「これでとどめだ―!」 
どきゅ―ん・・・ 
『ぐはっ!?』 
「やった!」 
『まだだ――!!』 
「何!? ぐわ――――・・・」 
『は、ははは・・・ただでは死なん・・・・モーガル、お前を永遠にこの世に縛ってくれる!』 
「くそっ・・・何をした・・・・!?」 
『もう遅い、ふっ、はははははは・・・・は――っはっはっはっ!』 
「・・・・っく!」 


きつねレポート

スペル・トリガー


と、ある晴れた日の午後 

『は〜・・・』 
「あら?」 
おキヌは事務所の前でうろうろしている老人を見つけた。 
「おじいさん、どうかしましたか?」 
『ん、お前さん私が見えるのか?』 
「はい、私これでもGS目指してますから。」 
『霊能者か・・・ここの人かい?』 
「美神さんに何かご用なんですね、さっ、どうぞ。」 
『いやその・・・ま、話を聞いてもらえるかな・・・』 
「大丈夫ですよ、美神さんはどんな事件でも解決できるすごい人ですから。」 
『・・・・・』 

「そ―いや美神さん、タマモは?」 
「ん? さあ・・・私が来た時にはもういなかったけど?」 
「先生先生、狐のことなんかいいでござるから拙者と散歩に行くでござる!」 
「勘弁しろよ、俺はお前のおもちゃじゃねえんだから。」 
「いいではござらんか、師は弟子のものでござる。」 
「どういう理屈だ? ん、てことは美神さんは俺のもの・・・・?」 
じゃきんっ 
「・・・・・」 
「や、やだな〜冗談っすよ、神通棍しまってくださいよ。」 
「まったく・・・」 
「というわけだシロ、俺はお前のもんじゃねえんだ、ちったあ我慢しろ。」 
「ええ〜・・・」 
「お前は散歩しか能がないのか? それだけの存在か?」 
「うぐっ・・・」 
「少しはタマモでも見習って大人になれ。」 
「んなっ・・・!」 
「ああ、それいいわね。」 
「そ、そんな、美神殿まで・・・!」 
「あんたこの1年何にも成長してないじゃない。 そんなんじゃ、資格取ったって3流GSにしかなれないわね。」 
「わう〜〜〜・・・・」 
「家にこれ以上半人前は必要ないわ。 信頼して背中を任せられないようなGSが何人いても、経費の無駄になるの、わかる?」 
「そ―そ―、俺みたいになりたかったら少しは・・」 
ぼかっ 
「いって―! 何するんすか!?」 
「あんたが偉そうなこと言うんじゃないの! この半人前!」  
「え―・・・」 
「先生は半人前でござるのか・・・?」 
「総合霊力だけなら高いわね、多分私より。」 
「だったら・・・」 
「それだけで強さが決まるなら、人間は悪魔に勝てっこないわ。」 
「???」 
「は〜・・・それがわからないなら当分半人前どころか4分の1人前ね。」 
「先生、わかるでござるか?」 
「はあ? まあ一応な。 だからここで美神さんのアシスタントしてんだからな。」 
「は―・・・・」 
「しゃ―ないわね、お子様にもわかりやすく言うと・・」 
「拙者のことでござるか?」 
「他に誰がいる。」 
「2人の武士がいるとするでしょ?」 
「ふむふむ。」 
「1人は刀1本しか持っていない。 もう1人は丈夫な刀、槍、弓矢、その他薬に鎧とありとあらゆる物を持っている。 さて、どっちが強くて優秀な武士かしら?」 
「・・・・・あ・・・!」 
「そういうこと、たくさん武器持ってりゃ勝てるってわけでもなし。 例え全てを使いこなせてもね。」 
「しかし・・・」 
「確かに武器が多いほうがいいでしょう。 横島君の文殊はある意味万能だからどんなことにでも応用が効くわ。 でもそれだけじゃ勝てないこともあるの。」 
「何ででござる?」 
「そっからは自分で考えなさい。」 
「・・・先生はわかってるでござるか?」 
「さ―な。」 
「うう――、その顔は知ってるでござるな?」 
「おま―な―、少しは自分の頭使え、その頭は飾りもんの鶏冠か?」 
「し、失敬な!」 
「でも美神さん、俺やっぱまだ頼りないっすかね?」 
「ま―ね。 でもおキヌちゃんもそうだけど、見込みがあるから鍛えてやってんだから、心配しなさんな。」 
「へ―へ―。」 
『美神オーナー、おキヌさんがお客様をお連れしたようですよ。』 
「わかったわ。 ほら2人とも、その辺片付けて。」 

