これからまた長い夜が始まるのかぁ 聡子があのドアを元気よく開けて 「愛子! おっはよー!」って笑顔を投げかけてくれる朝まで それまで私の夜は明けない また今夜も泣いちゃうのかな 私 みんなとっても優しい 私に気を使ってくれて だから昼間は絶対に涙は見せない みんな笑顔の私しか知らない でも こうして一人ぼっちになると・・・ どこから来たの 私 どこへ行くの 私 私は誰? 私は何? 私がいる 私は今ここにいる 何でここにいるの? だめね つい考えちゃう 「何で私ってば妖怪なんだろう・・・」 横島くん・・・優しい彼 でも私のことは見えてないよね ここにいるよって分かるように 心だけはピッカピッカに磨いてるつもり でも・・・・・・ ほんとに私がいるの? ここにいる私は・・・ 「あっ、きれい。お月様」 そうだ 今夜は眠くなるまでこの窓辺でお月様を眺めていよう そうすれば泣かないでいられるかも あっ 今夜は満月なんだ ここにきて何回目かな お月様は満月がすき 明るい笑顔しか見せてないから 昼間の私とおんなじね でも・・・ お月様も笑顔の影で泣いてるのかな お月様が2つ 3つ・・・ やっぱりだめね また泣いちゃった きっとお月様の柔らかい笑顔のせいね でも優しい気持ちなれる 優しい笑顔・・・ ガラガラッガラー 「愛子! おっはよー! なんちて」 えっ もう朝? どうしよう涙を見られちゃう 「どうしたの愛子。あれ? 泣いてるの?」 「ち、違うわよ。もう眠くて眠くて。あくび出まくり」 「眠いって、まだ8時だよ。ホント子供じゃないいだから。それよりこっち来て、 こっち」 「こっちって、ちょちょっと聡子、そんな引っ張らないでよ」 「早く早く! みんなお待ちかねなんだから」 「みんなって、どういうこと?」 「ささ、入って入って」 「ここ、音楽教室? でもなんで」 「いいから、いいから、さ早く」 ガラガラ ぱーん、ぱぱーん 『愛子ちゃんお誕生日おめでとう!!』 「み、みんな・・・どうしたの。それに誕生日って・・・」 「今日はね、愛子がここに来て1年の記念日でしょ。だから誕生日」 「えっ、1年?」 そうなんだ・・・ 忘れてた 「(横島くんが教えてくれたんだよ。結構いいとこあるよね、彼。で、あたしが企 画して、みんなで飾り付けしたってわけ。どう? 結構さまになってるでしょ)」 横島くんが・・・ 聡子が・・・ みんなが・・・ 私のために・・・ 「ほら、きょとんとしてないで、ケーキケーキ! ろうそく消して! じゃみんな、 はっぴばーすでー歌うよ!」 「(しかし、普通練習するか〜30分も。はっぴばーすでー歌うのに)」 「(ほら、聡子、合唱部部長だから、血が騒いだんでしょ、きっと)」 「そこ無駄口たたかない! じゃ歌うよー せーの! あれ、愛子どうしたの?」 だめだ みんなの前では泣かないって誓ったのに・・・ みんなの顔が見れない 泣き顔を見られてしまう あっ ケーキに涙が落ちちゃった 「愛子! 今日は愛子とあたしと・・・みんなの記念日なんだから、いつものように笑 って! そんな、愛子が泣いたら・・・グシッあたしまで・・・」 「あ〜あ、こっちも泣き出しちゃったよ」 「そーよ、愛子ちゃん! 笑顔で・・・笑顔でろうそく消そうよ。さあ、頑張って!」 「ついでに、合唱部部長もな」 そんなこと言われたら私・・・ だめ 涙が止まらない ぼやけて良く見えないバースデーケーキ ろうそくがいっぱいに見える・・・ って えっ? 「ちょっと何でこんなにいっぱいろうそく立ってんのよ!」 「何でって、お前50歳だろ」 「そんなわけないでしょ! 18よ。みんなとおんなじ!」 「だってお前、机に32年、そしてプラス18歳だから、やっぱ50だ」 「なんでそーゆー計算すんのよ! 間違えた罰としてこっち半分横島くん消してよ ね! こんないっぱい一人じゃ消せないし」 「なんでそーなるんだよ!」 「いいから横島消してやれよ! また泣きだしたらいつまで経っても始められねー だろ!」 「しょーがねーなー、まったくなんで俺が」 「じゃ、歌うよー!」 「おっ、こっちもいつの間にか立ち直ってる」 みんなが私のために歌ってくれている 優しい気持ちになれる 優しい笑顔 みんなの笑顔 そして私の笑顔 私がいる 確かに私がここにいる みんながいるから だから私はここにいられるのね 「(じゃ、せーので消すぞ)」 「(うん)」 「ウェディングケーキ入刀です!」 「こら〜なんでそーなるんだあ!」 「そーよ、愛子が迷惑でしょ!」 「ハハハッ、そりゃそーだ」 「お前らな〜」 フッ フフー パチパチパチパチパチパチ 「おめでとう!愛子ちゃん!」 「おめでとう!」 「ありがとう、みんな、ほんとにありがとう」 あっ また・・・ 1年分の涙ね きっと みんな 笑顔をありがとう・・・