息も絶え絶えに、彼女はそこに立っていた。

 呼吸が荒い。足が震える。体に力が入らない。

 肌襦袢が赤く染まる。腹の傷口が開いたようだ。

 だが、マリーは倒れなかった。

「最後の忠告よ」

 横で自分を支えてくれている陽蘭が、険しい顔で言う。

「これ以上動くのは危険よ。あなたの命の保証ができない。戦闘なんてもってのほか。確実に死ぬわ」

 言葉を紡ぐ陽蘭の顔には、しかし、諦めの色が濃い。

 それもそのはずだ。同じことを、この部屋に来るまでに何度も言った。そして、マリーの返答は、いつも同じだったのだから。

「我が身かわいさに、知らぬ振りなどできません」

 震える声で、マリーは言う。

「わたくしの目的は…………この方を、守ることから始まる……」

 この方。そばに眠る人間、横島忠夫を、マリーはどれほど愛しているというのだろうか。

「それに…………」

 続く言葉に、陽蘭は興味をそそられた。答えが続くことは、初めてだった。

「それに、これは…………わたくしの戦いでも、ある」

 床を見つめていた顔が、正面に上がる。戸が開かれ、そこに立っているのは――――

「なるほど。最後に立ちはだかる壁は、おまえというわけか」

 腰までなびく黒髪、同じ色のスーツを着込んだ、一見してホストという単語が浮かんでくる、長身の男。

 セザール。

「その通りですわ――――――お兄様」





















人魔 第十一幕

 マリーの絶望





















 一、


「…………兄!?」

 その言葉に、陽蘭は驚きを隠せなかった。

「といっても、腹違いですけどね」

 陽蘭の肩が、フッと軽くなる。

「離れていて下さい、陽蘭さん。危険です」

「ちょ、ちょっと。あなたまだ身体が完全じゃないのよ。ろくに一人で立てもしないくせに――――」

「邪魔なんです。あなたを気遣う余裕は、ありませんから」

 歯に衣着せず、マリーは言った。本人の言う通り、余裕はないらしい。

「………無茶すんじゃないわよ」

「今無茶せずにいつするというのです?

