Nexstage-gaiden :coldsick[ah!my dragon-goddess]
liearary work : iky
part 1/4
sick leave catch acold
「あ〜う〜。だり〜〜〜い〜〜〜〜〜な〜〜〜〜〜〜〜(だるいな)」
天井を見ながら漏れた言葉の無気力な間延びに自分ながら厭になる。
何が起こったかというと・・・・・・・・・・。
普段元気が取り柄の体が動かない。
別に原作ありがちに荒縄で縛りりがんじがらめにされているワケでも無い。そのパターンは古すぎる。
頭が痛い。
これもお約束に強欲女やら、その他大勢のキャラに突っ込みやらオチで殴られたワケでも無い。
体が熱い。
都庁の地下での異端審問の時のように釜茹でされているワケでも無い。
布団の中の体が汗だらけだ。
これは原作では無かった展開であるが、布団の中で汗だく……………なら、無論18禁的展開を期待したいが生憎布団の中には横島だけだ。
枕の上のティッシュ箱には紙は無い。
テーブル脇のゴミ箱に丸められたティッシュが満杯。別にこれもお約束にアダルトビデオやらアダルトサイトやエロ本を見た後の展開でも無い。
もう面倒臭いのでハッキリ言おう。横島の奴は馬鹿の分際で風邪を引いていたのだ。
ただ今季節は冬で(多少時期が現実と逸していているかもしれないが、これを書いている時は冬だったのだ)、流感( influenza )による学級閉鎖のニュースもチラホラと聞こえる時期で、珍しく彼の人並みにそれに習っていた。
「う〜〜〜げほんげほん」
分り易いタイミングで咳き込む。表現力の足りない筆者を庇うような擬音を、まるで竹の会のように付け足してくれる横島であった。
duskevening
クンクン
天井を見上げたまま、不肖の弟子のように鼻を鳴らす。独身男の布団のすえた匂いに混じって、外を見ると宵闇であるので普通の家庭は団欒の夕食時間らしく、そのお零れの芳しい香りが安普請で隙間風に乗ってやって来た。腹の虫がキュ〜ンと鳴いた。
「そういや。あ〜腹減ったな〜〜〜」
冷蔵庫から普通の人間が食う物も失せて数日。この数日間はマヨネーズとケチャップとバターで命を永らえていた。そしてそれも尽きた。後残っているのはチューブネリ山葵と辛子だけだ。流石にこれを生で食うのは辛いので、まだやっていない。チャップリンの映画”黄金狂時代”を思い出して、革靴でもあったら架けて食おうとは思っているが彼のバッシューは全て合皮であるのだ難を逃れていた。
(電話も止められているから出前も取れない・・・・・・・)
今時の高校生どころか、中坊でも常識の携帯も夢の又夢らしいようだ。
(そういや………最後はいつだったやら)
カツ丼 天丼 親子丼 牛丼 木葉丼 エトセトラ エトセトラが、シロの精神集中の描写のように浮かぶ。牛丼以外を食ったのが遥か遠くに感じる。その牛丼でも最後に食ったのが両手で足らない。
(まあ電話が通じても注文する金も無いが………………………)
近頃は丼モノどころか立ち食い蕎麦の支払いにも事欠いている。このままでは立ち食いのプロになるしか無いと思いはじめている今日この頃であった[参照:うる○やつら 必殺立ち食いウォーズ&迷宮物件823]。
食い逃げだ〜っと言われて碗や鍋を投げられたり、白い目で見られてもレストランに居座り続けて黙々と食い続けて店側が折れるまで嫌がらせをする自分の姿が目に浮かぶ。いずれ来るかもしれない、夢では無い悲しい現実に思わず涙が垂れそうになった。
今時売れない芸人でもここまで貧乏はいないであろう。何故なら、売れないなら時間はあるのだからバイトすればいいのだが、まだ学生で自由になる時間も少ない。おまけにバイト先の主は山水館でお馴染の、細腕繁盛記で意地悪女給の富士真奈美さんよりも底意地が悪いので薄給で因業で暴力的で業が深いので、働いても働いても我が暮らし楽にならず じっと手を見ても 蟹工船のような生活が続くばかりだ。
過酷な労働によって疲れ切った体が求めるエンゲル係数の上昇に、怪我の治療費を極悪雇い主は補填してもくれずにバイト代は右から左に医療費で消える。何の為に働くか分らないので、所謂寝ていた方がましだと言う状況に馬鹿らしくなり休みを多々とるようになった。まあバイトに行かなければ電車賃は浮くので、それで今なら半額バーガーが23個買えるのだから、過酷な労働よりは休んだ方がましだ。
