美神、ワルキューレ、ジーク、きぬ、魔理、かおり、峰、神野、雪之丞、ヒャクメ、シロ、タマモ。

 12人もまた、黒い空間の中にいた。

「ここは………?」

「異空間みたいね。あの時、ヤツらの投げたなにかが当たったでしょう。恐らくそれによって、跳ばされたのね〜」

 誰かの問いに、ヒャクメが答える。

「ヒャクメ、索敵」

「了解なのね〜」

 ワルキューレの指示で索敵を開始したヒャクメは、近くになにかが落ちていることに気付いた。

 近付き、手に取る。

「それは……?」

「神・魔族が使う通信機の一種だ。立体映像を映し出す種類だな。確か、記録を流すことも可能なはずだ」

 情報仕官のジークが言う。

「要するに、携帯電話兼ビデオカメラってわけね」

「人間の感覚に直せば、そんなところだ」

「とにかく、再生させてみよう」

 通信機が動き出す。浮かび上がった立体映像。

 それは、あの魔族の少年だった。

 全員の間に緊張が走る。

 映像の少年が、伏せた顔を上げ、口を開いた。

「レディ〜ス、ア〜ン、ジェントルメ〜ン! イッツ、ショウ! タ〜イム!!」

 激しい爆発と煙の中、少年は陽気に叫んでいた。





















人魔 第12幕

端役たちの悲しき宿命























 一、


「………………………………」

 沈黙。  開いた口がふさがらない美神たち。緊張感が一気に霧散してしまった。

 しかし魔族の少年は気にすることなく――――どうやらこれは記録映像のようだ――――先を続ける。

「みなさん、こんにちは! ボクの名前はリュックって言います、よろしくね!

 本当は、ちゃんとボクが直接おもてなししてあげたいんだ。でも、いろいろ事情があって、それもちょっと無理なの。だからそれまでは、ボクの人形たちと遊んでおいて」

「人形?」

「大丈夫、きっと気に入るから。ほら、あっちにいるよ」

 映像の指差す方向へ振り向く美神たち。

「………………………はう」

 ばたりと、ヒャクメは倒れた。

「え? ちょっと、ヒャクメ!?」

「ま、まさか……魔眼か!?」

 魔眼。見つめたものを死に至らしめる恐るべき魔力を秘めた瞳。

 全員の間に、再び緊張が走る。

 そして、敵が姿を現した。

 敵は、一体ではなかった。複数いた。が、どれも同じ姿形だった。

 例えばそれは後光の中に浮かび上がるブリキのフレームだとか。

 例えばそれは子供の粘土細工のようにしか思えないシンプルな顔だとか。

 例えばそれは腰に携えた砲身だとか。

「……………………………」

 開いた口のふさがらない美神たちパートU。

「あ、あれはまさか、先行者!?

 その言葉がジークの口から漏れたのは、まったくもって驚きであった。

「知ってるのか、ジーク。あのふざけた奴らを?」

「は、はい。RA(ロボット・アーミー)と呼ばれる戦闘機の一種です。中華陸軍機甲部隊で活躍していた最新鋭機です」

「あ、あれが最新鋭……?」

「いえ、それよりも美神さん。今、中華って……?」

 見つめる先で、なにやらその先行者なるものが足をばたつかせている。

「主装備は、中華ブレード、中華ファンネル、ドリルパンチ。そして――――」

「……………………」

 見つめる先で、いっせいにコマネチしはじめる先行者。

「大地のエネルギーを吸収し、股間部の砲身に充電して放つ必殺技、その名も」

 放て! 中華キャノン!!

「のわっきゃあああああああああ!!?」

 股間からほとばしる熱いレーザーに、美神たちは悲鳴を上げた!

 股間からほとばしる熱いエネルギーが、美神たちに降り注ぐ!!

