がちゃんっ
「あ、ごめん。」
タマモは床に散らばったカップの破片を拾い上げる。
「いいのいいの、それより危ないから手、気をつけてね。 今ほうき取って来るから。」
「うん。」
おキヌがぱたぱたキッチンから出て行き、入れ替わりにシロが入ってきた。
「あ―あ、何やってるでござるかほんとに・・・」
「・・・・・」
摘んで拾い上げるタマモの隣に、シロもかがんだ。
「だいたいいっつも偉そうなこと言ってる割には肝心なとこで抜けてるんだから、っておいっ!? 聞いてるでござるかタマモっ!?」
立ち上がって窓の外に目をやるタマモに、シロは牙をむいて睨みを利かせる。
きつねレポート
黒き半身
「パーティー?」
「うん。」
ソファーに仰向けに寝転がって眉をハの字にするタマモに、おキヌは笑顔を向けた。
「ほら、ちょうどタマモちゃんがここに住み込むようになってから1年経つじゃない? 誕生日みたいなものだし。」
「・・・・いや、別にいいわよ。」
「遠慮しないの、ねえ美神さん?」
「そうねえ、ここんとこ仕事も忙しかったし、久しぶりに飲み会でもしましょうっか?」
「じゃあ決まりっ!」
「お、おキヌ殿〜・・・拙者は?」
「そっかそっか、シロちゃんが住み込み始めたのも同じ日だもんね。 一緒にお祝いしましょうね。」
「んじゃ、今日は早めに切り上げて、夜は宴会といきますか。」
「やった〜! 先生も呼ぶでござる―!」
「・・・・・」
横島の学校
「あれ・・・?」
窓の外に目をやる愛子は人影が茂みの隙間を通り過ぎるのを見る。
「どした愛子?」
横島は愛子に習って窓の外に目をやる。
「今タマモちゃんがいたような気がしたんだけど・・・」
「そうなのか?」
「うううん、違ったみたい。 髪が真っ黒だったし、髪型も尻尾型じゃなかった。」
「んじゃ全然違うじゃねえかよ、何でタマモなんだよ?」
「だって・・・・そんな気がして・・・」
「横島さん、補習が始りますじゃ。」
「おっといけね。」
「2人共、ちゃんと卒業したかったら真面目にやるのよ?」
「わ―ってる。 行こうぜタイガー。」
机のノートをかき集め、横島とタイガーはばたばた走り出した。
かち かち かち かち
「どうした?」
拳銃に弾を込めるタマモに、デスクで書類にペンを走らせる美神が声をかけた。
「何が?」
「何かあるの?」
「何で?」
「そういう顔してるから。」
「そう・・・」
「・・・・・」
「・・・・おキヌちゃんとシロが戻るのは夕方かな?」
「多分ね。」
じゃかっ タマモはCR−117をポケットに突っ込んで立ち上がった。
「・・・・どちらへ?」
「ちょっとそこまで。」
「今日ぐらいは帰ってきなさいよ? おキヌちゃんやる気いっぱいだから。」
「ええ。」
玄関を出たタマモは両手を上につき上げ伸びをした。
『お出かけですか?』
「散歩。」
『そうですか、どうかお気をつけて。』
「・・・・・」
『タマモさん・・・?』
「行ってくるわ。」
『はい、行ってらっしゃい。』
「う〜んやっぱり油揚げっぽいのも作ったほうがいいかな〜?」
「パーティーっぽくないではござらんか?」
「でも―・・・」
「それにもう、拙者ら手がいっぱいでござるよ〜。」
紙袋を手一杯に抱えたおキヌとシロは通りを歩いていた。
