『 バブルの崩壊 』

著者:まきしゃ


    某日夕方 ビジネス街のビルの中 悪霊を追い詰めた令子たち
悪霊 『き、貴様ら、借金取りだな〜〜? 金なんか返さね〜ぞ?』
令子 「あ〜あ、なんで今ごろバブル崩壊当時の悪霊が出てくるのよっ!
  借金残して死んだくせに、これ以上、人様に迷惑かけるんじゃないわよっ!
  GS美神令子が、極楽に行かせてあげるわっ! 吸印っ!」
   
  御札に吸い込まれそうになった悪霊が、霊体の泡に変化して美神に襲いかかる!
令子 「えっ!?」
  べちょ〜  身体中が泡だらけになってしまった令子…
横島 「み、美神さんっ!?」
   
  ズズズッ  ズズッ  ズズズゥ〜〜〜〜
  美神が吸印札を自分の方に向けなおすと、霊体の泡は掃除機で吸い取られる様に
  美神の身体からはがれていく。
  そこから現れた美神の顔は、不機嫌そのもの…
   
横島 「あ、あの、美神さん。 タオルです…」
令子 「ん? ありがと。 あ〜もうっ! 霊体のカスはタオルだけじゃ取りきれないわっ!
  みんなっ、すぐ帰るわよっ! とにかく清めの水でシャワーを浴びないとっ!」
  帰ろうとする美神の後をぞろぞろとついていく四人…
  ふいに振り返った令子
令子 「ちょっと、そこの二人、なんで、ついてくるのっ!?
  それに、あなたたち人間じゃないわね? 悪意は無さそうだけど…」
シロ 「拙者たちのことでござるか…?」
タマモ 「どうやら、そのようね…」
   
キヌ 「美神さん、しっかりしてくださいっ! どうしちゃったんですかっ!?」
令子 「えっ? どういうこと…? おキヌちゃん、この女の子たちのことを知ってるの?
  そ、それよりおキヌちゃんが人間になってるっ!? あんた、いつのまにっ!?」
   
キヌ 「よ、横島さんっ!」
横島 「ああ…。 どうやら部分的な、記憶喪失みたいだっ!」
   
  令子に自身の現状をなんとか理解してもらおうと努力する横島とキヌ
令子 「たしかにね〜、部分的な記憶喪失、それも新しい出来事ばかりを覚えていないって
  いうのは認めるわ。 でもね〜、な〜にっ!?  横島がGSっ!?
  それも、やたらと能力が高くて、妙神山で私と同じレベルの修行をしただとぉ〜〜!?
  そんなこと、あるわけがないのよ〜〜っ!!
  信じろったって無理だわ〜〜〜っ!!  キィィィィィ〜〜〜〜〜〜!!!!
   
横島 「なんてこったぁ〜、美神さんの記憶は俺のGS試験の直前までしかないなんて〜〜
  無理目の女が射程距離圏内に入った、ターニングポイントの出来事なのに〜〜
  うぉ〜〜〜、もし記憶が戻らなくて、今から信じてもらうしかないんだったら…
  俺はっ、俺はっ……、元なんか取れるわけがねぇ〜〜〜〜っ!!」
   
キヌ 「み、美神さんっ! 横島さんっ! あああぁぁぁ。」
シロ・タマモ 「…………」
   
令子 「おキヌちゃん、心配しないで。 横島のことが信じられないだけで、記憶喪失ってことは、
  理解してるんだから。 ようするに、霊体の泡をかぶったからこうなったんでしょ?
  おそらく、それが私の頭の中に進入して、記憶回路の一部を遮断してるんだわ。
  それを取り除けば、解決するわ。 みんな、病院に行くわよっ!」
   
   
  白井総合病院  令子に呼び出された冥子も到着…
令子 「みんな聞いてっ。 ナイトメアを退治したときのこと覚えてる?」
横島 「ええっ。 美神さんの心の中を覗ける大チャンスだったのに、結局覗けないまま
  冥子ちゃんのプッツンで、終わってしまった事件ですねっ!」
キヌ 「横島さんが、美神さんの深層意識の底に名前をきざんでおこうとしていたわけが、
  当時はわからなかったんですが……」
冥子 「令子ちゃんの精神構造がイメージしたお城って、きれいだったわ〜〜」
   
