gs mikami gaiden:beautiful-dreamer(only man)

著者:西表炬燵山猫


  「何やってんの、あの二人?」
 事務所のキッチンを頭だけ傾げて覗く美神。反対側から同じように覗いているタマモに尋ねる。中では美神のコダワリであって金を結構かけたシステムキッチンで、狭いのに奔走するオキヌとシロが悪戦苦闘をしていた。料理を作っているのは間違い無いが、その場にシロがいるのが普段とは違う。つまみ食いを時々やっては、オキヌに怒られているのとはワケが違う。何故ならつまみ食いに割烹着は必要無いだろう。
  「なんでも今朝横島の所に散歩にいったら、子鳩ちゃんが朝食を作っていたんだって」
  「ん?アイツのところで」
  「うん。で、横島が『ウマイウマイ』って誉めて『これならいいお嫁さんになれる』っていうのを聞いて、子鳩ちゃんが頬染めてるのをみて・・・・その」
  「・・・・・・・なるほど」
 少し疲れた声で了解の合図を出した。単細胞なシロの事なので、自分が料理が出来ないと不味いと思って矢も立ても溜まらずオキヌに料理のレクチャーを頼み込んだ。まあ、そんな所だろう。
  (オキヌちゃんも心中複雑だろうな)
 横島のような一人暮しの若い男は餌ずけに結構弱いのが通例だ。しかも子鳩はアパートの隣にいるために、もうこれは若い男女がくっつくドラマでは黄金パターンだろう。そんなんで、職場は同じであるが子鳩には危機感を抱いているようだ。
 それにもまして朝夕の散歩で四六時中いるシロが、更に食事を作るとあっては殆ど同居はないが、いわば同棲のようなものだ。その手伝いをと、自分に持ってこられても心中穏やかではいられないだろう。
 指にばん創膏が見えるのもそのせいらしい。


  「で、どうなの腕は?」
 聞いてはみたが直ぐに料理に才は振るいそうには無いのが分かる。料理で大事なのは力加減に匙加減と火加減。いつも、まるで飛び出した固形ロケットのように全力なシロには向いていないこと甚だしいのは必定だ。
 流石にそれはオキヌも知っているらしく、料理のレパートリーを簡単な朝食レシピから初めているようだ。大体料理下手に限って偉く手の込んだ物を作りたがると、温泉街の美人四姉妹の例からもありありと分かっているので愚作はおかさないようにしてくれている。安堵する美神。きのこのリゾットでも出されると困る(笑)。

 作っている献立はご飯に塩鮭、豆腐と油揚げの味噌汁に漬物に味海苔。正しい日本の朝食で、吉○屋でも同じみな献立。無論この事務所にいる女の人数分ある。
 少し不機嫌になる美神。
 多少力任せに米を洗った為に割れたお米はまだ分かる。多少焦げ気味の鮭もまだ分かる。生よりまだましだから。侍の習性か、しめ鯖丸を持たされて興奮して原形無くなるまで切り刻んだ豆腐と油揚げ入りの味噌汁と漬物もまだ分かる。袋から取り出すときに、力任せに破った為に四散してバラバラになった味海苔もまだ分かる。しかし・・・・。
  「なんで夕食にあんな物食べなくちゃならないのよ」

 朝見たので作りたくなったが、昼食にはオキヌは学校であったので、最初の挑戦は夕食に相成ったのだ。
  「まったく」
 健啖家であるが、大酒のみの美神の朝は前日の酒のせいで食欲湧かぬが、その分の夕食は手をかけてもらっている。日本人の御多分に漏れずに夕食は贅沢、が固定観念であるのだ。
 だから不機嫌になる。
 しかし、一人出掛けて外食というのもシロの事を考えると気が引ける。先程仕事から帰ってくるなり『ああお腹減った〜。オキヌちゃんご飯ま〜だ』と言ったのが悔やまれる。その時シロが『すぐに出来るでござる』と嬉しそうにいった理由が今分かった。これで外にでも食べに行けば「折角作ったのに」てなことになって、まだ中身ガキのシロの事なので結構傷つく恐れもあった。多分美神らに喜んで欲しいと想っているだろう・・まあ本心は明日の朝の横島だろうが、それでも一生懸命に勤しんでいるいじょうは無下にも・・・・。

  「せめてもう一品コッテリ目の奴つけてくれないかしらね」
 朝見ていた料理番組で、美味しそうなビーフシチュウが出ていたので、夕食にはリクエストしていたのだがシロに関われるような物で無いのでメニュー変更したらしく、美神に気がつくと手を合わせるオキヌであった。
  (味噌汁を、シチュウと思えるかな?)



