とら! 第12節 魔界の旅


   
■人間界 とある喫茶店■
 
窓の外に小さな噴水が見える、しゃれた洋風喫茶店の窓ぎわに、エミが1人座っている。
エミは書類を片手に、コーヒーを飲みながら人を待っていた―――
 
カランカランッ
 
入口の鈴が鳴る。
カツカツとハイヒールを鳴らして背後から近づく女性に対し、エミは振り向くことなく先に声をかけた。
 
エミ 「 7分遅刻。 遅いわよ令子。
令子 「 っさいわね〜私だって暇じゃないの。 だいたい呼び出しておいてその言い草は何よ。
 
そう言うと美神はエミと向かいの席に座り、店員にコーヒーを注文した。
 
令子 「 ・・・それで話って?
エミ 「 タイガーと魔鈴が今、どういう状況なのか聞いてるでしょ。
令子 「 ええ。
エミ 「 ちょっとまずいことになってきたワケ。

リポート60 『黒幕』
[ 4月29日火曜日 ]
 
魔理・魔鈴を救うべく、タイガー達が旅立って5日目。
魔鈴のかぼちゃの馬車で移動している彼らは
丸2日かけてキマイラの住む荒野を走り抜け、ついに魔界との境目にたどりついた。
 
(旅の道筋)
 
【魔鈴の家】→【名も無き森・迂回】→【砂浜】→【岩場】→【荒野】→《《→【魔界への門】
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 
■魔界への門■
 
タイガー 「 で・・・でかいノー。
「 なんだよこの門は? 万里の長城か?
 
タイガー達の目の前に、高さ30m、幅50mの巨大な門が存在しているのが見えた。
その両サイドには万里の長城を思わせるような果て無き壁が存在し、その門・壁と天を貫くように、
空間の歪み(ゆがみ)が目視できた。
 
黒猫 《 あれが魔界へとつながる門だニャ。 オイラもここから先には進んだことがないニャ。
 
魔鈴の使い魔の黒猫が言った。
 
洋子 「 さしづめ地獄の門ってとこか。 ケルベロスでも出てきてくれたら完璧なのにな。
「 何が完璧だよ。
 
妙な期待感を膨らましている洋子につっこむ茜。 だが使い魔は―――
 
黒猫 《 ・・・それがいるんだニャ。
タイガー 「 え? いるって何がジャ?
 
 
タヅナを持った茜は馬車をもう少し門のほうに近づけると、
百数十メートル先の門の入口付近に群青(ぐんじょう)色の巨大な生物が横たわっていた。
その生物は頭が3つあり、体長5メートル以上の巨大な犬の姿をしている。
 
 
ケルベロス ≪≪≪  グルルルルルルル・・・  ≫≫≫
 
 
「「「  ケルベロス!!!  」」」」
 
 
「 ここから見てもでかっ!! マジでアイツと戦うのか!?
黒猫 《 魔界の門番だニャ! 最低でもアイツに勝てない者は魔界には入れないんだニャ!
「 じゃああのデカ物を倒さなきゃならねえってことか!?
ぞくぞくっ
洋子 「 ははは、おもろくなってきたやないか。
  こんな有名魔獣とやりあえるなんて、わくわくするなー♪ <キュピーン☆>
「 喜ぶなバトルマニア!
 
馬車の窓から顔を出して、目を光らせる洋子につっこむ茜。
 
洋子 「 ま、それはちょっと冗談やけど、なるべくなら戦わんと回避できればええよなあ。
「 ・・・ちょっとかよ。(汗)
タイガー 「 いや、もう回避できんようジャ。 ヤツはもうこっちに気づいとる!
「 えっ!?
 
茜は後ろを向いてる間にケルベロスは起き上がり、こっちのほうをじっと見つめて唸っていた。
そして―――
 
 
ケルベロス ≪≪≪  グルアアアアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
 
3つの頭が同時に吠えると、こっちに向かって走りだした!
 
 
黒猫・洋子 《 急いで扉を抜けるんだニャ!!  「 いや多分無理や!!
 
バッ!
洋子は馬車から飛び降りた!
 
洋子 「 ウチがヤツをひきつけとくからその隙に―――
 
バッ!
洋子が言い終わらないうちにタイガーも馬車から飛び降りた!
 
タイガー 「 “ワシら”がケルベロスの注意をひきつけとくケエ
  あかねサンは馬車だけでも先に扉の向こうに行って待っててツカーサイ!
  馬車をここで壊されるわけにはいかんケエノ!!
「 わ・・・わかった!!
 
茜は馬車を後退させ、ケルベロスを大きくまわりこんで魔界への門へと向かう。
タイガーと洋子はその場に留まり、ケルベロスの注意をひきつけていた。
 
 
ケルベロス ≪≪≪  グルアアアアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
 
洋子 「 ・・・なんで寅吉まで降りたん?
タイガー 「 この前も言ったろ、仲間じゃと。
  それに1人より2人でやったほうが負担が半分に減るジャロー。
 
2人は視線をケルベロスに合わせたまま言葉を交わした。 洋子は少し微笑む。
 
タイガー・洋子 「 行くぞ洋子サン!!  「 ああ!!
 
トラ男に変身するタイガーと神通棍に霊気を込める洋子。 
2人は向かってくる巨大な魔物、ケルベロスに立ち向かった―――
 
 
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■古城=鳥族の城■
 
タイガー達がケルベロスと対峙していた頃、
森に囲まれた湖の中心、ぽつんと浮かんだ島に建てられている古城、【鳥族の城】―――
ハーピーに囚われていた魔鈴めぐみは、魔力封じが張られた研究室で、とある研究を行っていた。
棚にはビーカーやフラスコ、魔界に潜む数々の魔物や魔草がぎっしりとそろえられている。
魔鈴は人間界では見られない奇妙な虫を火であぶりながら
別室に閉じ込められた魔理を心配していた。
 
魔鈴 ( ここに来てもうすぐ1週間・・・早く完成させないと一文字さんが心配だわ・・・
 
魔鈴は古い魔導書らしき本のページをめくった。
そこには、普通は解読できないような古代文字でびっしりと書かれている。
 
魔鈴 ( 私はいま禁忌を犯そうとしている・・・
  魔女として、決してこの研究に興味を示さなかったわけじゃない。 でも―――
 
 
 
■回想■
 
ルウ ≪ ついて来い! ボスに合わせてやる。
 
魔鈴と魔理がこの城につれてこられた時のこと―――
魔鈴たちをここに連れてきた、茶褐色の翼や髪を持つハーピー、ルウ。
ここのハーピー達のリーダー的な存在である彼女により、大広間に案内された。
魔鈴の周囲には4羽の若いハーピー兵が槍を持って、魔鈴の動きを警戒している。
 
ルウ ≪ ボス、魔女・魔鈴めぐみを連れてきました。
 
大広間に入ると、そこには身長3メートル近くある人型の魔族が背を向けて立っていた。
服装は魔鈴が思っていたより質素で、人間界でよく売られている安物のジャージを着ており、
その魔族がふりむくと、鋭い眼光とクチバシ、ハーピーとは違い鳥の形をした頭が見えた―――
 
――― ≪ フオフオフオ・・・よく来たな、待っていたぞ。
 
魔鈴 「 に・・・ニワトリですね?
ルウ ≪ 無礼な!! 鷲(ワシ)じゃん!!
 
