『何故だ・・・・? わしはこの地に力を与え、小さき命から大きな命まで、全ての生けるものに精気を与えてきたというのに・・・・・何故・・・・何故我が子だけが死なねばならん・・・? この子が死ねば、人間共も生きてはいけんというのに・・・・・この体が毒に蝕まれようとも、わしは大地に命を与えてきた・・・・・ そのわしの子だけが何故に死なねばならん・・・・わしらは生きることが許されないとでも言うのか・・・・っ!?』 


きつねレポート

 火鳥風月 −2番− 


早朝 美神除霊事務所 

『・・・・先週中国の北京を襲った原因不明の火災による撤去作業は、建物の倒壊による道路の封鎖状況が酷く、作業は難航しています。 ごらんのように各処ではまだ火の手が見られ、煙により空からの消化活動も妨げられています。 先ほど届いた報告では、死者35名、重軽傷者200、行方不明者は2000人以上とのことで、この中に日本人が含まれているかは・・』  
「・・・・眠い。」 
テレビのモニターを隈のできた目で眺めながら、美神はぼさぼさの髪をかきむしる。 手にしているドリンク剤をストローでちゅうっと音をたてながら吸った。 
「おっはよ―、令子。」  
ばんと大きな音をたててドアが開き、眠っているひのめを抱えて笑顔を見せる美智恵に、美神は眉間にしわを寄せて美智恵を睨んだ。 
「うわっ、出た・・・」 
「なによその顔は?」 
「ただ働きは嫌よ。 最近は税金もまじめに払っちゃってるし、脅そうったて駄目だからね・・・」 
「ママに向かっていきなりそれはないでしょう? おはようくらいいいなさい。 ね―ひのめ?」 
ひのめを頬をつつきながらながら部屋に入った美智恵は、おくのソファーでいびきをかいている横島と雪之丞を見つけた。 
「あら、ひょっとして朝帰り?」 
「見りゃわかるでしょ―・・・・」 
「若い子2人も相手に・・・・・やるわね令子、さすがママの子だわ!!」 
「なんの話をしとるかっ!?」 
頬を赤らめた美智恵が口元を手で押さえる仕草に美神は牙をむいて吼えた。 
「冗談よ。 疲れてるところ悪いけど、ちょっとひのめをお願いしていい?」 
「かんべんしてよ〜・・・・おキヌちゃんがいない時に限って・・・・」 
「あら、おキヌちゃんは?」 
「昨日横島君のお母さんにくっついてって、そのまま向こうに泊まってくるって。」 
「へっ〜、おキヌちゃんもなかなかやるわね。 自分からアプローチに行くなんて。」 
「・・・・お願いだから頭痛くなることこれ以上言わないで・・・・」 
美神は空になったドリンク瓶を転がす。 
「冗談はさておきひのめをお願いね。 それからおキヌちゃんをしばらくGメンに借りたいの。」 
「ネクロマンサーを・・・・? ひょっとして、これがらみ?」 
美神はテレビで流れているニュースを指差す。 
「あたり。 さすがね令子、まだ霊的現象だって報道では流してないのに・・・」  
「これでも日本最高のGSって言われんのよ? 情報源は日本以外にもあるし、妙な依頼が国際電話で最近よくきてたのよ。 安そうだから断ってるけど・・・」 
「じゃあ、ひのめをお願いするわけもわかるわね?」 
「ま―ね―。」 
立ち上がった美神は両手を頭の後で組んで伸びをする。 
「ん〜〜〜〜・・・っと・・・・! ひのめにおキヌちゃんね・・・・・嫌でも巻き込まれそうだわ。 仕事の請負は報酬次第よママ?」  
「とりあえずは私に任せなさい。 Gメンの管轄扱いだし、自衛隊も動かしてるからそうとう大掛かりなことになるわ。 助っ人が欲しい時は連絡するからなるべく待機してて。 それよりも、最悪の場合に備えてひのめを連れて外国にでも逃亡できるようにしといてね。」
「ふむ・・・・スイス銀行に貯金は移動させとくべきかしら・・・・? いや、それより別名義でもっと別の・・・」 
「財産よりひのめ優先よ? これからおキヌちゃんを回収してすぐ西条君と出かけるから。」 
「OK、おキヌちゃんは都内のどっかのホテルにいるはずよ、連絡したげる。」 
美神はデスクの上の携帯に手を伸ばす。 
「・・・・タマモちゃんは・・・・?」 
「あの子は自分のことは自分でするわ。 Gメンが余計なお節介すると嫌われるわよ?」 
「わかったわ。 手持ちにあるだけの資料はここに置いておくから、一応目を通しておいて。 じゃ、くれぐれもひのめをよろしくね。」 
ひのめと大きな封筒をテーブルに置いた美智恵がドアを開いたので、美神はいってらっしゃいと手を振った。 

