とら! 第14節 白と黒の戦慄


   
ドクッ‥
なんジャこの気持ち・・・
 
ドクッ‥
・・・ワシは何をしたんだ・・・
 
ドクッ‥
なんでわしの手は血で染まっとる・・・頭が真っ白になりそうだ・・・
 
≪ 甘いな! ここは魔界、あたいらは魔族じゃん! ほしいものは「力」で奪うんだな! ≫
 
なぜこんなに憎い・・・ルウ・・・ハーピー族最強の戦士・・・
 
「 じゃあもう正式に決まりってことでいいんだな!?  ―――頼むぜ所長。 」
 
ワシ、魔理サンを助けに来たのに・・・なんで・・・
 
「 ・・・あんた、3日も待ってるワケよね。 助けに行く気はないワケ? 」
 
エミさん・・・懐かしいその旋律・・・
 
≪ 弱肉強食がここ(魔界)のルールだ。 己の種族は己の力で守らねばならん。 ≫
 
あんたに殺させはしない・・・もと上級魔族、鬼神ガルーダ・・・
 
「 人間界に帰ったら・・・みんなでまた・・・悪霊退治しような。 」
 
その背中の傷は・・・洋子サン、あんたはいったい・・・

リポート69 『再会』
■川の中流のほこら■
 
湖から流れる川を、数キロ下った所にある、小さなほこら・・・そこにタイガーは横たわっていた。
外はすでに真っ暗で、鳥たちも飛んでいる様子はなかった。
 
タイガー 「 うう・・・
ぬっ!
――― 《 あ、気がついただか? ―――!?―――
びくっ!
タイガー 「 のわっ!?
 
目の前にいた、怪物の顔に驚くタイガー。 タイガーの驚きように怪物も驚く。
 
びくっ!
――― 《 わっ、わしじゃ!!
はっ!
タイガー 「 あ・・・あんたは!? 異界の海で会った、半魚人サン!?
 
―――そう、その怪物はタイガーたちが旅立って2日目、異界の海で出会った半魚人だった。
となりには水色の長い髪と目が特徴的な、半魚人の奥さんである人魚・ナミコもいた。
 
ナミコ 《 起きがけにあんたの顔をみせられちゃ、誰だって驚くわよ。
  人間と会うときは人間に化けとかなきゃ。
タイガー 「 に 人魚のナミコサン!? あんたらなんでここに・・・!?
 
ナミコとダンナは、タイガーたちと別れたあと、半魚人や人魚の仲間に鳥族のことを聞いた。
そしてタイガーたちの身を心配して、彼らのいた海と、ここの川の下流の海に
通じる空間の歪みを、2人は教えてもらっていたのだ。
 
ナミコ(人魚) 《 あなたたちも本当に無茶するわね。 たった4・5人で鳥族とやりあうなんて。
  私達が水中に沈んでいくあなた達を助けなかったら、本当に死んでる所だったわよ。
タイガー 「 あ ありがとう・・・でもなんでワシを?
ナミコ 《 異界の海で“コンプレックス”をやっつけてくれたでしょ。
  それに私達は人に近い種族。 人間だって困ってる人を助けることは普通でしょ?
 
するとタイガーは深々と2人に頭を下げた。
 
タイガー 「 そうか、本当にありがとう・・・ところで、あかねサンや水樹サンはやっぱり・・・
 
ナミコとダンナは暗い顔をしながらお互いを見ると・・・
 
ナミコ 《 ・・・鳥族に捕まったわ。
ダンナ(半魚人) 《 残念だが、わしらだけの力じゃどうしようもないべ。
  わしらには水中でこっそり、あんたら2人を助けだすだけで精一杯だ。
タイガー 「 ふたり!? 洋子サンか!?
ダンナ 《 ヨーコというべか。 問題はその子だ。
 
ナミコのダンナは、後ろにかけてあった布をはいだ。
そこには上半身裸の洋子がうつ伏せになって眠っていた。 タイガーは目をそらす。
 
タイガー 「 な・・・何をするんジャ!!??///
ナミコ 《 違うわ。 この子の背中の傷を見て。
ちらっ
タイガー 「 え・・・?
 
洋子の背中は、ガルーダに受けた左肩からナナメに降りる4本の爪傷と、
右肩からナナメに降りる、昔負ったらしき4本の古い爪跡が残っており、
その新旧の傷は背中の中心でクロス(交差)していた。
ガルーダに負った爪傷からは出血が止まり、その傷に他にかわった所はないが、
右肩から斜めに降りた古い爪跡からのみ、黒いオーラのようなものがあふれていた。
 
タイガー 「 こ、これは・・・!?
ダンナ 《 このおなごは前にも魔族に傷を負わされたようだべ。 それもかなり強力な魔族にだ。 
  それがガルーダの爪傷が原因かどうかはわからんが、異様な魔力反応がおこっているんだべ。
タイガー 「 魔力反応?
ナミコ 《 以前受けたこの古傷の中に、その魔族の因子が含まれていたのよ。
タイガー 「 因子って、それじゃ・・・!!
 
ナミコは暗くつらそうな顔をすると―――
 
ナミコ 《 彼女、このままじゃ魔物になるわ。 この傷を負わせた魔族にね。
タイガー 「 魔物ってそんな・・・!
 
青ざめるタイガー。 思いあたるフシはあった。
旅の最初の夜、中学生の時に魔界にいたことがあったと言ったこと・・・
そのとき魔物に重傷を負わされたということを―――
 
ナミコ 《 とりあえず、人魚族の薬で傷の出血のほうはおさえたんだけど、
  早いとこ人間界に戻って、それなりの処置をとったほうがいいと思うわ。
  ガルーダに受けた傷も心配だしね。
タイガー 「 じゃが人間界に帰る方法は魔鈴さんしか・・・!
 
ザッ‥
出口に背を向けていたタイガーは、背後に人がいる気配を感じ後ろをふりかえった。
 
タイガー 「 ・・・なんでここに・・・!?
 
ほこらの外にいたのは、ハーピーに捕まってたはずの一文字魔理だった―――
 
魔理 「 タイガー・・・
タイガー 「 魔理サン!?
 
魔理は無表情でこちらに歩いてくると、少しずつ歩きが早くなり、そして―――
 
タイガー 「 魔理サ―――
魔理 「 来るのが遅いんだよ!! <パシンッ> 
タイガー 「 あだっ!
 
上半身だけ起こしたタイガーの頭を軽く叩いた。
 
魔理 「 助けにくるならもっと早くきやがれってんだ!
タイガー 「 す、すまん・・・!
 
タイガーは頭をおさえながら彼女を見上げた。
彼女は怒っていた顔をしていたが、泣くのをこらえているようにも見えた。
魔理はふうっと息を吹くと、ほほ笑みを浮かべて―――
 
魔理 「 ・・・ありがとな、来てくれると思ってたぜ。
タイガー 「 あ・・・ははっ、無事でなによりジャ! あーでもどうしてここに・・・?
 
 
タイガーたちがこの森に来る少し前のこと―――
ナミコと半魚人のダンナが、近海から川をさかのぼって湖を散策していたとき、
城に通じる洞窟らしきものを発見した。
2人が中に入っていくとそこは城の地下通路、地下牢の近くに繋がっている。
ナミコはそこで待機し、ダンナが地下牢の様子をうかがいにいったところ、
ヘッドホンを耳にあてた見張りのハーピー1羽と、オリに入れられている人間を見つけたのだ。
タイガーたちに魔理と魔鈴のことを聞いていたダンナは、この人間がどちらかの一人だと思う。
見張りのハーピーは音楽に熱中していたため、簡単に不意打ちで気絶させることができた。
そしてダンナは魔理を開放し、湖に繋がる穴からいっしょに逃げてきたのであった・・・
 
 
ダンナ 《 わしの顔見てあんまり驚かんかった人間は珍しかったなー。 大したおなごじゃ。
魔理 「 そりゃ半魚人さんがきたときには驚いたけどよー、まータイガーの顔で慣れてっからな♪
タイガー 「 ・・・そりゃどういう意味ジャ?(汗)
 
笑いながら言う魔理に、タイガーはちょっと目を細めて言った。
魔理の思わぬ発言に、微妙に傷ついたらしい。
 
魔理 「 冗談だよ。 ホントは何でもいいから牢から出たかったんだよ。
  やっぱあんなトコに何日もいるもんじゃねーよ、マジで気がめいるから・・・
 
魔理はオリに入っていたとき、少しだけ昔のことを思いだしていた。
中学生時代、不良といわれていた頃の自分を・・・
 
タイガー 「 ・・・スマン、魔理サンが連れていかれたあと、すぐ探しに行っておればもっと早く―――
魔理 「 いいって、それよりも問題は捕まったあかねたちと、魔鈴さん、そして洋子だ。
  だいたいあいつら魔鈴さんでいったいなにを・・・?
タイガー 「 ああ、それは―――
 
 
―――タイガーは鳥族の目的、これまでのことを魔理・ナミコ・ダンナに話した―――
 
 
ナミコ 《 ―――まず洋子さんを早く人間界に連れて帰るのが先決じゃない?
ダンナ 《 じゃがこの世界から出るには、魔鈴という魔女のの力を借りるしかない。
魔理 「 そういやあ、ジークフリードっていう魔族でも、人間界にいけるんじゃないのか?
タイガー 「 どうかノー、じゃったら水樹サンの他に、人間界から助っ人呼んでくれそうじゃが・・・
 
タイガーはふと、魔理の首につけていた、赤い宝石の入った首飾りに目がとまった。
確かハーピーに連れ去られたときには、首につけていなかったものだ。
 
タイガー 「 魔理サンその首飾りは・・・?
魔理 「 ん? ああ、魔鈴さんがお守りにくれたんだ。 
タイガー 「 ああそうか、どこかで見たなあーと思ったら・・・
 
魔理は魔鈴からもらった首飾りをさわりながら―――
 
魔理 「 とにかく魔鈴さんも、そのー不死の甘露ってヤツをつくる前に助けねえとな。
タイガー 「 ああ、そうじゃの・・・
 
タイガーは魔理の意見に賛同しながら、少し考えこんだ。 すると魔理が―――
 
魔理 「 どうした?
タイガー 「 いや、水樹サンにも聞いたんじゃが、ここのハーピーたちのことジャ。
  ワシらがここで戦ったハーピーはみな、ワシらでも充分戦える程度の
  若いハーピーばかりだったんジャ。
  実際かなりの数がやられとるみたいやし、もし魔鈴サンを助けたとして、
  ガルーダが衰弱死したらと考えると―――
 
タイガーはそこまで言うと、ナミコや魔理の視線に気がついた。
隣で、傷を負い倒れている洋子。
不死の甘露を作るため、監禁されてる魔鈴。
そして捕獲され、最悪の事態も想定されている、水樹・茜・ジーク・使い魔・・・
 
ジーッ‥
魔理 「 ・・・・・・。
 
特に1週間監禁されていた魔理にとっては、ハーピーたちに対して同情の予知なし
という思いが、その視線から伝わってきた―――
 
タイガー 「 あ、いや、もちろん魔鈴サンは助けにいくぞ、水樹サンたちもな!
 