「あれ?」
「シロちゃんどうしたの?」
「今向こうにタマモがいたような・・・」
「え? どこどこ?」
反対側の通りに目を向ける2人は黒い髪の女を目にする。
「あの人・・・?」
「人間ではないでござるな・・・」
「タマモちゃんに似てない?」
「そうでござるかあ・・・・? っと、そんなことより早く帰るでござるよ。」
「うん、そうね。 早く作らないと。」
「・・・・・」
高く、回りが見下ろせるビルの上にタマモは立っていた。 髪が強い風にたなびく。
「探したぞ。」
タマモは振り返った。 豊かな長く黒い髪を腰の後で縛り、自分と似た顔をした女がいた。
「1年経ったな。」
「そうね。」
「お前の役目は終わった。」
「・・・そうね。」
「返してもらおうか、私のものを。」
「・・・・いや。」
「・・・・何だと?」
「人間に仕返しがしたいなら今のままでも十分でしょうが。 アタシをそっとしといてよ。」
「自惚れるな。」
黒髪が足を前に踏みだし、タマモに近づいてきた。
「・・・・・!」
タマモはぐっと身構える。
「お前など私の薄皮1枚に過ぎない。 人間どもの目をくらますために、少し力を分け与えてやっただけだ。」
「・・・・・」
「私の力は私のものだ。 返してもらおう。 そしてお前にもう用はない、消えよ。」
黒髪は腕を突き出した。
「・・・っく!」
タマモはポケットに突っ込んでいた銃を握っている手を突き出す。 どこおおんっ 霊圧に吹き飛ばされ、タマモは眼下に道路が広がる宙に吹き飛ばされた。
「ふっ・・・おもしろい物を持っているな。 この私を逆に喰らおうと言うのか・・・・?」
ビルの端まで歩き、黒髪は腕から流れる血をピット払った。 傷口の血が止まる。
「・・・逃がさんぞ。」
黒髪はビルから飛び降りた。
ぱっぱ――っ ききき―っ どがしゃあんっ 走る車を飛び越え、タマモは黒髪を視界に捕らえる。
「ちいっ!」
銃口が黒髪に向く。 どきゅうん がしゃああんっ 弾がすり抜け、店のショーウインドウを砕く。
「――!? 幻術っ!?」
後を振り向くタマモの顔に黒髪の手が広がる。 がしっ
「ぐっ・・・」
顔をつかまれ、つま先が宙に浮く。 銃を握った腕を突き出そうとするも手首を押えられた。
「諦めろ。」
「っつ、玉藻ノ前・・・・!!」
ぶっぶ――っ!!
「!?」
「!?」
どかっ 車道の真ん中だった2人は車に撥ね飛ばされた。
「きゃ―っ!」
「おい人が引かれたぞっ!?」
「救急車呼べっ、早くっ!!」
ぼかあああああああんっ 炎が一面に広がった。 人と車が焼き払われる。 黒髪は辺りに目を配った。
「逃がしたか・・・・ん?」
立ち込める煙と残り火の向こうにこちらを見ている人々が見える。
「まだ今は早い。 忘れろ。」
黒髪は手のひらから霊波を放った。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・!」
焼けただれた頬をしかめ、タマモは焦げてちりぢりになったパーカーを脱ぎ捨て走った。裏路地に入り、ゴミ箱やらダンボールを蹴り飛ばして大通りに出る。
「・・・・!?」
顔を振って回りに目を配る。
(人が多い、目立ち過ぎる・・・!!)
