NexStage[gsm]:family-prot [in the negative-side]
great mothers strike-back ,another storys

first-part
literary-work:iky

Warning
from now on
heavy-hearted

homecoming

  「くそ〜。気に入らんな」
  悔しそうな男の声であった。どうやら天井に向かって吐いた言葉であったので、小声であっても乱反射して部屋中に響いていた。
  「え!何が?」
 百合子は鏡台に座って化粧を落とす作業を続けながら、世界が逆転した世界のツインベッドの傍らで不機嫌そうに天井を見ながら寝ッ転がる旦那(大樹)を見た。
 部屋には横島の両親二人がいた。二人が居るのは久しぶりに戻ってきた日本で、息子の部屋では親子とは云え三人はキツイので取ったホテル。副都心にある地上120階の窓からは、今まで百合子が久しぶりに息子に手料理を振舞っていたアパートも探そうと思えば探せるであろう夜景が見えた。

  ぷ〜〜〜〜ん
 両手を枕に入って来た蝿が飛び回るのを、百合子が息子のアパートで作ってきたらしい夕食弁当のカスを取るために口に加えた爪楊枝を回しながら忌々しげに追っていた。
  「あらっ。折角久しぶりの帰国だから奮発してスイートを取ったのに・・・・・エラク不衛生ね。これなら忠夫のアパートでも良かったかしら」
 つい今し方までいた息子の部屋を思い出した。久しぶりに帰ってきたので、案の上彼らの息子の部屋は非常に掃除のし甲斐があったので腕は棒のようになっていた。
  「多分あの子の安アパートの方が年中無休なエアコンで蝿もゴキブリも悠々とクラスホテルよりも、隙間風があるから蝿もいないでしょうからな」

 

  「フロントに頼んでスプレー(殺虫剤)持ってきて貰いましょうか?」
 百合子も飛び回っている蝿を、ヘアピンを髪から取りながら鏡の中に追った。大樹も加えた爪楊枝をグルグルと回しながら追う。    プ〜ン プ〜ン プ〜ン ・・・・・・・・・・・・・・・・ ピタ
 蝿は壁に止まった。ソレが彼にとっては最後の飛行であった。
   カツン ピキン 
   うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ガクッ
 哀れ、蝿は別々の方向から飛んできた爪楊枝とヘヤピンによって一生を終えた。
  「電話はいらなかったわね。やっぱり・・・・・・・・・」
  「そうだな」
 大樹が不機嫌そうに、ゴルゴダの丘で貧相な髭男と同じ目にあった蝿を見ながら呟く。磔までの距離は百合子の方が遠いのに、ヘアピンの方が一瞬早かったのでチョット悔しいのだ。
  「やっぱり電話してくれないか。水割りのセットを、グラス二つで」
 指二本立てる大樹。一人で自棄酒は辛いので付き合えと言っているのだ。
  「はいはい。でもあなたの奢りよ。あたしの勝ちなんだから」
  「分かってますって」
 普段暑い国にいるので空を飛ぶ害虫には事欠かない。どうやら通例になっているらしい。
  「これで五連勝ね。明日あなたのカード貸してよね。今年のコレクションのシャネルが欲しかったのよね」
 電話を肩口で持ちながら、JJに載っているスーツを見せる。部長待遇であっても、一応サラリーマンである大樹にはキツイ額だ。
  「そ それはチョット高いんじゃないんですか百合子ぉ・・・・・・・」
 甘える猫なで声を耳が留守だと押さえる。
  「お酒のつまみはカラスミ(とっても高いつきだしだ)とキャビアね。これもあなたの奢りだからね。忠夫が空港で口走った分も含めてね」
 昼過ぎに息子の言動を盾に取る百合子。諦める大樹。
  「・・・・・・・・は い」
 何事も無かったようなホノボノした夫婦の会話が続いた。
 宮本武蔵や椿三十朗や木枯らし文次郎じゃないんだから、ヘアピンや楊枝で害虫を仕留めるのは別段大した事では無いらしい。
 ・・・・・・・凄い親。
 

