『どうなってしまったんでしょうか? 突然の黒煙に、1寸先は闇っ! 何もわかりませんっ。 ヤシロ選手とハル選手がどうなってしまったのか・・・』
『何かやばい予感がするあるな。』
「ちょっと!」
「え?」
「れ、令子ちゃん・・・!?」
解説席に来た美神は厄珍の首根っこを押えた。
「直ぐに会場内の全員を非難させなさい!」
「な、なななな・・・・!?」
「どういうことですか!?」
「説明は後っ! Gメンの捜査権を持ってるわ、私の権限で今すぐここを立ち去りなさいっ! 教会の人間も審査員も受験生も、とにかく全部よっ!!」
きつねレポート
牙と思いの幻影 −ツクモからタマモへ−
『き、緊急事態ですっ! オカルトGメンの除霊が行われます! 会場の皆さんは係員の指示に従って速やかに避難してくださいっ!! これは本当の除霊ですっ!』
「・・・・・」
黒い煙が立ち込める中、クロはタマモを背に、コーリングに身構えていた。
「ヤシロさんやられちゃいましたか。 もうちょっと頑張って欲しかったな〜。」
「何・・・・?」
コーリングは槍で肩をかんかん叩く。
「やっぱり烏なんて失敗作なんですよ。 そう思いません?」
「何なんだ・・・・・何なんだよお前はっ!?」
「あなた方の言う、人造妖怪というやつですよ。 烏じゃないですけど。」
「!?」
びゅおっ 振り下ろされる槍の先端が走るように伸びた。 ずしゅっ
「ぐうっ・・・!」
クロの左肩をかすめる。 べちゃっと尻餅をついたクロは、左肩を押えながらコーリングを睨んだ。
「何でだ・・・・・ハルは消えちまったのに、何で人造妖怪がいるんだよっ!」
再び縮んだ槍を担ぎ、コーリングは微笑む。
「人狼なんて弱いんですね。 それじゃあGSなんてやってられませんよ?」
「どういうことなんだよ―――っ!!」
がんっ クロは右拳を床に叩き付ける。
「うう〜〜ん・・・・・もういいや。 誰か他の人探します。」
背を向け歩き去ろうとするコーリングははたと足を止めた。
「ん?」
煙を突き破り、小さな光がコーリングに飛んできた。
『爆』
どこおおおおんっ 煙が弾き飛ばされ、見通しの効いた広い空間が現れる。
「・・・・・?」
顔を覆った腕をどけたコーリングは、神通棍を伸ばした美神と横島を見る。
「き、効いてませんよ美神さ〜〜ん・・・」
「どうやら本当に人造妖怪だったようね。」
「あら美神さん。」
笑顔のコーリングに、美神は両手で神通棍を握り構える。
「本当のコルちゃんはっ!?」
「返して欲しいですか? もうこの皮しか残ってませんけど?」
コーリングは頬を掴んでび―っと伸ばして見せる。
「ひい〜〜っ!」
「腐れ野郎がっ! いくわよ横島君っ、こいつをぶっ倒すっ!!」
「ラ、ラジャーっす!!」
走り出す美神に、横島も霊波刀を出し続いた。
「楽しめるかな?」
コーリングは体を横に、槍を両手で構えた。
「ごほごほっ、み、美神さ〜〜んっ!!」
おキヌは煙に巻かれながら手探りによろよろ歩いた。
「わっ・・・!?」
足に何かがぶつかり、おキヌは前のめりに倒れこんだ。
「あたたた・・・・・って、なっ、何〜〜〜〜!?」
目の前に首を裂かれたヤシロがアップで現れ、おキヌは思わず腰を床に落としたまま後ず去った。 どんっと背中に何かがぶつかる。
「落ち着いておキヌさん。」
「あっ、ツ、ツクモさん――っ!」
「大丈夫ですよ。」
骨の仮面の穴から見えるツクモの笑った瞳に、おキヌは手を借りて立ち上がった。
「この人・・・・ヤシロさんですよね?」
「ええ、もう死んでます。」
「そ、そうなんですか・・・・・」
どおおお・・・・ 煙と共に勢いよく風が流れてきて、おキヌとツクモの髪がびゅおっとなびいた。
「な、何ですか? いったいどうなってるんです?」
おキヌは煙の向こうに目を凝らす。
「・・・・おキヌさんはここから避難してください。」
「で、でも美神さんがこの中に入っていったんです。 それに横島さんも・・・」
「大丈夫。」
ツクモはおキヌの手に何かを握らせた。
「私が何とかしますよ。 おキヌさんは皆の避難と手当てに外で待っててください。」
「こ、これ文珠じゃないですか・・・!?」
おキヌは手の平の丸い5つのそれに顔を近づける。
「それで治療を。」
「な、何でツクモさんが文珠を・・・・・ひょっとしてツクモさん文珠が作れるんですか!?」
「貰い物ですよ。 非難の際、巻き込まれている人や怪我人が出てるはずです。 とにかく早くっ!」
ばしっと背中を叩かれる。
「は、はいっ!」
おキヌはわたわたしながら煙の中に走り出した。