 ――――治療、ありがとうございます」

 一歩前へ出るマリー。離れる陽蘭。

「別れは済んだか?」

「お兄様こそ、この世に未練はありませんね?」

「口の減らぬ女だ」

「あなたの妹ですから」

「一つ、聞きたいのだが」

「どうぞ」

「マリー。わが異母妹よ。お前はなぜ、私の邪魔をする? 私に勝てると思っているのか?」

「質問が、二つになってますわよ」

 くすりと、マリーは笑った。

「あなたの邪魔をするのは、わたくしの目的にあなたが邪魔だから。

 勝てるかと聞かれれば、勝負は時の運、と答えておきますわ」

「あくまで邪魔をするということか」

「その通り」

「なら、消えろ」

 言い放ち、セザールは戸をくぐり――――

 結界に、動きを縛られた。

「な――――!?」

 驚くセザール。

「こ、これは……?」

「先程の答え、訂正しますわ」

 マリーが言う。

「まともに戦えば、わたくしが勝てる可能性は皆無。

 ですが、こうして動きを止めれば、パワーに勝るわたくしが有利。

 だから、あらかじめ入り口に結界を張り、罠を仕掛けた。あなたの性格からして、正面から来るとふんだので」

 両掌に、霊力を集中させる。

「マリー! 貴様……!」

「さよならです、お兄様」

 全霊力を、マリーは兄に向けて放出した。

















 二、


「ねえ、お兄様」

 異母妹の呼びかけに、セザールは振りかえった。

「なんだ?」

「お兄様は、なぜ、わたくしに優しくしてくださるのですか?」

「……阿呆か、おまえは」

「あ、アホって……だって、わたくしには神族の血が混じっているんですのよ。それなのに、どうして――――?」

「いいか、マリー。私とお前は、たった二人の兄妹だ。

 お前の母は死んだ。私の母も死んだ。私たちの父も死んだ。もう、私の肉親はおまえしかいないのだよ」

「お兄様……」

 妹の髪を、彼は優しく梳いた。

「たとえ別な血が流れていようと、お前は私の妹だ。いいな」

「………はい」

 涙声で頷く妹を見て、彼は心の中で嘲笑っていた。

 これほどに素直で、単純で、御しやすい駒を、彼は嬉しく思った。

 妹など、なんの価値もない。血の繋がりなど、なんの意味も持たない。

 この女には可能性がある。自分の、もっとも優秀な駒になる可能性が。

 魔族と神族。両方の血を有した女。だからこそ、最強足りえるかもしれない。

 その最強を、自分の意のままに操る。これほど面白いことはない。

「マリー。わが妹よ」

 彼は、異母妹を抱きしめた。

「私は、お前の兄。お前は、私の妹。それだけは、変わらない。なにがあってもな」

「……はい」

「案ずるな。私は決して、お前を裏切ったりはしないから」

「……はい」

 ぎゅっと、異母妹が彼を抱き返す。

「お兄様………」

 彼の顔が、醜悪な笑みを刻んでいるとも知らずに。



















 三、


 静寂が、場を支配した。

 驚愕。マリーの静寂。

 恐怖。陽蘭の静寂。

 余裕。セザールの静寂。

 三者三様の静寂を破り、静かな声が響く。

「指一本動かせれば、お前の結界を破ることなど、造作もない。

 指一本動かせれば、お前の攻撃を防ぐことなど、造作もない」

 戸を越え、セザールが部屋に入る。

「お前には、話していなかったな。

 私の能力は、この左目。『霊波の流れを見る』目だ。

 どんなに強力な攻撃も、中心は限りなくゼロに近い。

 私の目はその場所を見極め、私の指はそこを貫く。

 霊的中枢――――すなわち、チャクラを」

 先程。

 結界を破り、マリーの霊波を霧散させた能力を、セザールは自ら解説した。

 歩みが、止まる。

「もう終わりか?」

 挑発。

「ちょ――――やめなさい、マリー!」

 傷口が開くのもかまわず、マリーはさらに霊波を紡ぐ。

 先程のような大きなものではなく、小さなそれを、無数に。

「なるほど。最大威力の攻撃が通じないなら、最大多数の攻撃か。その判断は正しい。切り替えの早さも、賞賛に値する」

