もう一つの物語
第十八話 横島夫婦襲来!!
1ヶ月が経った。
横島除霊事務所の面々は、既に田舎の事務所へ戻っている。
大竜姫が引き上げていった3日後、美智恵が神界の通達を持ってきたのだ。
その内容とは、横島忠夫の抹殺は、当分の間凍結される。ただし、監視は継続して行われる。
小竜姫は、神界への反乱を企てた罪により、当分の間、人間界へ追放処分となった。
追放で済んだのは、横島の監視を継続して行うというのが条件となっている。
ヒャクメは、譴責処分で済んだ。
小竜姫の人間界への追放に伴い、正式に妙神山管理人の職が解かれる。
それは、妙神山に縛られていた小竜姫が、自由に人間界を行き来することができる事を意味している。
裏で、老師と大竜姫が、必死に上層部を説得した結果だ。
そして今、事務所は大忙しになっている。
除霊のために忙しい訳ではない。1ヶ月以上、契約を履行できなかったので、
かなりの違約金を払うことになったが、辛うじて深刻なダメージには至っていなかった。
事務所が忙しいのは、急遽決まった結婚式の準備に追われているからだ。
その結婚式は、明後日に迫っていた。
結婚式は、唐巣神父の教会で行うことになっている。
「それじゃ、みんな!出発するぞ!」
そう言って、事務所の面々は車に乗り込んだ。
早苗を美神除霊事務所に預け、小竜姫と横島は、空港へ向かった。
到着ロビーで、小竜姫はソワソワしている。
「あの、横島さん。この格好、変じゃないですか?髪は乱れてないですか?」
「大丈夫っすよ。大体、あの馬鹿親共が、そんなのに気づきませんって。」
突如、背後からサバイバルナイフと、出刃包丁が突き出される。
横島は、サバイバルナイフを指で押さえ、出刃包丁は軽くかわす。
小竜姫は、隠していた御神刀を思わず引き抜きかけた。
「いきなりじゃねーか。糞親父。おふくろ。」
「ふん、ちょっとは腕が上がったみたいだな。」
「忠夫。母さんの突きをかわすなんて、なんて親不孝なの!?」
「ふざけんじゃねー!!大体、飛行機の中は刃物持込禁止だろ!
そもそも、なんで背後にいるんだ!到着は次の便じゃねーのか!?」
「ふっふっふっ!馬鹿息子の裏をかくのは、当然のことだろ?
ゲリラ相手の基本戦術だ!」
「忠夫。びっくりした?」
「誰がゲリラやねん!!」
小竜姫は、親子の対面を呆然と眺めていた。
『人間の親子って、こんな風なのかな??』
「小竜姫さま。何考えてるか大体分かるっすけど、この馬鹿親共は、完璧に例外っすからね。」
「な、なんて事を!母さんは悲しい!」
「泣くな百合子!こんな奴は息子でも何でもない!」
「えーい、白々しい真似は止めろっつーの。まったく、恥ずかしいじゃねーか。」
「そうね。」
ケロッと百合子は復活する。
「さて、えーっと、あなたが小竜姫さん?」
「え、あ、はい!」
「忠夫!!!貴様どっから誘拐してきた!分かってるのか?
結婚目的の誘拐は犯罪なんだぞ!」
「いい加減にしやがれ!ボケ親父!」
いつの間にか、空港ロビー内は、横島親子と小竜姫を囲むように、人だかりができていた。
人だかりをかき分けるように、空港警察が駆け付ける。
「このあたりで、刃物を持った男女が暴れているという通報が!」
「ああ、それならここに・・・ぐはっ!!」
見事な連携で、横島のみぞおちに肘がめり込み、足の上にはスーツケースが落ちていた。
「はっはっはっ!そうか!尊敬する父に会えて、そんなに嬉しいか!」
「ほほほほほ!困った子ねえ・・・。痙攣するほど喜ぶなんて。」
のたうち回る横島の襟首をつかんで、怪しい笑いを発しながら、横島親子は空港を後にした。
小竜姫は何も言えずに、ただついて行くしかできなかった。
結局、美神除霊事務所に戻る。
「は?神族?このお嬢さんが?」
「つまり、神様ってわけなの?忠夫。」
横島と小竜姫、そして横島夫婦に早苗、美神除霊事務所の面々が揃っていた。
「多分、簡単には信じられねーだろうけど・・・ぶっ!!」
大樹が息子の頭をバンバン叩く。
「でかした!!でかしたぞ!忠夫!女神様の心を射止めるとはさすが俺の息子だ!」
「でも、見た目は人間と変わらないわねー。頭のツノ以外は。」
「このツノは、竜神族に備わるツノなんです。それで、その、私達の結婚を、認めて頂けるのでしょうか?」
「もう子供ができてるのよね?それに、あなたみたいな立派な方なんて、
うちの馬鹿息子にはもったいない位です。こちらから頼みたいくらいですわ。」
「ありがとうございます!!お義父様、お義母様!」
横島は、その様子を眺めていたが、何かを思い出したように話し出した。
「ああ、あと、俺、半分人間じゃねーから。」
「はあ?何言ってるのよ忠夫。」
「察してやれ。幸せすぎて頭壊れたんだ。」
「誰が頭壊れてるっちゅーねん。俺は半分魔族なんだよ。訳は今から話す。」
そして、今初めて、美神除霊事務所の面々も、ルシオラの事を全て知った。
「と言うわけだ。俺の体は、人間であった俺と、魔族のルシオラの霊基が
一緒になっているんだ。つまり、ハーフってことだな。正確にはちょっと違うけど。」
「ふーん。でも、忠夫は忠夫に変わりないのよね?」
「え?ああ、そうだけど。」
「それじゃ、なんの問題も無いじゃない。深刻な顔をするから、一体どんな言葉が
でるかドキドキしたわよ。」
「あの・・・それだけですか?お義母様。」
「小竜姫さま・・・。こういう親なんす。」
他にも、幾つもドタバタがあったが、遂に、結婚式当日となった。