「これは・・・・・」
「・・・・・?」
白髪頭に宙吊りにされている横島はそっと目を開く。
「おりゃぁぁぁぁっ!」
「た――――っ!!」
剣と神通棍で切りかかるクロと美神に、白髪頭は横島を投げつけた。
「おわっと・・・!」
「横島君!?」
クロと美神が横島をキャッチする。
「大丈夫横島君っ!? 文珠は作れる!?」
「は、はい・・・・まだ霊力は・・・」
「おいっ!」
手を見つめていた白髪頭が横島を睨んだ。
横島の前に美神とクロがばっと立つ。
「お前・・・・何もんだ・・・・!?」
きつねレポート
学園祭ヘブン −殴る強さ、心の強さ−
ぴりゅりゅりゅ・・・・!! 笛の音に、集まっていた霊は消えていった。 おキヌは笛から口を離し、横島に駆け寄った。
「横島さん大丈夫ですかっ!?」
「あ、ああ・・・・」
おキヌはへたり込んでいる横島を後から抱き起こし、手からヒーリングの霊波を放つ。
「おい。」
「な、何だよ・・・・」
「何でお前の霊力だけ奪えない? 何をした!?」
「え・・・・?」
「奪えない・・・?」
クロと美神も体勢を崩さないまま横島をちらっと振り返る。
「し、知らん知らんっ! 俺はなんもしてねえっす!!」
「どういうこと・・・・?」
美神はクロに顔を少し寄せる。
「わからない・・・・・満腹とか、そういうのじゃないみたいだけど・・・・」
「気に入らないな・・・・」
横島から目を離さない白髪頭に、横島はおキヌに支えられながら立ち上がる。
「と、ともかくだっ! タマモと健介を返せよっ!」
「えっ?」
「タマモ・・・!?」
美神とクロは白髪頭を睨む。
「本当か貴様っ!?」
「・・・・・」
ポケットから小さな瓶を取り出した白髪頭はそれを振る。
「あの中なの・・・?」
「え、ええ・・・」
「そんなっ・・・」
美神は白髪頭に神通棍の先端を向ける。
「あんたが元人間だかどうだか知らないけど、依頼がきた以上、あんたには死ぬかただの人間に戻るか、2つに1つよ。」
「・・・・・」
相変らず横島から目を逸らさない白髪頭はにやっと笑った。
「仕方ない。 殺して、喰うか・・・・」
「「「「っ!?」」」」
1歩、また1歩と踏み出される白髪頭の足に、美神達は少し後ず去る。
「・・・・ねえクロ、こいつこんなに霊圧高かったの?」
「い、いや・・・」
「タマモだけのとは思えないわ。 横島君、心当たりある?」
「は、はいっ、多分、健介のと・・・」
「げっ、じゃああいつ既に文珠が作れるの!?」
「ひいっ、俺に怒らんで下さいよ! あと、多分・・・・・シロの・・・」
横島は、びくっとなってピートとタイガーを置いて逃げようとするシロを振り返る。
「シ、シロ・・・・あんたまさか・・・」
「えへっ、女神様食べられちゃったでござる・・・」
「「アホか―――っ!」」
「だってだって――――っ!」
「「「「っ!!」」」」
無言で飛び掛ってくる白髪頭に、美神が神通棍を、クロが刀を突き出し、横島とおキヌは文珠とお札で迎撃した。
「っは・・・!」
べきがいんっ
「っ!」
「ちっ!」
神通棍がへし折れ、刀が弾き飛ばされた。 美神とクロの間をする抜け横島に迫る白髪頭は、お札に焼かれる体に構わす腕を突き出す。 横島が出した文珠に対し、白髪頭も文珠を突き出す。
『砕』
『凍』
一瞬早く発動した白髪頭の文珠に、横島の腕は文珠を持ったまま凍りついた。
「終わりだ。」
「ひいっ・・・!」
「横島君っ!?」
心臓目掛けて白髪頭の手刀が振り上げられた。 ごかっ
「―――っ!?」
「!」
シロが横合いから飛び込んできて、白髪頭の頭に蹴りを入れていた。 吹っ飛んだ白髪頭は校舎にがしゃんっと突っ込んだ。
「せ、先生っ!」