「はははっ、何か可愛いな。 今は私より年下なんだ。」
ツクモ目を細めて苦笑した。
「もう訳わかんねえよ・・・・・」
クロは仰向けに引っくり返って黒い煙を瞳に映していた。 目と口がだらしなく開いたままのクロは、足音に首を動かす。
「2人共無事ですか?」
ツクモの顔が覗き、クロは上半身を起こした。
「ツクモ殿・・・・・」
「はいじっとしてください。」
すっと肩に当てられたツクモの手から光が漏れる。
「・・・・・・教えてくれツクモ殿。 ハルは・・・・いや、何を聞いていいのか・・・・」
頭を振るクロに、ツクモはクロの肩から手を離す。
「・・・・恐らく、彼女は植物系の種か何かを植え付けられたのでしょう。」
「種?」
「はい。 私達の・・・・今から80年後では、烏タイプとは別の、植物系でも、人造妖怪の研究があったんです。」
「それをこの時代に持ち込んだ奴が・・・・・いたって・・・・あっ! ハルが追ってきたって奴・・・・!?」
「恐らくは。 実用段階ではなかったんですけど・・・・・理由はわかりませんが、その核か何かをコーリングさんに植え付けたのでしょう。」
「ハル・・・・!!」
クロは拳を重ねあわせるように握り締める。
「ハルは消えちまったんだっ。 歴史は修正されたんじゃないのか!?」
「よくはわかりません。 少なくとも、その影響を受けなかった。 そういうことでしょう。」
「――――!」
クロはむっくり立ち上がった。 握り締めた拳が震える。
「ツクモ殿、何か武器をくれないか?」
「・・・・・どうぞ。」
文珠が渡される。
『刀』
しゅばあっ 青白いそれを、クロはびゅんっと振る。
「あいつを殺せば・・・・・・人造妖怪は今度こそ歴史から消えると思いますか?」
「どうでしょうか?」
ツクモはクロの見つめる黒煙の先に目をやる。
「・・・・でも、可能性はあると思いますよ。」
「・・・そうだよな。」
煙の中にクロは走り出した。
「・・・・・・」
ツクモはうずくまるような姿勢で前のめりに塞ぎこんでいるタマモに歩み寄った。
「タマモ。」
「・・・・・・」
「・・・・・」
ツクモは首のバンドに手をかけ、骨を頭から外した。 それをタマモの頭にがぽっとはめ込んだ。
「!?」
びくっと体をわずかに上げたタマモは、ツクモに肩を引っ張られてお尻を床につけた。 背中合わせになるように、ツクモはタマモの後に座った。
「彼が好きだったの?」
「・・・・・・」
「そっか。」
「・・・・・・」
タマモは骨を被ったまま膝を抱え込むようにし、顔をそこに埋めた。
「・・・・・」
「・・・・・ねえ。」
「何?」
ツクモは返事と同時に顔を上に向けた。
「何をしたらいいのか・・・・・・わからなくなる時って、ある?」
「・・・・・あるよ。」
「そんな時・・・・・・どうする・・・?」
「わかんない。」
「・・・・・・・」
「だって、わかんないもん。」
ツクモは微笑した。 長い互いの髪が、相手の髪を掻き分ける。
「・・・・・アタシは、ハルには消えて欲しくなかった。」
「うん。」
「・・・・・・でも、あいつは絶対そうする。 止められないし、でも止めたかった・・・」
「うん。」
「選手に紛れ込んだからって、何が出来るわけでもないってことは・・・わかってた・・・・」
「うん。」
「何がしたかったんだか・・・・・」
「・・・・」
ずずんっ 振動が床から体に伝わってくる。
「・・・・・・・・とりあえずさ、八つ当たりでもしない?」
「・・・・・・」
「・・・・・どう?」
「・・・・・・する。」
「オッケー。」
立ち上がったツクモはタマモの頭から骨を掴み取って、再び自分の頭にはめ込んだ。 タマモもすっと立ち上がり、首のバンドを締めるツクモに体を向ける。
「あんたは何で八つ当たりを?」
「私はタマモの付き合いよ。 コーリングさんには、恨みも何もないもん。」
「ほ―?」
「ま、強いてあげるなら、賞金がぱあになったってことかな?」
「ふん。」
タマモは頬を緩める。
「顔見せなさいよ、ツクモとか。 どうせ本名でもないんでしょう?」
「だ―め。」
ツクモは骨の仮面の隙間から舌を伸ばした。
「何でよ? 歴史が変わるとでも思ってんの?」
「そういうのはどうでもいいんだけどね。 今見せちゃうのは勿体無いじゃない?」
「ふっ、わかった。 楽しみにしとくわ。」
「じゃ、行こうか。」
「ええ。」
ツクモは左手の拳を差し出し、タマモは右手の拳でそれをこんとぶつけた。
ばきゃっ
「げっ!?」
コーリングは横島の霊波刀を槍で横なぎに切り裂き、後によろけた横島を霊圧で吹き飛ばした。