 かろうじて避ける美神たち。

「な、なによ、あれ!?」

「ですから、先行者です。道(タオ)機関を搭載して、大地のエネルギーを破壊のそれに変換して放てるんです」

「んなバカ言ってんじゃないわよ! そんな代物があったらとっくに軍事情勢変わってるわよ!」

 あまりの出来事にヒステリックな美神。

「いや、当然現実には存在しておらず、ゲームのみの存在なんですが」

「ゲームのキャラがなんで現実にいるのよ!?」

『あれの名前は先行者。ボクが改造したから、結構手ごわいよ』

 立体映像が、続きを喋り始めた。

『このキーホルダー、秋葉原で手に入れるのすごく苦労したんだ。その分丹精こめて創ってあるから、がんばってね!』

 それで、画像は終了していた。

 残された美神たち。

「そんな……ウソでしょう?」

「戦えってのか? こんな……こんな……こんな、ふざけたシロモンと!?」

 その叫び、最もである。

 しかしながら現実にそのふざけたフォルムの先行者はいて、第二撃の準備を始めている。

「くるぞ!」

 先行者は、先程よりもさらに命中率を高めようと――――股間部の砲身を、伸ばした。

「! 勃……」

「いや! やめてえぇぇぇぇぇ!!」

 屹立する12の砲身。

 そのあまりの卑猥さに、キヌが悲鳴を上げる。

 放たれる12の閃光。

 かろうじて避ける美神たち。

「ええい、受けに回っては不利だ! 攻撃を!」

「それもそうね!」

 がっしりと。

「姉上……?」

 ジークを、ワルキューレが。

「おい、かおり……?」

 雪之丞を、弓が。

「逝って来い、ジークよ!」

「骨は拾ってあげるわ、雪之丞!」

 先行者の群れの只中へ、放り投げた。

「姉上! そんな殺生なぁぁぁぁぁ!!」

「テメェ、かおり! 後で覚えてろおぉぉぉぉぉぉ!!」

「もう忘れたわ!」

「諦めろ、上官命令だ!」

 そして二人は、敵の中へと舞い落ちた。





















 二、


「えー、賀集のファンなの?」

「だって、カッコイイじゃないですか」

 異空間の中、きゃいきゃいと世間話に花を咲かせる美神たち。

 その向こうでは。

「あ、あいつら、余裕かましやがってぇぇぇぇぇ!」

「雪之丞さん、落ち着いて! 今は目の前の敵に集中しましょう!」

 12対2の戦いを繰り広げる雪之丞とジークの姿があった。

 先行者たちは数が多い上に予想外に強く、雪之丞とジークは苦戦を強いられていた。

「んなこと言ってもよ。オレたちが必死になって戦ってるってのに、あんな風におしゃべりされちゃあ――――!」

 瞬間。

 背後に気配を感じ、雪之丞は反射的に後ろを蹴り上げた。

 バキィ! と、派手な音がする。

 その音に、談笑していた美神たちも振り向いた。

 後ろにいたのは、一体の先行者だった。

 雪之丞の蹴りは、その先行者の砲身を、粉々に砕いていた。

「あ…………」

 ばたりと倒れる先行者。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 暴れまわる先行者。さながら、股間を蹴られて悶絶しているような。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 暴れまわる先行者。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 暴れまわる先行者。


  ガッシャン   ガッシャン    ガッシャン    ガッシャン    ガッシャン


 暴れまわる先行者。その動きが、だんだんと遅くなっていき。


 ガッシャン          ガッシャン        ガッシャン


 やがて。


 ガッシャン                     ガッシャ                 ガッシャ


                                                          プシュ〜


 ピクリとも、動かなくなった。

「……………………」

 その様に固まる雪之丞。

「オレは! オレはなんて事を!!」

「姉上! ボクには……ボクには出来ない! これ以上、彼らと戦うことなど!!」

「アホかぁあぁぁぁぁぁ!!!」

 雪之丞たちの言葉に、思わず突っ込む美神たち。

「んなこと言ったってなぁ! お前ら女には、この痛みと苦しみは永遠にわかりゃしねえんだ!!」

「わかってたまるか!」

「雪之丞クン! ボクにはわかる! 君のその心! 君のその苦しみ! 同じ男であるボクには、痛いほどにわかりすぎる!!」

「おお、ジークゥ!!」

「雪之丞クン!!」

 涙を流しながら、がしりと抱き合う男二人。気持ち悪いことこの上ない。

 その背後で。

「「あ」」

 残った先行者たちの、「友の仇!」っぽい中華キャノンが放たれた。


  チュッド〜ン!!