「う、腕が冷てぇ〜〜〜〜〜っ!!」
「よ、横島さんしっかりっ!」
おキヌがヒーリングをするが、凍った横島の右腕は動かなかった。
「っ!?」
白髪頭の瓦礫の下から伸ばした腕にぱりっと霊波が集まったのを見た美神は、退魔札をばら撒く。
「伏せてっ!」
「え・・」
「わっ・・」
ぼかああああああああああんんっ! 美神達を取り囲むように炎が吹き上がった。 ばら撒かれたお札が結界をなし、炎を拒む。
「狐火か・・・・!」
「あちい・・・」
だらだら汗を流し、クロはぱたぱた手で扇ぐ。
「ど―するんすか美神さんっ!?」
「んなこと言っても・・・・こっちにも予算ってものがあるのよ?」
「命とお金どっちが大事ですかっ!?」
「美神さんっ、横島さんの腕、早く何とかしないと凍傷になっちゃいます・・・!」
「先生っ、拙者が舐めて溶かしてあげるでござるっ!」
「舌がすりきれっぞ・・・?」
氷を舐めまくるシロに、クロは苦笑する。
「横島君、文珠はあと何個出来そう?」
「3、4個くらいかな・・・・」
「しゃ―ない。 文珠で治しなさい。」
「す、すいません・・・」
『治』
ぱしゅんっ 氷が弾け、横島の右腕は綺麗に治った。
「で、どうします美神殿?」
徐々に焼けて数の減る退魔札に、結界が揺らいだ。 クロはぼきぼきと指を鳴らす。
「おキヌちゃんに炎をひきつけてもらうわ。」
「わ、私ですか・・・?」
「その間に私、横島君、シロ、クロで同時に切りかかる。 長期戦に勝ち目はなさそうだし、一気に決めるわよ。」
「わかった。」
「ラジャーでござる。」
「で、でも美神さんっ、おキヌちゃんがどうやって・・・?」
美神は吸魔護符をおキヌに手渡す。
「これで狐火を吸い込んで。」
「・・・・」
「無茶ですよ美神さんっ! おキヌちゃんにそんな危険な・・」
ぱんっ
「「「!?」」」
美神は横島を張り倒した。 すっとおキヌの目を見つめる。
「・・・・・・出来るわね?」
「・・・・頑張りますっ!」
おキヌははっきりと頷いた。
「お、おキヌちゃん・・・」
「大丈夫ですよ横島さん。 私だってGS目指してるんですから!」
「でも・・」
「私、助けてもらうGSじゃなくて、誰かを助けるGSになりたいんです。 だから・・・」
「・・・・わかった。 しっかり頼むよおキヌちゃんっ!」
「はいっ!」
「・・・・・・」
「どうしたシロ?」
「え・・・」
クロにぽんっと肩を叩かれ、シロはびくっと尻尾を立てた。
「何焦ってる?」
「そ、そんなんじゃ・・」
「女神様の力なんか、やっぱりいらないだろう・・・・?」
「・・・・・はい。」
「じゃあ、いくぞ。」
「はいっ!」
「横島君、武器を。」
「はいっ!」
『『剣』』
ばばしゅっ 美神とクロが剣を持ち、シロと横島は霊波刀を伸ばす。
「皆いい?」
「「「「はいっ!」」」」
「1、2、3っ!」
「吸引っ!」
ごばうっ! 吸魔護符を両手で上に掲げたおキヌの掛け声と共に、炎が吸い込まれる。
「何っ!?」
突っ込んでくる4人に、白髪頭は目を泳がせて一瞬体が硬直した。
「いける!」
「は―――っ!!」
剣と霊波刀が突き出され、振り下ろされた。
「・・・っく!」
ぶわああっ
「!?」
「なっ・・」
突如溢れかえった白い光に、美神達は吹き飛ばされた。
「・・・・・?」
白髪頭はそっと目を開いた。
「ああ――――っ、やっぱり外はいいわね〜〜。」
「そ、そうですね・・・」
大きく伸びをするタマモは、顔をほころばせる。
「タ、タマモ・・・!? 健介っ!」
「タマモっ!」
「あ―横島、クロも。 何してんの?」
「後後。」
「ん?」
振り返ったタマモと健介は、目の前にいる白髪頭にばっと距離をとる。
「貴様・・・・どうやって・・・・?」