「よお、タマモじゃねえか。」
「横し・・・!?」
横島のはるか後に手に霊波を込めている黒髪を見たタマモは、歩み寄る横島を左腕で突き飛ばした。 どしっ
「ぐっ!!」
「何じゃあっ!?」
鋭く飛んでくる霊波がタマモの左腕を千切っていった。 目に涙がにじむ。 勢いよく飛び出る赤い血が横島に飛びかかる。
「ち、血が――っ!? ひえ――――っ!!?」
「こいつ―っ!」
タマモは右手で炎を投げつけ、転がっている左手からCR−117を掴み取る。 黒髪は飛んでくる炎を弾き飛ばしてタマモに向かって飛び掛ってきた。
『閃』
ばしゅううっ
「――!?」
溢れる光に顔を覆った。 光がおさまった時、黒髪の視界からタマモと横島は消えていた。
「いつまでも逃げれると思うな。」
さっきの所からさほど遠くない工場
『治』
「おりゃっ。」
ぱしゅううう・・・・ 光がおさまり、タマモは肘の上までなくなった左腕をくいくい動かした。
「よし、とりあえず血は止まったわ。」
「おい、いったい何がどうしたんだよ? 腕大丈夫か? 顔焼けただれてるぞおい? ところで今日晩飯食いに行ってもいいのか?」
「ばらばらの質問すんじゃない、紛らわしい。」
「今日事務所で晩飯食えるかな俺? 家に帰っても何もなくてさ〜。」
「最初に聞くのがそれ? まあいいけど。」
「冗談だって、ありゃ何だよ?」
横島は壁にもたれているタマモの横に座った。
「九尾の狐。」
「2匹いたのか!? けど、お友達って感じじゃなかったぞ?」
「1匹よ。 九尾の狐は。」
「言ってることがわかんねえ。」
「いいわよ、別に。 あいつをやらなきゃいけないことに変わりはないわ。」
タマモは立ち上がる。
「お、おい。 何か知らんが、美神さんとか呼んだほうがいかないか?」
「駄目。」
「何でだよ? すげ―おっかない奴じゃねえか。」
「アタシが自分でやんなきゃ意味ないのよ。」
「無茶言うなって、死ぬ気かよ!?」
横島も立ち上がり、タマモの肩を掴んだ。
「・・・・・九尾の狐は人間を恨んでる。」
「タマモ・・・?」
横島はタマモの後姿を見ていた。
「アタシは人間に対する目くらまし。 ただの囮よ。」
「何言ってんだ・・・?」
「1部の力を切り離して、その間に完全に目を覚ます。 目が覚めたら、あとは切り離した力を取り込むのみ・・・・ってね。」
タマモは横島の方に体を向けた。
「その切り離された1部がアタシ。 あいつは分身のアタシを取り込もうとしてるのよ。」
「なっ・・・!? どうすんだよ!? んならなおのことあいつを皆でやっつけないと・・・!!」
タマモはぺしっと横島のおでこを叩いた。 びゅびゅうんっ
「?????」
横島はよろけて倒れこむ。 タマモは崩れ落ちる横島の体を受け止め、そっと寝かせた。
「自分のことは自分でやりたいのよ。 足手まといも欲しくないしね。」
「タマ・・・モ・・・!?」
「死ぬ気はないわよ。 アタシだって生への執着はあるわ。」
「ま・・・・・俺も・・・・!」
「そういやあんたと誰かと何か約束したような覚えがあるんだけど、何だっけ?」
「・・・・・・!」
「そんな顔しないの、ちゃんと覚えてるって。 けど、破ったらごめん。 今のうちに謝っとくわ。」
「・・・・・!」
「お休み―。」
タマモは横島の目に手を当て、そっと撫で下ろしてその目を閉じさせた。
「ぐお〜〜すぴ〜〜・・・もう散歩はいやじゃ〜〜〜・・・」
「ふっ。」
微笑むタマモは横島の前髪をかき上げた。
「行くか。」
立ち上がったタマもは右手に銃を握って走り出した。
「ただいま〜。」
「ただいま戻ったでござる―。」