令子 「あんたら、もう少しましな思い出し方が出来んのかっ!
  私が思い出して欲しいのは、私の記憶や思考の入ってるドアのことよっ!」
横島 「そういえば、城から入ってすぐのところに、ドアが沢山有って…」
令子 「そう。 で、その1つをバカが開けたら、最新の記憶のドアだった。」
横島 「あ、あはは…」
   
キヌ 「美神さん、つまり、そのドアが幾つか今は開かない状態なわけですね?」
令子 「そうよ、おキヌちゃん。 私の知ってるおキヌちゃんより、とても賢いわっ!
  横島は、私の知ってるバカな横島のままみたいだけど。」
横島 「うっ…。」
   
令子 「冥子、もうわかったでしょ? あなたを呼んだわけを。」
冥子 「ええ。 ハイラで令子ちゃんの中に入って、ドアの前の邪魔なものをどければいいって
  ことでしょ〜〜? でも、どんなのがいるのかしら〜、冥子、不安〜〜〜。」
   
令子 「どうせ、霊体のカスがくっついてるだけよ。それに、ナイトメアのときと違って
  私自身は支配されてないから、豹じゃなくて本体のままで待ってるわ。
  そおね〜、冥子が不安なら、おキヌちゃんも連れてきていいわよ。
  三人でなら、なんとかなるでしょ?」
   
横島 「えっ? あの、美神さん。俺はっ!?」
令子 「横島クン、あんた、ナイトメアのとき、何したいって言ってたっけ?」
横島 「うっ…」
令子 「そんな奴、私の頭の中に入れるわけないでしょ?
  あんたは、この件が終わるまで、バイトはお休みよっ!」
横島 「え〜〜〜っ!? いつまでですかぁ〜?」
   
令子 「さあね〜? ナイトメアの時は3日間眠り続けたんだったわね。
  それよりは早いかもしれないけど、どうなるかはわかんないわ。
  あと、お見舞いも来ちゃだめだからね。」
横島 「えっ? なんでっ!?」
   
令子 「美女が三人、熟睡してるのよ? そんな所に、あんたが一人で見舞いに来た場合、
  セクハラしないなんて、物理的にありえないのよっ!」
横島 「うぅ…、なんか懐かしいセリフだなぁ…」
シロ 「先生…、否定しないってことは、セクハラする気でござったのか…?」
   
令子 「話しはついたわね。 じゃ、冥子、お願いよっ!」
冥子 「わかったわ〜、令子ちゃん〜。 おキヌちゃん、いくわよ〜。」
キヌ 「はいっ。」
  ハイラの精神感応によって、三人は令子の夢の中へ…
医師 「ああっ!? また理解不能な昏睡状態にっ!? 現代医学の奥は深い〜〜!!」
横島 「おっさん、さっきからの話し全部聞いとったんやろ…?」
   
   
  病院からの帰り道… もう真夜中
シロ 「先生、これからどうすればいいんでござるか?」
横島 「美神さんたち、ほんとに寝てるだけだから、目が覚めるまでほっといていいよ。
  二人とも、夜さえ戻って来れば、遊びに出かけちゃっていいから。
  俺も、普通に学校に行って、普通に家でごろごろしてるつもりだから…」
   
タマモ 「わかったわ。そうする。」
シロ 「先生は、拙者と散歩でござろうっ!?」 ひゃん ひゃんっ
横島 「……、やっぱ、そうなるよなぁ〜〜」
   
   
  令子の夢の中では…
令子 「こ、これを、取り除くっていうわけ〜〜?」
  令子の精神構造がイメージしたお城の壁の上部から、
  洗剤を入れすぎた洗濯機のように、次々に溢れ出してくる霊体の泡…
   
キヌ 「なんだか、時間、かかりそうですね…」
令子 「そうね…、でも、やるしかないわ。 冥子、ハイラの針攻撃で泡を割っちゃって!
  おキヌちゃんは、霊波を出して泡を蒸発させるのよっ!
  私がやるのをよく見て、真似してくれればいいわっ!」
冥子 「わかったわ〜、令子ちゃん〜」
キヌ 「わかりましたっ!」
  ひたすら泡を割り、カスを蒸発させ続ける三人…
   