魔鈴につっこむルウ。 
 
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・あくまで自分のペースを保つか。 賢くてよいぞ。
  私の名は【ガルーダ】。
  このあたりに住む鳥族の頭(かしら)だ。 以後よろしく。
 
―――かつて美神が、クローンとしてつくられた心霊兵器のガルーダと戦ったことがあった。
外見はそのクローンとほぼ同じだが、唯一違う部分は、額の鉄のプレートがないといった所か。
 
魔鈴 「 鬼神ガルーダ!? バリ・ヒンズーの神鳥!?
ルウ ≪ そうじゃん! 仏教の世界では迦楼羅(カルラ)と呼ばれた鬼神。
  ガルーダ様は魔界であたいらハーピーをはじめ
  全ての鳥妖怪のまとめ役・・・王として君臨しているじゃん!
 
魔鈴 「 ・・・で、そのような大物がいったい、私の魔法になんの用ですか?
ガルーダ ≪ うむ・・・ではさっそく本題に入るとしよう。
  “魔女”魔鈴めぐみ、お前にやってほしいことは・・・
 
 
 
 
 
≪ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ≫
 
 
 
 
 
魔鈴 「 そ・・・そんなことのために私を!?
ガルーダ ≪ 魔鈴・・・おまえに選択の余地はない。
 
ザザッ!
10数羽のハーピー兵が魔鈴を取り囲む!
魔鈴は周囲をゆっくり見まわすと、唇を少し噛みしめた. そして―――
 
魔鈴 「 ・・・わかりました。 あなた方に協力しますわ。
ガルーダ ≪ フオフオフオ、さすがに物分りがいいな。
魔鈴 「 そのかわり報酬のほうはよろしくお願いしますわね。
ガルーダ ≪ わかっておる。 魔法に必要な材料も全て用意しよう―――――
 
 
 
・・・―――再び魔力封じが張られた研究室―――
 
魔鈴 ( ・・・それにタイガー君たち、私がいなければ人間界には戻れない。
  私の家ならまだ食料や生活用具がそろっているからいいんだけど、
  これだけ帰りが遅くなると、心配して探しに来るかも・・・
 
魔鈴は壁に小さくつけられた鉄格子の向こうの薄暗い空を見た。
 
魔鈴 ( ここにくるまでの間には、強力な妖怪や魔獣・妖怪がたくさん潜んでいるし、
  特に“名も無き森”を抜けた“魔獣の荒野”の先、“ケルベロスの門”の先から
  魔族の領域・・・いわゆる“魔界”と呼ばれるエリアに入るわ。
  ボガートやキマイラ程度の魔物ならともかく、ケルベロスはまともに戦って勝てる相手じゃない。
  私の家から“ケルベロスの門”まで、直線距離でざっと1000km以上、
  ここの場所すら知らないタイガー君たちが、そこまで辿りついてないと思うけど・・・
 
  ・・・・・・すべては私のミス、そして魔女としての異質な力のせい・・・・・・
 
 
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■人間界 とある喫茶店■
 
エミ 「 ―――というワケ。 ワルキューレから届いた手紙の情報はだいたいそんな所よ。
令子 「 ガルーダねえ〜・・・
 
美神は注文したコーヒーを片手に、エミの話を聞いていた。
 
エミ 「 おそらく3年前におたくが倒した、ガルーダクローンのオリジナルよ。
令子 「 ・・・なるほど、メドーサに負けて霊体片持ってかれた奴が今回の首謀者ってことね。
  はは〜ん 読めてきたわ、私を呼んだ理由が。
エミ 「 それなら話が早いわ。 じゃあそっちのほうは任せるワケ。
令子 「 もちろん報酬は貰うからね♪
エミ 「 わかってるわよ!
 
エミはそう言うと、立ち上がり店を出ようとした。
 
令子 「 エミ、あんたはどうすんの?
エミ 「 私は準備してくるわ。 こっちのほうが時間かかりそうだから。
 
 
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リポート61 『魔界の番犬
■魔界への門■
 
門の手前100メートルぐらいのところで、タイガーと洋子はケルベロスと戦っていた。
2人は常にケルベロスを挟むような形をとって注意をひきつけながら
タイガーは精神感応“悪魔グラヴィトン”の幻覚を魅せて重力攻撃で動きを鈍らせ、
洋子の神通棍でなんとか反撃を食らわそうとしていた。
しかし5メートル以上ある大きさで3つの首を持つケルベロスの体は硬く、
洋子は致命傷となる一撃を与えることはできず、逆に首をのばして噛みつこうとする
ケルベロスの攻撃をかわすのがやっとの状態だった―――
 
 
洋子 「 はあっはあっはあっはあっ・・・・・・強い! 重力攻撃を受けてこのスピードとは!
  寅吉! もう少しヤツのスピード落とすことはできんかー!?
タイガー 「 くっ、無理ジャ! これでも最大出力ジャケン!
  パワーが強すぎてちょっとでも気い抜いたらワシら一気に引き裂かれてしまうケン!!
 
洋子 ( さすが中ボス、うちらだけじゃ倒すのは無理か! 何とか逃げきれる方法は・・・!
 
洋子がそんなことを考えていたその時―――
 
 
ピュルルルルルルルルルルルルルルルッ
 
ばさばさばさばさっ
小鳥さん ≪ ギェギェギェ――ッ!! ≫
ケルベロス ≪≪≪  グルアッ!!??  ≫≫≫
 
馬車を魔界への門のすぐ手前でとめた茜が獣の笛を使い、
魔鈴に飼われている小鳥さん(スカベリンジャー)を召喚していた!
スカベリンジャーはケルベロスの周りを高速で飛びまわり、注意をひきつけている!
 
タイガー 「 今ジャ洋子サン! 魔界の門まで走るぞ!!
洋子 「 わかったー!!
 
 
魔界への門まで直線距離でタイガーは120メートル、洋子は140メートルの位置にいた。
だが洋子のほうは、門との直線上にケルベロスがいるため迂回しなくてはならない。
よって洋子の実際の距離は150メートル以上となる。
タイガーの合図から門の入口に達するまで、2人の足のスピードから約20秒あれば届く計算になる。
 
 
1秒
 
タイガーと洋子は走り出す。
 
 
2秒
 
スカベリンジャー、ケルベロスの霊力を喰おうとする。
 
 
3秒
 
だがケルベロスとのパワーの違いから、霊力をほとんど削(そ)ぎ取ることはできない!
 
 
4秒
 
洋子、ケルベロスの横を通り過ぎる!
 
 
5秒
 
ケルベロス、スカベリンジャーを視覚に捕える!
 
 
6秒
 
ケルベロスの頭の1つがスカベリンジャーを襲う!
 
 
7秒
 
スカベリンジャーかわす! とそこに2つめの頭がスカベリンジャーを襲う!
 
 
8秒
 
ズガアッ!
小鳥さん ≪ ギェッ!! ≫
 
ケルベロス、スカベリンジャーに頭突きをくらわす! 
 
 
9秒
 
「 小鳥―――っ!!
 
茜は笛を吹くのを止め、スカベリンジャーをもといた場所(=魔鈴の家)へと帰した。
 
 
10秒
 
ケルベロス、門のほうに走っていくタイガーと洋子を睨む!
門までの距離、ケルベロス130m、洋子75m、タイガー65m!
 
 
11秒
 
ケルベロス ≪≪≪  グルアアアアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
ケルベロス走りだす!
 
 
12秒
 
茜・黒猫 「 ケルベロスが来たぞー!!  《 2人共急ぐニャー!
 
茜と使い魔が叫ぶ!
 
 
13秒
 
洋子が振り返ると、40メートル後ろにケルベロスが迫ってきているのを確認する!
門まであと50メートル!
 
 
14秒
 
洋子がタイガーに追いつく!
 
タイガー・洋子 「 はあっはあっはあっ!  「 寅吉もっとはよ―――!!
 
 
15秒
 
ケルベロス、15メートル後ろに迫っている!
 
洋子 ( ダメや! 追いつかれる!!
 
洋子がそう感じたその時―――
 
 
 
16秒
 
ガッ―――−−‐
 
洋子・タイガー 「 あっ・・・!  「 !?
 
