だかだかだかだか・・・!
「散歩、散歩、散歩! わお―――――んっ!」
「いや―、後に1人乗るだけでこうも安定するとは。 サンキュータマモ。」
「どういたしまして。」
2人乗りのマウンテンバイクをロープで引っ張るシロはカーブを曲がった。
「うおっ!?」
「横島、体傾けるわ!」
「お、おう!」
ぎゃききっ
「ふう〜、危うくこけるとこだった。」
「アタシがいるんだから大丈夫に決まってるじゃない。」
「頼りにしてまっせ。」
「後できつねうどんね。」
きつねレポート
さまようアコーディオン
どっかの公園
「到着――――!」
「ばっ、急に止まるな!」
「横島後ブレーキ!」
ききき―――! タマモが体重をかけて横島の肩を後ろに引っ張り、マウンテンバイクの前輪が浮かび上がる。
「ん?」
ぐしゃっ
「ふ―、間一髪。」
「貸しが増えたわね。」
「しゃ―ね―な―、2杯で勘弁しろ。」
「OK、それより足元。 そろそろどいたげましょ。」
「ふぎゅ〜〜〜・・・」
「おおシロ、身を呈して俺を守ってくれるなんて珍しい。 俺は嬉しいぞ?」
「麗しいこって。」
「こ、この狐―――!」
「何?」
「勝手に拙者と先生の散歩についてきて、あげくに拙者をひくとはいい度胸でござる!」
「別に来たか―ないわよ。」
「うおのれ―!」
「やめんかいっ!」
「だって先生・・・!」
「タマモは俺が頼んだんだ、大体お前が勝手に走りまくるおかげで俺がどれだけ苦労してるかわかってんのか!?」
「ちょっとだけ。」
「あほか――! 何回複雑骨折で入院したと思ってる!」
「ううう・・・せ、先生は拙者のことが嫌いでござるか・・・? 拙者より狐がいいでござるか・・・?」
「お前のような奴は嫌いだ。」
「うわあああああああああああんっ!!」
どどどどど・・・・
「いいの?」
「あ―、ありゃ嘘泣きだ。」
「何だ、あんたもようやくわかるようになったんだ。」
「そりゃお前、毎回あんなの見せられたらわかるさ。 それより休憩しようぜ、俺はもうくたくただ。」
「つは――――っ!」
どっとベンチに座り込む横島の隣にタマモも座った。
「あんたもよく付き合うわねえ。」
「まあな、一応師匠だからな―・・・」
「甘やかしすぎなんじゃない?」
「ん―――・・・あいつ今度GS試験受けるからな―、落ち着かないんだろ。」
「ふ―ん。」
「お前はどうしてたんだ? 急に事務所からいなくなったから皆心配してたぞ?」
「別に、ぶらぶらしてただけよ。」
「ぶらぶらって、あのな―・・・」
「あんたどうなの? たいして成長してなさそうね。」
「ほっとけ、お前は・・・・」
「・・・何よ?」
「・・・・すっかり俺好みのいい体になって、うお―――っ、タマモ―――!」
「ちょっと!」
げしっ
「あうううう・・・」
「アタシはシロみたいな半分人型を本体とするのと違って純粋に狐なのよ、だから成長は早いわ。 ま、寿命はやたら長いと思うけど。」
「ほ―、はいでっか、いてて・・・」
「そんなことより、そろそろ戻んないとやばいんじゃない?」
「げっ、もうこんな時間か。 シロの奴どこまで行ったんだ?」
「アタシここにいるから、探してきたら?」
「しゃ―ね―な―、じゃちょっと探してくる。」
横島はマウンテンバイクに乗って走っていった。
「・・・・・ん? この音・・・」
ベンチに座っている男がその音色をかかげていた。
「・・・・・」
「!」
男はタマモに気付いた。
「聞いててもいいかしら?」
「・・・どうぞ。」
タマモはその男の隣に腰を下ろした。
「いい曲ね。」
「そうかい?」
「それは?」
「アコーディオン、僕の商売道具で相棒、かな。」
「はじめて見るわ。」
「ふ―ん。」
男はアコーディオンを奏で続けた。 タマモはベンチにゆったりと座るようにして目を閉じる。
「・・・・・」
(何か眠くなってくる・・・・この曲のせい・・・?)
