バリアは誰のため?
著者:まめだちょう
なんの目的か星乃湯に来たブラッド
「よう、セイリュートは?いないのか?」
「今日は忙しくて来れないってさ」
「なんだ、じゃあ帰る。セイリュートによろしくな」
ブラッドが帰ろうとリョウに背をむけたその時
「私ならいるぞ」
リョウの右斜め前、ブラッドのちょうど真後ろにセイリュートが現れる
「あれ?さっき見つけた異常電磁波の分析で忙しいって言ってなかたっけ?」
「いや、まあ、それは今コンピュータに計算させている所で・・・
そ、そうだブラッド、お前に渡そうと思っていたものがあってな。
この間の弾道解析プログラムの礼だ」
小型の機械とFDのような形をした記憶媒体をブラッドに手渡す
「これは?バリア発生装置?」
「銃撃戦になったとき防御は重要だからな、
チャカに装備させてデータをインストールしておけば
銃を撃ちながらバリアが展開できるはずだ
ただ、バリアは結構エネルギーを食うから無駄に展開しないで欲しい
エネルギー源は私(セイリュート)だから使いすぎると
いざと言う時に他の支援オプションが使えなくなるからな」
「あ、ありがと」
(これってオレ”だけ”のためにセイリュートがわざわざ?)
ひとりで勝手に妄想を膨らませるブラッド
そんなブラッドを尻目にセイリュートはさらに話を続ける
「あとリョウ殿の場合はボディがカナタ様のものだから装置は既に内蔵されているぞ」
(エッ?)
「二人とも言ってくれたらいつでもバリアを展開できるからな」
(エッッ?)ドヨ〜、部屋の隅でうなだれているブラッド
「ん、どうしたブラッド。気分でも悪いのか?」
「・・・なんでもない」
「ダメですよセイリュート」
隣の部屋で話しを立ち聞きしていたユウリとカナタが口を挟む
「そういうときには『ウソ』でもいいから『ブラッドの為だけの装置』とか言ってあげないと」
グサッ
「セイリュートもちょっとは『シャコージレー』を身につけたほうがいいカナ」
グサッ
さらにリョウが追い討ちをかける
「あのさぁお前ら、多分こいつお前らの言葉に1番傷ついてるぞ」
ブチッ
「貴様にだけは同情されたくない〜〜〜〜〜〜〜」
銃を乱射するブラッド
「う、うわセイリュート、バリア〜〜」
「逃げるな〜、貴様だけは殺す」
「セイリュート、こいつを何とか説得してくれ〜」
「で、このバカがバカみたいに発砲したせいでうちは4度目の倒壊か」
リョウのバリアにはね返ったビームが壁のほとんどをを壊した為、屋根が崩れ落ちた星乃湯
「バカバカうるさい!セイリュートが元に戻したんだからいまさらグダグダ言うな、このバカ!」
「二人とも大人気無いカナ」
「「おまえにだけは言われたくない!!」」
「ところでブラッド、なんの用で来たんだ」
セイリュートが二人の放っておくと永遠に続きそうな喧嘩を止める
「ああそれなんだがな、俺のかつての盗賊仲間が知らせてくれたことによると
最近オリオン腕付近に出没する盗賊団が今度は地球を狙っているらしい
目当てのものが他の星には無かったと言う事だ」
「たしか、盗賊団退治のポイントは・・・」
「『武装侵略者撃退』と同じだから2848ポイントだ」
セイリュートが言葉をつなぐ
「ってことは、ひさびさの高得点のチャンスだな」
「ん、先ほどの異常電磁波の正体がわかったぞ」
セイリュートがゴーグル(?)をつけた状態で言う
「高度なステルス機能を持った宇宙船がワープから出た時に発生するものだ
ただ、ナ・リタ製の宇宙船とは違う、安心していい」
「つまり、例の盗賊団のものである可能性が高いと言う事か?」
リョウがセイリュートに尋ねる
「状況から考えてそう考えていいだろう」
「よし、セイリュートは急いで連中の居場所を特定してくれ」