「はいお帰り。」
美神はおキヌとシロの抱える紙袋を2つ受け取り、キッチンに向かって歩き出した。
「ずいぶん買い込んだわね〜。」
「えっへへ―、たくさんおいしいもの作りますよ?」
「ところで先生は来たでござるか?」
「え? まだだけど?」
「じゃあまだ学校なのよシロちゃん。 横島さん出席が結構足りないからってよく言ってるじゃない。」
「せっかくアパートに寄ったでござるに・・・・学校にも寄ってみればよかったでござるなあ・・・」
「だからって、補習中ならすぐには帰ってこれないでしょうが。」
「あ、そっか・・・」
「心配しなくても、そのうち腹空かして来るわよ。」
「あれ? 美神さんタマモちゃんは?」
「どっか行ったわ。」
「ええ〜〜〜!! ちゃんと今日帰ってきてくれるのかなあ・・・・?」
「一応念は押しといたわ。 帰ってくるわよ。」
「そうですね。」
「よっしゃ、じゃあ早速作りましょうか?」
「はいっ!」
「ラジャーでござるっ!」
ごばっ 黒髪の投げつけてきた巨大な火球に、タマモは口から炎を吐いてそれにぶつける。 どかあああんっ
「くううっ!」
右手で顔を覆い、凝らす瞳に炎を突き破ってきた黒髪の爪が映る。
「諦めろっ!」
「誰があっ!!」
首に突き出された右手の爪をかわし、おでこを相手の額に叩き付ける。 がんっ
「くっ・・・」
「つあっ・・・」
よろける2人は、足を踏ん張って腕を突き出す。 黒髪の振り下ろされる爪を後に飛んでかわしたタマモは引き金を引く。 どんどんっ
「ちっ!」
「そんなものではっ!!」
手刀で右手を押えられ弾道を逸らされた。 タマモの顔に黒髪の光る右手が突き出される。
「喰らえっ!」
どしゅっ
「!」
「何っ!」
体を沈め、タマモは束ねられている髪を2,3本引き千切られながら黒髪にタックルをする。
「この・・・・かああっ!!」
よろけながらも体勢を立て直し、黒髪は口から炎を吐いた。 ごばああああああんっ
「・・・・!? まだ逃げるか・・・」
黒髪はふっと炎を吹き消し、足元に開いているマンホールに目を落す。
「遅いな〜タマモちゃんも横島さんも・・・」
おキヌは暗くなった窓の外に目をやる。
「そのうち来るだろうし、先に始めない?」
「でも―・・・・」
「・・・・わかったわ、もうちょっと待ってみましょう。」
「先生〜あお〜〜〜んっ!!」
「やかましいっ!」
「拙者迎えに行くでござるっ!」
「どこに? 家も学校も電話してみたでしょうが。」
「だってだって〜〜〜〜・・・・わい〜〜〜んっ!」
地下下水
「ふう、ふう、つ――・・・・」
タマモはお腹を押えながらずりずりと座り込んだ。 右手の銃を膝に叩きつけて薬きょうを落す。 きゃりきゃりきゃり―ん・・・
「・・・しまった弾パーカーの中だった。」
タマモはズボンのポケットを引っくり返す。 ことん
「あと1発・・・・ないよかマシよね。」
口に咥えた銃に弾を入れる。
「はあっ・・・・」
壁にもたれかかり、すっと目を閉じる。
工場
「ん・・・・・?」
横島はむっくり体を起こした。
「あっれ〜・・・・何じゃここは・・・? 俺どうしたんだっけ・・・・?」
パンパンと埃を叩いて立ち上がる。
「え――・・・学校終わって腹へって事務所に・・・・そうだっ! 早く飯をありつきに行かねばっ!!」
走り出す横島は足を滑らせて引っくり返った。 どてんっ がんっ
「あだっ!?」
外灯に照らし出され、後頭部を擦った自分の手が見える。
「何だ・・・・血かこの黒いの・・・・?」
両手を交互に見る。
「あれ・・・・え、何だ・・・っけ・・・?」
頭を押さえる。
