「ねえねえタマモちゃんっ、これによると、今日の運勢は絶好調よ! 新しい出会いがあるかも!? だって!!」
「新しい出会いね〜・・・」
窓際の机に座ったまま、タマモは窓の外に目をやる。
「素適な人との出会いかもよ・・・?」
「何であんたが目を輝かせるの?」
「いいじゃない〜、後で私にも紹介してね。」
「まだ会ってないって。」
肘で小突いてくる愛子に、タマモは頬を緩める。
「だ〜〜〜〜〜〜っ!! お前らうるさいっ!! あっちで喋れっ!!」
横島はばんと机を叩いた。
「うるさいな―、補習させられてんのはあんたが悪いんでしょうが?」
「そうよ、まじめにやりなさい。」
「だいたいタマモっ、おま―何しに来てんだよっ!?」
「ちょっと横島君、何てこと言うのよ!」
「暇つぶし。」
「帰れ〜〜〜〜〜〜っ!!」
きつねレポート
サクセス・ホリデイ
「ふわぁ〜あ〜・・・・」
タマモは涙目で大きく両手を突き上げる。
「暇になっちゃった・・・」
交差点の信号を待つタマモは、横断歩道の向こう側の人込みの中に1人の女を見る。 頭にある2つのとんがりに、タマモは目を細める。
「あれ・・・・確かパピリオんとこにいたケチの神族・・・・?」
その人込みの先頭に、長く明るい髪の女がいた。
「・・・・・」
「!」
長い髪の女もタマモに気付き、視線を向けてきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
信号が変わり、人込みが横断歩道を渡りだした。 タマモと女は視線をそのままに互いに向かって歩く。
「・・・・・」
「・・・・・」
互いにすれ違った時、タマモは口を動かさずに言葉を発した。
「つけられてるわよ。」
「知ってる。 サンキュ。」
(こいつ・・・)
タマモはふっと笑い。 そのまま真っ直ぐ歩いてくる小竜姫に向かった。
「お久。」
「あ、あなたは・・・・・・」
「ほいっ。」
タマモはパンと手を叩いた。 ぼっしゅんっ!
「なっ・・・!?」
タマモの合わさった手から噴出し、立ち込める黒煙に、小竜姫はばっと後に下がって腕で顔を覆った。
「何だ何だっ・・・!?」
「ガス爆発か・・・?」
「おい車とめろって!」
煙が薄れた時、タマモと女の姿はなかった。
「しまった!」
小竜姫は走って横断歩道を渡り、辺りを見回す。
「ったく、なんなんのあの子はっ! 私の邪魔ばっかりして・・・・メドーサの生まれ変わりじゃないの・・・!?」
小竜姫は手のひらに拳を叩き付けた。
「お待たせいたしました〜。」
ウェイトレスがテーブルに置いた2つのコーヒーの1つに、タマモは手を伸ばす。
「何考えてんだあんたは・・・・?」
「べっつに。」
ずずっ・・・・ タマモはふっと息を吐く。
「何となく化かしたかっただけ。」
「あのぐらい、別に撒こうと思えばいつでも撒けたんだよ。」
「でしょうね。」
「ふんっ。」
女もカップに手を伸ばした。
「・・・・で、神さんにつけられてたあんたは誰?」
「・・・アタシはベスパ。」
「ベスパ・・・? どっかで聞いたかな・・・?」
「で、あんたは?」
「タマモ。 ごらんの通りの狐よ。」
「狐、ね。」
上目使いになるベスパに、タマモは軽く頬を吊り上げ笑った。
「はあ〜? ベスパが脱走した〜〜?」
美神は眉をハの字にする。
「本当なんですか小竜姫様?」
「はい。」
おキヌは小竜姫に湯飲みを手渡す。
「妙神山にパピリオに会いに来ると休暇を取ったらしいのですが、どうも下界に勝手に入り込んだらしいのです。 さっきまで私が尾行してたんですが・・・」
「ふ〜ん、で?」
