オイルショックまでは6年先で、高度経済成長期の終末間近の時代である。
良きにしろ悪きにしろ、日本という小さな島国の中の大きな転換期であったと言えなくもない。
世界の人々を驚かせ、あるいは呆れさせた自らを『経済大国』と自慢げに名乗るようになった島国は、その他の価値観までも埋め立て地の材料に使用しつつ『発展』の錦の御旗を今だ懸命に振り回していた。
I県の太平洋に面する小さな田舎町も、大きく変わろうとしている。
何の変哲もなかったこの小さな町に、大きな工業都市が新たに進出してくるのである。
町は大きく変わるだろう。
人も、文字どおり建物も。
「愛子!そろそろ帰ろ!!」
その田舎町の古びた教室の中で、放課後一人で机を拭いていた少女は静かに振り返った。
「愛子ぉ、まだ掃除してたの?」
愛子と呼ばれた少女は、黒髪をゆらしてにっこりと微笑んだ。
呼びかけた少女は活発そうな子で、愛子という名の少女ははかなげに見えた。
しかしこの2人は小さな町の幼なじみで、とても仲が良かった。
「いつも使ってる物だもの…………大切にしてあげないと」
愛子は木製の頑丈さだけが取り柄のような古い机を、優しげに撫でる。
「もう充分古いじゃない、そんな机…………ま、愛子らしいか。それより帰ろ!」
少女は愛子の手を引っ張る。
「待ってよ則子…………キャッ」
愛子はよろよろと床につまづき、則子と呼ばれた少女に倒れ込んだ。
「あ…………ゴメン!愛子大丈夫!?」
床に手を着き、愛子は姿勢を直した。しかし、呼吸が整わない。
「だ…………だいじょうぶ…………ちょっと足がもつれちゃって…………」
「……………まだ、体の具合悪いんだ…………」
心配そうに則子は、愛子の顔をのぞき込んだ。少し顔色が悪い。
「大丈夫よ…………大丈夫」
精一杯元気を見せようとしていたが、何かすごい無理を則子は感じていた。
なにか幼なじみの友………春木 愛子に漠然とした不安の影を感じたのは、その時が初めてだったかもしれない。
「……………来年、学校変わっちゃうんだって」
則子は愛子と歩きながら、古い学校を見つめながら呟いた。
「今の学校は取り壊されて、工場の用地になるんだって………代わりに新しいキレイな学校に移るんだってさ」
愛子は少し立ち止まり、古びた校舎を見つめる。
「私はイヤだな……………今の学校が好き。古びた教室や机が好き」
「変わってるわね、愛子は………新しい学校はプールもできるんだって」
「私…………泳げないもの」
則子は自分の迂闊さを呪った。愛子は子供の頃から体が弱く、海にも入れなかったのだ。浮かれていて、そのことをすっかり忘れていた。
「ご……………ごめん、愛子」
「い………いいのよ則子………私の方が悪かったわ‥‥‥‥‥」
気まずい沈黙が2人の間に流れた。
「…………ずっと学校を休んでいて、ようやく行けるようになって…………大好きだったの。あの学校も、古びた机も…………みんなには当たり前かもしれないけど、私には学校は特別なの」
「そっか……………愛子、ずっと休学してたものね」
たしか十二指腸腸炎だったと則子は聞いている。
「わざわざ教室に迎えに来なくても大丈夫だよ…………則子の方が先輩なんだから」
則子は恥ずかしげに首を振る。
「いいのよ…………愛子も早く体が良くなるといいね」
愛子はニッコリと微笑んだ。
「…………そうしたら色々なことをやりたいの。勉強もして、友達も沢山作って、遊びに出かけて……………」
「恋人もつくって?」
「則子ぉ」
愛子は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
当たり前の人間にはその本当の価値はまったく判らないのかもしれない『青春』と言う時代………この時代には、まだその言葉が当たり前に生きていた。
愛子が再び休学したのは、それからわずか二ヶ月後のことだった。
その間、彼女は一度もサボることなく授業をうけ、掃除をして、机を磨いていた。
かなりの無理をしていたのではないかと則子は思う。
影に日向に彼女を助けていたが、遂に愛子は倒れてしまい、そのまま入院する事になってしまった。
愛子は工業団地新設に伴い建てられた真新しい病院に入院していた。