「わ―――っ!?」
煙を突き破って飛んでいく横島から視線を美神とクロに走らせる。
「クロっ、挟み込むっ!」
「おうっ!」
「喰らえっ!」
精霊石を投げつける美神は、クロと左右に分かれる。 どこおおおおんっ
「―――っ!」
目を凝らすコーリングは、巻き起こる粉塵と煙の隙間に赤い髪を捉える。
「そこっ!」
振る槍が伸びる。
「うおっ!?」
首に伸びてくる槍に、美神は体をひねる。 ぶしっ
「ちい―――っ!」
バランスを崩す美神の首から赤い血が噴出した。
「よそ見すんじゃねえ――っ!」
「あなたもしつこいっ!」
上から刀を振り上げ飛び込んでくるクロに、コーリングは槍の腹でそれを受け止める。 がいんっ
「!」
「飛んでけ―――っ!」
弾きあう刀と槍が離れる刹那、ぶわっと広がる霊圧がクロを弾き飛ばす。
「くっそ――っ!」
飛ばされるクロに槍の先端を向けるコーリングは、飛んでくる丸い霊波を槍でさばいた。 ばしゅっ
「今度は何です?」
「これでどうじゃ――っ!」
振り被った横島は文珠を3個投げつけた。
『爆』
『爆』
『爆』
どっどどどどおおおおおおんっ! べきべきっ ずずんっ がらがらん・・・・ 閃光と共に、巨大な爆発が会館の天上を突き破り、瓦礫が崩れ落ちた。 風が流れ、煙と埃が天井の穴から外に流れる。
「やった・・・・のか?」
起き上がったクロは瓦礫の積みあがった場所を睨みながらゆっくり歩み寄り始めた。
「大丈夫っすか美神さん!?」
「かすっただけ・・・・でも、ちょっとまずいかも・・・・!」
今だ血の噴出す首を押える美神に、横島は転びながら駆け寄る。
「文珠出ろっ、出ろよっ!!」
横島は手をぶんぶん振るが、霊波は収束しない。
「み、美神さん死ぬなっ、死んじゃ駄目っすよ!? 死ぬんならその前に――っ!」
「やかましいっ!」
べきっ
「ぶはっ!」
「情けない顔すんじゃないっ、この程度じゃ死にゃあしないって。」
美神はハンカチを首に巻きつける。
「それよりコルちゃんもどきは!?」
美神は立ち上がり、クロの近づいている瓦礫の山に目を向ける。
「やれたと思いますけど・・・・」
「・・・・・! クロ離れなさいっ!」
「!?」
どどしゅっ 瓦礫から槍の先端が突き出され、それが弧を描きながら3つに分かれて伸びてきた。 どすっ
「ぎゃあああああっ!」
「クロっ!」
最も近いクロに伸びた1つが、剣を突き破ってその胸に突き刺さる。 残る2つが、美神と横島に迫った。
「文珠はっ!?」
「ネタ切れっす!!」
「伏せっ!」
「え・・・」
「うわっ・・」
タマモが横島と美神を抱えるように飛び込み、床に押し倒した。
「はっ!」
ずばばっ タマモの背中の上を走る槍を、ツクモが霊波刀で切り飛ばした。
「大丈夫ですかっ!?」
「ツクモさんっ。」
「あんたが・・・・・ツクモね。 助かったわ。」
「クロっ!?」
起き上がったタマモはクロに走った。 ツクモが差し出す手を握り、美神は立ち上がる。 ががんっ 瓦礫を吹き飛ばし、コーリングは瓦礫から這い出てきた。
「生きてる・・・・!? 文珠3つも使ったのに・・・!!」
「横島君、あんたはクロを連れてここから出なさいっ。」
「な、でも美神さんも・・・」
「命令よっ! 足手まといはいらないわっ!!」
「は、はいっ。」
「横島さん、これで犬井さんを。」
走り出そうとする横島に、ツクモは文珠を投げた。
「あっ、ど、どうも。」
横島はそれをキャッチし、倒れているクロに走った。
「あんた・・・・文珠が使えるのっ!?」
「貰い物です。 治療しますから動かないでくださいっ!」
ツクモは美神の首に手を当てる。
「ん・・・・ヒーリング? 助かるわ・・・」
「煙を吸ってしまった人は救護班の人に言ってください――! あっ、そこは救急車が入ってくるので塞がないでっ! すいません!」
おキヌは駐車場の人込みを救急箱を持って呼びかけて回った。
「おい、忘れもんだぞ?」
「え? あっ、シロちゃんっ!?」
上半身に包帯をぐるぐる巻きにされた雪之丞は、おぶっていたシロを地面に放り出した。
「すいません、怪我してるのに運んでもらっちゃって。」
「いいさ。 それより何があったんだ? Gメンの除霊だとかって話しみたいだが・・・・」
シロを抱え起こすおキヌから、雪之丞は武道館の入口に目をやる。
「私も知らないんです。 美神さんが仕事で請け負ってたみたいなんですけど・・・」
「ちっ、やな感じだぜ。 俺の知らねえところで話が進んでたなんてな。」
雪之丞は足で地を蹴る。