 百を越える霊波が、セザールに向かう。

「しかし、足りんな」

 セザールの髪が、揺れた。それ自体が意思を持っているかのごとく蠢き、髪はマリーの霊波を迎え撃った。

 百を越える霊波は、すべて霧散し、消失した。

「あ………あ……………」

「一度に来るなら、せめて万単位で来い。

 百程度では、私には勝てんよ」

 恐怖を撒き散らし、セザールは歩く。

「お前には失望したよ、マリー。

 期待していたのだがな。神族と、魔族。双方の血を引くお前には」

 近付く恐怖に、たまらず、マリーは胸のロザリオを掲げた。

 逆十字のロザリオを、逆さまにして。



















 四、


 愛されていない。

 そう感じ始めたのは、いつ頃からだったろうか。

 愛された記憶はない。ゆえに愛に飢えてはいたが、形だけのそれに盲目的にすがるほどには、マリーは愛を信じてはいなかった。

 愛されていないと感じるようになったのは、いつからだったか。

 恐らくそれは、時がたったゆえだろう。愛されなかった彼女は、自分を愛していない者、自分を見ていない者を敏感に感じ取る。

 兄は、自分を愛していない。口ではそう言い、抱きしめてもくれるけど、自分を見てはくれてない。

 いつしか、彼女はそれを知った。

 それでも、兄から離れようとはしなかった。

 兄妹であることに変わりはない。血が繋がっていることには違いない。

 その事実だけは、永遠不変だから。

 彼女は、その小さな絆にすがるしかなかった。

 だが。

 ある男に出会った。その男は、自分を本当に――――それがたとえ仕組まれたものだとしても――――愛してくれた。

 嬉しかった。喜びに、泣いた。

 その愛を、本物にしたかった。その愛を、貫きたかった。

 だから、殺した。でも、殺せなかった。

 だから、死んだ。でも、死ねなかった。

 だから、守りたい。この居場所を。

 いてもいいと許可されるのではなく、そこにいたいと思う場所。

 初めての居場所。

 それを守りたい。それを勝ち取りたい。

 それを、与えてあげたい。

 だから、マリーは横島忠夫を守り、セザールと対峙する。

 男の命を狙う兄を、殺すために。

















 五、


 くすりと、セザールが笑う。

「なんのつもりだ、いまさら十字架など掲げて。神にでも祈るつもりか?」

 嘲るセザールに構わず、マリーは一心に力を集中していた。

 マリーのやろうとしていること。それは、神族の霊波による攻撃。

 それは、賭けだった。自分はまだ、一度も神族の力を使えたことはない。それを扱えるかどうか。

 仮に扱えたとして、この男に効くかどうか。

 すべてが未知。しかしマリーには、もはやこの手段しか残されていなかった。

(できるはずよ。わたくしの身体には、神族の血が流れているのだから)

 しかし、ロザリオを握るその手には、なんの変化も見られない。

(なんで……どうしてできないの? なにが足りないというの?)

 現実に唇を噛みながら、それでも、マリーは祈る。

(お願いよ。今だけでいいから。もう、これしか残ってないのよ)

 願う。

(腕が砕けてもいい。バランスを崩して滅んでもいい! だから……だから、お願い!)

 強く、強く。

(この男を倒させて! お願い、横島さまを、あのコを……わたくしの愛しい人たちを――――)

 想いを込めて。

(守らせて!)

 力が。

 ロザリオを握る手に、力が満ちた。

「ほう……」

 今までとは似て非なる力だった。自分の、神族としての力。今まで使われることなく、内に溜まっていた力。

(や……った…………

 できた………わたくしにも、使えた…………)

 何度やろうとしても、できなかった。神族の力は使えなかった。その血に連なるはずなのに。

 自らの血の半分に、己を否定された。そう思っていた。

 だが、違った。

(わたくしが、目をそらしていただけだったんだ)

 向き合えば、応えてくれる。このように。

 力が湧いてくる。身体に意志が満ちる。

 いける!

