もう一つの物語
第十五話 頼もしき仲間
4人は、深い森の中を歩いていた。
車は、脇に寄せて枝を被せて隠してある。
横島は、小竜姫に肩を貸して貰って歩いている。相当苦しそうだ。
早苗も、息が上がっている。
「はぁ、はぁ、た、確か・・・このあたりなんだけどな。」
横島は、周りを見渡す。
「ヒャクメさま。このあたりで、空間が歪んでいる所はありませんか?」
「調べてみるねー。」
そう言って、ヒャクメは周りをゆっくりと見渡していく。
ふと、その動きが止まった。
「ここから、200メートル程行ったところに、僅かな空間の歪みがあるねー。」
「行きましょう。大丈夫ですか?横島さん。」
「はぁ、はぁ、す、すんません。まだ、なんとか大丈夫っす。」
やがて、空間の歪みがある地点に到着した。
「ヒャクメ、お願いできる?
私は霊力が消耗してるので、空間に穴を開けることができないの。」
「やってみるねー。」
ヒャクメは空間に手を伸ばして霊力を送り始めた。
空間を無理矢理こじ開ける嫌な音が、静かな森に響く。
やがて、空間に穴ができた。全く違う景色が眼前に広がる。
「どこだべ?ここは。」
早苗が辺りを見渡そうとした。
だが、いつのまにか剣を持った複数の侍に囲まれている。
「ひっ!な、なんだべ?あんたら!」
「貴様らこそなにものだ。結界に近づいていた頃から監視していた。
どうやって、この場所を知った?」
侍は、早苗に剣を向けたまま、鋭い目をしている。
小竜姫は、片手で御神刀に手を伸ばした。
「どうも、お久しぶりっす。俺っす。横島っす。」
「・・・横島殿!?」
「すんません。事情は後でお話するっす。とりあえず、中に入れて貰えないっすかね。」
「おお、もちろん大歓迎でござる!シロの師匠ではござらぬか!
ささ、参られよ!」
ここは、人狼族の隠れ里であった。シロの故郷である。
4人は、長老の元へ向かった。
「そうですか。お二人は神族でいらっしゃるのか。
そして、横島殿は、魔族との混血であると。なんとまあ、
ワシの知らない内に、随分とお変わりになられたもんじゃわい。」
横島は、経緯を長老に話し終えた。
そして、自分たちをかくまって欲しいと。
「水くさいことを仰るものですなあ。横島殿は、シロの師匠ではござらぬか。
それに、以前の事件の時も、随分と世話になったもんですじゃ。
傷が癒えるまで、気の済むまでここにご逗留くだされ。」
「あ、ありがとうございます。長老・・・。」
そう言って横島は頭を下げた。
そして、頭を下げたまま、畳に倒れ込んだ。
「横島さん!」
「傷に加え、今までの疲労が重なったのねー!」
「長老様!申し訳ねえっすけど、寝るとこをお願いしますだ!」
「うむ。おい、ご案内するのじゃ!」
こうして、横島除霊事務所の面々とヒャクメは、人狼族の里へ、
身を隠すことになった。
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横島達が、人狼族の里に身を隠してから、1ヶ月半が経とうとしていた。
横島は、3週間目くらいから、歩き回れるようになっている。
今は、霊波刀の訓練を、人狼族の若者達に行っていた。
早苗や小竜姫、そしてヒャクメは色々な手伝いをしている。
畑仕事、食事の用意、木の伐採など。
特に、小竜姫は、見かけに寄らず非常に力が強いので、力仕事に重宝されている。
早苗とヒャクメは、結界の監視を毎日行っていた。
「それにしても、強力な結界よねー。」
「まったくだべ。何百年も、人に見つからずにいたというのは、伊達じゃないだべな。」
「今のところ、神魔族の目からは、逃れられているみたいだし、なんとか大丈夫そうよねー。」
「でも、いつまでここにいるんだろ。わたすは、山田君に会いたいべ・・・。」