「きっと美神さん、受験に集中して欲しかったんですよ、」
「横島も知ってたんだろうによ・・・・一言ぐらい言ってくれてもいいじゃねえか。」
「・・・・・」
うつろな目のシロをゆっくり横に寝かせながら、おキヌは立ち上がる。
「行くか?」
「・・・・・いいえ。」
拳をぼきぼき握る雪之丞に、おキヌは首を横に振る。
「私はここで、今自分の出来ることをします。」
「横島が心配じゃねえのか?」
にやっと笑う雪之丞。
「大丈夫ですよ、ツクモさんがいますから。」
「あいつかぁ・・・・・確かにいい腕だったが・・・」
「だから、大丈夫です。」
「お前があいつを信用するのは勝手だが、俺は行くぜ。」
歩き出そうとする雪之丞の脇下を、おキヌはぺしっと叩いた。
「だ――――っ! いででででっ!!」
「ほら駄目ですよ。 怪我人は大人しくしててくださいっ! ツクモさんに貰った文珠ももう使っちゃってないんですから!」
「ふっ!」
「やっ!」
ぎゃりんっ 右手の霊波刀でコーリングの槍を弾くツクモは左手の指に破魔札を掴む。
「念っ!」
ばりばりっ 巨大な霊波刀が伸び、横なぎに払われる。 飛び上がってかわすコーリングに、タマモは銃口を向ける。
「当れっ!」
どんどんっ 腹と足を貫かれるコーリングは、べちゃっと床に転がり落ちながらも立ち上がる。
「しっ!」
ばしっ 光る鞭がコーリングの槍に巻きつく。
「!?」
美神は神通棍を引くのに対し、コーリングも槍を引っ張った。
「はっ!」
ツクモは破魔の文字が光る霊波刀を投げつける。
「こんなものっ!」
左手を槍から離し、コーリングは広げた手の霊圧でそれをキャッチする。
「あら・・・?」
「お返ししますっ!」
ぶんっと投げ返されるそれが、ツクモの仮面に突き刺さってツクモを吹き飛ばした。
「美神さんもっ!」
「うわ・・」
槍をぐわんと振り、コーリングは巻きついた神通棍ごと美神を振り飛ばした。
「きゃあああっ!?」
「わっ、こっちに来るなっ!」
べしっ 振り飛ばされた美神はタマモにぶつかって転がった。 からん・・・
「!?」
転がった神通棍を拾い上げ、ツクモは霊波刀と神通棍を伸ばし突っ込む。 がんっ ぎんがちっ
「くうううう・・・!!」
「むうううっ!」
霊波刀と神通棍で槍を挟み込まれたコーリングは、砕けて大きくなった骨の目の穴からツクモの瞳を睨む。
「に、人間にしては随分頑丈な方ですね・・・?」
「い、い〜え〜・・・!」
がちがち震える剣と槍。
「ちょっとどいてっ!」
「あたっ・・・!」
美神を押しのけたタマモは後髪を引き抜き立ち上がる。
「傷が治ってるの・・・・!? こんのぉ〜〜!!」
霊波を込めた髪がびんっと真っ直ぐ伸び、タマモはそれを投げつけた。 どすっ
「な・・・っ!?」
光る槍がコーリングの腕に突き刺さる。
「ナイスタマモっ!」
ツクモはバランスの崩れたコーリングに両手で霊波を叩き付ける。 どんっ
「つ――――っ!」
足を擦りながらも後に吹き飛ぶコーリングに、美神とタマモは並んで精霊石と炎を手に構える。
「タマモ合わせるっ!」
「了解っ!」
美神のかざされた手の前で光る精霊石を通し、ごばうっと炎が膨らみ、コーリングに飛んだ。
「!?」
ぼこおおおおおんっ!! 吹き上がる炎が盛り上がる。 黒く炎の中に見えていた人型のシルエットが崩れ散った。
「これでどうよ・・・・?」
「・・・・・」
タマモは燃え盛る炎を黙って見据えた。
「っつ・・・!」
「大丈夫かクロ?」
横島に肩を借りて通路を歩くクロは顔をしかめる。
「情けないよな・・・・・ハルの力になれず・・・・その思いも果たせてやれないなんて・・・・」
「そうかあ・・・?」
うつむくクロを、横島はぐっと肩にその腕を担ぎなおした。
「俺はあんましハルってのと話せなかったけど、お前と話してる時のハルはいい顔してたぞ。」
「・・・・・・」
「お前は頑張ったって。」
「結局・・・・最後はタマモに頼っちまったな・・・」
「な〜に言ってんだよ、俺なんかいっつも美神さんに任せてるぞ? 気にすんなよ。」
「けっ、お前と同じかよ。」
「ふん、ほっとけ・・・」
「ふ、くくくくく・・・・つっ・・・!」
「馬鹿無理に笑うなって、傷が開くぞ?」
「・・・・・・ツクモさんな、少しお前に似てる気がする・・・・」
「はあ、何だそりゃ? そりゃ喜んでいいのか?」
「美神さん後っ!」
「え・・・?」
駆け寄ろうとするツクモに、美神は背後に体を向けようとする。 どどどどんっ! 美神の背後の床からいくつのも帯状の槍が飛び出した。 どすざしゅっ!
