GS試験前日 

「あああああああっ、緊張してきたでござるうっ!」 
「シロちゃん落ち着いて。」 
ぐるぐる歩き回っているシロは時折立ち止まって身震いをした。 
「大丈夫よ、シロちゃんなら合格出来るって。」 
「はうあああああ・・・・っ!」 
「私も冥子さんと一緒に救護班として参加してるから、安心して。」 
「ど―いう意味でござるか・・・?」 
おキヌの笑顔に、シロは頬を引きつって笑った。 


きつねレポート

 牙と思いの幻影 −仮面の女− 


オカルトGメンビル 

「生態兵器?」 
「ええ。」 
美神と横島は西条とひのめを抱えた美智恵と向き合って座っていた。 
「確かな証拠はないけど、その実験を明日のGS試験でやるという情報があるの。」 
「どういう風に?」 
美神はテーブルの資料を手に取る。 
「人工的に作った妖怪ってとこね。 人間に化けさせ、試合させる。 GS試験なら、サンプル集めの手間がないでしょ?」 
「これはオカルト条例に引っかかることだ、何とかしたい。 仕事として、令子ちゃんにも協力して欲しいんだ。」 
「いいけど、こっちの戦力は私と横島君だけよ?」 
「俺もやるんすか?」 
「当然。」 
「わかってる。 あとは唐巣神父にピート君、エミ君といったところだ。」 
「十分ね。 ややこしくなるし、あとはほっときましょう。」 
「よろしくね、令子。」 
「ところでママ? 何でバックを持ってひのめを抱えてるの?」 
「あ〜ら言ってなかったかしら? 今からちょっと南米のパパのところに行くのよ?」 
「ちょっと待ってよ!? 私に全て押し付ける気っ!?」 
「おほほほほ〜〜! じゃあね〜令子〜〜。」 
「あうわ〜。」 
「こら―――っ!!」 
手を振るひのめとバッグを抱え、美智恵はそそくさ走り去った。 
「あんの馬鹿親〜〜!」 
「まあまあ令子ちゃん。 それより、恐らく目標は決勝近くまで勝ち残る奴だ。 それまでに証拠を掴みたいが、まず難しい。」 
「んじゃどうすんだよ?」 
「GS試験にはベテランも多く見学に来るんだよ? 横島君、きみならどうする?」 
「そりゃあ、強い奴と戦わせていいデータを・・・・あっ!」 
「そう。 目的が実戦テストなら当然試合後に観客のGSを襲う可能性が高い。」 
「なるほど、証拠がなくても最終的にそいつをぶっ飛ばせばいいのね?」 
「まあ、黒幕には逃げられるかもしれんが、ある程度の情報をこっちも得られる。 そうしたら公開捜査に踏み切れる。」 
「オーケー、引き受けるわ。」 
「ああ、もう1つ。」 
「何?」 
「実は僕のイギリス時代の知人がこっちにGS試験を受けに来るんだ。 特にどうしてくれってわけでもないんだが、まあよろしく頼むよ。」 
「ほ〜う、昔の女か?」 
「またきみはすぐそう言う・・・・恩師のお孫さんだ。 17の少女にそんな思いはないよ。」 
「俺に任せろ西条っ!」 
横島は立ち上がって西条の手を掴み取った。 
「頼むから変なことはしないでくれよ・・・?」 
「やれやれ。」 

「・・・・・」 
タマモは事務所の屋根に寝転がって足をぷらぷらさせていた。 
『どうしたのですか?』 
背中の下から聞こえる声に、タマモは足を組替えた。 
「別に。」 
『お友達と会われるのでしょう?』 
「まあね。」 
『緊張しているのですか?』  
「どうだろ・・・?」 
『大切な方なのですか?』 
がんっ タマモはかかとで屋根を叩いた。 
『失礼、失言でしたね。』 
「・・・・いいわよ。」 
タマモは再び足を組む。 
「ハルはそんなんじゃないわ。」 
『・・・・・』 
「美神さんや、あんたと同じよ。」 
『・・・・ありがとうございます。』 
「・・・・・」 
タマモはちっとも動かない雲を眺めていた。 瞳が細まる。 
「どういうつもりなんだか・・・」 