   
  翌日 横島たちの通う高校の午前中の休憩時間…
ピート 「美神さんが入院したんですかっ!?」
横島 「いや、そんなに驚くことじゃないんだ。 さっきも言ったけど、寝てるだけだから。
  そんなんだから、お見舞いに行く必要も無くてね。」
タイガー 「横島サンが、数日間もバイトが休みになるなんて珍しいノ〜。」
   
ピート 「あっ、そうだ。 それなら横島さん、今日、東京観光に連れてってくださいよっ!」
横島 「へっ? なんだ、そりゃ?」
ピート 「仕事で都内の各地には行ってるんですけど、考えてみたら、僕は観光らしい観光、
  したことがないんですよ。 以前から、ずっと行ってみたいと思ってて…」
タイガー 「あっしも、今日は暇ですケン、一緒に行っていいですかいノ〜?」
   
横島 「でも俺、今日はシロと散歩することになってるし、金もね〜ぞ?」
ピート 「シロちゃんも一緒でいいですよ? 四人のお金は、僕がおごりますから。」
横島 「えっ!? おごりっ? それなら行くっ!
  それにしてもそんな金、よくあるなぁ? 神父、最近儲けてるのか?」
ピート 「最近は、ICPOのお手伝いも多くて、それだと確実にお金が入るので…」
横島 「ICPO? 西条のコネでか… いや、隊長から神父へのコネのほうかな…?」
   
  今日、ピートが横島たちと東京観光に行くという情報は、ピートファン経由で
  あっという間に全校中の噂として広まっていった…
  そして、1年某組の小鳩の耳にも届く…
   
  お昼休み
女生徒A 「あ、あのピートさん、もしよろしければ、私が観光案内いたしますけど…」
ピート 「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど、みんな断っているので…」
   
愛子 「あいかわらず、すごい人気ね〜〜」
横島 「けっ! そんなに一緒に行きたがる女子がいるなら、俺なんか誘うなよなっ!」
タイガー 「そうじゃノ〜!」
ピート 「そんなぁ〜、女の子と一緒じゃあ、気を使って観光どころじゃないでしょ〜?
  横島さんたちとだと、気楽でいいんですよぉ〜。」
横島 「へいへい。」
   
小鳩 「あの〜、横島さん。」
横島 「ん〜、誰? えっ? 小鳩ちゃん?」
小鳩 「もしよろしければ、私も一緒に連れていって欲しいんですけど…」
横島 「えっ?」
   
小鳩 「ご、ごめんなさい。ピートさんがあんなに断ってるのに、横島さんにお願いしちゃて…
  私、もしご一緒出来たらと思って、店長さんに電話して、今日のアルバイト、
  お休みさせてもらうことにしたんですけど… いえ、だめならいいんです…」 涙がぽろり…
横島 「小鳩ちゃん…。   あの〜、ピート〜?」
   
ピート 「ええ、横島さんがよければ、僕はかまいませんよ?」
横島 「そうか、すまん。 それじゃあ、今日の放課後、校門前で待っててくれる?」
小鳩 「はいっ! ありがとうございますっ!」
   
横島 (さて、シロをどうするかだなぁ〜〜)
   
  まだ学校は昼休み… 美神事務所
タマモ 「シロ、電話が鳴ってるよっ?」
シロ 「ほっとけばいいでござる。 留守電になってるでござろう?」
電話 …お名前とご用件をお話しください。 ピーッ  シロ、いるか〜〜っ?」
シロ 「あっ!先生の声でござるっ! 拙者が出るでござるっ!
  先生〜〜〜、シロでござるっ! どうしたんでござるか?」
   
  しばらく話したあと…
シロ 「そうでござるか…… わかったでござる……」
  さびしそうに、電話を置くシロ
   
タマモ 「あれっ? どうしたの? なんか言われたの?」
シロ 「先生に、今日の散歩、キャンセルされたんでござる…」
タマモ 「へ〜? なんで?」
シロ 「学校の仲間と一緒に、どっかに行くそうでござる…」
   