門まであと30メートルの所で、洋子が石に躓(つまづ)き、倒れそうになる!
 
茜・黒猫 「 ヨーコさん!!  《 フニャ!!
 
 
17秒
 
どさ―――っ
 
洋子が倒れる!
タイガーは急停止し、洋子の10メートル先で走るのをやめる!
だがすでにケルベロスは洋子を捕獲圏内に捕えていた!
その鋭い牙を光らせ、洋子を喰おうと上から首をのばしてくる!
 
 
ケルベロス ≪≪≪  グルアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
―――!―――
 
洋子が一瞬で逃げきれないと悟り、体を硬直させたその時―――
 
 
 
 
タイガー 「「「  ケルベロスまて――――――!!!!!
 
 
 
 
18・
 
 
 
 
 
19・
 
 
 
 
 
20秒・・・
 
 
 
タイガーの咄嗟(とっさ)の叫び声の後、ケルベロスは時が止まったかのように
大きな口をあけたまま、洋子を喰らうほんの数十センチ手前でぴたっと動きを止めた。
洋子はケルベロスのよだれが垂れ落ちる直前にそこから素早く抜け出し、タイガーの元へ走った。
 
 
洋子 「 どういうことや? 何でヤツの動きが止まったん? 絶対喰われると思ったのに・・・
タイガー 「 まさか・・・(汗)
 
ケルベロス ≪≪≪  グルルルルルルルルルル・・・・・・!  ≫≫≫
 
 
唸ってこっちを睨むケルベロスに対し、タイガーはある言葉を言ってみた。
 
 
 
 
 
タイガー 「 おすわり!
 
 
 
 
ばっ!
 
 
行儀よくお座りするケルベロス。
まさかと思いあることを確信したタイガーは、魔鈴の家から食料として持ってきていた
昼食の残り、食べかけのハンバーガーをポケットから取りだし、ケルベロスに見せびらかした。
そしてタイガーは―――
 
びゅっ
タイガー 「 ほれ、取ってこーい!!
ずどどどどっ!
ケルベロス ≪≪≪  グァウグァウグァウッ!!!  ≫≫≫
 
食べかけのハンバーガーを遠くに投げると、ケルベロスはそれを追いかけた。
そしてハンバーガーを食べようとした瞬間―――
 
 
タイガー 「 待て!!
 
ぴくっ
再びケルベロスの動きが止まる。 大きく開けた口からはよだれがだらだらと流れていた―――
 
タイガー 「 今のうちジャ洋子サン!
洋子 「 あ ああ!
 
2人は門の入口直前に止めてある馬車に乗り込む!
すでに運転席でタヅナを持って2人を待っていた茜は一気に魔界への門をくぐりぬけた!
 
 
 
■魔界へのゲート空間内■
 
タヅナを持って運転していた茜が、馬車の中のタイガー達に声をかけた。
 
「 ・・・にしてもよ〜、あんな攻略の仕方があったとはなー!
タイガー 「 所詮は番犬じゃし、前にどこかで飼われていたのかもしれんノー。
黒猫 《 ウラワザというニャ。
洋子 「 うちの苦労は・・・戦った意味がない・・・(汗)
 
洋子は頭を押さえ、ちょっと落ち込んでいた。 そこに茜がケラケラ笑いながら―――
 
「 いや〜ケルベロスに喰われそうになってた時の洋子の怯えた顔、滅多にみれねえぜ!
洋子 「 やかまし!///
タイガー 「 いや〜あのケルベロスのもとの飼い主に感謝ジャノ! よ〜くしつけられとって大助かりジャ。
黒猫 《 ホントだニャ♪
 
「 お、出口が見えてきたぜ!
 
 
タイガー達の乗るカボチャの馬車は、異空間の出口を通り抜けた―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・
 
 ・
 
 ・
 
 
■とある修行場■
 
《 へくちっ!
「 どうした? 風邪か?
《 そんなわけないでちゅ! それより早く掃除を終わらせて一緒に遊ぶでちゅよ!
「 わかったって!
 
10歳ぐらいの少女とハタチぐらいの青年は、
竹ホウキで掃除をしながらそんな会話をしていたりする―――
 
 
・・・そして門の前では、程よくよだれがテイストされた
食べかけのハンバーガーと格闘(にらめっこ?)するケルベロスの姿があったという―――
 
 
 
     ――――――そして舞台は魔界へと至る――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

リポート62 『化猫の呼び声!!』
魔界への門をくぐり、ついに魔界へと到達したタイガーたち3人と1匹。
門をくぐるとそこに見えたのは広大な草原。
2メートル以上もの丈の長い草が両わきに生えており、
門の入り口から蛇行(だこう)したように、人工的に作られた気配のある
幅10メートル程度の果てない道が存在していた。
空は魔鈴の家のある世界と同じく、厚い雲に覆われている。
 
■魔界の草原■
 
魔界に入ったあと運転は洋子に変わっており、馬車は一直線に続く草原の道を突き進む。
タイガーたちは周囲に潜むさまざまな魔物の気配をまじまじと感じていた。
その気配は、GSの助手として経験の浅い茜にも伝わっていた―――
 
「 ―――あたいにも感じるぜ。 イヤな気配をそこらじゅうから感じるぜ。
タイガー 「 そりゃそうジャ、人間界にとって魔物が異物であるようにここじゃワシらが異物なんジャ。
  それにここは力がものをいう弱肉強食の世界、
  人は魔族に比べたらはるかに弱い生き物じゃし、狙われて当然ジャ。
  ・・・あかねサン、ここからはほんとに冗談なしに危険ジャ。
  ほんとにワシらについてきてよかったのか?
「 へっ、今さら何言ってんだよ。
  あたいもバイトとはいえ事務所の一員だぜ。 仲間を助ける気持ちに変わりはねえよ。
タイガー 「 あかねサン・・・
 
ぱからぱからぱからぱからっ
洋子 「 へえ〜 あんたもずいぶん丸くなったもんやな〜♪
 
洋子は片手で手綱を持って馬をコントロールしながら、馬車の側面の窓から顔をだしていた。
 
「 て てめえちゃんと前見て運転しやがれ!! どういう体勢で運転してるんだよ!
洋子 「 大丈夫やて。 あと1分ぐらいはまっすぐの道やから。
  にしてもあんたずいぶん友達思いになったなー、前はあんなに魔理のこと敵視しとったのに。
「 あ あたいが心配してんのは魔鈴さんのほうだよ! 魔理なんかおまけさっ!///
洋子 「 おうおう無理しちゃって♪
 
にま〜っと笑う洋子。 茜の隣に座ってた黒猫は―――
 
黒猫 《 ところでこれからどうするんだニャ?
  魔鈴ちゃんがどこに連れて行かれたかわからないまま魔界を旅するのは危険だニャ。
洋子 「 そうやな。 だいたいほんとに、ここ(魔界)に連れてこられたのかもわからんのやし。
  ひょっとしたらもうとっくに通り過ぎたかもしれんな。 最初の森のあたりで。
「 お おい、ここまで来ておいてんなこと言うんじゃねーよ!
 
不安がる茜。
 
タイガー 「 いや、エミさんの言うとおりハーピーの飛び去った方向の直線上に魔界の門があった。
  この魔界のどこかにおるのは間違いないジャロー。
  じゃが門をくぐった後、どこに飛んで行ったかとなると・・・
「 そこらへんの魔族ぶん殴って、吐かせるか?
黒猫 《 そんな無茶にゃ・・・(汗)
タイガー 「 いや、それも一理アリジャ。
  ある程度知恵のある魔族にハーピーが行きそうな場所を教えてもらおう。
洋子 「 うんうん 茜もたまにはいいこというなあ。
「 ・・・て、いいからてめえは前見て運転しろ!!
洋子 「 はっ!!
 
