約2ヶ月前(『道場破りのススメ』) 妙神山
「おい。」
「ん?」
老子に声をかけられ、縁側に座るタマモは膝で寝ているパピリオの髪を撫でながら振り返る。
「お前は・・・・力をどうする?」
「・・・・は?」
「は、って・・・・ここではお前の潜在能力が極限まで高められるんじゃぞ? 500年も居れば居過ぎなくらいじゃ。 パピリオにはリミッターをかけてあるが・・・・・聞いとらんのか?」
「全く。」
「・・・・・・まあよい。 つまり、パワーアップするってことじゃ。」
「あっそ。」
タマモはふいと顔を戻す。
「あっそ、って・・・・興味ないのか?」
「ないわね―。」
「・・・・変わっとるなお前は。」
「そ―お?」
きつねレポート
学園祭ヘブン −グルメ・ビジタ―−
「・・・・・・・で?」
デスクに座る美神は、タマモに首根っこを掴まれている少年を怪訝そうに見る。
「今後、24時間お好きなように過重労働を押し付けていいわよ。 もちろんただでね。」
「ちょっ、ただでですか!?」
「文句ある?」
「・・・・・ないです。」
首に爪を突き立てられ、少年は小さくなる。
「この坊やがいったい何したっての?」
「アタシに喧嘩売ってきた。」
「へ〜、いい度胸ね。」
目を丸くする美神に、少年は引きつって笑った。
「そ―いう訳よ。 好きに使っていいわ、なんせ文珠が使えるしね。」
「文珠がっ!? ほんとなの!?」
「は、はあ・・・・まあ・・・」
「へ―・・・・・あんた、名前は?」
「久保・・・・健介・・・・です。」
「歳は?」
「14・・・」
「若いのにたいしたもんね〜・・・・・っへ〜〜〜・・・・」
立ち上がった美神はじろじろと健介を見る。
「14って、横島より幾つ若いわけ?」
「4、5歳くらいじゃない?」
「ふ〜ん・・・・もしかしたら、横島より使えるガキかもね。」
タマモは健介の首から手を離す。
「じゃ、あとよろしく。」
「ん、サンキュ―タマモ。」
「あ、あのっ・・・」
部屋から出て行こうとするタマモに、健介は声をかける。
「何・・・?」
ぎろっと睨み返され、健介は後ず去る。
「き・・・・昨日は、すみませんでした・・・・俺・・・」
かちゃっ
「はよございま――っす。」
「ああ、おはよ。」
入って来た制服の横島に、タマモは軽く手を挙げる。
「ん、誰こいつ?」
「新しい丁稚かな?」
「なっ、何――――――――――っ!!?」
横島は健介に飛び掛った。
「ひいっ・・・!?」
「何だ貴様は誰の許可を得てここで働こうってんだ歯ぁ、食いしばれおら――――――っ!!」
「わ――!!」
「やめんかっ!!」
ばきっ 拳を振り上げる横島に、美神は脳天に神通棍を叩き付ける。
「私がこいつを使うってのに何であんたの許可がいんのよ!?」
「なっ・・・・俺をさんざん弄んでこいつにのり返る気ですかっ!?」
「誤解を招くようなこと言うなっ!」
「・・・・・・・じゃ、あとよろしく。」
タマモはドアを押し出て行く。
「あ、おい待てってタマモっ!! やいてめえっ! 夕方また来るから逃げんなよっ!!」
横島も慌ててタマモを追った。
「・・・・・聞いていいですか?」
「ん、何・・・?」
健介はドアを見つめたまま呟く。
「タマモさんって・・・・学校行ってるんですか?」
「は? あの子はただぶらぶらしてるだけ、学校妖怪に友達がいるだけよ。」
「が、学校妖怪・・・・?」
「そんなことよりっ、仕事に行くわよ!? そこの荷物もつっ!」
「でか・・・」
テーブルの上の巨大なリュックに、健介は頬を引きつらせた。
横島の高校
「せ―んせ――い・・・しくしくしく・・・・・」
「よ、横島さん、あれ・・・」
教室の入口の影から、髪を咥えて泣きながら覗いているシロを指差すピートは横島の肩を揺する。
「馬鹿、見るんじゃない。 目をあわすな。」
「でも・・・」