あわててフォローするタイガー。
魔理も、敵に同情するタイガーのやさしさは知っているため、
厳しい視線を送る以上のことは何も言わなかった。
 
「「《《  ・・・・・・・・・・  》》」」
 
少し沈黙したあと、タイガーは立ち上がった。
 
タイガー 「 どっちにしても脱出するときはみんないっしょジャ!
  魔理サン、洋子サンを頼んます! ワシ、今からもう一度城に行ってくるケン。
魔理 「 え・・・!?
ダンナ 《 む、無茶だべ! あんたじゃあ、ガルーダどころかハーピーにも・・・!
 
タイガーはほこらの外に広がる、暗闇の空を見あげた。
 
タイガー 「 ・・・洋子サンも水樹サンもあかねサンも、ワシの大切な仲間であり、大切な所員ジャ。
  ワシは所長としても、仲間を危険な目にあわせた責任をとらんといかん。
  ワシに横島サンや雪之丞サン達ぐらいの力があれば・・・
 
・・・タイガーの拳に力が入る。
 
タイガー 「 ワシが不甲斐ないばっかりに・・・じゃから・・・
  土下座しても、靴底を舐めることになっても、ワシはガルーダに頼んでみるつもりジャ!
 
力では到底かなわない無念さが、タイガーの大きな後ろ姿をとおして伝わってくる・・・
ナミコとダンナが沈黙する中、魔理はタイガーに近づいて―――
 
魔理 「 もちろん私も行くぜ、今度は私がみんなを助ける番だ。
タイガー 「 魔理サン・・・
魔理 「 なにひとりできばってんだ、だれもおめえのせいだとは思っちゃいねえよ。
 
魔理はタイガーの背中を軽くたたくと、ナミコのほうを見て―――
 
魔理 「 ナミコさん、私とタイガーをもう一度城の地下まで送ってくれないか?
  あかねたちはたぶん、私が捕まってた地下牢にいると思う。
  そこでみんなを助けて・・・それから魔理さん救出に一直線だ!
ナミコ 《 そうね・・・鳥族はカナヅチだから、水中なら鳥族に見つからずに近づけるわね。
ダンナ 《 洋子サンはわしに任せといてくれ!
 
ナミコとダンナも快く了解する。
 
タイガー 「 ホントに何から何まで・・・ありがとう!
 
タイガーは心よりナミコたちに感謝し、頭を下げた。
 
魔界の空が徐々に明るくなる。 異世界の戦い、最後の日を迎えようとしていた―――
 
 
タイガー ( ガルーダ、待っておれ・・・みんなはこのワシが必ず救いだす・・・!
 
 
このあとナミコ特製の、水中でも呼吸可能な直径2メートルの気泡“人魚の気泡”に
包まれたタイガーと魔理は、水中を通り、湖の中心にある鳥族の城へと向かったのである。

リポート70 『ラストダンジョン』
[ 5月2日金曜日 ]
 
■鳥族の城 地下廊下■
 
湖の中心に浮かぶ、中世の城を思いださせるような大きな古城・・・
半魚人のダンナが魔理を助けだした水中の道を再び通り、
幅4・5メートル程度の長い石造りの廊下にやってきた。
タイガーたちが出たあと、人魚ナミコが半分身をのりだして2人を見送っていた。
 
ちゃぷ・・
ナミコ 《 本当に気をつけてね。 ここはもう敵陣の真っただ中なんだから。
タイガー 「 わかっとります、ナミコサンも気をつけてツカサイ。
  セイレーンが見回っとるかもしれんケエノ。
ナミコ 《 あら、カッコイイこというじゃない。
タイガー 「 え?
ナミコ 《 ちゃんとかわいいお姫サマたちを助けてくるのよ、王子サマ☆
タイガー 「 ちょ、ちょっと、何を言い出すんジャ! ワシはそんなガラじゃ・・・!///
 
ウィンクするナミコに、思わずタイガー照れる。 うしろでは魔理が目を細めていたり―――
 
ちゃぷんっ
ナミコ 《 うふふっ、じゃ、頑張ってねー☆
 
笑顔のまま、ナミコは再び水中に潜っていった。
 
魔理 「 さっさと地下牢にいくぞ、オウジサマ。 
タイガー 「 ま、魔理サン・・・!(汗)
 
こうして敵陣の本拠地に潜入したタイガー。 だが・・・
 
ハーピー兵 ≪ なんだお前たちは!?
ハーピー兵 ≪ みんなー!! ここに人間がいるぞー!!
 
潜入早々、いきなり2羽のハーピー兵に見つかってしまった!
 
魔理 「 どうする!? 地下牢はこの先だぜ!!
タイガー 「 なるべくなら戦わんと水樹サンたちを連れだしたい!
  2羽なら短時間で、ワシの幻覚で眠らせれるからなんとか―――
 
タイガーが攻撃しようとする間もなく、すでにハーピー兵の後ろにはハーピーの増援と、
ハーピーたちの番犬として飼われていた、グレムリン4・5体の姿がすでに見えていた!
ハーピー兵の呼び声で、さら多くの仲間が近づく音が聞こえてくる!
 
魔理 「 うわっ、増えた!?
タイガー 「 魔理サンここはひとまず退散ジャ! ジャングルフィールド!!
 
タイガーは昨日ハーピーたちに対して森で使ったのと同じように、
ジャングルの幻覚を魅せて自分たちの姿を見えないよう幻惑させた!
 
タイガー 「 魔理サンこっちジャ!
魔理 「 おい、地下牢はあっちだぞ!
タイガー 「 この狭い通路で、ハーピーやグレムリンのいる横をすり抜けるのは
  気づかれる可能性が高い! とりあえずこっちジャ!
 
2人は地下牢に向かう通路とは反対の通路に走っていった。
50メートル先でT字路になっている所を左に曲がると、左側に部屋がいくつかある。
 
タイガー 「 魔理サンここに隠れよう!
 
2人はその中の一室に駆けこんだ。
 
 
【鳥族の城B2F 簡易マップ】
 
↑(この先まだ続く道あり)
■                ○←湖に通じる床の穴
■                ■
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■凾a1へ
■                               ■
■                               ↓地下牢
■ ■空き部屋
■ ■空き部屋(物置?)
↓(この先まだ続く道あり)
 
 
かちゃっ‥‥
 
扉を開けると、暗くせまい部屋に物置のように雑然と置かれたものの数々―――
その片隅に、人が充分入れそうな木製の箱が3つあった。
 
タイガー 『 とりあえずここに隠れよう!
魔理 『 隠れるってこれカンオケ・・・しゃあねえ!
 
迷ってるヒマはなかった。 魔理は箱のフタを開け中に入る。
・・・だがタイガーは、隣やその隣の箱を開けようとするが
釘か何かでフタが固定されてるらしく、あけることができないでいた。
その重さから、中には何かが入っているように感じられる。
 
魔理 『 なにしてんだよ!
タイガー 『 開かんのジャ! もしかして死体が―――
魔理 『 こっちこい!
 
魔理はタイガーの手を取り、自分がはいってた箱のほうに引き寄せた。
タイガーを先にいれ、自分は上に乗る形で箱を閉めようとするが、タイガーの体は
普通の人の2・3倍あるため、かなりの密着しないと入れない。
・・・だがハーピーやグレムリンたちの足音が聞こえてくる今、2人ともそんなことを
気にしてる場合ではなく、お互いスペースを取りあってなんとかフタを閉めるのに成功させた。
 
タイガー・魔理 「「 ・・・・・・・・・。
ドタドタドタ
ハーピー兵 ≪≪ ――――――!
 
部屋の外では、あわただしくハーピーたちが自分たちを探している気配がうかがえた。
バタンッ! ・・・・・・バタンッ!
いきなり部屋の扉が開けられる音が聞こえたが、パッと見て部屋に誰もいないことを
確認したと思われるハーピー兵は、扉を閉めてほかの部屋を探しにいったようだ。
2人は息を潜め、静かにハーピーたちが離れるのを待った―――
 
魔理 『 ・・・・・・・・・・・・行ったかな?
タイガー 『 いや、まだその辺をウロチョロしとるようジャ。 もう少しここに隠れて―――
 
とりあえず敵の目から逃れたタイガーは、少し安心するとこの状況のほうが気になりだしていた。
中はかなり狭いため、お互い密着しすぎて動くに動けない。
さらにタイガーが寝そべっている上に、魔理がうつ伏せて乗っているような体勢であるため、
彼女の温もりが服を通して直接伝わってくるのだ。
 
タイガー ( ・・・い、いかん! 髪の匂いが・・胸の感触が・・フトモモが足の間に・・・!///
 
彼がここまで女性に密着されたこと、抱きつかれたことは滅多にない。
彼は自分の胸の上に頭を乗せている魔理に、心臓の音が聞こえやしないかと、
必死にドキドキ感をこらえていた。
 
魔理 ―――!?―――
 
しかし、タイガーの鼻息が荒くなってきたことを感じた魔理は―――
 
魔理 『 こら! おめえなに考えてんだ!?///
タイガー 『 しょうがないじゃろ!? ワシだってオトコじゃぞ!///
 
箱の中は真っ暗でほとんど顔色をうかがうことはできないが、
お互い顔が真っ赤になっているであろうことは2人ともわかっていた。
タイガーは体勢を変えようと少しずつ動こうとするが―――
 
魔理 『 いいからじっとしてろ、あいつら音に敏感なんだろ?
  ヘタに音だして気づかれたら、一発で終わりなんだしよ。
タイガー 『 あ ああ・・・
 
彼女は彼の胸に耳をあてた状態で下を向き、顔を見られないよう呟くように言った。
 
魔理 『 こんなときにニヤついてんじゃねえ、ドキドキすんな・・・
タイガー 『 す、スマン・・・
 
彼は真面目に落ち込んでいたが、彼女は自分自身に言い聞かせる想いもあったのだろう。
彼女も心臓の鼓動を、彼に悟られぬよう必死に動揺を抑えていた。
 
魔理 『 ・・・・・・
タイガー 『 ・・・・・・
魔理 『 タイガー・・・
タイガー 『 なんジャ?
魔理 『 人間界に帰ったらさー、みんなでどっか遊びにいこうぜ。
タイガー 『 ・・・いいかもしれんノー。
魔理 『 海とか山とかでぱーっと遊びたいなー。
タイガー 『 そうじゃの・・・2・3日ぐらい休んで所員旅行もいいかもな。
魔理 『 その前にラーメン食いたいなあー、寿司とかカレーとか・・・
タイガー 『 アハハ、ワシがおごっちゃるケン。
魔理 『 約束だぜ。
タイガー 『 ああ・・・
魔理 『 ・・・・・・
タイガー 『 ・・・・・・
 
魔理はなぜ、このときこんな話をしてしまったのか、自分にもわからなかった。
黙ってじっとしてる空気に耐えられなかったのか、
それとも明るい未来を約束せずにはいられなかったのか・・・
彼女は心の奥底で、本当にみんな無事に元の世界へ帰れるのか、不安だったのかもしれない。
 
がちゃっ―――とそのとき、部屋の扉が再び開く音がした。
タイガーと魔理は息をひそめた―――
 
ハーピー兵 ≪ やっぱりいないなー、どこいったんだあの人間?
ハーピー兵 ≪ ルウ隊長やガルーダ様には報告したんだろ?
ハーピー兵 ≪ ああ、ルウ様、トラ男と目隠し女にやられたこと気にしてた。
  ルウ様がここに帰ってきて、一度もあんな負け方したことがなかったからなあ。
 
タイガーと洋子のことだと魔理にはわかった。
 
ハーピー兵 ≪ そういやルウ様ってさ、この間まで人間界で暗殺者(アサシン)やってたって知ってるか?
ハーピー兵 ≪ あ、聞いたことある。 2・3年前まで、人間の親子を狙ってたとか・・・
  でもウワサじゃあ2度も負けて、2度とも封じられたって聞いたよ。
ハーピー兵 ≪ ・・・ニンゲンって結構あなどれないかもな。
ハーピー兵 ≪ ああ・・・
 
部屋の扉を開けたまま、そんな立ち話をするハーピーたち。
そこに聞き覚えのある声が聞こえてきた―――
 
ルウ ≪ お前たち何をしている? 人間の散策はどうした?
ハーピー兵 ≪ あ、すみません隊長! すぐに探します!
魔理・タイガー (( あのハーピーだ(ジャ)!
 
