静かに雨が降りしきる夜、タマモは事務所の玄関をくぐって外に出た。
『お出かけですか、タマモさん。』
「そうね、ちょっと散歩に行ってくる。」
『傘も持たずに・・・風邪をひいてしまいますよ?』
タマモは事務所を見上げるようにして振り返った。
「・・・・・」
『・・・・・』
タマモは事務所に背を向け歩き出した。
『タマモさん、どうかお気をつけて。』
タマモは軽く左手を挙げると、暗い雨の中に溶けるように消えていった。
きつねレポート
ドッペル・パニック
だいたい1年後・・・?
「じゃあシロ、3,4日したら戻るから、おキヌちゃんと横島君にはよろしく言っといて。」
「了解でござる。」
スーツに身を包んだ美神は旅行用バックを肩から提げ、玄関のドアを開けた。
「人工幽霊1号、留守番よろしく。」
『行ってらっしゃいませ、美神オーナー。』
「え、じゃあ美神さん沖縄行っちゃったの?」
「そうでござる。」
学校から帰ってきたおキヌは、制服を着替えながらベッドに座ったシロを振り返った。
「何でも冥子殿から電話が来て、その後唐巣神父のぎっくり腰をエミ殿が琉球の呪いでカオス殿の家賃が赤字だとかどうとか・・・」
「??? ・・・・よくわからないけど、要するに美神さんはしばらく帰って来ないのね?」
「3、4日は帰れないそうでござる。」
ぱたんっ
「そっか。」
着替え終わったおキヌはクローゼットを閉めた。
「あっ、じゃあ他の仕事はどうしよう?」
「とりあえず美神殿が帰ってくるまでのスケジュールは立て直したそうでござるから、依頼の予約だけ聞いといてくれとのことでござるよ。」
「ふ―ん、じゃあ、横島さんにも電話しなくちゃ。」
「あっ、拙者が先ほど電話したでござる。」
「ありがと。」
部屋を出たおキヌとシロは、キッチンに向かって廊下を歩いた。
「じゃあ、明日はどうしよう。 休日だし仕事に行くつもりだったから予定も入れてないし・・・」
「たまには家でのんびりするのがいいではござらんか? 美神殿は基本的に年中無休でござるからなあ。」
「ふふっ、そうね。 じゃあ、久しぶりにケーキでも作りましょうか、横島さんも呼んで。」
「いいでござるな! 拙者も手伝うでござるよ!」
次の日
「ふ―ん、じゃあ美神さんは今ごろ沖縄でバカンスか・・・チキショー! 俺も行きたかった―!」
「まあまあ先生、拙者がいるからいいではござらんか。」
「やかましいっ! 水着の姉ちゃん達と海辺を走り回る俺のささやかな夢を取り逃がしたこの口惜しさがお前にわかるか!?」
「よくわからんでござるが、先生は散歩に行きたいとそういうことでござるな?」
「違―――うっ!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて。」
ソファーの上でじゃれあう横島とシロを笑いながら、お盆にティーカップを載せて運んできたおキヌはテーブルにそれを置いた。
「シロちゃん、そろそろケーキが焼けるころだから運んできてくれない?」
「了解でござる。」
「何? ケーキ焼いたんだおキヌちゃん。」
「はい、今日は自信作ですよ?」
「そりゃあ、楽しみだ。」
「えへへっ。」
「う―――ん、いい臭いでござる。」
鼻をひくつかせながら、シロはキッチンに入った。
「・・・あれ?」
冷蔵庫にもたれかかっているシロは1L牛乳をパックごと飲みながらシロに片手を上げて挨拶をした。
「あれ、拙者がもう1人・・・・何で? じゃあここにいる拙者は誰でござる・・・!?」
両手で頭を抱えるシロに、牛乳を飲んでいたシロはぴんっと小さな霊波を指で弾いた。
「おっそいな―、シロの奴・・・」
「そうですね、私ちょっと見てきます。」