白髪頭はポケットから粉々に砕けた瓶の破片を取り出し、地面にたたきつけた。
「ちょっと寝た子を起こしただけよ。」
「こっらタマモ―――っ!!」
引っくり返っていた美神は立ち上がって怒鳴る。
「何てことしてくれたのせっかくチャンスだったのにっ!!」
「は?」
「そうでござるっ!」
シロも足を振り上げ飛び起きて怒鳴った。
「敵を強くした挙句邪魔するとは何事でござるか――っ!?」
「・・・ついでに言えば、あんたもね。」
びくっ
「か・・・・堪忍でござる―――っ、仕方なかったんでござる――――っ!!」
シロは校舎に頭をがんがん叩き付ける。
「何、ひょっとしてこいつの除霊中だったの?」
「そ―なのよ・・・・ところで、ほんと大丈夫なのタマモちゃん・・・?」
「心配かけてごめんねおキヌちゃん。 責任は何となく取るから。」
駆け寄ってきたおキヌに、タマモは笑う。
「健介っ、お前・・・」
集まる横島達。
「横島さん、すいません、文珠取られちゃって・・・」
「俺はいいって、それよりお前・・」
「俺は大丈夫ですから。」
タマモは見据えてくる白髪頭を見返した。
「美神さん、あいつアタシに任せてくれない?」
「えっ、いいけど・・・あんた、霊力は・・」
「大丈夫ですよ、ね、タマモさん?」
「「「「!?」」」」
にっと笑う健介にタマモがVサインをするのを、一同は不思議そうな顔で見た。
「さてっ、不本意ながら使うか。」
すっと目を閉じ、タマモは呟く。
「・・・・リバイブ・・・!」
ずばっ
「「おおっ・・・」」
感嘆する横島とクロの前で、タマモの束ねられていた9つの髪が10メートルもの長さに伸びた。 1つ1つが生きてるかのごとく波打つ。
「こ、これがタマモの力でござるか・・・・?」
「シロ、早いとこここから離れてっ! 横島君とクロもっ!」
シロの腕を引っ張りつつ後退する美神に、クロも続く。
「は、はい・・・」
「タマモっ、学校壊すと借金よっ!? なるべく壊さないでっ!」
「は―い。」
「タマモっ!」
横島の声に、タマモは振り返った。
「・・・・・愛子が待ってっから、早く済ませよっ!」
「・・・・ん。」
ふと校舎の窓を見上げたタマモは、窓から覗いている生徒の群れに愛子を見た。 愛子が笑って手を振ってくるので、タマモはびっとVサインで答える。
「・・・・・力を隠してやがったのか。」
「ちょっと違うけど、まあいいわ。」
タマモはつま先で地面を突付きながら上目使いに笑った。
「降参するなら助けてあげるわよ?」
「馬鹿言ってろ。 その力も・・・・俺がいただくっ!」
突っ込んでくる白髪頭に、タマモはとんっと跳びあがって校舎の上に下りる。
「逃げるかっ!」
跳びあがって追ってくる白髪頭に、タマモはさらに飛んでグラウンドに着地。 振り返ると、巨大な霊波刀を振りかざして白髪頭が下りてきた。
「くたばれっ!」
「おりゃっ!」
ぱんっと両手で真剣白刃取りをして、ばきとそれを叩き折る。
「なっ・・」
バランスを失って転がる白髪頭に、タマモは体中からぶわっと霊圧を奮い立たせた。 水の波紋が広がる様に砂が吹き飛び、唸る金色の髪がばりばり霊波を放電させる。
「くっ・・・・喰らえっ!」
白髪頭は文珠を投げつける。
『爆』
「!」
尾を引いて突っ込んだタマモは、発動する前に文珠をキャッチした。 ふっと文字が消える。
「な・・・に・・・!?」
「返品っ!」
タマモは文珠を投げ返す。
『倒』
「ぐおっ・・・!?」
すってん 引っくり返った白髪頭は後頭部を押えてもだえた。
「けけけけけっ。」
「にゃろ・・・!」
腹を抱えて笑っているタマモに、白髪頭はネクロマンサーの笛を鳴らす。 ぴりゅりゅりゅりゅりゅ・・・・!!