「先生は拙者の物でござる――・・・・・しくしくしく・・・・」
「怖いですよはっきり言ってっ! 何とかしてしてくださいよ!」
「どないせ―っちゅうんじゃ!? いいから目を合わすなっ!」
「ところでタマモさんはどうしたんじゃ?」
「あ―? 何か来る途中でどっか行っちまったよ。 俺が知るかいっ!」
「何怒っとるんじゃ横島さんは?」
「さあ・・・?」
「愛子っ、さっさと始めろっ!」
教壇の愛子はこほんっと咳払いをする。
「と、いう訳で、厳正なる論議の結果、我が除霊委員は占い喫茶をやることに決定しました。」
「占い喫茶ですか・・・?」
「・・・・と言うか、いつ厳正なる論議があったよおい?」
「わ、わっしの寝ずに考えた案は・・・・?」
「シャ―ラップ!!」
愛子はばんと黒板を叩く。
「ひら委員はうだうだ言わないっ!」
「「「は、はい・・・!」」」
男3人はきちっと背を伸ばす。
「文化祭まであと1週間を切っており、準備期間はぎりぎりぎりです。 各自、私の指示に従ってきびきび準備を行うこと! 何か質問は?」
「あの〜・・・」
ピートがおずおず手を挙げる。
「はいピート君?」
「占い喫茶って・・・・・具体的には何を・・・?」
「お客さんにメニューと一緒に占いをするのよ。 それだけ。」
「それだけって・・・・僕ら占いなんて出来ませんよ、ねえ?」
ピートは横島とタイガーに顔を向ける。
「おう。」
「出来んの。」
「その辺は、はったりです。」
「はったりって・・・」
「言い切ったぞこいつ・・・」
「何か不安じゃのう―・・・」
「だいたい、俺らだけで喫茶店ってのも無理じゃねえのか?」
横島は机に足を乗せてふんぞり返る。
「簡単なのでいいのよ。 コーヒーとかサンドイッチとか。 メインは占いだもん。」
「それにしたって誰が・・・・あ・・・」
「え?」
横島に顔を凝視され、ピートは思わず体を引く。
「ま、まさか・・・」
「客呼びも兼ねて、やるのはピート君がメインよ。」
「そ、そんなっ・・・!!」
「「ほ―、やっぱりな。」」
しらけ顔の横島とタイガーは足でピートを突付く。
「へっ、これだから美形様はよ〜。」
「せいぜい頑張ってもらおうかの〜。」
「ひいっ!」
「やめなさいっ! あなた達は調理の仕事もあるのっ! わかってんの!?」
「へ―へ―。」
「せいぜい頑張りますけん。」
「んで、お前とタマモは?」
「ウェイトレスよ、決まってるじゃない。」
「ま、そ―なるわな。」
胸を張る愛子に、横島はあくびを押さえる。
「拙者も〜・・・・・拙者も〜〜・・・・・拙者もぉ〜〜〜・・・・・・」
「「「「・・・・・・」」」」
かりかりドアに爪を立てるシロに、4人は冷や汗を流す。
「愛子さん、入れてあげたらどうです・・・・?」
「私はいいけど・・・・先生達誤魔化せるかな? 美神さんとかに聞いたりとかもしないといけにでしょうし・・・」
「いろいろ面倒じゃのう。」
「タマモさんなら心配ないんですが、ね・・・・どうしましょう横島さん?」
「俺に言うな、俺に。」
日本GS教会本部、の食堂
「何だ、じゃあもう知ってるのね?」
眼鏡を外す美智恵に、美神は資料から目を離す。
「細かいことはしらないけど、Gメン回りになったの?」
「本部には、私の意見が聞きたいって呼ばれたのよ。 まだ通知はきてないわ。」
美智恵はコーヒーにミルクを零す。
「そう。」
美神は再び資料に目を落す。
「チャクラ・イーター・・・・・か。 他に言い方もなさそうね、だいたい資料が少なすぎるのよ。」
「正体不明って言われれば仕方ないでしょう? 犬井君の報告書がなかったら、もっと正体不明になってるわ。」
「ま、クロもあれで私らより経験は少ないでしょうしね・・・・・・対応し切れなかったんじゃない?」
「それはあるけど・・・・あまり油断しない方がいいわよ。 今までにどれだけの人間や能力者を襲ったかがわからない以上、どんな特技を持ってるかわからないわ。」