おキヌが立ち上がるとドアが開いた。
「お待たせでござる!」
「おおっ、待ってました!」
両手に鍋つかみをつけたシロは、ケーキを丸いテーブルにのせた。
「いや―、遅れてすまんでござる。」
「うまそ―っ! いやさすがおキヌちゃん。」
「何度も作ってますから。」
「よ―しっ、晩飯の分も食うぞ!」
「・・・晩御飯も食べてきますか?」
「あっ、拙者の分も残しといて欲しいでござるっ!」
「ぷは―っ、食った食った。」
「お粗末さまです。」
「じゃ、拙者が片付けるでござるよ。」
「あ、いいわよシロちゃん、私がやるから・・」
「何の何の、拙者作るのにあまり役に立ってなかったでござるからな。 このぐらいやらせてくだされ。」
「そお? じゃあお願い。」
シロはお盆を抱えて部屋を出た。
「はあ〜・・・これで水着の姉ちゃんがいれば言うことないんだがな〜・・・」
「まだ言ってたんですか・・・?」
「おキヌちゃんも行きたいだろ? 沖縄。」
「それはそうですけど・・・」
ばたばたどたばた・・・
「?」
「何でしょう?」
ばたんっ
「たっ、大変でござる! 拙者が台所に行ったら拙者が牛乳飲んでてっ、いやっ、それは拙者じゃないんでござるがって、あああああああああ・・・!?」
シロはテーブルに駆け寄った。
「ケ、ケーキが・・・・おキヌ殿、拙者の分は!?」
「え、だって・・」
「何言ってんだ、お前半分以上食ったじゃないか。」
「食べてないでござる―!」
「シロちゃん、頭でもぶつけたの?」
「変な物でも食ったのか?」
「食べてない―! 拙者何も食べてないでござる――!」
「とにかくヒーリングを、ほら頭貸して。」
「シロ、1番食っといて寝ごと言ってんじゃねえぞ。」
「うお――――んっ、違うでござる―――――!」
「・・・つまり何か? キッチンでもう1人お前がいて、そいつがお前を眠らせてるうちにお前になり変わって俺達とケーキを食べた、と?」
「そうでござる!」
ソファーに座った横島とおキヌの前で正座しているシロはぐっと顔を突き出した。
「・・・どう思うおキヌちゃん?」
「シロちゃんがそんな嘘をつくとは思えませんけど・・・」
「でもこいつ食い意地が張ってるからなあ。」
「ケーキはもう食べちゃったんですよ? 今更ケーキが欲しいって言うのも変じゃないですか?」
「案外代わりに肉が食いたいとか言うんじゃないの?」
「どっちにしろ夕飯はお肉を使うつもりでしたし、シロちゃんもそれは知ってますよ?」
「じゃああれだ、きっと俺達の分もよこせとか言うつもりだったんだな。」
「シロちゃんが本気になったら多分それでも足りませんよ。」
「・・・本人を前にずいぶんな言われようでござるな、少しは信用して欲しいでござる。」
「そうだ、人工幽霊1号。」
『何でしょう、横島さん。』
「シロが言うには何かシロの偽者がいるらしいんだが、お前そういうの見たか?」
『いいえ、私は何も感知していませんが。』
「だとさ、シロ、観念しろ。」
「そ、そんな! 拙者は確かに拙者を見たし、ケーキも食べてないでござる!」
「往生際が悪いぞ、武士なら見苦しい真似はよせ!」
「シロちゃん、また作りましょうね。」
「くううううううう・・・・・・拙者がいったい何をしたでござるか―――――!?」
ぴこぴこっ ぴろりらり―ん
「よっ、はっ、おっしゃ――!」
テレビの前に座ってゲームをする横島は、部屋に戻ってきたおキヌに振り向いた。
「お疲れさん、結局片付けもおキヌちゃんだったな。」
「シロちゃんはどうです?」
「そこのソファーで寝てる。」
白い狼が丸まってソファーに乗っているのが見えた。
「シロちゃんそんなにお腹が空いてたんでしょうか?」