『初めまして、私はジョージ・モーガルと言います。 アメリカ人です。』 
「GSの美神よ、この2人はバイトの横島君とおキヌちゃん。 それはペットのシロ。」 
「誰がペットでござるか!?」 
「んで、話って何?」 
『実は・・・・私を成仏させて欲しいのです。』 
「拙者はペットじゃないでござる――!」 
「シロちゃん、ちょっと静かに。」 
「じいさん、そのぐらい自分で出来ないのか?」 
『いえ・・・それが・・・・』 
「ふ―ん・・・・なるほど、大体わかるわ。」 
「? どういうことですか?」 
「このじいさんは呪いで縛られてるのよ、しかも強力なね。」 
『・・・そうです。 さすがですね、まだ何も話してないのにおわかりになるとは。』 
「まあね。」 
「じゃあ、それを解いて欲しくておじいさんは美神さんに会いに来たんですね?」 
『・・・はい。』 
「で、報酬は?」 
『・・・・・』 
「ちょっと美神さん、幽霊のじいさんに金があるわけないでしょ?」 
「そうでござるよ。」 
「美神さ〜〜ん・・・」 
『残念ですが、お礼は何も差し上げられません・・・・・それに・・・』  
「どうしたんですか?」 
『・・・・いえ、やはり失礼いたします。 お邪魔してしまって申し訳ない。』 
「ちょっ、待ってくださいおじいさん!」 
「じいさん、せっかく来たんだし、とにかく話だけでも聞いてあげるわ。 詳しく話してみて。」 
『・・・・わかりました。 これを見てください。』  
「銃?」 
ジョージは銀色に装飾された拳銃を取り出した。 
『私はこれに縛られているのです。』 
「わ―・・・綺麗―・・・」 
「ずいぶんな年代物ね。」 
『今で言う、中世の頃のヨーロッパで作られたものだと聞きます。』 
「やっぱり、ただの銃じゃないんだろ、じいさん?」 
『ええ、このCR−117は退魔用に作られたものらしく、それなりの力がないと引き金を引くことも出来ないのですが、霊力を弾に込めて撃ち出すのです。』 
「やっぱり銀の銃弾なんかより強力なんでしょうね。」 
『弾は銀の銃弾を使いますが、威力はもうずっと上です。』 
「で、どういう経緯で縛られちゃってるわけ?」 
『生前、私はこれを使っていたのです。』 
「おじいさん、霊能者だったんですか?」 
『そういう自覚はなかったのだが、気がついたころにはこいつを使っていろいろやっているようになった。』 
「ふ―ん。」 
『ある悪魔を退治したとき、それに呪いをかけられた。 そのせいで死んでからも魂だけでずっとこれに縛られてきたんじゃ・・・・』 
「じゃあ、ずっとそうやってきたんですか・・・・?」 
『・・・ええ、もう500年近くなる。』 
「500年もか!?」 
「そんなに・・・・美神さん、助けてあげましょうよ。」 
「そうでござるよ。」 
「まあ、待ちなさい。 じいさん、あんた呪いを解く方法を知ってるんじゃないの?」 
『・・・はい。』 
「そのリスクが高いのね?」 
『・・・・・はい。』 
「えっ・・・どういうことなんです?」 
「美神さん?」 
「拙者にもわかるように・・」 
「あ―、うるさい! じいさん、それをさっさと言いなさい。」 
『呪いを解くには誰かに代わってもらうこと・・・・この銃に残された弾を撃ち出した者に呪いが移りかわるのです。』 
「ま、マジか・・・!?」 
「もしかしておじいさん、それが嫌でずっと幽霊してきたんじゃ・・・」 
『・・・人にこの苦しみを押し付けるなんて、やっぱり出来ませんから・・・』 
「美神さん、なんとか出来ませんか?」 
「とにかくその退治した悪魔とやらについて調べないと手の打ちようはないわ。 じいさん、その悪魔ってのはどこのどいつなの?」 
『それは・・・』 
「それは?」 
『・・・・忘れてしまいました。』 
「・・・・・」 