 まともに食らい、大空を吹き飛んでいくジークフリード。

「姉上! 後は頼みますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 そして、雪之丞。

「ママに似ているぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 ナニが?

「ええい、この役たたずめ!」

「前言撤回! 骨すら拾ってあげないわ!」

 吹き飛んでいった男たちをくそみそに言う女たち。

 残り11体に減った先行者たちが、美神たちに迫る。

「なによ、1体しか倒してないじゃない」

「役たたずめ。生きていたら私刑にしてやる」

 二人の哀れな男の魂が、どうか成仏してくださいますよう。

 アーメン。





















 三、


「さて、どうする?」

 ワルキューレの言葉に、美神が応える。

「そうね。とりあえず、霊力の強い順にワルキューレとシロとタマモが前線に立って、後は後方支援ってことで」

「「「待て」」」

 下がろうとしていた美神の肩を、がっしりと捕まえるワルキューレたち。

「美神よ、お前もGS界ではトップクラスに位置する人間。前線に立てば後輩の士気も上がろうというものだ」

「そうでござる。拙者はまだ経験が足りぬゆえ、今回は美神殿に活躍の場を」

「お前ほど攻撃力に優れたものを使わん手もあるまい」

「私は狐火と幻術くらいしかないから前線には向かないわ。後ろから援護する」

「いやいや、タマモ。お前も金毛白面九尾の狐として恐れられた大妖怪。その強大な霊力を後方支援などに当てるのはもったいない」

 がっしりと、三人を捕まえて逃がさないワルキューレ。

「ちょ、ちょっと待って。ワルキューレ、あれ」

 何かに気付き、美神が驚きの声を上げる。

 ワルキューレは美神の指差した方向を向き、しかし手は離さない。

「? なんだというのだ? 敵がいるだけではないか」

「そうじゃなくて、数かぞえてみてよ、数」

「数? 1、2、3、………10、11、12。

 ―――――――12!?」

 全員が驚愕する。12体いて、そのうち一体を雪之丞たちが倒したのだから、残るは11体のはずである。

 見ると、雪之丞にやられたはずの先行者の残骸が、影も形もなくなっていた。

「ふ、復活したってこと?」

「それってつまり、倒しても倒してもきりがないってことで………」

「いやよ。私はいや。こんなやつらといつまでも戦いたくないわ!」

「それは私も同感だが…………現実として、やつらは蘇ってるみたいだ」

 しばし、ワルキューレは思案する。

「…………復活するということは、常に霊力を供給しているということ。あの小僧からか? しかし、それにしては気配を感じない……中継点がある?」

「ワルキューレ」

「ああ。霊力供給の媒体が、どこかにあるはずだ。それを探し出して壊さねば、我々に勝ち目はない」

「つーわけで起きんかヒャクメェェェェェェ! あんたの遠視能力が必要なのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ヒャクメの襟首を掴みがくがくと振る美神。しかし、ヒャクメは目覚めない。

「美神よ」

「なによ!? これからこいつに美神家代々に伝わる『アホでも目覚める方法ベスト10』を実践してやるんだから!」

「いや、そのようなことをしなくとも…………あれではないか、媒体?」

 ワルキューレの指差した方向に、美神は目を向けた。

 先行者の群れの中。最奥に佇む、真紅に彩られた先行者。

「…………………………………………………………………………あ、あれは?」

「あ、あれは! 赤い○星!!」

 いつのまに舞い戻ってきたのか、叫んだのはジークフリードだった。

「ジ、ジーク? あんた、傷は――――?」

「それよりも、赤い彗○ってなんだ?」

「知らないのですか!? 初代ガンダムから絶大な人気を誇るシャ○・アズナ○ルですよ!