「うあああああああっ!」
「美神さんっ!」
タマモは両手の爪を伸ばし、美神に突き刺さるいくつものそれを切り裂く。 が、切られた先から再びそれが意思あるように動き出し、再び迫る。
「くっそ――!」
『爆』
どこおおおおんっ 槍の先端が吹き飛ばされる。
「タマモっ、美神さんは!?」
「まだ生きてるけどっ・・・!」
どんどんどんどんっ
「!?」
「地面の下からっ!?」
タマモとツクモ、美神を取り囲むように、槍の先端が床から突き抜けてきた。 ツクモは文珠をぴしっと親指で頭上に弾く。
『護』
しゅばあっ ばしばしばしっ 半球体の結界に槍が阻まれる。 ツクモは美神を抱えるタマモににじり寄り、美神に手をかざす。
「早く治しなさいよっ!」
「やってるでしょうがっ!」
胸や腹、足から血が出る傷が光に当てられ塞がる。
「文珠はもうないの!?」
「あと2つ!」
「貸してっ!」
タマモはツクモが取り出したその2つを引っ掴み、気絶している美神に叩き付ける。
『脱』
『出』
しゅばあああっ ふっと美神の体が消える。
「悪いわね、使わせてもらったわ。」
立ち上がるタマモは、ツクモに顔を向ける。
「!? あんた・・・・目が・・・」
「え? ああ、さっき潰れちゃった。 ちょと待って。」
ツクモは仮面の穴から手を顔にかざす。
「うし、治った治った。」
「・・・・・」
タマモはしぱしぱ開くツクモの目を、仮面の穴から見ていた。
「今さらだけど、あんたほんとに人間・・・・?」
「失礼な。 見てわかるでしょ?」
「いくらヒーリングが強くてもあんたのは異常すぎ・・」
がんっ!
「ちっ!?」
「今はコーリングさんが先よ。」
結界の周りを飛び交う伸びた槍の先端達に目をやる。
「・・・・ええ、でどうする?」
「2人でこれやろうよ。」
ツクモは左手の人差し指と親指を伸ばし、銃の形にしてタマモに見せる。
「なっ、何であんたがそれ知ってるのよっ!?」
「タマモが教えてくれたんじゃない。」
「そうですか・・・・あのコーリングさんが人造妖怪だったんですか。」
「うん。」
横島はおキヌにヒーリングしてもらいながら頷く。
「美神さん達大丈夫ですよね?」
「大丈夫だろ? タマモもツクモさんもいるし・・」
ぶうんっ
「えっ、美神さんっ!?」
どさっ
「んがっ!?」
頭の上から落ちてきた美神に横島は押しつぶされた。
「美神殿っ!?」
「美神さん大丈夫ですかっ!?」
おキヌは美神を抱き起こす。
「・・・・怪我はたいしたことないみたいだ。」
クロはおキヌの肩を優しく叩く。
「はい、よかった〜美神さ〜〜〜ん・・・・」
おキヌは涙を払って頷く。
「お、おキヌちゃんとにかくどいてくれっ!」
美神とおキヌの下で、横島はばんばん地面を叩いた。
ぎしぎしっ きしむ結界の中、タマモとツクモは背中を合わせて立っていた。 タマモは右手を、ツクモは左手を銃の形に指を立て、2つの腕と銃をかたどった手が揃うように構えられていた。
「場所がわからない・・・・!」
「勘でしょ、勘っ!」
ツクモは笑う。 びきびきっ 槍の先端に攻められ、結界が揺らぐ。 2つの指先が床のどこかを指しながら動く。
「!? あそこっ!」
「OK。」
「チャージっ!」
ぎゅおんっ 2つの指先に霊気が収束する。
「飛出たところを一気に狙うわっ! これで決めるわよっ!?」
「文珠ないんでしょ? あんたに決め手が残ってるの?」
「当然っ! タマモこそ何かあるんでしょうね?」
「当たり前っ!」
「じゃあ撃つっ!」
ぎゅうううううんっ 白い光が指先で膨らむ。 タマモとツクモの目が見開かれ、口が同時に開く。
「「シュートっ!!!」」
どんっ 閃光が放たれ、結界を中から突き破ったそれは床をえぐり飛ばした。 どこおおおおおおんっ
「つうっ!」
砕かれた床の破片や骨組みと飛出てくるコーリングを、タマモとツクモは瞳に映す。 走り出すタマモとツクモ。 シリンダーから弾を取り出したタマモはそれを握る。
「我が息吹を宿して力となせっ!」
左手から霊波刀を出したツクモの左手に光る文字が走り、ふっと消える。 きんっ 霊波刀に文字が走り、剣が物質化する。
「剣よっ!」
剣がツクモの手に握られる。 かしかしっと赤くなった弾が込められるCR−117を握るタマモ。
「勝負ですね。」