「でって・・・・・このままでは彼女は何をするかわかりませんよっ!? アシュタロスの部下でも、彼女は最も忠誠心が高く、力も強いんです! 問題が起こる前に・・・」
「悪いけど今日は仕事でと〜〜っても忙しいの。 捜索に協力は致しません。」
デスクに詰め寄る小竜姫に、美神はくるっと椅子を反転させて背中を向けた。
「・・・・・小判で千枚っ!!」
「安い。 十万枚は欲しいわね〜。」
「なっ・・・!?」
「美神さん、それはちょっと高すぎませんか・・・?」
「当分、家は神族からの依頼は一切受けないことにしてるんです。 ごめんなさいね小竜姫様。」
「ここの狐が邪魔したんですよっ!? 責任取って下さいっ!!」
「狐・・・?」
「って、タマモちゃんですか?」
美神は再び小竜姫に顔を向けた。
「そうですっ! 所長としてちゃんと責任を・・・」
「いや、そう言われてもね―・・・・」
美神は指先で頬をかく。
「タマモは確かに今ここに住んでますけど、別に従業員じゃありませんし、ただの友人ですから・・・・」
「何ですかそれはっ!?」
「タマモちゃんはお友達ですから、美神さんに限らず、誰の言うことも聞かないと思いますよ?」
「だいたい、ベスパにしたって今更何をするって訳でもないでしょうが? 休暇で人間界ぶらつくくらいいいじゃない。」
「そうはいきませんっ、私は神族として、人間界を守る義務がありますっ!」
「いざって時に役に立たないあんたらが?」
かちんっ
「・・・・・もういいですっ! 失礼しますっ!」
「あっ、小竜姫様〜・・・!!」
ばだんっ 小竜姫はドアの向こうに消えた。
「どうしましょう〜・・・・?」
「ほっときなさい。 関わると絶対赤字になるから。」
「でも――・・・」
美神は椅子から立ち上がる。
「大体、ヒャクメが来てない時点でおかしいのよ。 胡散臭さいわ。」
「あのっ、そうじゃなくて・・・」
「何よ?」
「小竜姫様湯飲み持ってっちゃいました。 買ったばっかりだったのに・・・」
「・・・・・」
「まったく、神様を何だと思ってるんですか!」
「お待ちくだされ小竜姫様っ!」
「え?」
事務所から出た小竜姫に、シロが駆け寄った。
「シロちゃん、久しぶりですね。」
「お久しぶりでござる。 話は聞かせていただきました。 拙者及ばずながらお手伝いさせて頂くでござるっ。」
「本当ですか? 助かります。」
「いえいえ、狐が迷惑かけたようで、こちらも申し訳ないでござる。」
タマモとベスパは森の中にある1軒屋の前に立った。
「何この家は?」
「ちょっとね。」
「?」
入口に向かって歩くベスパに、タマモも続いた。 ベスパはがちゃっとドアノブを引くが、ドアは開かなかった。
「空家みたいね。」
「・・・・・」
ベスパはポケットから鍵を取り出す。 がちゃりっ
「何だ、ここに住んでたの?」
「ああ。」
ベスパはドアを開いて中に入ると、タマモに振り返った。
「あがってくだろ?」
家の周りに目をやっていたタマモは、ベスパを見、視線が合った。
「いいかしら?」
「いらっしゃい。」
にっと笑いあう2人は、家の中へと入った。
「おわっ・・・」
ぱらっと舞う埃に、タマモは口の周りで手をぷらぷら振った。
「掃除はするべきだと思うわよ。」
「悪いね。 お客さんを招待する予定じゃなかったからさ。」
歩く2人の足跡が、白い床に足跡を残す。
「・・・・・」
ベスパは目を細めながら歩き、リビングのドアを開いた。 埃を被った家具やらが白くなっている。
「ん〜っ、おキヌちゃんが見たら目、回しそうだわ・・・・」
つっと指でテーブルをなぞるタマモは、指についた埃をぴっと弾く。
「少し前、ここに住んでたのさ・・・」
「いい物件だとは思うけどね。」
タマモは壁にもたれて手で壁を撫ぜるベスパに振り返った。