「了解した・・・いや、どうやらその必要はなさそうだ」
「?」
「敵のほうからこっちに来てくれた様だ
正面から二人、裏口から一人。全部で三人だな
今の状況ではこちらに少しでも多くの戦力があった方がいい。ブラッド、協力してくれないか」
「ああ、セイリュートに頼まれりゃ断るわけにもいかねぇしな」
「助かる。で、誰が裏口の敵を相手する?」
「俺がやる」ブラッドが名乗りをあげる
「カナタは臨機応変に行動できないし、リョウはその体にまだ慣れてない
だとすれば俺が行くしかないだろ」
「悔しいが正論だな、だが負けんじゃねえぞ
おまえがやられたらその時点で中に入って来られるんだからな」
「それはこっちの台詞だ。へますんじゃねえぞ」
というわけでこっちは星乃湯正面
「おまえらが噂の宇宙盗賊団か、目的はなんだ、まあもちろん聞いた所で渡したりはしないが」
リョウが相手を挑発するような話し方で尋ねる
「俺達は酸化水素を専門に扱っていて
ここにはそれが多量にあると言うことだから、来たってわけだ
目的は酸化水素だけだから抵抗しない限り傷つけたりはしない
俺達は強盗じゃないからな」
盗賊団の一人が答える
「酸化水素?なんだそれ?おまえ知ってるか?」
リョウがカナタに尋ねる
「地球では水って言うカナ、宇宙では酸化水素の方が一般的カナ」
「へぇ、で、水なんてなんに使うんだ、まさかのどが乾いたってわけじゃないだろ」
今度は盗賊の方に聞く
「簡単だ。宇宙では酸化水素は貴重品でな。
酸化水素を必要としている星に大量に売れば俺達は大金持ちってわけだ」
「残念ながらうちじゃあ水は商売道具でね、でめえらみてえなチンピラにはやれねえよ」
「ならば仕方が無い、実力行使だ。いくぜ!」
「予定通りだな。行くぞ、カナタ」「わかったカナ」
その頃裏口
「てめえが俺と戦う野郎か。なんか弱そうだな」
ブラッドが自分と戦う事になった相手を見て言う
「お褒めに預かり、光栄ですな」
「誰も褒めてねえぞ」
「確かに私は体力はそれほどありませんが・・・
武器の開発、扱いに関してはエキスパートなんですよ!!」
「な、この武器は?!」
盗賊が構えたバズーカらしきものから発射された青白い光がブラッドを襲う
再び正面
「うぉりゃー」
敵に向かって突撃をかけるリョウ
「む、パンチか」
狙われた盗賊はカウンターの体勢を取る。だが、
ダダダダダ リョウの額から発射された無数の銃弾、そのすべてが命中する
「食らえ」休む間もなく今度は肩からバズーカを発射する
「カナタ今だ」
「もらったカナ。青龍刀 抜刀!!」
決まればとどめとなりうるコンビネーション攻撃だった、しかし
フッ カナタの手の先に出ていた光の刃が消える
「なっ、くそ」
セイリュートの攻撃が出なかったためリョウが肩のバズーカで攻撃を加える
「やったか?」
だが、もうもうと上がる煙の中から現れたのは
無傷とは言えないものの、バリアを展開して防御した盗賊の姿
「やっぱり、最後の攻撃のタイミングが遅かったか
その隙にバリアを張られたみたいだな」
「セイリュート?どうしたのカナ?」
セイリュートに攻撃しなかった理由を尋ねるカナタ
「現在裏口の方でブラッドが高出力でバリアを展開してるため
チャージしていた分のエネルギーを使いきって現在再充填中です。もう少しお待ちを」
「ってことはブラッドは苦戦してるのカナ?」
「はい、敵が新兵器のチャージパーティクル砲を所持しています」
「パーティクル砲?それは確かナ・リタでも最近開発されたばかりのもののはずカナ
なんで盗賊がそんなもの持ってるのカナ?」
「わかりませんが・・・ブラッドのバリアの耐久率が30パーセントを切りました!