約1時間後 都内 某ホテルの一室 

「・・・・と言う訳だからおキヌちゃん、一緒に来てくれない?」 
「は、はい。 なんだかさっぱりわからないけどわかりましたっ!」 
おキヌは寝ぼけ目を擦りながら慌てて身支度を始める。 
「まあ・・・・オカルトGメンに呼ばれるなんて、おキヌちゃん凄いのね〜・・・・」 
「あ、えへへ〜・・・」 
百合子のまなざしにおキヌは真っ赤になる。 指を咥えていたシロはおずおずと美智恵の前に進み出た。 
「あの〜・・・・せ、拙者にお呼びは・・・?」 
「ごめん、今のところなし。」 
「チロちゃん・・・・・やっぱり忠夫の弟子じゃあ、たいしたことないのね・・・・」 
「がが―――んっ!? せ、拙者の存在意義は・・・・っ!? くうっ・・・・どちくしょう―――・・・・っ!!」 
朝日を浴び、白い狼にもどったシロは窓を開けてぎゃんぎゃん遠吠えを始めた。 
「美智恵さんもたいへんですね、こんなに早くから出勤ですか?」 
百合子は白い狼を無視して美智恵にお茶を手渡す。 
「すみませんね百合子さん。 私もまだまだ若い子達には負けてられませんし、好きでやってる仕事ですから。」 
「あ〜、わかりますわそれ。 私も仕事に復帰しようかしら?」 
「それより横島さん、今の内に日本を離れた方がいいかもしれませんよ?」 
「まあ怖い、仕事がらみですか? 大丈夫、いざという時は息子を盾にしますから。」 
「頑丈な息子さんを持って羨ましいですわ〜。」 
「いつでもお使いくださいな〜。」 
おほほと笑いあっているうちに、おキヌがハンドバックを抱えて奥から走ってきた。 頭の寝癖が直らず、おキヌはしきりにそこに手を伸ばす。 
「お、お待たせしました。」 
「では百合子さん。 仕事が終わりましたらまたゆっくりと。」 
「はい。 おキヌちゃん、お仕事頑張りなさい。」 
「はい、行ってきますお母さんっ!」 
百合子にぽんと背中を叩かれ、おキヌは満面の笑顔で美智恵と共に外に出て行った。 
「あお〜〜〜んっ、ぎゃん、ぎゃわお――ん・・・っ!!」 
「チロちゃん、他のお客さん達に迷惑だからほどほどにね。」 
「ぎゃわわ〜〜〜〜ん・・・・っ!!」 
タバコに手を伸ばして口に加える百合子を背後に、狼は高らかに鳴き声を響かせ続けた。 