「そんなに長い間じゃなかったけど・・・・・あれは、いい時間だったのかもしれない・・・」
「・・・・ぶへっくしゅんっ!」
タマモのくしゃみに、テーブルの埃が舞い上がった。
「! ・・・・・・・ぷっ・・・・あっははははははっ。」
「へくしっ、へっくしょんっ!」
顔を縦に思い切り振ってくしゃみをするタマモに、ベスパは顔を崩して笑った。
「だ――っ、駄目だわ。」
タマモはからから窓を開ける。
「ふ――っ。」
部屋に吹き込んできた風に、タマモの髪がなびいた。
「よし、掃除しよう掃除。」
「え・・・?」
「あるんでしょ? 箒とかモップとか雑巾とか。」
「あ、ああ・・・」
「なるほど、ベスパ殿とはルシオラ殿の妹さんで、パピリオのお姉さんでござったか。」
「ええ。 パワーもとにかく強いです。」
見鬼君を持ったシロを抱え、小竜姫は風を突っ切って空を飛んでいた。 町並みの向こうに緑が見える。
「しかしなぜ小竜姫様がお1人で捜索を?」
「これは私個人の意思ですから。」
「と、言いますと?」
「私だって少しくらい、神様らしいことしたいじゃないですか。」
「は―・・・」
「老子はほっとけば言いとおっしゃたけど、私は気になるんですっ! だいたい今更人間界で何をしようって言うんですか? そんな我侭許されませんっ!」
「せ、拙者に怒らないで下され・・・」
「よっし、これくらいでいいかな・・・?」
「そう・・・・だな。」
「あ――――疲れたっ。」
「ふっ。」
タマモは雑巾を置き、階段の1番下にどかっと座り込んだ。 ベスパはバケツを持って玄関に向かう。
「水捨てて来るよ。」
「ん―。」
大きく腕を伸ばし、タマモは伸びをする。
「ん〜〜〜〜っと・・・・・アタシも外行こっかな。」
立ち上がり、タマモは外に出た。
「お?」
庭先に立ったベスパが、家を見上げていた。
「どしたの?」
「・・・・いや。」
タマモはベスパの横まで歩き、同じように家を見上げた。
「・・・・ふっ。」
「何笑ってんの・・・?」
「何で掃除なんかしちまったのかね〜。 今更住むわけじゃないのにさ。」
「乗り気だったじゃない。」
「そうなんだけど・・・・なんだかな〜。」
「ふふふんっ。」
ベスパが草丈の伸びた芝に座ったので、タマモもごろんと寝転んだ。
「・・・・・お前・・・」
「タマモでいいわよ。」
「・・・・タマモ。 家族とかいるのかい?」
「さあ?」
「さあって・・・・」
「同居人とかはいるけどね。」
「人間と暮らしてるのか?」
「まあ、そうなるのかな。」
「ふ―ん。」
「あんたは・・・・」
「ベスパでいい。」
ふっとタマモの頬が緩む。
「・・・・・べスパ。 あんたの家族は?」
「・・・・妹がいる。 こっちに。」
「こっちって、どっち?」
「人間界ってことさ。 アタシは魔界から来てんだ。」
「ふ〜ん。」
「ほんとはそいつに会いに来たんだけど・・・・・なんとなくここに足が向いちまってね。」
「それで角つきにつけられてたの?」
「ん? 小竜姫のことか・・・・?」
「そうそれ、確かそんな名前のケチな奴。」
「勝手にこっちに来ちまったからね。 何かしでかすとでも思われたんだろ。」
「何かね〜。」
「これでも一応、前科者だから。」
「前科ですか?」
「ああ。」
ベスパは横目に笑って見せた。
「ん!?」
「これ・・・っ!?」
2人はがばっと起き上がった。
「こっちに来るな。」
「しかも何でシロの気配まで一緒かな・・・・?」
タマモとベスパは空を睨む。
「・・・・・」
「よし、ここはアタシに任せなさい。」
「任せるって・・・・」
「どういう事情か知らないけど、まだぶらぶらしたいんでしょ?」