『ごわあああ・・・!』
上空に集まる何百何千という霊が、固まって巨大な鬼をなした。
「やれっ!」
『があああああっ!!』
タマモはぴょいと飛び上がる。 叩き付ける拳が校庭をえぐった。
「ふうっ・・・」
タマモは、指で何もない場所に『破魔』の文字を書く。
「念っ!」
ごばっ 文字から霊波が飛び、それが鬼を貫いた。
『おおおんっ!』
『うあああ・・・!』
崩れた鬼から無数の霊がさ迷い飛ぶ。
「クソっ!」
白髪頭は再び笛を口にする。 ぴりゅりゅりゅりゅっ!
「!?」
霊が空に昇って消えていくのに、白髪頭は周りを見渡す。 校庭の一角に、ネクロマンサーの笛を吹くおキヌがいた。
「・・・・氷室キヌかっ・・・! この幽霊ガキがっ!」
「よそ見は駄目よ。」
「なっ・・」
ばきっ
「がはっ・・・!」
殴り飛ばされた白髪頭はごろごろ転がった。
「・・・・くそぉ・・・!」
砂ぼこりが消えない中、白髪頭は拳を地面に叩き付ける。
「何で勝てないんだっ!!」
「・・・・・・」
長い長い金色の髪をなびかせ、タマモはゆくり近づいた。
「・・・・強くなって、それでどうするの?」
「何・・・!?」
目を細めているタマモを、白髪頭は睨み上げた。
「力なんて持つものじゃないわ。 人間は・・・私達もそうだけど、この世の生きる者は心が弱い。 強すぎる力には・・・・いずれ心を喰われるわ。」
「お前に何がわかるっ!? たかが狐の化け者が、人間の気持ちがわかるって言うのかよっ!?」
「わからないわよ。 でも、それであんたは何を得たの?」
「・・・・・」
「わかってるはずでしょ。 もう止めときなさい。」
「・・・・・うるせえっ!」
どすっ 立ち上がると同時に白髪頭はタマモの胸に腕をつきたてた。
「っ!? お前・・・・・」
怯える顔になる白髪頭に、タマモはにっと笑って腕を引き抜いた。
「何で・・・」
「アタシはあんたを殺さない。 頼まれたから。」
「・・・頼まれた・・・?」
「あんたの過去は見せてもらったわ。」
「・・・っ!?」
「・・・・今からでもやり直せるわよ。 あんたがそう望めばね。」
「・・・・俺は・・・強くなるんだ。」
「・・・・・」
「誰にも負けないように・・・・誰にも殺させないように・・・っ!」
ぱんっ
「!?」
頬を貼られ、白髪頭は目を丸くした。 タマモはすっと白髪頭の顔を抱きしめる。
「もういい。 力を抜きなさい。 あんたの両親も、あんたに強くなって欲しいと願ったとアタシも思う。 でも、こういう強さじゃないでしょ・・・!?」
「うっ・・・くううううっ・・・・!」
膝を落し、白髪頭は泣いた。
タマモは白い髪をなで上げた。
「タマモ―――っ!」
「タマモちゃんっ!?」
駆け寄ってくる美神、横島、健介、おキヌ、クロに、タマモは手を振った。
「そ、そいつわ・・・?」
「もういいわ。 仕事は終わり。」
「・・・・そう。」
真っ直ぐ見つめるタマモの瞳に、美神は笑ってほっと息をついた。
「タ、タマモちゃんこの髪の毛どうするのっ!?」
「邪魔でござるよっ!」
おキヌとシロは長い、うねる金色の髪を掻き分ける。
「ああ、後で何とかするってば。」
「タマモさん・・・」
健介が見ているのに気付き、タマモはびっと親指を立てる。
「これでいい?」
「・・・・ありがとうございます。」
健介はお辞儀をする。
「やいてめえっ! いつまで俺のタマモの胸にしがみついてやがんだっ!!」
「そ―だ離れろっ!!」
「いでっ・・」