仕事を休む程に因業ブルジョアの雇い主の叱責の視線も厳しい。何かポカをやった時は他人に八つ当たりしないと気が済まないので、その鬱積をまとめて晴らそうとでも思って休み開けは当たりもその分キツイ。だから余計に疎遠になる。
(いやになったな〜。流石の俺でも)
もう以前のようなガキでは無い。肢体の鑑賞も、それ以上を望まねばアダルトビデオと同じで数度見れば飽きる。見るだけでは魅力を感じなくなっては、そうも魅力も美味しくも惹かれる場所でも無い。
おまけにこの頃はキツクあたるのは美神の専売であったが、今まで引き止め役のオキヌも美神に倣うかのように当たりがキツクなっている。特にこの頃は女性に対して露骨なアプローチをしないようになったので、怒られる事も無くなると思っていたのに逆に怒りの矛先を向けられる事が多くなってしまった。
普通に話しているだけなのに………。
彼には憶えが無くとも女達にはキツクあたる事情があった。それは、この頃女性に対して受けのいい横島の姿が良く見られるようになっていたのだ。
大体女性は擦り寄ってくる男が嫌いなものだから横島もチャランポランだと思われ(事実そうだってが)受けが悪かった。が、この頃はガツガツと、いきなりのナンパもしないので女性は第一印象で殆どイメージを定着するのでこれは不味かったのだ。それが無くなれば、GSは世間的にもエリートで稼ぎもいい受けのいい職種である。それに大体お化けに困っている状況で心細い女性にはGSは頼り甲斐のある、いわゆる”せんせえ 先生”と崇められる対象。しかも美神は鳴り響いたGSではあるが、女は男に護られたい本能もあってか、大体横島と仕事の合間中はたいてい仲良くしていた。
中には仄かに異性として魅力を感じたような女性もいたよう。しかし、先天的かつ漫画の男主人公の定番スキルの朴念仁であるので、そんな少し暑い瞳も知らぬは本人ばかりなり。多分デートでも誘えばOK貰えそうな塩梅であったかも知れないが、最後まで鈍感を通す馬鹿であった。
まあ、それだけなら、まあ依頼人に文句も言えないので嫉妬も何とか押さえ付ける事も出来るかもしれなかったが、中には携帯の番号を渡す者もいたし、本人には恥かしくて聞けないからって美神やオキヌに住所や携帯を聞く女性までいた。自分達の行動が横島に惨事であるとは知らずに。当然二人は難癖にイチャモンを突けて横島にヤツ当たり(横島にとって)するのであった。
以前のように二人に対しての恋慕の情が合った時の後ろめたさや、仕事上の不具合な行動とかに覚えがあれば折檻も享受してもいいが、全く身に覚えもなければ単なるイジメだ。殴られてはいてもMじゃ無いんだから嬉しい筈も無い。
見覚えの無い(彼にとっては)八つ当たりで更に居心地が悪くなり、出社が少なくなると自分達に行動が引き起こした行動であるとはユメユメ思わず、全て相手転嫁して更に機嫌の悪くなるので更に当たりはキツイ。
背中にはざらついた居心地しか感じられなくなってヘキヘキしていたので、この頃は呼ばれないと出勤しなくなっていた。呼ばれても用事を見つけては断る事も多い。だから更に不機嫌に・・・・・更に当たりがキツクなり、断る、更に。
遣る事成す事全て自分の望まない方向に転がるジレンマを感じる美神ら二人であったらしいが、悪い方に転がり始めたならば筋金入りの意地っ張りだけに折れる事もダイアグラムの出来ずに、離婚間際の夫婦の悪循環の様相のように行き付くところまで行かないと止まらないらしかった。
a foolish persons
権利と義務の履き違えた事務所女二人に愛そうが尽きたのには、実は以前に隣の部屋の元貧乏神の”貧”が自分に言った言葉もその行動の引金になっていた。
(そうだよな〜。貧の奴が言ってたよな〜)
貧の奴の台詞を思い出して隣の部屋へと続く薄い壁をチラと見る。安普請であるのでいつもなら生活の物音は漏れ聞こえてくるが、今は何も聞こえない。二人と一匹(小鳩親子と貧)の気配は全く無い。
普通ならこんな窮状を見れば優しい小鳩が看護に当たってくれるが、小鳩は近場にはいなかった。