ルウの横をすり抜け、あわててタイガーたちを探しにいこうとするハーピー兵たちだが・・・
 
ルウ ≪ 待て。
ハーピー兵 ≪ え?
 
ルウはハーピー兵を呼びとめ、つかつかとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
タイガーと魔理はさらに息を潜め、からだを硬直させる。
 
ルウ ≪ ・・・・・・。
 
そしてしばらくの間、ハーピーたちの声が聞こえなくなったかと思えば―――
 
ズザッ!
 
なにかを槍で貫く音が聞こえてきた。
 
ズザッ!!
 
さらに音が近づいてきた!
 
魔理 ( まさか槍でカンオケに突き刺しているのか!?
タイガー ( イカン! 確かカンオケは3つ! このままじゃ次はここを突かれてしまう!
 
リズム的に、ここを突かれてもおかしくない短い間隔で突き刺していたようだが、
なぜか2人が入っているカンオケには、突き刺される気配はなかった。
 
タイガー 『 ・・・・・・?
 
ダンダンダンダンダンダンッ!  ―――!?―――
 
静かになったかと思えば、いきなりカンオケのフタを叩きつけるような音が聞こえてきた!
そのあとガタゴトっとカンオケが揺さぶられると―――
 
タイガー ( な、なんジャ!?
魔理 ( これってひょっとして―――
 
ルウ ≪ よし運べ、最上階にいるガルーダ様のところに持っていくじゃん!
ハーピー兵 ≪≪  はっ!!
 
―――タイガーと魔理が入ったカンオケは、周囲をクギで打ち付けられ、
その上ロープで固く結ばれているので、ちょっとやそっとでは中から出てこられそうにない。
そのカンオケをハーピー兵4羽が持ちあげていた。
ルウはカンオケに近づくと―――
 
ルウ ≪ フッ! それで隠れたつもりか?
  貴様の幻覚にも惑わされなかったこのあたいが、ただ箱に隠れただけの状態で見逃すと思ったか?
タイガー 『 ・・・・・・!(汗)
 
―――完全にバレていた。
 
ルウ ≪ キサマらの処遇はガルーダ様の指示をあおいでから決める。
  指示次第ではトラ男、貴様はあたいのこの手で始末してやるじゃん!
  ・・・フッ、カンオケを準備する手間もはぶけたしな、楽しみじゃん! 
 
ニヤッと笑うルウ。
 
タイガー ( ガルーダの所か・・・交渉のチャンスかも・・・
 
前向きに考えようとするタイガーだったが、彼はひとつ、ため息をつくと―――
 
タイガー ( ・・・じゃがこんなにあっさり捕まるとは、ワシってつくづく運がないノー・・・
  エミさんや横島サンのようにはいかんもんじゃノー・・・
魔理 ( ・・・・・・。
 
タイガーのラストダンジョン攻略は、一戦も交えることなく、わずか15分で終結した。(汗)

リポート71 『負けられない戦い』
■地下牢■
 
牢屋の中には水樹・茜・使い魔の黒猫、魔族ジークフリードがおり、
そしてそのジークフリードが目を覚ました。
 
ジーク 《 ・・・・・うぅ・・・ここは・・・?
 
水樹はジークの顔を覗きこんだ。
 
水樹 「 あ! 気がつきましたか、ジークフリードさん!
ジーク 《 水樹さん・・・そうか、私はハーピーたちにやられて・・・
 
奥のほうで水樹がジークの手当てをする中、外が騒がしいことに気づいた茜は
オリにつかまり耳を済ませて、ハーピー兵たちの会話を聞いていた。
 
「 ―――! おい、ハーピーたち、人間を2人捕まえてガルーダのトコに
  連れてったって言ってるぞ!!
―――!!―――
水樹 「 2人って・・・まさかタイガーさんと御剣さん!?
黒猫 《 ひょっとして魔鈴ちゃんかニャ?
水樹 「 一文字さんってこともありうるわ・・・
「 ちくしょう・・・ここから出る方法はないのかよ・・・!
 
悔しそうな顔をする茜。 するとジークが―――
 
ジーク 《 ありますよ。
水樹・茜 「「  エッ!?
 
ジークはベルトの裏に隠していた、1本のカギを取りだした。
 
ジーク 《 魔界軍専用の特殊マスターキーです。
  魔界のこの手のオリは、大抵このカギで開けることができます。
「 お、やるじゃねーかおめえ!
ジーク 《 魔鈴さんたちが捕まっていると知れば、その扉を開くアイテムが必要ですからね。
  いきましょう、魔鈴さんを助けに!!
 
 
 
■鳥族の城 最上階■
 
タイガーと魔理はカンオケに入ったまま、城の最上階に連れてこられた。
そこには、曇った空の下で、優雅にジュースを飲みながら本を読んでるガルーダと、
城壁の上でハーブを奏(かな)でるセイレーンがいた。
 
タイガー・魔理 ガコンッ! 「「 のわっ!!
 
ハーピー兵は少し乱暴気味に、カンオケを床に置いた。
 
魔理 「 このヤロー、もっとそっとおろせ!
タイガー 「 ううう・・ 背中にモロ衝撃が・・・!
 
下にいるタイガーのほうがダメージが大きかったりするが、それとは関係なしに
カンオケの外ではルウがガルーダに敬礼していた―――
 
びしっ
ルウ ≪ ボス!! 昨日の侵入者を城内で捕えました!
ギロッ‥
ガルーダ ≪ そんなザコにいちいち報告しにこんでいい。 お前にまかせる!
ルウ ≪ あ・・・はい!!
 
ガルーダはちらりとルウを見ると、再び本を読みだした。
ちなみにその本は、安奈みらの名作、
「聖美女神宮寺シリーズ@ 禁断の悪霊高原殺人事件」だったりする。
どうやらガルーダは彼女のファンらしい。
 
セイレーン ≪ だめよルウ、読書中は。
  ガルーダ様は、趣味の読書を邪魔されるのがいちばん嫌いなんだから。
ルウ ≪ あ、そうだったじゃん・・・(汗)
  それじゃあこのカンオケの処分は、あたいにおまかせを―――
タイガー 「「 ガルーダ!! 魔鈴さんやみんなに会わしてクレ!!
  仲間を1人、どうしてもすぐに人間界に連れて帰りたいんジャ!!
 
突然、カンオケの中からタイガーが叫びだした。 ガルーダはカンオケをにらむ。
 
タイガー 「「 そのあと不老不死の薬でも何でも作ってもらったらええ!!
  ワシらはもうあんたたちと争う気はないケン、頼むから仲間に―――
カッ
ガルーダ ≪ うるさい!! そのカンオケをさっさと処分しろ!!
ルウ ≪ は、はいっ!!
 
ドガッ! ルウはカンオケをけると―――
 
ルウ ≪ 黙れ人間! はやく運べ、下で処分するぞ。
ハーピー兵 ≪≪  はっ!!
 
フッ‥―――とそのとき、カンオケの上にタイガーの姿が浮かんできた。
 
ハーピー兵 ≪ フタはあけていないのにどうやって・・・!?
ルウ ≪ あわてるな! これはヤツの幻覚じゃん!
 
タイガーは、自分の姿が見えないから言葉に説得力がないと思い、自分の幻覚を魅せたのだ。
そして幻覚のタイガーは、カンオケの中で身動き取れない自分に変わり、ガルーダに懇願する。
 
タイガー 「 頼むガルーダ!! あんたにも仲間を守りたい気持ちがあるんじゃろ!?
  ワシら人間だって同じジャ!! あんたほど強力で長い時を生き続けた鬼神が
  人間の気持ちぐらいわからんはずないじゃろ!!
 
力説する幻覚のタイガー。
ガルーダも本から目をそらし、タイガーの言葉に耳をかたむけていた。
 
タイガー 「 あんたら魔族にとってはワシら人間・・ いや、ワシは確かに弱い存在ジャ・・
  じゃがワシらだって仲間を・・ 命をかけても大切な仲間を助けたい!!
  だからワシらは危険を冒して、ここまで長い旅をしてきたんジャ!!
  そう・・・魔理サンと魔鈴サン、たった2人の仲間が心配だったからだ!!!!!
 
カンオケの中のタイガーは、無意識に魔理の腰に手をあて、強く抱きしめていた。
魔理はなにも言わず、だまってタイガーの言葉を聞いている。
 
タイガー 「 今はその心配の数も増えた・・・
  洋子サン水樹サンあかねサン黒猫・・・そして魔族のジークさん・・・
  いまはみんな、あんたがワシらの命を握っとる。
  助けたいが、ワシの力じゃあどう逆立ちしても、あんたに勝てんことぐらいわかっとる。
 
バッ! 幻覚のタイガーは、床にひざをつき、頭を下げた。
 
タイガー 「 だからお願いする!!
  あんたの言うことはなんでも聞こう!! 奴隷になってもかまわん!!
  じゃから、みんなを無事に人間界へ帰してやってくれ!! 頼む!!
 
土下座する幻覚のタイガー。
黙って聞いていたガルーダが、しばらくして口を開いた。
 
ガルーダ ≪ ・・・おまえの言いたいことはわかった。 だが私は鳥族の王だ。
  そう簡単に自分の命令を覆(くつがえ)すわけにはいかん。
  昨日の戦いで、私の部下たちもかなり負傷者がでたことだしな。
  おまえたちのせいで私たちの戦力も、幾分削られてしまったのだ。
 
タイガー ( ダメか・・・!!
 
ガルーダ ≪ ・・・だがおまえの勇気に免じて、1度だけチャンスを与えよう。
  魔界のルールでならな。
タイガー 「 ほ、ほんとか!?
 