現在では珍しくもないが、則子はあまりの立派さに目を奪われる。
そして則子が愛子の両親から、彼女が若年性大腸ガンであると教えられたのは、その初めてお見舞いに行った日のことだった……………
この時代、完全な不治の病であった。
則子はそのまま気を失いそうになった。
彼女のガンの転移は早く、すでに手の打ちようがなかった。
彼女の休学の理由は腸炎ではなかった。愛子と周りにはそう説明していただけに過ぎなかったのだ。
彼女の両親は、彼女の死期を悟り、無理をして学校に送り出していたのだ。
『学校に行くこと』が、彼女のたっての願いだったから…………
《泣いちゃダメ》
《悲しい顔をしてはダメ》
則子はありったけの理性を総動員して、感情を押さえ込もうとした。
愛子にこんな表情を見せてはいけない。
明るく、軽く、また学校に行けることが当たり前のように。
それが不可能であることは、彼女の両親から教えられている。
よほど則子を信頼していてくれたのだろうと思う。
あるいは、誰かに話しかったのかもしれない。
だが、則子は奇跡を信じる。いや、信じたかった。
「あーいこ!!元気にしてるぅ?」
彼女は10年分の理性を前借りして、努めて明るい笑顔を創り出すことに成功した。
17の少女に、並の努力ではなかった。
愛子の顔は、ますます白くなってきているようだった。点滴が痛々しい。
愛子はニッコリと笑った。その笑顔を創り出すのに、どれだけの苦痛を伴うのか、則子には辛かった。
則子は、授業のことや、学校のことを愛子に話して聞かせる。
愛子は嬉しそうに聞いていた。
「愛子、早く退院して、また学校に行こうね」
愛子はすぐに返事をしなかった。
「則子………ありがとうね」
「な…………何よ、どうしたの?」
「…………たぶん………もう学校には行かれない…………」
「何言ってるのよ!愛子、怒るよ!!」
「ごめん………則子」
則子はさらに10年分の根性を前借りして、努めて明るい笑顔を作った。
「愛子、学校で青春を謳歌するんでしょ!今度退院したら、パフェとかっての食べに行こうよ!!」
「うん」
愛子は小さく頷いた。
「私ね、体を直してね…………もっと沢山勉強したい。もっとたくさん友達を作りたい……………もっと沢山色々なところへ行ってみたい……………」
「体が良くなれば、どんなことでもできるよ」
「そうだね………………」
愛子は力無く手を差し出す。
則子はその手を優しげに両手で包んだ。
…………冷たい手、と則子は感じた。
「大丈夫だよ、愛子…………すぐに学校に行けるようになるよ」
「…………則子…………お願いがあるの」
「なに?」
「私が学校に戻るまで、私の机を拭いておいてくれないかな…………」
「…………愛子はホントにあの机を大切にしているね」
「…………そうじゃないの…………本当は私が毎日学校に行けたら使ってあげられるのに、私の体が弱いせいで使ってあげられないじゃない…………だから大切にしてあげたいの」
愛子はなぜか面白そうに微笑んだ。
「机も授業を聞きたがってるわ…………私にはね、判るんだ」
「机が?」
「物にもね、心が宿るのよ…………」
「……………そうだね、愛子がそう言うなら、きっとそうなんだね……………」
「私、がんばるから…………お願いね、則子……」
「まかせてよ!………それじゃ、今日はもう帰るからね!また来るね」
「うん………」
本当は則子は愛子の手を離したくはなかった。このまま離してしまったら、もう二度と彼女の手を握ることができなくなるのではないか……………
しかし彼女は決して表情には出さず、ややぎこちなくもその手を離す。
「じゃ、またね。今度はお見舞い持ってくるから」
笑顔を浮かべながら後ろ手に則子は病室の扉を閉めた。
そのとたん目から涙がとめどもなく溢れたが、泣き声はあげなかった。
忍耐力を10年分前借りして。
『今度』は無かった…………………
それが愛子と則子との永遠の別れとなってしまった。
その後、彼女の様態は急速に悪化し、面会謝絶となり…………
彼女は、天に召された。
神などいない、と則子は思った。
なぜあの子が死ななければならない?