3時間後 日本海上イージス艦 船名不詳 

「わ、わたし『い―じすかん』って初めて乗りました〜・・・・」 
甲板で周りをきょろきょろ見渡すおキヌは顔がひきつっている。 
「僕も乗るのは初めてかな。 貴重な経験だ。」  
「ほらほら2人共、ピクニックや社会見学じゃないんですからね?」 
おキヌと、つられてきょろきょろしている西条を美智恵が振り返える。 ヘリポートから離れ、階段を上がった3人は部屋の一室に入る。 
「お待たせしました艦長、リンさん。」 
部屋の中にいる白い髪をうしろで1本にまとめ、背丈の低い老婆と、敬礼する軍服の男に美智恵は頭を下げる。 
「先生、その方が・・・・」 
「そう、ネクロマンサーのリン・カイエイさんよ。」 
「初めまして西条君。 それに・・・・氷室さんだね?」 
「は、はいっ!! お、お会いできてここっ、光栄です・・・・っ!!」 
びしっと伸びた背筋を腰からかくっと曲げて頭を下げるおキヌにリンは笑う。 
「いいんですよそんなかしこまらなくて。 私もあなたに1度お会いしたいと思ってしました。」 
「そ、そんな・・・・私なんてただの馬鹿な高校生ですけど・・・きょ、今日は勉強させてもらいますっ!!」 
再びおキヌはかくんっと頭を下げる。 
「う〜ん・・・・おキヌちゃんが緊張しまくってますね。」 
「しょ―がないわ。 あっちは大ベテランですもの。」 
艦長が勧め、テーブルを囲むように5人が座る。 
「皆さん事情はおわかりでしょうが、もう1度、今回の1連の火災事件を整理します。」 
美智恵がぶ厚い資料を4人に配る。 
「ことの発端は3週間前。 中国の火雷山という山が1夜にして吹き飛んだことが始まりでした。 翌日ふもとの村や集落が全焼。 それから各地で謎の大火災が頻繁に起こりだしましたが、その場所にはある特徴があることが判明しました。」 
「それが・・・・火の神様や霊能者がいた場所なんですか・・・?」 
おキヌの言葉に美智恵は頷く。 
「あちらに出向いたGメンの調査員が調べたところ、火の神様やその能力を持った人がいた場所、それに類するアイテムの保管された博物館などが発火点だと予想されたわ。 そしてこの写真。」 
美智恵はばらっと何枚かの写真を広げる。 闇夜の空に、燃える翼を広げた巨大な鳥が映っている写真におキヌは手を伸ばした。 
「ビデオを写真にしたものだけど・・・」 
「これが・・・・朱雀・・・・」 
「いわゆる土地神の類だったと思われます。 全長、推定50メートル以上よ。 この火の鳥が何らかの理由から火の力を集めて回っている・・・・それも荒々しいまでに強引なやり方でね。」 
「う〜む・・・・改めて見て酷い被害だな・・・」 
西条は被害報告欄を見て頬をひきつらせた。 
「被害地点は中国各地を徐々に東に移動しています。 手当たり次第にね。 目撃情報じゃ日本海上にも行動範囲を広げているわ。 そして今日午前5時23分、海を渡ろうとする巨大な火の鳥の情報が入りました。 すぐさま妨害霊波を空中に散布し、航空会社各局にはルート変更などの手続きがしてあります。 数10隻による調査員からの情報だと、火の鳥の進路はこう。」 
美智恵は地図を取り出し日本海の上にマジックをぐにゃぐにゃと走らせる。 
「迷ってる・・・?」 
西条は口元を押さえる。 
「方向感覚の麻痺には成功したみたいだけど、この霧も長くは持ちません。 ネクロマンサー、リン・カイエイ、氷室キヌ両名には火の鳥除霊作戦に協力してもらいます。」 
「え、で、でも土地神様なら・・・・ちゃんと話せば、除霊なんかしなくても・・・」  
身を乗り出すおキヌに美智恵は目を閉じる。 
「気持ちは分かるけど、この火の鳥1鬼の所為で多くの人命が失われたわ。 既に除霊判断は世界GS教会が出しています。 ここで私達がやらなくても、いずれ中国側から派遣されたGSか誰かに払われるわ。」 
「それは、そうでしょうけど・・・」 
うつむくキヌに、リンが手を伸ばしてそっとおキヌの肩に手を置いた。 
「キヌさん、あなたの国の人を助ける為にも、今は私達のできることをしましょう。」 
「・・・・は、はい・・・!」 
顔を挙げるおキヌに、美智恵と西条は顔を見合わせてほっと息を吐いた。 
「既に霊波増幅用の魔法陣の準備が甲板で進められています。 ネクロマンサー両名の力を最大限に引き出してもらい、動きの止まったところに精霊石弾頭ミサイルを叩き込みます。 失敗したらお家に帰れないと思って、きりきり頑張ってね。」 
ウィンクしてくる美智恵に、おキヌはびしっと背筋を伸ばして気を付けをする。 
「が、頑張ります・・・・!!」 