ガルーダは立ち上がり、ルウに向けて指をさすと―――
 
ガルーダ ≪ 我が鳥族ナンバー2の実力を持つ、ハーピー族最強の戦士、ルウと戦え。
  勝利すればお前の望み、叶えてやろう。
 
その発言に驚く、ルウとセイレーン。
 
ルウ ≪ えっ・・・!?
ギロッ
ガルーダ ≪ ルウ・・・勝てぬというのか?
ルウ ≪ そんなことないけど、ちょっと意外で・・・
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・私にも気まぐれというものがある。
  私はウソはつかん。 ニンゲン、おまえはどうする?
タイガー 「 他に選択の余地はないんじゃろ。
にやっ‥
ガルーダ ≪ その通りだ。
タイガー 「 ・・・わかった、その勝負受けた!
 
 
そしてハーピーたちの手により、カンオケのフタが開けられた。
魔理はすぐにハーピーたちに取り押さえられ、タイガーはルウと目をあわした。
 
 
ルウ ≪ フッ! どのみちキサマは、あたいの手で葬りたかったところじゃん!
  八つ裂きにしてやるよ。
タイガー 「 ・・・・・・
魔理 「 タイガー!
タイガー 「 待っててくれ魔理サン、これが最後のチャンスじゃから・・・
 
タイガーとルウは、城の最上階の中心で向かい合う。
2人の間には、マイクを持ったセイレーンが立っている。
 
セイレーン ≪ ルールは簡単! 相手を戦闘不能にすること! それだけよ!
 
ルウ ≪ フッ! 無謀にもほどがあるじゃん!
タイガー ( コイツの実力は承知済みジャ・・・近接戦は多分ない。
  ハーピーの恐ろしさは、機動力と遠距離からの狙撃能力!
  魔鈴さんが負けるほどの相手ジャ、全力でいかんとやられる・・・!
 
セイレーン ≪ はじめっ!!
 
 
ルウ・タイガー ≪ フッ!    ―――消えた!?――― 
 
バキィーッ!
タイガー 「「「  グアッ!!
 
ルウは猛スピードでタイガーを殴りつけた!
そして連続でパンチを繰りだし、タイガーは両腕でかろうじてカバーしていた!
 
ズダダダッ バキッ ドゴドゴッ!
 
ルウ ≪ フハハハッ! ムダにでかいだけに、的にあたりやすいじゃん!
 
ドゴッ ズダダッ ドゴゴッ!
 
タイガー ( こ、こいつ魔鈴サンと戦った時より強い! それに接近戦も相当できる!!
ばっ!
ルウ ≪ これで終わりじゃん!  サマーソルト・ハーピーキーック!!!!!
 
グルンッ ズガッ!
 
タイガー 「「「  ぐはっ!!!!!
 
ルウの回転蹴りがタイガーの顎(あご)に命中する!
ピートの“オーバーヘッド・バンパイアキック”の逆回転の技である。
ルウは逆さで止まったまま、余裕の表情をして浮かんでいた。
 
ルウ ≪ フッ! やっぱりザコじゃん!
 
ザッ‥ タイガーは倒れそうになる所を踏みとどまると・・・!
 
ゴオオッ!!
タイガー・ルウ 「「「  咆哮波!!  ≪ ―――よっと!
 
タイガー、黄色い毛並みのトラ男と化して、口から霊気の弾丸を放つ!
―――が、しかし、ルウは軽々とかわした。
 
タイガー 「 うぐっ・・・!
ルウ ≪ 話にならないじゃん!
 
タイガー思わずひざをついてしまう。
 
魔理 「 タイガー!!
セイレーン ≪ あらら、もう終わりかしら? 実力の差は明らかよね。
 
はあっ はあっ はあっ はあっ・・・
タイガー ( つ 強すぎる! ワシが今まで単独で戦った中で、ダントツの強さジャ!
  やっぱり並のハーピーとはケタが違う・・・
  じゃが負けるわけにはいかん! ワシらにはもうあとはないんジャ!!
 
タイガーは、空中で止まっているルウをにらみつけた。
 
魔理 「 なんでハーピーが接近戦にあんなに強いんだよ!?
セイレーン ≪ ルウはね、人間界で執行していた任務を失敗したあと、
  接近戦にも対応できるよう、ここの隊長を務めながら鍛えていたみたいよ。
  でもまあこの調子じゃあ、たとえ人間界で戦ってもルウが勝ってたでしょうね。
 
――― ! ―――
魔理 ( そうか、たしか魔界じゃ魔族はパワーアップするって・・・
  魔鈴さんの世界で、空を飛べる魔鈴さんがかなわなかった相手にタイガーが・・・
 
魔理はそこまで考えると、頭を降って考えていたことを消そうとした。
 
魔理 ( 縁起でもねえ! あいつはきっと勝ってくれるさ・・・
  GS試験もエミさんの試験も、除霊でも失敗することあるけどよ・・・
  でも、がんばっているヤツが負けるなんて、そんなの理不尽じゃねーか!!
 
魔理の手を強く握りしめた―――
 
魔理 「 タイガーがんばれ―――!!!!!
 
魔理の力強い応援と共に、タイガーは悪魔グラヴィトンの幻覚を魅せる!
 
ガアアアァァッ!!!!!
タイガー 「「  幻惑精神感応重力攻撃!!!!!
 
ルウ ≪ そんな幻覚、このあたいには・・・・<ズンッ> なに!? 重い!!
 
2人の戦いを見守るガルーダは・・・
 
ガルーダ ≪ 強力な精神感応者の幻覚は、たとえそれが幻覚だとわかっていても、
  現実と同じように魅せることができる。
  フオフオフオ・・・だが、はたしてルウ相手にどこまでもつかな?
 
ばさばさばさばさっ!
ルウ ≪ この程度の重力攻撃で飛べないあたいじゃないじゃん! あたいの爪でもくらいな!!
タイガー 「 はあっ!!
 
キィィィィンッ!
ルウ ≪ なに!?
 
タイガー版霊気剣、“虎の爪”を放出させ、ルウの足の爪を受け止めた! そして―――
 
タイガー 「「「  咆哮波!!!!
ルウ ≪ ちっ!!
 
タイガーの霊気弾をまたもかわすルウ! それを見たセイレーンとガルーダは・・・
 
セイレーン ≪ へえ〜、精神感応力だけはたいしたものね。
  さすがのルウも、何割か幻覚攻撃を受けてるみたいだし。
ガルーダ ≪ だがあれだけ無茶な霊力の使い方をしていれば長くはもたん、よくてあと1分だろう。
魔理 「 タイガー・・・
 
はあっ はあっ はあっ・・・
タイガー ( ぜ・・・絶対負けられん!
  負けとうない・・・ワシは絶対に勝たんといけんのジャ!
  魔理サンが、洋子サンが、みんなの運命がこの一戦にかかっとる!
 
タイガーはコブシを強く握り、ルウを見つめた―――
 
タイガー ( ―――勝つためならワシは・・・一匹の虎(ケモノ)になる!!
 
 
 
■川の中流のほこら■
 
洋子 「 なんやて!? 寅吉と魔理が鳥族の城に!?
 
ガルーダにより、背中に深い傷を負った洋子。
彼女は目を覚ましたあと、事の次第を半魚人に聞いていた。 そして立ち上がると―――
 
洋子 「 ・・・うちも行く!
ダンナ 《 ま、待ってケレ! あんた今、自分がどんな状態かわかっとるんか?
ピリッ‥‥パリッ‥‥
洋子 「 ・・・なんとなくな、気いぬくと背中のなにかが暴れそうや。
 
洋子は人魚と半魚人の手当てにより、包帯で肩から腰にかけて上半身ぐるぐる巻きに巻かれていた。
その背中は血でにじんでおり、時折黒いオーラのようなものがあふれていた。
 
洋子 「 寅吉たちがやられたら、うちらは完全に負けてしまう・・・
  それにこのまま寝とっても意味がない、うちの背中の暴走も時間の問題や。
ダンナ 《 じゃが・・・
洋子 「 頼む・・・うちを城まで送ってくれ。
  どうせ暴走するなら、うちはガルーダと刺し違えるつもりや。 ・・・頼む。
ダンナ 《 ・・・・・・・・。
 
洋子の真剣な瞳に、半魚人は彼女の意思を否定することはできなかった―――

リポート72 『縁の記憶』
■鳥族の城 最上階■
 
タイガーは、ハーピー最強の戦士、ルウを倒せば仲間を解放してくれるという
ガルーダとの約束を信じて戦っていた。
しかし、ルウはあまりに強く、タイガー(トラ男状態)は、
彼女にほとんどダメージを与えることなく、倒れる寸前にまで追い込まれていた。
ガルーダとセイレーン、魔理と4羽のハーピー兵がその戦いの様子を見守っている。
 
バッ!
ルウ ≪ どどめだ!! 必殺!! 羽根の弾丸(フェザー・ブレッド)!!!!!
 
ズガアッ!
タイガー 「「「  グッ!!
 
羽根がタイガーの肩をかすめ、肩から鮮血が噴きだした! タイガーは肩をおさえる。
 
ルウ ≪ フッ! 少しは出来るようだけど、これまでのようじゃん!
  得意の幻覚攻撃も、このあたいには通用しない!
タイガー 「 はあっはあっ・・・本当にそうかノー・・・
ぴくっ
ルウ ≪ なに・・・?
タイガー 「 精神感応者にもいろいろおってノー、
  ワシの特技は幻覚・心理攻撃だけじゃない。 ・・・“精神攻撃”もできるんジャ。
ルウ ≪ ・・・? どういうことじゃん!?
 
魔理はいつの間にか、言葉に出しての応援はやめていた。
よく見ると、顔が青ざめ、無意識のうちに体が震えていた・・・
 
ゾクッ‥
魔理 ( なんだっていうんだよこの感じは・・・
 
トラ顔のタイガーは、目を見開き、ルウの目をまっすぐ見つめ続けた。
そして呼吸を整え、精神を集中させた―――
 
 
カッ!
タイガー 「「「  実際に受けるがええ!! 精神の“破壊”攻撃!!!!!
 
―――!!??―――
 
ばちばちばちばちっ!!!!!
ルウ ≪≪≪  グアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!
 
 
ルウは突然頭をかかえこみ、床に倒れこむ!
そして苦痛に顔を歪め、床の上を転がっていた!
 
セイレーン ≪ なんなのいったい!?
ガルーダ ≪ 精神感応の一種だ。 自分の精神と相手の精神を繋げた上、
  その精神そのものを強制的に混合させようとしているのだ。
 
ガルーダは冷静に状況を分析する。
 
セイレーン ≪ 混合!?
ガルーダ ≪ 相手の心や記憶を読みとれる専門のサイコメトラーであれば、
  なんの苦痛もなく、相手の心を読みとることができる。
  だがそうでない精神感応者が、相手の深層心理の記憶まで知ろうとした場合、
  お互いの意識が流れがコントロールできず、無理矢理まぜかえす結果となるのだ。
  ときには脳の細胞すら変質させてしまうほどにな・・・
 
ガルーダは同時に、タイガーも無事ではすまないことを予感した。
 
ガルーダ ≪ あれは相手の精神を破壊すると共に、自分の精神も壊しかねない、捨て身技だ。
 
ガルーダの言葉を聞いた魔理は、不安感がさらに増してきていた。
魔理の霊感が・・・このままでは取り返しのつかないことになるんじゃないかと―――
 
パッ‥
 
魔理 「 タイガー・・・!?
 