破片と落ちてくるコーリングは槍をぐっと掴んで微笑む。 タマモとツクモは床を蹴って跳ぶ。
「はあっ!」
ぎりりりっ 突き伸びる槍を剣でさばき、ツクモは剣を袈裟切りにコーリングの肩に叩き込んだ。 ざしゅっ どすっ
「ぐっ・・・!」
「がはっ・・!」
コーリングの胸の辺りまで食い込むツクモの剣から、ツクモの手が離れる。 湾曲した槍に背中から貫かれたツクモは、胸からその切っ先を覗かせた。
「・・・・・タマモ!!」
赤い線を噴出すコーリングに取り付いたタマモは、ツクモの剣が消えるコーリングの腹に銃を押し当てた。 どんどんっ
「・・・・・ふっ。」
「ふっ。」
口から血を流すコーリングと目が会い、タマモは笑った。 どしゃっ ごろんと転がるタマモは銃を捨て立ち上がる。
「あ・・・・ははっ・・・・・ははははは・・・」
コーリングは槍を杖にふらつきながら立ち上がる。
「いいですね・・・・楽しいです。」
「楽しい・・・・だ?」
ごぼっと血を口からこぼしながら、コーリングは笑う。
「さあ・・・・戦いましょうよ。 でなきゃ私の生まれた意味がありません・・・」
「・・・・・・!」
タマモの拳が震えた。 ざわっと髪が揺れる。
「アタシは・・・・あんたに恨みも何もないっ。 ハルの意思を継ぐとか、そんなつもりもさらさらないっ!」
「では、何故戦うのです?」
「・・・・・・」
うつむきかけるタマモは口をつぐんだ。
「私のせいで、愛する方が消えたとでも思ってらっしゃるのですか?」
「違うっ!」
「なら・・・がはっ!」
「!?」
大量の鮮血を吐き、コーリングは前のめりに崩れ落ちた。
「がはがはっ・・・・なっ、何故・・・・? 傷が治らない・・・」
ちり・・・・
「!?」
ごばあああああああああっ
「きゃあああああっ!!」
うつ伏せになっているコーリングの背中に見える穴から火がくすぶり、炎が噴出した。
「・・・・! ツクモっ!」
タマモは振り返り、転がっているツクモに駆け寄った。
「ちょっと! ねえっ、生きてるっ!?」
うつ伏せのツクモを揺すり動かす。
「うぎゃああああああっ!!」
「!!」
燃え盛る炎に、顔を挙げたタマモは瞳を凝らす。
「・・・・あんたに恨みはないけど・・・・・やっぱりどうしても、あんたは生かしておいちゃいけない・・・・・そんな気がするの。」
タマモの瞳からすっと涙が流れた。
「ごめんコーリング・・・・・・ごめん・・・・・・ハル・・・・」
すっとタマモの頬に指が触れ、涙を払った。
「!? ツクモ・・・?」
タマモはツクモを抱え上げて体を上向きにした。
「い、痛い・・・・」
「・・・・・ふん、自分で治せ。」
「鬼・・・・」
「けけけっ。」
炎がぱちぱち音をたてる中、2人は笑った。
夕方 武道館会場の外
「ふうっ・・・・・」
ツクモはベンチに座って、警官達が忙しく走り回っているのを見ていた。
「あんたが80年後から来てた奴だったとはねえ〜。」
美神は隣に座っているツクモを見てため息をついた。
「すいません、別に隠してるわけでもなかったんですけど、言うことでもないかなって思って。」
「まあいいけど。 あんたのおかげでこっちは仕事が終わったしね。 賞金の代わりにギャラは私が払ったげるわ。」
「おおっ、美神さんの言葉とは思えんっ!」
「うるさいっ。」
美神はおどける横島にぎろっと睨みを効かす。
「80年後か〜・・・・長生きすれば、私もツクモさんに会えるかな?」
「会えますよ、きっと。」
ツクモは穴が大きくなった仮面の目からおキヌを見つめた。
「そういやあんたは文珠使ってたけど、あれで時間移動して来たの?」
「ええ。」
「ひょっとして、爺さんになった俺から貰ったとか・・・・?」
「ふふっ、違いますよ。」
「帰りはどうすんの? 当てはあるの?」
「横島さんの文珠をあてにさせてもらいます。」
「じゃあしばらく家に来る? あんたとゆっくり話がしてみたいわ。 ちょうどバイトが1人減るとこだし。」
美神はにやっと横島を見る。
「はっ!? そうだった〜〜〜〜!! 俺は明日から雪之丞に連れてかれちまうんだ〜〜〜〜〜っ!!」
「ええっ!? 何の話ですか美神さんっ!?」
「さ〜ね〜〜。」
「いや〜〜〜〜〜っ、美神さん何とかしてくださいよ―――――っ!!」
クロは石畳の階段に座りながら、ビルの合間の夕日を見ていた。