昔から、優しい子だったじゃないか。私の方がよっぽど、イタズラや意地悪をしてきたじゃないか…………
体が弱かっただけだ。あの子のせいではないのに……………
彼女の机に花が飾られた。
則子は先生に頼んで、学校が無くなるまでの間、机をそのままにしてもらうようにしてもらった。
使う人のいなくなった机は少し寂しげに見える。
《机も授業を聞きたがっている…………》
則子はふと、愛子の言葉を思い出していた。
それから、半年が過ぎた。
今日がこの学校の最後の日。休みが終わったら、新しい学校に編入することになる。
記念の行事も終わり、夕方、則子は一人学校に残っていた。学校にはもうだれもいないはずだ。
《今日が最後…………》
則子はソロソロと廊下を歩きながら、かつて愛子のいた教室を目指していた。
《新しい学校には、新しい備品がある…………》
則子は『愛子の机』を持ち出す気でいた。どこかで利用されるのかもしれないが、そのままゴミにされてしまう可能性も大きかったからだ。
彼女の机を、廃棄物にしてたまるものか。
ソロリと愛子のいた教室に忍び込むと……………愛子の机のところに誰かがいるではないか。
《誰?…………こんな時間に、なぜあそこに???》
薄暗がりの中をよく見ると、髪の長い少女のようだ。セーラー服を着ているところを見ると、この学校の生徒だろうか?
誰かに似ている、と則子は思った。そう、彼女のよく知る………いや、知っていたあの子によく似ている。
その人影が振り向いた。
則子は悲鳴をあげそうになった。あげなかったのは、泥棒に入り込んだ後ろめたさからだった。
「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊!!!!」
その代わりに則子は気を失いそうになった。そう、その人影は……………愛子に、死んだ愛子にそっくりであった。
「…………幽霊???」
愛子の幽霊とおぼしきその人影は、キョトンと自分を指さす。
その次にその言葉の意味を理解したのか、不満げに言い放った。
「失礼ね。私は妖怪よ、妖怪。幽霊ではないわ」
妖怪と幽霊の差をイマイチ理解しかねる則子ではあったが、そんなことよりも愛子そっくりの自称妖怪が明確に反論してきたことに驚いた。
逆にそれが則子の混乱を押さえさせた。少なくとも、無言でとり殺そうとする存在ではないらしい。
「よ………妖怪??」
「そ。私は学校妖怪。ようやく力が付いてきたらしくて、こうやって人の姿を取れるようになったみたい」
ニコニコと自称学校妖怪の少女は笑った。妖怪とはこんなに明るく笑うものなのだろうか?
「????………じゃあ、あなたは愛子ではないのね?」
何がなんだかまったく判らない、と言うように則子は尋ねる。
「愛子?」
妖怪を名乗る少女はなぜか頭を抱えて考え込んだ。
「おかしいわ………今の私に名前があるはずないのに…………確かに私の名は『愛子』のような気がする………なぜなのかしら?」
「愛子なの?あなたはやっぱり愛子なの!?」
「…………そう、私の名は『愛子』…………でも、あなたの言う『愛子』ではないと思う」
「…………どういうこと?」
「だから、私はさっき生まれたばかりなのよ…………学校妖怪として」
「愛子ではないの?ここの生徒の、いや生徒だった、春木 愛子ではないの!?」
「…………それなら絶対に違うわ。私は人間ではないもの」
則子の頭は混乱した。そうだ、この子が愛子のはずはない。愛子は死んだんだ。死んでしまったんだ。
じゃあ、この目の前にいる愛子そっくりな、『愛子』と名乗る少女は誰?