「さあな。 ま、確かにうまいケーキだったけど。」
「夕飯はシロちゃんの好きなものを作ったほうがいいですかね?」
「甘やかすのもどうかと思うけど、俺も肉が食いたいから任せるわ。」
「じゃあ、私ちょっと冷蔵庫を見てきます。」
「ん―。」
ぴこっ ちゅど〜ん てろりらてろりら〜
「わ―はっはっはっ、この俺に勝とうなんざ10年早いわ―!」
どたばたんっばたばた・・・
「何だ何だ!?」
ばんっ
「よっ、横島さん! 今、今っ・・・・!」
「何、どしたの?」
「今そこで私とすれ違いました!」
「・・・はあ?」
「わ、私がもう1人いたんです――!」
「おキヌちゃん、別にシロの肩を持たなくても俺はもう気にしてないから・・」
「本当ですってば―――――!!」
「やれやれ、おキヌちゃんまで何言い出すやら・・・」
トイレから出た横島は真っ直ぐバスルームにスキップしながら向かった。
「さて、鬼のいぬ間に何とやら。 美神さんの下着や、ついでにおキヌちゃんのも・・・くっくっくっ・・・」
「シロちゃん、私は信じるからね。」
「くう――ん・・・」
ソファーに座っていたおキヌは、膝にのせたシロをやさしくなぜた。
どすばたごかばた・・・
「何何?」
「わふ?」
ばがんっ
「で、出た――――! 俺が出た―――――!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ほ、ほんとだって、俺がバスルームに行ったら既に俺が美神さんの・・」
「わうわう?」
「よ、横島さん・・・その手に持ってるのは何ですか・・・・!?」
「こ、これ? これはおキヌちゃんの、ってわ――――っ、違う! これは違うんだ!」
「3人の話をまとめると、この事務所内に俺達ではない別の俺達がいるってことだな・・・」
左の頬に真っ赤なもみじをつけた横島は腕組みをして唸った。
「つまり偽者でござる。」
「でも人工幽霊1号の話だと誰もいないんですよね?」
「なあ、人工幽霊1号。 やっぱり今も誰もいないのか?」
『はい、あなた達3人以外は誰もいませんし、出入りもしていません。』
「う〜ん・・・」
「しかし拙者達は確かに見たでござる!」
「そうなんだよな―・・・」
「・・・美神さんに電話で相談してみましょうか?」
「そうだな―・・・」
「先生っ! 拙者達はGSでござるよ!? このぐらい自分達で何とか解決してみるでござる!」
「そ―いや俺はGSか。」
「忘れないで下され!」
「そうですよね、私だってGS目指してるんですから、私達でやってみましょうよ横島さん!」
「ん―――・・・じゃあ、いっちょやってみっか?」
「はい!」
「はいでござる!」
ぴこぴこぴこっ
「・・・見鬼君ですか?」
「うん、とりあえずはこれで、事務所の中を調べてみようと思って。」
「でも人工幽霊1号の話だと・・」
「いや、美神さんから聞いたんだけど、前にワルキューレとかが忍び込んだ時、魔力で人工幽霊1号の記憶を書き換えたらしいんだ。 だからもしかしたらそういうのもあるかなって。」
「じゃあ、今も誰かがいるかもしれないってことでござるか?」
「それをこれから調べようっての。」
土台の上でくるくる回っていた見鬼君は、ぴたっと止まると一生懸命に腕を振った。 そしてその指の先にはシロがいた。
「せ、拙者が何か・・・?」
「お前が偽者か――――!?」
「わ―――、違うでござる―――――!!」
「・・・どうやら見鬼君の中にシロちゃんの毛が入っていたみたいですね。」
「まったく紛らわしい・・・!」
「ううう・・・先生ひどいでござる―――・・・」
シロは両手で頭を押さえていた。