「そうね・・・・・それに総合霊力もどれだけあるか・・・・・そういやクロは霊力食べられなかったの?」
「大丈夫みたいよ。」
「ふ〜ん・・・・単純にGSへの恨みって訳でもなさそうね・・・」
「わからないけど、あなたも気を付けなさいよ? 特殊な能力者を好むとは言っても、それに合うだけの霊力も求めるはずよ。」
「わかってるわ、ママこそ気を付けてよ。 ところで西条さんは?」
「今別件で出かけてるのよ。 それより、その子は・・・・?」
美智恵は美神の隣で黙ってコーヒーをすすっていた健介に目をやる。
「ああ、新しい丁稚よ。」
「は、初めまして・・・・久保健介です。」
「初めまして久保君、この子の母で、Gメンに務めてる美神美智恵よ。」
「ねえママ、この子文珠が使えるらしいのよ。」
「本当に!? 凄いじゃない!」
「これ・・・・そんなに凄いものなんですか・・・・?」
健介はばしゅっと手に文珠を出した。
「ま―ね、家の横島君がそれ使えるようになるのにどれだけ苦労したか・・・」
「横島って、今朝会った男の人・・・・?」
「ええ。」
「久保君、あなたGSになるといいわ。 なんならちゃんとした先生を紹介するわよ?」
美智恵は健介の顔を覗き込む。
「俺が・・・・GSに・・・・?」
「考えてみるといいわ。」
「GS・・・・」
健介は手にある文珠を見つめた。
六道女学院
校舎の天辺に立つタマモは、ポケットに手を突っ込んだまま目を閉じていた。 髪が風に引っ張られ揺れる。
「・・・・・・・」
どくんっ どくんっ どくんっ すっと右手が胸を押さえる。
「――――っ! 来た。」
目を開いたタマモは校庭を見下ろした。 校門から入ってくる男は、紺のスーツ姿の白髪の男だった。 タマモは大きく跳び、男の10メートル前くらいにずざっと着地する。
「っ!?」
「待ってたわ。」
にっと笑いかけるタマモに、白髪の男は緑色の目を見開く。
「質が低いとは言え、ここにはメニューが多いからね。 この国で1番、グルメなレストランかしら・・・?」
「そうだな。」
後ろ指で校舎を指すタマモに、男はがぱっと口を開け、牙を覗かせ笑った。
「おまけに、滅多にない食材もいるようだ。 狐を食うのは初めてだ・・・・・・感謝するぜ・・・・?」
「メインディッシュは高いわよ?」
「あいにく料金を支払ったことはないんでね。」
白髪頭の口が耳まで裂けた。
「まあ待ちなさいって。 話があるの。」
タマモは1歩下がって両手を降参ポーズに軽く挙げる。
「何だ?」
「霊力が欲しけりゃあげるわよ。 ただアタシも生きてく上での最低限のものはいるから・・」
「ごちゃごちゃうるせえ・・・!」
男はタマモに飛び掛った。
「ったくマナーを知らない男ね・・・!」
じゃかっと爪を伸ばし、タマモは身構える。
「!? あれ・・・!」
教室の窓から外を見たおキヌは立ち上がる。
「タマモちゃん・・・・?」
「どうしたおキヌちゃん?」
「何ですのあれっ?」
弓と魔理も窓に張り付いた。 ひょいひょい身をかわすタマモに、腕を伸ばして捕まえようと白髪頭が飛び掛っている。
「ま、まさかあれがクロさんの言ってた・・」
「禍々しい霊波だ、ありゃ人間じゃねえ。 とにかく助けないと・・・・行くぞ弓っ!」
「わかってますっ、あなたが仕切るんじゃありませんっ!」
「あ、待って2人共・・・っ!!」
教室から駆け出て行く弓と魔理に、おキヌは携帯を手にして続く。 ぴっぷっぱぱっ・・・
「もしもし美神さんですかっ!? 急いで学校に来てくださいっ、タマモちゃんが、タマモちゃんが・・・・っ!!」
「!?」
校舎に振り返ったタマモはちっと舌を打つ。 校舎から武器を手にぞろぞろ出てくる生徒達が見える。
「あ―れあれ、血の気の多い嬢ちゃん達だわ・・・」
首に向かって突