美神除霊事務所 

「そうよそうっ! 今すぐお宅の銀行は解約させてもらうって言ってんのっ! ・・・・・なに、店が潰れる!? そんなん知るかいっ!」 
美神はぴっと携帯の電源を切ると、すぐさまパソコンのモニターに向かってキーボードを叩く。 
「ふわぁ〜・・・・・あ〜・・・・・・何朝っぱらから怒ってるんすか・・・・?」 
大口を広げ、横島は鋭い目でパソコンを睨んでいる美神に歩み寄った。 
「ちょっと口座の整理。 急ぎで時間がないのよ―・・・・銀行が2つ3つ潰れようがかまってらんないわ・・・・!」 
「こ―いう人がいるから世の中不景気になるんだろ―な―・・・・」 
「あんたもリストラされたい・・・!?」 
血走った目に睨まれ、横島は両手をぶんぶん振った。 
「あ―、それより何か喰うもんないっすか? 俺腹減りました・・・」 
「台所でなんか作ってきて。 あのつり目も起きるでしょうし、サンドイッチとかでいいから作ってよ。」 
「マジで!? 冷蔵庫の品何でも使っていいんすか・・・・!?」 
目をぎんぎんに見開いてよだれを垂らす横島に、美神はちらっと目をやりため息をつく。 
「この際、食材ごときにかまってらんないの。 任すわ。」 
「いよっしゃ――っ、超贅沢な『横島クラブサンド』を作っちゃる――――っ!! 1ヵ月分は食い溜めできるぞ〜〜〜!! ありがとほ〜〜〜〜っ、美神さん愛してま――――――っす!!」 
ダッシュで部屋から飛び出て行く横島に、美神は少し頬を赤らめる。 
「・・・ったく、財産のない奴は気楽でいいわ。」 
額に垂れてくる髪を右手がかき上げる。 再び着信音が部屋に鳴り響き、美神は携帯に手を伸ばした。 

すずめの鳴き声が騒音となってビルの谷間に木霊し、車の走るエンジン音と混じって騒音はさらに大きくなった。 ビルの屋上で仰向けになり、手足と髪の束を広げて寝転がっているタマモはゆっくりと目を開いた。 細い目が霞みかかる青い空を映す。 
「・・・・・」 
右手がお腹に伸び、すっと下に撫でるようにする。 ばさっという羽音と共に、1羽の烏がタマモの頭の近くに舞い降りた。 首を細かく動かし、投げ出されている金髪を嘴で突付く。 
「・・・・触るんじゃない・・・」 
「が――っ。」 
タマモの言葉に鳴き、烏は再び日の光を弾く金髪を突付いた。 2羽の烏が新たに舞い降りてくる。 タマモはお腹に置いていた右手を頭の上に伸ばしてコンクリートの床を叩くが、ぽんぽんと下がった烏達は再び髪を突付いてくる。 
「くそ烏・・・」 
タマモの右手が髪束の中から銀色の銃を取り出すとそれを空に突き上げる。 どきゅうんっ・・・・! 
「がぁ―――っ!」 
「くわっ、きゃ――っ!」 
木霊する銃声に、ばざばざと飛び立って行く烏達は黒い羽を何枚か撒き散らしながら空に上っていった。
「・・・・・」 
右手を床に落としたタマモの手から銃が転がり落ちる。 
「!」 
落ちてくる1枚の黒い羽がタマモの視界を遮った。 ふっと息を吹き付けると、それは額の髪と共に顔から舞い落ちる。 再び目に映る空に、タマモは目を閉じて体をごろんと横にした。 顔が髪の房に埋められる。 
「何やってんるんだ、アタシ・・・・」 
さらに転がり、タマモはうつ伏せの状態になった。 