「・・・・お疲れ。」
「ええ・・・」
タマモはクロの隣に腰を下ろした。
「これで・・・・・もう人造妖怪は・・・・・ハルも生まれないんだろうな・・・」
「・・・・ええ。」
「俺・・・・ハルの役に立てたかな?」
「・・・・」
タマモはクロの背中をばしっと叩いた。
「当たり前でしょ、しゃきっとしなさいっ!」
「・・・・ああ!」
「よしっ。」
タマモは立ち上がった。
「家に来るでしょ? ツクモも多分・・・・・・ 何っ!!?」
瞳を見開いたタマモは会館の方に目をやった。 後ろ髪がぶわっと浮び上がる。
「タマモ・・・・?」
クロが顔を上げる前に、タマモは走り出していた。
「―――――っ!!」
「どうしたツクモ?」
立ち上がったツクモは会館の入口に走りだした。
「ちょっとどうしたのよ!?」
「ツクモさん!?」
ツクモと入れ替わりに、警官が美神達の方に走ってきた。
「美神さんすぐに来てくださいっ! ちょっとまずいんですっ!」
「いったい何なの!?」
試合会場
「まずいっ!」
ツクモは焼き焦げた灰の周りにいる警官に向かって走りながら叫んだ。
「早くここから逃げてくださいっ! それはもうすぐ爆発しますっ!!」
「え・・・・・・!?」
「何だねきみは・・」
「早くっ!」
警官を押しのけたツクモは赤く光りながら1メートルぐらい宙に浮いている小さな石を見る。 その瞬間、ぶわっと光が強まった。
「収まれ――――っ!」
ツクモは両手で霊圧を叩き付ける。
「な、なななな・・・・」
「これは・・・」
「この建物を早く封鎖してっ! 長くはもちませんっ!! 早くっ!!」
「はっ、はいっ!」
走り去る警官を背に、ツクモは押し寄せる霊圧に髪をばたばたなびかせながら踏ん張った。
「ツクモっ!」
別の入口から入って来たタマモに、ツクモは声を張り上げる。
「霊波をバリアにっ! そっち側から押さえつけてっ!」
「だああああっ!」
タマモはツクモを赤い石を挟み込む位置に立ち、両手で霊圧を放つ。
「駄目ですっ! 戻ってくださいっ!」
美神と横島、おキヌにクロは警官に廊下で阻まれた。
「何なの!? 私はGメンの指揮権を持ってるのよっ!?」
「もうすぐあれが爆発しますっ、早くここから出てくださいっ!」
「あれって何っ!?」
「そんな、ツクモさんが中にいるんですよっ!?」
「どけよこら――っ!」
「もう間に合いませんっ!」
「美神殿っ、多分タマモも・・・・!!」
「ちいっ!」
「避難してくださいっ! 下手したら外も危ないんですっ!!」
「タマモちゃ―――んっ! ツクモさ―――――んっ!!」
10数人の警官に押し戻されながら、おキヌの声が廊下に響いた。
「くうううううっ!」
「つうううううっ!」
ずおおおおおおっ 溢れる霊波の風に、タマモとツクモの髪が振り回される。
「こ、これは何なの・・・?」
「多分・・・・奴の核かな・・・?」
「これだけ再生したってのっ!?」
「さあ・・・!? くっ・・・!」
びしびしっ ツクモの仮面にひびが走り、細かい破片が飛んでいく。
「つっ!」
タマモの手が裂け、赤い血が噴き出してきた。
「こ、こんな危険な核を使うの・・・・? 人造妖怪ってのは・・・!?」
「多分、こいつだけだと・・・・ぐっ!!」
ばきんっ ひびが端まで走り、避けた仮面が飛んでいった。
「!? あ、あんた・・・・・その顔・・・」
「ち、ちぇっ・・・・ばれちゃったかな・・・?」
タマモは青みがかった髪を振り乱している若い女の顔を真正面から見据えた。
「・・・・・孫ってとこかしら?」
「それ以上はノーコメントよっ。」
ぐおおおおおっ 赤い石の霊圧が急激に膨らみ、光が強くなった。
「も、もうこれ以上は・・・・っ!」
「くっそ――っ!」
びしばしっ 指の爪が吹き飛ばされ、皮膚が焼き焦げる。 体が徐々に後に押し返される。
「ね、ねえ・・・・!」
強まる光に瞳をほとんど閉じているタマモは口を開いた。
「何っ!?」
「アタシさ・・・・・楽しみにしとくわ!! あんたに会えるの・・・っ!!」
「そうっ! そりゃよか・・」
どおおおおおおおおおっ 霊圧が弾けるように広がり、タマモとツクモは吹き飛ばされた。
「伏せてっ!」
美神はおキヌを体の下に敷くようにして押さえ込んだ。 どこおおおおおおおっ!