「それは・・・」
「だったら行きなさい。 あの2人はアタシが引き付けといてあげるから。」
「・・・・・すまない。」
タマモはにひひと笑ってみせた。
「まだ少しまわってみたいとこがあるんだ。 出来れば・・・・1人で。」
「ん。」
「・・・・・・あんたと一緒でも、よかったけどね。」
「デートの誘いならまた今度ね。」
「また今度・・・・か。」
ベスパはうつむきかけながらも苦笑する。
「アタシはそれほど自由にはこっちに来れないよ。」
「何で?」
「軍規ってのがあるからね。」
「軍人なの?」
「一応ね。」
「アタシはやだな〜。」
「ああ、お薦めはしないよ。」
「楽しいの?」
「どうかね・・・・・とりあえずの就職ってところさ。」
「あんたも大変ね。」
「まあね。 いろいろ、色眼鏡もあるし、ね・・・・」
「ふ〜ん、よく知らないけど、じゃあアタシが行ったげる。」
「・・・・魔界にか?」
「そう、そっちに。 気が向いたね。」
「・・・・・・ふっ、遠いよ。」
「そうなの? ま、な―んとかなるでしょ。」
タマモは肩をすくめておどけて見せた。 ベスパは笑い、そっと手を差し出した。 タマモはそれを握った。
「ありがと・・・・結構楽しかったよ。」
「うんうん。 掃除が好きになるってのはいいことでない?」
「また・・・・いつか絶対、会いに来るから・・・」
「・・・・オッケー。 気長に待っとく。」
タマモとベスパは握った手を離し、軽くぱんと手を打ち合わせた。
「これは、貸し別荘か何かでござるか・・・・?」
小竜姫とシロは家の上空に停止した。
「以前、彼女達がアジトとして使っていた家です。」
「小竜姫様っ、あそこ・・・!」
「ベスパっ!」
家から少し離れた小道を、1人歩くベスパを見る。
「1人ですね。」
「タマモは見えんでござるが・・・・・小竜姫様、ほんとにタマモがいたんでござるか?」
「多分、あの時だけだったのかもしれません。」
「ありえるでござるな。 気まぐれ狐でござるから。」
「下に下ります。 空だとこれ以上は目立ちますから。」
「お任せくだされ、拙者尾行には自信ありでござるっ!」
某 ボーリング場
ばっか―んっ こらんころん・・・・
「な、何故ボーリング場に・・・・?」
8レーンほど離れた場所に座る小竜姫は、ガッツポーズをするベスパを見る。
「しかも連続ストライクでパーフェクト・・・?」
「小竜姫様小竜姫様っ、拙者ストライクが初めてでたでござるよっ!!」
「って、何であなたまで遊んでるんですか!?」
「いいではござらんかちょっとくらい。」
「遊びじゃないんですよ!」
「次小竜姫様の番でござるよ。」
「私はもういいです。」
「そんあこと言わずにさあさあさあっ!」
「ああぁ・・・ちょっと・・・!!」
5時間後
「う、腕が挙がらない・・・・」
「拙者も・・・・ちょっとはまり過ぎたでござるかな・・・?」
人込みの街中を歩くベスパの10メートルぐらい後を、シロと小竜姫は右腕を擦りながら歩いた。
「いったい何を考えてるのかしら・・・・?」
「美神殿の言う通り、やっぱりぶらつきたいだけなのでは?」
「いいえ、油断は出来ませんっ。」
「それはそうでござるが・・・」
「とにかく、今は後をつけるしかありません。」
「尾行もたいへんでござるな・・・」
「疲れたなら帰ってもいいですよ。」
「いいえっ、ここまで来たらとことんつき合わせてくだされっ! 必ずや尻尾が出るでござるっ。」
「そうですっ。 必ず尻尾が・・・・!!」
で、さらに2時間後
「も、もう我慢出来ませんっ!」
「小竜姫様落ち着いて、まだまだこれから・・」
「こうなったら直接本人に問いただしますっ!! 行きますよシロちゃんっ!?」