美神除霊事務所 

「おはようございます〜。」 
「おう、母さん。」 
大皿に並べられた、大小さまざまな形のサンドイッチのある丸いテーブルを囲んでいる美神、横島、雪之丞に、入って来た百合子は手を振って挨拶をする。 
「おはようございます。 座ってください、今コーヒーでも入れますから。」 
立ち上がる美神に、横島が素早く立ち上がった。 
「あ、いいっすよ美神さん、俺やりますから、寝てないんでしょ?」 
「そう? んじゃお願い。」 
再び座る美神に、横島は百合子、シロと入れ違いに出て行く。
「あ〜〜〜っ! 拙者に内緒で何食べてるでござるかっ!!」 
鼻をひくつかせて中に入って来たシロは、テーブルに飛びついてサンドイッチに掴みかかった。 百合子は美神に会釈して椅子に座る。 
「お疲れみたいですね。」 
「すみません、みっともない格好で。」 
髪を直しながら苦笑する美神を見て百合子も笑った。 
「あんた、横島の母親か・・・?」 
口をもぐもぐやりながら見てくる雪之丞に百合子は顔を向ける。 
「ええ。 えっと・・・・・あなた忠夫のお友達?」 
「おう、伊達雪之丞だ。」 
「そう。 忠夫の母親で、横島百合子よ。 馬鹿な子だけど、仲良くしてあげてね。」 
すっと手を出す美智恵に、顔を赤らめながらも雪之丞はそれを握る。 
「ふん、いったい何しに来たでござるか・・・・?」 
ごくんと口の中のものを飲み込んだシロは雪之丞を睨み付けた。 
「いちいちつっかかんなよ。 嫁の貰い手がなくなるぜ・・・・?」 
「このぷりち―な拙者になんと無礼なっ!!」 
手元にあったフォークをシロが投げつけるが、雪之丞はぶ厚いサンドイッチにそれが突き刺さるようにしてキャッチした。 
「ぷりち―かはともかく、俺に喧嘩売ってくるなら資格とってからな。」 
「ぐぬぬぬ・・・・!!」 
睨むシロとうすら笑う雪之丞を無視し、美神はコーヒーをすする。 
「あ、そうだお母さん。 おキヌちゃんは・・・?」 
「ああ、美智恵さんが迎えにきましたよ。 西条さんとかいう人と一緒にね。」 
ドアが開き、横島がコーヒーカップを持って部屋に入って来た。 
「だいたいお前が準優勝なんて絶対まぐれでござるっ!! 奇跡でござる偶然はなはだしいでござる〜〜〜〜っ!!」
「そ―か?」 
手足をばたつかせるシロに雪之丞は足を組んでカップを口に運ぶ。 
「シロ、みっともねえから止めろって。」 
「だってだって〜〜〜っ、先生ぃ〜〜〜・・・っ!!」 
抱きついて来るシロに、横島はよろけそうになりながらもカップのコーヒーが零れないようにカップを上げる。 
「危ねえなぁ・・・・母さん、ほらコーヒー。」 
シロに絡みつかれたままテーブルににじり寄った横島は百合子にカップを手渡す。 
「ありがとよ。」 
「美神さん、おキヌちゃん、どっか行ったんすか・・・・・?」 
「まあね。」 
横島は腰にしがみつくシロを手で押しやりながら椅子に座る。 
「ん? 母さんタマモの奴は・・・・?」 
「お礼はいらないってエスケープされちゃったわ。」 
百合子は笑って肩をすくめる。 
「ふ〜ん・・・・じゃあ、代わりにたまには息子孝行でもしろよぉ〜。」 
「しょ―がないわね―・・・・・じゃあ、今日はお昼くらい食べさせてやるわよ。 あ、でも仕事のほうは・・・・・?」 
ちらっと見てくる百合子の視線に気付き、美神は口周りを拭って笑った。 