「つ〜〜〜っ、何だ・・・・何か忘れて・・・・?」
「・・・・・」
膝を抱え、頭を伏せて座っていたタマモは顔を挙げ、ゆっくり立ち上がった。
「どうした、もう逃げないのか?」
暗闇にかすかに浮かぶ黒髪のシルエットに、タマモは右手の爪をぐっと構える。
「1年というのは長かったかのかもしれんな。 自分の分身にここまで抵抗されるとは思わなかった。」
「だてに人間社会を渡り歩いたわけじゃないわ。」
「無駄なことを・・・・」
「命あるものなんて、皆そんなもんよ。」
「たかが1年生きただけの影が・・・・偉そうに・・・・」
黒髪は右手をぐっと開く。 爪が30センチほど伸び、ぎゃりっと擦り合わされる。
「せめてもの情けだ。 苦しまず一瞬で切り裂いてくれるわ。」
「アタシはこれからも今の生活を続ける・・・・・生きてね。」
「人間に情でも染ったかこの痴れ者があっ!!」
「んなこと知るかっ!」
横1線になぎ払われる爪を飛び上がって避け、天上を蹴り狐の姿に戻ったタマモは牙をむいて黒髪に飛び掛った。
「大人しく我が元に還れっ!!」
すくい上げるように振り上げられた黒髪の左手が爪を伸ばす。 どしゃずしゃっ 血しぶきが飛び、ばらばらに引き裂かれた狐の肉片が飛び散る。
「何!?」
片耳がなくなり首だけになって飛んでくる狐の開いた口の中に、かすかな光を弾く銃口を見る。 どきゅうんっ どしっ
「ぎいやあああああああああっ!!!」
CR−117が反動で千切れた首から血と一緒に飛び出る。 額を打ち抜かれた黒髪は頭を両手で押えてもだえた。 落ちて転がった狐の首が、跳ねるように飛び上がり、黒髪ののど元に飛ぶ。
「しゃ――っ!!」
がぶちっ
「ぐあ・・・・かああ・・・・!!」
黒髪の首から血が噴き出した。
横島の学校
暗い廊下をかんかん走る横島は、教室のドアをがらっと開けた。
「おい愛子っ! タマモは・・」
「し――っ、静かに。」
窓際にもたれて座る愛子の膝の上に、背中を上下させて眠っている金色の狐が眠っていた。
「疲れてるみたいだから、起こさないで。」
静かに歩み寄った横島はかがんで狐の顔を覗き込んだ。
「いったい何があったの? いきなり来てちょっと寝かせて―って言うし、服がぼろぼろだし。」
「よくわかんねえけど・・・・うまくいったみたいだな。」
「何が?」
「さってね。」
横島は愛子の隣に腰を下ろした。 窓からの光に教室が浮び上がる。
「そう言えば、何でここにタマモちゃんがいるってわかったの?」
「う〜ん、他に心当たりがなかったからなあ・・・・事務所じゃシロとかに騒がれるだろうし・・・」
「つまり、この愛子さんの人徳って訳ね?」
「へ―へ―。」
「あ、笑ったわね〜?」
「笑ってねえって。」
「そうだ、事務所に連絡しといてくれって頼まれてたんだわ。」
「何?」
「何かおキヌちゃんがご馳走用意してくれてるらしいんだけど、そんな余裕ないからって。」
「しまった―っ! 真っ直ぐ事務所に行くべきだったか!?」
「ちょっと横島君電話してきてよ。 私はほら、こんなんだから・・・」
愛子は狐の背中をそっと撫でる。
「ん―、じゃついでに俺の分残しといてくれるように言っとくか。」
ぷるるる・・
「はい、美神除霊・・・・横島さん!?」
美神が歩み寄り、シロはダッシュで駆けつけ受話器をひったくった。
「先生早く来るでござる―――っ!!」
『うわっ、お前声でけ―って。』
「拙者のお祝いしたくないんでござるか――――っ!!?」
「はいはい落ち着く。」
「ちょっとシロちゃん貸してっ!」
おキヌは美神に後から羽交い絞めにされたシロの手から受話器を取る。