「ああぁ、ちょっと・・・」
小竜姫は、ずんずんと前を歩くベスパの5メートルくらい後まで歩み寄った。
「ベスパっ!」
「?」
振り返るベスパに、小竜姫はあらに2歩前に進み、距離を詰める。
「何を考えてるかは知りませんが、もう戻りなさい。 理由はどうあれ、勝手な行動は慎んでもらわなければ困りますっ!」
「・・・・・」
ベスパはふっと鼻で笑った。
「何がおかしいんですか!?」
「ふふんっ。」
「!?」
ぼしゅうんっ 炎に包まれたベスパは、変化を解いてタマモに戻った。
「あ、あなたは〜〜・・・!!」
「タマモっ!? 何で!? 匂いは確かに・・・!!」
「お疲れ様でした〜。」
直立してお辞儀してみせるタマモに小竜姫はずかずか歩み寄った。
「何で邪魔するんですかっ!? 事と次第によってはただじゃおきませんよっ!?」
「うるさいわね、このストーカー女。」
「スト・・・・っ!」
小竜姫のこめかみに血管が浮き出た。
「タマモ、おまっ・・・・何てこと言うでござるか!?」
「あいつが何したか知らないけど、1人でぶらつくくらいやらせてあげなさいよ。」
「彼女が何をしたか知ってから言ってくださいっ!」
「唾を飛ばさない唾を。」
タマモは顔の前に両手を持ってきて1歩下がる。
「いいですか!? 彼女はかつて・・・」
「あ―、うるさいうるさいっ。 あんたの話を聞く気はないって。 じゃあね。」
「こらちょっと待ちなさい。」
小竜姫は無視して歩いていこうとするタマモの手を掴んだ。 じゅっ
「あちゃっ・・・!」
慌てて右手を引っ込める。
「アタシに触ると焼けるわよ、マジで。 な〜んてね。」
「こ、こんの〜〜・・・!!」
小竜姫は焼け爛れる右手に霊波を当てながら睨んだ。
「しょ、小竜姫様冷静にっ!! タマモ早く謝れっ!!」
「いや。 アタシはこいつが嫌い。」
「って、ストレートに言うなでござるっ!!」
ぶちっ
「もう許せませんっ! いやしくも神族であるこの小竜姫に対する無礼の数々、成敗してくれますっ!」
ぶうんっと剣を出して握る小竜姫に、シロはゆっくり後退し始めた。
「せ、拙者は知らんでござるぞっ! タマモっ、遺言があるなら聞いとくでござるっ!」
「ん〜〜・・・・じゃあ、あんたのベッドの裏にへそくりがあるから。」
「何っ!? ほんとでござるかっ!?」
「嘘。」
「んなっ・・・・!」
「けけけ。」
「おしゃべりはそこまでですっ! おとなしく仏罰を受けなさい―――っ!」
小竜姫はタマモに神剣を振り下ろした。 びゅばっ
「え・・・?」
ぐにゃっと切り裂かれたタマモはぶれ、しゅぼんっと消えた。
「偽者・・・!」
ひらひら舞う切れた葉っぱに、小竜姫は剣を振り回す。
「あんの狐〜〜〜〜っ!」
「ま、ま―ま―・・・」
夕日に向かって吼える小竜姫を、シロは遠巻きになだめた。
妙神山
『む、お、お前は・・・・!!』
『ベスパっ!?』
ベスパは鬼門の前に立って軽く手を挙げる。
「よ。 ちょっくらいれてくれない?」
『お前何をしておったのだっ!?』
『小竜姫様は今出かけて・・・』
『おい右ノっ!』
『あ、いや・・・・とにかくちょっと待て。 小竜姫様が戻るまで・・・』
「え〜、いいじゃん。 入るよ。」
『いかんと言って・・』
どか―――――んっ
『ぎゃ――っ!?』
『わ〜〜〜っ!!?』
からんころ・・・・ 破片が飛び散る門を潜り、ベスパは奥に進んだ。
「何事でちゅか――っ!?」
がらっと出てくるパピリオに、ベスパは頬を緩める。
「パピリオっ!」
「ベスパちゃん・・・? ベスパちゃ――――んっ!!」
駆け寄ってダイブするパピリオを、ベスパは抱きとめた。