「久しぶりに息子さんと会ったんです、ゆっくりしてきてください。 横島君、有休あげるから、甘えてらっしゃい。」 
「マ、マジっすか・・・・!? な、なんか今日は美神さん、いつもより優しい・・・・はっ、そうかっ! ようやく俺への愛に気付いてくれたんっすね〜〜〜っ!!」 
「!」 
テーブルを跳び越えてジャンプしてくる横島に身構える美神だが、シロが後から横島に跳び付いたので2人は床に転がった。 
「いっで―っ、何すんじゃこら・・・っ!」 
横島はシロを押しのけようとするが、
「騙されちゃ駄目でござる――っ、きっとこれは罠でござるよ――――っ!!」 
「人聞きの悪いこと言うんじゃないっ!!」 
美神はシロにべちっとお皿を投げつけた。 
「おひ、まひゃか俺を使おうってんじゃないだろほな・・・・?」 
口をもぐもぐやる雪之丞に美神は笑った。 
「大丈夫よ、あんたももう帰っていいわ。 あ、あんたタマモに用があるんだっけ?」 
雪之丞はコーヒーで口の中の物を流し込む。 
「用ってもんじゃねえよ。 前にあいつに手伝ってもらって助けた子の落ち着き先が決まったんでな。 その報告に来たのさ。」 
「ふ―ん。 まあ、ともかく好きにしたらいいわ。」 
「ふんっ、じゃあさっさと帰るでござるっ!」 
横島に引っぺがされたシロは、椅子にどかっと座りながらサンドイッチに手を伸ばす。 
「喧嘩すんなって。」 
座る横島に、百合子はコーヒーを飲みながら横島の方に身を寄せた。 
「ねえ、あんたのチロちゃん、雪之丞君と仲悪いの?」 
「まあちょっとな。 資格試験の時、雪之丞の方が成績よかったもんだから・・・」 
百合子がちらっと雪之丞とシロに目をやると、雪之状は百合子の視線に気付いて会釈した。 シロは牙をむいて唸っている。 
「私にはど〜にもあんたが弟子をとれるほどのGSだとは思えないんだけど・・・・」 
「自称だよ自称。 あいつが勝手に言ってるんだって。」 
「先生とかにかこつけて変な事すんじゃないわよ?」 
「今んとこ予定にねえよ。」 
ぴくっと耳を動かしたシロは、ぐりんと横島に顔を向けてきた。 
「それはど―いう意味でござるか先生っ!?」 
「な、なんだよ・・・!?」 
身を引く横島に、シロはテーブルの上にどかっと正座して横島に顔を寄せる。 雪之丞がサンドイッチののるお皿を慌ててテーブルからどけた。 
「拙者を女として見てないということでござるかっ!?」 
「そこまで言ってねえだろ?」 
「似たようなもんじゃねえか。」 
「!?」 
うすら笑う雪之丞をシロは睨みつける。 
「うるさいでござるこのどちびっ!」 
「んだとこのクソ犬が・・・っ!」 
雪之丞はがたんと立ち上がった。 
「拙者への愛は冷めてしまったのでござるかっ!?」 
「誤解を招く発言をするんじゃないっ!」 
「表に出ろ犬野郎っ、封印して燃やしてやるっ!」 
「拙者は女でござる〜〜〜〜っ!」 
「横島、だいたいてめえの躾がなってねえんだちゃんと調教しとけっ!」 
「調教・・・・?」 
「馬鹿っ、違うんだ母さんっ! お前も余計なこと言うなっ!」 
「あお――んっ、拙者との愛の営みはぁ・・・!」 
「散歩しかしとらんっ! 散歩しかしてなって、母さんそんな目で睨まんといて〜〜〜・・・っ!」 
「ぎゃわわ―――んっ!!」 
「ええいうるっさ――――――いっ!!」 