 彼の駆る機体は通常の3倍の機動性を誇り、その真紅に塗装された姿を、人は畏敬の念をこめてこう呼ぶのです。

 すなわち、『○い彗星』と!!」

「……………………………」

 熱弁を振るうジークに、思いきり引くワルキューレたち。

「お前の言いたいことはよくわからんが、とにかく、アイツが媒体である可能性は高まった」

「そうね。ジークの言いたいことは皆目見当がつかないけど、とりあえずあいつを狙うのに異論はないわ」

 その他全員も、こくこくと頷く。

「ふむ。では、早速。――――よっと」

 取り出したライフルを、構えると同じに放つワルキューレ。

 弾道は狙い違わず、真紅の先行者の砲身を貫いた。

 ばたりと倒れる真紅の先行者。それに倣うようにして倒れる11体の先行者。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 暴れまわる真紅の先行者。さながら、股間を蹴られて悶絶しているような。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 それを倣うかのようにして暴れまわる、11体の先行者。


 ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン ガッシャン


 暴れまわる12体の先行者。ある意味壮観だ。


  ガッシャン   ガッシャン    ガッシャン    ガッシャン    ガッシャン


 暴れまわる12体の先行者。その動きが、だんだんと遅くなっていき。


 ガッシャン          ガッシャン        ガッシャン


 やがて。


 ガッシャン                     ガッシャ                 ガッシャ


                                                          プシュ〜


 12体の先行者は、ピクリとも、動かなくなった。

「ああ! 赤い○星が! 赤い彗○が〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 なにやら悲鳴を上げるジーク。まったく、わけがわからない。

「ボクの……ボクの憧れが〜〜〜〜〜」

 滂沱の涙を流すジーク。はっきり言って、不気味だ。

「甘いぜ、ジーク」

 その肩に手を置いたのは、これまたいつ戻ってきたのか、伊達雪之丞であった。

(…………もはやツッコむまい)

 女たち全員に共通する思いだった。

 そんな思いなどどこ吹く風で、雪之丞は熱弁する。

「男の憧れはやはり! 東方○敗・マスターア○アだろうが!!」

 その叫びに、ジークが反応した。

「なんだと!? 冷静沈着、器量とカリスマと力を持ち合わせた赤い○星こそ憧れの的だろう!!」

「なにをバカな! 弟子を想いながらも信念に生き、信念のもと弟子の手によって逝った男! 言葉で語らず拳で語る!! これぞ、漢の中の漢!!」

「あんな熱血バカ爺のどこがいいってんだ!!」

「なんだと!? 赤いロ○コンに憧れてるくせに!」

「言ったな!? 赤い彗○を○リコンって言ったな!! 今の言葉、万死に値する!!」

「ふ。しょせんは魔族。人間とは相容れない存在か!!」

「殺すだけでは飽き足らない。魂の一欠けらまで焼き尽くしてくれる!!」

「来やがれ、魔族野郎。転生もできないほどに消滅し尽くしてやるぜ!!」

 そうして、異空間の中で、熱き漢たちの、信念を賭けた戦いが始まった。

 が。

 んなもん、ワルキューレや美神たちにとっちゃ知ったこっちゃないのである。

「敵は全滅したっていうのに……」

「…………父さん、母さん。あなたたちは息子の育て方を誤りました」

「私、恋人やめようかしら…………」

「ま、まさか、タイガーもあんななのか?」

「横島さんも――――?」

「それはいやでござる…………」

「ていうか、あいつらなにやってるの?」

「…………私としては、トレーズ様が好きだなぁ」

「か、神楽…………?」

 各々が思いを口にする中。

「未熟! 未熟! 未熟千万! だからお前は阿呆なのだ!!」

「まだだ! まだ終わらんよ!!」

 ジークと雪之丞は、自分たちだけの世界で死闘を繰り広げていた。





















 四、


 通常空間へと戻った美神たち。

「みんな、いる?」

 全員の無事を確認しようと、、美神は振り向いた。

 その背後には、キレた美神たちによって死闘を強制終了させられたジークと雪之丞が、十字架に磔にされている。ピクリとも動かない。俯いているため表情は見えない。身体中に何やら赤い付着物が乾いているが、それはまあオプションだ。