もうすぐ破られます!」
カナタが少しの沈黙の後、口を開く
「・・・セイリュート、ブラッドを助けに行くカナ」
「し、しかしこっちだって展開は五分五分、私が離れては・・・」
「かまわねえよ、こっちはこっちでカナタと俺で何とかする」
「リョウこうも言ってるから大丈夫カナ
今からセイリュートは支援オプションを独断で使ってもいいカナ」
「わかりました。リョウ殿、カナタ様をよろしく頼んだ」
裏口に向かって飛んで行くセイリュート
「カナタ、おまえよく言ったな」
「セイリュートはカナタの友達カナ。その友達にしたいようにさせるのは当たり前カナ」
「なるほど、ならこれ使え」
「これは、超振動剣・・・そんなことしたらリョウは丸腰カナ」
「おれは、素手の方が慣れてる。けど、おまえは慣れてないだろ」
「ありがとうカナ」
「礼を言うのはこいつらをぶっ飛ばしてからだ。いくぞ」
「わかったカナ」
「なるほど、バリアで私の攻撃を防ぎましたか、でも、いつまで持つでしょうね」
パーティクル砲の連続的な攻撃はブラッドのバリアの耐久度を減らしていく
「うるせえ、セイリュート特製のバリアが貴様ごときに破られるかよ」
「強がるのもいいですけど、もうあなたのバリアの耐久率が10パーセントを切りました
あと5秒もしないうちに破れますよ」
「5秒もあれば充分過ぎるな、収束ビーム!!」
上空から降り注いだビームが盗賊に命中する
「この声と攻撃・・・、まさか?」ブラッドが振り返る
「遅くなったが助太刀に来たぞ、ブラッド
今の攻撃はエネルギーが不足していて最大ダメージではないが
不意をついたからそれなりに効いたはずだ。今のうちに全力で攻撃しろ」
「セイリュート・・・OK援護してくれ」
「了解した。拡散ビーム!」
今度は無数のビームが盗賊の周囲に降り注ぐ
「チャカ、狙撃形態」「ピィ」
チャカの銃撃が盗賊の頭上をかすめて上への動きを牽制する
「しまった、これじゃ動けない」
「体力の無いやつが、ケンカに出てくんじゃぁ・・・ねぇ!!」
ブラッドのパンチが身動きが取れなくなった盗賊の急所に入る
はずだった、
「手答えが無い?まさか立体映像か?」
「そういう事です。あなたみたいな戦闘能力の高い人の目の前に
考えも無しにのこのこと出て行ったりしませんよ」
今度は横からパーティクル砲の砲撃がブラッドを襲う
「くっ、セイリュート、バリア!!」
「まずいな、既にバリアの耐久度はかなり減っている
・・・だとすれば私が。収束ビーム!!」
「おっとその対策も既に出来てるんですよ」
衛星軌道から発射されたビームは盗賊を外れる
「なっ?!」
「妨害電波ですよ。これが効くかどうかは賭けでしたけどね」
「そうか、じゃあ次のプレゼントは妨害電波があっても狙えるようなプログラムだな」
ブラッドが砲撃に耐えながらつぶやく
「次なんてありませんよ。あなたはここで死ぬんですから」
その時ブラッドの後ろからセイリュートが叫んだ
「ブラッド、そのバリアには切替え装置がついていて
その時の攻撃に有効なバリアに変える事が出来る。左から3つ目のボタンを押せ」
「あ?これか?」
ポチッ セイリュートに言われた事にしたがってボタンを押すブラッド
「これは?急に負担が減った?」
「Cタイプは微弱な振動を起こす事で粒子系の攻撃を切り裂きながら防御する
そうやって少ないエネルギーで効率よく防御できるというわけだ」
「いけるぜ、これなら。食らいやがれ!」
バリアを左手に突撃して行くブラッド
「まずい」身を翻して去って行く盗賊
体力が少ないとか言ってた割に逃げ足だけは速い
そんな盗賊にブラッドは余裕たっぷりに話し掛ける
「ところで盗賊さんよ、おまえが言ってた妨害電波の発生源ってこれか?」
「あっ、いつの間に?」
「その反応を見ると図星のようだな
盗賊やるならもうちょっとポーカーフェイスってのも身につけたほうがいいぜ」
バキッ 妨害電波発生装置を握りつぶすブラッド
「今だセイリュート」