「お前、この間倉庫の整理を適当にやっただろ? これが実戦だったらどうするんだ?」
「十分実戦でござる――――・・・」
「美神さんに怒られるよかましだろ? もっぺん掃除しとけよ。」
「ふわ〜いでござる。」
「直りましたよ、じゃあ、上から調べて行きましょうか。」
「ふう、結局何も反応ありませんでしたね。」
「うう〜、拙者叩かれ損でござる。」
「さて、次はどうしようか?」
「そうですねえ・・・」
「はいはいっ!」
「はい、シロちゃん?」
「偽者は拙者達が1人の時に現れたから、それで誘き出すのがいいでござる!」
「でもそれって危なくないか?」
「そうよシロちゃん。 相手のことが何もわからないのに、今ばらばらになったらまたややこしくなるかもしれないでしょ?」
「大丈夫でござる、ようはやられなければいいんでござろう?」
「理屈はそうだが・・・・どうする? おキヌちゃん・・・」
「本人がやる気みたいですし、いいんじゃないですか?」
「え、本人・・・・?」
『ガッ――――、こちら横島、こちら横島。 聞こえるかシロ?』
「ううう・・・き、聞こえるでござる―――・・・」
トランシーバーを片手に、シロは事務所の廊下をゆっくり歩いた。
『ガッ―――、よし、じゃあ、頑張れよ囮。』
「うううう・・・せ、拙者は先生がやってくれるとばかり思ってたのに――・・・」
『ガッ――、馬鹿言え、お前が言い出したんだ。 責任を持て!』
「り、了解でござる―――・・・」
「シロちゃん大丈夫でしょうか?」
「あいつは俺達の中で1番頑丈で1番逃げ足が速いんだぞ? 大丈夫大丈夫!」
「私は横島さんが1番だと思うけど・・・」
「よ、ようし・・・拙者だって今年GS試験を受ける身、見えない相手とも戦えずして武士とは言えんでござる! いざっ!」
シロはキッチンに飛び込んだ。
「!?」
『ぎゃ――――――っ!?』
「何だ? シロ、もしもし? もしもし!?」
「横島さん、キッチンの方からです!」
「よし!」
横島とおキヌは部屋のドアを開けて廊下に出ようとした。
「うわ―――――――ん!!」
「何じゃあ!?」
「シ、シロちゃん!?」
廊下を走りすぎたシロは階段を駆け上がって屋根裏部屋に駆け込んでいった。 ばたんっ
「い、いったい何が・・・?」
「よ、横島さん! あれ・・・・!?」
「な、シロ!?」
キッチンから血まみれのシロが廊下に転がり出てきた。
「な、お前シロなのか!?」
「シロちゃん!」
横島とおキヌは血まみれのシロに駆け寄った。
「しっかりしろ、何があった!?」
「せ・・・んせ・・がはっ・・・!」
「今ヒーリングを!」
「シロ! 死ぬな! おい!?」
「・・・つが、くっ・・・偽者で・・・」
「横島さん! ヒーリングが効きません!」
「よ、よし、今文殊で・・」
「せんせ・・・」
シロはがくっと頭を落とした。
「シロ・・・・・おい―――――!!」
「シロちゃん・・・・」
横島はシロの体を揺さぶるも、シロは動かなかった。
「何でこんな・・・」
横島はシロをそっと床に置くと立ち上がった。
「・・・・あいつか・・・あいつが・・・! 行くぞおキヌちゃん!」
「はい!」
「ううう〜〜〜・・・拙者、拙者あんな辱めを受けたのは初めてでござる〜〜〜〜〜!」
シロは屋根裏部屋のベッドで枕を掴んで泣いていた。
「うお―――ん、うううう・・・」
どすどすばたどす・・・
「?」
どかっ
「こんの偽者―――! シロの仇じゃ―――――!!」
「許しませんっ!!」
「な、何でござる―――――――!?」
「う〜ん、敵もなかなか手の込んだことするな―。」
「納得する前に拙者に謝罪の言葉をかけて欲しいでござる!」
「ごめんねシロちゃん、痛かった?」