「うん。全員無事みたいね。よかったわ」

 十字架をツッコむ者はいなかった。全員、綺麗に無視をぶっちぎる。

「ああ、もう。あのクソガキ、ぜったいぶっ殺してやる。この私をコケにしたことを死ぬほど後悔させてやるんだから」

「同感だな、美神。だが、殺してはダメだ」

「なんでよ、ワルキューレ?」

「殺さず生かさず、生まれてきたことを後悔させ、死んだほうがマシだ殺してくれと哀願するほどに痛めつけるのだ。その痛みと後悔の中で、己が矮小な俗物だということを思い知らせてくれる」

「……………………」

 冷や汗の流れる美神たちだった。

 その時。

「殺しな」


 岩陰の向こう。

 妙神山の正門の方向。

 そんな声が、聞こえた。

「………………」

 気付かれないよう気配を殺しながら、美神たちは覗き見る。

「!!」

 美神たちは、その光景に、驚愕以外を持てなかった。

 あまりにも、その光景が意外だったために。

 想像すらしていなかった事態だったがために。

 驚愕の中、

 パピリオが。

 血まみれの小竜姫を。

 今にも、殺そうとしていた。





















 五、


 何故パピリオが小竜姫に手を上げるのか。異空間でなにがあったのか。小竜姫がぼろぼろなのはなぜか。

 それらの疑問に対する答えを美神たちは持っておらず、しかしそのような疑問に対する答えは今はどうでもいいことだった。

 事情もなにもわからないまま、美神たちは、ほとんどが反射で行動した。

 小竜姫に振り下ろされる、パピリオの拳。

 その間に飛び込んだ精霊石が光り輝く。その力はパピリオの勢いをなんら減じることはなかったが、その光はパピリオの視界を奪い、拳を外れさせた。

 第二撃が来る前に、人狼が竜神の体を抱き、運び去る。

「おや。おかえり、みんな。ご無事でなにより」

 動じた風もなく振り向くリュック。

 視線の先には、12人。

 一人。美神が言う。

「パピリオに何をしたの?」

「おめでとう。無事、人形たちを倒して退けたんだね。まあ、全滅とまではいかないまでも、75パーセントは倒せると踏んでたんだけど。その意味でも、キミたちはすごい」

「パピリオに何をしたの?」

「せっかちだなぁ。賞賛の言葉ぐらい、素直に受ければいいのに」

「パピリオに何をしたの?」

「何をしたと思う?」

「聞いているのはこっちよ」

「答える義務は、ボクは持ってはいない」

「なら、死になさい」

「OK、答えよう。ボクの能力で彼女を操っている。今現在、彼女はボクの忠実な下僕で精密な操り人形にして冷酷なキリングマシーン。師を師とも思わない、血の凍ったナマモノだよ」

「それを解除するには?」

「その前に、ボクからの質問」

「なに?」

「ボクは君の質問に答えた。報酬は当然の権利だと思う」

「踏み倒すわ」

「残念、交渉決裂。じゃあ、死んでちょうだい」

「そうね、殺してあげる」

 布陣を敷く。ヒャクメ、キヌ、シロ、タマモは小竜姫の治療に専念し、他の連中は、リュックに対して構える。

 そうして。

 妙神山道場正門前。

 8対2の、数の上では途方もなく不平等な、しかし、力量では圧倒的な格差の戦いが、開かれた。


※この作品は、桜華さんによる C-WWW への投稿作品です。
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