白髪頭を引き剥がそうとする横島とクロを、タマモの長い髪がべべしと弾き飛ばした。 タマモは白髪頭を立たせる。
「これからどうする?」
「・・・・・・」
「そうだっ、文化祭に戻りましょうよ皆でっ。」
健介が声を明るく言った。
「あ、いいですねそれ! いいでしょ美神さんっ!?」
「んん〜〜〜・・・まあいいけど。 あとで事情聴取よ?」
「・・・・・はい。」
白髪頭は静かに頷いた。
「俺、久保健介って言います。」
健介がすっと手を差し出した。
「・・・・・神山尚樹だ。」
「よろしく、尚樹さん。」
手を握り返した白髪頭は、目を逸らしながらもちょっと笑った。 どさっ
「っ! タマモっ!!」
「タマモちゃんっ!?」
うつ伏せに倒れこんだタマモに、美神達は駆け寄った。
夕方 保健室
「・・・・・・」
「あ、起きたタマモちゃん?」
首を動かすタマモは、覗き込んでいる愛子の顔を見る。
「愛子・・・・ごめん、遅くなったわ。」
「いいのよ、話は聞いたから。」
愛子はベッドからはみ出ている金色の長い髪を膝にのせ、それを撫でていた。
「それにしても随分伸びたわね〜。」
保健室内は金色の髪で埋め尽くされていた。
「・・・・あとで捨てる。」
「いいの?」
「いらないから・・・」
「そう・・・・良かった。」
ほっと胸を撫で下ろす愛子を、タマモは見つめた。
「あっ、ごめん。 でも、今のタマモちゃん・・・・・・ちょっと怖いって言うか・・」
「ま―ね、これでも傾国の怪物ですから。」
「でも、タマモちゃん、元のタマモちゃんに戻るつもりなんでしょ?」
「ええ。」
「・・・・良かった。」
目にたまった涙を払う愛子に、タマモはすっと手を伸ばし、頭を撫でた。
「泣き虫・・・」
「もうっ、うるさいっ!」
タマモの手を払う愛子は笑っていた。 タマモも優しく笑う。
「他の連中は? あの白髪君は?」
「ああ、尚樹さんなら、健介君が案内してあげて、クロさん達と一緒に見て回ってるわ。」
「・・・そう。」
「美神さんは、美智恵さんに掛け合ってみるって行っちゃった。」
「・・・そう。」
タマモはすっと目を閉じる。
「もうちょっと寝るわ。 喫茶の方は・・・」
「今日はもう閉店。 でも、明日またやるから、今度はちゃんと手伝ってね?」
「わかってる。」
「じゃあ、私は行くから。 明日の用意があるし・・・」
愛子は立ち上がり、髪を踏まないように入口に向かう。
「愛子・・・」
「ん、何・・・?」
愛子は振り返る。
「・・・・・ううん、なんでもない。」
「そお? じゃあ、ゆっくり休んで。」
愛子は静かに保健室を出た。
「・・・・・・」
タマモはすっと目を開く。
「何してんの横島?」
「えっ、あれっ!?」
がたんっ 天井板を踏み抜いて落ちてくる横島は、尻を擦って立ち上がる。
「い、いや〜ちょっと、電気の配線チェックを・・・」
「あ、そ。」
目を閉じてしまうタマモに、横島はベッドの横の愛子が座っていた椅子に腰を下ろした。
「何だよ・・・・お前実は無茶苦茶強かったんだな。」
「うるさい。」
「んだよ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
「・・・・なあ。」
「何?」
「明日は・・・・お前も参加しろよ。」
「・・・・・・」
「ほらっ、愛子が・・・・・うるせえし・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・ねえ。」
「なっ、何だ・・・!?」
タマモは目をつぶったまま言った。