日本海上 

「結界のほうは!?」 
ブリッジ内で腕組みをしながら、霧がかる窓の外を見ている美智恵はオペレーターに目をやる。 
「既に30隻が配置完了。 中国政府側から更に20隻がこちらに向かっています。」 
「日本海沿岸沿いの配置状況は!?」 
美智恵は西条に目をやると、無線機を掴んでいる西条は眉をひそめた。 
「国道沿いに結界トレーラーを配備させていますが、圧倒的に数が足りませんよ。 国道を封鎖するだけで苦情の嵐です。」 
「死人が出たら責任取れるのかって脅しなさい!」 
美智恵は窓に歩み寄り、巨大な魔法陣の中央に立つリンとおキヌを見下ろす。 魔法陣の周りにいる作業服の数人が片付けを初め、走り回っている。 
「ミズ美神っ、魔法陣完成しました!」 
ブリッジに入って来た男に美智恵は振り返った。 
「ご苦労です。 皆に感謝しますと伝えてください。」 
「はっ!」 
微笑み美智恵に敬礼し、男は出て行く。 
「結界で追い詰め、ネクロマンサーで弱らせたところを精霊石ミサイルで集中的に叩く・・・・・海上じゃなきゃできない作戦ですな。」 
代わりにブリッジに入って来た艦長の言葉に、美智恵は目を細めた。 
「本当に朱雀と呼んでも差支えのない土地神なら、できることなら殺したくはないのですが・・・・」 
「命令なら仕方ないでしょう。 我々は、与えられた仕事をするだけです。」 
優しく笑う艦長に、美智恵は黙って頷く。 
「これ以上死人を出すわけには行きません。 日本に入られ、死人まででたら中国と国家間で問題になるでしょう。」 
「それは私も避けたい。」 
「ミズ美神、官邸より通信です。」 
オペレーターの女が振り返って言うので、美智恵は歩み寄り、インカムを頭につけて無線機を握る。 
「オカルトGメン美神です。」 
『守備はどうだ?』 
「結界搭載船が中国側から配備されたと報告が来ました。 ご尽力感謝します。」 
『なんとしても日本に上げるなっ! パニックになったら日本人は脆い、そうなると手におえなくなるのは・・』  
「わかっております!」 
「巡回中の巡視船より入電っ! 霊波内の目標を捉えましたっ!」 
「そのまま追尾っ! 深追いはくれぐれも避けるようにと伝えなさいっ! 結界が完了するまでは妨害霊波散布を怠らないようにっ!!」 
美智恵は再び窓の外に目をやった。 先の見えない霧が覆う中、空にヘリが数奇飛び交っている。 
「・・・・なんとしても・・・!!」 
手にする無線機をぐっと握り締め、美智恵は霧の先を睨んだ。 

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【次回予告】 
横島 「な―んか俺達そっちのけで話が進んでません?」 
美神 「そんな気楽なこと言ってられる内が華よ。」 
横島 「おキヌちゃん大丈夫かな〜・・・?」 
百合子「それより忠夫、タマモさんは?」 
横島 「知らん。」 
百合子「お前、しっかり捕まえとかないとあ―いう子はふらっとどっか行っちまうよ?」 
横島 「だ―から俺らはそんなんじゃないと言っとるだろうがっ!」 
シロ 「大丈夫お母様、拙者ならいつでも先生のお傍に・・・っ!」 
美神 「やれやれ。 次回、『火鳥風月 −3番−』」 
シロ 「本気で意味のないサブタイトルでござるなあ・・・」 
横島 「う〜んタマモの奴、予告にも出てこんとは・・・」 


※この作品は、狐の尾さんによる C-WWW への投稿作品です。
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