祝言を挙げると約束していったのじゃが。」
「ハア?なんだよそれ。」
「まあ、いいでござろう。先生。形だけのものでござる。」
シロは小声で横島に言った。
「だからってなあ・・・」
横島が言いかけると、シロは泣きそうになった。
「先生はそんなに拙者が嫌いでござるか?」
「そういうわけじゃあないけど・・・」
「だったらせめて、拙者を助けてくだされ。武士の情けでござる。」
「わかったよ・・・」
ついに横島は諦めて、祝言を行うこととなった。

祝言の終了後、長老は二人に言った。
「もう夜も遅くなった。わしらは退散するからあとは二人で初夜を楽しめ。」
「初夜?」
横島はその言葉に反応した。
「(確かに形だけの祝言といったって、初夜は初夜だよなあ。いや、しかし相手はシロだぞ!?美神さんやおキヌちゃんならともかく、シロだぞ?子供相手でいいのか?いやしかし、これは公然としたチャンスだぞ!どうする横島忠夫17歳。やるべきかやらざるべきか・・・)」
そんな考えに浸っているうちに、いつのまにか人はいなくなり横島とシロの二人きりであった。しかも布団まで敷いてあった。
「(うお、いつのまにか準備万端ではないか。ここでやらなきゃ男じゃないぞ!いや、でもシロの同意もとらねば・・・)」
「先生、どうしたでござる。早くネルでござるよ。」
「シロ、形だけとはいえ、初夜は初夜。してもいいのか?」
横島は期待十分に聞いた。
「先生なら・・・」
その言葉が合図になり横島はシロに飛びかかった。
「シロおおおお!!」

その瞬間、ふすまの開く音が響き渡った。そしてそこにはおキヌとタマモが立っていた。
「お、おキヌ・・・ちゃん?それにタマモまで・・・」
横島の身体は完全に硬直していた。
「な・・・何でここに・・・?」
「さあ、なんででしょう・・・ところで横島さんはシロちゃんと何をしていたんですか・・・?」
おキヌの顔には満面の笑みで覆われていた。怒りからくる笑みに・・・
「ご、誤解だ、おキヌちゃん・・・俺はなんにもしていない・・・」
「ええ、知ってますよ。全部見てましたから・・・」
「だったら・・・」
「でもこれからしようとしていたんですよね・・・?」
「い、いやそれは・・・」
二人の会話を聞きながら、シロは呟いた。
「先生、続きはしてくださらんのか・・・?」
その一言で事態は急変した。
「タマモちゃん、帰りましょ?」
「お、おキヌちゃん・・・?」
「待ってくれ、誤解だ、俺はまだ何もしていない!」
「”まだ”・・・?」
おキヌは一段と怒りを燃やした。
「さ、タマモちゃん。東京へ帰って美神さんに相談しましょ?」
「う・・・うん。」
そのまま二人の姿は消えていった・・・
「ま、待ってくれー!!美神さんには言わないでくれー!!」

しかし横島の願い届かず、一連の事はすべて美神の知ることとなった・・・
当然怒りに震える美神。怯える横島。
そのまま一週間は人狼の里に立てこもる横島。
だが、ついに東京へ帰ることになった横島とシロ。
そして・・・横島は二週間程、生死の境目を彷徨うこととなった・・・

めでたし、めでたし(?)


※この作品は、埜佐和藻穐さんによる C-WWW への投稿作品です。
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