バッ がたがたんっ ガンッ  =☆
 
洋子はいきなり手綱をひっぱり、馬車を止めた。
その勢いで茜は、馬車の中で向かいに座っているタイガーに頭突きをくらわした!
 
「 ててて・・・なんなんだよ急に止めて!
タイガー 「 ハ、ハナ・・・!
 
涙を浮かべながら鼻を押さえるタイガー。 茜の頭突きで少し出血したようだ。
 
洋子 「 ・・・敵や。 こりゃ逃げられんわ、馬車から降りて戦うしかない。
 
 
タイガーたちは馬車から降りた。
5〜10mの道幅の両サイドには、丈が2〜3mの魔界の草がぎっしりと生えている。
その奥には何がひそんでいるのかわからなかったが、妖気だけは伝わっていた。
タイガーは黄色いトラ男になり、黒猫は馬車の上に乗り周囲の様子を探っている。
すると―――
 
 
ボッ! ズザザザザザザザ!!!!!
 
黒猫 《 みんな! タイガーの前方の茂みからものすごいスピードで何か来るニャ!!
 
百メートル近い離れた所の草が動いたかと思えば、
そこから一直線に猛スピードで草を伐(き)りさきながらこちらに向かってくる!
黒猫がそのスピードからタイミングを見計らい、カウントダウンをする!
 
黒猫 《 あと3秒!! 2・・・1!!
 
バサ!シュバ!バサッ!
 
使い魔の呼び声にあわせ、草むらから何かが飛びだした瞬間タイガーはしゃがみこむ!
その後ろで洋子が神通棍を振り下ろしたが、その何かにかすっただけで
それはかぼちゃの馬車のタイヤを少しかすめ、反対側の草むらに飛び込んだ!
 
黒猫 《 フニャ!? タイヤだいじょうぶかニャ!?
「 は はえ〜、何だ今のは!?
タイガー 「 白いものしか見えんかった!!
 
驚く2人に対し、洋子は敵の正体を見破っていた!
 
ぞくぞくっ
洋子 「 風の妖怪【カマイタチ】!! 日本の妖怪がまさかこんな所におるなんてな!!
 
タイガー 「 てことはあと2匹おるはずジャ!!
洋子 「 カマイタチは妖怪の中じゃ強いほうや!! 油断すると一撃で終わりやで!!
ハッ
黒猫 《 茜ちゃん右斜め前方の方向!! 2・1!!
「 え!? え!?
 
早めのカウントダウンに焦る茜! そこに―――
 
ゴオオオオッ
タイガー 「「「  咆哮波(ほうこうは)!!
 
ドゴオオオオオンッ!!
カマイタチ ≪≪ キュアアッ!!! ≫≫
 
タイガーが口から放った霊気弾が2匹目のカマイタチに直撃する!
サメに似た姿をした白いカマイタチはその場に倒れ、体をピクピクさせていた。
額の部分には「弐」という文字が書かれてある・・・
 
「 す すげー!! よくあてたな!!
洋子 「 寅吉やるやないか。
タイガー 「 い いやー、あはははは!!
   ( とっさのことじゃったし、まぐれとは言えんノー・・・(汗)
 
内心あせるタイガーであった。 すると馬車の上で―――
 
黒猫 《《 ニャアアアッ!!
チリンッ♪
≪ へえ〜 けっこーやるじゃない♪
 
「 なんだ!?
タイガー 「 あれは・・・【化猫】ジャ!!
 
 
馬車の上では、人の形をしたネコの妖怪化猫が、使い魔の首ねっこをつかんで立っていた。 
シッポが2つに割れ、ウェーブのかかった短髪で深い緑色の髪、
鈴の耳飾りを両耳に何個かつけており、胸はやや大きめでかなり美人。
見た目はタイガー達と同い年くらいの比較的若そうな妖怪で、
その姿や顔は、以前横島が出会った化猫:美衣(みい)を若くした感じに似ている。
化猫は指を鳴らして合図をすると、壱と参のカマイタチは傷を負った弐のカマイタチを連れて
草むらの中に引き上げていった。
 
 
タイガー 「 少しは話せそうジャノー。
洋子 「 気いつけや、化猫・またの名を猫又(ねこまた)とも言って実力はハーピーに匹敵する!
  日本に登場する妖怪の中じゃ妖力はかなり強いほうよ!
「 げっ! まじかよ!
 
首ねっこをつかまれた使い魔は、ジタバタしながら―――
 
黒猫 《 いい加減に離してほしいニャ!
化猫 ≪ クロちゃん、同じ猫妖怪じゃない。 仲良くしましょうよ♪
黒猫 《 クロちゃん呼ぶニャ! それにオイラは使い魔だニャ!
化猫 ≪ 似たようなものでしょ。 ・・・ウフフ、かーわい☆ あなた結構いい線いってるわよ☆
黒猫 《 ・・・いっとくけどオイラはタイプじゃないニャ。(汗)
 
身の危険を感じる黒猫だった。
化猫は使い魔を放して地面に飛び降りると、腕を後ろに組んでタイガーを見上げた。
 
化猫 ≪ あたしはここらを仕切ってるもんだけど、ねえねえ、あんたトラ?
タイガー 「 ワ ワシ? ワシは寅吉じゃがー・・・
 
化猫は依然トラ男のままのタイガーをじろじろ見回していた。
 
化猫 ≪ へえ〜珍しいわね、トラとのハーフなんて。 しかもあたしのタイプだわ☆///
タイガー 「 へ?
 
ぱんっと手を合わせる化猫。 そして―――
 
 
 
だきっ☆
化猫 ≪ きめた! あたし、あんたをカレシにする!!  ―――!!??―――
 
 
 
ピシッ・・・化猫に抱きつかれて、硬直するタイガー。 
 
ごろごろっ
化猫 ≪ 同じネコ科の人獣妖怪同士、仲良くしましょうにゃ☆
 
その光景にカマイタチや茜たちもあ然としていた。
 
ぼそぼそ・・・
『 お おい、どうなってやがるんだ?
洋子 『 どうやら寅吉を半妖と勘違いしとるみたいやな。
『 フツー勘違いするか? 妖力とか気配とかでわかるもんじゃねーのか?
洋子 『 ずっと魔界におった妖怪は、気配で人と妖怪の区別は難しいのかもしれん。
  寅吉はあの化猫に、“トラ男”のほうが本性だと思われとるんやな。
『 ・・・なんか妙なことになってきたな。
洋子 『 いや、これは考えようによってはええかもしれん。
 
ニヤリと微笑み、なにかを思いつく洋子。
 
化猫 ≪ ああ、この毛並みがたまらないにゃ〜☆
タイガー 「 はっ!!
 
すりすりごろごろされてたタイガーは、やっと硬直が解けて正気に戻ると、
ずざざーっとおもいっきり化猫から離れた。
 
タイガー 「 ちょ ちょっと待ってクレ!!
  なんか勘違いしとらんか!? ワシはにんげん――― 『 寅吉待ちい!! 
 
タイガーの背後にまわった洋子は、彼の耳もとで化猫に聞こえないように早口に小声で話しだした。
 
洋子 『 このままあんたは人獣妖怪としてダマしとおし!
  トラ男になっとくだけならしばらくもつんやろ!
タイガー 『 んな無茶な! いくらワシがおなごにモテないからって妖怪と―――
洋子 『 そやない! このままこいつらと全面戦争するより
  そのネコ妖怪を仲間にしといたほうが魔理たちの情報が入りやすいやろ!
タイガー 『 そ そりゃそうかもしれんが・・・
 
2人のヒソヒソ話が気になりジェラシーを感じた化猫は、不機嫌そうな顔をしながら―――
 
化猫 ≪ ねえ、その2人ってあんたの奴隷?
「 なっ・・・!
サッ
洋子 「 そうなんよ、うちら寅吉のものなんよ。 そやから寅吉の身を守っとっただけなんや。
 
洋子はヘラヘラ顔のまま、茜の口を押さえてそう言った。
 
化猫 ≪ ・・・奴隷のクセに呼び捨てしてるのね。
タイガー 「 ワ、ワシがそう呼ばしとるんジャ! かたっくるしいのは好かんからノー!
 