タマモ 「へ〜、あんたもついて行けばよかったのに。」
シロ 「拙者も、そうすると言ったんでござるが、断られたんでござるよ。
  『おまえがついてくると、仲間が気を使っちまうだろうがっ!
  俺にも、学校の仲間を大切にさせろっ!』って、怒られたんでござる。
  あれだけ仲間を強調されると、拙者もあきらめるしかなかったでござるよ。」
   
タマモ 「ふ〜ん、で、明日はどうだって?」
シロ 「明日は、散歩に連れてってくれるそうでござるよっ!」
タマモ 「な〜んだ、今日だけじゃん。」
シロ 「今日だけでも、行くつもりだったから、つらいんでござるよっ!
  タマモッ! しょうがないから、拙者と散歩に行くでござるよ?」
タマモ 「やだっ。一人で行ってくれば?」
シロ 「な、なに〜?」
タマモ 「私、おキヌちゃんが録画していたTVの連続ドラマを一気に見るつもりなんだからっ!」
シロ 「うぐ〜〜、一人の散歩じゃつまんないでござる〜〜〜」
   
   
  放課後、横島の案内で東京観光に出かけた四人+貧乏神…
  上野・浅草界隈をうろつきまわっただけだけど、ピートとタイガー、小鳩の三人は、
  とっても満足した様子… ピートのおごりで浅草の洋食屋で夕食を食べたあと、
  ピート、タイガーの二人と別れて、家路につく横島と小鳩+貧乏神
   
横島 「小鳩ちゃん、今日は楽しめた?」
小鳩 「ええ、とっても。 私、観光なんて初めてだったから。」
貧乏神 『せやな、観光地は観るところやなくて、働くとこやったさかいな。』
横島 「おまえには、聞いとらんわいっ!」
   
小鳩 「あの、横島さん、まだ2〜3日お仕事がお休みだそうですけど、その間、よかったら
  うちで一緒に夕食にしませんか? 一人だと、お食事大変ですよね?」
横島 「えっ? あ、ああ…」
小鳩 「私のアルバイトが終わってからになりますけど、それでよければ…」
横島 「そうだな〜。 シロの散歩が終わったあとだから、ちょうどいいかも。」
   
  家に帰りついた二人…
横島 「それじゃあ…」
小鳩 「あの、これから銭湯に行きますけど、一緒に行きませんか?」
横島 「あっ、そうだな。 俺も行こうと思ってたから…」
   
  すっかり小鳩のペースに、はまってしまった横島…
  それはそれで、横島も結構楽しかったりするわけだが…
   
  その頃、美神たちは…
  あいかわらず、霊体の泡と、ひたすら格闘中…
   
  翌日の放課後 校門前
シロ 「先生〜〜!! 待ってたでござるよ〜〜!! ワンワン!!」
横島 「ああ、わかった、わかった。 おっ? 自転車持ってきてくれたのか。」
シロ 「そうでござる。自転車が無いと、先生すぐ休憩するんでござるもの。」
横島 「当たり前だっ!」
シロ 「それじゃあ、いくでござるよっ!」
  猛烈なスピードで、横島の自転車をひっぱっていくシロ
   
横島 「おまえ、昨日は何やってたんだ?」
シロ 「昨日でござるかぁ〜? タマモも、散歩についてきてくれなかったので、拙者一人で
  歩き回ったでござる。 そのあと、美知恵どのの家に寄ったら、ひのめどのの相手を
  させられて、ひどい目に遭ったでござるよ。」
   
横島 「あははは。 昨日は悪かった、すまん。 で、タマモは何やってたんだ?」
シロ 「タマモは、ドラマの録画を一日中見てたでござるよ。」
横島 「ふ〜ん、おまえは見ないのか?」
シロ 「拙者、ああいう軟弱なドラマは苦手でござる。
  やっぱりドラマなら時代劇が一番でござるよっ!」
横島 「そういうところは、タマモの方が女の子っぽいよな〜〜」
シロ 「うぐっ!」
   