「当たり前でござる! 死ぬとこだったでござるよ!?」
「そんなことより、こうなったらやっぱり美神さんに相談したほうがいいな。」
「拙者が死にかけたのが「そんなこと」でござるか・・・!?」
「そうですね、私電話してみます。」
沖縄のどっかそのへん
「いや〜、やっぱ沖縄はいいわ―。 都会の喧騒を忘れるわね―。」
「そうね、たまにはのんびりするのもいいワケ。」
「は〜い皆〜? 日焼けしないよう、クリーム塗りましょうね〜?」
「ぎょへ―!」
「くかかかかっ!」
「きき――っ!」
砂浜で水着を着ていた美神とエミと冥子は、焼ける日差しをパラソルでさえぎり、のんびりしていた。
「お―い、美神君!」
「あ、先生。 どうでした?」
「はあ、はあ、やっと許可が下りたよ。」
「じゃあ、いよいよ海底探査ってわけね。」
「今カオスさんが船を手配しに行ってる、君達も準備してくれ。」
「というわけよ、行くわよ2人とも。」
「はいはい。」
「皆〜、行きますよ〜?」
『おかけになった電話番号は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていない為・・』
「え―――っと・・・」
「俺達だけで解決するしかないってことか。」
「拙者いろんな意味で不安でござる。」
「どうします? もう1度囮作戦やってみますか?」
「それしかなさそだね。 でも敵も手ごわそうだし、俺がやるよ。 シロ、トランシーバー貸せ。」
「え、えっとお・・・あれ・・・・?」
「壊れてますね・・・」
「ドジー! ドアホー! 役立たず――!!」
「ひい〜ん、こんなんばっかりでござる〜〜!!」
「まったくめんどくせ―ことになったもんだ、どうせなら美人が来ればいいのに。」
ガレージに下りた横島はぐるっと回って調べた。
「お―い、いるならさっさと出ろ―。」
がたっ!
「うわおうっ!?」
「横島さん落ち着いて、私です。」
「な、何だおキヌちゃんか・・・びっくりさせんなよもう。」
「すみません、横島さんが遅いから心配で。」
「遅いって、まだ5分も経ってないんじゃ・・・?」
「だって、私、私・・・」
「ど、どうしたよおキヌちゃん!?」
ぽろぽろ涙をこぼすおキヌに、横島は駆け寄った。
「私、怖くて・・・・よ、横島さん帰ってこないし・・・シロちゃん頼りないし・・・・うううっ・・・」
「ご、ごめんごめんっ、すぐ戻ろう! なっなっ!?」
おキヌの手を引いて階段に向かおうとするが、おキヌは動かなかった。
「おキヌちゃん?」
「横島さん・・・・」
「え!? ちょっとっ!? 何!?」
おキヌは横島に抱きつくと、見上げるように横島に顔を向けた。
「え? え? え!?」
「・・・・・」
瞳を閉じたおキヌはそっと顔を近づける。
「こ、これは!? いっただっきま―――――す!!」
「先生大丈夫でござろうか?」
「大丈夫よ、横島さんはGSだもん。」
「ほんげ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
「・・・やられたみたいでござる。」
「と、とにかく行きましょ、下からよね!?」
「よ、横島先生・・・!?」
「なんとなく予想できたけど横島さん大丈夫ですか!?」
車に寄りかかっている横島は真っ白になっていた。
「は〜・・・」
「落ち着きましたか?」
「ん・・・あんがと、おキヌちゃん・・・」
「いったい何を見たんです?」
「うっ・・・・それはちょっと・・・シロこそ何であんなに泣いてたんだよ?」
「えっ!? そ、それはちょっと口が裂けても・・・・」
「とにかく何か恐ろしいものを見たんでしょうね。」