タイガーがフォローを入れる。
すると化猫は明るい表情を取り戻し、パンッと両手を合わせ―――
 
化猫 ≪ そっか! それじゃああたしは「とらきっちゃん」て呼ぶね!
 
―――とにこやかに言った。
 
タイガー 「 と、とらきっちゃん・・・?(汗)
化猫 ≪ とらきっちゃん、よろしくね♪
 
再び化猫に抱きつかれ、硬直するタイガー。
妖怪とはいえ体つきは普通の人間とほぼ同じであり、そのやわらかさ・匂いなどは
彼の五感にモロに伝わっていた。 そのぬくもりや甘い香りに感激しながら―――
 
じ〜〜〜ん
タイガー ( は、初めてジャ、おなごのほうから抱きつかれた!!
  じゃが・・・美人じゃが彼女は妖怪! このことを喜ぶべきなのかどうなのか・・・!!
  じゃがこのおなごはワシを妖怪だと思ってるわけだし、
  ワシが人間だとバレたら殺されるかも・・・ああっ複雑ジャ! どしたらいいんジャー!?
 
心の中でいろいろと葛藤するタイガーは、やり場のない手をフラフラさせていた。
その様子をさめた目で見ていた洋子と茜は―――
 
「 笛吹かなくていいか? なんか暴走(セクハラの虎化)しそうだし。
洋子 「 魔理と水樹がおらんでよかったな。 おったら今頃血いみとるで。
「 おめえはどうなんだよ、バレンタインに一番最初にチョコあげてたじゃねーか。
洋子 「 うちはダンナの浮気には寛大なんよ、寅吉がその気のないうちはまだええ。 
ずごごご・・・
  でも、もし寅吉のほうから手をだそうもんなら、うちも何をするかわからんけどな。
たじっ
( ・・・こわっ!! けっこー気にしてるじゃねーか!!(汗)
 
 
黒いオーラをだす洋子に一歩引く茜だった。
一方で、背後にいる洋子たちの視線を感じたタイガーはあわてて化猫から離れ、
ハーピーの行きそうな場所を聞いてみた―――
 
 
化猫 ≪ ―――ハーピーの行きそうな場所?
  この道をずっとまっすぐ進んだ所に鳥族の城があるけど・・・まさかそこに行く気なの?
タイガー 「 そ そうじゃが。
化猫 ≪ やめといたほうがいいわよ、あそこは今やばいから。
タイガー 「 やばいって・・・ハーピーが?
化猫 ≪ いや ハーピー自体はそう大したことないんだけど・・・
 
―――ハーピーが大したことない!?!?―――
 
タイガーたちはハーピーをそれほど強いとは思っていない化猫に、彼女の恐ろしさを感じていた。
 
化猫 ≪ 今あそこは戦争状態なのよ。
タイガー 「 え? 戦争状態ってどういうことジャ?
化猫 ≪ あそこのボスが寿命でね、後継ぎがいないのよ。
  だから他の魔族があのあたりの土地を奪おうと狙ってるのよ。
タイガー 「 そのボスって・・・
 
 
化猫 ≪ ・・・上級魔族であり鳥妖怪の頂点に立つ鬼神、鳥族の王ガルーダ。
 
 
―――!!―――
 
「 ガルーダ? 
タイガー 「 ガルーダじゃと!?
洋子 「 おいおいちょっと待ち、それマジの話なん?
化猫 ≪ ホントよ。 ハーピー達があちこち飛び回ってるのもそのせいなんでしょ。
タイガー 「 上級魔族、メドーサと同レベルの奴か・・・
洋子 「 まずいなー・・・
「 おいちょっと! あたいにもわかるように説明しろよ!
 
タイガーや洋子がそれぞれ納得し深刻な顔をする中、ひとりカヤの外状態の茜は説明を求めた。
 
洋子 「 上級魔族のガルーダ・・・実際上中下に分けられとるけど、その大半は下級魔族や。
  中級魔族と言われとるヤツらですら、人間界では神話に出てくる悪魔や魔獣として
  知られておる奴らばかりで、普通人間界に出てくることはそうそうないんや。
 
「 じゃあ上級魔族ってのは・・・
洋子 「 上級魔族もピンキリやけど、強い奴は世界を滅ぼす力をもっとる魔神たちのことや。
  有名なのが3年前に事件おこしたアシュタロス、そいつは最上級魔族って言われとる。
タイガー 「 まあその頃は中・上級魔族もよく人間界に出てきおったが、アシュタロスが倒されて以来
  上級魔族が人間界に現れて悪さしたという例はほとんどないんジャ。
  そいつらが人間界に関わるとわかっただけでGS協会本部が動くし、時には神族も動く。
  それだけ稀で、並の魔物とはケタが違うんジャ。
 
洋子 「 ま なにがあってもガルーダと戦うことだけはやめといたほうがええな。
  神話の話だとヒンズー教の神、ヴィシュヌやインドラと互角に戦い
  ナーガ(蛇)の一族をたった一羽で滅ぼしたと言われとる奴や。
  ハーピーにすら勝てんうちらがまともに戦える相手やない。
「 ・・・よく知ってんなー。
洋子 「 学生の時に六女の授業で習らったんや・・・あ、そういえば確かガルーダって
  神話じゃあ“不死の甘露=アムリタ”を手にいれて、不死の体になったと違うんか?
 
化猫 ≪ 知らないわよ、あたしは噂でしか聞いてないんだから。
  でもウワサでは寿命でガルーダの霊力が落ちてて、
  今じゃ中級魔族レベルの霊力しかもっていないって聞いたことがあるわ。
 
タイガー 「 ふ〜む・・・そこらへんが魔鈴サンを連れてったこととなにか関係がありそうジャノー。
 
真面目に考えこむタイガーであったが、そんな場面に関係なく化猫は彼の右腕に抱きついてきた。
 
化猫 ≪ とにかく、あたしもとらきっちゃんの行くトコならどこにでも行くからね☆
タイガー 「 ちょっ・・・やめてツカーサイ! 2人が見ている前で・・・!!///
化猫 ≪ じゃあ2人っきりならいいのね! わかったわ、じゃあ今すぐあたしの家に―――
 
タイガーをずいずいと引っぱろうとする化猫。
思い込んだらすぐ実行におこせることは、魔族の世界では常識的なことなのかもしれない。
今だトラ男の姿をたもっていたタイガーの頭からは、湯気が見えている。
 
プシュウーッ
タイガー 「 そ、そうじゃのーて!!///
ヒューヒュー
「 おうおう、モテる男はつらいなー。
洋子 「 まー お2人さん仲良くな。
 
タイガー 「 ちょ、ちょっと―――!!(泣)
 
茜と洋子は目を細めて冷ややかな声援を送った。
 
タイガー 「 と とにかくワシら先を急いどるから・・・!
化猫 ≪ そう・・・わかったわ。
タイガー 「 ホッ・・・わかってくれたか・・・
化猫 ≪ それじゃあ早いトコ一緒に寝ましょ! 大丈夫! 私もはじめて(?)だから☆
 