 目の前の敵をにらみ。腕を突き出し。

「滅びなさい、セザール!」

 マリーは、力を放出させた。

 その奔流が、荒れ狂い、セザールに突き進む。敵を飲みこみ、爆発する。

 すさまじいエネルギー風に、マリーは吹き飛ばされた。

 空中で、同じく吹き飛ばされた横島の身体を抱きかかえる。

 床に強かに背をぶつけながらも、マリーは笑った。

 守れた。この人を。

 そんな想いがあった。

 そんな想いを抱きながら、顔を上げる。

 笑顔が、凍った。

 爆心地。

 舞い上がった砂埃が、一点にまきこまれるように消えていく。

 薄れゆき、やがて消える、砂埃。

 晴れた空間。

 そこに変わらず、いた。傷一つなく。微笑みも絶やさずに。

 悠然と、立っていた。

 セザール。

「言ったはずだ。

 指一本動かせれば、お前の攻撃を防ぐことなど、造作もないとな」

















 六、


 今だかつて感じたことのない恐怖に、身体中が震えている。

 陽蘭は、いまさらながらに、それに気付いた。

 マリーはすごかった。

 あの身体で、あれだけの攻撃を行ったのだ。魔族だけではない、神族の力まで、制御しきってみせたのだ。

 なのに。それなのに。

 相手は、傷の一つすら負ってはいない。

「神族も魔族も関係ない。中枢が存在すれば、私の指はすべてを無に帰す。爆発したのは意外だったがな」

 歩みを再開するセザール。

「う……ああああああああああああああああ!!」

 近付いてくるソレに、マリーはあらん限りの抵抗をした。

 霊波の連続放出。

 傷が開くのも構わず、力の続く限り放ちつづける。

 それらすべてを、セザールは無に帰す。一つたりとも、その身体には届かない。すべてが眼前で霧散し、無に消えた。

 妹の目前に、兄が迫る。目の前に、絶望がそびえたつ。

「マリー。わが異母妹よ。お前はすばらしい」

 妹の頬に、兄の手が触れる。

 そして、兄は妹を抱きしめた。

「神族の力に目覚め、制御するとは。さすがは、わが妹だ」

 愛しそうに、髪を梳く。

 その感触に、妹は涙した。

 いつも、そうだ。この男は、いつもそう。

 いつも、自分を抱きしめてくれる。でも、空っぽの愛情しかくれない。

「お兄様。一つだけ、お聞きしたいことがあります」

 絶望に泣きながら、マリーは尋ねる。

「わたくしを、愛していて?」

「もちろんだとも」

「うそ」

 安っぽい言葉。それにすがるしかなかった。その絆に頼るしかなかった。

 愛することを知った。愛されることを知った。

 だからこそ、もう、こんなちっぽけな絆にすがる必要はない。

「お兄様。わたくし、好きな人ができましたの」

「そうか」

「自分に正直で、あけすけで。その分傷ついて、辛い思いをして。でも、とても強く、優しく、そして、安らげる。わたくしが好いたのは、そんな人」

「そうか」

「わたくし、あの人を守りたい。そのためにも、お兄様――――あなたは、邪魔なんです」

 死角から兄の首筋へ落ちた手刀が、途中で毛髪に絡み取られる。

「ああ」

 溜息。腕の付け根から、引き千切られる。

「……だめだな、全然」

 右肩から噴き出す血を眺め、彼女は呟いた。

 兄妹の抱擁が、血に彩られる。

「マリー。我が異母妹よ。私がお前を愛しているのは本当だ」

 血まみれの聖母は、にこりと笑う。

「道具として、でしょう?」

「そうだ。お前は強い。すばらしい能力を手に入れるはずだった。

 だが、私に逆らった」

「壊れたおもちゃは、捨てられるのが運命…………」

「残念だ。お前にはもう、利用価値がない」

「地獄でお待ちしています、お兄様」

「さらばだ。愚劣な妹よ」

 指先は、マリーのチャクラを貫いた。

















 七、


 情というものに、セザールは価値を見出さない。

 他者のために自分をわずかでも犠牲にするなど、愚の骨頂だからだ。

 他者はすべて、自分のために存在する。

 彼の考え方は、傲慢極まりなかった。

 セザールは下級魔族として生まれた。位も高く、強力だった父が、卑しい母に遊びで産ませた子供。それが彼だった。

 彼は脆弱だった。父の血を引いているとは思えないほどに、その霊力は弱かった。

 弱肉強食の魔界で、しかし、彼は生き残った。

 彼には、他者の弱点がなんとなくわかった。それゆえに、生き残れた。