「しかし美神殿もケチでござるな―・・・」 
「お前な―、無理言うなよ。」 
「拙者にお説教しといて美神殿は結局何にも出来ないでござる!」 
「どんなに優秀でも出来ないことはあんだよ、そんくらいわかるだろ!?」 
「でも・・・!」 
「じゃあ、お前じいさんと代わってやれよ?」 
「えっ・・・それは・・・」 
「ほれみろ。」 
「そうだっ! 先生の文殊で何とかならないでござるか?」 
「無理だ、さっき試した。」 
「駄目なんでござるか?」 
「そ―と―強力な呪いみたいだなあ、だいたい美神さんがさじ投げた時点で、俺にどうこうできる物じゃねえってこと。」 
「それでも諦めないのがGSではないのでござらんのか!?」 
「だ―からそんなに言うならお前が代わりに呪いを引き受けろっちゅうの!」 
「可愛い拙者が呪われてもいいでござるか!?」 
「何が可愛いだ、出来もしねえことでギャンギャンわめくんじゃねえ!」 
「先生の根性なし!」 
「やかましいっ!」 
どかっ 
「ぎゃいん!」 
『すいません、私のせいで何だかもめてしまってるみたいで・・・』 
「おじいさん元気出してください。 横島さんとシロちゃんは、いつもあんな感じですから気にしないで。 エミさんは呪いのプロですから、きっといい方法を見つけてくれますよ。」 
「なあじいさん、ほんとに覚えてないのか?」 
『ええ・・・実際死んでみるまで呪いがこういうものだとはわからなかったので・・・それを退治したのも若いころでしたから・・・』 
「それに500年も幽霊してきたんですよ? 記憶だってあやふやになってきますよ。 私だって・・・」 
「あ・・・そっか・・・・そうだよな。」 
「??? 何でござる?」 
『どうしました?』 
「いいえ、何でもありません。 さ、もうすぐ着きますよ。」 

「ただいま―。」 
タマモはデスクにいる美神以外に誰もいないのに気付く。 
「はい、お帰り。」 
「あれ、美神さん1人? 他の連中は?」 
「幽霊のじいさんに引っ付いてったわ。」 
「は?」 
「・・・・・タマモ、ちょっと頼まれてくれない?」 
「何?」 
「おキヌちゃんのことなんだけど・・・」 

小笠原エミGSオフィス 

「・・・・どうですかエミさん?」 
「結論から言わせてもらえば、私も令子と同じなワケ。」 
「じゃあ・・・」 
「データが少なすぎるわ、成仏したいんなら誰かに代わってもらうのね。」 
「そんな・・・」 
『そうですか・・・・ありがとうございました。』 
「あ、おじいさん待って・・・!」 
ばたん 
「何? オタクんとこはいつから霊の相談所になったの?」 
「いや―、そういうわけじゃないんすけどね・・・」 
「先生、早くおキヌ殿を追うでござる!」 
「おっと、じゃあお邪魔様でした。」 
「ま、頑張んなさい。」 
「横島さんも大変じゃの―。」 

「・・・・・」 
おキヌとジョージはとぼとぼと歩き、横島とシロはそれを追うように少し後を歩いていた。 
「おキヌ殿はやさしいでござるな―。」 
「ん? そうだな・・・」 
「ああやって親身になって考えてあげられるってのは、拙者尊敬するでござる。」 
「そうだな―・・・」 
「美神殿もそういうところを少しは見習って欲しいでござるよ。」 
「お前もな・・・」 
「なっ、拙者やさしくないでござるか!?」 
「やさしくないと言うよりわがまますぎるんだよな・・・」 
「ど、どこがでござるか!?」 
「散歩とか言って俺を拉致することとかな・・・」 
「が―――ん!!」 
「・・・おキヌちゃん経験者だからな―・・・あんまり深入りしない方がいいのかもしれんな・・・・・・・ん? シロ、そんなとこに突っ立ってると置いてくぞ?」 
「拙者・・・わがまま・・・・拉致・・・?」 
「おい、シロ・・・?」 
「う・・・」 
「う?」 
「うわあああああああああんっ、先生の馬鹿――――!!」 
「えっ、何が!?」 
「拙者をもてあそんだでござるか――