epiloge
バシ キシャー
廃ビルの通路に打撃音と悪霊の断末魔が辺りに響く。消滅する霊体の破片で周囲が霞む。
「ほらっ!!次来るわよ。オキヌちゃん雑魚の動き押さえてて、シロ!タマモ!あんたらは左右の奴を片ずけてて、正面のはあたしが・・・・」
飛び出した美神の神通棍で四散する霊達。
「美神さん!!」
オキヌが叫ぶ。行き成り背後から飛び出してきた一匹。
「しまった、まだ(後ろに)いたの!!」
既に通ってきた通路の序霊は終わったと思っていたので、手薄になっていたので出遅れて防御が間に合わない。思わず一撃は覚悟して目だけは守ろうと瞑る。
(くそっ!!あの馬鹿がいれば・・・・・・)
悔やんだがいない者に頼っても仕方ないと諦めた時に霊気に感じる光があった。
(霊波の盾?)
ヒュン ヒュン ズバッ
美神に迫っていた霊を天井から床まで届きそうに長い霊波がその霊を真っ二つに切り裂く。断末魔すら上げる事すら叶わぬままに霧散する霊。そのままに霊波はまるでホーミングされたブーメランのように四人を取り囲んでいた霊を矢継ぎ早に切り刻み消滅させる。
「横島さん」
「せんせい」
まるで安物アメリカ映画のような主役の登場にポアンと頬赤らめるオキヌとシロ・・・・・・・・であったが。
パカーン
その頭にパンプスが直撃する。
「横島〜〜!!あんたどこで油売ってたのよ。女性四人にだけ仕事任せるんじゃないわよ。今夜が復帰戦なんだからみんなブランクあるんだからあんたがシッカリにないでどうするの」
何故か助けられたのに助けた方に文句を言う。どうやら顔を赤らめる仕草を二人に先を越され頬を染められて悔しかったらしい。
「(ゼーゼーゼー)ダー!!(ゼー)じゃあ復帰戦で(ゼーハー)いきなり(ゼー)こ こんな仕事(ゼーハー)ととと とってこないでくだ(ゼー)さいよ」
流石の横島も文句を言うが、息が切れまくっているので説得力がまるでないようだ。
「しょうが無いでしょう。免停で今年の稼ぎ少ないんだから。多少キツクても上がりが良かったんだから」
「(ぜー)まったく。じゃあ(ゼー)せめてこの荷物を何とか(ゼー)してくださいよ。少しはみんなで受け持とうって気持ちないんですか」
いつものように「ギネスに挑戦」な荷物を持たされ、今まで30階立てのビルをエレベータも無しに歩いてきたのだ。しばらく悪霊をしばいていないので、いけいけどんどんな美神に引っ張られてビル登山レースのようなペースで登ってきたのであった。身一つの女たはまだしも彼には思い切りきつかった。なにがし、それ以外の意志もあるような気がする横島であった。まるで大荷物を持たされての艱難辛苦な表情を楽しむような気が・・・。
「オキヌちゃん、お札は後どれぐらい手持ちがある?足りない分は(横島君の)荷物から補充しといて。それまで小休止」
抗議する横島をありていに無視する4人の女狐共。タマモに美神までは分かるが、シロにオキヌまでも少し持ちますとは言ってくれないので壁際に体育座りで拗ねて見せる。
「ん?」
美神が何かを感じたらしく、壁に「ここの所が好き」と独り言をしゃべっている横島の所までやってきた。
「しょうがないわね。荷物はあたしが面倒見ててあげるわよ」
「え?本当すか」
「本当本当。ほら早く下ろして下ろして」
「うう、美神さんにも人を思いやる気持ちがあったんですね」
一瞬ピクリと顔と拳が動いたが、気を取り直していそいそと横島が荷物を下ろすのを甲斐甲斐しく手伝ってやる。
あまりの豹変に感激する横島。まるで新婚で帰宅した夫に対して、玄関先で背広を脱がすラブラブな新妻のような風情。これは愛の告白に違いないと飛びかかろうとしているその体を袖引き込みで向かう先の通路に突き飛ばす。
「なに考えてんのよ!!調子に乗るんじゃない」
今にも「お風呂にする、お食事それとも・・・・・・・」とでも言いそうであった新妻が行き成り「この宿六、出て行け離婚じゃ」とでもいいそうな鬼嫁に豹変したように視線は非情に冷たい。
「な なんでじゃ。イケイケ女王様が本当の愛に気がついて改心したと思ったのに!!」
「だれがイケイケ女王様よ。・・・・・まあいいわ。じゃあ、頑張ってね。大事な荷物はあたし達が見ておいてあげるから、帰るときには又担がせてあげるから後よろしくね、横島君」
「へ?」
キシャー
ヒステリックな遠吠えが当り一面こだまする。見ると今までの奴とは比べくも無い悪霊が現れていた。
「ほら、どうやらアイツがどうやらラスボスみたいだからお願いね」
通路先には身の丈4メートル近い悪霊が現れて横島に襲い掛かかってくる。
「あたし達もう霊力無いから後は宜しくね〜。女を守るのはアンタの義務でしょう。頑張ってね〜〜〜」
「わー!おに〜!!」
笑って、幸せの黄色いハンカチで見送りする美神らであった。何故か後の三人までもそれに習っている。
(なんでシロやオキヌちゃんまで・・・)
オキヌやシロも事務所に顔を出さなかった間の、いわゆるハーレム状態な毎日であった時の事を知っていたので、美神と同じく態度は冷たかった。
「やっぱり俺転職しようかな・・・・」
そう思いつつも、何か懐かしいような感触・・・・・・・、そして彼以上の彼女らであった。
劇終
※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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