「よう、横島。 美神、久しぶり。 ん、おキヌは?」 
「おキヌちゃんは試験の手伝いもう行ったわよ?」 
事務所に入ってきた雪之丞は帽子を取って軽く振った。 
「何だ雪之丞か、飯ならないぞ?」 
「そう言うなって、お前にちょっと話があってな。」 
「何だよ?」 
「俺も今度で正式な資格を取るつもりだ。 そしたら、しばらく俺と組んでみないか?」 
「いいっ!?」 
「駄目でござる―――っ! 先生は拙者と組むんでござるっ!」 
「どうだ、考えといてくれないか?」 
「いや、しかし・・・・」 
「無視するなでござるっ!」 
雪之丞は横島に耳打ちした。 
「お前好みの秘書を雇うことも出来るぜ? その他いろいろ特典が・・・・」 
「い、いいかも・・・?」 
「お―い、シロはともかく私に内緒で話を進めない。」 
「あ、聞こえてました・・・?」 
「いいじゃねえかよ美神、何も一生とは言ってねえよ。 1度横島と組んで仕事をやってみたいんだ。」 
「ふ〜ん、じゃこうしましょう。 家のシロと勝負して、成績がいいほうの勝ちってのは?」 
「せ、拙者でござるか?」 
「おもしれえな。 じゃあ俺が勝ったら1年横島を借りるぜ? ただでな。」 
「お、おい雪之丞・・・・特典は・・・?」 
「ない。」 
「そ、そんな〜〜〜〜〜〜っ!!?」 
「じゃあ家のシロが勝ったら、いつでもこっちの好きな時にただであんたをこき使うわ。 いいわね?」 
「期間は?」 
「10年。」 
「・・・・長い、そっちも1年だ。」 
「まあいいわ、決まりね。」 
「よっしゃ、横島荷造りしとけよ? じゃあ明日なっ!」 
ばたんっ 
「美神さ〜ん、勝手にそんな話決めないでくださいよ〜〜〜・・・」 
「気にしないの、例え雪之丞が勝っても、あんたにはいい経験になるわ。」 
「そんな〜・・・」 
「しか―しっ! 私に喧嘩を売った以上負けるわけにはいかないわっ! シロ、死んでも勝つのよおっ!!」 
「は、はい―っ! じゃ、じゃあもし拙者が優勝したら・・・・」 
「そん時は横島君をあげるから、2人で放浪の旅でもしてきたら―?」 
「や、約束でござるよっ!? 先生、一緒に修行の旅に出るでござるっ!!」 
「嫌だ――っ! 毎日お前と散歩なんかしたくない〜〜〜!! 美神さ〜〜〜〜んっ!!」 
「さ〜て明日の準備するか。」 
「ちょっと〜〜〜! 俺にいいことなんもないじゃないっすか〜〜〜〜!!」 

その夜 

美神はテーブルに並べた神通棍をきゅっきゅと磨いていた。 
「まだやってたの?」 
タマモが入ってきて、向かい合うように椅子に座った。 
「これが命に関わるからね。」 
「ふっ。」 
タマモは神通棍を1つ手に取った。 じゃきんっ 
「・・・・いいんじゃない?」 
「ど―も。」 
美神は手を止め、コーヒーに手を伸ばした。 
「楽しみね。」 
「馬鹿犬にあんまり期待しすぎないほうがいいんじゃない?」 
「・・・ハルって奴よ。」 
「・・・・ああ、こっちの話か。」 
「いい男なの?」 
「・・・・・どうかな。」 
「気に入ってんでしょ?」 
「・・・まあね。」 
美神は微笑んだ。 
「あんまり目立つんじゃないわよ? おおっぴらになったらお互いめんどうだしね。」 
「はいはい。」 
タマモは神通棍を置いて立ち上がった。 
「じゃお休み。」 
「ええ、お休み。」 

GS試験1日目  美神除霊事務所  

「まず今日の予定だ。」 
美神、エミ、唐巣、ピートに向かって西条が口を開いた。 
「ん、横島君はどうしたのかね?」 
「シロと一足先に会場に行ったわ。 あいつには私から話しとくから、続けて西条さん。」 
「うん、まず今日の1時予選と1回戦で様子をみるが、ある程度の参加者名簿は既に手に入れた。 これをできる限り回っておきたい。 そこで2手に別れる。 神父とピート君、エミ君はこっちの研修先を調べる担当を頼みたい。 全員じゃないが、早めに始めたいからな。」 
「わかった。」 
「はい。」 
「ま、雇われてる以上、文句は言わないワケ。」 
「僕と令子ちゃんと横島君は会場でめぼしい選手に絞る。 夜にその報告と対策を練る。 以上だ。 何かわかったらまず僕に連絡をくれ、絶対先走らないように。」 