「そりゃあ、恐ろしかったなあ・・・」
「恐ろしいでござる。」
「でもどうしましょう、次、私がやってみましょうか?」
「やっ、やめとけ! あれは精神に来るから・・・」
「はあ・・・」
「は〜・・・もうすっかり日も沈んでるでござる。」
「なんか疲れる1日だったな―・・・・じゃ、俺帰るから。」
「えっ!?」
「先生1人で逃げる気でござるな!?」
「しょうがないだろ放せこら!」
「横島さんずるいですよ!」
「死なば諸共でござる――!」
「放して――、幽霊屋敷にいると迷子になる体質なんだ――――!!」
「わけわからんでござるっ!」
「GSなんだからしっかりしてください!」
ぼ―ん、ぼ―ん、ぼ―ん・・・・
「12時ですね・・・」
「ううう・・・こ、ここの時計ってあんな音で鳴ってたっけ?」
「臨場感たっぷりでござる。」
「ど―しましょ―・・・?」
「気が気でなくて眠れんしな―・・・」
「拙者腹減った―・・・」
ばんっ!
「きゃあ!?」
「何じゃあ!?」
「て、停電でござる!」
「んなこた―わかっとる!」
「な、何にも見えません〜〜〜。」
「落ち着け! こういう時パニックになったら・・」
横島の首筋に冷たいものが触れた。
「んぎゃ――――――!!!?」
「先生どうしたでござる!?」
「何かいた何かいた!」
「拙者に任せるでござる!」
暗闇に青白い霊波刀が走った。 ばかっ
「やった!?」
「シロちゃん痛い!」
「げ、おキヌ殿!?」
「てんめ―、おキヌちゃんに何さらす―――!」
げしっ
「きゃいんっ!」
「よ、横島さん、私はこっちにいますよ?」
「え?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「シロ、そいつが偽者だ―――!」
「今更遅いでござる――!」
「いいから捕まえろ―!」
「暗くて見えんでござる―!」
ぱっ
「あ、電気がついた。」
「ん?」
「あら・・・?」
シロが2人並んで立っていた。
「な、何でござるかお前は!?」
「そっちこそ、目的は何でござる!?」
「貴様〜拙者を愚弄した罪、絶対許さん!」
「先生騙されてはいかんでござるよ!?」
「何だとこの!」
「何でござる!?」
ばちばち・・・!
「ど、どっちが本物でしょう?」
「ここは師匠の俺に任せな。」
横島はずいと前に出る。
「いいかシロ、俺の質問に答えるんだ。」
「はいでござる。」
「いいでござるよ。」
「お前が俺にしてくれることで俺が1番嬉しいことは何だ?」
「はいはい! 拙者と散歩に行くこと!」
「美人を紹介すること。」
「お前が偽者だ――――――!!」
「なぜでござる――――!?」
どかああああん・・・・
「ちっ、逃げ足の速い奴だな。」
「先生が間違えたからでござるっ!!」
「お前が師匠の俺のことを何もわかっとらんからいかんのだ。」
「少しは弟子のことを把握して欲しいでござる!」
「ま―ま―、2人とも落ち着いて。」
「やれやれ、せっかくのチャンスだったのに・・・」
「ひい〜〜〜〜〜ん、おキヌ殿〜〜〜〜!」
「よしよし。」
「こうなったらこっちも本気でいくぞ! おい、人工幽霊1号!」
『・・・・・』
「今の見たろ!? やっぱり何かいるんだ! そいつの場所を探してみてくれないか!?」
『・・・・・』
「おい、聞いてんのか!?」
『・・・・・』
「ちょっと、もしもし!?」
『・・・・・』
「どうしたんだ?」
「まさか、偽者のせいで何か変な影響を受けたのかも・・・!?」
「ど、どうするでござる!?」
「ど、どうしよう・・・・このままじゃ美神さんに怒られる!」
「問題はそこじゃないでしょ!」
「拙者腹が・・」
「シロちゃん!」
プルルルル!