前回の遊園地に続き、商店街の福引で今度は家族での熱海への温泉旅行が当たり熱海に旅行中。家族旅行で4人分であったので横島も誘われたが、母娘水いらずに付き合うのは心苦しいので断わった。「そうですか・・・・・・」と残念がる小鳩であった。それを貧の奴が「小鳩も大胆になったんやな。横島とは言え男誘うなんて」とからかわれ、真っ赤になっていたが、チョットその気もあったように感じたのは気の性であったかなと思う。行動の裏には何やら裏で貧の奴が唆したのか画策暗躍しているような気もあった。以前は小鳩の幸せの為には出来ればシケタ面と運気の悪い横島との縁は歓迎しているとは思えなかったが、どうも多少事情が変わって逆の気持ちに傾いているような態度がある。
『も もう。貧ちゃんったら。知らないから』
からかいの言葉に顔を染めて逃げて行く小鳩。その様子を貧の奴が何か不穏な笑みを浮かべているような気がした。前は付き合うのを心底嫌がっているような素振りであったのに、今の貧は嫌がっていない。可愛い小鳩をカラカッテ楽しんでいるのは分るが、その他に他意を聞いてみる。
『お前何を考えているんだ?』
『なんの事や?』
『惚けるな。炊き付けているんだろう、小鳩ちゃんを』
『バレタか。お前も中々鋭い所あるんやな』
と言って吐露した。貧談では、以前は自分と横島のドチラが貧乏神か分らんかったので、あまり小鳩には近づいて欲しくなかったらしい。貧乏な小鳩一家に、同じ貧乏な横島と付き合っても貧乏のスパイラルだ。しかし、出会った時にシケタ顔って言っていた横島の顔がこの頃変わってきたらしい。
『金運はお世辞にも今はまだええとは言えへんけど、お前運気えろうようなったで。何でやろう。今にも運勢も宿命も運命も宿業も、それこそ今にも尽きそうで死にそうやったんやど。俺小鳩よりお前に憑いた方が早う奉公開けかと思ったぐらいやったで』
トリツク対象世代を重ねると奉公開けで自分の国へ帰れるが、死ねば同じように帰れるらしい。何か変わった事でもあったかと聞くので「この頃バイト休んでるからバイト代減ったから金運はしょうがねえよ」と言うと、貧が”う〜ん”と暫く思案顔で考えて出した結論は。
『お前、あの美神とキヌゆう女らに、お前の運気吸いとられてたんとちゃうか?』
貧が思案顔でボソッとつぶやく。
『え!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
思わず絶句した。運気とはこの場合は幸運を指す。つまり今までの事在るごとの不運は幸運を吸い取られたからだと言う事だ。
『・・・・・・・』
言われてみれば思い当たる事もあるような気が…………。振りかかる災厄をどうにも自分が肩代わりしていた事は多々あったような。それに不幸のエキスパートである貧の言う事なら角度は高い。
『そ そういえば』
この頃美神への勤労意欲も失せて(ナイスバディの鑑賞)事務所に行かなくなったら、学園生活やらは非常に楽しくなったような気がする。相変わらずに金運だけは無いが、この間は始めて下級生の女の子に、呪いも毒も請求書も無い弁当を貰った事もあるし、同級生の女子にも良く声を掛けられる。可愛そうだと皆から弁当の嫌いなオカズ(笑)を持ち寄られ午後の授業に腹の虫を響かせなくて済む日もあるようになった。自身は男女の区別無く付き合っていられた小学生時代を思わず思い出した。銀一程女子に人気は無かったが、面白い男子としては女子らとも遊んでいた頃を思い出す。早弁して、昼休みを空腹で過していた時に女子から恩着せがましくもオニギリ一つ、リンゴ一切れ、ウインナ一個貰った小学校時代を思い出した。
(そういや女の子に避けられるようになったのは色気ついてからだな〜)
考えて見るとガキの時はモテテイルというと御幣があるだろうが、男女問わずに親友も友達も悪友も喧嘩ダチ多かった。それが希薄になったのは友達を女子と男子に区別するようになってからだったようだ。それが戻ってきた昨今の状況は嬉しく感じていた。
(そうなったのがバイト控えたようになってからか・・・・・。じゃあ貧の奴の当てずっぽうも満更じゃないのかな)
言われた事を思い出す。
確かにそんなに女に持てる方でも無か