「会いたかったでちゅ〜〜! 会いたかったでちゅよ〜〜〜〜〜〜っ!!」
「アタシもさっ! 元気にしてたか?」
「うん・・・うんっ!」
ベスパはパピリオの背中をぽんぽん叩いた。
「心配してたでちゅよっ!? 人間界に行ったって聞いて、小竜姫が危ないとか危険だとか言うから・・・・」
「悪かったよ、心配かけて。 ちょっとぶらっとしたかっただけさ。 何もしやしないよ。」
「ほんと・・・?」
「本当だって。」
ベスパはパピリオを下ろし、頭を撫でた。
「お前こそ大丈夫か? こっちの生活は・・・・平気なのか?」
「大丈夫でちゅよ。 元気にやってまちゅ。」
「・・・・そっか。」
にっと笑うパピリオに、ベスパも笑った。
「上がってくだちゃい。 今お茶入れまちゅっ!」
「ん、サンキュー。」
ベスパの手を引き、パピリオは建物の中に進んだ。
「そうそう聞いてくだちゃいベスパちゃんっ。 この間ポチが来た時、新しいお友達ができたでちゅよっ!」
「へ〜、そっかそっか。」
「凄いんでちゅよ!? ルシオラちゃんみたいに幻術が使えるでちゅっ!」
「幻術が〜。 アタシも会ってみたいかな。」
「絶対ベスパちゃんも仲良くなれまちゅよっ! この間なんか500年も一緒に遊んでくれたでちゅから。」
「おおっ、そんなに・・・・? 良かったな。」
「うんっ!」
「ただいま〜。」
「お帰りタマモ。」
「あれ、おキヌちゃんは?」
「夕飯作ってるわ。」
「横島は?」
「そういや今日は遅いわね―。 無断欠勤たぁ、いい度胸だわ。」
「ま―だ補習やってんのかな・・・・?」
テレビをぷちっとつけるタマモに、美神は雑誌を置き、寝転んでいたソファーから体を起こした。
「あんた何かしたの?」
「な―にが―?」
「ふっ、いいけどね。 ベスパに会ったんでしょ、何してたのよ?」
「ありゃ、知ってんのベスパを?」
「何だ、話したんじゃないのあんたら・・・?」
「???」
美神は笑った。
「何だかな〜・・・・・ま、あんたらしいって言えばそうだけど、まったく・・・」
「ちょっと、笑ってないで説明しなさいよ。」
「はいはい、彼女はねぇ・・・」
夕日の差し込む教室で、横島の頬を汗がつっと垂れる。
「ど、どうだ・・・?」
答案に赤ペンを走らせる愛子に、横島はごくっと咽を鳴らす。
「・・・・・こりゃ駄目ね横島君。 もう1回追試ね。」
「そ、そんな〜・・・」
よれよれと机に突っ伏す横島に、愛子はぽんぽん肩を叩いた。
「ほ〜ら頑張って。 今日はまだまだ長いわよぉ?」
「もう日が沈むじゃねえかよっ!? お家に帰して〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
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【次回予告】
パピリオ「さて、次回のきつねレポートは?」
ベスパ「おい、何でアタシらが予告をやるんだ?」
パピリオ「いいじゃないでちゅか、サクサク進めるでちゅ。」
ベスパ「はいはい。 え〜・・・次回もオリジナルゲストが出るんだな。」
パピリオ「みたいでちゅね。」
ベスパ「女か―、どうせまたポチが手―出すんじゃないか?」
パピリオ「まったく飼い主として恥ずかしいでちゅ。」
ベスパ「こらこら、それはもう止めなって。」
パピリオ「ええ〜〜〜?」
ベスパ「新しいペットがいるんだろ?」
パピリオ「そうでちた。 変身犬のプチでちゅ!」
ベスパ「それで我慢しときな。」
パピリオ「は〜い。」
ベスパ「次回、『赤い尻尾の誘い』」
パピリオ「タマモちゃん頑張れ〜!」
ベスパ「ほら、出番は終わったからもう帰るぞ。」
パピリオ「え―、もっと出たい〜〜〜!」