某ホテルのレストラン
「アタシを知ってる・・・・・?」
「ええ。」
「ほうなんは・・・・・」
「・・・・・」
エビフライを咥えるタマモは、骨の目の穴から覗いてくるツクモの目を見返した。 ごっくん
「その骨、もうとったら? ハルにはばれてるわよ?」
「これ?」
ツクモはドラゴンの骨を指でつっとなぞる。
「これは彼に対するものじゃないわ。 ほとんどは、この時代のあなた達から顔を隠すためよ。」
「80年後の人間なんでしょ? そこまで気にする必要あるのかしら?」
「念のため、よ。」
きつねレポート
牙と思いの幻影 −ウィメン・ワーク−
「ただいまでござる―っ!」
「たらいま〜・・・・っす・・・」
「お帰り―って、ずいぶんよれよれね横島君。 大丈夫?」
「はひ〜〜〜・・・」
横島はよれよれとソファーに倒れこんだ。
「美神殿、おキヌ殿帰ってたんでござるか?」
「ええ。 さっきもう行っちゃったけどね。 ほら横島君、明日もあるんだから早く帰って休みなさい。 遅刻は減給もんよ?」
「今日ここに泊まっちゃ駄目っすか〜? 外は何か物騒で・・・・」
「女の子かあんたは? GSが馬鹿ゆってんじゃないわよ。」
「あ、そうだ美神殿。 実は先ほど変な奴に遭遇したんでござるよ。」
「何よ遭遇って? 宇宙人?」
「暗かったんでよくは見えなかったでござるが、どうも烏天狗みたいでござった。」
「烏天狗・・・・? そんなのが何でこんな街中に・・・?」
「それは拙者にも・・・・偶然通りかかった方に助けてもらったおかげで、拙者らも助かったんでござるが。」
「そうなんっすよ! 美人だったな〜・・・」
「がるるるっ!」
「だあっ、それやめんかいっ!」
「ふん・・・・・GS試験中に烏天狗、偶然とは思えないわね。」
美神は拳で口元を押える。
「で、誰に助けてもらったって?」
「ツクモ殿と言う、拙者と同じGS候補生の方でござる。」
「ツクモ? またか。」
「またって?」
「何かおキヌちゃんもそのツクモってのに会ったらしいわよ。 ずいぶんお気にいりのようだったけど。」
「へ―、すごいでござるな―。 ひょっとすると、何か縁があるのでござろうか?」
「さあね。 とにかく、あんたは早く寝なさいシロ。 明日もあるから。」
「そうでござった!! 優勝して先生と修行の旅に出るためにもっ!!」
「勘弁してくれ・・・」
「ではお休みなさいでござるっ!」
ばたんっ
「・・・・話の方はまとまったんすか?」
横島は体を起こしてソファーに座り直した。
「ヤシロって言うオカルト製品を扱うティルコット社の社員が怪しいわ。 多分間違いないけど・・・・他にも気になることが結構あるのよ。 ツクモって奴も気になるし、コルちゃんの問題もあるわ。 それからタマモの知り合いって奴も、まだどうだかわかんないしね・・・・って、ちょっと、横島君?」
「ぐお〜〜・・・・」
「・・・・本日何にも役に立ってないくせに私より先に寝るたあ、いい度胸してんじゃない・・・?」
「か――――・・・・・」
「ったく、半人前が。」
笑った美神は横島の額を指で突いてソファーに横にさせると、電気を消して部屋を出た。
「そう、彼と会ったんだ・・・・・」
「まあね。」
ツクモとタマモはコーヒーでテーブルを囲んでいた。
「で、どうして彼を狙う私に会いに来たの?」
「さあ・・・・・知らないわよ。」
タマモはカップを置き、窓の夜景に目をやる。
「あの馬鹿烏に愛想が尽きただけよ・・・」
「喧嘩でもしたの?」
「!?」
びくっとツクモを見るタマモは、少し目を丸くする。
「・・・・・・喧嘩っていうのかな・・・・?」
「違うの?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ふんっ。」
「何?」
「何であんたにそんなこと言われなくちゃならないのかって思って。」