  「で、機嫌は直ったかしら」
 化粧を落とし終えた百合子が大樹に作った水割りを渡して聞く。しかし、大樹はスイートの雰囲気をブチ壊してくれたモノを殺しても、まだ何か承服し難い物が腹に据えているらしく、ブスッとしながらコップを受け取る。
  「んなわけあるか」
 ちょっとだけ恨めしそうに睨む。チョットなのは本気で睨んだら怖いからだ。この世でただ一人この女性にだけは頭が上がらない大樹であった。
  「でしょうね」
 百合子は忌々しげに杯をあおる旦那を更にからかう。
 大樹の不機嫌の元は別段先ほど百合子が言ったように、奮発して取った部屋で害虫が闊歩したからでは無い。それは百も承知。大樹はもっと大変な、彼にとっては重大事な事で苛立っていたのだ。

 それは日本に帰ってきてまず一番先にやりたいこと。別の姉ちゃんとの浮気では無い・・・・・。別段浮気に国は関係無い。一番やりたい事は・・・・・・・・・・・百合子も同じだが、息子 忠夫をからかう事であった。息子が生まれてから、多少落胆したが、こればかりは娘を虐めからかう事は出来ないで、存分に虐める大樹であった。実は本人には自覚は無いであろうが、年上にとって息子は非常に虐め甲斐のある人間であったのだ。別段嫌いだからではなく、迷惑な話であるが妙に人を惹きつける魅力があるので、まるで好きな子を虐める小学生のようになる大樹も百合子もであった。

 生まれてこのかたずっと家族の語らい(虐めカラカイ)を異国に離れ離れであったので、早く家族の語らい[family-prot]をやりたくて、以前と同じように、その為に空港に出迎えに来させた。
 しかし、二人の願いは叶わなかった。息子が来ないワケでは無かった。何しろこなかったら仕送りの完全打ち切りを宣言したので、今だ赤貧に喘ぐ息子が移転問題で揺れている成田の遠方遥々と云えども来ない筈は無かったのだ。その目論見は成功して、空港の出迎えエントランスには・・・・・多少厭そうな顔をしている不肖の息子がいた。

air port[recollection]

 税関から出迎えのゲートに出る大樹と百合子は直ぐに不機嫌そうにしている顔を見つけた。
  「よう久しぶりだな、馬鹿息子」
 いつもの軽口を苦々しく言い放つ大樹。息子がいつものように軽口や文句を反せば更にからかうのがアリアリと判るので嘆息する百合子。息子忠夫が生まれてから此の方同じ事の繰り返しである。
 実は百合子もそうであるが、この息子をカラカウ事は自分達には楽しくて仕方無い事であった。まあ、当人には迷惑な話であるが、普段はチャランポランな癖に、芯は馬鹿に真面目な所があるのでカラカウと本当に面白いのだ。
 それは両親だけの悪い趣味では無く、恐らく誰しも息子をからかい虐めるの好きなのは、今美神がその立場を奪って、日々勤しんでいる事からもありありと判る。
 だから今回の帰国の楽しみでもあったし、出来れば異国への赴任になるべく一緒に連れて行きたかったのも多少はそんな意味もあったぐらいだ。

  (あらっ。変ね)
 百合子が怪訝な顔をする。息子は父の軽口にチョット怒ったフリをしただけだ。今までだったら考えられなかった反応であった。
  「?あら・・・・・・」
 変わりに、この間の帰国の時に両手にはべらせていたスッチーを、母に判り易くあてつけ&あからさまに探す。無論前の帰国の時に浮気をしたと有り体に告げ口しているのだ。
  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
 当然バックに怒りを背負う百合子。知らないならばまだ許せるが、息子から告げ口をされたら、例えかなり前の事でも・・・・・・ケジメはつけるのが横島家の掟なのだ。
  チャー          ガシッ     ジャキン
 百合子は抱えたバッグのチャックを開け放ち、前回美神との嫁姑?の戦いのドサクサで入手して以来、大樹の粗相に非常に役に立つようになって『いいものをくれる嫁ね』と言っていた神通混に手を伸ばした。
  (や やばい)
 背後で、必殺仕置人の棺桶の徹の仕込み短剣が組みあがった時のような金属音が響いた事にタラリと汗が垂れる大樹。