「もしアタシがこのままで・・・・・人間に追われることになって・・・・・・またどこかに行くって言って、一緒に来てって言ったら、あんたどうする・・・・?」
「えっ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・」
「・・・・・・・行く・・・かも・・」
「頼りない・・・」
「・・・・ほっとけ。」
「これならクロの方がましかな〜・・・」
「なっ、あいつ連れてく何て俺が許さ――――――――んっ!」
「うるさい。」
「先生――――――――っ!」
廊下から響いてくる声に、横島はちっと舌を打つ。
「ちぇっ、もう来たか・・・・じゃあ、俺も行くわ。」
横島は立ち上がる。
入口に向かうが、ふと足を止めて振り返った。
「さっきの・・・・・話、な・・・」
「・・・ん?」
「行く前には・・・・ちゃんと言えよ。」
「・・・・・気が向いたらね。」
「なるべく向いてくれ。」
「はいはい。」
「ふっ。」
横島は静かに廊下に出た。
「ああああっ、何でここにいるでござるか先生っ!?」
「でぇ――っい、暑っ苦しいからまとわりつくなっちゅうにっ!!」
廊下に響く横島とシロの声に、タマモは笑った。
翌日の朝 美神除霊事務所
「霊力が消えた・・・・・!?」
大き目のテーブルを囲んでいる美神、横島、健介、おキヌ、シロ、クロ、タマモに、髪が黒くなってしまっている尚樹は言った。
「・・・・はい。」
「どういうことでしょうか、美神さん・・・?」
「さあねえ・・・」
美神はトーストにマーガリンを塗りながら尚樹を見る。
「ただ、突発的に手に入れた霊力が、またいきなり失われるって例は結構あるわ。」
「そうなんでござるか?」
「あんた、確か事故がきっかけで霊力に目覚めたって言ってたわよね?」
「・・・・・ああ。」
「何で霊力が消えたかは私にはわからないわ。 でも、又霊力が戻ることもありえる。 体には1度霊力を覚えさせたわけだしね。 それは久保君、あなたも同じよ。」
美神は健介に目を移す。
「・・・・はい。」
「神山、これからお前はどうするんだ・・・?」
クロが尚樹に顔を向ける。
「・・・・・墓参りに、一度故郷に帰る。」
「・・・そうか。 しかしこうして見ると、日本人だな〜・・・」
クロは背もたれにぐっと体重をかけて尚樹を見た。
「そうね。」
「・・・・・そんなに見るなっ!」
全員に見つめられ、尚樹はハムエッグをかき込む。
「で、美神さん、隊長は何て・・・?」
「ああ、それは・・」
「あら、皆まだ朝ご飯中?」
美智恵が部屋に入って来た。
「ママっ。」
「隊長っ、おはようございます!」
「おはよう。 神山・・・・尚樹君だったわね。」
「・・・はい。」
中に入ってくる美智恵に、尚樹は立ち上がった。
「日本GS教会からの通知よ。 後でよく読んでおいてね。」
美智恵が渡す茶色い封筒に、尚樹はそれを受け取った。
「・・・・ご迷惑をおかけしました。」
「いいのよ。 あ、おキヌちゃん私もコーヒーいただいていい?」
「あ、はい。 ちょっと待っててくださいね。」
おキヌは立ち上がる。
「・・・・あっ!? タマモそれは拙者のハムでござるっ!!」
「ん? ほおはっへ・・・?」
「返せこら―――っ!」
むぐむぐやるタマモに、シロは掴みかかる。
「落ち着けシロ、俺の分やるから・・・」
「ああっ、クロ兄優し―――っ!」
「大げさなんだよ・・・・って、あれ・・・?」
クロは空のお皿から、目の前のもぐもぐ口を動かす横島に目をやる。