タイガー 「「「  全然わかっとらんやないか―――!!!///
 
湯気を出し、鼻血を噴出すタイガーであった。
 
 
その後化猫は散々ワガママを言いまくったが、先を急ぐことを理由に、できるだけ穏便に説得させた。
そして彼女は、住処としている家からこの辺りの地図を持ってきてくれるといい、
1人住処に取りに戻っていった。 しかしタイガーは―――
 
 
タイガー 「 洋子サンあかねサン、今のうちにここを出よう! 化猫が戻ってこんうちに早く!
茜・洋子 「「 え?
タイガー 「 ワシもう耐えられん! 四六時中トラ男になっとかんといけんし誘惑多いし・・・
  もう魔理サンたちの居場所は大体わかったんジャ! 頼むから今のうちに逃げよう!
茜・洋子 「「  ・・・・・・・・・・・・
 
泣きながら助けを求めるタイガーに、あきれて顔を見合す茜と洋子だった。
 
 
     ―――タイガー、タイヤ修理中―――
 
 
「 ―――にしてもなっさけねえなー、抱いてって言ってる女からこそこそ逃げるなんてよー。
タイガー 「 無茶言わんでクレ!! 向こうは妖怪じゃしワシのことも妖怪と思うとるんじゃぞ!
  しかもハーピーをザコ扱いしとる奴ジャ! 人間だとバレたらワシ殺されてしまうわ!
 
タイガーはそう言いながら、カマイタチに傷つけられた馬車のタイヤの調子を見ていた。
そんな彼を見ながら、洋子はぼそっと呟いた。
 
洋子 「 ま 結果これでよかったのかもしれんな。
  もともと人と魔族が馴れあうなんてそう簡単なものやない。
「 とか言ってホントは、化猫と所長がくっつかなくてホッとしてるんだろ?
 
茜はからかい気味でニヤつきながら言うと、洋子は真面目な顔をして―――
 
洋子 「 アホ言うな。 初めからそんなことありえんに気まっとるやろ。
「 なんでだよ?
洋子 「 寅吉は妖怪と思われとるんや。
  てことは、行為に及んどる間ずっとトラ男になっとかんといけん。
  行為に及びながら、精神感応を使い続けれるわけないやろ。
 
かあっ///・・・「行為」を想像した茜は少し顔を赤くして―――
 
「 ・・・暴走ってこともありえるだろ。
洋子 「 寅吉が一番恐れとるのはそれなんや。
  だいたい自分の意識とは裏腹に本能のまま行為に及んだとして、
  あとになって正気に戻ってもその時の記憶すらない。
  そんなんで女も寅吉も喜ぶか? 理性のあるうちは化猫を襲ったりするわけない。
「 ふ〜ん・・・
 
洋子 ( 寅吉は気真面目な奴や。
  魔理たちが危険な場所におるのに女と寝とられるわけない。
  たとえ相手がエミさんだとしてもな・・・
 
洋子はそんなことを考えていた。 茜はつまらなさそうにして―――
 
「 ちぇっ、つまんねーの。
  魔理や水樹さんがいたらもっとおもしろいことになってたのによー。
洋子 「 ふっ、それは一理あるな。
 
魔理や水樹がこの場にいた場合のことを思い、洋子は少し微笑んだ。
そんな話をしているうちに、タイガーもタイヤの調整をすませていた。
 
タイガー 「 よし終わった! さあ、あの化猫が戻ってこんうちに行こう!
  ワシが人間じゃとばれる前にノー!
 
タイガーはそう言いながら、トラ男の幻術を解く。
だが洋子と茜は、タイガーとは少し視線をずらした方向を見て顔を青くしていた。
嫌な気配を感じてゆっくりと彼女達の視線の方向に目をやった。
すると彼の後方10メートルの位置に、地図を片手に握り締めた化猫がこちらを睨んでいた―――
 
フ―――ッフ―――ッフ―――ッ
化猫 ≪ とらきっちゃん、人間だったのね・・・
タイガー 「 あ いや・・・結構早かったノー・・・( 見られた〜〜〜!!(汗)
化猫 ≪ よくも・・・よくもあたしを騙してくれたわね!
  やっとカレシが出来たと思ったのに〜〜〜!(泣)
タイガー 「 ワ ワシは悪くないぞ! 勝手に勘違いしたんはそっちじゃろ!
 
キッ!
更にするどく睨み、2つに割れたシッポを立てる化猫。
洋子と茜は、『それは言ってはならないセリフだろー』と、
彼の女性に対するあつかいにやれやれの表情だった。
 
化猫 ≪ 人間であれば容赦はしないわ! カマイタチおいで!!
 
ザザッ!
化猫の合図により、草むらから現れた壱と参のカマイタチが化猫の左右に留まった。
 
化猫 ≪ あんたたちはあの女2人をやっちまいな!
カマイタチ ≪≪  キュアアッ!!!  ≫≫
タイガー 「 洋子サン! あかねサン!
化猫 ≪ あんたの相手はあたしだよ。 乙女の純情もてあそんだこと、容赦しないからね!
 
 
ここは魔界・・・ただでさえ魔族の力が人間界よりパワーアップしているこの世界。
しかも相手は、ハーピーと同等の妖力を持つ化猫。 まともに戦って勝てる見込みは低い。
タイガーは策が見つからいまま、化猫が飛びかかってこようとしたその時―――
 
 
黒猫 《 待つだニャ!!
 
魔鈴の使い魔が、馬車の中から何かの袋をくわえて地面に降り立った。
 
黒猫 《 これあげるからおいら達を見逃してほしいニャ。
 
使い魔が広げた袋の中身はマタタビだった。
 
化猫 ≪ こ、この香り・・・それは!
黒猫 《 魔鈴ちゃん特製マタタビ! 味も香りも最高級だニャ!
化猫 ≪ あ、あたしは食べ物なんかに釣られる女じゃ・・・!
キランッ☆
黒猫 《 イヤなのかニャ?
 
目を光らせる黒猫。 化猫の視点がマタタビにしばらく集中すると―――
 
じゅる・・・
化猫 ≪ い、いいだろう、それで手をうってやる・・・カマイタチ!
 
化猫の合図と共に、洋子たちと戦っていた2匹のカマイタチが草むらの中に引きあげていった。
 
化猫 ≪ い、言っとくけど、決してマタタビにつられたわけじゃないからね!
 
よだれを拭(ぬぐ)い、使い魔から嬉しそうにマタタビの袋を受け取るその姿に説得力はなかった。
 
タイガー 「 使い魔サンやるノー。
黒猫 《 ネコの気持ちは、ネコの使い魔であるオイラがいちばんよく知ってるんだニャ!
  これも魔鈴ちゃん救出のためニャ。
  ううっ、でもおいらのご馳走が・・・断腸の思いニャ。(泣)
 
ハラハラと涙を流す使い魔。 すると茜が―――
 
「 おめえ初めて役にたったな。
黒猫 《 そこうるさいニャ!(怒) さあ、そのマタタビを1個食べてみるニャ!
 
すると化猫は―――
 
化猫 ≪ ・・・そう、ネコの気持ちはやっぱりネコしかわからないのよね〜〜〜ウフ♪
黒猫 《 二ヤッ!?(汗)
 
化猫の不敵な笑みに、一歩たじろぐ使い魔。
 
がばっ!
化猫 ≪ やっぱりネコはネコと結ばれるべきものなのよっ!!
黒猫 《 フニャ〜〜〜ッ!!
 
使い魔は化猫におもいっきり抱きつかれた!
 
にゃ〜〜〜
化猫 ≪ クロちゃん、結婚しよ〜〜〜
黒猫 《 た、助けてニャ〜!!
 
