「ちわ〜っす!」 
かちゃ ばきっ 
「ぶはっ!?」 
部屋に入ろうとした横島は飛び出してきたタマモとシロに弾き飛ばされた。 
「待てタマモ―――!! 拙者のいちご大福返せ―――っ!!」 
「何言ってんのこれはアタシがもらうわ!」 
「そうはいくか――っ!! お前に食わすぐらいなら拙者が―――っ!!」 
階段を駆け上がって屋根裏部屋に飛び込んだタマモは窓から外に飛び出た。 
「拙者から逃げれると・・・!!」 
シロは金色の髪を追って窓から飛び出る。 
「思って・・・・あれ?」 
着地したタマモはすっと消えた。 
「ど、どこに・・・わあっ!?」 
ずぼっ 地面に足を着いたシロは落とし穴にはまり込んだ。 
「いってて・・・・なんでこんなとこに穴がってああああ・・・!?」 
屋根の上で口をもごもご動かしているタマモが目に入る。 
「せ、拙者のいちご大福が〜〜〜〜・・・」 
ごっくんと飲み込んだタマモはシロに向かってぱんと手を合わせた。 
「ご馳走様。」 


きつねレポート

 ひと時の郵便 


「まったく大福の1個ぐらいいいじゃねえかよ。」 
「ううう〜、だってだって先生〜〜〜〜!!」 
「シロちゃん、また今度買ってきてあげるから。」 
「まったくガキだな〜お前は。」 
「わう〜・・・」 
「でおキヌちゃん、俺の分は?」 
「はい、テーブルの上に・・・・・あれ? なくなってる・・・」 
「シロが全部食べたわよ。」 
「てめえ――! シロ――っ!?」 
「だ、大福の1個や2個で・・」 
「10個もあったのに・・・」 
「吐け――っ! 今すぐ吐き出せ――っ!!」 
「無理でござ・・・うわっ、先生堪忍でござる――っ!!」 
呪縛ロープでシロを締め上げる横島を見ながら、タマモはお茶をすすっていた。 
「シロちゃん1人で何個食べたんだろ?」 
「9個。 ちなみに最後の1個はアタシが貰ったけどね。」 
「私も食べたかったのに―・・・」 
「なかなかおいしかったわよ。 さすが有名店。」 
「あう〜・・・」 

「おはよ―っ! あれ横島君、今日は昼からでよかったのに。」 
部屋に入ってきた美神はデスクにかばんを置いた。 
「ちょっと腹減っちゃって、お昼ご馳走になれないかな〜なんて・・・」 
「まだ10時でしょうが・・・・あそうだおキヌちゃん。 たしかおいしいいちご大福があったわよね?」 
「あるにはありましたけど・・・」 
「どうしたのよ? あ、そうだタマモ、これあんたに。」 
美神はタマモに封筒をぴっと投げた。 
「何?」 
タマモはそれをキャッチする。 
「下のドアに挟まってたのよ。 あんた宛みたいだから。」 
「タマモちゃんに手紙って、誰です?」 
「さあ? で、大福がどうかしたの?」 
「あっ、それが・・・」 
タマモは封を切ると中身を広げた。 

『前略 九つの髪の方 
 あなたの忘れ物を預からせて頂いています。 あなたは覚えていないかもしれませんが、私は今までずっとそれを大切にお借りしていました。 それをお返しします。 お届けできればよかったのですが、どうか取りに来ていただけないでしょうか。 
                                   黄ノ葉 』 

「・・・・・」 
「タマモちゃん、眉がハの字になってるわよ・・・?」 
「読んでみる?」 
タマモはおキヌに手紙を渡した。 
「この大食い犬が――っ! 1人で9個も食ってんじゃないわよ――っ!!」 
「堪忍でござる――! 仕方なかったんでござる――!」 
「私も楽しみにしてたのに――っ!!」 
「み、美神殿っ!? く、首がしまっ、しま・・・・・」 
かく 白目をむいたシロは首をかくっと落とした。 
「よくわかんないけど、タマモちゃんこの人のこと覚えてないの?」 
おキヌは手紙をタマモに返した。 
「覚えてるような覚えてないような・・・」 
「でもこの人タマモちゃんに会いたがってるみたいね。」 
「ふ〜ん・・・・誰だったかなあ・・・・?」 