魔理は、トラ顔のタイガーの黄色い毛並みが、先ほどより薄くなってるように感じた。
これは彼の幻覚なのか・・・魔理はどう声をかけようか少し戸惑っている。
 
ばちばちばちばち・・
タイガー ( クッ・・・ハーピーの意識が逆流しそうジャ!
  いままで人には危険じゃから使ったことないし・・・
  ・・・クッ、じゃがワシは耐えてみせる! 今度ばっかりは!!
 
トラ顔のせいか、苦痛の表情は一見みられない。
しかしタイガーにもルウの精神が流れ込んでいるため、実際にはルウと同じぐらい
脳にダメージを受けていた。
彼の場合、自分で自分の首を絞めているのを必死で耐えているのと、同じ状態なのである。
 
 
フッ‥!        フッ‥!
―――!!―――  ―――!!―――
 
 
―――――一瞬、混じりあう精神・・・刹那、心が繋がった―――――
 
 
 
 
ルウが見た光景―――それは無残にも積み上げられた、数十の傷ついたハーピーの山。
 
ルウ ≪ なんてことを・・・! キサマ・・・!
 
ルウの憎しみの感情がタイガーに流れこむ。
その頂上には、1体の女性魔族が彼女たちを踏みつけていた―――
 
メドーサ ≪ あたしは女蜴叉(メドーサ)!! ここのボス、ガルーダってヤツはいるかい!?
ガルーダ ≪ ・・・私だ。
 
ルウの後ろから、ガルーダが現れる。
 
メドーサ ≪ 一戦願おうか。
ガルーダ ≪ ・・・よかろう、我が愛する同胞を傷つけた痛みを思い知れ!!
 
 
―――上級魔族同士の戦い、そして両者とも“超加速”の使い手。
ほかのハーピーたちは、空中で繰り広げられるケタ違いのレベルの戦いに圧倒されていた。
そして―――
 
 
ガルーダ ≪≪  グオッ!!!!!
 
メドーサの二又の矛がガルーダの胸を貫いた!
 
ガルーダ ≪ ムダだ。 私は不死身だ。
メドーサ ≪ 知ってるさ、ヴィシュヌに不死にしてもらったんだってな。 でもこういうのはどうだい?
 
メドーサの髪の一部が【大口の怪物=ビッグ・イーター】と変化し、
ガルーダの腹部に噛み付くと、その肉体ごとむしりとった!
するとガルーダの腹部が徐々に石化していく・・・
 
ガルーダ ≪ バカな、不死のこの体が石化など・・・まさか!
メドーサ ≪ そうさ、あんたの中の不死の甘露、あたしの能力で石に変えてやったのさ。
  ついでにあんたの霊体片も頂いたことだし・・・かなり霊力が落ちたみたいだねえ。
 
楽しそうに笑うメドーサ。 ガルーダは敗北を認めると―――
 
ガルーダ ≪ ・・・何が望みだ。
メドーサ ≪ イキのいいスナイパー、暗殺者をスカウトに来た。 ここで一番腕のいい狙撃手は誰だ?
 
ガルーダは、視線を1羽の大柄な短髪のハーピーに目を向けた。
するとそのハーピーが、素早くガルーダのもとにやってくる。
 
ガルーダ ≪ レイホウだ。 全ハーピー兵の総隊長をつとめている。
レイホウ ≪ ・・・レイホウです。
 
レイホウはじっとメドーサを睨みつけた。
鳥族最強の魔族、主君ガルーダを倒してしまうほど強力な魔族を
はじめて目の前にして、彼女の額にひとすじの汗が流れる・・・
メドーサもレイホウを観察していたそのとき―――
 
 
ルウ ≪≪  フェザー・ブレッド!!!!!
 
 
ルウは空中からメドーサに向けて羽根を投げつけた!
メドーサは瞬時にかわし、ルウの背後にまわると―――
 
ズガッ!! ドゴッ!
ルウを地面に蹴り飛ばした! 背中から地面に叩きつけられ、意識が一瞬遠のく。
何とか立ち上がろうとし、よつんばいになると、目の前にメドーサが下りてきて、彼女を見下ろした。
意識を失いかけてたルウは、負けじとメドーサを睨みつけた・・・
 
メドーサ ≪ ・・・いい魔族の目だ、名は?
ルウ ≪ ・・・キサマに・・名乗る名前は・・・ない・・・じゃん・・・
 
絶対殺してやる・・・強敵を目の前にして、彼女から逃げの感情は一切伝わってこなかった。
メドーサはルウの首をつかみ上げた。
 
メドーサ ≪ いいだろう、こいつをもらっていくよ。
 
メドーサのその言葉を聞きながら、ルウは意識を失った―――
 
 
 
―――そしてあたいは、メドーサが仕える魔神アシュタロス様の下、
人間界で時間移動能力者の抹殺を命じられた・・・
はじめはあんりやる気しなかったが、いざやってみるとこれが結構快感だったりする。
繰り返すうちに、暗殺家業を天職とさえ思いはじめていた・・・
 
ルウ ≪ 娘をどこへやった!? とっとと教えな!!
美智恵 「 なぜなの!? なぜ、娘を狙うの!?
ルウ ≪ 時間移動能力を持つ人間を根絶やしにするためじゃん!
  あたしたち魔族は大昔からあんたたちのような奴を見つけだしては殺してるんだよ!
 
人間を堂々と狩れることに不満はなかった。 むしろ楽しいぐらいだ。
だがあたいは、とあるターゲットの親子に、2度も屈辱を味わった―――
 
美智恵 「 悪魔よ退け!! 生まれ出でたる暗き冥府へと帰るがいい!!
 
美神美智恵・・・対悪魔用の対魔護符で10数年―――
 
美智恵 「 退け!! 妖怪!! 今度こそ二度と戻って来るなっ!!
 
娘の精霊石に気を取られ、また対魔護符で1年半、闇の中に封印された・・・
そして再び復活したときには、アシュタロス様が死んでいた・・・
 
あとになって知ったこと―――
アシュタロス様の本当の目的は、悪魔メフィスト・フェレスの転生者が持つ、
エネルギー結晶・・・時間移動能力者の探索は、そのための布石にすぎなかったらしい。
 
人間界での使命を失ったあたいは、あの親子に復讐を誓ったが・・・
鳥族からの使いにより、やむなく魔界の故郷へと帰還することになった。
 
そして数十年ぶりにここに帰ってきた―――がく然とした。
ガルーダ様は、腹部の石化は解けてたのだが、不死の甘露はその効力を失っていた。
ガルーダ様の衰弱に伴い、周辺魔族の侵攻、それによる屈強のハーピー兵達の激減、
残っているのはあたいと同じかそれ以下の、戦い慣れしていない若いハーピーばかり。
 
・・・新たな使命が生まれた。
それはこの地の防衛・・・だがあたいらの戦力では、侵略されるのは時間の問題。
方法はひとつしかない、それは1体の強い魔族の存在。
それには、ガルーダ様がもとの力を取り戻すことがいちばん確実。
 
神話より伝わる太古の秘薬、不死の甘露アムリタ―――
 
秘薬を作りし魔女・魔鈴めぐみ―――
 
ガルーダ様が力を取り戻し、この場所を守りきれれば・・・
 
 
 
―――今度こそ人間界にいって、あの親子共々ぶっ殺してやるじゃん!―――
 
 
 
 
タイガー ( ―――このハーピー、美神サンと戦ったハーピーか!?
 
時間にしてわずか数秒・・・逆流したルウの心が、タイガーに流れこんでいた。
そして、ルウの魔族としての強い衝動までもが流れこみ、タイガーの心に深く染まっていく・・・
 
ばちばちばちばちっ!
ルウ ≪≪≪  グアァアッ アッ グゥアアッ!!!!!
 
ルウは歯を食いしばりながら、羽根を取ると―――
 
キッ!
ルウ ≪≪  フェザー・ブレッド!!!!!
ズガアッ!
タイガー・魔理 「「「  ゴァガッ!!!!!   「「「  タイガー!!!!!
 
・・・バタッ
 
羽根がタイガーの腹部につき刺さり、霊気爆発を起こした!
タイガーは吐血した後、その場に倒れる。
 
セイレーン ≪ 勝負あったようね。
魔理 「 ・・・・・・
 
ルウも脳内にダメージを受け、頭をおさえながらしゃがみこんだ。
 
ズキズキズキ‥
ルウ ≪ はあっ はあっ はあっ はあっ・・・
  ちくしょ〜まだ頭がいてえ! 下手な攻撃よりメチャクチャ効くじゃん!
  この人間殺してやる・・・・・・トドメをさしてやる!!
 
ルウがタイガーに近づこうとしたその時!
 
ドガッ ズガッ!
ハーピー兵 ≪≪  ぐあっ・・・!
 
突然、魔理を捕まえていた4羽のハーピー兵が倒れた。
後ろには、茜と水樹とジーク、そして使い魔の黒猫を肩に乗せた、魔鈴めぐみがいた。
 
魔鈴 ≪ ガルーダ・・・
 
魔鈴の視線は、じっとガルーダに向けられていた。 怒りに震えながら―――

リポート73 『優しかったキミは』
魔理 「 お前ら・・・!
「 ハッ、とっくに死んでたのかと思ったぜ。 悪運の強いヤローだ。
 
憎まれ口をたたきながら、どこか嬉しそうな茜。
茜たちは牢を脱出したあと、魔法封じの結界に閉じこめられた魔鈴を救出。
そしてジークの背中に水樹、魔鈴のホウキに茜と使い魔を乗せ、外から
この屋上まで一気にやってきたのである。
 
セイレーン ≪ 魔鈴、いったいどうやって・・・ハーピー兵はどうしたの!?
魔鈴 「 私の魔法薬で、今頃ぐっすりと眠っているわ・・・ガルーダ。
ガルーダ ≪ 魔鈴・・・!
 
魔鈴は黒い三角帽子を深めにかぶりなおすと―――
 
魔鈴 「 ガルーダ、前に言ったはずですよ。
  私の友人たちに手を出すようなことをすれば、私はあなた方に協力しないと。
  もし私の友人たちが訪ねてくるようなことがあれば、丁重にもてなしてほしいと。
  ・・・<キッ>・・・これがあなたのやり方ですか。
 
ガルーダをにらみつけ、静かに闘志を燃やす魔鈴。
 
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・だから丁重にもてなしているではないか、魔族の流儀でな。
 
水樹・茜 「 なんて奴なの!  「 やっぱりこいつ、ただの外道だ!
 
一方でルウは、タイガーの服を掴み、持ち上げた。
タイガーの腹部からは、ダラダラと血が流れ落ちていた―――
 
ルウ ≪ フッ! このままコイツを人質にとるって手段もあるじゃん!
魔理 「 ハーピー!! てめえ、タイガーを離しやがれ!!
 