しかし則子は奇妙な違和感を抱いていた。目の前の少女が彼女の知る愛子とまったく同じであれば、逆に不自然ではないかもしれない。
それならば幽霊でも生まれ変わりでも、逆になんでも説明が付けられるような気がする。
だが少し話してみて、則子は目の前の少女が彼女の知る愛子ではないように思えてきたのだ。
どこかが違う。
姿はまったく同じだ。性格が少し違うような気がするが、内面性は彼女の知る愛子と同じように思う。
だが何かが違う。上手く言えないが、どこかが。
《本人の言うように…………よ、妖怪だから???》
そんな説明を信じたわけではなかった。しかし、そんな部分の差ではないように思う。
混乱する則子をしりめに、愛子は軽々と『愛子の机』を持ち上げ、肩に担いだ。
則子は我に返る。
「ちょっ………ちょっとあなた!その机をどうするの!?それは愛子の机なのよ!!」
「…………私の机ではないわ。だって、これが『私』なんですもの」
「え…………」
愛子は肩に担いだ机をパンと叩いた。
「これが私なのよ。私は、机が変化した妖怪。この姿は仮の姿なのよ」
「……………机??愛子の、机???」
《物にもね、心が宿るのよ…………》
則子は愛子の最後の言葉を思い出していた。
彼女は………愛子の机……………
そんなバカな。そんなバカなことがあるはずがない。
「それは愛子の机なのよ、春木 愛子の!?あなたが机だと言うなら、覚えてないの?その机を大切にしていた娘のことを………」
かなり理論性が欠落した疑問だったが、この場合感情が優先した。
愛子はジッと則子を見つめる。
「そう、私を…………ゴメン、なにも覚えていないわ………それに、なぜ私だけが目覚めたのかも私には判らないの………ただ」
「ただ?」
「私がしなければならないことはわかっているの」
「…………何をしようと言うの?」
則子は身構えた。何かよからぬ事をしようというなら止めなくてはならない。勝てるかどうかは判らないが、愛子の姿で悪事を働かれては堪らない。
「決まってるじゃない」
それがさも当然、と言うように愛子は言葉を続ける。
「色々な学校に行って、色々なところを旅して、たくさんの友達を作って、沢山勉強するの!そして青春を楽しむのよ!!」
「え…………」
「『青春』………ステキな響きね…………」
愛子は言葉の響きに一人悦には入っていた。
則子は驚きで凍り付いてしまった。
《愛子…………それは愛子の夢じゃない…………》
その瞬間、則子は愛子に抱いていた違和感の正体に気がついた。
《この子は…………『愛子の理想像』だ…………》
愛子本人ではない。体が弱くて、おとなしい内向的だった死んだ愛子ではない。
明るくて、体が強くて、学校が大好きな、恥ずかしい言葉も平気で言える………『愛子の理想像』なんだと則子は理解した。
違和感の正体はそこだ。彼女に記憶はないが、彼女は確かに愛子の生まれ変わりなんだ。ただ、純然たる生まれ変わりではない。『理想像』に生まれ変わったんだ………本当に人間ではないのかもしれない。だが、それがなんだと言うのか?