キッ「収束ビーム 発射」
「ぐぁ」
「とどめ!!」
今度こそブラッドのパンチは盗賊の急所に入る
「よし、こっちは一丁上がり。ところでセイリュート」
「どうしたブラッド」
「このバリアの切替え装置の事だけど、その・・・やっぱりリョウのにもこの機能が?」
「なんだ、そんな事か。リョウ殿どころか、カナタ様のものにも無い機能だ」
「ってことは今度こそ俺だけのための機能か?!」
クスッ「そういう事だな、しかし役に立ってよかった」
「ああ、おかげで助かった。これでセイリュートには借りが出来たな」
「よせ、私達は仲間だ。借りも貸しも存在し得ない」
「仲間か、そうだな」
「っと、こうしてる場合じゃないな。こいつは俺が捕まえておくから
セイリュートはカナタ達の所に行け」
コクリと大きくうなずきながら再び星乃湯の正面に戻って行くセイリュート
その後ろ姿を見ながらブラッドがつぶやく
「『仲間』・・・か」「ピィ?」「あ、いや、なんでもない」
ズシャッ
「よし、こっちは倒した」
リョウも一人倒したようである
「カナタ、そっちはどうだ?」
「こいつ、強いカナ。やっぱりセイリュート無しはつらいカナ」
「カナタ諦めるんじゃねえ。ここは俺が・・「カナタ様!ご無事ですか?!」・・」
「セイリュート!?セイリュートが来たからにはこっちのものカナ 青龍刀 抜刀!!」
ドゴーン
「これで全員倒したな」
星乃湯の中で倒した盗賊3人を集めて相談しはじめるカナタ達
「で、こいつらどうする?」
「分解して粒子ビームで辺境監視団に送るのがいいだろう」
そんな議論を交わしているリョウ達の前で盗賊の一人がつぶやく
「くそ、1リットルの酸化水素も売りさばけずに、盗賊人生を終わる事になるとはな・・・」
「へ?1リットル?おまえらそんなもんも手に入れられなかったのか?」
「何を言う、その1リットルを手に入れるために
俺達は30年の年月とこの国の通貨で言う一億円分の燃料を費やして来たんだ」
話しを聞いているうちにだんだん連中が哀れになってきたリョウ
「もういい、1リットルでいいんならやるから、さっさと帰れ」
ユウリがペットボトルに水を入れて持ってくる
「こぼさないように持って帰ってくださいね」
「本当にくれるのか」
「何度も言わせるな、やると言ったらやる。そのかわり2度と盗賊なんかするんじゃねえぞ」
たった1リットルの水を手に去って行く盗賊達
「この恩は一生忘れないからな」「鬱陶しいから早く忘れろ」
こうして地球はまた侵略者の脅威から逃れ、カナタ達も少しくらいはポイントを手にした・・・
と、思われたのだが
「リョウ殿、先ほど調べたのだが、
水1リットルは最も高い星では日本円に換算すると1兆円はするらしい」
「1兆円?!たかが水1リットルで?!」
「先ほど盗賊が言っていた通り、宇宙には水が無い開拓星も多いから
そう言う所で水の需要が自然と増えて値段が高くなる事はよくあることだ
で、今回はむしろ盗賊に利益を与えたということでポイントはマイナス2万ポイントだな」
「「「「「「?!」」」」」」誰よりリョウ本人が一番驚いている
「ガードロイヤルって減点制じゃないのか?」
「原則的にはな。ただ今回は盗賊に渡った利益があまりに大きすぎる」
「ってことは残りのポイントは・・・」
「100万2357点だ」
「さ、最初より増えてるカナ?!」
眩暈を起こして頭から倒れるカナタ
その時背後に殺気を感じたリョウ
「リョウてめえ何してんだ〜〜。人の苦労を無どころかマイナスにしやがって!!」
「いや、ちょ、ちょっと待て、話せばわかる」
「問答無用!!」
「セ、セイリュート、バリア〜〜」
こうして銭湯「星乃湯」は5度目の倒壊の道を辿り
カナタ達のガードロイヤル達成への道のりは一段と遠くなった
「はぁ、いつになったらガードロイヤル終わるのカナ」
「・・・『仲間』か」
「ん、セイリュート?どうかしたのカナ」
「あ、いえ、なんでも・・・」
終わり