「お―――い、タマモ―――!」
「はっ!?」
タマモはがばっと立ち上がった。
「あ・・・・行かなきゃ・・・」
横島とシロが遠くに見える。
「ね、また聞きに来てもいい?」
「いいよ、僕はたいていここにいる。」
「そう・・・・アタシはタマモ。」
「僕はロイ、ロイド・ブロドウェック。」
「ロイね、国は?」
「ドイツさ。」
「ただいまでござる!」
「おお―、何とか間に合った。」
「美神さんは? まだ来てないの?」
「うん、ちょっと遅れるから先に書類整理しててって。」
「ふ―ん、ま頑張って。」
「こらタマモ! お前も働くでござる!」
「い、や。 アタシは従業員じゃないもの。」
「ただ飯ぐらいとはサイテーでござる!」
「うっさいわね―・・・」
「ほらほらシロちゃん、汗びっしょりだしシャワーでも浴びてきたら?」
「ふん、狐め。 おキヌ殿に感謝するでござるよ?」
「・・・・・」
「まあまあ、2人とも。」
「じゃあ先生、いつでも覗いていいでござるよ?」
「あいにく間に合ってる。」
「先生のケチ。」
ばたんっ
「タマモちゃんごめんね、シロちゃん照れ隠しで絡んできてるけど、すごく心配してたのよ?」
「別に気にしてない。」
「大丈夫だろおキヌちゃん、こいつはシロほどガキじゃないみたいだし。」
「そ―いうこと、おキヌちゃんが気を使うことじゃないわ。」
「そう?」
「そうよ。」
「おはよ―! 遅くなってごめん!」
美神はばたばたと入ってくると机の上の書類にざっと目を通した。
「じゃあ、おキヌちゃん。 悪いんだけど私の代理でここに行って欲しいの。」
「どこです?」
「う―んとね、ある家なんだけど、そこの調査。 まだ除霊は必要かどうかわからないけど、とりあえず話だけでも先に聞いといて。 私は午後から合流するから、自分なりに調べてみなさい。」
「わかりました。」
「シロ、あんたも一緒に行ってきなさい。」
「え―・・・」
「GSはただ目の前の敵をやっつけるだけじゃないのよ? あんたその辺全然わかってないんだから、勉強してきなさい。」
「は―い。 じゃあ先生行くでござる!」
「はあ? 俺は言われてないだろ?」
「弟子と師は一心同体でござる。」
「横島君は駄目。 この間頼んだ除霊で苦情が来てるから、あんたやり直し。」
「へ―い。」
「え―、そんな〜・・・」
「ほら、タクシー呼んであるんだからさっさと準備しなさい。」
「ほらシロちゃん行くわよ。」
「きゅ――んっ!」
ばたん
「タマモ、悪いんだけど手伝ってくんない?」
「何?」
「デスクワーク。」
「・・・・・ま、いっか。」
カリカリカリカリ・・・・
「ふう、これはこれでよしっと。 次は?」
「え―・・・・公園にでる幽霊の調査及びこれの処理。 自治体からね。」
「被害は?」
「今のところ特になし、ただベンチに座ってアコーディオンを引き続けているのみ・・・・ん?」
「それで・・・?」
「付近の住民や利用者が気味悪がってるから何とかしてってことらしいけど・・・・」
「・・・・タマモ?」
「・・・・・」
タマモはロイの横に座って、そのアコーディオンの奏でる不思議な音色に耳を傾けていた。
「・・・・ねえ。」
「なんだい?」
「あんた、ずっとここにいるの?」
「人を待ってるんだ。」
「ふ―ん、誰?」
「この曲の歌い手となるはずの女性さ。」
「その人を待ってるんだ・・・」
「・・・・うん。」
「・・・・・」
互いに言葉が途切れる。 タマモは広い公園内を通る人々を眺めていた。
「探してきてあげようか?」
「・・・え?」
「ほら、もしかしたら何かすぐに来れない事情があるかもしれないじゃない。」
「いいよ、そんなことしてくれなくても、彼女はもうすぐ来る。」
「アタシが早く聞きたいのよ、この曲の歌をね。 いい歌なんでしょ?」