その結論にたどり着いたと同時に、則子はボロボロと泣き出した。
驚いたのは愛子の方である。彼女には理由が判らない。
「わ………私何か言ったかしら???」
則子はいきなり愛子に抱きつくと、声を上げて泣き続けた。
「そう………そうだったの………」
愛子はとりあえず落ちついた則子から、全ての事情を聞いた。
「じゃあ、私が目覚めたのはその愛子さんのおかげかもしれない…………」
「え…………」
「『残留思念』とか『思い入れ』とか………あるいは愛子さんは霊能力を持っていたのかもしれない」
そうなのだろうか、と則子は考えた。
「それなら…………私………もう行かなくちゃ」
愛子は唐突に切り出した。
「え!?行くって、どこに!?」
「どこか遠い学校に………青春を探しにね」
「そ、そんな………この学校は無くなっちゃうけど、新しい学校に移るのよ。愛子、新しい学校に移れるんだよ!」
愛子は寂しげな表情で則子を見た。
「…………私は、机の妖怪。春木 愛子ではないの。あなたの友達の人間ではないの」
「………………」
「確かに私が目覚めたのはあなたの友達のおかげかもしれない………私はその影響を受けているかもしれない…………でもね、違うの。やっぱり私は、私なのよ」
「で、でも………」
「私がいるとね………あなたの友達を好きだった人を、みんな苦しめてしまうことになる…………私はね、そう言うのイヤなの」
則子は愛子の言いたいことを理解して、黙って頷いた。
愛子は『春木 愛子』が生き返ったと言うわけではないらしい。死んだ別人とそっくりな存在がいつまでもうろつき回っていたりしたら………いつまでも彼女を愛していた人達を苦しめることになる。
「…………あなたは、やっぱり愛子ね…………」
優しさはどこも変わらない。本当に机の妖怪であったとしても。
則子は最後に、愛子の手をとった。
温かい手だ、と思った。病室で最後に握った愛子の手はか細く、冷たかった。
こんな形で、再び手に取れるとは思わなかった……………
それだけで則子は涙が溢れそうになったが、堪えた。
「愛子…………あなたが春木 愛子ではないとしても………私の願いを聞いてくれる?」
愛子は少し首を傾げた。拒否ではなく同意のしぐさである。
「お願い、愛子………青春を楽しんで…………愛子の青春を楽しんで!!」
それが彼女の大切な友の夢であった。
愛子は笑って頷いた。
愛子のいた教室。
その教室に、愛子の机も、もうない。
しかし則子は、ずっとその教室に佇んでいた。
《神様は……………いるのかしら…………》
考えてみれば信じられない話だ。
愛子が大切にしていた机が妖怪として目覚め、愛子そっくりの姿をしている。
その机の妖怪が、自らを軽々とかつぎ上げてこの学校から………いや、この町から出ていってしまった……………
そんなバカなこと、あるはずがない。
確実なことは、愛子そっくりの何者かが愛子の机を持っていってしまったこと。
それだけである。
彼女の話は本当なのだろうか、と則子は考えた。
本当に春木 愛子が机の妖怪を目覚めさせたのだろうか?あの子にそんな能力があったのだろうか?
真実はもうわからない。
しかし則子には、そんな複雑なことではないように思えて仕方がない。
《………机の恩返しなのかも………》
則子は余りにも非現実的な仮説を打ち立てていた。
昭和41年。高度経済成長期の終わりの時代。この町から伝説も昔話も無くなろうとしている。
しかし『青春』と言う言葉はまだ力強く生きていた。そんな時代である。
机を小脇に抱えた少女は、自分が自由に歩き回れることだけでとても嬉しいと言うかのごとく、大きくスキップをしながら歩いている。
ふと星空を見上げて立ち止まると、子供のようにワクワクしながら一人呟いた。
「さて……………どの町に行こうかしら?」
それからのち彼女はあまりにも青春を追い求めすぎていたためか、自分の異空間の中に生徒を閉じこめてしまうような暴挙に出てしまったりするのだが………そのあたりは後の彼女の個性であったように思う。悪気があったわけではないのだが、独善的である意味歯止めが効かなかったのも確かだ。
『理想像』という物は、たいてい他人の迷惑までは考慮されていないものだからなのかもしれない。
彼女が横島の学校に流れ着くのは、これより32年後の事である。
伝説も昔話もとうに死に絶え、『青春』と言う言葉も無くなろうとしている時代である………………
【愛子が生まれた日 終】