「もしもし横島さん? 今どこです? 今日事務所でパーティーやろうってことになってるんですけど・・・」
『ああ聞いた。 んでタマモなんだけど・・』
「タマモちゃんに会ったんですか!?」
「!?」
「!?」
美神とシロの顔がおキヌに向く。
『お、おう。 で今日はちょっと都合が悪いらしくってな―、帰れんからごめんって言ってくれって。』
「そう・・・ですか・・・・わかりました。」
「おキヌ殿ちょっと貸してくだされ。」
「え、ああうん。」
「先生、タマモなんか抜きいいでござるからパーティーやるでござるっ!」
『ああ〜うん・・・・そうしたいとこだけど・・・・・俺もちょっとパス。』
「ええ〜!!」
『悪いな、飯とっといてくれよ。』
「・・・・・先生、ひょっとして今タマモと一緒でござるか?」
『えっ、いやおま・・・・んなわけねえだろ〜〜? 馬鹿ゆってんじゃないよ〜〜〜!』
「やっぱり一緒なんでござるなっ!! どういうことでござるかっ!?」
『いや、あ、10円玉なくなるっ! じゃ、じゃあっ!! かちゃん・・・・つ――・・・』
「おんのれ狐め〜〜!!」
「ちょっとシロ?」
シロは受話器を放り出してドアに走った。 ばたんっ
「み、美神さんっ! 私も行ってきますっ!!」
「え?」
おキヌも開けっ放しのドアの向こうに走り去った。
「・・・・・」
美神はテーブルの缶ビールを手にとってぷしっと開けた。
「主役が2人共いないけど、1杯やらせてもらいますか。」
『オーナーは行かなくてもよろしいのですか?』
「たまにはね。 それにパーティーだってのに誰もいなくなると、あんたも寂しいでしょ?」
『お心遣い、感謝します。』
「んじゃ、家の増えた同居人の1周年に、乾杯。」
『乾杯。』
美神はビールの缶をかつんと窓枠にぶつけた。
「ちゃんと言ってくれた?」
「ああ、何かいらん誤解を生んでしまったような気もするが・・・」
横島は椅子を取って背もたれに両手を組んで座った。
「・・・・なあ、タマモだったか?」
「はあ?」
愛子は狐の首筋を指で撫でながら眉をひそめた。
「何言ってるの?」
「こいつさ、自分の分身と戦ってる―みたいなこと言ってたからさあ。 ひょっとしたら、こいつはタマモじゃなくてその分身じゃないか――って・・・・」
「そうだったんだ・・・・でもタマモちゃんだと思ったけどな――?」
「わかんねえぞ・・・・?」
愛子の指が止まる。
「・・・・ぶはっくしゅんっ!」
「!」
「!?」
「・・・ずずっ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
目を見開いて顔を見合わせた横島と愛子はぷっと笑った。
「・・・・タマモだな。」
「・・・ええ、タマモちゃんね。」
「ははははは・・・・」
「うふふふふ・・・」
ばたばたばたばたばた・・・・
「廊下? 誰か来たのかしら?」
「まずいっ! 愛子ちょっと机貸せっ!」
「え? やだちょっと何すんのよおっ!?」
横島は狐を抱えると古びた机の中に飛び込んだ。 がらっ
「先生―――っ!」
「あ、あらどうしたの?」
シロはずかずか教室内に踏み込んできた。
「愛子殿、先生はどこでござる?」
「え? 横島君?」
「そうでござるっ!」
おキヌが教室内に入ってきた。
「はあっ、はあっ、シロちゃん早すぎるよ〜・・・」
「あらおキヌちゃんも。」
「愛子さん、横島さんとタマモちゃん知りません?」
「横島君補習が終わってから帰ったわよ? 事務所に来なかったの?」
「ええ、タマモちゃんも帰って来なくて、一緒にいるらしいんだけど・・・」