助けを求める使い魔を横目にタイガー達は―――
 
洋子 「 クロネコ、あんたの犠牲ムダにはせんからな。
「 魔鈴さんのことはあたいらにまかせとけ。
タイガー 「 すまんノー
黒猫 《 フニャ!? ちょ、ちょっと待つだニャ!!(泣)
 
そう言うとタイガーたちは、化猫の落とした地図を拾い、
使い魔を残したまま馬車を走らせていくのであった。
 
そして使い魔は化猫と共に末なが〜く暮らしたのである。 めでたしめでたし――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――だったらそれはそれで面白いのだが。(笑)
 
 
使い魔の渡したマタタビは、実はネコを24時間酔わせ、眠りに落とすというものであった。
それをを食べた化猫は深い眠りに落ち、その隙に使い魔は化猫から逃げたのであった。
そのマタタビの効果を知ってたタイガーたちは、使い魔を半分からかう形で置いてきたのである。
数キロ先で待ってた彼らは1時間後無事に使い魔と合流することができたが、
その日機嫌をそこねた使い魔は、タイガーたちと口をきくことはなかったらしい―――

リポート63 『眺めのいい!!』
[ 4月30日水曜日 ]
 
ハーピーにさらわれた魔理・魔鈴を救うべく、タイガー達が魔鈴の家を旅立って6日目。
化猫の情報により、鬼神ガルーダが治める鳥族の城を目指してかぼちゃの馬車を走らせていた。
そして昼過ぎ―――草原を抜けたタイガーたちは、
小さな森の中に直径数10メートルぐらいの泉を見つけていた。
 
■小さな森の泉■
 
タイガー 「 ほえ〜 透き通っとるノー。
 
茜は、水をすくって飲んでみた。
 
「 ごくっ・・・・・・うまい! 飲めるぜこの水!
洋子 「 魔鈴さんとこから持ってきた飲み水が無くなりかけとったからな。
  それにこの広さなら水浴びもできそうや。
  
すると茜はポリポリと頭をかくと―――
 
「 魔鈴さんとこ出て一度も風呂に入ってなかったからな。 髪の毛がもう砂まじりでボサボサだぜ!
タイガー 「 じゃがー魔界にこんなきれいな泉がわいとるなんて・・・ワナじゃなかろうノー?
洋子 「 確かに・・・でも周りに魔物の気配は感じられんし、ちょっとだけなら大丈夫やろ。
「 そーいやネコは?
タイガー 「 昨日の件まだ怒っとるみたいでノー。
「 ふ〜ん、まいっか。 あたいらが先に入るから所長は後な!
タイガー 「 わかっとる。 ワシは水を運んで森の外にとめとる馬車に戻っとくケン。
  ふわあ〜〜〜っ‥‥ それに昨日はほとんど徹夜じゃったから眠いしノー。
 
 
昨日の化猫の話を聞いたタイガーたちは、魔理たちの身を案じ一晩中馬車を走らせていたのである。
星明りが1つもない真っ暗闇の中での移動のため、移動には細心の注意を試みていた。
確かに魔理たちの身を案じていたことも確かであったが、実はタイガーと使い魔が
少しでも遠くあの化猫から離れたいという気持ちのほうが強かったりするのだが。
 
 
洋子・タイガー 「 寅吉も後で入るんよー!!  「 わあっとるケーン。
 
タイガーは水を汲むと振向くことなく手をふり、森の外に置いてある馬車のほうへ戻っていった。
 
洋子 「 ・・・なんかつまらんな。 男ならこういうシチュエーションを黙って見過ごすわけないのに。
「 何を期待してんだ何を!!
洋子 「 まあしゃーないか。 昨日の化猫のインパクトが強かったしな。
 
 
 
―――2人は服を脱いで泉に入った。
 
ぱしゃっ‥
 
「 あー 気持ちいいぜ!! こんなに長い間体を洗わなかったことってなかったからな!
洋子 「 ああ、沼地に海、荒野に草原・・・1週間経っとらんけど中身の濃い旅になったからなー。
 
すると茜は、じろじろと洋子の体を見ると―――
 
「 ・・・・・・ふ〜ん。
洋子 「 ・・・なんや茜?
「 結構でかいな。
洋子 「 どこを見とる、どこを!///
「 あたいが見たところ、事務所のメンバーで一番ばいんばいんじゃねーか。
洋子 「 ふふふふっ・・・ <キュピーン☆> そんならあんたのも大きくしたるわ。
 
前髪の奥の目を怪しく光らせ、手術前の医者のように両手の指を怪しく動かすと―――
 
「 え!?
ばしゃんっ!
洋子 「 覚悟しい!!
「 うわあっ!!
 
じゃれあう長髪の少女たち。 その時タイガーは・・・!
 
 
 
泉全体!
 
 
 
森全体!
 
 
 
森の外(カメラ移動)!
 
 
 
かぼちゃの馬車!
 
 
 
かぼちゃの馬車ズームアップ!
 
 
 
馬車の中!!
 
 
 
 
 
ZZZ・・・
タイガー <  ぐがー  すぴー  ぐごー  すぴー  >
 
 
 
―――本当に寝ていた。(魔鈴の使い魔も。)
これが横島なら、徹夜明けでも決してほってはおけない状況であったであろう。
 
 
 
そして再び泉。
 
 
 
「 あちっ!!
 
急に手の甲をおさえる茜。
 
洋子 「 どした!? ちょっと強すぎたか!?
「 あ、いや、そうじゃなくて、手が火傷(ヤケド)したみたいで・・・
洋子 「 ヤケド? 水の中に入っとるのに?
 
ぼこぼこぼこっ!
 
洋子 「 なんや!? 水中から気泡!?
 
ザパアアアアアンッ!
ごぼごぼぼぼぼっ!
泉の中からアメーバ状の巨大物体が飛びだし、左右に広がった!
4メートル、5メートル・・・うにょうにょと見上げるほどの大きさにまで膨らんでいく・・・!
 
洋子 「 こいつは【スライム】!!
 
「 ・・・・・・って、でかすぎるぞ!! 確か普通はもっと小さいもんじゃねーのか!?
洋子 「 なるほどな、この泉はスライムの住処やったんや。
  霊気が弱すぎてうちとしたことが気づけなかったわ。
「 最下級妖怪って話はどうなんだよ!!
洋子 「 さすが魔界のスライム、塵も積もればなんとやらやな。 とにかくまずは武器を・・・ハッ!!
 
ごぼっごぼぼぼっ!
洋子と茜の服や武器(神通棍・獣の笛)は、すでにスライムの体内に取り込まれていた!
2人の顔がさ―っと青くなる。
 
「 ちっ、もう囲まれてるぜ!
洋子 「 服もないし武器もない。 攻撃力・防御力共にゼロやな。
「 ゲームじゃねえんだ!!
  あんなデカいスライムに丸ごと包まれたら全身の皮膚が焼かれちまうぞ!!
洋子 「 確かスライムの弱点は“火”・・・
「 火なんてどこにあんだよ!! なんとかして所長に助けてもらわんと・・・!!
洋子 「 待ち!! それはダメや!
「 何でだよ!?
洋子 「 うちらすっぽんぽんなんやで!! 呼べるわけないやろ!!///
「 しゃーねえだろこの状況じゃ!! あたいだって恥ずかしいよ!!
  それにおめーさっき覗きOKみたいなこと言ってたろ!!
洋子 「 さっきはさっき、冗談にきまっとるやろ!
  けどこの騒ぎでこないってことは、寅吉マジで寝とるやろうし
  うちらに他に武器になるようなものは・・・!!
 
―――はっ!!―――
2人はお互いの耳につけている精霊石に注目した。
 
「 やるしかねえな!!
 
茜は自分の耳につけている精霊石を掴もうとすると―――
 
洋子 「 待ち!! 今使ったらいけん!!
「 何でだよ!?
洋子 「 そいつはハーピー戦の最後の切り札や!! こんなザコに使うことない!!
「 じゃどうするんだよ!!
洋子 「 こうするんや!!
 