  そんな調子で走り回る二人… やがて夕暮れ時になり…
横島 「シロっ! そろそろ帰るぞっ!」
シロ 「え〜〜っ!? もうちょっと散歩してたいでござるぅ〜〜」
横島 「もう日が暮れるだろ? 暗くなったら危ないだろうがっ!」
シロ 「ん〜〜、わかったでござる…。 じゃあ先生、買い物して帰るでござるよ。
  今夜は、拙者が先生のために、肉料理を作るでござる。
  先生、食べてってくれるんでござろう?」
   
横島 「あっ…、いやっ…、わりぃな…。 友達の家で、ご馳走になる予定が有って…」
シロ 「ええ〜〜? じゃあ、明日の夕食は拙者と一緒にっ!」
横島 「その、バイトが休みの間は、毎日、その友達の家に…」
シロ 「先生〜〜、拙者と食事するのが嫌なんでござるか〜〜〜?」
横島 「そうじゃないってば。 美神さんが戻るまでの2〜3日の話しだろっ!?
  おまえも、タマモをほっといていいのかっ!?」
シロ 「うぅ〜〜〜〜」
   
横島 「ま、気を悪くするなよな。 そうだな、明日は土曜で学校は昼までだから、
  昼飯は事務所で一緒に食べよう。 午後はたっぷり散歩に連れてってやるぞっ!」
シロ 「そうでござるかっ! 拙者、楽しみでござるよっ!」
横島 「あくまでも、美神さんたちが目を覚まさなかった場合だぞ?」
シロ 「わかってるでござるよっ!」
   
   
  事務所に帰ってきたシロ
シロ 「タマモ、ただいまでござる。 夕食作るけど、どれくらい食べる?」
タマモ 「私、夕食いらないわ。」
  台所には、『きつねごん兵衛』の空容器が5つ…
シロ 「うぐ〜〜、やっぱり先生と一緒に食事したかったでござるぅ〜〜〜」
   
   
  横島のアパート 横島の部屋をノックする小鳩
小鳩 「横島さん、夕食の用意が出来ました。どうぞ、いらしてください。」
横島 「あっ、はい。」
  小鳩の部屋
貧乏神 『よっ、待ってたでっ!』
横島 「あれ? お母さんは?」
小鳩 「パートに出てて、今週は遅番で帰りが遅いんです。」
横島 「へ〜、元気になったんだぁ〜」
小鳩 「ええ。 病気といっても、栄養失調が原因でしたから…」
横島 「あっ…、はは、そうなんだ…」
   
  横島のご飯をよそう小鳩
小鳩 「はい、横島さん、どうぞ。」
横島 「ありがとう。 いただきま〜す。 うん、おいしいっ!」
小鳩 「そうですか。よかった〜。」
貧乏神 『ところで、美神はんが入院しとるそうやけど、どんな様子なんや?』
横島 「ああ、それは…」
  それまでの経緯を話す横島…
   
横島 「だから、俺がするような仕事が無いんで、休みになってるんだ。」
貧乏神 『……、そのハイラとかゆう式神使いのおねえちゃんは、金持ちなんか?』
横島 「ああ、冥子ちゃん? すっげ〜、金持ちだけど?」
貧乏神 『そら、あかんわ…』
横島 「えっ? なにがっ?」
   
貧乏神 『その霊体のカスは、貧乏が原因で悪霊になった奴のやろ?
  そんな奴に、金持ちの攻撃が通用するわけあらへん。
  金持ちの精神に霊体のカスが反応して、泡が発生しとるはずや。』
横島 「じゃあ、今やってることは無駄っ!?」
   
貧乏神 『そやな、美神はん中に入っとるんは、そのおねえちゃんとおキヌちゃん、
  それに美神はん本人やからな。 金持ち二人に貧乏人一人やから、
  いくら攻撃しても、後から後から泡が湧いて出とるやろうな。』
   
横島 「そ、そんなっ!! 美神さんの記憶が戻らないなんて、冗談じゃね〜〜!!
  おい、貧乏神っ! おまえ、なんとか出来んのかっ!?」
貧乏神 『あかんわ。 わいの霊能は強過ぎて、美神はんの頭の中に入ってしまうと
  美神はん自身が、貧乏臭い発想しか、でけんようになるんや。』
横島 「ど、ど、どうしたらいいんだぁ〜〜〜?」
   