「すごい人数でござるな〜・・・」 
「去年よりずっと多いなこりゃ。」 
シロと横島は人ごみを掻き分けて歩いていた。 
「拙者自信なくなってきたでござる・・・・」 
「馬鹿っ! お前がしっかりせんと俺は1年も女っけのない仕事をせにゃあならんのだぞっ!?」 
「そ、そうか・・・・先生と2人旅に出るためにもしっかりせねば・・・っ!」 
「いや、優勝はしなくていい。」 
「なぜでござるっ!?」 
目を泳がせる横島に、シロは睨みを利かせた。 
「お〜いシロ―、横島―!」 
「あっ、クロ兄―!」 
錫杖を持って走ってくるクロに、シロは駆け寄って飛びついた。 
「会いたかったでござる―!」 
「おう、いよいよだな。」 
「よ、クロ。」 
「ああ。 そうだ横島、タマモ知らないか?」 
「な、何でタマモを探すでござるか――っ!?」 
「いって、噛むなってシロ。 俺でなくてハルが会いたがってんだよ。」 
「え?」 
「あんたか・・・・ハルってのは?」 
同じく錫杖を手にしている黒髪のぼさぼさ頭が軽く会釈をした。 
「ハルだ、よろしく。」 
「どっかに来てるはずだと思うが・・・・・おい、一応言っとくが・・」 
「何だ?」 
「あれは俺の女だっ! 手え出すんじゃねえぞっ!!」 
「先生何言ってるでござるかっ!!」 
「・・・・ふっ、わかったよ。」 
「おい、いいのかハル?」 
クロがハルをじとっと見る。 
「言ったろ? 僕達はそういうんじゃないって。」 
「そうかね〜。」 
「じゃあちょっとその辺探してみるさ。 クロ、それからシロに・・・・横島だっけ? あとでな。」 
「お、おう・・・」 
ハルは人ごみに消えた。 
「・・・・何か変わった奴だな。」 
「ま―な。」 
「先生っ! タマモが先生のってどういうことでござるかっ!? 先生は拙者の・・・・」
シロはクロをちらっと見る。  
「何だよ?」 
「どうしたシロ?」 
「せ、先生もクロ兄も拙者のものでござるうっ!!」 
「アホぬかせ――っ!」 
「シロ、そう言うセリフはもっと大きくなったらな?」 
「あお〜〜〜んっ!」 
「ん・・・?」 
横島はふと視線を止めた。 ドラゴンをかたどった骨をかぶり、青みがかった黒く長い髪の女が人込みを通り過ぎた。 
「どうした横島?」 
「い、いや・・・・ちょっと・・・」 
「美人でもいたのか?」 
「・・・・ああ。」 
「何!? どこだどこだっ!?」 

「久しぶりだな、タマモ。」 
「ええ。」 
ハルはタマモの座っているベンチに腰を下ろした。 
「ずいぶん多いんだな、受験する奴って。 どうやら、僕は合格出来そうもないかな・・・?」 
「何考えてんの?」 
「何がだ・・・・?」 
ハルは錫杖を立てかけて大きく伸びをした。 
「GSになるなんて、本気じゃないんでしょうに。」 
「ふっ、ばれたか?」 
「まったく・・・」 
にっと笑うタマモは立ち上がった。 
「何するか知らないけど、クロにぐらい話してやったら? 寂しがってたわよ?」 
「きみは・・・・?」 
「何でアタシが?」 
「そりゃ残念。」 
「けけけっ。」 
ハルも立ち上がる。 
「そうだな、キスしてくれたら話してあげてもいいかな?」 
「・・・・クロが?」 
「きみだ、きみ。」 
タマモはハルの肩を掴んで引き寄せると、背伸びして口付けした。 
「・・・・・」 
顔を離したタマモは閉じていた目を開く。 
「・・・で?」 
「人間と妖怪の共存を目指して立派なGSになりたいっ!」 
「・・・・嘘つき。」 
「悪いな、言ってしまうと決心が鈍りそうなんで。」 
「あんたに限ってそれはないんじゃないの?」 
「どうだろうな。」 
「まあいいわ。」 
「キリコのこと・・・・すまなかった。」 
「アタシは気にしてないわ。 それより受付終わるわよ?」 
「おっと、じゃあまた後で。」 
「ええ。」 
走っていくハルの背中に、タマモは軽く手を挙げた。