その日の午後 

「は〜〜死ぬかと思ったでござる。」 
タマモと並んで歩いていたシロは首をさすった。 
「死にゃあしなわよ。 馬鹿は頑丈って昔から決まってるから。」 
「それは拙者のことでござるか!?」 
「横島とあんたがそのいい例よ。 師弟そろって同じなんだし。」 
「せ、先生と一緒!? う〜ん・・・・喜んでいいのかどうなのか・・・」 
「・・・・誉めてないわよ?」 
「ところでその手紙の主、まだ思い出さんのでござるか?」 
「ま―ね―。」 
「はは〜んだ。 だいたいお前のような狐に手紙を送ってくるなんて、よっぽどのもの好きか変人のどっちかに決まってるでござる。」 
「アタシは別にもの好きでも変人でもどっちでもいいわよ。」 
「・・・・・あっそうでござるか。 さっさと大福買いなおして帰るでござるよ。」 
「言っとくけどお使いに行かされてるのはあんたよ? わかってる?」 
「わ、わかってるでござるよ!」 
「ほんとかしら?」 

有名な和菓子屋 

「いらっしゃいませ〜。」 
「電話で予約をした美神でござるが・・・」 
「はい、いちご大福ですね? 出来てますよ。」 
「よかった〜、これで晩御飯抜きを免れたでござる!」 
タマモはお客様用の木の椅子に座ってガラス越しに外に目をやった。 通りに並んでいる木に目が留まる。 
「―――!」 
「タマモ〜待たせたでござるな。 さ、帰るでござるよ。」 
「・・・・・」 
「どうした、変な物でも食ったでござるか?」 
ばきっ 
「いって〜・・・こら狐っ!」 
「思い出した。」 
「?」 

「ガイロジュ?」 
「街路樹、こういう道路の端の歩道なんかに立ってる木よ。」 
「そいつが手紙をくれたというんでござるか? まさかあ。」 
「まだわかんないわよ、とりあえず調べてみるけど。」 
「よ〜し拙者も行くでござるよ。」 
「何でよ?」 
「お前に手紙をよこすもの好きをこの目で見てやるんでござる。 いや〜楽しみでござるなあ〜? どんな木でござるかなあ〜?」 
「・・・・馬鹿にしてんの?」 
「ま〜さか〜? 拙者も木に友達は多いでござるよ〜〜? あ―楽しみ楽しみ!」 
「・・・・・」 

緑色の葉を着飾った木の並ぶ通りを、タマモとシロは歩いていた。 
「タマモ〜、まだでござるか〜?」 
「別にあんたは帰ればいいじゃん。」 
「そうはいかん! ここまで来た以上、絶対からかってやるでござるっ!」 
「は?」 
「あ、いや、お前の友達に挨拶を〜・・・でござるよ。」 
「・・・いいけど、よだれを大福に垂らすんじゃないわよ?」 
「なっ、失礼な! いくら拙者でも・・」 
「その口から出てるのは何?」 
「えっ? はっ!?」 
シロは慌てて口を拭った。 
「往来で恥ずかしい奴。」 
「むむむっ! うるさいでござるっ! だいたいお前こそ、いいかげん白状するでござるっ!」 
「何を?」 
「木に手紙をもらった―、なんてあるわけないでござる! どうせまた拙者をからかうための自作自演でござろうがっ!?」 
「んな暇なことしなわよ。」 
「へへ〜んだ。 強がったって無駄でござるよ〜だ!」 
「じゃあ帰れ、馬鹿犬。」 
おどけるシロを無視して歩くタマモに、シロはぽつんと取り残された。 
「ま、待つでござる―――っ!!」 
「うるさい、もう帰れ。」 
「お前を殺ってから帰るでござる――っ!」 
シロは霊波刀を出して飛び上がった。 がんっ 
「あだっ!?」 
飛び出た枝に頭をぶつけたシロはべちゃっと地面に叩き付けられた。 
「・・・・・あ、これだわ。」 
「いってて・・・・え? これって・・・?」 
2人は緑の葉を広げた木を見上げた。 
「これは・・・・イチョウでござるな。」 
「そうね。」 
「これならその辺にもこの通りにもたくさんあるではござらんか。 何でこの木だとわかるでござる?」 
『来てくれましたね。』 
「え? 誰、誰でござるっ!?」 
きょろきょろ辺りを見回すシロを無視して、タマモはイチョウに歩み寄るとその幹に触れた。 
「あんたなの、これくれたのは?」 
手紙をひらつかせる。 
『はい、お待ちしていました。』 
「き、木がしゃべってるでござるっ!?」 
「アタシは別にあんたに貸してる覚えはないわ。 あれは、あんたにあげたのよ。」 
『ですが、私はもう直ぐそれを失ってしまう・・・・・だから、その前にあなたに返しておきたいのです。』 
「捨てたっていいのに。」 
「タマモ! 拙者にもわかるように説明するでござるっ!」 
「・・・・・いいけど、とぼけないでよ?」 
「は? とぼけるって・・・?」 