「言って欲しかったんじゃないの?」
「・・・・何それ?」
怪訝な顔をするタマモに、ツクモは優しく笑う。
「彼が、人造妖怪の存在を消したいっていう気持ちも分からなくはないわ。 タマモがそれを気に入らないって思う気持ちもね。」
「・・・・・」
「それでも、私は私の仕事をするだけ。」
「・・・・聞いてもいい?」
「ん?」
「あんたは何でGSなんてヤクザな仕事やってるの?」
「私が私であるため、かな?」
「それもどうかと思うけど・・・?」
「いろいろ事情もあるのよ。 皆、一人一人がそうでしょ?」
「・・・・ふっ。」
タマモは瞳を閉じ、笑って立ち上がった。
「ありがとう、話が出来てよかったわ。 ここはおごらせてもらうわ。」
タマモは伝票を掴み上げる。
「私は彼を除霊しなければいけないわ。 タマモがどうするかは、タマモが決めればいいよ。」
「そのつもりよ。」
「じゃあ。」
ツクモがVサインをした右手を振ったので、タマモもそれを真似て指をチョキにする。
「じゃあ。」
唐巣の教会
どんどん どんどん
「はい、どなたですか・・・?」
かちゃ 入口を開けた唐巣は黒い影が月明かりをさえぎるのを目にする。
「き、きみは・・」
『くわ――――っ!!』
「―――っ!!」
美神はベッドから跳ね起きた。
「・・・・・何?」
胸を手で押える。
「・・・・・」
ベッドから下りた美神はパジャマを脱ぎ捨て、椅子にかけてあった服に手を伸ばす。
『どうしましたか、オーナー?』
「ちょっと出るわ。 人工幽霊1号、留守をお願い。」
『横島さんを起こしますか?』
「・・・・・もしかしたら明日の戦力を今全部使い切るかもしれないわ。 横島君はこのまま寝かしといて。」
『わかりました。』
「私が帰ってこなかったら、シロには予定通り試験に行くように、横島君には、明日の試験会場に行って、自分の判断でやるように言って。」
『はい。 お気をつけて。』
「ええ。」
美神はコブラのキーを摘み上げ、携帯を片手でプッシュしながら走って部屋を出た。
どこおんっ
「くっそおっ!!」
ピートは唐巣を抱えたまま教会の外に飛び出た。 それを追うように、黒い翼を広げた影が飛出る。
『か――――っ!!』
どんどんっ
「!?」
『ぐぎゃっ!?』
乾いた音が木霊し、烏天狗が道路に転がるのをピートは目にする。
「西条さんっ!!」
ピートは降下し、銃を烏天狗に向けたままの西条の傍に駆け寄る。
「神父はっ!」
「大丈夫です。」
「きみはそのまま病院へっ!! 令子ちゃん達ももうすぐ来るっ!!」
「すいません、気を付けてっ!!」
ピートは再び地を蹴り飛び上がった。
『か・・・・あああっ!!』
黒い羽がびしっと広がり、烏天狗が立ち上がると同時に西条に飛んできた。
「早いっ!?」
どんっ 発砲しながらも西条は左手のジャスティスの鞘を口に咥えて抜く。
『しゅあああっ!!』
突き出される3本指の爪を体を沈めてかわし、霊刀を突き出す。 どかっ がきんっ 振り上げられる剣と爪が弾きあう。 跳ね上がるようにジャスティスが西条の手から飛んでいった。
「ちっ!」
どかっ
「ぐっ!!」
手から弾かれたジャスティスに一瞬目が行く西条の胸に蹴りが入る。 西条の手から銃も落ち、空手になる。 烏天狗は一端距離を取って空に上がり、再び西条に突っ込んできた。
『ぐああああっ!!』
「オカルトGメンを舐めるなよっ!」
西条は懐から破魔札を取り出し、両手でそれをかざした。
「はああっ!!」
どんっ 霊波が真っ直ぐに烏天狗に向かって伸びる。 どしゅっ
『があっ・・・!?』
肩口を吹き飛ばされ、烏天狗は地に落下した。 どんっ
「・・・・・・」
西条は片膝をついている烏天狗に体を向けたままゆっくりと落ちているジャスティスににじり寄った。
『は、はははは・・・・・』
「!?」
『強いな、貴様。』