「よ、横島・・・・まさか・・・?」
「ん、はんはいっはは?」
「お前か――――――っ!!?」
「ああっ、クロ兄落ち着いて・・・っ!」
「俺の栄養返せ――――っ!!」
「ぶはっ、何さらすこんクロ助っ!」
がちゃんがちゃんっ
「あんたら外でやれ――――っ!!」
「お世話になりました。」
除霊事務所の前で、尚樹は深々と頭を下げる。
「ま、何かあったらいつでも来なさい。」
「ありがとうございます。」
にっと笑う美神に、尚樹は再度頭を下げる。
「一緒に文化祭、やって行きませんか・・・?」
「・・・・いや。」
健介に、尚樹は静かに首を振る。
「今は、ゆっくり考えたいんだ。」
「そう、ですか・・・」
「・・・・」
「んで、何でお前まで一緒に行くんだ?」
横島は荷物を背負っているクロに顔を向ける。
「GS教会からの言いつけさ。 しばらくの間、俺がお目付け役ってことになったんだ。」
「は〜ん・・・」
「クロ兄〜〜・・・」
「シロ、また来るって。」
「はう〜〜・・・」
すねるシロの頭を、クロは撫でた。 尚樹は長い髪を邪魔そうに引きずっているタマモに目をやる。
「?」
「・・・・・」
無言で頭を下げる尚樹は、背を向けて歩き出した。 クロが慌てて続く。
「っと、じゃ皆さん、また。」
「しっかりね。」
「美神殿、おキヌ殿、今度こそデートしような〜〜。」
「こら―――っ、これは俺んだっ!」
「あお――――んっ、クロ兄〜〜〜〜!」
騒ぐ美神達の横で、健介が静かに尚樹を見送るのを、横目にタマモは見ていた。
横島の学校
「さあさあいらっしゃいませっ、当たるも八卦当たらぬも八卦っ! あなたの運勢ずばりと占うでござるよ〜〜!」
廊下の長い列に声を張り上げるシロに、タマモは愛子に耳打ちする。
「のりのりですね。」
「ふふっ、シロちゃん張り切ってるから。」
椅子に腰を下ろし、タマモはあふっとあくびをする。
「ね、髪の毛はどうしたの?」
「あ、これ・・・?」
タマモは腰までの長さに戻った髪を引っ張る。
「しめさばまるとか言う包丁でおキヌちゃんに切ってもらった。」
「切ってって・・・・・いいの? あれ尻尾なんでしょ!?」
「半分は霊波の塊みたいなもんよ。」
「じゃあ、霊力も一緒に切っちゃったの・・・・?」
「そう。 だから、いつも通りの元通り。」
「そっか・・・・」
愛子もお盆を抱えて椅子に座る。
「あっ・・・・で、髪はどうしたの?」
「は? ああ、美神さんが売るって、もってっちゃった。」
「売るって、どこに・・・?」
「さあ・・・・確か、帯姫とか織姫とか言うところだとか・・・・」
「へ〜・・・・」
「おいお前らっ、パスタ出来たぞ。 さぼっとらんとはよ持ってけ!」
横島ががんっと置くお皿に、愛子が立ち上がる。
「こら、そっと置きなさいよ。」
「うるせえっ、お前ら運ぶだけだろうが、俺らは大変なんじゃ見てわかるだろう!?」
「そうですじゃっ!!」
涙目で煙に巻かれながらフライパンをじゃかじゃかやる横島とタイガーに、愛子とタマモはぷっと笑った。
「あ、タマモちゃんいいよ。 私持ってくから。」
「そお? じゃお願い。」
愛子はお皿をお盆に載せて客席に歩いて行った。 黒いローブを着たピートが忙しくテーブルを回っている。
「タマモさん、横島さん、ちょっといいですか・・・?」
「ん?」
「何だ? タイガー、ちょっとここ頼む。」
「ええっ!? そんな2つ一気には・・・!」