回想 数週間前  

「ま、まだだっ! まだ遅いでござるっ! もっととばすでござるよ――っ!!」 
「馬鹿――っ! 止まれ――っ! ブレーキがぶっ飛んでっただろうが――っ!!?」 
横島とタマモの乗るマウンテンバイクをロープで引っ張り、シロは歩道を走っていた。 
「こ、これはどうやって止まったらいいんだ・・・!?」 
「転ぶしかないんじゃない?」 
「ま、また入院するのか俺・・・?」 
「看護婦目当てで喜んでるくせに。」 
「ああでもせんと現実はつらすぎるんだ! こんな色気のない散歩なんかで死にたかない―――っ!!」 
「あれに色気を求めるのは不可能でしょ。」 
髪を振り乱して走っているシロに、横島はため息をついた。 
「タ、タマモ。 俺の遺言を聞いといてくれ。」 
「嫌、めんどくさい。」 
「ケチ―――っ!!」 
「ああうるさいっ! 止まればいいんでしょ!?」 
タマモは人差し指に霊波を集め、ぴっとロープに小さな炎を飛ばした。 ぷつっ 
「お、なるほど。」 
「ここは直線でしょ? 惰性でゆっくり止まればいいわ。」 
「助かった〜・・・」 
先っぽの燃えている長く切れたロープだけを振り乱し、シロはやがて見えなくなった。 
「あいつ・・・・切れたことに気付かんのなら1人で散歩に行けばいいだろうに・・・」 
「ま、馬鹿だから。」 
やがてマウンテンバイクは止まった。 
「は〜・・・ブレーキ直さねえとな〜・・・」 
「いっそロード用に買い換えたら?」 
「んなことしてみろ? どこまで連れて行かれるかわかったもんじゃねえよ。」 
「ふははははっ。」 
「とにかく帰ろうぜ? シロはほっときゃ帰ってくるだろうし。」 
「・・・・・ぎゃわ――ん・・・・」 
「何か言ったかタマモ?」 
「アタシじゃないわよ、あれ。」 
「ん?」 
タマモの指差す方に顔を向けた横島は、火達磨になって走ってくるシロを見た。 
「せ、先生助けて―――! 熱いでござる〜〜〜〜!!」 
「げっ?! 馬鹿お前、こっちくんな―――っ!!」 
「わい〜〜〜〜〜〜んっ!!」 
「身も焼けるほどの思いってやつね。」 
「こんな迫られかたはいやだ〜〜〜〜〜っ!!」 
「先生―――っ!!」 
「も、文珠―!」 
『壁』 
どかっ 
「ぶぎゃっ!?」 
見えない壁にへばりついたシロは、ぷすぷすと煙を上げながらずり落ちた。 
「た、助かった・・・」 
「狼の丸焼きね・・・・おいしいかしら?」 
「俺はよく焼いたほうが好きだな。」 
「悪趣味な冗談はやめて欲しいでござるっ!!」 
黒焦げのシロが飛び起きた。 
「悪かったって、怒んなよ。」 
「狐〜〜〜〜お前の仕業でござるなっ!?」 
「人聞きの悪い、横島に頼まれたのよ。」 
「何ですとおっ!!?」 
「ばっ、確かにそうだがそうじゃねえだろ!?」 
「せ、先生は拙者を丸焼きにして食べたかったんでござるか・・・・!?」 
「違う、そうじゃなくてだ・・」 
「先生のけだもの―――っ!!」 
ばきっ 
「ぶはっ!?」 
「わあああああああああああんっ!!」 
シロは横島の顎にアッパーを食らわせると走っていった。 
「哀れね・・・」 
「い、言うことはそれだけか・・・?」 
「じゃあついでに馬鹿師弟。」 
「・・・・もういい。」 
「?」 
どくどく血を流して倒れている横島の近くに、太めの枝が転がっていた。 
「・・・・・」 
顔を挙げたタマモは、折れた箇所を目にする。 
「・・・・・」 