貧乏神 『別に難しいことやあらへん。その金持ちのねえちゃんの代わりに
  おまえが中に入ってカスを取ってくりゃあええんや。』
横島 「えっ? 俺がっ!?」
貧乏神 『そや。 それやったら、金持ち一人に貧乏人二人やから、勘定あうで。』
   
横島 「でも、美神さんたち眠ったままだし、どうやって…」
貧乏神 『……、しゃ〜ないな。 ここまでゆうてしもたんや。
  眠っとる連中と話しをするくらいなら、わいにもでける…』
横島 「そうかっ! じゃあ、今すぐ病院に行こうっ!」
   
貧乏神 『小鳩……、すまなんだな…』
横島 「あっ! ………、ごめん、小鳩ちゃん…」
小鳩 「……いえ、いいんです。 ほんの二日間だったけど、横島さんと一緒に観光したり
  お食事したり… 小鳩、楽しかったです…」 ほろり…
   
横島 「ごめんな…。 でも、美神さんを助けるのは、俺の役目なんで…
  悪いけど、病院までついてきてくれるかな…?」
小鳩 「はい。」
  少々気まずい雰囲気ながら、病院へと急ぐ三人…
   
   
  白井総合病院  眠っている令子の額に手を置く貧乏神
貧乏神 『美神はん、聞こえるか〜?』
令子 「えっ? あんた誰よっ!? こっちは今、忙しいのよっ!
  霊体の泡を取り除こうとしてるんだけど、取っても取っても減らなくてっ!!
  いまだに城壁の中にさえ、入れないんだからっ。 キィ〜〜〜!!」
   
貧乏神 『わいは、貧乏神や。 そのことで話しがあるんや。』
令子 「なにぃ〜? 貧乏神ぃ〜〜〜!?」
キヌ 「えっ? 小鳩ちゃんのところの貧ちゃん?」
貧乏神 『そや。』
   
令子 「えっ? おキヌちゃん、貧乏神を知ってるのっ!?」
キヌ 「え? ええ…。 美神さんも、とりつかれたことありますけど…」
令子 「まじっ? な、なんか、記憶を取り戻すのも怖いわね……
  で、その貧乏神が、私にいったいなんの用事っ!?」
   
  ここまでの経緯を説明する貧乏神…
令子 「つまり、冥子と横島を入れ替えれば、かたが着くわけね。
  冥子、あんたは目を覚まして、ハイラで横島クンを連れてきてくれる?」
冥子 「わかったわ〜、令子ちゃん〜」
   
  目を覚ました冥子
冥子 「横島くん〜、それじゃあ、私の代わりにお願いね〜〜。」
横島 「あっ、はい。」
  早速ハイラと共に、令子の夢の中に入る横島…
   
冥子 「あら〜、あなたが貧乏神様〜? はじめまして〜
  お手伝いしてくださって、ありがとうございました〜」
貧乏神 『いや、横島の依頼やったさかいに…
  小鳩、横島も寝てしもうたし、もう帰ろか。』
小鳩 「ええ…。 それでは、失礼します。」
  冥子に軽くおじぎをして病院を後にする小鳩たち… 少し寂しげ…
   
冥子 「あ〜ん、みんな眠っちゃった〜。 冥子、一人ぼっちでさみしい〜〜〜
  ハイラが令子ちゃんの中に居るから帰るわけにもいかないし〜〜
  そうだわ〜〜 フミさんに、絵本持ってきてもらいましょう〜〜」
   
   
  一方、横島の加わった令子の夢の中…
令子 「そうか〜、貧乏人のカスには貧乏人しか効かないのね〜
  ほら、横島〜〜! あんたの給料が安いのは、この日のためなのよ〜〜!
  私は攻撃せずにあんたを監視してるから、手を抜くんじゃないわよ〜〜!!」
   
横島 「なんか、美神さん、すっげ〜あれてるよな〜?」
キヌ 「ええ…。 今までの攻撃が無駄だったことや、貧乏神と知り合いだったことの他に、
  これが終わったときに病院に支払うお金がもったいないらしくて…」
横島 「そ、そうなの……」
  横島とキヌの霊波攻撃で、みるみるうちに取り除かれて行く霊体の泡…
   