どぼっ!
洋子はコブシに霊力をこめて、スライムを殴り飛ばした!!
 
「 魔理の得意技、霊気拳・・・!!
 
どごっ! どぼっ!
洋子 「 うちがスライムの体内にある武器を取り返す!!
  笛取り返したらすぐにスカベリンジャーを召喚するんや!! それまで逃げとき!!
「 取り返すって・・・・・・あ!! 危ねえ!!
洋子 「 !?
 
ばしゃあああっ!
スライムは縦に伸びると、洋子を覆うように倒れこんだ!
洋子はスライムの体内に取り込まれた!
 
「 ヨーコさん!!
 
茜は精霊石をつかむ!
 
「 四の五の言ってられねえ!! こうなりゃ精霊石を・・・えっ!?
 
ごぽっごぽっごぽっ
洋子はスライムの体内を泳ぎ、神通棍と獣の笛がある方へと向かっていた!
そして神通棍を掴むと―――
 
バシュンッ!!
 
―――神通棍に霊気を込めてパワーを放出させ、スライムを切り裂き、体内から飛び出した!
そして獣の笛を茜に投げた!
 
ビュッ
洋子 「 茜!! 召喚や!!
パシッ
「 まかせろ!!
 
すぐさま茜は獣の笛を吹き、魔鳥スカベリンジャーを召喚した!
スカベリンジャーは高速で飛びながら、洋子が切り刻んだスライムの破片を次々と喰っていく!
もともと霊力の低い妖怪のため、キマイラやケルベロスに比べ簡単に霊力を喰らうことができた。
数分後、スライムは跡形もなくなると、洋子は神通棍をおろした・・・
 
キンッ
「 よし、もうカケラも残ってないな。
小鳥さん ≪ ゲップ・・
「 サンキュー、もう帰っていいぞ。
小鳥さん ≪ ギャーゲゲー!!<フッ>
 
スカベリンジャーを送り帰した茜は、しゃがみこんでいた洋子のもとへ近づいた。
 
ばしゃばしゃばしゃっ
「 大丈夫か洋子さん! からだ赤いぜ!!
洋子 「 霊力放出しながら泳いで、ガードしてたんだけどな・・・
  なーに、軽い日焼けみたいなもんや。 2・3日はヒリヒリして風呂には入れんな。(笑)
「 ・・・・・・
 
軽い日焼け程度とはいえ、スライムの体内を普通に泳いでいた洋子。
茜の目には、この程度のリスクは彼女にとって当たりまえのように感じていた。
いくらザコ妖怪とはいえ、何も武器を持たない状態から巨大なスライムを倒したこと。
そしてここに来るまで、いつも先頭に立ってアクティブな戦いをしてきた洋子を見てきた彼女は、
その真の実力は、タイガー以上のものではないのかとさえ思いはじめていた。
 
洋子 「 あっちゃー 服少し溶けちゃってら。
  後で魔鈴さんとこから持ってきた予備の服に変えんといけんなー。
「 ??
 
茜は散らばった服を集めてる洋子を見ていたら、彼女の背中にあるものに気がついた。
それは右肩から斜めに降りるように、縦に30〜50センチの大きな爪跡が4本あったのだ。
その傷はひどく黒ずんで見えた―――
 
「 ・・・なあ、いま気づいたんだけど何だよその背中。
洋子 「 ん? ああ、昔ちょっと魔物にやられてな・・・男には見せられへん傷やろ。
「 あ、いや・・・
  ( それで所長を呼びたくなかったのか・・・
 
 
 
 
キランッ☆
 
ばさばさばさっ
スカベリンジャー ≪≪  ギャーギャギャーッ!!!  ≫≫
 
遠く離れた場所で、洋子たちの様子を見ていた1羽のスカベリンジャーが羽ばたいた。
 
 
 
 
 
■鳥族の城■
 
ルウ ≪ なに!? 人間がこの森の近くまで来ているだと!?
ばさばさっ
スカベリンジャー ≪ ゲーゲゲゲーッ!! ≫
 
タイガーたちを見つけたスカベリンジャーは、数時間後ハーピーのルウに報告していた。
このスカベリンジャーは茜が召喚した魔鈴に飼われていたものとは違い、
この魔界の森に住む鳥で、彼らは見張り役として森の周辺に配置された鳥達であった。
 
ルウ ≪ そうか明日には来そうか・・・ただ迷い込んだわけではないようだな・・・
  はっ! まさか魔鈴の所にいた奴らか?
  しかし人間ごときがここまで来れるとはとても思えん・・・・・・まあいいじゃん!
  なんとしても今、魔鈴めぐみを奪われるわけにはいかない!
  これはあたいらの未来に関わること!
  場合によってはそいつらを処刑する!! みんなは森の警護をするじゃん!!
 
ハーピー兵 ≪≪≪  はっ!!!  ≫≫≫
 
敬礼する若手のハーピー達。
とそこに、1人の女妖怪がハイヒールの音をならしてやってきた。
 
カッカッカッ‥
 
――― ≪ あらあら、ずいぶんと威勢がいいじゃない。
  あなたがリーダーになってたなんて、鳥族もかなり人材不足なのね。
ルウ ≪ むかっ! 誰じゃん!?
――― ≪ 久しぶりねルウ。 今は翼はないけど、私も一応鳥妖怪なのよ。
ルウ ≪ あなたは・・・・・・【セイレーン】様!!
セイレーン ≪ この海の鳥妖怪セイレーン、
  ガルーダ様の命により、人間界よりこの戦(いくさ)の助っ人に参りましたわ♪
 
 
 
■地下牢■
 
湖の中心にぽつんと浮かぶ島に建てられている城の地下・・・
数十センチもある石の壁と鉄のオリの中は、窓がないため明かりもほとんど射し込むことはない。
水面ギリギリの位置するこの場所には、どこからか水の揺らぐ音が聞こえてくる。
薄暗い地下牢の一室に彼女・・・一文字魔理が閉じ込められて1週間。
彼女は冷たい壁を背にして薄い毛布にくるまり、膝を抱えてじっとしていた。
彼女は目を細めて、時おり低い声でぼそっとつぶやいていた―――
 
「 ・・・・・・・・・・・・・・・さみーよ
 
ここに閉じこめられて数時間後、彼女は目をさました。
周囲は石の壁と鉄のオリ。
もちろん最初はオリにつかまり叫びまくっていた。
オリの数は10以上あるが、自分以外誰も閉じこめられている気配はない。
見張りのハーピー兵は1羽いるが、どこから仕入れたのかヘッドホンを耳にあて
ロック系の曲を聴きっぱなしであったため、まともにとりあってもくれない。
霊気拳で石の壁やオリを何度も壊そうとしたが壊れる気配はない。
オリから出ようといろいろ試みているうちに、疲れ、自力での脱出はムリだと判断したのである。
今はただじっと、脱出方法を考えながら助けがくるのを待っている状態であった―――
 
「 ・・・・・・・・・・・・・・・あいつらどうしてるだろー
 
昼か夜かもわからないような薄暗さが続く中、オリの中に1週間。
気丈な彼女もさすがに今回のこの状況にはまいっており、
寂しさや焦り、不安感といった精神面においての疲労も積み重なっていた。
そんな静寂の中、彼女のいるオリに近づく足音が聞こえてくる―――
 
ヒタッ ヒタッ ヒタッ ヒタッ‥‥
 
いつも食事を運んできてくれるハーピーとは違う、もっと別の足音だった。
彼女はじっとオリの外を見つめている―――
 
 
 
―――翌日、タイガーたちはハーピーの森にたどりついた―――
 
 
 
第12節・完

※この作品は、ヴァージニアさんによる C-WWW への投稿作品です。
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