「ふんふん・・・・先生と狐の臭いがするでござるっ!」
「あ、あらそ―お?」
「愛子殿〜〜〜!?」
「ああ―――っ! もうわかったわよっ! 2人はいるわ、この中に。」
愛子は古びた机をぽんと叩いた。
「どういうことです?」
「あなた達がおっかない顔してきたから、怖がってるんじゃない?」
「あっ・・・・」
おキヌはとっさに両手で顔を押えた。
「そんな、先生が拙者から逃げるわけないでござる―――っ!!」
「だからその顔だって・・・」
「あ、愛子さん、横島さんとタマモちゃん、何かあったんですか?」
「さあ・・・?」
「さあって・・・・」
「私もよくは知らないの。 でも今日は、ゆっくり寝かせてあげて、ね? お願い。」
「・・・・わかりました。」
「お、おキヌ殿っ!?」
「帰りましょう、シロちゃん。」
「で、でも先生はっ・・・!」
「あなた達が帰ったら、ちゃんと横島君も帰すわ。」
「ほ―らシロちゃん。 じゃあね愛子さん。」
「ええ、おやすみ。」
「先生―――っ! あお〜〜〜〜〜〜んっ!」
シロを引きずり、おキヌは手を振って出て行った。
「・・・・・・・ほら、さっさと出るっ!」
古びた机から横島がぷっと吐き出された。
「うわっと、何だよもうちっとかくまってくれてもいいだろ?」
「何言ってんの、明日も授業あるんだから、さっさと帰って予習でもしなさいっ!」
「んなこと言ってもな〜・・・その辺でシロとか張り込んでそうだしな〜・・・・」
「あなたがいたら、タマモちゃんゆっくり休めないでしょう? ほら帰る。」
「へ―い。 んじゃな、タマモのこと頼むぜ。」
「もちろん、友達だからね。」
「・・・・・・?」
狐は目を開けてむっくり起き上がった。
「・・・・・」
「目が覚めた?」
「・・・・・」
愛子が教室の中にふっと現れた。
「ここは私の机の中よ、ゆっくり寝ていっていいわ。」
「・・・・・」
しゅごっ タマモが人型に戻った。 両手を開いたり握ったりし、肩をこきこき動かした。
「まだ動かしにくい・・・」
「え?」
「うううん、こっちの話。」
「自分の分身と戦ってたんだって? 青春よね〜〜。」
「そお?」
「ねえねえっ! もっと何かないの!?」
「はあ〜〜〜? んじゃあ・・・・アタシの体は細切れミンチになっちゃったから、代わりにこの体を奪った、なんてのはどお?」
「うう〜〜〜ん、色気が足りないわね、もう1歩かな?」
「悪かったわね。」
笑ってあくびを押えるタマモは、再び狐に戻って丸まった。
「ゆっくり眠ってね。 タマモちゃん。」
愛子は狐の頬を擦って微笑んだ。
see you next story
【次回予告】
横島 「おお、次回があるじゃねえか。 てっきり終わりかと思ったぞ?」
シロ 「ちっ、狐が死ねば今頃拙者が・・・・」
おキヌ「・・・・シロちゃん怖い。」
タマモ「やれやれ。」
おキヌ「タマモちゃん大丈夫?」
タマモ「大丈夫じゃないの?」
横島 「んな人事みたいに・・・・」
シロ 「先生っ、狐ばっかりかまってないで拙者と・・」
おキヌ「そう言えばもうGS試験じゃない?」
シロ 「そうでござったっ、今度こそ拙者が主役にっ!」
美神 「横島君仕事よ。」
横島 「へ〜い。」
シロ 「え?」
おキヌ「あ、私も会場のお手伝いに行かなきゃ。」
シロ 「あら・・・?」
タマモ「・・・・・」
シロ 「・・・・・」
タマモ「じゃ。」
シロ 「くっ・・・・・拙者はいったい・・・・?」
タマモ「次回、『牙と思いの幻影 −仮面の女−』」
美神 「な〜んかゲストが多かない?」
横島 「おっ、美人発見っ!!」
タマモ「はいはい。」