「うぎゃ――!?」
「くっ!」
「み、美神さ――――んっ!!」
武道館が吹き飛び、瓦礫や木や石畳が吹き飛ばされ、美神達や警官も体を吹き飛ばされていった。
GS試験1日目 朝
ちゅんちゅんっ ちちちちち・・・・
「・・・・・」
タマモはすっと瞳を開いた。 ベッドの上で体を起こしたタマモは隣の空のベッドに目をやる。
「・・・・・」
『おはようございます、タマモさん。』
「・・・・おはよ。」
『今日はいよいよシロさんのGS試験日ですね。』
「ん――・・・」
タマモはのそのそ這うようにベッドから下りる。
「かぁ――っ。」
「?」
開かれた窓の桟に、1羽の烏が止まっていた。 タマモは細い目を擦って歩み寄る。
「くうぁ――っ。」
ばさっと羽ばたき、烏は飛んでいった。
「・・・何あれ?」
部屋の中に入り込んでいった黒い羽を摘み上げるタマモは、あくびをしながら階段に向かった。
「ほらシロちゃん、ちゃんと食べないと力でないよ?」
「せ、拙者お腹空いてないでござるよ・・・」
「緊張するのもわかるけど、ちゃんと食べてね。 あ、タマモちゃんおはよう。」
「おはよう。 まだ行かなくていいの?」
「今から行くとこ。 じゃあ先行くよシロちゃん。 タマモちゃんも良かったら見に来るといいよ。」
「ん、いってらっしゃい。」
「いってきま〜す。」
おキヌは鞄を持ってキッチンから出て行った。
「食べないの?」
タマモはシロの向かい側のテーブルにつく。
「あうううう・・・」
「別に資格取れなきゃ死ぬわけじゃないんだから。」
「拙者の今の心境がお前にわかるわけないでござるっ!」
「だって人事だし。」
「く〜〜〜〜!! このお気楽狐めっ!」
「はいはい。」
タマモはトーストにジャムを塗りながらあくびをした。
「シロ、そろそろ行くわよ。 準備はどう?」
「おおおおおっけ―でござるっ!」
「力抜きなさいって、大丈夫よ。」
「しかし下手したら雪之丞殿に先生を取られてしまうでござるっ!」
「じゃあ頑張れば?」
「あお――――んっ!」
シロはぶるっと身を振るった。 かちゃっ
「よう美神殿、タマモ、久しぶり。」
「あらクロ?」
「クロ兄――っ! 何故拙者に挨拶がないでござるっ!?」
「泣くなってシロ。 今日は頑張れ。」
「はいでござるっ!」
「ん、何してんだタマモ?」
クロはソファーに寝転がって黒い羽をもてあそんでいるタマモに歩み寄った。
「何だそれ・・・・烏の羽か?」
「・・・・・ねえ。」
「ん?」
「烏見ると・・・・・・何か寂しくならない・・・・・?」
「・・・・・そうだな・・・・・何でだろうな・・・?」
「何ロマンチストぶってるでござるか狐のくせに。」
「・・・・・」
「そう言うなってシロ。」
「じゃあクロ、一緒に乗ってく?」
「ああ、助かります。 ただ・・・・」
「何?」
キーをくるくる回す美神に、クロは苦笑いをする。
「な――んかGS試験受ける理由がよくわかんなくなって・・・」
「はあ?」
「俺・・・・・何でGS試験受けるんでしたっけ?」
「何言ってるでござるクロ兄。 拙者とGSになる為でござろう?」
「んなちんけな理由だったっけかなあ・・・?」
「ちんけとは何でござるかっ!!」
ぶろろろろ・・・・・ 走り去る美神の車の音を耳に入れながら、タマモは屋根の上で寝転がっていた。
『タマモさん、見に行かれないのですか?』
「・・・・・」
空の雲を瞳に映しながら、タマモは足を組んでぷらぷら振っていた。
「・・・夢を見た気がする・・・・」
『夢、ですか?』
「よくわかんない・・・」
『いい夢だったのですか?』
「・・・・覚えてない・・・・」
ばささっ
「・・・・・・」
羽音に、タマモは首を横に傾けた。 1羽の烏が、首を傾げながらタマモを見ていた。 頭の後で組んでいた左手を伸ばし、烏に向ける。
「かああ―――っ!」
飛び上がっていく烏に、タマモは人差し指と親指を伸ばし、銃をかたどる。
「・・・・・・」
空に上っていく烏に指先を向けながら、瞳を凝らしてそれを追う。 太陽と烏が重なり合った時、タマモの指先がそれを捕らえた。
「ばんっ!」
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【次回予告】
西条 「タ、タマモ君っ! 力を貸してくれっ!!」
タマモ「何泣いてんのよ・・・?」
横島 「こら西条―――っ、俺のタマモになにさらす――――っ!!」
西条 「一大事なんだっ! 下手をすると僕の命に関わるっ!」
タマモ「はあ・・・」
横島 「けっ、お前もちょっとは苦労してみろってんだ!」
西条 「邪魔するな横島君っ、公務執行妨害で逮捕するぞっ!!?」
横島 「な、何〜〜〜っ!?」
タマモ「んな横暴な・・・」
西条 「お礼は何でもするからっ・・・!!」
タマモ「いいけどね〜。」
西条 「次回、『トリッキー・ハウス』」
タマモ「さって、腕の見せ所かしら?」
横島 「で、いったい何すんだ・・・・?」
タマモ「秘密。」