 その能力がどうして生まれたのかは、また、どうして持って生まれたのかはわからない。そんなこと、どうでもよかった。あるという事実が、生き残るには重要なのだ。

 彼は生き残った。同族の狩りから逃げきり、神族の追っ手をかわし、殺し、生き延びた。

 ある日。

 彼は、神族の女戦士と戦った。

 結果は引き分けだった。彼は相手に瀕死の重傷を与えたが、彼もまた、左目を奪われた。

 疼く左目に、彼は力を欲した。疼く左目が言うままに、父に会い、その肉と魔力を喰らった。父の肉は左目を再生させ、父の魔力は、彼の能力を進化させた。

 彼の新たな左目は、霊波の流れを映した。霊波の流れ、中枢を、視覚として捉えられるようになっていた。

 霊力は弱いままだったが、彼は狂喜した。どんな強力な者をも上回る能力を、彼は手に入れたのだから。

 そして彼は、アシュタロスに出会い、心酔した。自分にはない、その強力なカリスマに。

 他者をなんとも思っていない彼が、初めて忠誠を誓った。はじめて、他者のために働こうと決めた。それに喜びを感じた。

 アシュタロスの訃報が届いたときは、だから、彼の嘆きは誰よりも激しかった。

 目的半ばに滅んだ主。その後を継ごうと、彼は決心した。

 神界、魔界、人間界。すべてを滅ぼしてやる。

 我が主、アシュタロス様のために。

 そして彼は、魔界の奥底で、行動を開始したのだった。



















 八、


「急所は外した。兄を裏切ったことを後悔しながら、ゆっくりと死ぬがいい」

 横たわる妹の身体を、セザールは足で脇に退かせた。

「女。お前などに興味はない。死にたくなくば動くな」

 陽蘭に一瞥をくれた後、セザールは横島忠夫の前に立った。これだけの騒ぎにも、相変わらず、目覚めの兆候はない。

 横島忠夫の額に、セザールは手を当てた。

「迎えに来たぞ、人魔よ。さあ、目覚めよ」

 セザールは、横島のうちへともぐりこんだ。














 暗く冷たい流れを、セザールは進む。

 横島忠夫の意志が自分を排除しようとするが、『流れを見極める』眼を持つセザールは巧みにかわし、奥へと侵入していった。

 やがて、横島の眠る扉へとたどり着いた。

 開け放たれた、しかし、暗闇の支配する扉。

「人間よ。お前のおかげで、私は最高の道具を手に入れられる。礼を言う。

 これは私からの、せめてもの感謝の証だ。内なる世界で、永遠に、幸せに暮らすがいい」

 開かれた扉が閉ざされ、頑強な錠前が下ろされた。

 扉が、180度回転する。扉の真後ろには、また、扉があった。頑丈な錠に堅く閉ざされた、しかし、自身はぼろぼろな扉。

「さあ。出でよ、人魔よ」

 その錠が、セザールの指先に破壊される。

 瞬間。

 待ち構えていたかのように扉を破り、それは飛び出した。

 閉じ込められていたその暗黒は、喜び勇み、表へと駆けあがる。

 意識の海が、暗黒に塗りつぶされる。

「ク……クク…………」

 その様を見て、セザールは嗤った。

「クハハハハ。クク、クククアハハハハハ!」

 妹も、仲間も、敵も、大竜姫も。

「ハーッハハハハハハハハッハハハハハ!!」

 すべてを出し抜いての勝利に、セザールは嗤い続けた。















 暗黒が、すべてを包みこんだ。


















 九、


 物量にものを言わせたポリゴン人形どもの足止めを圧倒的な霊力で退けて、大竜姫とベスパは通常空間に復帰した。

「かなり時間を食ったね」

「やつはどこまで進んでおるのか。マリーが時間を稼いでくれておることを祈るしかあるまい」

 その瞬間、爆発が妙神山を襲った。

 突然の衝撃に、二人は吹き飛ばされた。

 崩れ落ちた瓦礫が、二人の姿を覆い隠す。

 爆発が治まり、静まり返った後。瓦礫の下から、二人は姿を現した。

「な、なんなんだい、今のは?」

 頭を押さえて言うベスパ。

「見ろ、ベスパ」

「なんだよ、いった…………」

 その視線が、ある方向で凍った。

 視線の先。

 一人の男が、立っていた。

 白い髪。白いシャツ。白いズボン。俯いた顔。

 確かめずともわかる。誰何せずともわかる。

 その霊力が、異様なことも。

「ヨコシマ…………」

「間に合わなかったようだの」

 恐れていた最悪の事態が、目の前に広がっていた。



※この作品は、桜華さんによる C-WWW への投稿作品です。
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