「わ――!?」
「きゃ――!?」
プルルルル、プルルルル、プルルル・・
「で、電話・・・!?」
「こんな時間に誰でござろう・・・?」
「まさか・・・」
「あっ、でも美神さんかも・・・」
プルルルル、プルルルル・・
「横島さん、お願いします。」
「お、俺!?」
「先生ファイト!」
「う〜〜〜〜、よ、ようおしっ!」
かちゃ
「も・・・もしもし・・・?」
『・・・・・』
「だ、誰だお前はっ!?」
『・・・・・おいで・・・』
「ひ―――――――っ!」
がちゃん
「ど、どうしました横島さん?」
「先生・・・?」
「か・・・・・帰る―――! お家に帰る―――――!!」
「どおしたんですか横島さんっ! 気を確かに!」
「落ち着くでござる!」
「美神ざああああああああんっ!!!」
3日後
「ただいま―。」
『お帰りなさいませ、美神オーナー。』
「留守中変わりはない?」
『それが・・・』
「?」
「こ、これは・・・・?」
真っ白になった横島とおキヌとシロが、ソファーに寄りかかるようにして放心していた。
「やれやれ、まだまだ未熟ね。」
ずずず―・・・
「ぷは〜・・・」
「どう、少しは元気になった?」
「はい―・・・」
「ほへ―・・・」
「わう―・・・」
コーヒーをすする3人は大きく息を吐いた。
「そ―と―やられたみたいね。」
「は?」
「どういう意味です?」
「美神殿、偽者を知ってるのでござるか?」
「知ってるもなにも、ほれそこ。」
美神の指差した先には、窓の傍に椅子に座ってコーヒーをすする金髪の髪を9つにまとめた女がいた。
「タ・・・」
「・・・タマモちゃん・・・?」
「・・・・でござるか・・・?」
「久しぶり。」
「うっ・・・・うわあああああああんっ!」
泣きながら霊波刀を振りかざして突っ込んで行くシロは、タマモにひょいとかわされて窓に突っ込んだ。 がしゃあん
「ぎゃわあああああ・・・」
「進歩のない奴。」
「タマモちゃん・・・」
「おキヌちゃん、ちょっと大人っぽくなったわね。」
「うううううう・・・タマモちゃん〜・・・」
「泣かない泣かない。」
タマモはおキヌに歩み寄り、ぽんぽんと背中を叩いた。
「横島、ちっとはましな男になった?」
「お、お前こそ・・・・・すっかり大人のお姉さんになっちまって・・・」
「ふふんっ、惚れ直した?」
「姉ちゃ―――――ん!」
げしっ
「人工幽霊1号、協力感謝。」
『どういたしまして、私も楽しかったです。』
「けけけ。」
タマモは美神に歩み寄った。 眼と眼が会う。
「またしばらく厄介になるわ。」
「ベッドはそのままよ、ゆっくりしてきなさい。」
美神が差し出した手を、タマモはパンと握った。
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【次回予告】
タマモ「心を打つ曲ってのは、耳じゃなくて心で聞けるのよね。」
シロ 「狐が・・・似合わん似合わん、ねえ先生。」
タマモ「あんたもそういうのあるでしょ?」
横島 「そうだな―・・・なんて言うか、あるよなそういうの。」
シロ 「あら?」
タマモ「人間のそういうのを作れる力ってのは、アタシ嫌いじゃないわ。」
シロ 「も、もしもし?」
横島 「何だよそれ、何かいいことでもあったのか?」
タマモ「ふふっ、別に。」
シロ 「そこっ! 拙者を無視して楽しく会話するなでござる!」
タマモ「次回、『さまようアコーディオン』」
シロ 「拙者を交ぜんか―!」