烏天狗は立ち上がった。 肩口を押えていた手を放し、爪をきゃりっと擦り合わせる。
「・・・・・・!? 傷が治っている・・・!!」
『お前達とは体の作りが違うのさ。』
「何の目的で人間を・・・・いや、霊能者を襲うんだっ!?」
『くかかかかかっ・・・・・よく言うぜ。 俺はそもそも戦闘用なんだぜ?』
「やはり・・・・お前はティルコット社の・・・」
『知るかよんなこと。 さあ、楽しませろ。 死にたくなかったらなっ!!』
ばふっと羽をはばたかせ、烏天狗が飛び掛ってくる。
「くっ!」
がきんっ 足で地のジャスティスを蹴り上げキャッチし、西条は下段に構えて体を低くする。
『しゃあああああっ!!』
振り下ろされる爪に、西条は上着を脱ぎ投げつける。
『遅いっ!』
ざしゅっ
「しまっ・・」
上着を切り裂く爪の先端が西条の胸に赤い線を走らせる。 よろけながらも西条は体をひねり、ジャスティスを振り上げた。 がんっ
「!」
手の甲で弾かれる。 どさっ
「くそっ・・・」
無理な体勢の攻撃で、西条は烏天狗の目の前で仰向けに倒れる形になってしまった。 どんっ
「がはっ!」
傷口を上から踏みつけられた。
『惜しかったな。 ま、いいせんいってたがな。』
「くううう・・・・」
『お前は運がいい。 俺は今日は機嫌がいいんだ。 生かしといてやってもいいぜ?』
「な、何だと・・・!?」
びゅおっ
『!?』
飛んで来る影に烏天狗は西条から足をどけ、身を引いてかわす。
「霊体撃滅破――っ!!」
『ふんっ。』
迫り来るまばゆい閃光に、烏天狗は翼を広げて地を蹴った。
『ほお、仲間か・・・?』
「エ、エミ君・・・?」
エミは戻って来るブーメランをキャッチし、西条に駆け寄った。
「遅くなったかしら?」
『い、いや・・・・助かったよ・・・・ごぼっ!』
体を起こした西条は口から吐く血を手で押さえる。
「そこで休んでなさい、後は私がやるわっ!!」
「ま、待て、令子ちゃんが来てから・・・」
「向こうは待ってくれそうにないワケよっ!!」
『くわ――っ!!』
急降下してくる烏天狗に、エミは両手に破魔札を構える。 どしゃっ
『なにっ!?』
「!?」
「神通棍!?」
長く伸びる光る鞭が烏天狗を弾き飛ばした。
「西条さんっ! エミっ!?」
美神はコブラから飛び降りて駆け寄った。
「大丈夫っ!?」
「何とか・・・」
「ふんっ、呼び出した本人が1番遅れてくるなんてね。」
「ごめんってば、先生は?」
「大丈夫だ。」
『くうううう・・・・』
頭を押えて立ち上がる烏天狗に、美神とエミは西条を背後にするように構えた。
「烏天狗・・・・・シロと横島君が会ったって―のもこいつか?」
「横島はどうしたの?」
「何か引っ掛かるのよ、今はなし。」
「ったく、使えない・・・!!」
『早かったな・・・・』
烏天狗は頭から手を放してにっと嘴を緩めて笑った。
「余裕かましてくれるじゃない、ヤシロ・・・?」
『何を言っている?』
「とぼけんなっ! あんたがティルコット社の造った人造妖怪だってことはわかってんのよ?」
『かかかかっ、証拠があって言ってんのか?』
「あんたを捕縛すればわかるわっ!!」
「そう言うことっ!!」
美神とエミが同時に破魔札を投げつけ走り出す。 ばさっ 翼を振りかざして破魔札を弾き、烏天狗も走り出した。
「!?」
「!?」
『!?』
どこおんっ 空から落ちてくる閃光に、美神、エミ、烏天狗は吹き飛んだ。
「な、何なの・・・?」
「令子、あれっ!」
「!?」
建物の上に、月明かりをバックに人影が浮び上がっていた。 長い棒状の物を手にしているが、顔は逆行でわからない。
「・・・・あいつ・・・」
ふっと身をひるがえし、人影が消えた。
「あっ! ヤシロは・・・っ!?」
立ち上がる美神は、辺りに目を配る。
「逃げられた・・・・・・さっきのは味方なの? それとも・・・」
「さあ・・・ね・・・」
「!? ちょっとエミ!?