フゥーーーッ!! ウニャンッ!! ウギャギャーーーッ! ウギャンッ!
一人の少年がとぼとぼと歩いている。それを遠巻きにして威嚇し続ける野良猫たち。 自分たちと同じ種族で自分たちより大きくて強い相手、それを本能的に察知して威嚇しているのだ。 だが、少年は重い傷を負っており、歩くことさえままならなかった…。 ぱたん… 深夜の児童公園の片隅に、倒れてしまった少年… 『母ちゃん、ごめん…。 ボク、母ちゃんを守れそうもないよ… うう… 兄ちゃん… ボクの代わりに、母ちゃんを……』 |
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「てめ〜〜っ! 何考えて走ってやがんだっ! あぶね〜じゃねえかっ!
も〜ちょっとで、大怪我するとこだったんだぞっ!?」
「キャインッ! ご、ごめんなさい。 で、でも、先生、たいした怪我はしてないんでござろう?」
「まあな…。 毎度のことで、スタントマン並のテクニックを身につけちゃったよ…。
ところで、なんで、急に立ち止まったりしたんだっ?」
「それなんでござる…。 なんか、妖怪の臭いがしたもんでござるから…」
「妖怪っ? あんまし、やっかいなことに首突っ込むんじゃね〜ぞっ?」
「先生、こっちでござるっ。」
妖怪の臭いのする方に向かって走り出すシロ
「こいつ、人の話を全然聞いてね〜のな…」
しかたなく、自転車に乗ってついていく横島
やがて、児童公園にたどりつく二人…
「先生っ! いたでござるよっ! あれでござるっ! 邪悪な気配は、なさそうでござるが…」
「あれか〜? なんか、子供がうずくまってるだけにも見えるけど…」
妖怪のそばまで来た二人 「先生っ! この子、ひどい怪我をしてるでござるよっ!? 「なにも、妖怪にそこまでする必要は… えっ!? この子はっ!?」 「先生、この子を知ってるんでござるのかっ?」 「ああっ! こいつはケイだっ! 化け猫少年のケイっていうんだっ!」 |
美神事務所…
「ふ〜ん…、それで、そいつを拾ってきたわけ。」
いかにも、やっかい者を連れてきたと言わんばかりの雰囲気で、冷たく言い放つ令子…
「一応、俺の文珠で応急処置はしたんですが、それでも、まだ目を覚まさなくて…」
「なんでこいつが都内に居たのか、なんでこいつが死にかけてたのか、それを考えるとね〜…
あんた、この子のことは、全部一人で処理するのよっ!? 金になりそ〜もない仕事は、する気なんかないからねっ!」
「ま、まあ、話を聞いてみないと、わかりませんから…」
一方、ソファーで気を失ったまま横たわっているケイと、手当てをしているおキヌたち…
「う〜ん、どうなんでござろうか?」
「そうね… 私のヒーリングが効いているのかどうかも、よくわからないんだけど… 妖怪さんの手当てと言えばこれしか…」
「あっ! 天狗どのの薬が有ったでござるよっ! 拙者、持ってくるでござるっ!」
「天狗の薬っ!? ちょ、ちょっと待った〜〜〜っ!!」
シロの言葉に反応して、大声をあげる令子
「えっ? なんか、まずいんでござるのか…?」
「天狗の薬って、その…、『倍櫓』でしょ…?」
「そうでござるが… 『倍櫓』がどうかしたんでござるのか…?」
「そ、その…、それは、きっと大人の男が飲む薬なのよっ!
だ、だから…、その…、男の子の妖怪にはねっ? その…、え〜い、もうっ!
とにかく、原液だと濃すぎるはずだから、う〜〜んと薄めて使いなさいっ! わかったわねっ!?」
「ようするに、子供だから薄めて飲ませろっていうことでござるな?
まあ、薬って普通そうゆうもんだとは思うんでござるが…」
令子の反応が理解できず、怪訝な表情をしながら薬をとりにいくシロ
たぶん、この場で令子の反応を理解できたのは横島だけのようだった…
ピクンッ! ピクピクッ! ビクンッ!! ギンギンッ!!