『その時、彼女が自分の髪で私の折れた枝を縛って直してくれたのです。』 
「ふ〜む、ではタマモの霊力に影響を受けて、あなたはしゃべれるようになたんでござろうか?」 
腕組みをするシロに、タマモは目を細める。 
「あんた気付いてないの?」 
「は?」 
「あんたが折ったのよ、枝を。」 
「――――・・・・え!?」 
「あんたが殴り飛ばした横島が枝をぶち折った、わかる?」 
「・・・・・・・・・・あっ! 拙者早くこの大福を事務所に持ってかないと! ではっ!!」 
シロはくるっと反転して走り去った。 
「・・・・・」 
『・・・・・』 
「・・・・半分はアタシのせいみたいなもんだから、許してやってよ。」 
『私は気にしていませんよ。 むしろこうやってあなた達と話せるようになれたことに、感謝しています。』 
「ただの気まぐれよ。 そのままでいいんじゃない?」 
『いいえ・・・』 
さわっと葉が擦れる音が耳に入り、タマモはイチョウの幹に背を着けてもたれた。 
『だいぶ枝が伸びましたから、そろそろ切らなければいけないのです。』 
「そう。」 
『交通の妨げになるわけにもいきませんから・・・・数日後には私達の枝はかりとられます。 捨てられてしまう前に、あなたに髪をお返ししたかったのです。』 
「ふ―ん。」 
『すみません、せっかくあなたに直していただいたのに。』 
「いいわよ別に。」 
『それから・・・・髪をお返ししたいということもありましたが、もう一度あなたとお話がしてみたかったのです。』 
「ふん。」 
タマモは目を閉じて笑った。 
「じゃあ、もういいかしら?」 
『はい。』 
タマモは幹から背を離し、イチョウに体を向けると枝を見上げた。 
『楽しい夢をみさせてもらいました。』 
「・・・・どういたしまして。 何なら髪を残していってもいいけど?」 
『もう十分ですよ。 それに話せなくても、あなたと会うことは出来ます。』 
「・・・・わかった。」 
タマモは飛び上がって枝に手を伸ばした。 

「ただいま―。」 
「あ、タマモちゃんお帰り―。」 
事務所に戻ったタマモは、テーブルの上のいちご大福を挟んで睨みあっている横島とシロを目にする。 
「シロ! お前は既に10個も食ったんだろっ!? ちったあ遠慮しろ!!」 
「何をおっしゃるっ! これは拙者が買ってきたんでござるよっ!? もう1個ぐらいいいではござらんか!!?」 
「不毛な・・・」 
「もう30分もああしてるのよ・・・」 
おキヌからお茶の入ったカップを受け取りため息をつくタマモに、美神がデスクの書類に目を通しながら声をかけた。 
「忘れ物は見つかったの?」 
「まあね。」 
頬を緩めてカップに口をつけるタマモに、美神とおキヌも笑った。 

数日後  

「わんわんわんわ―――ん!!」 
「止まれシロ――っ! 頼むから止まってくれ――――――っ!!」 
横島とタマモの乗るマウンテンバイクは、シロに引っ張られるロープにさらに加速した。 
「ふんふんふ〜ん。」 
「タマモ―! 何とかしてくれっ!!」 
ヘッドホンをつけて鼻歌を歌っているタマモは、目を細めながら横島の肩に掴まっている指でリズムを刻んでいた。 
「・・・・・!」 
枝が綺麗に刈り取られた木の並ぶ通りに入り、タマモの目がそれを映した。 
「・・・・・」 
1本の木の横を通り過ぎたとき、タマモの顔の前に緑の葉が1枚迷い込んできた。 ぴっとそれをキャッチする。 
「・・・・・」 
ざらつく葉ざわりに、タマモはそれを指で撫でた。 
「先生――!! 今日はマックススピードを越えるでござるよ――!? しっかり掴まっててくだされ―――っ!!」 
「ふざけんな――っ!!」 
「けけけ。」 
笑ったタマモは葉からすっと手を離し、横島の肩をぐっと掴んだ。 
「スピードア―ップ!!」 
「いやおう―――っ!!」 
「ひゅうっ!」 
駆け抜けるマウンテンバイクの後に、はらはらと葉が舞い落ちた。 

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【次回予告】 
タマモ「ねえ、あんたはどんな夢が見てみたい?」 
横島 「そうだな〜、やっぱ美女に囲まれてうはうはの生活をするやつかな〜。」 
タマモ「は〜ん・・・・で?」 
横島 「いや、でって言われても・・・」 
タマモ「こちらのお嬢さんは?」 
おキヌ「わ、私? う〜んと、皆で楽しく生活する夢かな?」 
タマモ「美神さんは?」 
美神 「数え切れないほどの札束に埋まってみたいかしら・・・・?」 
シロ 「・・・・・」 
タマモ「・・・・あんたも喋りたい?」 
シロ 「拙者は先生と・・」 
タマモ「次回、『おいしい悪夢』」 
シロ 「ぐっ、タマモっ!? 最初から拙者には喋らせないつもりでござったな!?」 
タマモ「さ〜寝よ。」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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