水樹たちは戦闘体勢に入ろうとするが―――
 
ルウ ≪ キサマらは動くな! まだこいつとの勝負は終わってないじゃん! 
タイガー ≪ ・・・ソウジャ、まだ終わってナイケン・・・
ルウ ≪ なに・・!?
 
先ほどまで気を失っていたかと思われた、タイガーの目が光る、そして―――
 
キッ!
タイガー ≪≪  ぬああああっ!!!!!
              <<<ドォゴッ!>>>
ルウ                            ≪≪  ぐはあっ!!!!!
 
ルウのみぞおちに、霊気を込めた一撃をくりだした!
まともにくらったルウは血を吐く・・・!
 
水樹・茜 「 タイガーさん!!  「 所長!!
 
よろっ‥
ルウ ≪ ぐはっ・・・ばかな・・・人間がその傷でまだ立てるのか!?
タイガー ≪ フーッフーッ・・・
 
タイガーは息を荒立てながらルウに追撃を行う!
 
フーッフーッ
タイガー ≪≪  ガウゥゥゥッ!!
ゼーッゼーッ
ルウ ≪≪  こ・・・殺す!!
 
霊気で爪を光らせながら、再び戦い始めるタイガーとルウ。
 
「 あたいらも加勢するぜ!! 
セイレーン ≪ 動いてはダメよ!
 
ジークや茜が戦いに加勢しようとしたその時、セイレーンがひきとめた。
 
セイレーン ≪ 彼はガルーダ様と約束したわ。
  ルウに勝てば、あなた達を解放する、負ければそれまでとね♪
「 んなこと関係ないぜ! あたいらはもう牢屋から脱出してるんだからな!!
セイレーン ≪ フフフッ、はたしてそうかしら?
  ガルーダ様がその気になれば、あなたたちを消すことなんて一瞬で済むことよ。
「 その前に魔鈴さんのテレポートの魔法で逃げきってやるぜ!!
水樹 「 あ・・・!
黒猫 《 ダメだニャ・・・
 
茜がそう言うと、水樹と黒猫はあることに気づいた。
 
「 え? どういうことだよ、水樹さん!?
水樹 「 あいつは・・・ガルーダは“超加速”という技が使えるのよ。
  あのスピードじゃあタイガーさんを連れてみんなで脱出する前に、
  ガルーダに捕まってしまう・・・
セイレーン ≪ そういうこと♪ 黙って自分たちの運命を見ていなさい。
 
ズザッ ズカッ バキッ!
 
先ほどまで圧倒的優勢のルウだったが、タイガーにくらった一撃が予想以上に
効いているせいか、動きが鈍っている。
それとは逆に、タイガーの動きやパワーが、なぜか上昇しているように見えたが、
それでもルウが優勢に変わりはなかった。
タイガーは目を血ばらせながら、霊気の爪で攻撃しており、ルウは自ら持つ爪で戦う!
 
タイガー ≪≪  フーッフーッ、グルルルッ!!!
ルウ ≪ クッ! こいつ、痛みを感じてないのか!?
 
まさに本物かと思わせるほどに似た、虎のうなり声をするタイガー。
タイガーとルウの戦いをじっと見ていたジークは、タイガーの異変に確信を持ちだした。
 
ジーク 《 ・・・タイガーさん、なにか様子がおかしくありませんか?
「 ああ、あたいも感じてた。
  まるでさっきから、あたいらがここにいることすら気づいてないような・・・
 
グルルルル‥
タイガー ≪ ・・・絶対貴様は倒シテヤル・・・ワッシが狩ッテヤルケエノー・・・
 
―――!?―――
誰もが、タイガーの口調がなにかおかしくなっていることに気がついた。 そして―――
 
 
水樹 「 ・・・もしかしてタイガーさん、暴走してるんじゃない?
 
 
その言葉に、全員が水樹に注目した。
 
魔理 「 暴走って・・・タイガーの場合、“セクハラの虎”状態になるんじゃねーのか?
「 そうだ、確か精神感応(テレパス)を使いすぎるとそうなるって・・・
ジーク 《 でも今のタイガーさんはまるで、狂戦士(バーサーカー)ですよ!
 
すると水樹が、ボソッと呟いた―――
 
水樹 「 欲望・・・
「 え?
水樹 「 ・・・精神感応者は、精神を酷使しすぎすると、たいてい異常をきたすものなの。
  タイガーさんの場合は欲望の開放・・・
  それが今はすべて、なにかのきっかけで目の前の敵を倒すことに集約されてる。
  それだけタイガーさんは、私達を助けるために必死なのかも・・・
 
魔理は、水樹の言ったきっかけが、さっきの精神攻撃のことじゃないかと考えた。
魔族であるハーピーの意識が、流れこんでしまってるのではないかと・・・
 
「 でもあの傷であんなに動いちゃあ、所長は・・・!
水樹 「 ええ・・・長引くと危ないわ。
 
茜の言葉に水樹はうなづく。
 
「 ちくしょう! 獣の笛があれば・・・!
セイレーン ≪ 笛って、これのことかしら?
 
セイレーンは茜に、タイガーの精神をコントロールする笛、獣の笛を見せびらかした。
 
「 あ 返せ! あたいの笛!!
セイレーン ≪ 返してもいいけど、本当に彼の暴走を止めちゃっていいの?
  止めたら彼、確実にルウに瞬殺されるわよ。
 
セイレーンの言葉に、茜たちは少し戸惑う。
 
「 ・・・ちっ どうすりゃいいんだ? あたいらが動けばガルーダが出てくるし!
魔鈴 「 そうね、私たち全員でかかっても、あのハーピーとセイレーン、
  ガルーダを相手に、全員無事に帰れる可能性は低いですからね。
ジーク 《 タイガーさんに任せるしかないというわけですか・・・
水樹 「 でも早く止めないとタイガーさんが―――
 
水樹たちがどうしようか言い合っている間、魔理の不安感はピークに達していた。
自分はどう行動するべきなのか・・・もう答えは出ているはずなのに、恐怖のせいか、
タイガーのわずかな勝利を望んでいるからなのか・・・動くことができなかった。
 
バキッ ズガッ ドゴッ!
 
ハア―――ッ
ルウ ≪≪≪  ニンゲンの分際で―――!!!!!
ガア―――ッ
タイガー ≪≪≪  ガアアアアアアアア―――!!!!!
 
ジャキ―――――――ンッ!
 
マジギレ状態のルウと暴走するタイガー。 ルウの爪とタイガーの霊気の爪が交差する!
 
黒猫 《 ハーピーのスピードに、タイガーが追いついてきているニャ!
「 いける! いけるぜ所長!!
 
ドクンッ‥
魔理 ( ・・・ダメだ・・・あいつは私らが考えてる以上にヤバい!!
 
すると魔理は、2人が戦ってる所へと飛びだしていった―――
 
魔理 「「「  ハァァァピィィィィッ!!!!!
 
――― ! ―――
 
ドゴオオッ!!!!!
ルウ ≪≪  −−−ッ!!!!!
 
魔理は、タイガーに気を取られていたルウを、死角からおもいっきり霊気拳で殴りつけた!
不意打ちをくらったルウは数メートル吹っ飛ばされる!
 
茜・水樹 「 魔理!!  「 一文字さん!?
 
セイレーン ≪ ルール違反よ!!
魔理 「 うるせえ!! 知ったことか!!
  だいたい魔界(アウェイ)での戦いなんて最初からフェアじゃねえだろ!!
  私たちにとっちゃあ、もとからする必要もない戦いなんだしな!!
 
ガルーダ ≪ フオッ・・・残念だな。
魔理 「 なにがだよ!?
ガルーダ ≪ 止めるならもっと早くに言うべきだった。
魔理 「 なに・・・?
 
魔理に黒くカゲる大きな人獣が、彼女の背後で目を光らせていた―――
 
水樹 「 一文字さん逃げて!!
 
彼女の瞳には、目を青白く光らせ、腕を大きく振り上げられた獣の姿が映った。
 
 
 
 
次の瞬間―――
 
 
 
 
魔理の意識は消えた―――
 
 
 
 
水樹は目をそらし 茜は大声で叫ぶ
 
魔鈴の顔は青ざめ 使い魔は両手で目を覆う
 
ジークは前に飛びだしていく・・・
 
 
 
タイガーの瞳には 突きだした自分の右腕と
 
遥か前方に飛ばされていく 魔理の姿が映し出されていた・・・
 
 
 
 
  「 タイガーだって頑張ってるんだ。
    あんまり私の友達を悪く言うと、私も怒るぞ 」
 
 
  「 いいかタイガー!
    次から私を呼ぶときは苗字じゃなくて名前で呼べ!
    じゃなきゃ私は返事をしないからな!! いいな!! 」
 
 
  「 人間界に帰ったらさー、みんなで―――――−−−‐‐ 」
 
 
 
 
―――そのときタイガーの心の中で、
   わずかに繋がっていたものが、プツリと弾けるような音がした―――
 
 
がしっ!
ジークは10メートル近く飛ばされてきた魔理を、地面に叩きつけられる前に受けとめた。
 
ジーク 《 おいしっかりしろ!!
 
叫ぶジークの周りに、水樹や茜たちが駆け寄る。
魔理の両腕と腹部からは、おびただしいまでの鮮血が流れていた。
タイガーの霊気の爪を放出させた拳を、とっさに両手でガードしたらしい―――
 
ジーク 《 腕とアバラが折られてる! 神野さん!
水樹 「 わかってる!
 
水樹は全力で魔理の腹部にヒーリングを行う。
茜は、傷ついた魔理を見たあと、タイガーをにらみ言葉を発しようとするが―――
 
 
 
「 所長・・・!
 
 
 
 
ピシッ‥
 
 
 
バチッ‥
 
 
 
 
そこにいたのは いつもの黄色い毛並みのトラ男ではなかった
 
強力な精神感応能力故のことなのか はたまた暴走の現われなのか・・・
 
頭部からは あふれんばかりの電波状の霊波が放出され 彼の周囲を取り巻いていた
 
 
 
 
――――――白虎 ホワイトタイガー
 
 
 
 
そう呼ぶにふさわしい 白い毛並みの獣人がそこにいた
 
ポタッ‥ ポタッ‥
 
しかしその指先は 自分の血とハーピーの血 そして魔理の血で赤く染まっている・・・

リポート74 『抑えられない白き咆哮』
タイガー ≪≪≪  ガアアアアアアアアアア!!!!!!!  ≫≫≫
 
 
白毛のタイガーが雄叫びを上げた。
目の前では、魔理に殴られ倒れていたはずのハーピー、ルウが立ち上がった。
 
 
ルウ ≪≪  ニンゲンがっ!! とことんなめやがってー!! ≫≫
 
 
青白く目を光らせたタイガーに対し、ルウもまた、赤く目を血ばらせていた。
今の2人には、目の前の敵を殺すことしか頭にない。
 
「 所長・・・なんで白くなってんだよ・・・
 
茜は目の前の光景が信じられなかった―――
 
「 魔理を殴りとばしたことにも気づいてないのかよ!?
 