「歌詞は彼女が考えてくれてるはずなんだ。」
「いいから、名前教えなさい。」
「・・・北島葉子。」
「写真とかない?」
「ちょっと待って。」
ロイはアコーディオンから手を離し、胸のポケットに手を伸ばす。 耳に響いていた音色がなくなる。
(あ・・・・なんか耳がさみしい・・・・)
「これだよ。」
「へ―、美人じゃない。」
「そうだろう?」
「あんたが威張るんじゃないわよ。」
「それはそうだけど・・・」
「どう? おキヌちゃん?」
「ええ・・・それが・・・・」
古い洋館の2階の部屋に入った美神は、女の霊が椅子に座っているのを見た。
『・・・・・』
「話があんまり通じなくて、自爆霊だと思うんですけど・・・・不動産屋さんがくれた資料だと・・」
「見せて。」
「あ、はいこれです。」
「ふ―ん、明治から続く旧家ね―・・・」
「この女性のことについては何もわからなくて。」
「多分、ここに住んでたんでしょうね。」
「私もそう思います、いつ住んでたとかまではわかりませんけど。」
「で、おキヌちゃんの見解は?」
「はい、特に物に憑いているというわけでもなさそうですし、多分、何か心残りがあってここで亡くなったんだと思います。 通常の除霊でいいと思います。」
「ま、そんなところでしょ。 ん、シロ、あんた何してんの?」
「がるるるるる・・・・きっ、切りたいっ! 悪霊切りたいでござる!」
「駄目よシロちゃん、お座り!」
「この馬鹿犬・・・」
「切る切る切る切る―――――っ!!」
「やかましいっ!」
と、ある工事現場
どこ――――ん・・・
「わ――――っ!?」
横島はクレーンが爆発した勢いで吹き飛ばされた。
『キシャ―――!』
「わ―すんませ―――ん!!」
横島は180度回転して巨大な悪霊から逃げ出した。
「あ、いたいた。 お―い、横島―!」
「タ、タマモ!? 助けに来てくれたのか!!?」
「ねえ、あんた見鬼君持ってったでしょ?」
「は!? それならあっちのリュックの中に・・」
「ありがと、じゃ。」
「おい!? 助けてくれんのか!?」
『おんだりゃ――!!』
「ひ―――っ!!」
「ふご――っ、ふが―――っ!」
「これでよしっと。」
「シロちゃん、おあずけ!」
「むご―――!」
ぐるぐるに縛られたシロは部屋の隅で転がっていた。
「で、どうなのおキヌちゃん?」
「それが、ネクロマンサーの笛があんまり効かなくて・・・」
「まあ、相手の事情が何にもわからないんだし、しょうがないんじゃない?」
「私ちょっと自信喪失です。」
「ま、何でもかんでも笛で解決できるわけじゃないしね、そう落ち込みなさんなって。」
「はあ・・・」
「じゃあ、さっさと終わらせましょうか。」
ぶちっ
「拙者が殺るでござる―――!!」
「あ、こら!」
「だ――っ!」
『・・・・あっ・・・』
ぼしゅんっ
「やったでござる!」
「こら! 今日はおキヌちゃんの練習だって言ったでしょ!?」
「もう・・・シロちゃん・・・!」
「わ―はっはっはっ、正義のGSシロにかなうわけないでござる!」
「この馬鹿犬!」
どげしっ
「ぎゃん!」
「シロちゃん夕飯抜き!」
「え―――!?」
ぎいいい・・・
「あら、タマモ?」
「何だ、あんた達ここにいたんだ。」
「どうしたのよ、例の公園に行ったんじゃなかったの?」
「ねえ美神さん、この人知らない?」
タマモは美神に写真を見せた。
「あ、今の霊にそっくりね。」
「どこ?」
「除霊しちゃった。」
「げっ・・・」
「はっはっはっ、拙者にかかればそのぐらい1発でござる!」
「・・・・・」
「な、何でござるその目は・・・?」
「・・・・・」
その夜 事務所
「先生聞いてくだされ、タマモがひどいんでござるよ!?」
「おら