フライパンを既に1つ持っているタイガーにフライパンを押し付け、横島とタマモは健介に続いて廊下に出た。
「・・・・俺、おじさんの家に帰ろうと思います。」
「帰るって・・・おま・・」
「・・・・・」
「いつまでも、横島さんの家にお世話になるわけにもいかないかなって・・・」
「でも・・」
タマモがすっと横島の口を制した。
「帰ってどうするの・・・?」
タマモは健介の目を見る。
「学校行きます。 それから、部活やって・・・・とにかく、いろいろやってみます。」
「そう・・・・頑張れ。」
「はいっ!」
教室からがらっと愛子が顔を外に出した。
「健介君、ちょっと手伝って・・!」
「あ、はい・・・!」
健介は教室に入って行った。
「・・・・・・」
「・・・・どした?」
「ん、あっ・・・・いや・・・」
「寂しいの?」
「へっ、美人の姉ちゃんならともかくっ・・・・せいせいするわいっ!」
「あの子しっかりしてるわ・・・・あんたとは大違い。」
「ほっとけ・・・!」
「けけけっ。」
「あ、いたいた横島君、タマモ―――っ。」
振り返ると、美神とおキヌがやってきた。
「いっや―――、タマモ、おかげで儲かったわ!!」
崩れんばかりの笑顔で、美神はばんばんタマモの背中を叩く。
「もう行って来たの?」
横島はおキヌに近づく。
「厄珍さんのとこで手続きしてきただけですから。」
「ふ―ん・・・・あ、そ―だ美神さん、気になってたことがあるんすけど・・・」
「何よ?」
「あの時・・・・何で神山は、俺の霊能力は取れなかったんでしょうか?」
「ああ、あれ? さあねえ・・・・タマモ、何か心当たりない?」
「ああいう真面目なタイプは、生理的に体が変態の能力を受け入れないんじゃない?」
「「ああ・・・っ!」」
ぽんと手を叩く美神とおキヌ。
「『ああっ』じゃないっすよっ!!」
「くくく・・・」
「笑うな――――――っ!!」
「あっはっはっはっ!」
「? どうしたんです?」
教室から顔を覗かせた健介の不思議そうな顔に、美神とおキヌも笑った。
「美神さん達もどうですか、占い喫茶。 お薦めはシーフードパスタの金銭運です。」
「いいわねそれっ! じゃあ、それ1つオーダー。」
「良かった〜、実はこれまだ1つも売れてないんですよ・・・」
「そうなの?」
「皆恋愛運ばっかりですから・・・」
「あ、いいなそれ・・・私も占ってもらおうかな―・・・・」
「おキヌちゃん、ここの占いははったり。」
横島が耳打ちする。
「えっ!? そうなの・・・・!?」
「でも実は当たったりして・・・」
「マジかっ!?」
「占いって、そ―いうもんよ。」
「なら俺も・・・っ!」
「あ、ずるい・・・っ!」
「こらっ、私が先に注文したでしょがっ!?」
ウィンクして教室に入るタマモに、美神、横島とおキヌが先を争って続いた。
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【次回予告】
横島 「いくぞっ、オカルトチェンジっ!!」
タマモ「ねえ・・」
ピート「オカルトチェンジっ!!」
タマモ「ちょっと・・」
タイガー「オカルトチェンジっ!!」
タマモ「あんたも・・」
シロ 「オカルトチェンジっ!!」
タマモ「犬が・・」
おキヌ「オカルトチェンジっ!!」
タマモ「お、おキヌちゃんまで・・・」
美神 「まあまあタマモ。」
横島 「次回、『キャスト・スタッフ』」
タマモ「アタシ降りる・・・・」
横島 「ど―いう話かと言うとだなぁ・・・」
タマモ「皆まで言わんでいいっ!」