彼女はこの半年間、“セクハラの虎”状態のタイガーすら、これまで一度も見たことがなかった。
タイガーの暴走を止めるために、パートナーとして選ばれた自分。
しかし、以前より長時間、精神感応力を使えるようになったタイガーが、
笛の力を必要とするほど力を使ったことは、数えるほどしかない。
 
「 笛・・・・・・
 
自分の限界を知ってる今のタイガーにとって、獣の笛の力が本当に必要
なのかどうか、彼女はずっと疑問だった。
それが理性の限界すら超えた、バーサーカー状態のタイガーを見た茜は、
このときはじめて、霊力の強さ関係なしに、タイガーには獣の笛を吹ける
パートナーが必要だということを知ったのである。
 
「 笛・・・笛をよこせセイレーン!!!!!
 
茜はセイレーンに向かって叫ぶ。
だがセイレーンの隣にガルーダがおり、威圧感と危機感により近づけないでいる。
 
ガルーダ ≪ 焦るなニンゲン・・もう決着がつく。
 
茜はガルーダの視線の先、にらみ合うタイガーとルウを見た。
両者とも満身創痍、特にタイガーのほうはかなりの血が流れていた。
痛みを感じていれば、誰の目にもあんなに動き回れるはずがないことは明白だった―――
 
グルルルルル‥‥
タイガー ≪ 狩ル・・・キサマヲ狩ル・・・・・!
 
青白く光る目がさらに輝きを増す!
ルウは空に舞い上がると、両手の指に複数の羽根をはさんだ!
 
ルウ ≪≪ 狩れるもんなら狩ってみな! トドメを刺してやるじゃん!
 
セイレーン ≪ あれはルウの最強技―――!!
 
 
ルウ ≪≪  羽根の散弾(フェザー・ショット)!!!!!  ≫≫
 
 
シュババババババババババッ!!!!!!!!
 
 
ルウは、全霊気を込めた数十枚の羽根を、タイガーに向けて放った!
 
――― !! ―――
 
ズガガガガガガガガガガガッ!!!!!!!!
 
高速で飛んでくる羽根は、容赦なく次々とタイガーに突き刺さる!
タイガーは白毛が赤く染まりながら、あお向けに倒れてしまう・・・
 
黒猫・魔鈴 「 やられたニャ!!  「 タイガーさん!!
 
ルウ ≪ アハハハッ!! トラ男、これであんたも終わりじゃん!
 
ルウは地面に降り立ち、倒れているタイガーのもとに近づいた。 すると・・・
 
フッ‥
 
ルウ ≪ なにっ!?
 
倒れたタイガーの姿が消えた! そしてルウの後ろに白虎のタイガーが現れる!
 
 
セイレーン ≪ まさかこんな瀕死の状態で―――
ルウ              ≪ ―――幻覚をみせたのか!!
 
 
焦ったルウが、反転しようとするが―――
 
 
スッ‥!
タイガー ≪≪  狩ルッ!!
 
 
ザンッ――−‐ ブシュ――−‐ッ
 
 
タイガーは霊気の爪で、ルウの片翼を切り裂いた!
 
 
 
ルウ ≪≪≪  ヴアアアアア――――ッ!!!!!  ≫≫≫
 
 
 
噴出す鮮血―――あまりの激痛に涙目になるルウ。
彼女は背中から、今までに感じたことのないほどの激痛を感じた!
さらに―――
 
ガシッ!
ルウ ≪  ―――ァヴッ!!
 
タイガーは片手でルウの髪を掴み、腕を振りあげもう片方の翼を引き裂こうとする・・・!
 
タイガー ≪≪ ヴゥ――−−‐!
   ルウ          ≪ や、やめ・・・!
 
恐怖で青ざめるルウ。 するとガルーダが―――
 
バッ
ガルーダ ≪ そこまでだ! この勝負、お前の勝ちだ!
セイレーン ≪ あのルウが負けた!? そんな・・・!
 
ガルーダが戦いを止め、セイレーンが驚く。 しかしタイガーは―――
 
 
 
ザンッ――−‐ ブシュ――−‐ッ
 
ルウ ≪≪≪  ギイャアアアア――――ッ!!!!!  ≫≫≫
 
 
 
―――もう片方の翼をも切り裂いた!
切り裂かれた両翼からは、鮮血がふきだしている・・・!
 
セイレーン ≪ ルウ!!
「 所長、おめえ・・・
 
タイガー ≪≪  フーッフーッ、ヴァルルルルルルルルルッ!! ≫≫
 
青白く目を光らせ、ケモノのように唸るタイガー。
今は白い悪魔とも言えるその体には、ルウの鮮血によりさらに赤黒くそまっていた・・・
 
タイガー ≪≪≪  ゴガアアアアアアアッ!!!!!!! ≫≫≫
 
タイガーの咆哮と同時に、ジーク、茜、魔鈴が行動を起こす!
水樹は魔理へのヒーリングで手が離せない!
ジークはタイガーを羽交い絞めして動きを封じ、魔鈴は眠りの魔法をタイガーに向けて放つ!
 
ガシッ!
ジーク 《 今のうちにタイガーさんの暴走を止めてください!
  これ以上傷口が開いたら、本当に命にかかわります!
魔鈴 「 おねがい・・・おとなしくして・・・!
 
タタタタッ! バッ!
「 その笛よこせ!
 
茜はガルーダの存在に目もくれず、セイレーンから獣の笛を奪い取った!
そして笛を吹く・・・!
 
< 虎よ! 虎よ!  ぬばたまの夜の森に燦爛と燃えて!!
 
  そも いかなる不死の手 はたは眼の造りしか――――――
 
ピルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ
 
タイガー ≪≪≪  ガアアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
雄たけびをあげ、ジークを振り払おうとするタイガー。
茜も魔鈴も全力で術を行使しているが、タイガーに変化は見られない。
 
ぷはっ!
「 き、効いてない!? あたいの笛の音が聞こえてねえのか!?
黒猫 《 タイガーの精神ダメージが想像以上に大きいんだニャ!
 
茜は一息つくと再び笛を吹いた。
 
水樹 「 だけどあんな白色のタイガーさん、今まで見たことないわ!
  精神感応使用時はいつも黄色いトラ男になっていたし・・・
 
水樹は魔理にヒーリングを行いながら言った。 すると魔鈴が―――
 
魔鈴 「 あれが霊波が形どったものとすれば、魔装術や獣化能力というより、
  むしろタイガー君の影法師(シャドウ)に近いものかもしれないわね。
  ホワイトタイガーは、今の彼に心がない現われなのかも・・・
 
一方で両翼を失ったルウは、セイレーンに治療を受けている。
 
ぎりっ‥
ルウ ≪ ちくしょう、あたいの翼が・・・!
セイレーン ≪ 大丈夫よ。 しばらくして霊力が回復すれば、また生えてくるわ。
 
ジークは昨日のハーピーとの闘いの傷が残っていたため、本調子ではないが、
茜の笛や魔鈴の魔法に逆らうように暴れるタイガーを、必死に抑えていた。
その様子をじっと見ていたガルーダは、眠りの魔法使用中の魔鈴に近づき―――
 
ガルーダ ≪ 魔鈴、あの男を救う、いい方法を教えてやろうか?
魔鈴 「 ・・・お断りしますわ。 タイガーさんは、私たちの手で助けます。
 
ガルーダに視線を合わせず、冷たく言い放つ魔鈴。
 
「 所長は勝ったんだ! もうあんたに束縛される筋合いもないんだよ!
 
茜はそれだけ言い放つと、再び笛を吹きなおした。
 
ガルーダ ≪ フオフオフオ・・・そうだったな魔鈴。
  だがお前には今までどおり、“不死の甘露”は作ってもらうぞ。
 
にこっ‥ 魔鈴はガルーダを見てにっこり微笑むと―――
 
魔鈴 「 ・・・そんな話は後にしてくださる? 今はそれどころじゃありませんの。
黒猫 ( ほ、本気で怒ってるニャ・・・!(汗)
 
微笑んではいるが、額には怒りマークが浮きでている魔鈴に、使い魔は怯えた。
するとガルーダは―――
 
ガルーダ ≪ ・・・ひとつ聞こう。 “不死の甘露”は完成しているのか?
魔鈴 「 ・・・まだですわ。
黒猫 《 魔鈴ちゃんのジャマするニャ!!
 
ギロッ‥
ガルーダが使い魔をにらむと、使い魔はヒュッと魔鈴の後ろに隠れた。
 
ガルーダ ≪ ムダだ。 お前達の力量では、あの男の精神崩壊は止められない。
  もうじき奴の精神は死滅するだろう。
 
「 なっ・・・!
魔鈴 「 ば・・・バカなこと言わないで!
水樹 「 そうよ! 縁起でもないこと・・・!
 
ガルーダ ≪ 私にはわかる。 あの男の肉体のほうもあと1分ももたんだろう。
  1分以内であの男の暴走を止められるのか? いや、無理だ。
  とすると、奴を助けるには“不死の甘露”を使うしかない。
魔鈴 「 ・・・・・・
 
沈黙する魔鈴。
 
ガルーダ ≪ どうなんだ魔鈴、本当にまだ完成していないのか?
魔鈴 「 ・・・・・・まだよ、少なくてもあと1日はかかるわ。
ガルーダ ≪ ・・・残念だ。 あの男はもう助からない。
 
 
 
 
タイガー ≪≪≪  ゴアアアアアアアアアアアッ!!!!!  ≫≫≫
 
 
 
『 死ぬんじゃないニャ! みんな悲しむニャ! 』
 
 
『 あなたをここで死なすわけにはいかない・・・! 』
 
 
『 タイガーさんお願い、もとの心をとり戻して・・・!
  一文字さんは私が必ず助けるから・・・だから帰ってきて!! 』
 
 
『 クッ! もとはといえば私のせいね・・・私の魔法のせいで
  無関係のタイガーさん達を巻こんでしまって・・・私は・・・! 』
 
 
『 なんでだよ! なんで肝心な所で役にたたねえんだ!
  こんな時のための獣の笛だろ! チクショウ・・・
  あたいにもっと“あの人”みたいに、笛を吹く力あれば・・・! 』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ピュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ
 
 
 
 
 
澄みわたる笛の音が 魔界の空に響き渡った
 
茜の吹く笛の音よりも はるかに遠く そして深く浸透する
 
その場にいる者全員が 城の塔の頂上を見上げると
 
そこには1人 黒髪をなびかせながら獣の笛を吹く 褐色の女性がいた―――
 
 
 
グルルルルル・・・
「 ・・・・・エ・・・・・・・・・・エ・・・ミ・・・サ・・・ン・・・・・・ 」
 
 
 
タイガーの青白い目の輝きが、徐々に小さくなっていく―――
 
 
ピルルルルルッ・・・・
 
         「 ・・・帰るわよ、タイガー 」

リポート75 『抑えきれない黒き呪縛』
「 エミさん・・・
水樹 「 どうして魔界(ここ)に・・!?
 
