畑健二郎先生が主人公のリアリティーショーの開幕を告げるサンデー12号「トニカクカワイイ」感想

トニカクカワイイ

 「結婚」をテーマにした新連載を開始する直前に声優の浅野真澄さんと結婚したことをTwitterにて発表し、「自身の結婚を新連載の宣伝として使う」という全く新しいプロモーションをぶち込んできた畑先生は、芸人としてのスキルが本気でスゴいなと思いました(本稿の要約)。

 それでこの新連載、第一話は『主人公の少年と謎に包まれた美少女が、命の危機が迫る中で偶然の邂逅を果たす』というドラマチックな展開だったものの、作者の畑先生はバックステージで『このマンガは「かわいい妻との結婚生活」そのものをテーマとしたお話になる』という趣旨のことを仰っているので、おそらく今後は初回のようなドラマチックなことはそうそう起こらず、主人公が「とにかくかわいい妻」と生活する日常の様子を延々と描いていくという、言うなれば「ハヤテ」の日常パートだけで構成された系統のマンガになるのではないか? と個人的には予想しています。

 謎の美少女との日常生活を描いたサンデーのマンガというと、最近では「柊様は自分を探している。」が連想されるとは思うのですが、「柊様」は最初から彼女の謎めいた素性そのものに読者の興味を惹かせる、一種のミステリードラマ的な構成になっていました。
 しかし今度の「トニカクカワイイ」の場合は、作者が「少年と少女が出逢い結婚するという、ただそれだけの話です。」「【恋愛】という過程はありません。これは夫婦の愛情についての話なので。」と明言してしまっている以上、謎の美少女である司の謎を解くとか、司の謎めいた思惑を解くべく主人公が挑むといったミステリー要素は一切なく、主人公と美少女がお互いに好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰なのかしらとときめいたりする恋愛要素もない、ただひたすら平和で穏やかな夫婦生活だけを描く作品になりそうな予感がひしひしとします。
 そういった意味でも、仮にも「王族の庭城」を巡る謎がストーリーの中核に存在していた「ハヤテのごとく!」とは方向性がかなり異る作品になるのではないかと思われます。

 また、先生ご自身が新婚ホヤホヤであることをわざわざ公言したことを加味すると、「マンガで描かれた内容は、畑先生ご自身が経験されたことそのものが元ネタなのでは?」というリアリティーショー的な側面を読者が期待するのもある意味当然であり、芸人である畑先生ならそういった期待も作品内にネタとして織り込んでくるに違いないと確信してます(勝手に)。

 何にしろ「トニカクカワイイ」は、畑先生にとって冒険的な作品になることは間違いないと思われます。現在は「結婚の発表と同時に結婚をテーマにした新連載を開始!」「直後に師匠の久米田康治先生にマンガでイジられた!」という話題性のみで語られがちなこのマンガですが、もしかしたら畑先生の人生そのものを我々に垣間見させてくれる一大リアリティー巨編となるやも知れません。ならないかも知れませんが。
 単なる新婚イチャラブコメディーとゆめゆめ侮ることなく、今後も注意深く読んで行きたいマンガだなと思いました。

新しい恥図

 そして久米田康治先生の突発読み切り「新しい恥図」については、「畑健二郎が『新婚』がテーマの新連載を開始という事態をネタに、畑先生の師匠である久米田康治先生が痛快なギャグマンガを描く」という構図そのものが面白いですし、何よりも「こういう場に久米田康治が呼ばれてマンガを作る」とは、どういうことなのか? どんなマンガを作ることが、この局面において望まれているのか? という自身の置かれた状況を把握した上で、その「望まれていること」を完璧な形で仕上げて来た久米田康治先生の底力が、何よりも素晴らしいと思いました。
 「新しい恥図」はホントに心底面白いマンガなので、まだ未読の方はネタが新鮮なうちに読んでいくことを強くオススメします。

 思えば久米田先生も、自分自身の苦境を自虐的にマンガのネタにすることを厭わないリアリティーショー気質の作家と言えますが、畑先生も自身の結婚をネタにしたマンガを初めたところからすると、そんな師匠の作風というか、漫画家としてのを引き継いでいるとも言えるのではないのでしょうか。
 師匠から弟子に受け継がれていく魂の絆! 美しいですね!(おわり)

週刊少年サンデー 2018年12号(2018年2月14日発売) [雑誌]

サンデー12号は掲載作品が軒並み面白いという奇跡の号(贔屓目)

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