   ドーン
 吃驚なタックルで息子に抱きつき壁に押し付ける。父子の感極まった愛情・・・・・・のフリをして、息子に抱きついた大樹の手には・・・・・いつぞやのサバイバルナイフの代わりか、機内でサラミを切る為に使っていたペーパーナイフが息子の首筋に当てられていた。震える怒りと怯えを、食いしばった歯の間から漏れる笑いで誤魔化しながら小さく『勘違いだと言い直せ』と、原作者十八番(と言おうか他に表現方法が無い)の顔の上半分に斜線を黒々と覗かせた表情で脅す。しかし息子は・・・・・・・・
   クスッ
 父の怒りなど知らぬと、怒りに震える凍りついた笑顔とは対極に屈託の無い笑顔で反す。
  「相変わらずだなあ、親父達も」
  「ん?」
 息子の態度に大樹は思わず呆気に取られる。
 生まれてこのかた、この方法で可愛い?馬鹿息子をカラカッテいたのだ。いつもはビビッて鼻から鼻水まで噴出していたのに、その作戦が今は全く通用しない。以前の時と同じ場所、同じシュチュエーションであるのに毛ほどにもビビル素振りが無い。ただ箸が転げた女の子のように笑っているだけだ。強がりの、笑って誤魔化すワケで無く、怯えはその顔には全く浮かんでもいない。

  「そ そうだろう。そうだろう。お前は栄養不足で頭が動いていないのだよな。まあ、勘違いは誰にでもあるから気にするな。あはははは」
 流石にこの手では懐柔出来ないと判ると、後で混を構える妻に聞こえるように息子の代弁を買って出る。その間中笑いを噛み殺して言い訳に砕身する父を笑う。
  「じゃあ、いこうぜ。俺待ってるのが長くて腹減っちまったからな。ああ母さんそれ(母の荷物)持つから、シバキは程々にしといてくれよね。じゃあタクシー乗り場で順番取って待ってるから」
 そういうと二人の荷物の中で一番重そうなモノを担ぐと、サッサとエントランスを後にした。呆気に取られる二人を残して。
 

pleasant chat

   ブーーーーーーーーー
LPG特有の排気音だけが車内を支配する、とても離れ離れであった家族の再会とは思えない妙な空気に普段は饒舌な運転手も黙るタクシー車内。
  (う〜〜〜ん・・・・・・・・・・・・・)
 成田からの都内に入るタクシーの中で大樹は考えていた。
  (何があったんだ?一体コイツに・・・・・・・・・・)
 以前の帰国のときはサバイバルナイフとの違いこそあるが、首筋に針を付きつけられているのに、それでも怯える素振りも無く安穏としている。
 これでも自分の腕はそれなりに辣腕だし、それが通用しないハジキ相手であってもハッタリだけで幾多の窮地を切り抜けて来た迫力があった。しかし、そのハッタリを難なく見抜かれた。何故に見切ることが出来たのかと聞くと、興味無さそうに「害意が感じられない」と気の無さそうにつぶやく。
  (俺が脅しだけなんかやらないとはわかっているだろうに)
 これでも今まで反政府ゲリラあたりとも渡り合ってきた、それほど迫力には不自由しないのに・・・・・・確かに身内相手に本気な殺意を抱くワケは無いが、今までそれを感じずにビビリまくっていたのに今ではその奥に潜む真意をハッキリ感じ取っていた。
   

 無言の車内の後部座席から、前席で寡黙に押し黙っている二人の息子に気取られないように瞳で話す。
  (どうしたんだコイツ。以前と全然感じが違うぞ)
  (そ そうね。どうしたのかしら。何か悪いものでも食べたのかしらね)
 在留している国の現状と、元からの性格からして大概の事に動じない夫婦二人も心中穏やかでいられない。大樹の脅し?が通用しない以上は恐らく百合子でも同じように脅しの部分では動じないであろう事は、村枝の紅百合と呼ばれていた頃の人並み外れた洞察力でも判っていた。それはともあれ、人生の楽しみの一つが無くなって消失感が募る。この息子は本当にこずき(突付く)甲斐のある対象であるのだ。美神が虐めて至福を感じるのと同じように、チャランポランに見えても芯は結構真面目な人間は昔からそうなようにだ。
  (ほら、前の何とかっていう悪魔との戦いじゃないの。美知恵さんが仰っておられたように、あの時の戦いが原因じゃないかしらね)
 百合子は詳しい事は聞かなかったが、その時の戦いで縦横無尽な活躍をしたと、身重の体でワザワザ来訪して感謝された。もし息子が居なければ、世界が・・・・ついでとは言っていたが、彼女の娘も消滅していたらしい。
 ついで、などと言ってはいたが指揮官としてでは無く、母としての感謝の