タイガーは捕えられた仲間を助けるため、ハーピー最強の戦士ルウと戦い、勝利した。
しかし精神感応の使いすぎにより、タイガーは暴走し、魔理を傷つける。
魔鈴、水樹、茜、ジークがタイガーを静めようとするが、誰にも止められなかった。
そのタイガーを止めたのは、タイガーの元上司、エミであった・・・
 
どさっ・・
タイガーはエミの笛の音により、その場に倒れ、気絶する。
 
「 所長!!
ジーク 《 タイガーさん!!
水樹 「 魔鈴さん、一文字さんをお願いします!
魔鈴 「 ええ、早くタイガー君を治療してあげて!
 
水樹は魔理の治療を魔鈴に任せると、タイガーの下へ駆け寄った。
霊的治療能力なら、この場にいる者の中では、彼女がその能力に一番長けていたからだ。
 
「 こりゃひでえ・・・でもなんで獣人化解けてないんだよ!?
水樹 「 わからない! それよりなんとか出血だけでも止めないと・・・!
 
そして水樹は、傷ついたタイガーをヒーリングにかかった。
魔界であっても、個々に内在する生命力を活用すれば、神聖霊力無くともヒーリングは使える。
だが地下牢でジークを、そしてさっきまで魔理にフルパワーで
ヒーリングを行ってた水樹は、精神的にもかなり限界が近づいていた。
 
水樹 ( 私に残された全ての霊力でタイガーさん・・・あなたを助けてあげる! でも・・・
 
タイガーは気絶しているにもかかわらず、白色の獣人姿は消えていなかった。
 
水樹 ( ・・・たぶん、暴走したままの状態で眠らされてるんだわ。
  いくらエミさんの笛の力でも、タイガーさんにもとの心を取り戻させるまでの
  力は及ばなかったんだ・・・早く・・・早く人間界で治療してあげないと・・・!
 
ガルーダ ≪ なに・・・!?
 
一方、エミを見上げていたガルーダは驚きを隠せなかった。
エミの背後から金髪で褐色肌、アラビア系の妖怪と思われる見た目
20代前半の女性魔族と、翼を羽ばたかせたガルーダにそっくりな、
見た目中学生ぐらいの背丈の若い鳥人が、5羽も出現したからだ。
 
黒猫 《 小さいガルーダが5羽もいるニャ! どういうことニャ!?
 
5羽のガルーダの出現にみな驚いている。
エミと女性魔族は、その鳥人の背中に乗り、タイガーたちのいる屋上へと降り立った。
エミの下に、茜が駆け寄る。
 
「 エミさんどうしてここに!? それにそいつらガルーダじゃねえのか?
エミ 「 ええ、まぎれもなく、彼らはガルーダよ。
ガルーダ ≪ ばかな! 鷲(ワシ)の鳥人族はもう私しかいないはず・・・!
 
ガルーダは驚きを隠せなかった。 そこにエミがつぶやく。
 
ボソッ‥
エミ 「 ・・・メドーサ。
ガルーダ ≪ !!
エミ 「 おたく、数十年前にメドーサと戦って、一度死んでいるわね。
  そのせいでおたくは不死の体を失った・・・・・・違う?
ガルーダ ≪ ・・・なぜおまえが知っている?
エミ 「 魔鈴と魔理がハーピーにさらわれて連絡を受けてから、いろいろ調べさせてもらったわ。
  ハーピーが魔鈴を必要とする理由から、彼らの所までたどり着くのに結構時間かかったワケ。
 
5羽の少年ガルーダを指すエミ。
 
ガルーダ ≪ だからそいつらはなんなのだ!
  同種族とは言え、そいつらの霊波はあまりにも私に酷似している!!
 
思わず口を荒立たせてしまうガルーダ。
 
エミ 「 こいつらはあんたよ。
  いや、あんたがこいつらのオリジナル、彼らはあんたのクローンなワケ。
ガルーダ ≪ ・・・なんだと・・・!?
水樹 「 エミさん、どういうことです!?
 
エミ 「 ・・・最初から説明するわ。
  1週間前、私はタイガーから話を聞いた後、低級魔を召喚して、
  ワルキューレと連絡を取り、ハーピーと魔界の情報を集めたわ。
  そして鳥族の長であるおたくを知った。
  ガルーダについて調べてたら、いろいろ面白いことがわかってね、
  3年前、令子がおたくのクローンと戦ったことがあったのよ。
 
水樹 「 ・・あ! そういえば前に、氷室さんに聞いたことがある!
  確か心霊兵器を開発しようとしてた組織と戦ったことがあるって!
 
エミ 「 そう、そのとき初めて霊体片を培養して、成功した魔族のうちの1種が彼らなワケ。
  あなたの霊体片を使ってね。 その霊体片を組織に渡した魔族が、メドーサなのよ。
  彼女がなぜ、組織に霊体片を渡したのか、その時は結局わからないままだった。
  だけどその後の調査で、組織は強力な魔族の霊体片と引き換えに、
  月へ行く技術を提供したことがわかったわ。
  その霊体片を手に入れるためには、その魔族を一度殺さなくてはならない。
  メドーサがおたくの霊体片を手に入れたということは、そういうことなワケよね?
 
ガルーダ ≪ ・・・確かに私はメドーサに負けて一度は死にかけた。
  そしてその時を最後に、“不死の甘露”の効果は切れてしまったのだ。
 
エミ 「 メドーサが何故、おたくを狙ったかわかる?
ガルーダ ≪ ああ、メドーサは龍族であるが、蛇族の血も受け継いでいるからな。
魔鈴 「 ・・・そうか、神話の時代のナーガ(蛇)族とのことね!
 
それを聞いた魔鈴は、神話の話を思いだした。
 
魔鈴 「 確かガルーダは昔、肉親を捕えたナーガ一族と敵対し、壊滅的なダメージを与えた。
  その戦いの後で手に入れたのが不死の甘露。
  メドーサがその頃の生き残りかどうかはわからないけど、同じ種族を滅ぼした
  ガルーダを倒してみたいという気持ちはあったのかもしれないわね・・・
 
エミ 「 そして低級魔からの情報で、おたくら鳥族がどんな状況にあるのか知った私は、
  令子に組織のアジトがあった館の森に行き、彼らを探してもらったワケ。
  そこで彼ら“ガルーダ・ジュニア”と、彼らの育ての親、“グーラー(食人鬼女)”
  を見つけてここに連れてきたわ。  
  おたくが寿命で、この地域のパワーバランスが崩れるというのであれば、
  おたくと同等・・・それ以上の後継者がいれば問題ないワケよね?
ガルーダ ≪ む・・・!
 
エミは、後ろにいる5羽のガルーダとグーラーを指していった。
すると、ウェーブのかかった金色の髪で、顔を半分隠していたグーラーが―――
 
グーラー 《 ホントはもっとたくさんいたんだけどな、造られたものだから成長出来ずに死んだ
  ヒヨコ(幼生)が結構いてよ、結局最後まで生き残ったのはこの5羽だけなんだ。 
  あたしの力が足りなくて・・・済まないね、おやっさん。
 
グーラーは、死んでいったヒヨコたちのことを悔やんでいた。
 
エミ 「 今はまだ、おたくの力には及ばないだろうけど、5羽もいる。
  彼ら5羽なら、おたくの穴を埋めるだけの力は充分にあるわ。
  クローンだけど育ってきた環境が違うから、人格・個性は別物だし、
  成長すれば、この中からおたくに匹敵するガルーダも出てくるかもね。
 
そこに5羽のガルーダ・ジュニアが、オリジナルガルーダに近づく。
親子とも言うべき、ガルーダ同士の再会の様子をエミ達は見ていた。
 
グーラー 《 ・・へっ、これであたしの役目の終わりかな。
エミ 「 あら? 情でも移っちゃったワケ?
グーラー 《 あたしゃこれでも母親やってきたつもりだよ。 そりゃあ魔族だって情も移るさ・・・
 
育ての親、グーラーは目を潤ませていた―――
 
「 それにしてもエミさん、いったいどうやって魔界に来たんだ?
エミ 「 簡単よ。 魔物を召喚する力があれば、送り返す力だってある。
  目的地の座標軸さえわかれば、こっちの世界に来ることも可能よ。
  私の得意とする黒魔術も、一種の魔法なワケ。
  ・・・ま、さすがにここまで来るのに、ちょっと時間かかったけど。
「 じゃなんですぐに来てくれなかったんだよ!?
  除霊道具もほとんどなしで、あたいらどんなに苦労したことか・・・!
エミ 「 こっちにくるにも、それなりの準備があるワケ。
  魔鈴が異世界に家を持ったように、人が住める異界の魔物程度なら、
  おたくたちがやられるとは思えなかったしね。
  ・・・でもさすがに鳥族全体、ガルーダが関わってると知った時はちょっと焦ったけどね。
 
そしてエミは、魔鈴にヒーリングを受けている魔理に目をやった。
 
エミ 「 ・・・まあ、確かにもう少し早く来たほうがよかったかもしれないわね。
魔鈴 《 なるべくなら、自分達の力で解決させたかったということですね?
エミ 「 そういうこと。 もう部下じゃないんだし、ライバル事務所に手を貸す理由もないワケ。
 
そして魔鈴は、魔理の手当てを一端止め、ジュニアたちが囲んでいるガルーダに近づく。
 
魔鈴 「 ガルーダ、これで不死の甘露がなくても種族は守れますわね。
  タイガーさんも勝ったことですし、私達全員、人間界へ帰らせていただきますわ。
 
臆せず、まっすぐガルーダを見る魔鈴。
後ろでは茜や水樹、ジークも、ガルーダの答えを聞いていた・・・
 
ガルーダ ≪ ・・・・・・好きにしろ。
 
ガルーダのその言葉を聞くと―――
 
黒猫 《 これでやっと人間界に帰れるニャ!
水樹 「 早くタイガーさんたちを連れて帰りましょ! 本格的な治療をしてあげないと!!
 
ガルーダの言葉を聞いた使い魔は喜び、水樹はタイガーの治療を急いだ。
だが、茜は依然としてガルーダを睨んでいる・・・
 
「 ・・・まだ終わっちゃいないぜ。
水樹 「 え?
 
強く握りしめられた茜のコブシは、怒りで震えていた・・・
 
「 ガルーダ、おまえらのイザコザのせいで、みんながどんなに苦労したことか!
  跡継ぎできたらハイそれで終わりか! ふざけんなよ!!
  タイガーと魔理をこんなひどい目にあわせがってよ・・・
  このオトシマエどう責任取ってくれるつもりだよ!!
 
ガルーダは倒れてる魔理を見ると―――
 
ガルーダ ≪ ・・・その女をやったのはタイガーという男だが?
「 イチャモンつけんな!! 原因は全部てめえだろ!!
水樹 「 茜ちゃん、これ以上ことを荒立てないで、それより―――
「 水樹さんは腹が立たねえのかよ!!
水樹 「 怒っているわよ!! でも今は少しでも早く、タイガーさんと一文字さんを
  人間界の病院に連れていくことのほうが大切でしょ!!
 
当然ながら、水樹もまた納得できないでいた。 茜は続けてガルーダに向かうと―――
 
「 だいたいヨーコさんはどうした!?