  「また今日もやってんの?」
  「そうみたい。今朝横島に誉められたのが余っ程嬉しかったみたいだ」
 今日のシロの担当はご飯とドレッシングサラダ。誉められて舞い上がっているので、昨日よりお米は派手に割れて、サラダにいたっては野菜ジュース寸前までも細切れだ。
  「あれはコンソメ野菜スープに代えてもらおうか。あれじゃ箸じゃすくえそうにないし、サラダをスプーンで食べても美味しくないものね」
  「うん。後、横島にあんまり誉めないようにいっといてくれないかな」
  「了解。残った材料は明日シロに持たせてアイツに食べさせよう。あれだけ粉々だと、明日にはビタミンなんか残ってないでしょうけど、アイツには十分でしょう」
 少しげんなりしてキッチンを後にする二人だった。



  「また今日もやってんの?」
  「・・・」
 そんな日が大分たった。最終的な味付けはオキヌが担当しているのでソッチの方は大丈夫であったが、多少食感の悪かった食事が何とかオキヌレベルになるまで長い苦行の日々であったらしい。
 苦行の代償で三人は多少自然とダイエットが、美神2キロ オキヌとタマモは1キロずつ出来て嬉しかった・・・・・らしい。


epiloge



  「何喜んでるの、シロの奴。それにあのエプロン何?」
 シロはいつもの服装の上にロナルドドッグのついたピンクのエプロンを着けて、まるでフィギアスケートの女子選手のようにキッチンの中でクルリクルリと回っていた。顔はこれ以上は無いほどに嬉悦の表情だ。
  「横島さんからのプレゼントですって」
 頬膨らして見せるオキヌ。
  「アイツから?」
  「ええ。毎日食事を作ってくれてるんで、感謝と励ましにと、さっきの散歩の時に買ってもらったんですって・・・・いいなあ」
 二人して横島から何か贈って貰ったことなどビタ一文無い。オキヌは羨ましそうな目線で、美神はコメカミの青筋でエプロンで舞い踊るシロをみていた。


  「え?それじゃあ今まで横島の所にはエプロン無かったの」
 女性では考えられぬが、まあ男の家では普通ではないだろうか。こうみてもズボラで滅多に作らぬが、食にはこだわるので気分に会わせてのエプロンはブランドは全て揃えていたぐらいだ。その基準からすれば信じられぬと思いながらも「まあ、アイツだったら」と思い直して箸を取る。

 今日も夕食はオキヌとシロの担当。この頃はすっかり板についてきたので、美神らも結構安心して任せていられるようになっていた。
 食事中でありながらも、シロは余程嬉しいらしく、いまだに贈って貰ったエプロンを着けてははしゃいでいた。幸せそうなシロにまだえも言えぬ表情の女二人。箸の運びは遅く、まだダイエットは進みそうな塩梅。
  「はい、拙者オキヌどのから借りた割烹着を持っていっていたでござる」
  「ふ〜ん」
 薄給の割りには見せてもらうと結構いいものであった。感謝の気持ちが籠もっていて不穏な空気が美神とオキヌの席の間に漂うが、頭飛んでいるシロには二人の不穏な様子に気がつく素振りすら無かった。

  「あ!しまったでござる」
  「ん?なによ」
 食べていたのに、行き成り立ち上がったシロに三人が呆気に取られる。そして次の行動に更に呆気に取られた。
  「な なにやってんの、あんた」
 シロは行き成りエプロンを脱いだ。そして次に上着にGパンも脱ぐ。
  「な 食事時になにやってんのよ」
  「まだお風呂は沸いてないわよシロちゃん」
  「そうではないでござるよ、マナーを忘れていたでござる」
  「は?・・・・マナー」
  「先生が仰っておられた。エプロンの時は下に何も着てはならぬと」
  ガタン ガタン
 美神とオキヌの椅子が派手に倒れる音が食卓に響いた。えも言えぬ感情を満々と称えて立ち上がった二人。
  「いくわよ・・・・・・オキヌちゃん」
  「はい・・・・・」
 二人して俯きながら能面のような顔で出て行った。

  「なんでござるか?」
  「さあ?」
 残されたタマモと、男の夢?な裸エプロンに変身したシロが首を捻っているとき、事務所の車庫から派手なホイルスピン音を鳴らしてかっとんで行くコブラの轟音が響いてきた。


 横島の食事はしばらくお粥に梅干し、オカズ一品にバナナ半分という、給食センターが病院に運ぶ出来合いになったらしい。
 自分の言動が事態を引き起こした事を知らずに、しきりに残念がるシロだった。


    めでたし めでたし

※この作品は、西表炬燵山猫さんによる C-WWW への投稿作品です。
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