「そうなのよねー。」
早苗は、別の結界を見に行き、ヒャクメは長老宅へ戻った。
4人は、長老宅へ居候しているのだ。
洗面所へ向かったヒャクメは、そこで小竜姫と会う。
小竜姫は、ちょっと苦しそうにしている。
「どうしたのー?小竜姫。」
「え?あ、ヒャクメ。昨日のお刺身があたったみたい。ちょっと気分が悪くって。」
「じゃあ、見てあげるわよー。一緒に部屋へ行きましょー。」
「・・・お願いするわ。」
こうして、小竜姫とヒャクメは部屋へ戻る。
小竜姫に線を繋げ、キーボードを叩いているヒャクメ。
そのヒャクメの目が、大きく開いた。
「・・・小竜姫!あなた!?」
「え?」
夕方になった。
長老宅がにわかに騒がしくなった。
部屋で話し込んでいた、小竜姫とヒャクメが長老の元へ駆けつける。
「どうかしたのですか?」
「結界に近づいているものがいるらしいのじゃ。人数は正確なところは不明だが、
4〜5名だそうだ。早苗殿が、知らせてくれた。早苗殿は、現在結界の入り口で、
監視と、結界の強化をしておられる。」
『ま、まさか神魔族特殊部隊!?』
やがて、横島も駆けつける。
「分かりました。もう、ここまで追っ手が来てしまっては、逃げることもできないっす。
とにかく、できる限りの事をしてみるよ。人狼族のみんなには、迷惑をかけないようにします。」
「何を言っておられるのじゃ。我らも戦うぞ!」
「いえ。これは俺の、いや、俺たちの問題なんっすよ。
人狼族のみんなを巻き込むわけにはいきません。俺たちを匿って頂いただけで、十分ありがたいです。
時間が無いっす。俺は、結界の入り口で待ち伏せをします。」
「私も行きます!」
「私も行くねー。役に立つかどうかわかんないけどねー。」
そう言って、急いで結界の入り口へ向かう3人。
早苗は、お札を使って入り口に、もう一重の結界を張っていた。
結界に、侵入者の接近を伝える影が映っている。
空間を結界でずらしているので、結界の外がはっきりとは分からないのだ。
「相手は、まもなく来るだべ!」
そう言って、神通棍に霊力を注ぎ込む早苗。
キンッという音と共に、霊気の棒が現れた。
「こんなことなら、もっと訓練しておくべきだっただな。今更だけど。」
「わりーな、早苗ちゃん。」
「それこそ、今更だべ。」
「来ます!」
小竜姫が鋭く叫ぶ。
結界はなんの抵抗もせずに、すんなりと開いてしまった。
「そ、そんな!?」
早苗が愕然としている。
侵入者を改めて見据える。
「おキヌちゃん!?美神さんも!」
なんと、美神除霊事務所の面々であった。
シロの通行手形を使ったので、結界を破る必要が無かったのである。
「ふん、やっぱりここに居たってわけね。
私の勘も、相変わらず冴えてるわねー。」
だが、小竜姫は構えを解かない。
横島は、美神を見つめた。
「・・・俺を殺しに来たんすか?美神さん。」
「あんたを殺すのは、私の念願だったしねえ。」
「そうっすか。」
そう言うと、横島は強力な霊波刀を出現させる。
おキヌが慌てて美神に叫ぶ。
「ちょ、ちょっと美神さん!冗談はこれくらいにしてください!
横島さんが、本気にしてるじゃないですか!」
「冗談が通じないやつは、もてないわよ?横島クン。」
「笑えない冗談は、趣味悪いっすよ?美神さん。」
ニヤリと笑う美神と横島。
構えを解く小竜姫と早苗。
後ろからそっと見ていたヒャクメも安心して出てくる。
シロが横島に飛びついた。
「せんせえええええええええ!!無事だったでござるかあ!!
拙者は、拙者は、うわーーーん!」
「相変わらず悪運は強いわね。横島。」
「久しぶりだな。ダチがピンチになってるってんで、力を貸しに来たぜ。」
強力な助っ人が、人狼族の里にたどり着いた。