   
  翌日 白井総合病院  土曜のお昼前…
冥子 「ううう……、ハチ公がかわいそう……
  あら、そういえば横島くん、シロちゃんたちに連絡したのかしら〜?」
   
  美神事務所 電話に出ているタマモ
タマモ 「うん、わかったわ。 こっちは別に、かわったこと無いから。」
   
  横島のために一生懸命、昼食の準備をしているシロ…
シロ 「タマモ〜、誰からの電話でござったのか?」
タマモ 「冥子さんよ。 なんか、横島も美神さんの夢の中に入ったって。」
シロ 「えっ!? 先生もっ!?」
   
タマモ 「そうみたい。 だから、昼食を食べに来れないってことね。」
シロ 「そんな〜〜!! 拙者、先生のために一生懸命作ってたんでござるのに……」
タマモ 「………、しょうがないから、私が食べてあげるわっ。」
シロ 「うぐぅ〜〜 先生も、仕事だからしかたないんでござろうけど、
  なんか気持ちがおさまんないでござるぅ〜〜〜っ!!」
   
   
  令子の夢の中…
令子 「あ〜、記憶が戻って来るっていうのは、気持ちがいいわね〜。
  ほら、あと少しよ。 横島クン、おキヌちゃん、がんばってね〜〜〜!
  あらっ、泡になった悪霊を退治したときの記憶も戻ってきたわっ!
  どうやら、記憶も全部取り戻せたみたいね。
  ハイラっ! それじゃあ、三人とも起こしてくれるっ!?」
   
  目を覚ました三人
冥子 「あら〜、令子ちゃん、お帰りなさい〜」
令子 「冥子、ありがと。 うまくいったわ。 ところで今はいつなの?」
冥子 「土曜の夕方よ〜〜 令子ちゃんが寝てから4日目なの〜」
令子 「ま、そんなもんかな…」
   
  横島のほうに振り向き、とてもにこやかな顔をして語りかける令子
令子 「それより横島クン、助けに来てくれてありがとう。
  あのまま、冥子とやってたんじゃ、きりがなかったわっ。」
横島 「いえ、そんな… 俺、当然のことをしただけで…」
   
令子 「でも、貧乏神に手伝ってもらうなんて、見事な発想だわ。
  どんな状況で、お願いしたの?」
横島 「いえ、たまたま貧乏神と夕食を食べてるときに、この話になっただけで……
  …はっ!?  誘導尋問っ!?」
   
令子 「そう… 夕食をね……」
  そこには目だけを青白く光らせている令子とキヌ…
  ひゅぅ〜〜〜〜〜  寒々とした空気が流れる病室…
   
   
  事務所に向かって車を飛ばす令子 横島はトランクの中…
令子 「おキヌちゃん、帰ったら、私たちが寝てた間の横島の行動、
  洗いざらい調べ上げるからねっ!」
キヌ 「はいっ!」
   
  事務所に戻ってきた三人…
令子 「ただいまっ。 えっ? なにっ!?」
キヌ 「やだっ。 お酒臭いっ!」
   
  酔っ払ってるシロとタマモ  事務所の中は散らかり放題…
シロ 「横島せんせぇ〜〜 横島せんせぇ〜
  せんせぇ〜なんか、大っ嫌いでござるぅ〜〜〜〜〜〜
  ワォ〜〜ン! オンオンオ〜〜〜〜ン 横島せんせぇ〜〜!!」
タマモ 「美神さ〜〜ん、おかえんなさ〜〜い…  ヒック!
  お酒って〜〜、おいしいのね〜〜〜〜」
   
令子 「こいつら、私の大事なお酒を勝手に飲みやがって…
  どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも
  ウチには、まともな奴は一人もおらんのかぁ〜〜〜!!
  キィ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
   
  それから数日間、目の冴えきった令子による粛清は、
  美神事務所の地獄の日々として長く語り継がれて行くのであった…  合掌…
   
END  

※この作品は、まきしゃさんによる C-WWW への投稿作品です。
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