さすがは『倍櫓』、男の子には、良く効くようだ。
「うう〜ん…」
「あっ! 目を覚ましそうでござるよっ!」
「ケイ、大丈夫かっ? お母さんの色気は、あいかわらずかっ!?」
「この男の煩悩は、あいかわらずね…」 冷ややかな目で横島を見つめる令子と、 |
「あっ! 兄ちゃんっ! 兄ちゃんっ! 母ちゃんを助けて〜〜っ!」
「えっ? お母さん、どうかしたのかっ?」
「やれやれ…、やっぱし、やっかいな話を持ち込んで来たのか…
横島クン、あんた一人でなんとかするのよ。 私は関係ないからねっ!」
「と、とりあえず、兄ちゃんに、山で何があったか話してくれないか? ケイ。」
「うん…。」
ケイの話によると、1週間ほど前、ケイの住む山で大規模な山崩れが有ったらしい。
感覚の鋭い化け猫親子は、危険を察知してすばやく避難したので無事だったけど、
多くの動物たちは、土石の下敷きになって命を落としたというのだ。
その動物の霊たちが、突然の死を受け入れられず成仏できずにいたのだが、何を思ったのか、
山崩れが起きたのは山の神様が怒ったためであり、それはよそ者の化け猫が住み付いているからだ、
ということになってしまったのだ。
そこでこの化け猫親子を山の神様に生け贄として捧げようということになり、
親子は動物霊に襲われてしまったと言うのである。
「なんか、無茶苦茶な話だな〜。 言いがかりもいいとこだ。」
「怒りのぶつけどころがないと、誰かを悪者にしないと気持ちがおさまらないからね〜
人間だって、危ない新興宗教なんかは、そんな感じだしね〜」
「で、お母さんは、どうしたんだ?」
「奴らに……、捕まっちゃった…。 ボクを…、助けるために…、オトリになって…」
「………、そうか…。 ケイも死にそうだったけど、それも奴らにやられたのか?」
「うん…。 逃げるときに鹿の角につっかけられて… えっ? 傷が治ってるっ?」
「ああ、俺たちが治療してやったからな。 たぶん、もう大丈夫だよ。」
「兄ちゃん、すごいやっ! じゃあボクと一緒に、母ちゃんを助けに行ってくれるよねっ!?」
「えっ? う、うう…」
困った顔をして令子の方に振り向く横島…
「あんた一人で助けに行くってゆ〜なら、止めやしないけどね…。
でも、もう間に合わないかもしれないわよ? お母さんが捕まったのは二日前のことでしょ?
すでに生け贄として葬られてると考えたほうがいいわよ…。」
「うっ……」
「まだ大丈夫だわ。」 「えっ?」 ここまで黙って聞いていたタマモが、突然口を開く。 「タマモっ。 なんで大丈夫だってことがわかるんでござるのか?」
「だって、動物霊が山の神様に生け贄を捧げようとしてるんでしょ? 動物霊は、人間ほどせっかちじゃないから、 生け贄を葬るのは儀式の最後のイベントだから、 |
「タマモ、詳しいんでござるな…」
「森ではよく聞く話じゃないの。 あんたの里では、こんなことも教わらないの?」
「うっ… せ、拙者の里では、そんな儀式、やったことなかったでござるから…」
「ふ〜ん、タイムリミットは一ヶ月か。 でも、そんなに長く休みはやれないわね。
横島クン、1週間で片をつけてきなさい。 それ以上休んだら、あんたの給料、減らすからねっ!」
「美神さん…、やっぱり俺一人で行くんスかぁ〜?」
「兄ちゃんが来れば大丈夫だよっ! だって、兄ちゃん、強いんだものっ!
ボクらを殺そうとしたそこのオバちゃんだって、やっつけたじゃないかっ!」
「オバ… オバちゃんっ?」 (ピキピキッ!)
「あああ…」
「先生っ! 拙者も助太刀するでござるっ! この子を見つけたのは拙者でござるからっ!」
「ダメっ!!」
「えっ?」
「横島クン一人が抜けるのも痛いのに、シロにまで抜けられたら仕事にならないわっ!
いったい、誰が荷物持ちをするっていうのよっ!」
「で、でも、拙者…」
「ダメと言ったらダメっ!!」
「うぐっ…!」
とりつく島もない令子っ! どうやら、横島一人で行くしかないような雰囲気に…
たしかに、お金にならない仕事を令子が積極的に行うなどとは、誰も考えてはいなかったのだが…
後編につづく